【人】 医者 サキ[ 『東雲医院』 良くも新しいとは言えないが、 親父の代からの地域密着型。 小児科、内科、皮膚科、 使われどころの集まった場所だ。 今在籍してる医者は院長の親父と、俺と、妹。 それと雇ってる数年前から 少々頭皮が見えがち… な叔父さんが1人の4人だけ。 っても叔父さんは非常勤だし 実質3人みたいなもので。 典型的な家族経営…と言っていい。 ] (52) 2022/06/08(Wed) 1:35:48 |
【人】 医者 サキ[ 当初は共に勤めていた院長の妻── 母が15年前に表から姿を消したこと 当時跡継ぎと期待されていた兄だけが この病院に勤めていないこと 知る人は少なくないだろう事実だが それらは触れてはならない話題として 暗黙の了解的に仕舞われている。 ] (53) 2022/06/08(Wed) 1:35:53 |
【人】 医者 サキ[ 密着型ゆえにその日によって 担当医が変わるなんてことはなく、 患者さんは初診を受け持ったのが担当医になる。 …彼女らと出会ったのは、偶然か、 必然 か。 ] (54) 2022/06/08(Wed) 1:35:57 |
【人】 医者 サキ[ 研修医の期間を終えて、ここに勤め始めたのは6年前。 常勤で働いていた雇われの人と 入れ替わるように滑り込んだ。 彼女らは双子の姉妹。 初診からか、入れ替わりの引き継ぎでか、 俺の思う初対面はその日だったけれど。 ] ────よろしくね、 アユミちゃん、マユミちゃん。 [ 医者なんてよろしくすることがない方がいいけど、 そこは社交ってことで。 …医者でない俺と会ったことはあったかな? 昔はよく手伝い件見習いの見習いくらいで 近所の爺ちゃん婆ちゃんに挨拶がてら 病院に顔を出すこともあったから 小さい時からなら、見ていたかもしれないね。 顔はよく似ているけれど、 性格は真反対そうな2人だから 見分けるのはさして苦でもなかったっけ。 ] (55) 2022/06/08(Wed) 1:36:00 |
【人】 医者 サキ[ ───2人の定期的な症状は片頭痛。 他に病気はしないでいてくれるに 越したことはないけど、 あれば都度見ていた。 特筆するとすれば、 姉──アユミの方が症状が重かったことか。 頻度が違えば、来る回数も変わる 彼女らが大学に進学する歳を過ぎて、 元々頻度の多くなかったマユミが あまり来なくなったことは環境の変化だろうと、 それほど気にしてはいなかった。 ] (56) 2022/06/08(Wed) 1:36:04 |
【人】 医者 サキ[ 時の流れの間に、姉ほどに酷くなった頭痛と ただ事ではなさそうな火傷を負って現れたマユミ。 違和感を覚えるなとまでは無理だな、 でも確かに追求する程じゃなかった。 俺の前に現れたのは正真正銘、船越真結実だったから。 ……そう、この時、俺は間違えた 間違えたが、正しかったのか。 船越さんです、と渡されたカルテの名を はっきりと確認しないまま声をかけたんだ。 ] (58) 2022/06/08(Wed) 1:36:12 |
【人】 医者 サキ───ユミちゃん? …久しぶりだね。 [ アユじゃ魚っぽいだろ、なんて理由から ユミと呼んでいたのはアユミの方だけで。 略称といえば頭2文字と、 マユミは例に漏れることなく マユと呼んでいた。 間違えたのは呼び方だ。 マユミにとって は前とは違う呼び方のはずだけど── …さて、どんな反応だったか。 ] (59) 2022/06/08(Wed) 1:36:15 |
【人】 医者 サキ[ もし人を "テセウスの船" と喩えるのなら義手、義足、義眼、人工臓器… ありとあらゆる人工物で身体を作り替えようとしても、 唯一取り替えることの出来ない物が脳。 それは考えと人格をつくり 人をその人たらしめるもの。 脳が変われば 人は変わる。 ならば作り替えられた人はもはやその人ではない。 …と、俺は思う。 "テセウスの船と名付けられた船" ではあっても元の "テセウスの船" にはなれないのだろう。…けれど、パラドックスに正解はない。 様々な外的要因さえ揃ってしまえば、 名付けられただけの船 もテセウスの船 と足り得るのかもしれない。 ] (60) 2022/06/08(Wed) 1:36:20 |
