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【人】 龍之介── 山頂の御屋敷 ── [青褪めた顔、重たい足取り。 上着の袖は斜めに裂け、 半壊の籠を負った背中から足にかけて 赤黒い染みがべったりと衣服を汚す。 あの御方の婿として ふさわしくない格好になってしまった自分が 湖の縁、森の切れ目に辿り着いた時には まんまるに近い月が 空高く昇ってしまっていた。 (早くとおっしゃられていたのに>>1:60 こんなに遅くなってしまって、 お土産の実もぐしゃぐしゃに潰れてしまって、 きっと…… 失望されてしまう、) 謝れば許していただけるなら 挽回する機会を与えていただけるなら 懇願したいけれど、 異なる文字をお使いになるミクマリ様には>>2:1 伝える術がない。] (3) 2021/06/25(Fri) 21:55:18 |
【人】 龍之介[お屋敷へ導くみたいに 凪いだ湖面に映る月明かりの道を 重い心と体を引きずり 船に乗り込み、漕ぎ出した。 ぎっ、… ぎっ、ぎっ… 近づいてくる、ミクマリ様のお住い。 (もう彼処に… 自分の居場所は無いかもしれない、) そう思うと、苦しくて仕方なくなって 眉根がぎゅっと寄ってしまう。 捻ってしまった足よりも 四本の引っ掻き傷の走った腕よりも ずっと痛む胸を堪えるように下唇を強く噛みしめた。] (4) 2021/06/25(Fri) 21:55:23 |
【人】 龍之介[屋敷についたら、直ぐに ミクマリ様の御前で深く頭を垂れて、 それから膝を折って 地面に額を擦り付けるようにして謝ろう。 どうか、どうか、どうか… お傍に居させてもらえることを祈って。]* (5) 2021/06/25(Fri) 21:55:27 |
【人】 鬼 紅鉄坊──秋── すまないな、千 [ 今年の秋は冷えが酷く、山にも目に見えて実りが少ない。 それは外の世界も同じことらしく、余所の妖怪が攻めてきた。 決して外に出ないように言い残し赴いた戦いは鬼の勝利に終わるが、 潜んでいた一体の死角を狙った奇襲により片腕に深傷を負い、 今こうして手当を受けている。 片目の鬼が棲まうことは、今や山を狙う余所者に有名らしい。 ] (6) 2021/06/26(Sat) 3:38:34 |
【人】 鬼 紅鉄坊情けないところを見せてしまった だが、お前に何事も無く終わらせることが出来て何よりだ [ 漸く落ち着ける場に戻り傍に千がいるというのに、 無事を喜ぶ言葉と裏腹に鬼の様子は暗いまま。 数多の憂いがその胸にはあった。 弱みを襲撃者に知られている現状は勿論のこと 内の一つは、ここ最近にあった出来事。] (7) 2021/06/26(Sat) 3:39:41 |
【人】 鬼 紅鉄坊……これからも、私が何度でも守ろう [ ある日、寺の門前まで尋ねてきた村人がこう言った。 ──「未だ、千は生きているのですか」 今や枯れ落ち始めた緑が深まる前から、毎日のように連れ出した。 山に入ることを許可されている村人は、見掛けてもおかしくない。 明らかに、思うことがある様子だった。]** (8) 2021/06/26(Sat) 3:40:33 |
【人】 鬼の花嫁 千─ 秋 ─ こんな時くらい胸を張ったっていいんだぜ 山一つ守ったあんたが情けないわけがあるか ……本当によく帰ってきてくれたなァ [痛々しく傷の残る腕に木綿の布を丁寧に巻いていきながら、千は小さく笑う。 夏までは時折顔に掛かり煩わしかった長髪は、今や肩につかぬ程で切られていた。 男が髪を結わえる時代は今や昔、伸ばされていたのは唯一千に触れることに忌避感の無い祖母が目を悪くしたからでしかない。 もし頷いてくれるのなら鬼に鋏を預けたが、そうでなければ自分で刃を入れたことだろう。] (9) 2021/06/26(Sat) 3:41:12 |
【人】 鬼の花嫁 千また何か考えているな? ひとりで考え込むのはやめてくれよ、 置き去りはもう勘弁だ、ひひッ [戸口が開き見えた姿には、らしからぬ焦り声で名前を呼び駆け寄ってしまったが 腕は深傷ながら繋がってはおり、他には酷い負傷はしていないことに安堵し、手当する側としてもう狼狽える様子は見せないようにした。 夏の終わりの出来事も、既に冗談として口に出来るようになっている─少なくとも、千の側は─] 腰を落ち着けて休まないと、治るものも治らないさ [痛ましい様につい寄る眉や、注ぐ視線ばかりは中々隠せはしないが。] (10) 2021/06/26(Sat) 3:41:30 |
【人】 鬼の花嫁 千[木々の葉が落ち始めた季節、十年ぶりに肌身に感じる冷えは厳しい。 よく風が通るようになったのか、寒い寒いと出歩く度身を摩るようになった千はある朝見慣れぬ姿で鬼の部屋にやって来た。 黒い首巻きに薄茶の外套、異人だった父親が村に縁として残していったとされている品。 置かれた年月相応に褪せて古びてはいたが、祖母が長く手入れしていたらしく着れる状態にはなっている。 恐らく洋装を見慣れてはいない相手に似合うかと戯けて見せた時、どんな反応があったか。] (11) 2021/06/26(Sat) 3:41:43 |
