87 【身内】時数えの田舎村【R18G】
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「……あれ?」
気づけば境内で立ちすくんでいた。
昨日は……海に行って…。
遊んで…、そうだ。遊んで。
その後、家に……
………?
「帰ったんだっけ?俺。」
…まぁいいか。兎に角昨日は凄く楽しかった。
このままずっと楽しいのが、続けばいいのに。
少女は、望む者の意志を覆して。
現実を放り出して、夢に浸る。
ここには、皆がいるんでしょ?
皆も、婆ちゃんもいてくれるんだ。
一緒にいよう。ずっと、ずっと―――
神社にいる事を疑問にも思わなかった。会いたい人達がいるのを知っていたから。
「本当、しょうがない人たち」
現実の未来地図も、夢の揺蕩いも、
どちらも抱えている青年/少女は、
これからのことを考える。
田舎のことは話をかけて一層大好きになった。
叶うなら、ずっとここにいたいと本気で思っている。
だけど、『田舎が大好きなこと』と『田舎から帰った後を想像すること』は両立するから。
みんなとの停滞も、
みんなとの未来も、
等しく大切なものに違いないから。
やることを、いくつか考えて。
「帰りたくないなあ」
それでも、
帰らなくちゃならなくなったときは、仕方がない。
自分はただ、四角形の思い出にみんなを詰め込みたいだけだから。
「俺は、あなたの作る四角形に、
収まり続ける気はどうしてもないんだ」
矛盾するものをいくつも抱えている。
田舎は好きだけど、そこに導くものは気に入らなくて。
都会は息苦しいけど、その先の未来は掴み取りたくて。
そんな危うい上に、卯波の思考は立っている。
「時任の姉さんは。決闘相手
≪きみ≫
は今の俺を、今の皆を愛してるって言ってたけど。
今の『いま』はまだ……正しくない形だからさ」
胸に手をかざす。
『ずっと男らしくなったけれど、それでもまだ追いつくに足りなかった青年』か、『男らしい先輩たちに近づこうと、性差は覆せないのに、女の身であることを見ぬ振りした少女』か。正直俺にはどっちでもいい。
あの頃の少年の面影は、ここにあってはならないだけだ。
時任のきょうだいや、自分をここに連れてきたあの人も歪だ。歪だらけで、矛盾だらけだ。
小さな写真家は、その綻びたちをずっと見つめている。
大好きな田舎にしがみつき、愛し、それでいて心の奥で否定している。
「……?」
誰かの返事が聞こえたような気がして、振り返る。
振り返っても、誰もいない。
サワサワと木々が擦れる音が辺りに響いている。
気のせいか。…気のせい、なんだろうけど。
…そうでなければいいな、と思った。
「今日は何すっかね。
まぁどうせ今日もどっかでなんかやってるだろ。」
呟いて歩き出した青年の口元は、僅かに綻んでいた。
| 季節外れの雪を纏う。
艶めく白に、金の流水文様を走らせて。水辺に咲くのは紫苑の花。引き締まる黒の帯には蝶々が舞い、涼しげなガラスの帯留めが腹部を飾る。
御端折りを出すのに苦労したけれど、工夫さえすれば着丈が合わない着物も着れるものだ。 姿見に映る自分の姿。着物を崩さぬよう身を寄せて、鏡の向こうの己に触れる。
にこり。 紅を乗せた唇の端をほんの少し持ち上げて。 さらり。 髪に差した簪を揺らすように小首を傾げる。
一枚隔てたガラスの向こうで、母親が優しく微笑みかける。……微笑みかける真似をする。 病に倒れ、母と自分を混同するようになってしまった父の為に真似していたから母の真似事をするのは得意だった。
けれど、今この時は父の為ではなく。 父が母の為に仕立ててくれた、誕生日の贈り物。それを着る前に亡くなってしまった、母の為に。
▼ (1) 2021/08/14(Sat) 22:52:04 |
| 「日舞なんて、本当に久々だから。間違っていても許してね、母さん」
目が覚めるほどの紅色を差した唇から溢れる柔らかで涼しげなそれ。いくら見た目が性別の垣根を塗りつぶしてしまうものだったとしても、はっきりと男のものだとわかる声だった。
四日目。まだ気温が上がる前の清廉な朝の空気が静寂と共に辺りを包む頃。 母親の仏壇がある部屋の真ん中で、恭しく一礼をして母から習った舞を踊り始める。
きっと、これは誰かがくれたきっかけなのかもしれない。やさしいやさしいゆめなのかもしれない。
だって、そうじゃないと説明がつかないのだ。 どうして、この着物がここにある?
