人狼物語 三日月国


68 【身内】空想模倣機体は駒鳥達の夢を見るか?【R18G】

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 ベッド、ドレッサー、クローゼット。
 小さなカーペットが敷かれた、板張りの床。
 他にも多少の調度品はあるだろう。

 そんなごく一般的な、とある少女の客室。

 ベッドの上、乾いて一部が茶色く変色した、赤い海。
 揺蕩うように、静かに横たわったふたりに朝は来ない。

 少女の名前は、ニア。
 高く二つに結わえられていた黒髪は下ろされ、
 はらりとベッドに広がっている。
 華奢な肩を晒す白いシャツと、
 素足にキュロットだけを身につけた無防備な姿。

 青年の名前は、シトゥラ。
 括られていた長髪は解かれ、毛先を赤に浸している。
 帽子も上着も取り払い、
 シャツとズボンを纏った、いくらか身軽な姿。

(→)



 少女の細い首に残る扼痕。
 青年の胸に深々と突き立ったナイフ。

 ふたりの首には『シータの痕』がふたつ。
 生きている誰もが知る由もない、
 とあるテストに関連した死者へ与えられる印。
 それを模して刃物で刻み込まれた、もうひとつの瘢痕。
 
 ふたりの手は絡めあうように握られている。
 青年の薬指に残された噛み痕が、苛烈な恋を咲かせている。


 何よりも雄弁な少女の瞳は、閉じられたまま。
 滑らかに言葉を紡ぐ青年の口は、閉ざされたまま。

 最期に映したものは、音にしたものは何だったのか。
 死人に口無し――語る者はもう、ここにはなく。

 少女の持つ、壊れた弓が直ることは無かった。

部屋の中に、ふたりの人影がある。
赤い血の海に浮かぶ手は繋がれていて、その双方の頸には事件の象徴が刻まれていた。

海の底のような、静かな部屋の中には音がない。
冷たい月明かりだけが、そこで起きたことを見ていた。

ふたりを繋いだ証はそこになく、ただ青年の指に残る痕だけがそこにあった熱を覚えている。→


青年が辿った肌は温度を失い。
少女が噛んだ指は力を失い。
ふたりの閉じた瞳は光を失い。

果たされなかった未来は約束を失った。



沈黙は秘密を隠す手段になり得ない。
ここにあったすべてが、誰かの絆を語っている。

叶うはずのなかった想いは、
繋がれるはずのなかった糸は、
やがて喪失を得てはじめて、

──ひとつの恋になった。
 

【人】 パイ焼き ゲイザー


皆さんお疲れ様です!


……皆さん、いらっしゃいますか?いらっしゃいますよね……?」

少し不安げながらも会議のために水の配膳を始める。何があろうと、この女は生きている限り仕事をきちんとこなし続ける。
ただし、連日噂の事件が起きているせいか顔には素直に不安が乗っている。


今日はこちら置いて離席するわね sorry
(4) 2021/04/22(Thu) 22:37:28
メモを貼った。

メモを貼った。

メモを貼った。

自分が酷い人間であると分かっていた。

自分の選択を後悔していなかった。

己の捨てた物の重さを知っていた。

ハマルに声を届ける術がない。

【人】 パイ焼き ゲイザー

女はただ静かに会議場に佇んでいる。
新たな犠牲者が現れ、何名かが現場へ向かっていったその後も。
ただひたすらに立ち尽くしている。

「…………」

最初に死を目の当たりにし激しい動揺を見せた筈なのに、今では淡々と言葉を紡ぐだけの彼女の声 >>33 がやけに耳に残っていた。
(42) 2021/04/23(Fri) 1:33:15
ハマルとの時間が好きだった。

