人狼物語 三日月国


75 【身内】星仰ぎのギムナジウム【R18G】

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三日目の朝食。

あの少しお節介な彼の声はなかった。


「……しくじった、かな」

 誰かが聞いたかもしれない言葉。

メモを貼った。

今日も賑やかな朝食の席。

いつも『みんな』に、にこやかに挨拶をして回る
イクリールの姿は、そこには無い。

淡く脆い約束は、終ぞ果たされる事は無かった。

何処にも居ない。

メレフは、朝食の時間、食堂に顔を出さなかった。
(a0) 2021/05/28(Fri) 20:09:44

殴られた。

洗いました。洗いました。洗いました。洗いました。身体も服も“身体の中”も。

『知らなかったこと』を教え込まれている。丁寧に、執拗に。

メモを貼った。

メモを貼った。

メモを貼った。

星を仰ぐ メレフは、メモを貼った。
(a3) 2021/05/28(Fri) 20:21:56

メモを貼った。

何を間違えたんだ。

大人達の手によって隠されている。それでもなおイクリールに恐れる事は無い。


中庭。
誰もが目を背けるなかで、

一人バイオリンを弾いている。

誰もが耳を傾けなくても構わないという風で。

バイオリンを弾いている人影がある。
周りには誰もいない。

笑っている。

「……やめてください」

        『―――――』
        
殴打音。

「っ……」

どうして自分があんなに食べなければいけないのか、わかっていた。
自分の身体だ。

――風紀委員の身体は、消耗も回復も、早い。
だから、多少乱暴に扱われても、平気だ。
身体は。

殴られた。

殴打音。
      殴打音。
  布が擦れる音。
  
肉がぶつかる音。

もう風紀委員だなんだなんてことは、関係なかった。
多少無理をされてもすぐに"治る"病気。
今は、己の身体を、少し呪った。

イクリール。危ない事はしてはいけないよ。

イクリール。誰がそんな事をしたんだい。

イクリール。よく我慢したわね。

イクリール。もう近付いてはいけない。

イクリール。

イクリール。

イクリール。


「ええ。わたしは平気よ、『せんせい』。」

イクリールは『大人達のお気に入り』だ。
そんな噂を流す生徒も居ただろう。
今までも、そしてこれからも。
イクリールは、恐れる事など何も無い。

だって、それが悪い事だとは
ほんの少しも、思ってはいないのだ。

ルヘナが宿した病は
『知識に対する渇望』
もしくは『本の虫』。
正確に病の詳細を述べるのであれば、
三大欲求を『知識を得る』プロセスで代用できてしまう
病だ。

知識を吸収する際、直近で満たした三大欲求を満たしたのと同様の効果が得られる。
(睡眠欲なら眠気に微睡むような心地良さ、食欲なら何かしらの味覚とそれに対する満足感、性欲なら内股からふくらはぎを介して爪先まで走る快楽)
『三大欲求いずれかの行為』と『知識の吸収』を同時に行うと更に高揚感が生じることも分かっており、食事の際に読書を行っているのはそのためだ。



「……っあ、あは、ひ、っうあ、」

 首筋の赤い鬱血痕は、
大人のもとに来る"前"に刻まれた

 その誰かから"愛された"痕跡を、唇が、舌が、蹂躙して、

 いつまでも湧き上がる快楽と高揚にほのかに色付いた、
 あばらの浮き出た身体が、無邪気な笑い声とともに跳ねている。

模範的な子供であれと、言われたのはいつだっただろうか。
ここにきて、
『スピカ』が『風紀委員』になってから、
こんな目には合わなかった。

だから、ここはお家よりも好きだったし、
ひどい目にあいそうな子には目をかけてきた。つもりだ。

『風紀委員』は、ただの幼い『スピカ』だった。


大人から愛されることに対する執着からは逃れられた。

歪んだ性欲を愛と感じてしまうほどに、
心に空洞が多く。それ自体が病だったから。

だから、結果的に“治療”は正しい方向に働いている。

「まだできることはあるはず。
 まだ……やれることがあるはず。

 こうなったら、ただ探すだけだ」

 中庭に吹く風は、酷く冷たい。
 冬の訪れを予感させた。

メモを貼った。

イクリールが居なくなる少し前、ある生徒の事について
大人や生徒に尋ねて回る姿を見た生徒も居るかもしれない。

それが原因かは定かではない。けれど
イクリールは現状、寮の自室から出る事を許されていない。
治療を受ける必要は無い。

少なくとも、大人達の目がある間は。
それを不満に思う事は無い。
その必要があれば、抜け出す事は厭わないけれど。

イクリールは、大人達の事が好きだから。
大人達が、自分を心配してそうしていると
わかっているから。
本当にそれだけのはずがないのに。


イクリールは、それでも良かった。

ああ、『風紀委員』だけが、
私の居場所だと思ったのに!

結局、どうしたって世界は変わらないのだ。
こんなものが治療であるはずがない。

スピカは、判断を下した。

【――それでも風紀委員でいたほうがマシだ】

抵抗する。制止しようとする。
そんな態度だから、大人の治療は激しくなる。

平気だ。私は『風紀委員』だから。
そして、この体は多少の暴力を苦にしない――

でも、心は?

