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【人】 室生 悠仁食卓に座れば、共に食事をする時間が始まる。 いつも通りの談笑の中、いつも通りでないのは 俺の心臓の鼓動と、俺の心のうちのみだ。 話出すきっかけを探すように視線を向けた。 トマト鍋を美味しそうに頬張る姿は いきいきとして愛らしいと思う。 ─── 彼はずば抜けて容姿が良いわけではないけれど 随所のパーツの配置が良く、整った顔だ。 それでもそこまでモテる様子がないのは 纏う雰囲気が二枚目より三枚目よりだからか。 少し抜けてて、ばかみたいなところもあって。 でも、そんなところも俺には良点に見えた。 惚れた欲目なのだろうが、……好きだなぁと。 感慨深げに心のなかでこぼした。 (0) 2022/10/20(Thu) 12:23:51 |
【人】 室生 悠仁食べている途中に告げると、もしかしたら 食事をぶちまけたりと困ったことになる気がしたので 一先ず食事が終わるまでは、いつも通りに 話して、笑って、食べることに。 水菜、しめじ、玉ねぎ、じゃがいも、そしてトマト。 食材がふんだんに使われた鍋は この間カフェで食べたものと違って 料理素人が作ったにも関わらず、大変美味だった。 彼がいるだけで味の感じ方さえも変わってしまう。 そのことが面白くて、声を漏らしそうになるのを 皿を口につけることで回避する。 俺だけがその意味を知る最後の晩餐は 温かな雰囲気のまま進行した。 (1) 2022/10/20(Thu) 12:24:43 |
【人】 室生 悠仁食事も終わり、居住まいを正す。 「 なあ、少し聞いてほしいことがあるんだ。 」 本当なら顔を逸したいところを、 精神力でもって抑えて彼の瞳と目を合わせた。 少し色素の薄い瞳、普段なら吸い込まれそうなんて 思うこともあるけれど。 今はただ、その色が変わってしまうことが 少しばかり恐ろしい。 疑問の声を上げてこちらを見る彼に ひとつ、息を吸って、吐いて。 (2) 2022/10/20(Thu) 12:25:54 |
【人】 室生 悠仁─── 言葉の意味を飲み込むためのような間があった。 そうして、彼は首を小さく傾げる。 どうやら、間を空けても意味が飲み込めなかったらしい。 『 俺も好きだぞ? 』 思った通りに理解していないという意味の 言葉を吐き出した彼に、俺の頭の中で誘惑の声が上がる。 わかっていないなら、そのままでいいんじゃないか。 伝えるだけは伝えたんだ、そこからはもう 頑張らずともいいのではないか。 今更のような悪魔のささやきに、けれど俺は頷かない。 (4) 2022/10/20(Thu) 12:26:56 |
【人】 室生 悠仁─── 決めたんだ。 ちゃんと想いを伝えるって。 伝えて、振られて、……嫌われて。 そうして今後一切関わらず、 彼から離れ生きて行くのだと。 葛藤はあった。逡巡はあった。 今まで通りで在りたいという、甘えた気持ちがあった。 けれど、それはきっと永遠に 彼を、そして自分を。 裏切り続けることと同義なのだ。 だからこそ、俺は言葉を重ねる。 正しく想いが伝わるように。 (5) 2022/10/20(Thu) 12:28:19 |
【人】 室生 悠仁視界に入った彼の表情に、考えていた反応ではないと 虚を衝かれた気持ちになった。 本来、今俺がしているような表情を 彼がするはずではなかったのか。 それがどうして、まるで動揺することなく 眉を下げた顔になるのかわからなかった。 彼の性格を考えるに、真実を知ったとしても ひどい言葉を投げかけることはしないと思っていた。 それでも、怒りや戸惑いを露わにするものと 素直な感情を表すものだと、思っていたのに。 (23) 2022/10/22(Sat) 8:49:38 |
【人】 室生 悠仁慈愛のようなものさえ籠った眼差しで 俺を見つめる彼に心がざわめきを覚える。 なにか言わなければ、 ─── 彼の口を開かせてはいけない。 そう思考は確かに回っているのに、 凍りついたように唇は戦慄くばかり。 二の句が継げない俺の様子に 彼は何を思っているだろう。 眼差しをそのままに体感ゆっくりと 形の良い唇を開いていくと、喉を震わせる。 『 知ってたよ。 』 (24) 2022/10/22(Sat) 8:49:55 |
【人】 室生 悠仁聴こえた単語に、その意味に。 俺の思考は止まり、ざわめいていた心も静まった。 真っ白になった頭は「は?」というような 疑問の声とも呼べないものしか上げられず 彼の続く言葉を待つことしか出来ない。 『 俺たち、どのくらい一緒にいると思ってるんだ。 こんなに長くいて、 わからないなんてことはないだろ。 』 …… 思いもしなかったわけではない。 バレている可能性にだって思考を伸ばしたことはある。 けれど、彼は傍にいることを許してくれていたのだ。 男が男を、なんて前時代的考えかもしれなくても 恋愛対象としていない相手に想われていることなんて 気持ち悪い以外のなにものでもないだろう。 (25) 2022/10/22(Sat) 8:50:21 |