竪琴の音が好きだった。

囁く。「さようなら、……カウス」

ハマルの頭を撫でたかった。けれど、その権利は自らが捨てた。

>>=4が聞こえている。

ずっとハマルの声を聴いてきた。

聴くことしか出来ない。

その気持ちに返せる言葉を持たない。

【人】 パイ焼き ゲイザー

「ニアさんの部屋で、シトゥラさんとニアさんが。……」

女は二人の関係について殆ど知らない。それぞれほんの少し、仕事のために会話をしたくらいだ。
それでも、遺体がどこにあったかでなんとなくの予想くらいはできる。

「……二人は二人の想いを、貫いたんでしょうか。
………いいですね、素敵ですね」

誰にも聞こえない声量でぽつりと零し続ける。

「………………私も、実を結ぶために……頑張らないと。死ぬわけにはいきません」
(47) 2021/04/23(Fri) 5:24:37

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>48 ラサルハグ

「……ああ、ラサルハグさん」

ふわりとスカートを翻して貴方へ向き直る。

「大丈夫ですよ〜。心配かけてしまったでしょうか。
……親しい間柄と言われると、特に。シトゥラさんもニアさんもアンケートの時に話したくらいでしたから。ラサルハグさんはどうですか?」

女は静かに微笑みながら貴方に問うた。
(53) 2021/04/23(Fri) 10:13:27

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>54 キファ

「キファさんの占いは当たるって身をもって実感していますからね。
実際はどれだけ占いの結果が良くても自分で動かないと何も得られませんが……でも前に進むための心の支えは必要です。吉兆でよかった」

回収したのを確認すると、予め持ってきていたピーチパイを切り分け始めた。
さくさくとした食感とカスタードクリームのまろやかさ、そして桃の甘みと一度に多くの楽しみを得られる一品だ。

「そうですね……好きな人を守るためは勿論ですが、私も会議に出る者として頑張らないとと思って。
……ただ結局私一人じゃまったく見当もつきませんからこうしてキファさんに泣きついてしまったのですけれど」

苦笑いと共に切り分けたパイを乗せた皿を差し出した。そこまではよかったが、「パイに合う紅茶も持ってくればよかったですね」とこぼす。詰めが甘い。
(56) 2021/04/23(Fri) 10:54:08

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>55 ラサルハグ

「落ち込んでいる。……そう、なのかもしれませんね。今自分がどんな気持ちなのか、自分でも把握しきれなくて」

平然としている異常に気付く様子がない。それもその筈、貴方と会話した事なんて聞き取りの時くらいなのだから。

「話ですか。……。では、少しだけ。

ニアさんとシトゥラさんの事ですけど。メレフさんの報告ではニアさんの部屋に二人はいたんですよね。二人は……もし『そういう間柄』だったのだとしたら。無事に想いを交わすことができたのでしょうか。出来たのなら、いいんですけれど……」

この期に及んで女は二人の関係性や恋の行方にばかり目を向けていた。けれど、女にとってはそれがとても大事なものだったのだ。
(58) 2021/04/23(Fri) 11:09:58

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>60 >>61 キファ

「正義。ふふ、そうかもしれませんね。私にもあったのかも……あっ!紅茶、助かります!うふふ、こうしてみるといかにも女子会!って感じがして楽しいですねっ」

席を立つ貴方を嬉しそうに笑いながら見送ったのち──女はその顔から表情を消した。

明らかに水面下で動いていたと分かる痕跡の数々。信用できる者たちにしか話せない事もあるだろう。その為に使われたものかもしれない。
でも、この女は──ここ数日で変化したキファの態度を疑っている。

ゆらりと人影が揺らめく。
表情を、気配を、足音を殺して屑籠に近づく。こうして動くのは慣れている。獣を狩る時に役立てていたし──
好きな人に色目を使う人間たちを殺す事にだって利用してきたのだから。


そうして女は便箋やメモが積まれた手を伸ばす。獣を解体するように、貴方の腹の内を切り開こうとする。
(64) 2021/04/23(Fri) 12:12:20

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>65 ラサルハグ

「成る程。……それなら、いいんです」

女は絶えず物静かな様子を見せていたが、声色だけはほんの僅かに柔らかくなった。

「うふふ、私……恋のお話が好きですよ。
砂糖菓子のような甘いハッピーエンドも酸味の強い果物のような悲しいお話も。

ですが……死が齎す恋が生きて紡がれる生の恋を凌駕することはありません。でも、逆もそう。
恋に貴賤などないのです。展開による優劣などあってはなりません。
恋する人たちは皆美しいと思うんです。他の人から見れば取るに足らない、他の物語の方が美しいと言われるようなものであっても……その人に宿る想いはきっと、混じり気のない本気のものでしょうから」

