大富豪 シメオンは、メモを貼った。 (a5) 2022/11/26(Sat) 12:40:05 |
【人】 大富豪 シメオン─ 浴場 ─ お前を見ていると思ってしまうな。 [よく鍛えられているとはいえ老いた自分の体と、若々しい瑞々しさを湛えた美しい女の体。見比べてしまえばどうしても。] この身が衰えていく口惜しさをな。 それに、若さそして未来があることが妬ましくなる。 [己はあと何年生きられるだろうか。 あとどれほどの年月、この身を保っていられるのか。 十年、多く見積もってもあと十年としないうちに『美』は己に背を向ける。、 男は相変わらず燃えるような、獣のような目付きで女を見ているが、その奥には微かにそれとは違う色。 男は、ふと自分の中に芽生えたものを自覚する。] (10) 2022/11/26(Sat) 22:03:10 |
【人】 大富豪 シメオン[広い浴場にはもちろん二人だけ。 使用人は外に控えているため、呼べばすぐにやってくる。 木製の大きな浴槽に張られたぬるめのお湯は地下から汲み上げたもので、やや塩気があり、ブラウンの透き通った色をしている。 そこに浮かべられた柑橘類と木の香りが湯気に溶けていた。 そして壁の一面には高級品である硝子張りで、そこには外の景色が美しく映えていた。 かつて『美』の女神に愛された建築家が、男の望みを形にしたものだった。] 大分、疲れたのではないか? [あんなにも激しい交わりは、初めてだった女に随分と無理をさせたはずだ。] 湯はいい。 疲れも、傷も癒してくれる。 [魔法も薬も使わずともそういう効能があるという。] (11) 2022/11/26(Sat) 22:04:02 |
【人】 大富豪 シメオン……明日の夜、 お前の演奏が聴きたい。 場所はそうだな、中央広場でどうだ。 邪魔な者たちは片付けておくぞ。 [そう言って男は笑った。 もちろん片付けるなどということは冗談のこと。] お前の『美』を女神に、 そしてこの街のものたちに見せつけてやろう。 [それは今年の『フェス』に捧げる『美』だ。 街の有力者で、数多の『美』の庇護者シメオン・ジョスイが女神に捧げる『美」として、女の演奏を選んだということだった。*] (12) 2022/11/26(Sat) 22:05:24 |
【人】 大富豪 シメオン─ 浴場 ─ [女の言う通り、若さだけが価値ではない。 積み重ねた月日、研鑽にかけた時間だけ磨かれてきた『美』も確かにある。 それでも。 己が道の先に見えた『美』の極みに、どうしても届かないと、時間が足りないのだと理解ってしまうのだ。 だから男は思うのだ。 お前なら届くのかもしれないと。] 動の『美』、静の『美』と言ったところか。 [女と同じように湯を掬う。 嗚呼、この手にあとどれだけの『美』を掴めるのか。] (21) 2022/11/26(Sat) 23:22:55 |
【人】 大富豪 シメオン明日は少しやることがある。 それと 客 が来るはずだ。[本当にやってくるかは本人次第だが。『美』を抱く者にとって、その舞台を奪われたままでは居られないはずだ。] だが、必ず行く。 [たとえ『美』の女神が己を妨げようとも、必ず。] (22) 2022/11/26(Sat) 23:23:39 |
【人】 大富豪 シメオン[朝になり男は居なくとも、演奏に必要なものがあれば、使用人が用意してくれるだろう。練習場が必要なら、この屋敷のどこでも使える様になっていたし、演奏の際に衣装が必要ならドレスでもなんでも用意される。 もしも演奏する場所がなければ、男が口にした冗談が冗談で終わらないことも。 それどころか、休む部屋が必要だといえば“女の部屋”があり、食事から何まで、まるで女主人のような扱いを受けることになっていることを、おそらく知らないのは女自身だけだろう。] (33) 2022/11/27(Sun) 0:35:25 |
【人】 大富豪 シメオン─ 二日目 ─ [ラ・コスタの『フェス』も二日目となる。 『美』を抱く者たちはそれを披露するためにパトロンを見つけ、パトロンたちは自らの財力と権力をもって庇護した『美』を舞台へと上げる。 しかし、それは限られた者にしか許されない。 栄光の裏側で夢破れた者たちは影街へと追いやられることになる。 『美』の舞台は中央広場。 豪華な劇場や美術館の立ち並ぶそこは、有力なパトロンに恵まれ、優れた『美』を持つ者のみが上がることのできる舞台。 それはラ・コスタ全ての憧れ。 女神の寵愛を受ける者を決める舞台。 シメオン・ジョスイはそんは中央広場に位置する劇場を幾つも抑えていた。 だが、今年のフェスでそれを使用するつもりはない。 例年ならば庇護した『美』の一つ一つにその舞台を与えたのだが、今年この時までに男が手にした『美』は一人だけだった。 故に、それらの劇場は空のまま捨て置かれることになる。**] (34) 2022/11/27(Sun) 1:02:25 |