【人】 室生 悠仁告げる彼はやはり困ったように眉尻を下げている。 彼の多くの思考は把握しているつもりだったけれど 今、何を考えているのか俺にはわからない。 「 じゃ、あ。 なんで離れなかったんだ。 こんな、気持ち悪いだろう、男相手に。 お前は女好きで、友達にこんな、 」 想いを抱いている相手になんて。 動揺は思考にも及び、言葉も判然としない。 それでも、彼の考えていることを知るために 拙くも言葉を吐き出していく。 「 離れる機会なんて、いくらもあっただろう。 それこそ、中学の時に、 」 それとも、あの頃は俺の気持ちなんて 知らなかったのだろうか。 …… それとも。 知っていて、離れないことを選んだのだろうか。 (26) 2022/10/22(Sat) 8:50:54 |
【人】 室生 悠仁─── 俺のことを、嘲笑っていたのだろうか。 そんなやつじゃないことは長く見てきて わかっているつもりでいても、 後者だとするならそれ以外の理由が思い当たらない。 俺の気持ちを知って、その上で 眼の前で女性を口説いて、 嫉妬させていたというのなら。 それに一体、他にどんな理由があるというのか。 『 好きだったんだよ、俺も。 』 は? と二回目の声が出た。 (27) 2022/10/22(Sat) 8:51:06 |
【人】 室生 悠仁すぐさま『友達としてな?』と返ってきたので 誤解をすることはなかったが、それでも 俺は口元をへの字に歪め、目付きの悪い目で 刺すように彼を見つめてしまう。 『 想いには応えられなくても 好きだったんだ、お前のこと。 だから傍にいてほしくて、 ずっと知らないフリをしていた。 』 本音だろう言葉を零す彼はバツが悪そうにしている。 今までにもそういう表情は見たことがあったが ここまで本心を伝えてくれたのは初めてかもしれない。 初めての場面だというのに、心が踊るより 動揺や混乱が脳裏を占めるばかりだ。 (28) 2022/10/22(Sat) 8:51:16 |
【人】 室生 悠仁最低だよな、と苦く笑う彼にその通りだと 頷こうとして、…… 頷けずに彼を見つめた。 俺の気持ちを知った上で、それに対して なんの答えも出さず。 自分は同じ気持ちを返せないのに 愛されていたいなんて。 自分勝手で、酷くて、ずるいことだと感情が言う。 しかし、それとともに冷静な部分も声を上げるのだ。 なにも告げていないのに答えてほしかったなんて 俺の思考回路だって、相当自分勝手なものじゃないかと。 ─── 俺が勇気を出して、嫌われることを厭わず 告白していたのなら、きっとこうはならなかった。 ならば、彼を怒るのは筋違いというものだろう。 (29) 2022/10/22(Sat) 8:51:28 |
【人】 室生 悠仁…… 彼の手が持ち上がり、そっと俺の頬に触れた。 こんなときなのにどきりと跳ねる心臓を 気にもしないように、なにかを拭う動作で 指が頬を滑っていく。 どうやら、理性では理解していても心では納得できず 気持ちのまま、瞳から涙がこぼれ落ちていたらしい。 だからといって、自分を好きなやつに こんなことするなんてどうかしている。 優しさのようで全く優しくない行為に 俺は彼に恨みがましい想いを抱いた。 「 …… ずっと好きだったんだ。 」 (30) 2022/10/22(Sat) 8:51:40 |
【人】 室生 悠仁「 お前の全てが好きだった。 」 うん、と彼は静かに頷く。 その間も涙を拭う手は止まらない。 「 なのに、どうして。 何も言ってくれなかったんだ ……。 」 (31) 2022/10/22(Sat) 8:52:22 |
【人】 室生 悠仁正しく恨み言が、ぽつぽつと溢れるように出てきた。 彼はひとつひとつに頷いてくれる。 そうして少しして一言、ごめんな、と 謝罪の言葉を穏やかに零した。 幾許かの間、俺はさめざめと涙を落としていた。 彼は一瞬腕を持ち上げる動作を見せるも その腕が俺の体を包むこともなく、ただ 頬を滑る雫を拭い続ける。 越えてはいけない線が俺たちにはあった。 **そして彼はそれを、越えない選択をしたのだ。 (32) 2022/10/22(Sat) 8:52:40 |
