人狼物語 三日月国


225 秀才ガリレオと歳星の姫

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   シトゥラに困ったような笑みで答えると
   エウロパを医務室のベッドに寝かせる。

   彼女の置かれている状況は
   わざわざ言わずともシトゥラなら分かるはずだ。


    「今回の暴走はだいぶ酷いね。
     一体何が原因なのか…わからないな。」


   ここまで事態が悪化することも珍しい。
   まさか自分が大きく起因しているなどと
   その程度を計り知るには至らず

   薬を受け取りながら表情を曇らせた。






   「ボクは………

       彼女の傍にいるには力不足なんだと思う。」





   受け取った薬をエウロパに与えると
   シトゥラの方へと向き直る。


    「エウロパからも聞いたことがあるかな。
     昔、ボクが彼女の前から消えたって話。」


   天才エウロパには話せない。
   かつて犯した過ちと、決して語らなかった心の奥。





   「ボクは彼女の才能に嫉妬したんだ。

    自分が一番だって信じて疑わなくて
    彼女の成功を喜んであげられなかった。」






           その結果が、あの日の氷雪。




    「好きな女の子泣かせておいて

        王子様ガリレオなんて名乗れないでしょ。」






    ユスティはふらふらと歩き出す。
    責任を取ると言った以上、
    エウロパから逃げることはない。

    しかし今この手を、
    魔力が枯渇し、ひび割れた手を
    エウロパに見せるわけにはいかない。





    「少し屋上で治療してくるよ。
     ここでキミの治療を受けてしまったら

        エウロパに気づかれて
        彼女はきっと自分を責めてしまうから。」





   シトゥラに断りを入れたのなら

      ユスティは医務室を抜け出そうとするだろう。*




***


   薬学だけは常に成績トップを取り続けている。
   シトゥラはそんな生徒だった。
   周りからは頭がいいと言われることは多くとも
   本人は苦笑いしては

   
本物ユスティには勝てないよ、残念なことにね。」


   と受け流していた。
   彼ほど正確な魔法の扱いは自分には出来ない。
   シトゥラはそれが分かっているから、
   救出は彼に任せることにして
   自分の得意な分野で友人を助けたかったのだ。

  



   「からかったつもりはないさ。
    姫を助けられるのは君しかいなかったんだから。

    彼女にとって特別な存在なら
    王子様と呼んで差し支えないんじゃない?」

  


   
   ベッドに寝かされたエウロパを見れば
   状況は説明されずとも分かる。
   いくら彼女が魔法の制御が苦手とは言っても
   無意味に嵐を呼び出すような愚か者じゃないのは
   よく知っているつもりだった。
   酷く心を乱されなければ、 
   あれほどの災害は起きなかったはず。

 



   「
………原因なら、推測できるかもしれない。

    ユスティ、君に一つ聞きたいことがあってね。

    君は昼休みにどこにいた?
    実はさ、昼休みに君らしき人影を見かけたんだ。
    君は休み時間も惜しみなく鍛錬に当ててるから
    ちょっと不思議に思って引っかかってた。」

  




   「……ま、その件はこっちで調べておくよ。」


  



   
悪意を向けた犯人には相応の報いを。

   それにユスティを巻き込みたくはないから
   原因の話を切り上げて。

 



   薬を与えられたエウロパの容態は
   医務室に来た直後より多少安定したように見える。
   勿論、まだ面会謝絶だと言われても
   おかしくない状況ではあるが。 

   彼女からユスティへと視線を戻して
   シトゥラは話の続きを促す。

  



   「聞いたことあるよ。
    入学前は仲良くしてたのに
    ある日を境に、会えなくなった。
  
    きっと私が悪いんだ、って。
    寂しそうにしてたよ、エウロパは。」

  



   そして語られるのは
   秀才の心の奥、かつて何を思っていたのか。

   魔法を極めたいと思えば思うほど
   そこには才能という壁が立ちはだかる。
   どれほど頑張っても、生まれ持った資質からは
   逃れることが出来ず、苦悩する。


   エウロパは類まれなる魔力の持ち主。
   シトゥラだって
   羨ましいと思わなかったとは言わない。
   彼女を目にすれば誰だってそう思う。
   理論を無視した力業で魔法を成功させる天才。
   技を覚えた彼女はきっとすごい魔法使いになれる。


  



   「それでも、星の元に行きたかった。違う?
    じゃなきゃ、今でも努力を続けてないでしょ。」


  



   「危険を冒して彼女を助けた君が力不足なら
    そこに行くことさえかなわなかった私は
    友人失格だと思うよ。


    それに、大事なのは力があるかどうかじゃない。
    君がそれを分からないほど
    馬鹿だとは思ってないけどさ。」


  



   
「分からないとは言わせないよ。

    
        
君は彼女の王子様ガリレオなんだから。」


  



   ユスティが逃げるとは思っていないが
   行き先だけは聞いておきたかったのと
   彼の状態を確かめておきたくて。
   シトゥラは手を掴んで引き止める。

   
目に映るのは、彼女を助けた代償だった。
   

  



   「今から一時間以内になんとかしておいて。
    
    それ以上はお姫様を大人しく
    寝かせておける自信がないからね。」


   医務室の薬棚からユスティの症状を緩和する
   薬を拝借して手渡しながら、
   シトゥラは無茶な要求をする。

   薬の方は彼に合わせて調合した物ではないし
   気休めくらいにしかならないかもしれないけれど。
   別に完治させなくとも
   彼女の目に触れないような方法はあるはずだから。


  



   屋上へ向かう彼を見送ってしばらくしてから
   シトゥラはエウロパへと声をかける。


   「……ということで。
    どこまで聞いてたか知らないけど
    一時間はここで寝ててもらうから。
 

    本当は一週間は寝てなきゃいけないような
    酷い状態だってことを忘れないように。」


   



   途中から起きて話を聞いてたのが
   シトゥラにはお見通しだったみたいで
   しっかり釘を刺されちゃった。
   本当はすぐにでもユスティの元へ行きたい。
   会って、話がしたいのに。

   好きな女の子、って聞こえたの、
   聞き間違いじゃないよね、とか
   どうしてきてくれたのか、とか。


   話したいことは沢山あるのに
   身体を起こすことさえ今は出来なくて。

 



   
「一時間たったら起こしてくれるの?」



   傍に居てくれる友達に甘えるように聞けば 
   シトゥラは優しく笑ってくれた。
   

   「応急処置が適切だったし
    君に作った薬が上手く働いてくれれば
    起きる頃には多少は動けるようになってるよ。
    魔法は全く使えないだろうけど。

    だから今はゆっくり休んで。」



   その言葉を聞いて、
   私は暫くの間、体を休めるために目を閉じた。*

 



   一時間と少し経った頃。
   目を覚ました私は、医務室を抜け出して
   屋上へと向かう。

   身体はまだ重い。
   本調子とはいかないし、
   シトゥラの言葉通り魔法は全く使えない。

   
それでも、私は君に会いたくて。


 



   君の姿を見つけて、名前を呼ぶと。
   ふらふらと、君の方へと歩いていって。

   
大好きな人に抱きつくんだ。

   色々聞きたくて来たはずなのに、なんでかな。
   君の姿を見たら言葉が出なくなっちゃった。


  



   「質問の意図がわからないな。
    ボクはお察しの通り一人で屋上にいたよ。

    なにかの見間違い…ってわけではなさそうだね。」