人狼物語 三日月国


246 幾星霜のメモワール

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視点:


「……私の痣を光らせたのは

 一体何のつもりでやったの」

教会で人々の祝福の声囲まれながら、女はまるでその光が聖女からの施しでなかったかのように不満の声を言い放った。
困惑する人達を退けてツカツカと街の入口の方へと足を向け、一度だけ振り返る。

「何が祝福よ、もし自分の私腹を肥やそうとしているつもりだけでやったのなら容赦しないわ。
 必ず見つけ出してやるから」

「痣が……」

ガリガリと胸元を搔き毟る。
油断はしていなかった。誰かに触れられてもいない。
ならばこれは魔法か呪いか。

「失せろ。殺すぞ」

いつもの人当たりの良さは消え失せて。
囲み祝福する民衆を押しのけてどこかへ消えていった。

「え……と」


街中で当然のように湧いてくる野次馬たちをほうぼうの体で抜け出す。

「すいません。あの……ありがとうございます」
「でも、できれば私なんかよりも──」


「聖女様を祀ってあげてください。
 私じゃなくて彼女のためのお祭りですから」


落ち着いて息を吐けたのは郊外まで逃げてきた頃だった。

直に確認できないうなじに、知っている気配を感じる。

泣くことも怒る事も喜ぶこともできずに手を当てて人気のない路地裏で蹲っていた。

 エミール

「ひっ」


それは文字通り飛び跳ねたように、肩に触れたあなたの手に反応した。
手を離してなおその肩は小刻みに震え、爛々と輝く痣だけが女の意思と反して確かな存在感を放っている。
しかし振り返って薄暗い光の中あなたの顔を確かめれば幾分穏やかになったようだ。

「……エミール。どうしてここに?」
「ああ、いえ。そうでした。今日は面倒を見に来てくれる日でしたっけ……私ったらうっかり忘れちゃって」

 エミール

「……こっち」

交わした視線に数度瞬いて頷く。
普段の落ち着いた在り様が嘘のようなか細い声で、路地を抜けた先を指さす。
そこは郊外とはいえ都市部でありながら建物隙間に開けた空き地。元は建物があったのだろうか。辺りには大小の瓦礫が置き去りにされている。
辿り着いて天を仰げば、まるで空だけを切り抜いたような光景が目に映るだろう。

「ここなら滅多に誰も来ません。
 いつも落ち着いて考え事がしたい時はここに来るんです」

多少喋れるようにはなったようだが、とても子供の前に立てるような状態ではないのは明白だった。
適当な瓦礫に腰を下ろして暫し黙っていた。
何かを離そうとする様子もなく、ただ喘ぐように呼吸を繰り返しているだけの沈黙。

【人】 番犬 グノウ

>>3:8 ダーレン
「……貴殿も、あの男も」
「…………随分と買いかぶってくれるな……」
「………戦場においては、鉄塊に過ぎん」

この胸の内には機構と空洞があるだけで、探って愉しい腸もないというのに。あの男のように、小話の一つでも振れる小器用さが自分にもあれば、飴の貰い手にも困らぬまい。それを阻害するのは、何より胸の内にある虚栄心に外ならないが。

「……あれは……」
「………未だ、俺も計りかねている」
「……だが、我々の運命を左右するモノであるように思う」
「………何か分かれば、貴殿にも共有しよう」

可能な限り、祝祭について調べているのも事実で。そしてそれが若干手詰まりになっていることも事実だ。そもそも。隣で紫煙を吐く青年がそれほど興味を引くものでもないことは予測がつく。その刻印が光るとき、互いに何を覚悟すればいいものか、未だ分からない我々にとっては、それは吐き出す紫煙よりも曖昧なものだ。

ニ、三、言葉を交わして、別れの挨拶すらも曖昧に別れた。また、道が重なるときに、別の形で運命が交わるだろうことを思いながら。
(10) 2024/02/06(Tue) 2:08:50
 エミール

手を差し出されれば、初めて人間を見た野生動物のような手つきでおっかなびっくりあなたの手を取った。
寒空に冷えた手。赤切れもいくらか目立つかさついた手。
黙って柔く繋いだまま二人だけの足跡が、時が止まったような静寂を覚ましながら。
目的地に着くとそっと離れていっただろう。