抵抗している。物音がする。

メモを貼った。

治療(もしくは研究)は、
いつまで続くのだろうか―――

“水面に映るような”彼の姿を、頭に浮かべている。

彼が無事である限り、“貴方達”を恨まない。

/* 一方風紀委員はトラックに轢かれた。

 シェルタン

「……ごきげんよう、シェルタン」

ひと気のない、或いは局所的に、意図的に
生徒達に避けられている、とも取れる、寂しい中庭。
そのバイオリンの音色が一段落を迎えた頃
あなたに声を掛ける事を、
一人ぼっちのイクリール
は恐れない。

確かに彼の演奏をいつか聴いてみたいと
そう考えてはいたけれど。
まさかこんな形になってしまうとは、誰が想像しただろう?

自らの身体をかき抱いて震えた。

イクリール

「……ごきげんよう」

 何故か、口調が妙に畏ってしまった。

 話しかけられるとは露ほども思っておらず、けれど一人の彼女が臆せずにここにいるということが何を意味するのか。

 無論、言うまでもない。
 わずかに悲痛を滲ませた表情でいる。

「アンタもか、イクリール。

 ……はァ〜ア、オレもこんな形で、
 伸び伸び休めるようになるとは思わなかった」

 皮肉げに笑った。

 シェルタン

「まあ、そうね。きっと、そういうことになるのね
 でもわたし、そうでなくたってきっと声を掛けたわ。」

シェルタンだって、そうなのではないかしら。
そう言って、イクリールはいつものように微笑んだ。
その首には、仰々しく病的なまでに白い包帯が巻かれている。
けれど、やはり恐れる事など何も無い。

「わたしだって、シェルタンが
 一人でこんな寂しいお休みをしているなんて思わなかったわ」

その自嘲的な笑いに返すように、一度だけ。
イクリールは、寂しげに微笑んだ。

 『いない』者達

 身体を引きずるように歩いているのだろう、
 不安定に揺れる身体がゆらゆらと二人に近づいてくる。

「……シェルタンと、イクリール?
 なるほど、そういう……不思議な縁もあったものだな」

 シェルタンのことは、予想はしていた。
 しかしまさかイクリールまでも同じだとは思っていなかった。
 そういう表情、思考を隠せないままにぎこちなく笑った。

「そして急なことで悪い、何か食べ物とか持っていないか?」

イクリール

 そうだろうか。
 昨日はヘイズを無視していた自分が、
 今日、すぐに変われるなんてことがあるのだろうか。

 変われている筈ではあるのだが。

 返す言葉に迷ううちに、ルヘナに声をかけられる。
 ()

「よう、その様子だと……いや、流石に多いな。
 一日のうちにこの数が大人のところに行ってるとか」

 自分だけだと思っていたから、酷く意外そうにして。

 問いに対しては、合間に食べようと思ってたパンなら、と、それを取り出して見せた。
 

―責め苦から解放され、部屋に戻された。

放心している。

  なき者達

「あら……ごきげんよう、ルヘナ。
 そんなに不思議に見えるかしら。ううん、でも
 ルヘナがそう思うなら、きっとそうなのね。」

あまり直接話した事は無かったけれど
イクリールは、ちゃんとあなたの名前と顔を知っている。
どうやって知ったのかは、定かではないけれど。

「そうね、わたしは何も持ってきてはいないから
 シェルタンと一緒に食べるといいわ。」

ルヘナのぎこちない笑いと、シェルタンの迷い。
そのどちらにも、いつものように微笑んで見せた。
その理由を、今ここで追及するべきなのだろうか?

「私は……」

視界に映るのは天井。

「……どうして」

何をされたのか思い出そうとすると、
思考にノイズが走る。
『風紀委員』は、思い出すことを拒否した。

『風紀委員』として失敗した?
もしくは食べすぎ?

そのどちらでもない、ただ彼女は不幸なだけだったが。


傷一つ残っていない体が、不気味で疎ましい。
暫く、声を殺して泣いていた。

背負うつもりだったのに。

 シェルタン

「俺も知らなかったよ、こっち側になることなんて。
 俺達だけで済んでいるといいが……悪い、ありがとう。
 久し振りにお腹が空いていて……」

 シェルタンに笑い掛けながらも、パンを差し出されるのなら
 ほんのひと欠片だけをちぎりとって礼を言った。
 そうして口に放り込み、たっぷり味わってから飲み込んで。
 そこでようやくほっとしたように笑った。

 それからイクリールに視線を向ける。

イクリール

「……思えばイクリールとはあまり話したことがなかったな。
 俺が一方的に認識しているだけかと思っていたが、そうか、
 少し不思議ではあるが嬉しいものだな」

 自分が見かけた時はすべて、同じように笑っていた少女の、
 ……『治療』を受けても変わっていないように見える笑顔。
 昨日までであれば問いかけてもいただろうが、
 今はそこまでの知識欲はない。

