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【人】 二年生 田邊 夕鶴[さっきまで、あんな顔で笑っていたのに。 また、私の知らない顔を見せて、 そんなのずるい。 もっともっと、君の事知りたいと思っているのに。 私の方だって、逸らせるわけなくて。 ――言葉は無かったけど。そんな、私の答え。 でも振り向いて、近付いて、 二人の間に花火さえ映り込む隙間がなくなったら、 ……ああもう、これ以上見ていられない!!! ] (41) 2021/07/27(Tue) 23:17:05 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴― ドクダミの花の頃 ― ……やっぱり、いらないよね? そうだよね…… [とほ、と肩を落とすのは、もう何度目の事だったか。 教室で、廊下で、あるいは別の場所で。 人と話す機会があったなら、隙を見てその話を。 私は、とある物の引き取り手を探していた。] (129) 2021/07/28(Wed) 23:11:34 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[祖父母の家の、ご近所さん。 私の祖母とは、夕食のおかずをお裾分けし合う仲で。 祖父母の家に通う私の顔も知られており、 会えば挨拶をして、軽く世間話する相手。 ……そんなお家の庭で、 ドクダミが爆発的に繁殖してしまったと 嘆く声を聞いたのが、数日前の事。 それが、私とドクダミの全面戦争の始まりだった。 腰痛で撤退して行く兵士達に後を任され、 私は、庭を埋め尽くすドクダミを抜いては抜いては抜いて…… それは大変だったけれども、なんとか勝利を収めた私は。 帰り際になぜか、ビニール袋いっぱいに詰め込まれた 大量のドクダミを渡されていた。] (130) 2021/07/28(Wed) 23:12:32 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[…………???? え、草、どうしろと。 そう思ってしまった私は浅はかだったようで。 そのまま困惑しきりで祖父母の家に戻ったら、 ドクダミを受け取った祖母はニコニコと笑い、 お茶にしたりなんだりと有効活用していた。 ただの草じゃなかった!?と驚いた私。 しかしさすがに量が多かったため、 祖父母宅では消費しきれないのが目に見えており。 かと言って、独特のにおいのあるそれを 引き取ってくれる人も限られていて。 かくして、なぜか私が、 学校でドクダミの引き取り先を募集するという ちょっと不可思議な事態に陥っていたのだった。] (131) 2021/07/28(Wed) 23:13:19 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[ところで、とある女子生徒の話。 彼女にとっての私はおそらく、 『その他大勢』の中にいるような、 そんな存在だったのではないかと思う。 同じ学年の彼女の、少し変わった言動。>>0:13 それを見た私の反応は、他と似たようなもので。>>0:185 例え近くで話を聞く事があっても、 どう反応して良いものかわからずに、 少し困って首を傾げ「そうなの?」と 控えめに尋ねる程度の。 私にとってはそれ以上、近付く事の無い相手だった。 だけどそんな中でも、彼女の噂は、私の耳にも入って来て。 それで、ドクダミを配り歩く私は思い出したのだ。 有名な話。彼女のお茶の事。>>0:23] (132) 2021/07/28(Wed) 23:14:26 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴鳳さん。あの、少しいいかな? もしよかったらなんだけど―― ドクダミとか、いらない…………? [お茶にもできるドクダミを、 鳳さんなら受け取ってくれるんじゃないか?と思って。 それはもしかしたら、 失礼な提案なのでは………… と、どこかで思って、 おそるおそる声を掛けた私に。 あの時、鳳さんは何と言ったんだっけ。] (133) 2021/07/28(Wed) 23:15:11 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[その後。 一度抜いたくらいじゃへこたれなかったドクダミと、 第二・第三次大戦なども勃発し。 鳳さんがドクダミを受け取っていてくれたなら、 再び声を掛けたりもしただろう。 そのうち、彼女の花壇の話なども 聞けるようになるのなら。>>0:22 私は、祖父母やご近所さんの庭で、 手伝いをする時の悩みなんかを相談したりして。 「この間、花についた害虫を 割り箸で取っていたんだけど――」 なんて。 花の女子高生が集まって、花の話をしているというのに、 微塵も色気のない雰囲気に なってしまったかもしれないけれど。 でも私は、何も構える必要なんかなくて。 手をあげて、「鳳さん!」と気軽に呼びかけ、 笑顔で話す事のできる、あなたはそんな相手なのだと。 いつか知るような機会は、私に訪れただろうか?]* (134) 2021/07/28(Wed) 23:16:31 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[書道パフォーマンスは、 大きな紙に複数人で同時に向かい、 大きな筆とバケツ入りの墨を使って、 一気に書き上げて行くというもの。 音楽に合わせた動きをするので、 春>>0:231と秋の二回、披露の際には、 普段はゆるい書道部も、気合いを入れて練習していた。] ……お疲れ様でした! [さて、そんな演技も終了し、 集まった部員達は一時解散。 