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【人】 灯守り 芒種─ 会合前 ─ [ >>2:79しめられるとしぬ。 思わず本音が転び出そうになったが飲み込んだ。 あなたに殺されるのなら本望なんて本気と紙一重の冗談は 生憎とこの子には通用しないので。 それらしく見えるから、と姿勢が良くなるから 老人たちに最初に着物を着せられた理由はその二つで 最近の着付け担当が考える理由はきっと 身動きが取り難くて大人しいからだと思う。 落ち着きも着こなしも、洗練された淑女の品格も なにひとつ持ち合わせていなくてもそれらしく見せる わたしに唯一才能があったとしたら それは、そんな詐欺師のような才能だと思う。 ] わたしが手伝えるものなら何時でも手を貸したいのだけれど せっかく頼もしい蛍たちが傍に居てくれるのだもの 立春の仕事に関しては、おとなしく其方に譲るわ。 最初はたくさん頼ったらいいのよ。 少しずつ覚えていけばいいんだもの。 (49) 2022/01/23(Sun) 22:22:44 |
【人】 灯守り 芒種[ ひととおり、知識はある。 簡単なことなら手伝える程度に 先代は教えもせずに向き不向きを 決め付けるような人ではなかったから。 逆に言えば上っ面の知識しかないので。 手伝えるものではないのだけれどそこはそれ、 頼もしい姉の振りをするのも板に付いたものだ。 可愛い妹に見栄を張りたい。 頼もしい存在でありたい。 その思い相応の努力がもしそれなりに実っていれば こんなに卑屈な性格でもなかったのかもしれない。 ] (50) 2022/01/23(Sun) 22:24:35 |
【人】 灯守り 芒種[ 努力をしなかったわけではない。 教わる相手の高すぎる期待値との折り合いが悪すぎて 長くは続かなかっただけで。 なかなか結果を伴わない努力は嘲弄のいい的になり 出来が悪いまま大人しくしていた方が周りの機嫌もよかった なんて、そんなもの、 ただの投げ出した言い訳にすぎないのだけれど。 きっとたとえ同じ環境に置かれても 妹ならば諦めず努力し続けるのだろう。 周りの評価なんて気にせず前向きに、 その明るい性格で味方になってくれる誰かの手を借りて 挫折しても何度も立ち上がるような けれどわたしはそんな風にはなれなくて。 なんとか取り繕えているうちに死んでしまえたらいいのにと 逃げ出し楽になることばかり考えている。 だって、向いていないのだ。 尊敬される立派な灯守りで在る事も 慕われるようないい姉で居ることも。 ] (51) 2022/01/23(Sun) 22:25:04 |
【人】 灯守り 芒種[ 騙されたまま刷り込みで慕ってくれるのも いつまでだろうと考えると憂鬱でたまらない。 なんて常日頃考えているのがどうでもよくなるくらいに 今日もわたしの妹はかわいい。 「やだなあ」だって。え、かわい。何…は? 情緒の上下が激し過ぎて時折如何にかなりそうになる。 たまに正気に戻っている証だ。 如何かしているくらいが平常なので。 ] もちろんよ。だってさみしいじゃない。 あら、「みっともない」だなんて思っているの? それとも誰かに言われた? [ そうでないのならいいじゃない、って どっちが甘えているのかわからないような 少しすねた声を出してもういちどふわりと抱きしめる。 まだ腕の中にいてくれることを確かめては 今日も安心しながら怯えている。 ] (52) 2022/01/23(Sun) 22:26:03 |
【人】 灯守り 芒種[ 彼女に贈られたものはなんだってとってある。 お菓子を可愛らしくラッピングしたリボンから ほんの些細な走り書きの伝言のメモまで。 見た目はすっかり止まったけれど わたしの頭は年相応に物忘れが激しいから。 忘れても思い出せるように些細なものでも、なんでも。 贈ってくれた「おそろい」は仕舞い込んで 同じものを探して取り寄せ使うくらいの気持ち悪さだ。 妹を慕う姉の域を、踏み外している自覚はある。 自覚だけあっても改善する気はまるでない。 ならどうするのが正しいのか、なんてわからなくて。 幼い頃のおままごとみたいに どこまでなら許されるか。何なら望んでもらえるか。 もう尋ねることはできないし…… おままごとも人形遊びも知らなかったみたいに ただしい姉としての振る舞いの一般教養は 生まれてこの方、友人の一人も存在しないわたしには 永遠に備わることもないのだろう。 ] (53) 2022/01/23(Sun) 22:27:05 |