金色の瞳は痛いほどに真っ直ぐな視線を貴方を真正面からぶつけてそう言い放った。
(69) 2021/04/23(Fri) 12:37:28

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>67 >>68 キファ

行いがばれても女は微動だにしない。声がする方向へゆっくりと振り向く。くす、と小さな笑い声は手にした紙たちが擦れる音に紛れて消えてしまった。

「何って……なんだかキファさん沢山動いてるんだな〜って気になっちゃったものですから。つい」

再び視線を手元へ落とす。

「凄いですね〜、私の知らない情報がこんなに沢山。難しいことは分からないので全ては理解しきれませんが、シータの痕のお話もある。
ね、キファさん──」

【→】
(71) 2021/04/23(Fri) 12:46:12

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>67 >>68 キファ



「どうしてこの情報皆に教えてあげないんですか?」




 
(72) 2021/04/23(Fri) 12:46:59

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>76 キファ

「へえ」

便箋やメモを床に捨てた。もうその紙に興味はない。

「気持ちは分かります。でも、今日の会議のあの態度。あれは一体なんですか?
私から見ても貴方はよく色んな人と話をする為に抜け出していて、水面下でもこうして沢山動こうとして。事件に積極的に関わろうとしていたのに……今日は随分大人しかったですね。
まるで興味をなくしたみたい


軽やかな足取りで貴方の元へ。

「キファさん。本当に教えてくれないんですか?あれだけ恋のお話をしたのに。あれだけ仲良くなれたのに。私たち、友達じゃないですか。ねぇ……だめ?」

甘く囁く。甘く強請る。
顔を寄せながらくすりと笑い、女はするりと貴方の手を取って指を絡める。
傍から見れば花のように可憐な少女たちの戯れのよう。けれど確実に片方の花は、静かに棘を研いでいる。静かに毒を溢れさせている。
(78) 2021/04/23(Fri) 13:25:17

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>77 ラサルハグ

「そうですね。私は『恋』そのものが好きですから。恋物語においては生も死も価値は一緒です」

あまりにも不自然な最後の言葉に眉をひそめる。

「何かついてるって……なんかそのふよふよしたキラキラなら頭についていますが……。
貴方の顔について気になる点はありませんが、唐突に話題を切り替えた点は気になりますよ。私の返事はお気に召しませんでしたか?」

視線は逸らさない。ずっと、ずっとずっと真っ直ぐに貴方を見ている。
(79) 2021/04/23(Fri) 13:38:55
【ソロール】

 微睡むように、周囲の声を聞いていた。

 いくらかの言葉を返したような気もするし、
 いつもみたいに口を噤んでいただけのようでもある。

 少女の瞼は閉じたまま。
 穏やかに、眠るように――
 ……きっと、手を繋ぐ彼の夢を見ていた。

(→)


 ――これは、少女の恋が花開くまでの過程。その一端。
 この夢を覗く不躾なあなたへ、
 ほんの少しだけお披露目しましょう。

 ❀

 初め、少女はかの青年のことが嫌いでした。
 あれも嫌これも嫌、嫌いなものばかりの少女ですが――
 その中でもいっとう、優しい人が嫌いなのです。
 ぽつんと座る、不機嫌な女の子をわざわざ気にかけるような
 優しい人のことが、世界でいちばん嫌いなのです。

 だから、突き放してそれでおしまい。そのつもりでした。
 けれど、そうはならなかった。

 青年が踏み込んだのではありません。
 少女が歩み寄ったのでもありません。

 青年の持つ技術が少女には好都合だった――
 ――ただ、それだけのはじまりです。
 少女は、壊れた弓を持っていた。
 少しばかり薄暗い経緯で手に入れた武器を。


 その日のうちに、青年は約束を守りました。
 弓の修理を請け負った彼は、少女の部屋へ訪れたのです。

(→)