私はこの後、部活動展示の受け付けに回る予定だった。 そもそもこのパフォーマンスは、 そちらの宣伝、集客も兼ねていて。 今日の演技の、出来はそこそこだったものの、 客席の方は97%くらいの埋まり具合。 展示の方にも、人が来てくれればいいのだけれど…… と、考えながら、私は部室の方に向かった。] (155) 2021/07/29(Thu) 2:15:40 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴はい、こちら、書道部の展示です。 どうぞ、ご自由にご覧下さい。 [と、このような感じで。 私は部室の入り口で、袴姿はそのままにたすきを解いて、 見に来てくれた人をご案内。 そんなに声を掛けるような場面もないので、 わりと、こう、暇な仕事ではあるけれど、 一応、人の動きなどチェックはしていた。 展示内容は、手本を元に書いた臨書から、 それぞれが好きに選んだ文字の作品まで、様々だ。 その辺りは、普段のゆるさを反映しているのだけれど、 その代わり台紙に拘ってみたり、水墨画を添えたりと、 書道にあまり興味のない人にも、 目で楽しめるような展示になるよう工夫している。 今年は少し部員が減ってしまったので、 過去の作品も一部展示していて。 私も複数枚作品を出しているのだけれど。 ……ちらりと、そのうちの一枚、 一年生の時の作品を見る。 飛翔する鶴の絵が添えられた、その一枚。] (157) 2021/07/29(Thu) 2:20:26 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[そう、去年の夏、落川先生に教えて貰ったあれだ。>>0:287 その後練習して、一番良い出来のものを選んだのだけれど…… 部内での評価は35点だった。 (※鶴は心の目で見てね) 先生、去年は、展示見にきてくれたんだっけ? 感想は……どうだったかな。 もし今年覗きに来てくれるようなら、 私はまた、しっかりお礼を言うつもり。 ちなみに、肝心の書の方は、 飛ぶ鶴に合わせて書くものを決めるという 本末転倒?な事になっていたけれど。 その内容に、深い意味は無いので。 ]無いったら無いので、何かあっても偶然なので。 そもそも何か勘付きそうな人は、 多分これ、読めないんじゃないかと思っている。(勝手に) (158) 2021/07/29(Thu) 2:24:22 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[ところで、そもそも私が、 どうして書道をやろうと思ったかというと。 高校に入って、バレーを続ける気はなくて。 じゃあ何か部活をやるなら、何がいいかなと考えた時、 祖父の趣味の事を思い出して。 そう、書道は元々祖父の趣味だったのである。 私は、小さい頃から祖父の字が好きだった。 自慢ではないが、田邊 夕鶴という、 画数の差が物凄い私の名前を、 世界で一番綺麗に書けるのは、祖父だと思っている。 その祖父曰く。書に写るのは人の心であると。 現代の文字は、スマホの画面をフリックすれば、 どんな画数の字だってあっと言う間に完成する。 それを思うと、自分で書く文字の方が、 効率という点では圧倒的に劣るのだろうけれど。 でも、線の一本一本。 その勢いや、はね、はらいの伸び。 その全て、時間をかけて綴るからこそ、 書き手の想いが自然、そこに滲み出るのだと。 その祖父の考えが、私は好きで。 それから、ただの文字が特別なものに見えて。 だから私は、高校では書道部を選んだ。] (159) 2021/07/29(Thu) 2:27:20 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[そうして選んだ毎日は楽しい。 放課後の墨のにおいも、 こうして人の書を眺めるのも、 そして誰かに文字を綴るのも、好きだから。 もし、落川先生が展示を見に来てくれて、 そういう感じの話をする事ができたなら。>>0:166 私は目を輝かせて、 祖父の話や、自分の思いについても、 ぺらぺらと喋ってしまったかもしれない。 ……それから、先生に向かって熱く語りすぎてしまった事。 恥ずかしくなって、すみません……と少し赤面し、 小さくならない図体をどうにか縮こめようと、 もぞもぞしていたかも。 とにかく、私の文化祭は、こんな感じで過ぎて行った。]* (160) 2021/07/29(Thu) 2:29:17 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴― 回想:隣の君へ綴る文字 ― [私が、そんな思いを持って書に向かうようになったのは、 高校に入ってからの事だから。>>159 勿論その事を、朱鷺也が知る事は無かったのだろう。 少し、記憶を遡って。 私達が、隣の席だった頃の話。 隣同士交換で、プリントや何かを 採点し合うような事、時々あったと思う。 そんな時、私ね。 君は知らないだろうけれど。 君が私を見なくなった分、 他の人と同じように、笑って話をしてくれなくなった分。 君の字の中に、何か、隠れていないかなって。 そんな気持ちでいつも、君の字を見つめてた。 ……授業の答案の中に、そんなのあるわけないのにね。 反対に、君には。 その、……正直、そこまで成績良くないでしょ?>>1:-52 時々大丈夫かなって、心配になる事もあって。 そっけない顔は保ちつつ、私は丸付けだけじゃなく、 時間の許す限り、正しい回答とか書き込んだ。 誰にでもそうしてますって顔でね。お節介だったかな。] (161) 2021/07/29(Thu) 3:06:08 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[それからね。