人狼物語 三日月国


203 三月うさぎの不思議なテーブル

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  いえ、普段出勤ルートしか歩かないので……
  良いですね、藤棚。見たいな。
  いつもお店のことばっかり考えて、花の移り変わりとか
  ……そういえばろくに見てなかったかも……


[ 問いには首を横へ振り、春の訪れを想いながら。
  春夏秋冬の彩りを楽しむことを、こうして教えてもらって。
  背負っている大きなリュックから取り出された、
  温かさを与えてくれる携帯用の座布団に目を瞬かせ。 ]


  …良いんですか? ありがとうございます。
  …………ふふ、スカート、好きなんですね?


[ 遅れて耳へ訪った強調は流石に察するものがある。
  大咲も好きで制服にスカートを選んでいる。
  お揃い、だ。
  少し揶揄うように笑い、それからそっと、息を吐く。 ]
 

 

[ 神田が横に座れば、大咲はぽつりと口を開く。
  強調された言葉によるスカート好きの露呈により
  僅かに緊張は緩んだけれど、無くなったわけでもない。 ]


  んー……どこから話せばいいかな。
  ちょっと話すの下手でも、許してください。

  私ね、母子家庭で。
  物心ついた時からお母さんしかいなくて、多忙な人で。
  机の上に毎朝置かれてるお金で生活してたんです。


[ 何の仕事をしているのかも、良く知らない。
  ただお金は置かれ続けていたから何となく
  多忙な人なんだと思っているだけ。 ]

 

 

  で、小学校の……高学年くらいのころだったかな
  お母さんが作れないくらい忙しいならと思って
  興味もあったし、料理し始めたのが切欠でした。
  美澄くんのおばあさんがやってたお店。
  あそこで食べたあったかいご飯が美味しくて。
 
  大事な人と、一緒にご飯食べたいなぁって、
  ……そんな思いも、ちょっとだけ。


[ まあ最初は悲惨でしたけどねぇ、と茶化した。
  重い空気にしてしまうのも嫌で
  別に、それ自体を引きずっているわけでもなくて。 ]


  毎日作った料理を置いておくんです。
  そしたら朝起きて、一口も食べられないまま残ってて、
  でもお金は毎朝置かれてて。


[ 嫌いな食材も知らない。アレルギーでもあるのかも。
  そんな風に思いながら、そんなわけないと知っていて
  何年も。 ]
 

 

  高校一年の母の日に、初めて、ケーキを作ったんです
  周りに何を言われても、お母さんは
  お金をかけて私を育ててくれたから。
  お礼のつもりで、これなら食べてくれるかなって。


  そしたら、……次の日、捨てられちゃってたんですよね
  料理は捨てずに残すだけだったのに、
  わざわざ捨てるくらい迷惑だったんだ、と思って。

  私がお菓子を渡すの、迷惑だって思っちゃうのは
  ずーっとそれを引きずってるだけなんです。


[ 寒々しい筈なのに、不思議と寒くないのは
  彼が用意してくれた温かい座布団のおかげでもあり
  きっと繋がれたままの、手の温もりがあったから。
  「いやー、そっからは数年荒れましたねえ」と言って
  えへ、といつもと変わらぬ笑みを浮かべた。 ]

 

 


  でもやっぱり、料理が好きなんです。
  だから生まれ変わるつもりで、今のお店に頭下げましたね
  作ったものを食べてくれるだけで十分嬉しいし、
  喜んでくれたらもっと楽しい。

  美味しいって言ってくれる人はいっぱいいるけど
  神田さんは特に、幸せプラスとか、色んな感想とか
  "また私のクッキーが食べたい"……とか。
  ……多分、神田さんにとっては何気ない言葉でも
  私にはなにより欲しかった特別をくれました。