──この着物は、母が亡くなった時に父が処分してしまったのに。 (2) 2021/08/14(Sat) 22:53:22 |
「夏祭りか…皆と行きたいな。
かき氷食べて金魚掬って…ふふ、楽しみ〜♪」
にこにこ、これから待っている楽しみに思いを馳せて家に戻っていく。
女の子には、用意したいものが沢山あるのだ。
| 【四日目 早朝】
線香とい草の匂いに包まれた部屋に、ぱさりと乾いた音がする。 纏っていた着物の下から現れたのは真白の肢体。肉付きは薄く、されど女のようなしなやかな曲線を描いている訳ではない。陶器製の人形めいたその体は、確かに男の形をしていた。
母への手向けの舞を踊った後。着物を畳み、手早く洋服を身につけて。仏壇の前に正座する。
「……こうして母さんの実家できちんと話ができるとは思わなかった。 そもそも、私はずっと勉強ばかりしていたから、拝む事さえきちんとしなかった親不孝者として怒られてしまうかな」
語りかける写真には自分と同じ顔がある。けれど慈しむようなその微笑みは、自分と似て非なるもの。 視界が狭くなっていた自分では、こんな笑い方できるわけがない。
「母さん。私は元気でやっているよ。少し話をしようか。あのね……」
…… …… ……
▼ (4) 2021/08/15(Sun) 3:07:18 |
| >>4 滔々と語る言葉に相槌を打つ者などいない。けれど、少年は決して報告を止めるつもりなどなかった。 失われていた家族との時間がたまらなく愛おしかった。例えそれが相手が既に死んでいたとしても、今ここにいる場所が夢幻のようなところであっても。 「……」 身の回りに起きたことを少しずつ話して、途中ではたと気付く。 道を選ぶのが嫌で、夢と向き合うのが嫌で、甘く優しい思いしかないこの場所にずっといたかった。 でも。それでも。 この永遠にいてしまったら、夏の思い出に浸り続けてしまったら。 成長を喜んでくれた母に、今なお共に生きている父に、報告するものが無くなってしまう。 「それは…………寂しいな」 (5) 2021/08/15(Sun) 3:08:59 |
| 四日目。早朝、母親と会話をした後の時間。
今日はお祭りがあるらしい。百千鳥とは浴衣を着て一緒に行く約束をしてある。折角再会したのだから、自由行動の時間にでもなったらあとでふらりと髪置の家に行って声をかけにいくのもいいだろう。 でもその前にやる事をやらないと。遊んだら没頭してしまうから、先に友人への葉書を完成させなければ。
「葉書、おばあちゃんに出してもらったはいいけれど。書きたいものが多すぎるな……」
百千鳥の姉に伝える内容をしばらく考えてみたものの、なかなかまとまらない。 帰省する前に取った連絡では何を話していただろう。遊ぶ事、百千鳥の面倒を見る事、夏祭りの事、将来の事……よく話題に挙げていたものを中心に書けば彼女も満足するだろうか。
▼ (7) 2021/08/15(Sun) 4:11:45 |
| ペンを持つ手が止まる。 「…………」 そこだけ記憶が抜け落ちたかのように、或いは初めからなかったように。 帰省する前に取った連絡の内容が思い出せない。 「……どうして」 鞄の中からスマートフォンを取り出して恐る恐るあちこちを探る。 普段よりも遥かに画面を叩く勢いが強いことにも気付かない。たんたんたんと音を鳴らし、いくつものアプリを起動する。立ち上がる前の準備時間さえももどかしかった。 「…………無い」 無い、無い、無い。 メールも、電話も、その他の記録にも。 どこにも"都々良 呼子鳥"の痕跡が見当たらないのだ。 そんな筈はない。だって、自分は確かに彼女と話を──。 「ほら、行くよ!いつまでもそんな所でぼーっとしてないの!」 ほら、思い出せた。彼女の声が聞こえてくる。 ああ、でも、どうして? ──どうして今のものではなく、昔の声しか思い出せないの? (8) 2021/08/15(Sun) 4:15:32 |