【人】 室生 悠仁某日、パンプキンタルトの美味しかった店にて。 俺は一人、まだこの店で食べたことのないメニューを 注文するため、カウンター席に座っていた。 時間は前と同じように休日の少しピークから外れた頃。 人が多いのもそこまで気にならないほうだが 今日は静かに食べたい気分だった>>12 デザートだけでなく、きちんとした食事を摂るため 昼食を食べることなく来店したものだから 俺の胃袋は空腹に鳴き声を上げている。 泣いた子どもをあやすように、腹をひと撫ですれば SNSを見て既に決めていた本日の昼食予定のメニュー ジャック・オー・ランタン≠、 やって来た店員に注文するのだった。 (75) 2022/10/23(Sun) 9:40:19 |
【人】 室生 悠仁先日、俺は愛しの彼に告白して振られた。 とはいっても、当初は振られたといえるような はっきりとした言葉を貰えていなかった。 彼の態度として俺がそう察知していただけで 曖昧なまま話が進んでしまっていた。 だからあのあと、きっぱりと気持ちに 蹴りをつけるため、改めて言葉にしてもらうことした。 「 この先、未来を考えても 俺の方を向かないというのなら きちんと振ってくれ。 」 涙で濡れた声で言うには少し恥ずかしかったが 泣いてすっきりしたのか、淀みなく声を発せたと思う。 (76) 2022/10/23(Sun) 9:40:32 |
【人】 室生 悠仁─── 写真を送る相手はもういない。 とはいえ、別に彼との縁が切れたわけでもない。 SMSを頻繁に送り合うことこそなくなったが きっと連絡すれば返事は返ってくるだろう。 それでも、未だ燻った想いがもう外に出ることはない。 子どもの頃から続いた長く重い片想いは やっと手放される機会を得たのだから。 想定していたより穏やかに進んだ物事を終えると 舞台の幕は下ろされ、客もいないそこには ただ一人の男が残ることとなった。 再び同じ舞台で幕があがることは永遠にない。 いつかこの傷口が痂になり、塞がったとしても 前の形に戻ることはあり得ず、傷跡は残り続けるからだ。 (78) 2022/10/23(Sun) 9:41:00 |
【人】 室生 悠仁椎茸に舞茸、エリンギにしめじ。 見ただけで様々な種類の食材が使われた このオムライスは、普段のものとは一味違うらしい。 口に運びながらSNSで書かれていた内容を思い出す。 しかし思えば、この店の普段のオムライスというものを 知らないから比較をすることが出来ない。 それでも、他の店で食べたことのあるものと 大分趣が違うことはわかった。 きのこに合うようにだろうか、クリーミーな味付けは まろやかに舌の上で踊り、きのことともに 味覚器官を刺激してくる。 匂いも芳醇で、視覚的にも楽しく 五感に訴えてくる商品はこれもまた 店長の手腕なのか、それとも他の社員のものか。 今まで食べたどの食べ物よりも美味しい>>1:10 とは言えないまでも、今まで食べたものの中でも 美味しい部類のオムライスは。 ─── それなのに、どこか味気なく感じた。 (79) 2022/10/23(Sun) 9:41:09 |
【人】 室生 悠仁恋の病とは度し難いものだ。 勝手に燃え上がり、その気がなくとも溺れさせられ、 思考を永遠に蝕み苛んできて。 一度かかったら簡単に治ることはなく 治療のための期間は数日から年単位まで様々に及ぶ。 人生を振り回す大病は厄介に過ぎるが 人は愛することをやめない。 それは繁殖のためであったり、娯楽のためであったり、 長い人生を生きていくためであったり。 はたまた、なんの意味もないときだってあるだろう。 俺の恋はどの部類だったのだろうか。 人間の心は複雑で、全てを全て、 言葉に当てはめることなんて出来やしない。 俺はひとつの恋を手放した。 わかっているのは、その事実だけだ。 (80) 2022/10/23(Sun) 9:41:48 |
【人】 室生 悠仁枯れた向日葵の花びらが散っていく。 夏の季節が終わり、秋を越えて、 もうすぐ冬の季節がやってくる。 動物たちは活発だった動きを止めると 長い休眠期間に入るだろう。 やがて陽だまりのようにあたたかな 春の季節がやってくること夢見て。 瑞々しくも可憐な、新しい花が咲く日を夢見て。 (81) 2022/10/23(Sun) 9:42:22 |
【人】 室生 悠仁オムライスを堪能すれば、締めのデザートに入る。 先日は店長拘りのパンプキンタルトを頂いたから 次は違うものを頼んでみようか。 店員を呼んだあと、注文している最中に ふと思い立って黒猫のホットココア≠燉鰍だ。 気まぐれで愛らしいその顔を、今の心境で 見つめてみたい気分になったから。 さて、商品を発案した店員と話す機会なんてのはあったか。 口に含む味はあの日飲んだものと変わらない。 それでも、今日は黒猫が優しく 愛嬌のある顔で微笑んてでくれている気がした。** (82) 2022/10/23(Sun) 9:42:30 |
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