人狼物語 三日月国


150 【R18G】偽曲『主よ、人の望みの喜びよ』【身内】

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三十三

生への執着を知る。
生かすための決意を聞く。
生きるための覚悟を見る。

「…………」

ずっと、考えていた。
人を人たらしめるものは何なのかと。
進化を続ける理由は何だろうと。


目を細め、貴方の姿を焼き付けるように視線を注いだ。

「制服。そんなのもあったなぁ。そこまで時間が経っていないのに、ああ、ああ、なんだか遠く。ふふ、ふふー。
あの人は、あの時から、あの時に?ふふ。

 ええと……はい、ええ、人前に出る際に酷い怪我を隠したい時とか、きっと役に立つかと。
よかった、無駄ではなかったんだなぁ。


生前なら内に留めておけただろう余計な思考も垂れ流しながら、貴方にお願いを託す。

「……誰もが。血で手が汚れている人でも?」

貴方が一度部屋を出る直前辺りだろうか。
こてんと首を傾けながら、無邪気にそう言葉を投げかけただろう。

【人】 西へ行く カナイ


斯くして人と異形の間と化した者はその動きを止めた。

臆病者はそれを見て取って暫くの後、
漸く殆ど硬直したように掴み掛かったままの手を脱力させ、

────ぱきり、


罅の入るような微かな音がして、
その後に透明な凶器が一斉に砕け、
両者は束の間この現に創られた地獄から解放された。

「い"、ぁ う"ぇ ぇっ、」

砕けた拍子に破片が再び肉や臓腑や神経を傷付けて、
倒れ込んだ事によってそれがまた深くへ潜り込んで、
言葉にならない悲鳴を上げ、血反吐を吐いて嘔吐いた。
これも、あの人にした事が自分に返って来ただけの事。

怖い。
怖い。
怖い。
死ぬのは怖い。
逃げたい。
けれど死からなんて、逃れられるわけがない。
(34) 2022/06/08(Wed) 0:20:03

【人】 西へ行く カナイ


「──、……深和さん…」

焦点が定まらなくて、前がよく見えない。
血がどんどん流れ出ていって、寒気がする。
全身から力が抜けていって、指先一本動かすのも億劫だ。
ああ、怖くて仕方がない。


「ぶじ、ですか そこにいますか……?」

それでも余計な思考を追い出して、
理性を掻き集めて、唯一正常な思考に意識を集中する。
まだ、伝えなければならない事がある。
(35) 2022/06/08(Wed) 0:20:50

【人】 西へ行く カナイ


「…仮眠室、に、……弓日向さんが、います」

迎えに行く・・・・・と行って会議室を後にしたけれど、
その後にこうして駆け付けた叶は少女を伴っていなかった。
そのわけを、自らの罪を、話しておかなければならなかった。
あなた達に無用な不安を与えてしまわないように。

「奈尾さんと、…おなじ、ようになってて」

「どうすることも でき、なくて おれが、やりました」

「……あの子が使ってた端末、
 あの部屋に おきっぱなしに、しちゃって」

抱えていた願望、そして呪詛。
叶わなかった望み。

それを与り知らない所で他者に知られるのは嫌だろうから、
大半のテキストファイルにはロックを掛けたけれど。

それでも、唯一の遺品と呼べるものだから。
生きて行く人に託したかった。
(36) 2022/06/08(Wed) 0:22:00

【人】 西へ行く カナイ


「…あはは……」

「頼まれたこと 全然、できなかっ た」

無事で、と言われたのにこのざまだ。
頼んだと言われたのに、迎えに行った少女の事も救えなかった。
生きてという最後の望みさえ叶えられなかった。

当たり前に頼まれた事を、
当たり前にやってのける事すらできなかった。
ああやっぱり、自分はどうしようもなく不甲斐ない人間だ。

「おこられ、るか なあ……」

それなら、怒られても、仕方ないかな。
(37) 2022/06/08(Wed) 0:23:14
カナイは、罪の重さは自身が計るものではなくて。
(a52) 2022/06/08(Wed) 0:28:47