【人】 鬼の花嫁 千暫くは大人しくしておいてくれよ 俺だって時間を掛ければ薪くらい割れるし風呂も焚ける 随分立派になったのさ、旦那様のお陰でな ま、その体格には何十年掛けてもなれないだろうがね [巻き終わり、仕上がりを確認した手を鬼の両頬に添えて顔を近づける。 額が合わさる距離で、口角を釣り上げて笑う。] なあ、誰かの言うことを気にするよりも こうやって俺のことを見ている方がずっといいだろう? [村人が千を見つけたということは、その逆もまた然り。 されど敢えて口にはせず、ただその心を気遣う。 少年時代から十年を失った頼りない身体の人間には、知ることも出来ることも非常に少ない。 大切に思えるものも、一つしか無かった。**] (12) 2021/06/26(Sat) 3:42:10 |
【人】 水分神[これ程遅いのは、獣に喰われてしもうたか。 いいや、そんなことはない、 あって欲しくないと幾度も頭で否定をする。 不安に震える手足では 確認しに行くことも出来ない。 一層のこと、頼み事を投げ出して 村に帰ってくれていたなら。 お主が無事で居てくれたなら。 ────ただ其れだけを願い、時は過ぎ。] (13) 2021/06/26(Sat) 7:53:47 |
【人】 水分神[妾に出来るのは 捻挫や些細な切り傷を治す程度の気休めじゃ。 身体に含まれる水に働きかけるだけ。] ふぇ……妾が……妾が悪いんじゃぁ 果物なんか要らんのじゃ……っ お主は妾がいいと言うまで 死んだらダメなんじゃ……っ 妾、妾はぁ……っ まだお主の名前も聞いとらん……っ!! [すっかり助けられぬものと思い込み。 胸を押し付けながら思いの丈を泣き散らした。*] (17) 2021/06/26(Sat) 7:55:41 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ その行いが既に約束の対価であるのだから、 労いを欲したことは今まで無かった。 しかし、千に向けられる言葉と表情には>>9 何処か救われるような感覚が、確かにある。 言葉少なく受けとめて、静かに頷いた。] ……ああ [ 腕の傷に懸命に布を巻いていく花嫁 その肩を通り背に流れる白はもう無い。 幽閉されていようと元は育ちの良かった人の子 自分でしたことはないのだろうと、 器用ではない腕で慣れない道具での断髪を請け負った。 しかし、首や耳を切ってしまったらと思うとなんとも恐ろしく すっきりと短髪にはしてやれなかったものの、 ここ最近は寒がっていたのでそれで良かったのか。 ] (18) 2021/06/26(Sat) 23:51:27 |
【人】 鬼 紅鉄坊ところで、千…… その格好、外に出ようとしていたのか [ 顔が離れた後か、ふと眉を顰め指摘する。 見慣れぬ洋装は鬼にはどこか奇妙にも映ったが、 千には不思議と似合っていて、素直に褒めた記憶。>>11 それが家の中で纏う為のものではないことも覚えている。 ] 人間の賊にすらお前では危うい。馬鹿なことは考えないでくれ 次に同じことがあっても堪えろ、いいな? 大丈夫だ 私が死んでしまったのなら、伝えに来る者が必ずいるから [ 他の同胞同様に人間の前には極力出たがらないあの男とは、 未だに会わせたことはないけれど。 かつては人間たちの事情に首を突っ込むことを咎めながら、 千とのことには色々と気に掛けてくれている。 ] (21) 2021/06/26(Sat) 23:52:40 |
【人】 鬼 紅鉄坊あくまで可能性の話だ そうならないように、私は必ず尽力する [ 付け加える言葉、相手にそれでも気にした様子があれば 傷の無い腕を伸ばし、いつかのように髪を撫でるだろう。 ]** (22) 2021/06/26(Sat) 23:52:58 |
【人】 鬼の花嫁 千紅鉄様らしいね 怠けて顎で使ったって、あんたの嫁は少しも怒りゃしねぇのによ 損な性格してるぜ [一つに注ぐ二つの眼差しが捉える笑みに肩を竦める。 今の鬼は此処にいない誰かを見ているわけでもなく、自分をその子供として親のように振る舞っているわけでもない。 千はそれを確かに理解している。故に、呆れたようなふりをするのはただ真っ直ぐ過ぎる言葉の数々がむず痒かっただけ。] (23) 2021/06/27(Sun) 1:38:35 |