写真を見ている。
世界の果てみたくハッとするような澄んだ空気の中、
田舎の皆で集まって撮った、何より大切な集合写真。
様々な表情で、様々な姿勢で切り取られた四角形の。
『 』
慈姑婆ちゃんも、時任の さんも、呼子姉も、
この中にはみんないる。何一つ欠けていない。
誰もがあの頃の美しさのまま、そこに写って。
彼が、あの子が作ろうとしている枠の中とは、
決しても似ても似つかない。哀しそうに笑う。
今それをどうしようもなく愛してしまうのは、
やはり矛盾した心の、不自然な気持ちの動き。
「ずるいよ。俺にはないもの。
俺だって、みんなをここに閉じ込めて、誰も前に進まない場所で、背中に追いつきたかった」
警察の兄さんたち。ひとつ年上の人たち。
目を離せば、随分遠くを行く彼らだって、
ここに止まれば等しく『田舎の人間』だ。
▼
「俺は田舎が大好きで──でも、
それと同じくらい、前に進む皆が好きだから。
ここにみんなでずっと残っていたいし、
ここから出て様々な道を行く皆を見たい。
酷いよ、ほんとに。この先どうなっても、
俺は叶わなかった願いに心を痛めることになる」
十年前の写真。
ここで撮った写真。
それと──十年経つ中で、
己の人生をいくつも切り取った、
晶兄の名を借りたカメラが映し出した写真。
息苦しかったり、嫌なことがあったりの日々から、
美しく、甘く、優しいものだけを切り出したもの。
ここにあるのは人生の歩みだ。
並べて、ただひたすらに並べたら、
一ノ瀬卯波という人間の楽しく思う部分が全部詰まっている。
ここから先はもっとみんなを撮りたいから。
夢に浸りたいと願う人にも、現実に帰りたいと願うにも。俺は逃げたりしない。
誰でもない、一ノ瀬卯波の人生を、誰よりも美しく思っている。
「じーちゃんばーちゃんいってきま〜す!」
紺色の浴衣の上からカーディガンを羽織り、
上機嫌で家屋から、下駄をころころと慣らして出てくる。
首には勿論、大事なインスタントカメラを引っ提げて。
「男前になった?ふふ、お世辞を言っても何もでないよ、おじさん。屋台は……あっちですね?ありがとうございます!」
手持ち花火セットを受け取って、
いざ祭りへ。みんなもう居るかな、と逸る気持ちは、そのまま急ぎ足の歩幅に映っている。
ずっと遊んでばかりだからか、
一日一日過ぎるのが早い気がする。
時を数えるのも、忘れてしまったみたいだ。
夕凪は、声をかけました。
「青嵐くん、お祭りにいったら今日は何食べたい?
お腹壊さないようにするんだよ」
話を早く区切って、誰かの元へ。
「茜ちゃん浴衣は着る?
着付けして欲しかったら夕凪に任せてね」
せわしなく、何かに焦っているようにまつりを楽しみにしている。
「……卯波、あのね。
夕凪たちの写真もっと撮って欲しくて、あれ?」
ずっと続くと、楽しいと思っていた世界にひびが入ってしまったような気がして不安で仕方が無い。
だから、できる限りのことをしようと思った。
「……大きくなってる?
う…うん? ……前よりも、ずっと。
お世辞じゃないよ、素敵だと思う……」
ここにみんなでいたいという祈りは、間違っているのかな。
夕凪たちは、閉じ込めたいとでも、おもっているのかな。
だんだんと変わっていく皆の心に、亀裂は溝を深めていった。
「時任の さん、どうかした?」
最初に境内に訪れた時と比べて、
ほんの少し背が伸びて、髪も伸びて。
こころなしか、体格もしっかりしている。
卯波は確かに、田舎でみんなで居られたらどんなにいいことだろうと思っている。
だけどそれはまるで、もっと外へと飛び出そうとする、子どもの、眩しい成長のような──
「勿論、写真は沢山撮りますよ!