  勝手に救われた気になってたんです、……重いですけど。


[ 一回だけ作ったのは、ここでなら、と思えたから。
  でもやっぱり怖くて一歩下がり直してしまったとも。
  知って欲しくて話す時間は随分長く感じたけれど
  まだ告げたいことは、ひとつあるのだ。 ]

 

 

  私、お母さんのことは恨んだり嫌いじゃないです。
  育ててくれたのは本当だから。

  正直まだ、お菓子…特にケーキを作るのは怖いです。
  ……でも、いつかもし、大事な…特別な人ができたら
  いつか作っていきたいって、ずっと、思ってて。

  あの。…………あの、ですね


[ 言い淀む。
  けれど"言わずに後悔した"過去が大咲の背中を押した。
  どんな顔で聞いているか、怖くて見れずにいた神田の方を
  恐る恐る見上げて、髪を揺らして。 ]

 

 


  神田さんのこと、好きです。
  ……お客様としてとか、そういうのじゃ、なくて。

  いつか特別な人に作りたいと思ってたケーキ、
  神田さんが、食べてくれませんか。
  他の、まだ作れないお菓子も全部、一番最初に。

  後、あと、……一緒にご飯も食べたいです。


[ だから、"勘の良くない"私に、
  どうか頷いて 答えを教えては、くれませんか。** ]


 

【人】 会社員 レイラ

― 現在/店→


は〜〜〜…… 疲れた……


[その日の玲羅は疲れた顔で
とぼとぼと夜遅い繁華街の中を歩いていた。

飲み会で酔った上司のおじさんに
今度ご飯でも行かない?としつこく絡まれた帰りだからだ。

いや、いいひとなんだよ。
普段は男女問わず部下にも優しいし、
融通も利くいいひとなんだけど。
お酒が入るとちょっとばかし下心が明け透けになるのである。
セクハラアルハラだと何かと過敏に叫ばれる昨今ではありますが、
玲羅は別段彼を糾弾する気にもならない。

だって人類は下心があるからうまく回っているのである。
勿論行き過ぎはよくないけど、まあある程度はお互い様でしょ。
これは玲羅の持論である。]
(93) 2023/03/07(Tue) 14:28:18

【人】 会社員 レイラ

[片手でスマホを持ってアプリを開いた。
大丈夫だった〜?と先輩からの心配。
友達からのって次休みいつ?って連絡。

それらを流し見て、書きかけの文章が目に留まる。]

「友達から手作りアクセサリー教室の招待券貰ったんだけど、よかったら一緒に行ってみない?」


[最近新しく追加された連絡先宛に打ちかけて
送信ボタンが押されていない文章は
結局下書きに保存されたまま。]
(94) 2023/03/07(Tue) 14:32:19

【人】 会社員 レイラ


……はあ。


[これを送って、別段悪い顔をされることも
ないんじゃないかなあとは思う。
6.7割くらいでいいよって返ってきそうな気はする。
あの無邪気な笑顔で。

でも、何となく送るのを躊躇ってしまったのは――……]
(95) 2023/03/07(Tue) 14:43:53

【人】 会社員 レイラ



(あー……なんか……酔ってんのかなー……)


[疲れているからだろうか。どことなくネガティブなのは。
スマホをしまい、とりとめなく考えながらぼんやり歩き。

うさぎ穴にたどり着いたのは、
帰ってきたオレンジうさぎを出迎える人々の波からは
多分少し遅れてから。

こんばんはあ〜と店内に声をかけ、
カウンター席の隅っこに腰かけて
取りあえずサービスのお茶を貰おうかな。**]
(103) 2023/03/07(Tue) 15:41:47

 僕は出来ない約束はしない主義なんだ。

[これは「かわいい」を控え目に、というお願いに対してだけれど。
これまでやこれから自分が結ぶ約束は、「できる」と確信しているものだという意味も籠っている。]

 諦めて。
 多分これ控え目になる日は来ないから。

[けらけらと笑う。
揶揄っている訳ではない。]

