113 【身内】頽廃のヨルムガンド【R18G】
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「ゴミの始末をしてくれたから、〈骸狩り〉はもう、お払い箱……?」
「そろそろ廃業……なんてことにはならないのでしょうね」
スカリオーネが戻ってきたのを見て、「噂をすれば」と呟いた。
「ご苦労様ね、〈骸狩り〉……今日も徒骨折りだったのかしら?」
「……政府の人間があなたを労いたいみたい。
臭い泥は落としていったほうが賢明でしょうね、きっと」
| 外から戻る。御布令を目にする。 ―――また、よく知る名が刻まれている。
あと何度。 湧いた思考を振り払い、視線を外して酒場の中へ。 いつもと同じように。日常を送るように。 (1) 2021/12/15(Wed) 21:35:22 |
姿を表さないまま椅子を蹴飛ばしそうになるのを抑えた。
「そう。
山の頂にたどり着く前にあなたの身体が音を上げなければいいわね。
今のうちにやめておいたほうがいいんじゃない、煙遊びは」
「……あなたなら、例え死んだとしても登り続けそうね」
それを成し遂げるまで〈骸狩り〉の仕事は終わらないのだろう。
今まで数多の生死を見てきた術師は、どこか憐れむように口にした。
この類の霊魂が逝き着く先は、多くの場合は泥の中であるから。
〈骸狩り〉が狩られる骸に……とは口にはしなかった。
灯屋
「……レイ」
死霊術師の彼女が、目を背けるように酒場に入ってきたあなたに。
湿気た表情をしたあなたに、無遠慮に声を掛けた。いつも通り。
「……墓所に行きたいのだけれど、今はどうなってるの?」
| 「……もしもの時は私が送りますよ」
口にされなかった言葉に、ひとつ呟く。 守るべき場所が無くなろうと、静かな眠りに送り出す事はまだできる。 (4) 2021/12/15(Wed) 22:20:29 |
| >>+4 ペトルーシャ 貴女の言葉にそちらを向く。 ……そういえばあれ以来あちらへは足を運んでいないのだったか。 用が無ければ冒険者であろうとそう行く場所ではない。それこそ酔狂な灯屋や埃運びぐらいではないだろうか? ならば、面影を失ったあの場所は知らなくても無理はない。 「すっかり 大蛇に飲まれました。 今は下層市民達が住んでいますよ。墓場だったなんてその内忘れられるんじゃないですかね?」 彼の墓地はこの街ができた頃からある、アーサヘイムに行けぬ者達の終着地点だった。埋葬されるのは下層市民ばかり。 ―――そんな場所を街の中に収めきれなくなった下層市民の住処にしようなんて。呆れてしまうような案がよく通ったものだ。 「我々でも入れる一番近い墓地は、あちらの丘の方にある所でしょうか。 ほら、<黄金の海>に向かう船を見送れる丘の上の」 (6) 2021/12/15(Wed) 22:40:26 |
| 「スカリオーネの場合、自分の足で自分の好きな世界にたどり着けそうですがね。
……うーん。死んだ後も元気に好き放題してそうですねぇ」
酒とツマミのお供えは欠かせなさそうだ。 (8) 2021/12/15(Wed) 22:49:04 |
とても時間をかけて食べた皿をテーブルへと投げる。
カランと鳴ったそこにあるのは空席とシチュー皿だ。
やっぱり透明な男はそこにいる。顔を見せてはくれないが。
「辛気臭い話をどうしてあなた達は楽しそうにお話するんですか、それが職業病ってやつなんですかねえ」
「綺麗にするのは何処の……ああ、オーウェン。
お土産は気に入ってくれましたか」
声が小さい。
| 「おや。これは失礼。 ……貴方が言うと本当にそうなりそうですね。 いやはや、心強いやらおっかないやら」
普段よりするすると言葉が回る。 珍しく酒まで頼む始末だ。 (10) 2021/12/15(Wed) 23:06:36 |
ガーベラの花を、花瓶に挿しました。造花ですけれど。
──曰く。
フランドル・スキアーは、折れる事ができない。
切掛一つで忽ちに自らの命を奪う首輪を着けられても。
頭が割れるかと思うほどに思い切り殴り付けられても。
視界がぐらつき崩折れかけた所を強かに蹴り飛ばされても。
前後不覚の中、身体のあちこちが床や壁に叩き付けられても。
その背や腹や手足を骨が軋むほどに踏み躙られても。
皮膚にあかあかと灼けた鉄を押し付けられても。
悪態を吐き続けた末に毒を飲まされ喉を焼かれても。
或いは胸の悪くなるような幻覚を見せられ続けても。
フランドル・スキアーは、折れる事ができない。
フランドル・スキアーは、折れる事ができない。
これはきっと、折れないのではなく、折れる事ができない。
縋る先、生きるよすがのある限り、心折れる事などできやしない。
縋る希望は不確かで、けれど諦める事は誰よりも自分が許さない。
そんな"どっち付かず"の状態では。
最初から、最後まで。