カナイは、与えられる罰も自身が決めるものではないと思っている。
(a53) 2022/06/08(Wed) 0:28:58

カナイは、それは、罪悪感の有無に関わらず。
(a54) 2022/06/08(Wed) 0:29:19

カナイは、だからこれは、なるべくしてそうなっただけの事。
(a55) 2022/06/08(Wed) 0:30:29

三十三

「そうですか。……」
「報われるとか、報われないとか。気持ちは分からないけれど。
 みんないきてほしいなってことは、わかるなあ」


短く返事をして、青年を見送った。

それは博愛などではない。殆どの行いは自分のため。
きっと貴方はこれからもそうであり続けるのだろうと、そんな印象を抱いて。
貴方の写真はブレることがなさそうだな、とも。残った知性はそう判断した。

「早くおきてくださいね。篝屋さん。貴方の死は礎になりません。
 三十三さんが頑張って生きるには、貴方も生きていないと。今は多分、きっと。
 はやくはやく。ねーぇ。ふふふ。
 おれはまだ、みていませんから。みたいですから。ゆるしません、ゆるせません」


近くに寄って、怪我の具合を時折検分しながら篝屋の顔を覗き込む。

再度此処に三十三が来るまで、未だ意識を失い続ける青年に意味を持たない笑い声を撒いていたのだった。

【人】 西へ行く カナイ


「あは、は」

あったかい手だなあ、なんて思って。
自分の手が冷たいだけだと気付いて、おかしくて。
その後に続いた言葉が、なんだかもっとおかしかった。

「おれが、あなたにとって……恐ろしいものじゃ、ないって
 保証もないん、だから。喜んだっ て、いいのに…」

零れ落ちる涙が少しだけ手を濡らしたような、ないような。

自分が二人の秘密を暴露する可能性だってあっただろう。
自分があなたに危害を加える可能性だってあっただろう。
不確定要素が減るのは、喜ぶべき事だ。

「でも、」

「よかった」

あなたが無事でよかった。
でなければ今こうして正気は保っていられなかっただろう。

許さないでいてくれてよかった。
平気な顔をしていたら、恐ろしいと思っていたかもしれない。
(44) 2022/06/08(Wed) 3:27:52

【人】 西へ行く カナイ


そう言う深和さんだって、
さっきも今も急に呼び付けてばっかりだったくせに。


そんな子どもじみた反論は、
あなたとは逆に、心の内だけのものとなった。
いよいよ力が入らなくなってきて、
息を吸って、声を出す為に腹部に力を入れる事も難しい。

安堵するにつれ、意識が遠退いていく。
それはきっと、この臆病者を最も強く突き動かす意思が
不安や恐怖から成るものだからなのだろう。


曰く、死の間際、最後に残る感覚は聴覚なのだと言う。
そうは言っても限度はあるもので、
そもそも音として聞こえていたとしても
夥しい量の血を失った脳が意味を理解できたかは定かじゃない。
(45) 2022/06/08(Wed) 3:28:20

【人】 西へ行く カナイ


────けれど。

頭の中に直接響くような声に、
心の内にそっと、深く染み込むような安堵に。

能力の行使に必要な触媒は、恐怖の対象。
恐れるものが無ければ、この力は無いのと同じ。



「     」


きっと、ここに来て初めて、やっと。穏やかに笑って。
(46) 2022/06/08(Wed) 3:29:16
カナイは、そっと瞼を下ろした。
(a60) 2022/06/08(Wed) 3:29:24

カナイは、待っている。
(a61) 2022/06/08(Wed) 3:29:30

カナイは、いつか日が昇る事も、いつか日が沈む事も。
(a62) 2022/06/08(Wed) 3:29:36

カナイは、静かに眠ったまま、そのどちらをも、待っている。
(a63) 2022/06/08(Wed) 3:29:41

西へ行く カナイは、メモを貼った。
(a64) 2022/06/08(Wed) 3:30:04

西へ行く カナイは、メモを貼った。
(a67) 2022/06/08(Wed) 5:45:47

カナイは、それで満足だ。
(a68) 2022/06/08(Wed) 16:12:39

 




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