フィルムはいっくらでもあるから、寧ろみんな俺が撮りすぎてイヤになったりしないか不安だな。
……ふふ、皆の着物や浴衣、今から凄く楽しみ」
そう笑う顔には、他でもなく卯波少年の面影を色濃く残していていた。
「そっか今日夏祭りか」
並ぶ屋台を見て一言。
生憎水着も持ってこない男だから
浴衣なんてあるわけないのでTシャツで失礼。
夏祭りならみんな来るんだろうな。と期待に胸を膨らます。
「なーおじさんもうやってる?たこ焼き食べたいんだけど」
| 涼風は、笑いながら立ち上がる。傍にいたおばあちゃんはころころ笑っている。 (a3) 2021/08/15(Sun) 17:36:32 |
| >>12 髪置くん! 「はーあーいーっ!」 どたばた。どたばた。からん。ころん。 忙しなく廊下を走る音。その数秒後、下駄が鳴る。歌うように軽やかに。 柔らかな象牙色の浴衣に黒の兵児帯。朝に着た母の着物と色合いは少し似ているが、こちらはれっきとした男物の浴衣だ。 長い髪を編み込んで髪を短く見せた少年は満面の笑みで飛び出した。 「ふふっ。来てくれるって信じてた。それじゃあ行こっか。 モモには先に行っててって言ってあるし、他の人もきっとお祭りに行ってると思う。きっと賑やかだよ」 そう言って当然のように自転車の後ろに座った。今日はお祭り、無礼講。警察に籍を置く皆さんが帰省しているが、バレたらその時謝ればいい。涼しげな顔で、悪どいことを考えながら。 (13) 2021/08/15(Sun) 17:36:54 |
編笠
「え〜、折角久しぶりのお祭りなのに。
楽しみなのはそりゃ当然として、
さらにテンションあげてきましょうよ」
先輩ら二人が普段着なのは何となく予想がついていた。瞬兄は良くも悪くも変わってないし、晶兄もまわりに流されたりするタイプじゃないように見えたから。
「これじゃあまるで俺だけが望んで……違うな、楽しそうみたいじゃないですか。普通逆ですよ、俺は撮る側」
ほら、とインスタントカメラを掲げてみる。
今なら、空気のなかで弾けるような、賑やかでどこか寂しい笛や太鼓の音までも切り取れそうな気がする。気がするだけだけど。
夕凪姉に着付けを手伝ってもらって。
薄い水の色に白の葉が踊る浴衣を身に纏った少女は祭りに繰り出した。
少女に合うサイズの浴衣が用意されているなんて有り得ないのに。
ちょこんと頭の後ろに括られた髪が、走るたびに揺れる。
「シュンー!アキラー!うーなーみー!遊ぼーっ!」
そして、一目散に幼馴染の元へ駆けて行くのだ。
傾いた日の、光が当たる地面に立ち、
ほんの少しだけ首を傾げて。
あなたを木陰に残して、
一歩、二歩と早足で歩き、
振り返ると、微笑んでみせる。
「あるよ」
誰かにも見せた。今まで誰にも見せなかった、
恋焦がれるような、悪戯を思いついたような、
ほんのちょっぴりだけ蠱惑さを煮詰めた笑み。
「お祭りが終わった後の日々は、
切なくて、つまらないことばかりだもの。
帰りたくないなって何度思ったことか」
それは変わらないあなたの表情と対照的だ。
違和感は違和感だけでは終わらず、
確かに、何かの変化を齎そうとしている。
▼
▲
編笠
「でもね。楽しいからこそ切なくなるんです。
お祭りも、その先の味気ない日常も、
俺は全部ひっくるめて好きで居たい。
ずっと同じ風景ばかりの写真じゃ──飽きるでしょ?」
俺に勝負を吹っかけた晶兄だから分かるでしょうけど、と続けて──また、昨日のように手を伸ばす。
遠くから聞こえてくる彼女の声も、また同じようなシチュエーション。きっと、映るものも似たような四角い枠の中だ。
「ね、はやくいこ?