【人】 医者 サキ[ 時は流れて、今。 ] ああ、いらっしゃい。 頭痛の頻度と程度はどう? あと火傷も軽く見ようか。 [ いつも通り、物腰柔らかな笑みを向けて 俺は船越真結実に声をかける。 医者がすべきは真相究明ではなく、 目の前の病に取り組むことだと 理解っているから。 ]** (61) 2022/06/08(Wed) 1:36:23 |
医者 サキは、メモを貼った。 (a4) 2022/06/08(Wed) 1:49:37 |
【人】 医者 サキ[ 東雲は典型的な医の一族。 祖父か、いや曾祖父だったか とかく医者を始めた誰かが積み上げた資産を、 子孫世代が使った分以上に重ね 先祖代々─── 2200年に至るこの時まで 不自由らしき不自由はしたことが無かった。 "そうなるべき" だと生まれ出た時より定められている幸せを抱えていることさえ除けば。 ] (70) 2022/06/08(Wed) 13:14:46 |
【人】 医者 サキ 『 医者になりなさい 』 [ 東雲に生まれた子は皆、そう言われて育つ。 現代に生きる俺たち3人も例外ではなく、 幼い頃より医者になるのが当たり前だと思っていた。 教養は知識のみにあらず、 然し得る方法は限られる。 金という対価で用意された階段を 一段一段と上って 医学部合格の門をくぐる それが定められた幸せだ。 出来ないはずがなかった。 ] (71) 2022/06/08(Wed) 13:14:54 |
【人】 医者 サキ[ 兄は調子に乗っていた。 跡継ぎだと周りから囃し立てられて、 自分は出来る人間なのだと勘違いしていた。 母はずっとそんな兄に忠告をしていたが まるで聞く耳も持たず。 怠惰に身を落とした 人間を食い破らんとする者は 溢れんばかりにいるというのに。 目に見えているだけで手が届くと勘違いして 上の大学に手を伸ばしたんだ、あの愚兄は。 ] (73) 2022/06/08(Wed) 13:16:05 |
【人】 医者 サキ 「 不合格 」[ 奴の眼前に叩きつけられた始めての挫折。 18に至るまで用意された階段の先は 続いていると信じて疑っていなかったのか。 当たり前にくぐるはずだった門は閉じられて、 手に残ったのは薄っぺらい三文字の言葉だけ。 兄の落ち込みようと言ったらそれは酷く、 沈みきって泣いていたと思えば、 突然癇癪を起こして物や人に当たり散らし 母がもっと強く言っていればと一人泣いていて ああ、地獄ってこんな心地なのかな? 俺の高校合格なんて何の薬にもならず、 暫くは重苦しい空気のまま。 結局、兄は父に諭され もう1年、門が開く時を待つことになって。 ] (74) 2022/06/08(Wed) 13:16:09 |
【人】 医者 サキ[ 兄は同じ胎から生まれたとは思えないほど、 俺や妹とは違っていた。 調子者で、後先を考えない。 一番に母に叱られるのはいつだって兄だ。 それは俺が物心着いた時からの日常だった。 あいつはあいつなりに、苦労したんだろうか 兄としての悩みは分かっても、長子の悩みは分からない 今では見る影もなく年中部屋に引きこもっているあいつに、 俺が差し伸べられる手はきっとないんだろう。 弟妹は兄姉が思うより 本人たちを見ているものだよ 思うところはあるさ、良くも、悪くも。 ] (89) 2022/06/09(Thu) 2:24:20 |
【人】 医者 サキ[ 世間話やコミニュケーションも仕事のうち、 軽い会話には遠慮なく付き合うのが この医院の医者だから。 タブーに触れられることさえなければ、 口前の軽さが変わることもない。 ] ああ……叔父さん、 最近帰ると叔母さんの目が鋭いらしくて 見る度薄くなってるんだよ…… あ、本人には内緒な、 ストレス増やしちゃいけないから [ しぃ、と人差し指を口元に立てて 見かけたら優しくしてやってと木を添える。 距離感が幅跳びなのは何も悪いことじゃないけど、 センシティブなのは…難しいしな。 マユミならわかっていそうだとも思いつつ、 頭皮の話は漏れ出さないうちに終わりにしたはずだ ] (90) 2022/06/09(Thu) 2:24:24 |
【人】 医者 サキ[ 妹のメインは小児科だ。 俺の1つ下なので彼女らが診療を 受けたことはないだろうけど、 狭い医院だから姿くらいは見たことがあるだろうか。 エマ、と少し日本人離れしたような名で 呼ばれる少し背の低めの子がそう。 共に名前で苦労した仲間であるからか 昔から兄妹仲は悪くなくて。 良い、と言ってもいいかな。 歳は近くて、あの子の方が出来はいい。 けれど男女の差ってのは大きくて 案外比べられる事もなかったから、 他の苦労はそれほどした覚えはなかった。 これで同性だったらと思うと、 あまり想像したくはない。 ] (91) 2022/06/09(Thu) 2:24:29 |