【人】 灯守り 芒種[ 幾つまでも。幾つになっても。 あの小さなピクニックシートの上の ふたりきりの世界だけでよかったのに。 もう随分と変わってしまったことくらいわかる。 目の前で稚い顔をして愛らしく笑う彼女も 抱きしめた体もすっかり大人びて 普段はもうすっかり一人前の女性だ。 もうとっく届かない所に行ってしまったことは もうとっくにわかっているけれど。 二人きりの限られた僅かな時間くらいは 幾つまでも。幾つになっても。 このままでいてほしいと願わずにはいられない。 ] (54) 2022/01/23(Sun) 22:27:56 |
【人】 灯守り 芒種[ もうちっともか弱くも小さくない手に引かれて 足がもつれそうになるのも忘れてその背を追いかけて 愛おしいこの時間が永遠に続けばいいのにと願う。 わたしの生まれ持った『親愛』の能力で例えば この愛おしさを奪ったとしたら いったい誰から何が奪われるのだろうか。 考えるだけで恐ろしい。 それなりに危険視されているらしいわたしの能力は 本当は完全に役立たずなことに 気付いている誰かはいただろうか。 使い道がないのだ。奪うものが存在していない。 わたしにとって愛するものなんて、 世界中にただひとり、この子しか存在していないから。 ] (55) 2022/01/23(Sun) 22:29:39 |
【人】 灯守り 芒種[ 何度も参加していい加減理解している。 この会合、雰囲気ばかりは堅苦しいが 余り真面目に参加しなくてもいい。 いや、良い事はないだろうけれど。 問題はない、といったほうが正しいか。 熱心になったところで意味はないというのが 一番しっくりくるかもしれない。 最初の頃は全員に挨拶に回ったりもした 厳密には蛍を担う老人たちが。 けれどひとりで顔を出すようになってからは 必要ないだろうとそれもしていない。 会合に限った話ではない。 灯守りの仕事全体そんな姿勢だ。 こんな人間が灯守りを勤めていて 芒種域のひとびとを気の毒に思いこそすれど 改善しようとは思わない。思えない。 ] (58) 2022/01/23(Sun) 22:39:49 |
【人】 灯守り 芒種[ 意味がないし、面倒なのだ。 それでも尚、と頑張れるほど立派な人間でもない。 わたしが出来ることを増やしそれらしい権力を 取り戻そうとすると必ずどこかで角が立つ。 しかも向いていないから殆ど成長がない。 そして成長がなくたって問題なく回るのだから 何もしない方がいいなんて甘えた気持ちに拍車がかかる。 あの子の故郷ではあれど、もう旅立った場所で もう新しい故郷を見つけ、定めてしまった。 芒種はあの子が帰ることのない場所だ。 あの子のいない芒種域など、正直心底どうでもよくて モチベーションも地に落ちたままだ。 けれどあの子の自慢の姉のふりをするために 無能なりにそれらしく振舞うくらいはする。 外面だけを無理に取り繕おうとするのだ。 うちの家系は、みんなそう。 そして、何度も参加していい加減理解している。 それらしい顔をして真面目に聞いている振りをするだけで わりと、それらしく見えるのだ。 事実はさておきそうでない態度の人が 大層目立つ事がとても有り難い。 ] (59) 2022/01/23(Sun) 22:40:18 |
【人】 灯守り 芒種[ 真面目な顔をして全体を見ているようで その実妹しか見ていない視線が 時折妹と重なるたび、心の内でガッツポーズをきめつつ それらしい相槌や思わせぶりな笑顔で 応援していたりそれでいいと促すような ほんの一瞬の細やかな反応を返す。 むしろ内容なんてろくに聞かずそれだけしていた視線が 唯一逸れた場面があった。 じい。 じいいいいいい。 じいいいいいいいいいいいいいいいいいい。 真っ白で滑らかなちょっとよくわからない形状に 釘付けになる妹の横顔込みで 獲物を狙う獣か何かのような眼差しで つついて凹ませたくなる質感の魅惑のボディを見つめる。 特に理由もなく踏み潰したい。叶うなら。 妹が悲しむのでしないけれど。 いつもさりげなく袋小路に追い込もうとしても わりと素早くて逃げられ通しのちいさな姿を 見とれる妹に気付かれぬよう妹よりもほんの数秒短く ねっとり、じっとりと、見つめたりした。 なお会合の内容は当然ながら、殆ど頭に入っていない。 *] (60) 2022/01/23(Sun) 22:42:34 |
【人】 灯守り 芒種[ あの頃はただ任された仕事だけを 裏方として全うしているような 影の薄い男だったと記憶している。 それがちょうど良かった。 今となっては他領域の灯守りたちに囲まれて それが本人の望むところかは定かではないが いい意味で、随分と愛されているように見えたから。 声もかけず、遠目に眺めるだけにとどめておく。 もし目が合うことがあれば揶揄う意味を込めて 艶っぽい視線の一つでも送ってやっただろうけれど。 *] (61) 2022/01/23(Sun) 22:53:21 |
(a27) 2022/01/23(Sun) 23:01:51 |
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