俺、今日は沢山みんなを撮って、遊んで、楽しむんですから」
夕焼けが後ろ髪に透けて、縁に淡い光を含む。
陰の差す顔の表情は、それでも晴れやかで、あなたを見ている。
編笠
「繋いでくれてもよかったのに」
小さく笑い声を溢して、
無邪気な声の聞こえてきた方向へ向く。
俺は帰ればまた抑圧される。
その性別らしく振る舞うことを要求される。
でもそれは、田舎の思い出を抱えたからだ。
それが嫌だと思ったことは一度もない。
「うん、楽しんでくださいね、晶兄。
対抗心はあるし、思うところもあるけど。
それでも、あなたには明るい顔でいてほしいから。写真のためだけじゃないですよ?心からの言葉です」
屋台をみんなと回っている。金魚掬いはあまり上手にできなかった。
祭りを回りながら、編笠のズボンのポケットにメモを突っ込んだ。
「……写真も絵も、いつまでも残るからいいよね。
夕凪もお祭りを楽しみにしてる」
卯波の背や、髪をじっくりと見た。
嬉しいようで悲しかった。
記憶のあのままだったあなたが変わって、はっきりと気づいたような気がした。
きっと、秘密基地にいつまでもいられないのだ。
記録を残し続けたいことが、未来をしっかりと見ているようで閉じこもってる自分を自覚してしまった。
「 、お祭りに終わって欲しくないなって思っているんだ。
卯波は、どう? また来年も、こうして遊びたいって思っている?」
見送る前、そんな言葉を投げかけていた。
浴衣を着て境内に訪れた。髪は結わずに、手にはヨーヨーを持っている。
| >>19 髪置くん 見慣れた風景が後ろに流れていく。 自転車なんて殆ど乗らなかったから、同じ景色でもなんだか不思議と見たことないもののように思えた。 「……ふふっ」 一人であっても気にせず朗らかに駆け回っていた君。君はこんな景色を見ていたのかな。 幼い頃よく眺めていた、窓の向こうにいる君と同じ景色を見ているような気がして、ちょっとだけ胸が弾んだ。たまらず、前に座る貴方の背中にごちん、と額を戯れにぶつけてみせた。 二人を乗せた自転車はお祭りへ。 (26) 2021/08/15(Sun) 19:18:16 |
| 涼風は、思った。りんご飴やいちご飴は上位存在があるのかと。りんロク、いちシチ、りんジュウ、いちジュウとか… (a10) 2021/08/15(Sun) 19:22:04 |
凪
「ずっとお祭り……ふふ、素敵ですね。
ほんと、そうならどれだけよかったか」
今だって夢見ている。
ひしひしと感じている、迫る現実が全部嘘で、何もかもが嘘になって、夢のままでいられたら、なんて。
夢は、叶わないこそ夢だって、思い知ったのはつい最近のことだ。
「俺は……来年も再来年も、
十年なんて時間を待たず、みんなと遊びたいと思ってますよ。おじさんおばさんになるまでずっと遊んで、撮って。
そうなればいい。そうなるために、これからを」
晶兄の方に向かっていき、
その途中で顔を向け、歯を見せて笑う。
「歩んでいくんです」
| >>c15 夕凪 「あ、夕凪姉ちゃん」 一緒にやって来た黒髪の少年と一旦解散するか何かしたのだろう、自由行動中ですといった様子でふらふら一人歩いていた少年は貴方の姿を見つけて声をかける。 「夕凪姉ちゃんも来ていたんだ。ふふ、浴衣姿も綺麗だね。よく似合ってるよ」 片手に持っているヨーヨーを目で追いかけて、どこか子供らしい光景にほんの少しだけはにかんだ。 (30) 2021/08/15(Sun) 19:42:02 |
「お。
よーうアカネ。
アキラと卯波も一緒じゃん。おっす。」
食べ終わったたこ焼きの空はゴミ箱へ。
着飾った友人を頭のてっぺんから足の先までまじまじと観察して一言。
「馬子にも衣装?
あ、卯波はにあってんね。
でもカーディガンは暑くね?卯波寒がりだっけ。」
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