「…………怖い、なのかな。
 ああやって聖女聖女って熱狂する人たちが怖いのはそうなんだけど」

もうあなたに触れられても拒絶されることもなく、されるがまま。
己の記憶と結びつく嫌なものではあった。
ぐるぐると思考が行ったり来たりするうち、別の気がかりに気づいた。

「どうして私なんだろうって。そっちの方が強いかもしれません。
 この痣が祝福のあかしだって未だに信じられなくて」

呟いた言葉にたっぷり時間かけて口を開いた。
零れる言葉は曖昧に遠回り。
殆どが独り言で石畳の隙間に浸み込んでも構わない雰囲気だった。

「……罰なんでしょうかね。
 自分勝手な愚か者への、おしおき」

 エミール

「そう見えたのなら、きっとそれも本当なんだと思います。
 誰にも会いたくなかったからここまで逃げてきたんですよ、私」

それもあなたに見つかってしまったのだけれど。
幼い頃から他人に触れられることも本当はあまり得意ではなかった。

かと言って我慢している風には見えない。
宥められて落ち着いたのだろう。
祭り前の時と同じで、あなたにはある程度気を許しているから。

「あなたに言っても仕方ないですよね。ごめんなさい。
 もしかしたら私が思うほどこの痣も特別なのかもしれませんし。
 あーあ。私も街の人達みたいにはしゃげたらなあ」

その訳も分からないたったひとつの痣に翻弄されている事実もまた、心を揺さぶる。
この世界には不思議なことが溢れているのが当たり前で。
冒険者だったら違ったのか。幸せになれたのか。
……分からない。今は考えたくない。

「相応しいかどうかなんて。はあ……聖女様が全部わかってたら教えて欲しいですよ。
 でもエミールはまだなんですよね?
 頑張って──って言うのが正解じゃない気もしますけど、気を付けてください」

 エミール

「……別に」

それ以上どうとも言わないけれど、あなたの謝罪だけ否定しておきたかった様子。
その姿は孤児院で子供の面倒を見るあなたの姿そのもので、それを悪い事とは言いたくなかった。

「どうして、でしょうね。
 おめでたい事のはずなんですけど。
 そう言ってもらえると気が楽ですね。この世界で仲間外れじゃないみたい」

浮かぶ苦笑は煮え切らない自身に対して。
口が達者でないあなたにここまで気を遣わせているのも痛いほど伝わってきたから。

「どうかあなたは私みたいにならないでください」

決して言葉にはしないだろうけれど。
あなたは生きることを悲観していないと思うからこそ。
祝福を祝福として受け取れる結末を迎えてほしかった。

 エミール

「あなたでもやっぱり気にするんですね」

そこは同じ痣持ちということだろうか。
女は自分以外の事情は知らないから推測することしかできない。
ただ、あなたから聞いたように同じような反応をする者が居たのだとしたら共通点のひとつやふたつあって然るべきだ。
それが何なのかすぐには思いつかなくて、親近感と諦観の息を吐いた。

「……祭りの後、ですか。
 もしかして私をどこか、此処じゃない場所に連れ出してくれるんですか?
 どうしたんですか急に。買い出しの序でに食事をするのとは訳が違いますよ」

粗方吐き出して多少なりとも胸のつかえがとれてきたと感じて気を抜いていたから、あなたの提案にはっと顔をあげた。
きょとんと瞳をまあるくして、じっと見つめる。
あまりに突拍子が無くて思わず勘繰ってしまうのだ。

「旅行の供には面白みのない女ですが」

 エミール

「そんなことは……別に思ってませんよ。
 私に比べて随分と落ち着いているから、違うんじゃないかって思っただけです」

口をとがらせてそっぽを向いた。
ばつが悪そうに足元の小石を蹴り飛ばしてみたり。
まるで立場が逆転してしまったみたいでそれ以上強く出ることもできなかった。

ちょっ!
ちょっと!ねえ、揶揄ってますか!?
 さっきまで私、慰められてましたよね?」

意地の悪い顔だとぼやいている内に湿り気はどこかに攫われていったような気がした。

「風向きが変わったってこと?
 今までずっと田舎に引きこもってたくせに……説明不足ですよ。
 心境の変化にしてもやっぱり急ですって。
 ちゃんと教えてください。じゃないと私行きませんからね」