大富豪 シメオンは、メモを貼った。 (a18) 2022/11/27(Sun) 1:04:01 |
【人】 大富豪 シメオン─ 二日目 ─ [ 予期していた来客は無い。 別に、男に取ってはそうであっても構わぬこと。 逃した『美』を惜しむ気持ちが無いわけでは無いが、女神への求愛を捨てて生きるのも人としてはあり得る選択だ。 それは『美』の在り方が、この街とは違うというだけのこと。 それよりも。 己れにはやらなければならないことがある。 当てにしていたつもりはないものの、魔女の助力を得られなかったのは痛恨だった。だが、他に手段がないわけではない。 今年の『フェス』は千載一遇の機。 逃すわけにはいかない。 昔から何も変わらぬこと。 己が渇望のままに、飢餓を満たすために、ただ道を求めるのみ。 見出した終着点が 美の女神 ならば。*] (48) 2022/11/27(Sun) 13:00:38 |
【人】 大富豪 シメオン[太陽が西に沈み始める。 二日目の夜が訪れる。 準備に少々手間取り少し遅れてしまった。 だが、広場には従者を行かせてある。 私が居なくとも始めるように彼女へ伝えるはずだ。 彼女ならば今持ち得る全てを、 そして私には届かぬはずの『美』を女神と人々に見せてくれよう。 このシメオン・ジョスイの最高傑作として。*] (49) 2022/11/27(Sun) 13:01:49 |
大富豪 シメオンは、メモを貼った。 (a22) 2022/11/27(Sun) 13:05:05 |
大富豪 シメオンは、メモを貼った。 (a28) 2022/11/27(Sun) 16:43:35 |
大富豪 シメオンは、メモを貼った。 (a30) 2022/11/27(Sun) 17:07:02 |
大富豪 シメオンは、メモを貼った。 (a34) 2022/11/27(Sun) 18:24:59 |
【人】 大富豪 シメオン─ 中央広場 ─ [陽が落ちてすっかりと闇が支配する時刻。 しかし、無数の街灯に火が灯され街が眠ることはない。 その中心で一人の女が人々を魅了している。 踊ることも歌うこともなく、響かせるのはその手にしたリュートが奏でる音。 それは女神に愛されるに相応しい。 人々は輪を作り女の演奏に酔いしれ、輪は時を経るごとに大きく厚くなっていく。] (69) 2022/11/27(Sun) 19:39:36 |
【人】 大富豪 シメオン[その舞台に突然そこへ降り立った者が一人。 顔に仮面、頭に派手な被りもの。 黒の布地にに金の刺繍や飾りを施した美麗な衣装。 その手には片刃の剣。 騒めきが広がる。 観客を魅了していた『美』に乱入者。 「あれは誰だ」「邪魔をする気か」 人々がどよめく中で男は女の演奏に合わせて舞を始める。 ここにいる誰が気づかなくても、 女だけはそれが誰なのかわかるはずだ。 美しい音色に合わせて乱入者は緩やかにステップを踏む。 空気を切り裂くように剣を振るった。 それは演者である女に向けた挑戦状か。*] (70) 2022/11/27(Sun) 19:40:24 |
大富豪 シメオンは、メモを貼った。 (a35) 2022/11/27(Sun) 19:48:40 |
【人】 大富豪 シメオン[剣が灯りを弾いて中空に軌跡を描く。 決して速いだけの剣筋ではないのに、その刃を正確に追えるものは数多くないだろう。 舞う。 衣装をはためかせながら。 演奏に合わせて、あるいはまるで演奏をリードするかのように。 「ついてこられるか?」 剣の切先が女の喉元を掠める。 いや、まるで届く距離ではない。 それでも確かに女の喉元に喰らいつくような刃。 「まだだ、お前の『美』はそんなものか?」 私に見せろ、私に魅せてみろ。 私の知らないお前だけの『美』を。] (73) 2022/11/27(Sun) 20:49:44 |
【人】 大富豪 シメオン[音の一つに剣筋が一つ合わさる。 音に乗せるのではない。 音を弾くように、斬り払うやうに。 男は女の奏でる音を悉く凌駕して見せる。 一つ一つに込められた力強さも、繊細さも、美しさも。 これが剣王と呼ばれた男の『美』の骨頂。 演奏と剣舞が続く中、観客たちも気づき始める。 これは演奏に艶を彩る舞ではないと。 まるで斬り合うような二人の『美』と『美』の競演。 いや、競い合うなどという言葉では到底軽い。 まるで仇同士ご殺し合うような、まるで恋人同士が激しく愛を交わし合うような。] (74) 2022/11/27(Sun) 20:50:40 |