 そこで、ふたりはいくらかの話をしました。
 青年の手は幾度も、少女の頭を撫でました。
 少女がそれを拒まなかったのは、彼がこう言ったからです。

 ――僕、寂しがり屋なんで。人に構うのが趣味なんですよ。
 それだけ。優しさなんかじゃない、これは打算です。


 優しさを厭いながら、焦がれる少女に――
 ……いいえ。優しさに焦がれるあまり厭うことしかできない、
 不器用で意地っ張りな、途方もない寂しがりに。
 その言葉はひどく甘く響きました。

 ❀

 少女は幾人かについたのと同じ嘘を吐きました。
 行方不明になった兄さんの代わりに、ここへ来た。
 犯人に復讐したい。そんなしらじらしい大嘘を。

 ――ああ、でも。
 誰かに言った『事件に関する情報を集めている』。
 これはまるっきり嘘というわけでもありません。
 少女はたしかに集めていました。
 探していました。無意識のうち、求めていました。
 とっても悪い子な自分を見つけてくれる、誰かのことを。
 あの男への痕だって、だから刻んだのです。

 ……話が逸れましたね。
 とにかくその日はそれでおしまいでした。 (→)


 それから、いくらかの時が経って。
 青年は弓の修理のため、ふたたび少女のもとへ訪れました。

 少女がこの部屋で直してくれと頼んだからです。
 目の届かないところへやりたくないと。
 盗品なのだから、当然のことです。
 ――しかし、結局。弓が直されることはありませんでした。

 ❀

 青年は知っていました。少女がとっても悪い――
 『殺したいから殺す』と嘯いてあっさり人の命を奪うような、
 とってもとっても悪い子であることを。

 青年は知りませんでした。
 少女が明るく真っ直ぐなとある冒険者を殺したことを。
 青年と親しかった、ひとりの女性の命を散らしたのが、
 他ならぬ目の前の少女であることを。

 それを少女の口から聞かされた青年は――――。

 ❀

 ……これより先は、ふたりだけの秘密です。
 少女の口から語られることはないでしょう。

 ただ、ひとつ言うのなら。
 少女はようやく出会えたのです。
 餓え焦がれていたものを、手に入れたのです。 (→)


 少女は恋をしています。
 自分を見つけてくれた、愛してくれる――

 シトゥラという青年、ただひとりに。

 ――王子様というには、随分と悪どいひとだけれど。
 悪い子のニアには、お似合いの相手かもしれませんね。

(→)


 夢の続きはもうしばし――

 少女の瞼が持ち上がって薄紫がふたたび露わになり。
 かの青年の唇がまた言葉を紡ぎはじめるその時まで、お預け。

 ……きっと、そう遠いうちではないだろう。

【ソロール:梔子の夢 完】

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>80 ラサルハグ

ふよキラなものを不思議そうに見つめる。魔法とは無縁だったのでその手の類は何もかもが珍しく見えた。

「関心……そうですか?それは恐縮です。

でも、そうですね……遠回しな言い方は苦手です。自慢じゃありませんが、私頭を使う事はどうにも難しくて」

困ったように返答した後、重ねられた質問に目を瞬かせる。

「いますよ。勿論」

それが当たり前だという風に。女は間髪入れずに答える。
(86) 2021/04/23(Fri) 15:46:43

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>83 キファ

「うふふ、成る程……そうだったんですね」

思い人。
キファとサダル。聡明で行動力があって、色んな人と交流のある素敵な二人。二人とは自分も少なからず話をした。好ましい二人だ。

二人が仲睦まじく話をする場面を思い浮かべる。ああ、なんて素敵だろう。幸せそうに微笑み合う二人。ああ、なんて美しい光景だろう。

「本当に……本当に素敵です。流石私が尊敬するキファさん」

その言葉に嘘偽りなどなく。うっとりするように貴方を見つめた。
絡めていた指を掬い上げる。慈しむように一本一本なぞり上げていく。小指、薬指、中指……。

「でもやっぱりダメでしたか。分かりました。それじゃあ──」

【→】
(88) 2021/04/23(Fri) 16:10:03
ゲイザーは、キファの人差し指を折った。
(a34) 2021/04/23(Fri) 16:10:37

