【人】 終焉の獣 リヴァイ(互いを繋ぎとめているのは 酷く残酷な約束でしかない筈で、 それこそ自身への気休めにしかならないのに。 自分用にと作った最後の毒が手元にない事実に、 代わりのように短剣が懐に収まっている現実に、 酷く安堵感を覚えているのは何故だろう。 ……のたれ死ぬ期日が伸びただけなのに 狂気に呑まれないと、折れまいと抗う心に 覚えていたのは苛立ちだ、 無駄なことを…… と。) (38) 2020/12/02(Wed) 16:14:08 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[幸福な夢から醒め行くように 意識が戻るときに広がる世界はいつも無常だ。 覚えのない咆哮が独り歩きした後は、生の気配が一つもしない。] [無造作に転がる人間だったものたちは 大概が子供が残酷に壊した玩具のように、四方八方に部位を散乱させている。最早原型を取り戻せるかも不安な有様は、常人ならば吐き気どころでは収まらなかったかも知れない。 呆然と見つめた視界に映るは 彼等の首から、四肢から、中身から噴き出した一面の赤。 その余りの鮮やかさに驚きを隠すことができなかった。 どうやら彼等には自分と同じ色の血が流れていたらしい。] [自分も彼等も同じく醜いものなのだ、とここで漸く理解した。] (39) 2020/12/02(Wed) 16:14:14 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[追憶したのは、捨て去った陽だまりの日々。 柔らかく、穏やかな時間に絆され乍ら 無知故に無限に受け渡される抱擁のような優しさに包み込まれた戻らぬ記憶は脳内で黒く塗りつぶされていくばかり。 思い返す資格さえ与える事すら許されない位に 己の人生を歩んだ足は後ろを振り向く事すら戻れない場所まで来てしまっていた。 死臭が漂う地獄のような空間の中でどんなに心が悲鳴を上げようと、肝心なところで自我は狂ってはくれなかった。 寧ろ現状を享受し、運命を受け入れるべきであるのだと益々自分の首を絞めていく。 ……最早何が自分の心を抉っているのか、一体どうしてこんなに苦痛に苦しんでいるのかさえも、わからないままでいる。 自分の知らないリヴァイの皮を被った誰かが糸繰り操っているようだった。] (見下ろした掌がいつまでも小刻みに震えているものだから 寒いという感覚だけをやっと理解することができた。 ……寒いのは、嫌いだ。温もりを奪ってしまうから。 叶わないととうに理解している癖に求めてしまうのは ないものねだりの延長線に似たようなものだろうか。) (40) 2020/12/02(Wed) 16:14:19 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[世界は誰にでも平等に朝の訪れを知らせるものだから、 血濡れた満月が過ぎ去った後は、冷たい朝日が窓辺に差した。 ほのかな光が溢れた空間の中でよろよろと歩を進めれば 屍の山の中に倒れ伏した、腕の無い骸の一つを抱きしめる。 逞しさの中に友愛の籠った翡翠は最早開くことはなく 半開きで固まりかけの赤を流す口は言葉を紡がない。 愛しい日々の一部分だった元相棒は生命を悉く食い尽くされて 死を象徴する冷たさだけが、服越しに自身を冷やしていく。] [不意に走った脇腹の疼きに顔を歪め、微かに呻く。 鱗で覆われきらなかった柔らかなそこを抉った銃弾は 化け物の皮を脱ぎ去っても尚、白い肌を突き破り赤く染めていた。 意識が遠のく直前に聞いた彼の言葉を思い出す。 “……噫、彼は終わらせられなかったのか。” 行き着いた結果に、どうしようもなく心が沈んだ。 幼き頃から重ねた罪が、耐え切れない重荷となって残った自我を押しつぶす。] (41) 2020/12/02(Wed) 16:14:26 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[思い出の一部を自ら壊し、形成された世界が破壊されようと、やっぱり涙は零れなかった。 抱きしめていたものをそっと離して、温度の無い頬面を優しくひと撫でする。 季節も後半に差し掛かり、朝冷えで凍えそうな石畳の廊下を裸足で歩けば客室へ戻り、着ていた服を纏い直す。 ひとではない獣になる際に、纏っていたものは破れて犠牲になっていたから。 誰かも分らぬ血のついた掌を清めもしない儘窓を開けば、窓枠に赤がこびりつく。毛程も気にせず───まるで意識は遠くへと飛んでしまったかのような目つきで白い太陽を眺めていた。] (……何もかも、終わってしまった。 生きる理由を果たしてしまえば、 残るものなどひとつも無かった。 何時かに言われた言葉の通りだ。 私はもう、どこにもいけない存在なんだろう。) (42) 2020/12/02(Wed) 16:14:31 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ(後悔なんてしていない。 これは私が決めた道。これは私が抱えた決心。 無限に分れた道の中から敢えて修羅を選択し、 望んで自分を追い込んだ──全部わかり切っていたこと。 なのにどうして身体が震えてしまうのだろう。 自分が変わってしまうような感覚に恐怖を覚えるのだろう。 凍えそうな寒さしか感じない世界は嫌だと泣き叫ぶのだろう。 ……狂い果てて消えてしまえば、 それさえも感じなくなってしまうのだろうか。 血と本能に飢えた獣になってしまえば─────いっそ。) (43) 2020/12/02(Wed) 16:14:36 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[そうなっていた筈だったのだ。 花の散り際、握りしめられた 約束 が無ければ、もっと早くに。歩く屍のように虚空を見つめる彼女の元に いつかの渡り鴉がやってくるのはきっと─── 偶然なんかじゃないのだろうから。**] (44) 2020/12/02(Wed) 16:14:39 |