 ああでも、誰か周りにいたら我慢しなきゃいけないな。
 そんな可愛い顔、僕以外に見せたくない。

[我慢なんて出来るだろうか。
まだまだ知らないことはたくさんあって、知る度に「可愛い」が勝手に口から零れてしまうくらい、既に真白でいっぱいなのに。

――ほらまた。
肯定するだけじゃなくて、恥ずかしがりながらちゃんと「自分も」と伝えてくれるところが、自分は――]

 この手が僕の幸せをつくってくれるんだよなぁ。
 特に大きい方じゃない僕の手でも包めるくらいの大きさで、いつも。
 ふふ、あったかい。
 あったまり過ぎて手汗かいたらごめんね?

[予防線を張っておくのを忘れない。
既にじわりと滲みそうなのを止める術は持っていない。]


 僕ができるだけ長く一緒にいたいからだよ。
 登山が好きだから歩くのは全然苦じゃないの。
 ああそう、車も仕事で必要だから持ってるんだけど。
 次、仕事で終電逃した〜って時は呼んでよ。
 駆けつけさせて。

[ぎゅっと手を握った。
今まで夜に一人で彼女が歩いている時に何かが起きなくて良かった。]

 そうそう、勿体ぶる訳じゃないけど、
 仕事の話は後でね。

 藤棚は咲きそろったらまた見に来よう。
 夏になったら小学校がひまわりの鉢植えずらーって並べるし、
 秋は老人会の人が焼き芋焼いてお裾分けくれたりもする。
 この冬に大人げなく中学生と雪合戦して負けたから次は別の楽しみ方考えてるとこ。

[公園に着くまでの会話は、浮かれているからか自分の方が饒舌だった。
尤もいつもお喋りだから、目立たなかったかもしれないが。

彼女のスカートが好きだというのがバレて指摘されたら照れて少し唇を尖らせて。]

 スカートだけじゃなくて、その如何にも女の子って感じのデザインのブラウスも、モコモコの上も好みだよ。

[と白状した。
それを彼女が着ているから余計好きになりそう、とも。]

[ベンチに並んで座っても、繋いだ手は解かないまま。
荷物を下ろして、タンブラーは横に置いて。
彼女が気持ちを整えるのを待つ。]


 ホントに嬉しかったからね。
 僕も改めて、ありがとう。


[改めて礼を言われれば、礼を返す
前置きをする彼女の瞳をしっかり見つめて「うん」と返した。]


 全部聞かせて。
 順番もマシロちゃんが話したいようにで大丈夫。


[「初めて」。
あんなに仲の良いうさぎ達にも話さなかった、話せなかったこと。
知りたいと踏み込んだ覚悟は繋いだ手にもう片方の手を重ねさせる。]


 ――うん。

[それから始まった打ち明け話。
最初は彼女の家庭環境から。

料理を始めたきっかけを知ると「へえ」と眉を上げ、自分の記憶にもある店の話題に店主の笑顔を思い出しては目を細めた。
小学生の真白が悪戦苦闘をして料理を作る様子を想像して、茶化す言葉には「うんうん」と頷いた。]


 ――っ、


[ああそれなのに。
想像だけで可愛さいじらしさに頬が緩んでしまうのに、彼女のやさしい気持ちのこもった料理は。
話の腰を折りたくなくて堪えたが、上向いていた唇は下がり、眉根に皺が寄る。]


 
は?!
 え。


[だが、母の日のエピソードは、それよりもなお悲しい記憶だった。
堪え切れずに険のある声が零れ、聞いた内容を反芻した。

彼女がお菓子を作るのに勇気が必要だった理由。
技術的に全く問題がないのに、「迷惑」と口にして恐れてしまう理由。

 (なんだそれ。なんだよ。)