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>83 キファ

「──吐くまでずっと聞いちゃいますね」


料理人の両手が貴方の人差し指を持ち上げ──
曲がらない方向へと力を入れ、貴方の指を折る。


張り詰めた緊張の糸ごと火蓋を切る。
これは質疑応答ではない。最早占い師に対する拷問だ。

「貴方がサダルさん……思い人の為に動くように。私も好きな人の為に動きます。
好きな人が殺されるのも嫌ですけど……私、自分が死ぬのも嫌です。だってまだ告白していない。まだこの恋は結ばれていないんです」

片手で折った指を握ったまま、もう片方の手で貴方の手首を強く握る。女の爪が手首に食い込む。動くな、の意思表示。

「事件に興味を無くしたのなら、もう情報を誰に教えても変わりないですよね?私が聞いても問題ないですよね?そう思うでしょう?

この裏切り者。

ああでも、そこまで責めるつもりはないんですよ?だって気持ちは分かります。私も好きな人が一番ですから」
(89) 2021/04/23(Fri) 16:11:19
ゲイザーは、残念そうにしょぼくれた。 >>a38
(a39) 2021/04/23(Fri) 16:12:09

【人】 パイ焼き ゲイザー

>>91 ラサルハグ

星冠デビューを果たしたが、頭巾が邪魔をしたのでなんとも言えない気持ちになった。残念だなあ…。

「それは言えません。うふふ、女の子には秘密にしたいことが沢山あるんです。

……なんて、可愛げのあることを言うつもりはありませんが。
私の恋はどうも世間的に受け入れられないみたいで。ずっと否定的な言葉や視線をもらい続けてきました。今となってはもう気にしていませんけど。

だから簡単に教えられません。無償で与えることかぉできません。私は等価交換に安心を感じます。だから……そうですね……、ラサルハグさんの恋に関するお話とか、或いは別の情報があれば考えますよ」

この女の愛は歪んでいる。

この女は恋人の片割れが死んでしまったとしても後を追うような健気な人間ではない。

それどころか例え返り討ちに遭い死んだとしても。なお恨み、憎み、生者を呪わんと地の底から生者に向けて煽り、叫び続けるだろう。この女は周囲を傷つける事に
信頼し始めたたった一人を除き
何の躊躇いも感じない災厄だ。
(92) 2021/04/23(Fri) 16:57:10
 少女はパチリと瞼を開く。
 薄紫が光を宿す。

 ――そこは街外れの深い森。
 鬱蒼と茂った木々の中、伸びる道の途中に立っていた。

 目を瞬かせ、首を傾げる。
 高く二つに結った黒髪がさらりと揺れて頬を掠める。
 ぱちりと瞬きをして、視線を下ろす。
 ――外したはずの上着も、タイツも、
 首元のリボンもきちんと身につけられている。
 少女はこれまで通りの姿でそこにある。

 ただひとつ、違うのは。白いブラウスの襟から覗く、
 細い首に刻まれたシータの痕――の、紛い物。

 少女は顔を上げ、道の続く正面を、
 霧に包まれた背後を、…………誰の姿もない、傍らを見て。

 あてどなく、歩みはじめた。

「――――しとぅら、」

 

歩き出した。

恋をしている。



 真っ直ぐ前を見て歩いていた少女は、進む先から声をかけられ。
 、、、、、、、、、、、、
 それでようやく気がついた、という顔をして、
 その人物の姿を目に映す。
 かつてその手で命を摘み取った、一番槍だった彼女を。

「ごきげんよう。
 ――ねえ、あのひとがどこにいるのか、知らない?」

 顔色ひとつ変わらない、淡々とした問い。
 『あのひと』が誰を示すのか、考えなくたって分かるはずだ。