自ら望むものは、剣を捧げる先は、望む居場所はただ一つだけ。
生かすも殺すも、自ら定める事などできやしない。
自分の意思では、生きる事も、死ぬ事もままならない。
むかしむかし、鳥と獣の戦争があった際に。
コウモリは、獣の味方をしていました。
しかし、鳥に襲われて捕まってしまったコウモリは
「私は翼が有るので、獣ではなく鳥なのです」
と弁明しました。コウモリは鳥の軍勢に寝返りました。
やがて戦争が終わり、鳥と獣は和解しました。
しかし、双方にいい顔をしたコウモリは
鳥からも獣からも嫌われて追われることとなり、
鳥が活動する昼間も、獣が活動する夜中も活動することが出来ず、
その中間の夕暮れ時しか外を活動できなくなったということです。
これは寓話的な末路であり、そして。
どっち付かず、何処にも属さないという事は。
何処にも味方が居ないという事。
自由である事の、そのツケを払う時が、今来ただけだ。
──御布令に名が載った翌日の事。
役者騙りは、そこかしこに乱暴狼藉の名残を残したまま。
つまりは随分と草臥れた様子で酒場に現れて。
「『人生は歩き回る影法師、哀れな役者だ──』」
いつものように、台本を諳んじようとして。
けほ、と空咳を一つ。
「……役者は廃業だ。
今日び、わざわざ演じなくたって悲劇か喜劇がやってくる。
ずけずけと、独りでに街は笑顔を取り戻す。
予定外ではあれど、"怪盗役"も演じ終えた事だしな…」
今日もこの役者騙りは丸腰も丸腰だ。
ふらりと適当な席に着き、テーブルに両肘を預けて。
喉が痛い、だとかぼやいたのち。
「ノアベルト。
張り紙と共に連れ浚われ消える事になったのは、
俺ではなく、あんたの方だったな」
未だ姿の見えない誰かに、一言だけ。
この陰は、未だ変わらずここに在る。
「──ペトルーシャ。
"打ち捨てられた灯台の裏、鼠どもの通り道"。
お望みのものが二つ、そこにあるだろうさ…」
その後に死霊術師の姿を認めれば、もう一つだけ。
気怠げに、簡潔に、確かな"取引"の履行を告げた。
「契約は満了だ。
また何処ぞへ失せない内に回収する事だな…」
「……アンゼリカ嬢、元気ですか?
先生は幻聴として生きていますよ」
「すみませんね、授業もできなくて。このクソッタレな首輪がついていると首をカッ切りたくなるほどイライラしてしまっていつもの顔でいられないんですよ。今なら反乱軍だろうが政府だろうが全部ぶち壊せる気持ちです、こんなふうになってはいけませんよ」
比較的近くから聞こえてきた。
忙しそうだがここに出てこれる体調にはなったのだろう。
ローブで目立ちませんが、他の者と同じように首輪をつけています。
差し出されたレモネード。そしてスプーン。
グローブをつけた指で器用にスプーンを回し、
一瞬その匙はあなた達の視界から消える。
すると男は、エアハートの顔面にスプーン投げつけ、
コップ倒し、中身を全てぶちまけてテーブルを汚した。
「手が滑りました。すみませんね、エアハート」
布巾を汚れるのがわかっていたかのように取り出せば
テーブルには勝手に動く布と吸い込まれていく液体。
ついでに先程よりもはっきりした男の声が響いていただろう。
エアハート
「…………」
差し出されたレモネード。
それを持つ相手を見て物凄く複雑そうな表情をしたのは、
なんか不意に今日見た夢の事を思い出したからだ。
もはや高熱を出した時に見る悪夢みたいな光景だった。
「……お前、…いや、やらかしたんだろうな。
まあいい、話しておきたい事がある。
今じゃなくていい、後で少し顔を貸せ」
目の前の男目掛けて飛んできたスプーンと、
大惨事になるテーブルと、聞き覚えのある声。
それはまあ、やはり何とも言えない顔にもなるわけで。
流石にレモネードに罪は無い、ので、受け取っておいた。
基本的に、他人の作った飲食物は受け取らない。
ただ、金銭を支払った上で提供されるものは別。
そして、相棒とも呼ぶべき者の作ったものもまた例外。
それだけのことだ。
フランドル
「あたくしじゃなくてエアハートとお話したいんですか、フランドルはいけずですね。
一緒に悪夢を見た仲だというのに
」
一緒に話したいとも告げていないのに突然の悪態。見えないが。
スルーもできるがあなたは多少
思い当たることはあっておかしくはないだろう。
「痛そうですねえ、御愁傷様。
いいええ、あたくしの嫌いな食べ物は食べられないものです。
味がなくても何でも食べられます。
好き嫌いはしないようにと教えられてきましたから。
手が滑っただけだと言いましたよね、勘違いなさらないでください」
目の前の出来事に、唖然としていました。
怒鳴り合いにならない限りは、許容できるものですけれど。
なんだか、御布令が出る前の日を思い出してしまったのでした。
| (a5) 2021/12/16(Thu) 0:45:28 |
ノアベルト
「は?