荒れましたね、なんてさらっと言う彼女の笑顔がいつも通りで、「数年」を折り畳むことにした彼女の苦労を思う。
生まれ変わるつもりで白うさぎとなって、たくさんの料理で人を笑顔にしながら、彼女はずっと高校1年生の自分を背負っていたのだ。]


 っ、


[僕は、と思わず口を挟みそうになったが話はまだ終わっていなかった。
彼女が「恨んでいない」と言ったところで自分はもう今後彼女の母親を許せはしない。

「いつかもし」なんて聞いたら、そのポジションは自分にと身を乗り出して、今度は間違いようのない言葉で自分の想いを告げようとした。
恐る恐る見上げてくる瞳を見つめて口を開きかけ、]



 っっ!!


[ひゅっと空気の音が鳴る。

言いかけた言葉の前に重ねていた方の手が離れて彼女の肩に触れ、繋いだ手はぐい、と強く引く。
彼我の間にカメラがあることはすっかり頭から抜けていた。
唐突に転んだ時でさえ、絶対に話さなかったカメラの存在を忘れる瞬間がくるなんて、とは後から思い返して驚いたこと。]


 
好きだよ!


[近くに人がいるかどうかも見えていない。
抱き寄せた彼女の耳に届く鼓動に負けない大きさの声ではっきり言う。]


 あー先に言わせちゃった。
 カッコつかないなぁ。

 ……好きだよ。
 マシロちゃんが。
 知りたい、手を繋ぎたい、抱き締めて独り占めしたい。
 そーいう意味で。


[そっと体勢を戻した。
ここは外だし、固いカメラが身体を圧迫する痛みもあるから。]



 一番に食べたいし、マシロちゃんが作り慣れてお店で出すことが平気になっても食べたい。
 聞き飽きるくらい「おいしい」って言うから覚悟しといて。

 いつか、マシロちゃんにとってお菓子をつくることで思う記憶が全部僕になればいいって思ってる。


[強引に引き寄せたから彼女の前髪は乱れてしまったかもしれない。
そうでなくても肩から離した手は吸い寄せられるように髪にそっと触れた。]


 一緒に「いただきます」と「ごちそうさま」をしようね。
 後、僕結構自炊する方だから僕の料理も食べてほしいし、一緒に作ったりもしたい。


[お金しかくれないのにそれを「育てる」と評して、理由も知らされないまま料理おもいを否定されても「恨んでいない」と言う程求める彼女の母親にはなれないけれど。
タイムマシーンに乗って、辛かった時の彼女の頭を撫でることも出来ないけれど。

傍に居たい。
傍にいるのは自分でありたい。]


 話してくれてありがとう。
 僕は普通の家庭で育ったし、親に対して何かしてあげようみたいなやさしさを持ってないから否定された経験もない。
 マシロちゃんのお母さんが食べなかった理由も考え付かないし、正直部外者だけど「ふざけんな」ってムカついた。

 ……「わかるよ」って安易に言えない自分のうっすい人間性が嫌になる。

 けど。
 
 マシロちゃんに一番幸せにしてもらえるのは僕だって自信だけはあるよ。
 僕が君のことで幸せになることを喜んでくれるなら、マシロちゃんを一番幸せに出来るのも僕なんじゃないかなぁ?


[たくさんの料理を評してきたライターの割に語彙が貧困だと言われればぐうの音も出ないが、気持ちのままに。]



 ……どういうとこが好きか、言ってもいい?