そういう時。 採点者の名前の、記入欄があったら。 君が家に持ち帰るはずのプリントに、 いつもよりも丁寧に時間を掛けて、 私は自分の名前を書き込んだ。 君には、ただの文字でしか無かったかもしれないけれど。 これはきっと、君の知らない、ちょっとした私の秘密。]** (162) 2021/07/29(Thu) 3:07:17 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴― 夏・お祭りの後の話 ― [話は少し戻り。 夏祭りのあの日、浮かれた気持ちで家に帰った私は、 それはもうふわふわと浮かれていたので、 そういえば、お手伝いに行った時の願い事>>1:190 あれも、叶っちゃうんじゃないの? だって、ほら、うまく言葉にならなかった願いの方は 予想もできないくらい綺麗に、はなひらいてくれたのだし。 そんな事を考えて、ニコニコと弟に話しかけたら 「何、ウザいんだけど」 撃沈した。 はなひらの神様!……調子に乗ってすみませんでした。 でも、お祭りの帰りにちゃんと引き取りに行った、 堂本青果店のキュウリはおいしそうに食べてくれたから それで良しとする。食べ物だけが私達を繋いでくれる。 堂本先輩、ありがとう。] (210) 2021/07/29(Thu) 19:41:08 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[なお、その時、先輩は忙しそうで、屋台にはいなかった? ……とにかく私は直接話せなかった、と思うので。 対応してくれたのはおじさんか牡丹さんか、 受け取りの時に少し話をして。 私が青果店に行った時、聞き逃した言葉。>>1:305 多分、おじさん達には聞こえていたんじゃないかな。 それについて、私がもし何か聞く事ができたなら、 私はこの次青果店に行って、堂本先輩と会った時には 「明菜ちゃん」と呼んでみようかなって。 それはそれで、今更少し気恥ずかしいけれど、 明菜ちゃんを寂しくさせておく方が、私は嫌だから。 やっぱり未だに、お姉ちゃんには弱いので。 袋に書かれた「ゆづるちゃん」の字、 嬉しくて、帰りに撫ぜた。 ] (211) 2021/07/29(Thu) 19:43:09 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[余談。 弟は数年後に身長が伸び彼女が出来て 無事私とも仲良くしてくれるようになりました。 はなひらの神様!!ありがとうございました…… と、私は後日しっかりお参りに行った。 ちなみに弟が私に冷たくなった原因。 兄弟で一番、私の背が高かったとか、 兄弟で一番、貰ったバレンタインチョコの数が多かったとか、 色々、複雑な理由……?があったみたいだけれど。 どうやら止めを刺したのは、私が中三の時。 弟が憧れの先輩に玉砕した、直後のバレンタイン。 その先輩からのチョコが、 私の貰ったチョコの中に紛れていたそうで(兄に聞いた) 義理なのに。私は悪くないと思う…… でも、終わりよければ全てよし。 ちなみに弟の身長は、私を抜いた。よかったね。]* (212) 2021/07/29(Thu) 19:45:32 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴― 夏・初めての恋人の事 ― [祭りの日の夜、私はふわふわした気分のまま眠りに就いた。 「今日はありがとう。おやすみ」なんて、 寝る前にわざわざ、朱鷺也にメッセージを送ったりして。 そんな感じだったのに。一夜明けると、] ……! ……!? …………!!! [昨夜の自分を思い出して、 私は、朝から顔を覆って転がる羽目になった。 どうしてだろう。 夜はあんなに、幸せな気分でいっぱいだったのに。 昨日の自分の行い、夕方からの事も含め、 日の高い今になって思い返すと、あまりにも恥ずかしい。] (213) 2021/07/29(Thu) 19:46:41 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[だからと言って、前言を撤回する気は勿論ないので。 学校で朱鷺也に会えば、普通に……普通……? 少なくとも、フレンドリーに声を掛けるのだけれど。 掛けた、つもり。] お、お、おはよう朱鷺也。 あの今日も良い天気だね。それじゃ。 [……今までの態度に比べれば、 まだ親しげだった、はずなので。 多少の挙動不審や、どうしても視線が泳ぐのは、 もう少しの間見逃して欲しかった。 駄目かな? 今の私達には、二人の時間がたくさんあるわけで。 普通に話せるようになるまでに、 今度は、そう長い時間も掛からないから。] (214) 2021/07/29(Thu) 19:47:25 |
【人】 二年生 田邊 夕鶴[ちなみに。 私、お付き合いをするのは初めてなので。 恋人って具体的に、何をどうして どんな風に過ごせばいいのか、わからなくて。 普通に話せるようになったらなったで、 私の方からは、特別仲の良い友達くらいの態度で…… なんというか。ぼんやりした交際期間?のような、 そんな時期が私にもありました。と思う。 あくまで私の方は、の話だけれど。 (お祭りの夜の大胆さはね) (きっと、今まで積もりに積もったものが) (花火みたいに、弾けたせいで) というかね。 多分、普通に話せるようになった事だけで、 しばらくの間、私は胸がいっぱいだった。]* (215) 2021/07/29(Thu) 19:49:15 |
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