【人】 大富豪 シメオン[到る終局へ向かって、二人の音は激しさを増す。 だが、終わらぬものはない。 閉じぬものには次はなく 故に、それは終幕を迎えんとする。 剣が音に乗る。 女の奏でる音色に剣が美しく舞う。 美しき旋律に華を添える、美しき剣舞。 男は仮面の下で微かに笑った。 心地よい音色に身を委ねて舞う。 音の一つにステップを踏み、音の一つに剣を捧げる。] (86) 2022/11/27(Sun) 21:40:07 |
【人】 大富豪 シメオン[ ───最終節 男の剣が根本から折れる その刃が空を舞って クルクルと回転しながら街灯の光を跳ねる キラキラと美しく輝きながら それは男の足元で地面に突き刺さった それは女が最後の音を奏でると同時であった。*] (89) 2022/11/27(Sun) 21:43:27 |
【人】 大富豪 シメオン[中央広場に万雷の拍手が響き渡る。 観客の輪の中には、街の有力者から著名な芸術家、あるいは名もなき街の住民たちまで様々な人々が集っていた。 祝福の声に包まれて男はその面と被り物を外す。 そこにシメオン・ジョスイの姿はなく、誰も知らぬ男の顔がそこにはあった。歳の頃は20代後半から30といったあたり。 白い髪は老いて彩りの消えたそれではなく、美しい銀の色。 誰も知らぬと言えばそれは誤りだった。 共に美を競い音を奏でた女ならば、確かに見たことがあるはずだ。>>1:13 そしてもう一人、その姿を知る者がいるとするならば、かつて親友だった男を創造主としてその姿形を写した者だろう。 観客たちは知らない。 故に、奏者と剣士の二人ともがジョスイの見出した秘蔵っ子だと思っただろう。 だが、それでいい。] (101) 2022/11/27(Sun) 22:31:20 |
【人】 大富豪 シメオン[止まぬ拍手、そして祝福と称賛の声。 男は観客に向けて礼をすると。 女の方へと近づいていく。 その足取りは覚束ない。 さっきまで美麗な剣舞を披露した者とは思えぬほどに。 顔は青ざめ、玉のような汗が引っ切り無しに顔を伝って落ちていく。] …………… [口を動かそうとしてそれは声にならない。 けれど、男の表情は穏やかだった。 そのまま女の目の前で膝をつく。 まるで女に向けて跪くかのようで、狂騒の中にある観客の誰も男に何が起きているのか気づいていなかった。*] (102) 2022/11/27(Sun) 22:31:59 |
【人】 大富豪 シメオン大丈夫だ、 ……年寄りの冷や水というやつだな。 今すぐ死ぬような訳ではない。 [女が触れた男の体は高熱を上げていた。 そして、若く美しかった顔は見る間に肌は弛み皺を刻んでいった。 それは確かに女の知る男の顔で、だけどそれよりもずっと老いて見えたことだろう。] 自慢の顔だったのだがな。 [男は肩で浅く呼吸をしながらそんな軽口を叩いた。] (108) 2022/11/27(Sun) 23:14:43 |
【人】 大富豪 シメオン[年齢にしておよそ30。 全盛期の肉体を取り戻すにはそれだけの年月を遡らなければならなかった。 だが、失った時間を取り戻す方法などない。 それは神の定めた摂理に反すること。 もしも魔女ならばもっと上手くやる方法をしっていたかもしれない。 もしも会えていたのであれば、事も無げにそれが可能だと伝えられたのだろう。>>68 しかし、不運にもその歯車は噛み合わなかった。 だから男は危険な方法を取った。 とある辺境に伝わる薬と魔法による肉体の若返り。それも長くは持たない上に、体に大きな負担をかけるという余りにも割に合わないものだった。 それに……男の体は病魔に蝕まれていた。 そうと気づいた時には、病巣は全身のあちらこちらに転移しており、完全に治癒することは難しかった。 若返りの秘術はその病魔をも活性化させてしまうのだった。] (109) 2022/11/27(Sun) 23:15:02 |
【人】 大富豪 シメオン[その後、男は面を再びつけると力なく崩れ落ちる。 それは極度の疲労と、薬の反動によるものだった。 それは想定された通りの結果で、命に別状はないはずだ。 ただ薬が抜けるまでしばらくの静養が必要であり、 少なくとも数日は目を覚さないだろう。 それと、おそらく寿命は大幅に縮めたのは確かな事。 従者は主人の体を抱えて屋敷へと向かう。 聴衆は未だ喧騒の中で次の『美』を求めていて、男がどうなったかなど気にも留めていなかった。*] (110) 2022/11/27(Sun) 23:18:32 |
(a42) 2022/11/27(Sun) 23:48:07 |
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