いやいけずも何も無いだろう
俺からあんたに話す事は特に無いし…」
あの時また会いに来ると言ったのはそっちだし、
そもそもあの悪夢にはこいつも居たが…みたいな顔をしている。
心当たりは、あるため。
「そもそもあの悪夢にはこいつも居たが……
」
言った。
| 酒場に現れたボロボロな、然れど思ったより元気そうな元役者の姿を見て、少しばかり安堵した。 「……」 知り合いの名と共に告げられた言葉に瞬く。 >>+11どうしたものかと悩んでいる間に、解決してくれたようだ。 「ありがとうございます、『怪盗』さん」 彼女のもとに相棒が戻る事は喜ばしい。 だから、灯屋も礼を伝えただろう。 ついでにチキンも勧めた。まだいっぱいあるんだ。 (15) 2021/12/16(Thu) 0:51:05 |
| レイは、もしかしてあの夢みんな見てるんですか……? (a7) 2021/12/16(Thu) 0:54:19 |
エアハート
「非があるんだろう実際に。
レモネードに罪は無い、お前に罪がある」
当然の如く抗議はにべもなく、ばっさりと。
普通のレモネード以外の何だと思ってると思ったんだ。
そんな気持ちはまあ置いておいた。
「……いや、ちゃんと清算しろよ。
飲み終わるまでは待ってやるから…」
言外に雑に片付けるなと言っている。
助け舟は期待できそうにないですね。
「謝ったでしょうが、頭おかしくなりましたか?
お話したくないのがわかりませんか、き」
「き、……嫌いになるほど
あなたのことは好いていませんよ!
私が好きなのは、」
しばし沈黙、立ち上がる音。周りの視線。
「姿を消してるのにこんなに目立たせることありますか?
戯言はやめてください、この話は以上です」
フランドル
「ああブレませんねぇ……。
あなたの心には鉛が何かが入っているんですか?
よくわかりました、
……趣味が悪い……
」
スカリオーネに挨拶をし損ねるところだった、ご機嫌よう。
きっと視界の外からの、『怪盗』への感謝の言葉。
灯屋の声に一度そちらへ視線を遣って。
役を終えた元役者は、何も言う事はなかった。
が、自分個人に勧められたなら…
チキン……まだいっぱい……これ、チキン?
鳥なら……チキン?そうかな…そうかも…
レイ
「……そう」
あなたの言葉を聞けば、ただ、その一言だけ。
彼の墓所には、彼女の縁者の墓もあった。
墓があった、とは言えど骨も肉も納められていない形だけのもの。
「……なら、いいわ。墓所に行きたいわけでもない。
どうせ、あの墓の中には何もなかったのだから……
まあ、他の死者にとっては堪ったものじゃないでしょうけど。
生者には、そんな声なんて聞こえてないのでしょう……
間違っても、それと同じにはなりたくないのだから……」
ノアベルト
「生憎と俺は不器用な生き方しかできないらしい。
或いは、ブレるほどに
他に目を向けるような余裕も無いだけか」
曲がらないのか、曲げられないのかは定かではなく。
趣味が悪い、という言葉にはほんの少し眉を顰めて。
けれど特にそれ以上突っ掛かるような事はしなかった。
この世は趣味の良い人間の方がずっと少ない。
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