【人】 医者 サキ[ 早 く希 望が花咲き ますように真 に恵 まれた人生になりますように どんな願いを込めてその名を付けたのか 小学校の頃理由を聞いてくるようにと 出された宿題で俺たちに与えられた答え 今じゃ考えてくれたんだな、って 親の気持ちも分かるけど あの頃はことある事に、 女みたいだと囃されて 毎日のように名前を呪ったもんだよ 妹はもう…響きが外人だったし。 子は親の思いなんて知らない。 仲の良さにはこんな裏話もあるけれど、 こちらから重たい話は聞かせないのが鉄則だ。 話したとすれば"歳が近いから" 程度のことに限られるだろう。 ] (92) 2022/06/09(Thu) 2:24:33 |
【人】 医者 サキ[ 気を使う人間ほど、 環境の気に飲まれるのは自然の理か 体調を崩しやすいというのはよくある話。 来ない方がいいとはいうけれど、 いざという時来る場所として 認識して貰えるのは嬉しいことだから。 ] そうか、よかった。 面倒なんて気にしなくていいんだよ、 困った時の病院なんだから もちろん元気でいるのが一番いいけど、 こうして話せるのは嬉しいしね (94) 2022/06/09(Thu) 2:24:41 |
【人】 医者 サキ[ 愛嬌があったり、話しやすかったり、 好かれる人間というのは居るんだろうけど やけに上から目線なのだとか、 何も考えずに薬薬と言ってくるのだとか ため息ついでに顔を覆いたくなるような 人種は少なからず存在するので、 俺としては謙虚なだけでも印象は プラス だ。愛称だって意図はなく、 親しみ。 それだけの話だった。 ] (95) 2022/06/09(Thu) 2:24:44 |
【人】 医者 サキ[ 名を呼びながら彼女を見た。 様相の違和感を感じたのは、その時。 咄嗟に手元のカルテへと目を落とせば、 あったのは船越「真結実」の名。 ] ………、あぁ、 昔からそう呼んでた だろ久しぶりでも、覚えてるよ 今日はどうしたの? [ 一瞬喉を詰まらせたのも束の間、 俺の口から出てきたのは小さな嘘。 ただほんの少しの違和感が、 水面に波紋を呼んでくる。 火傷の理由を尋ねればどうか、 火事のことくらいは知れたかな。 "船越亜結実"は死んだ とさえ知らなければ、 波紋はいずれ収まり消えるもの。 ] (96) 2022/06/09(Thu) 2:24:54 |
【人】 医者 サキ[ 餅は餅屋と言うように医者は医者。 警察でも探偵でも無い。 違和感があったところで 追求しようとも思いはしない、 結局、自己申告が全ての世界だから。 俺は目を瞑ることを選んだ。 ] この時期の低気圧は辛いね…… うん、わかった 火傷…もまだ 赤 いか[ 露出した脹脛の痕を視て ぽつ、と呟き。 次第に良くなっては来ている。 まだ時間はかかるだろうけれど、 問題は無いだろう。 歳若い女の子だもの、 顔や粘膜に近い所の火傷でなくて良かったと思う。 絵面の面でもといえばそれはそうだ。 ] (97) 2022/06/09(Thu) 2:25:02 |
【人】 医者 サキ軟膏と、あとケロイド… 皮膚の盛り上がりを抑えてくれるやつね、 そっちの薬もまた出しておくよ いつもの事だけど、 頭痛薬の方は飲みすぎに気をつけて。 逆に酷いのがでることもあるから… [ にこやかな笑みを浮かべて、そう言った。 ] (98) 2022/06/09(Thu) 2:25:10 |
【人】 医者 サキ[ 人間は不幸のどん底につき落され、 ころげ廻りながらも、 いつかしら一縷の希望の糸を 手さぐりで捜し当てているものだ。 ───パンドラの匣 ] (99) 2022/06/09(Thu) 2:25:13 |
【人】 医者 サキ[ 一縷の糸の先が希望であれば、 それでいいのではないか。 どうにも、あれはパンドラの匣 のような気がしてならない。 それに、嘘は虚だが悪では無いのだ。 幸福 を追い求めることは現代において 間違い では無いのだから。 ]** (100) 2022/06/09(Thu) 2:25:17 |
(a6) 2022/06/09(Thu) 2:27:57 |
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