メレフは、深夜の森で、ナイフを使って大人を刺した。
(a20) 2021/05/28(Fri) 23:11:10

───

「いつも全然食べないのに、久しぶり、か」

 淡々と指摘する。
 別に、責めるとか、そんな意図ではないのだが。

 千切られたパンを、一口頬張る。

「……休めるのはいいが、
 考えることが多くて困るな。
 後悔しないように、いきたいもんだけど」

 横目でイクリールの表情をみる。

 彼女がの態度にも、検討がつかないこともない。
 他ならぬ自分が、それを警戒していたのだから。

 “大人の愛を望んでいた”自分。
 ……イクリールとシェルタンに違うところがあるとすれば、
 それはきっと、“知った上でそれを望んでいる”ことだ。

「難しいよ、本当に」

茫然と、友人が人を刺すのを見つめていた。

メレフは、楽しそうに嗤った。
(a21) 2021/05/28(Fri) 23:17:06

 ルヘナ シェルタン

「ええ、そうね。
 わたし、いつかあなたともお話したいと思っていたのだけど
 こんな形でそれが叶うとは思わなかったわ。」

こんな形、とは言うものの
イクリールの表情に憂いや陰りの類は無く、
ただいたずらに笑っただけだった。

イクリールには、各々の事情を追及する意思はない。
少なくとも、今この場では。
誰かがそれに触れようとしない限りは。

「……そうね。
 わたしも、会いに行きたい子がたくさんよ。それに…
 …どうかしら。わたし、食堂には行かせてもらえなかったから
 他の子がどうなっているかは、わからないわね…」

それから、シェルタンへ向けた言葉と
それから彼自身の言葉に、それだけを呟いた。
そこにある意図に気付いているかは、定かではない。

身を守る僅かな盾すら奪われる。隠すものはもう何もない。

 

「ああ、そういう病気なんだよ。
 知識を食っても腹が膨れるから食事が腹に入らなくて。
 ……上手く使えば飲まず食わず眠らずで数日は動けるし、
 夜の見回りに申し出たのもそれが理由だったんだけどな……」

 詳細を告げていないため、各所を曖昧にして語る。
 "食欲"を満たして安心した理由については
 問われない限り応えないだろう。

 そういえば、夜の見回りはもう、できないな。

「食堂、今の時間なら行ってもいい気がするけど。
 ……イクリールも何か食べるのなら今から取りに行こうか?
 俺もある程度の飲食を確保しておきたい、
 ついでにだったら持ってこれるさ」

首元の衣服を整えた。

───

この立場になっても、まだ秘密がいくつもある。
隠しているつもりでなくとも。仕方がないことだ。

「オレは暫くは演奏してるつもり。
 無視されるんならいっそ、うんと騒がしてやるよ。
 石の一つでも投げられたら儲けもんだ」

自分から顔を合わせづらい相手だっていることだし。

「病気、な……それが良くなったら、
 このギムナジウムから出るってことになるんかな。

 ……今すぐ出るって運びになったら困るけど」

自分の手首をカッターナイフで切ってみた。

          

「ううん、わたしは大丈夫よ。
 朝食は寮まで『せんせい』が運んでくれたもの」

至って当然の事のように、何でもない事のように
イクリールはそう言ってのけた。
大人を恐れる素振りを見せないのは、やはり変わる事は無い。
イクリールの噂は、二人は聞いた事があっただろうか。

「でも、そうね。
 それならわたし、暫くシェルタンと一緒に居るわ。
 だから、もしルヘナがよかったら
 あとで温かい飲み物を持ってきてくれるかしら。」

二人の分と、それからルヘナの分。
今日はなんだか冷えるから、と柔らかく微笑んだ。
『病気』に関しては、触れなかった。

痛みに顔を顰めた。

すぐに傷が塞がるのを見て、嫌悪を示した。



「そうか分かった。じゃあ行ってくるから二人とも気をつけて、
 ……飲み物の味については保証しないぞ」

 ほんの少しだけいたずらっぽく笑いかけて離れていく。
 それからくるっと振り向いて、夜を越えたこの場所で、

「俺はきっと卒業するまでここにい続けるから、
 お前達が出ていくまでは一緒にいられたら嬉しく思うよ」

 それだけを言い残して去って行った。

メレフは、深夜の森で、マフラーを奪われた。
(a22) 2021/05/29(Sat) 0:23:08

    

「あんまり変なものだったら、その時は
 シェルタンに頑張ってもらおうかしら」

いたずらな笑みにこれまた冗談めかして微笑んだ。
いつまでこの平穏を続ける事ができるのだろう。
大人には目を付けられ、生徒には居ないものとして扱われる。
それだけで済めば良い方だ。


「……わたしはきっと、『みんな』の事を
 その卒業を、見送ることになるから。
 大丈夫よ、ルヘナ、シェルタン。」

去り行く背に投げ掛ける。
それが何に対しての『大丈夫』なのかは、誰にもわからない。

人目を憚らず食堂へと向かう。

食堂に向かう途中、一度だけ園芸部のほうへ視線を投げかけた。

スピカの声を聞くことができる。

元気がない。

努めて普段通りであろうとしている。

いつも通りだ。首元の包帯以外は、何も変わった所など無い。

 




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