【人】 鬼の花嫁 千[負傷した家族を出迎えた経験など無く、あったとして何か人間らしいことを思えたのかどうか。 身体を切れば血が出るのも、いつか死ぬのだって当然の仕組み。そんな思考の持ち主だ。 真っ当な生き物と呼んでいいのかも分からない存在が呼び起こした、亡くしていた筈の感情。 きちんと持ち合わせていたら、生き続けていることを村人に疎まれることも無かったのか。 可能性の話から生まれるものは無いから、鬼が憂うなら思考を流してやるのが千の出来ることだ。 今でも紅鉄坊以外に対して同じような感情を向けられる自信がない以上、やはり村人にとっては鬼子に違いはないのだから。] (24) 2021/06/27(Sun) 1:38:50 |
【人】 鬼の花嫁 千ひひ、気づかれたか。そうだよな 出ていく前に帰ってきてくれたんだから、問題ないだろう? ……ああ、分かった 遅いと思うと、どうしても落ち着かなくてさ 悪かったよ。ちゃんと、我慢する [顰める眉に向く悪びれない笑い。 しかし、相手はこちらよりずっと深刻に考えたと理解しすぐに消え、大人しく謝罪する。 だが、続いた内容には今度は千のほうが顔をしかめる番だった。] ………… 何が大丈夫なんだよ、そんな知らせは要らねぇ されたところで、この目で見るまで信じるものか [咎める声は低くも、小さい。] (25) 2021/06/27(Sun) 1:39:05 |
【人】 鬼の花嫁 千当たり前だ あんたには、俺を二度も選んだ責任があるんだ あんたが俺に生きろと言ったんだ [付け加える言葉にも揺れない表情が、大きな掌の感触に少しずつ穏やかに戻る。 その腕には小さいだろう道具で、恐る恐る髪を切ってくれた記憶。 伝わる恐れがなんとも微笑ましく、何気ない時間が快かった。 責めるような口振りではあるが、独りになった後の生活が気になるわけではない。 ただ、失い難い。千の中にあるのはそれだけだ。] (26) 2021/06/27(Sun) 1:39:54 |
【人】 鬼の花嫁 千前から思っていたんだけどよ 少しは着込んだほうが怪我がし難くなるんじゃないか普通は やっぱり、鬼と人間は違うものなのかね あんたはこの格好でどこでも平気で歩いてるしなァ [ふと目線は降りて、相変わらずの襤褸とそこから覗く筋肉質な身体を眺める。 これ以上その話を続けたくなかったのもあるが、以前から気になっていたことでもあった。] なあ、この跡と左目も昔戦った時のものなのか? ……もう痛くはないのか? [答え次第では、右半身の黒い跡を五指がゆっくりとなぞる。**] (27) 2021/06/27(Sun) 1:40:11 |
【人】 鬼 紅鉄坊布程度で何かが変わるような攻撃では この身体に傷一つ付けられないな お前は沢山着込んでおくといい 山で迎える冬は、牢の中とはまた違う辛さがあるだろう [ 向かい合う両者の種の違い。その言葉に頷く。>>27 紡いだのは驕りではなく経験だ、 鬼はこの山で長らく人ならざる者たちと戦ってきたのだから。 ] 私が私として意識を持った時点から、 左目は開かず身体もこの状態だった だから、痛みはないが理由も分からない [ その時から廃寺に棲んでいると語る鬼に、 なぞる五つ指が変化を齎すことはない。 その動きを目で追いつつしたいようにさせ、話を続ける。 ] (29) 2021/06/28(Mon) 4:25:57 |
【人】 鬼 紅鉄坊負ったのが此の寺ではないことだけは、確かだろうな [ 鬼の記憶の古くにある廃寺は、 今よりは朽ちていなく、焼け跡などでも無かったのだから。 ] 気になるものか、伴侶の過去は [ 問う声は、少しばかり他人事じみていた。 靄よりも薄く掴めず、実感の湧かない過去。 それが必ずあったものだとしても、自分のものとは思えずに。 決して穏やかではなかった生活に追われ生きれば、 探ろうと思い至ることはなかった。 ]** (30) 2021/06/28(Mon) 4:27:08 |
【人】 鬼の花嫁 千[「流石天下の紅鉄坊様だ」などと巫山戯ていたのも一時のこと。 ふと掛けた問いには、思わぬ答えが返ることとなった、 黒色をなぞる手は止まり、驚きに固まった後ぎこちなく顔を見上げる。] は……そんなこと、 [あるわけがない──本当に? 今まさに、人と鬼の違いについて語らっていたというのに。 当たり前の否定を当然の思考が押し留め、言葉は途切れる。 この鬼があまりにも人間らしく、温かくあったものだから 鬼とは神仏に背いた妖しの類であるということを、千はすっかり忘れていて。] (31) 2021/06/28(Mon) 6:43:46 |
【人】 鬼の花嫁 千……そりゃ、気になるさ 忘れちまっていても、確かにそれもあんたなんだろう? [他人事のような素振りに苦笑する。 負わせた責任とは種が違う。 求められてはいない、ただこちらが知りたがっているだけ。 だが、これも相手を受け止めようとする想いではある。**] (32) 2021/06/28(Mon) 6:44:23 |
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