[疲れているなら別の機会にするけど、と前置いて。**]

メモを貼った。

【人】 会社員 レイラ

― 余談ですが ―

[なお、後日の高野後輩からの相談事>>127には
情報が少ない!!と思わずその場で口に出した。
いやデートの場所の好み、だいぶ人によるやつじゃんかそれ。
しかも多分恐らく性別も違うのでは?参考になる??
と思わないでもなかったが。]

「場所にはそこまで拘んないけどさあ。
前に自分が興味持ってたこと覚えててくれたりすると嬉しいよね!
あとめっちゃ歩くとか、めっちゃ食べるとか、
準備や心構えが必要なら事前に教えといて欲しい。」

[そう真面目に無難な答えを返したと思いますよ。検討を祈る。**]
(177) 2023/03/07(Tue) 20:10:05

【人】 会社員 レイラ

― お店に入るちょっと前の話 ―

 
 ……あれ?はづ、


[お店の前に辿りつけば、
葉月が開かれたドアの前で立ち竦んでいるのが見えた。>>174
葉月さんじゃん。こんばんは〜、と声をかけようとした時に
弾かれたように彼が店とは逆方向に駆けていく。]


 ……え…?


[呆然と、その背を見つめ。
暫しその場で立ち竦む。]
(186) 2023/03/07(Tue) 20:22:10
 

[ 
大咲もしかして死んでしまうのでは……?

  お願いは華麗に躱され、けらけら笑う神田の方を
  桃色うさぎに改名した方が良いような頬の色で
  うぅ、と見つめるしか出来なかった。

  出来ない約束はしない主義 と、いうのは。
  きっと、可愛いを控え目に、以外の意味も込められていて
  これから彼が結んでくれる約束の糸は
  絶対解れたりしないことを 教えてくれているみたい。
  ……みたいじゃなくて、実際そうなのだということに
  気付かないほど、大咲も勘は悪くないが。 ]


  …………見せたくなかったら、隠して、ください。
  その、……神田さんが。


[ 私は「可愛い」以外にも、貴方がくれるもの全てを
  きっと頬を染めて受け止めてしまうので。 ]
 

 

[ 自分も繋ぎたいと紡いで重なった掌が温かいのは、
  きっとお互いに緊張と、跳ねる心臓が脈打つせいだ。
  彼から齎される言葉のどれもが大咲の心を揺らすから、
  張られた予防線に垣間見える緊張は寧ろ有難くて。

  どうにかいつものように軽口を叩く……より早く
  ぎゅっと強く手を握られ、急速に頬に熱が集まった ]


  ……ん、と。
  私も出来るだけ長く一緒にいたい、です。
  だから 今日は……ううん、これからも
  お言葉に甘えたいし、甘えます、けど

  次の日予定があったり、体調が悪い時とかは
  絶対無理して応えようとは、しないでくださいね。


[ 迷惑じゃ、なんて言葉は彼の心配を助長させてしまう。
  でもここだけは譲れませんから、と。
  代わりに終電後、ひとりで帰る時は歩くのをやめて
  タクシーなり何なり、安全な帰宅方法を選ぼうか。 ]
 

 

[ ちゃっかり「登山好き」は頭の中にメモして
  神田さんフォルダへ丁寧に保存しておこう。
  一緒に藤棚を見に来ようという未来の約束に、頬を緩め
  「はい」としっかり頷いて。
  饒舌なお喋り内容は、ふふ、と楽し気に笑って聞いていた。
  中学生と雪合戦して負けたなんて、可愛いな。
  じゃあ次は私と雪うさぎ対決しましょうよ、とか。
  そんな返事をしながら。 ]


  ……こ、これ以上喜ばせてどうするんですか、ほんと…


[ 困ってないけど、困ってしまう。恋は矛盾だらけだ。
  これから可愛い服を買うのに更に時間をかけてしまうし
  常に貴方のかわいい、を更新できる自分でいたい。

  そんな時間を経て、ベンチに座って。
  優しい言葉に背中を押され
  大咲は初めて、お菓子作りを厭う理由を語っていく。
  重なったもう片方の掌が、心の雪を解かしていく。 ]

 

 

[ ご飯を食べてくれなかった話の時は。
  横で何かを堪えたのを、話しながらでも感じていた。
  話を途切れさせないようにという配慮を有難く受け取り
  しかし、ケーキの話はやっぱり、
  隣から穏やかでない色を含んだ声が零れ落ちてくる。

  だから食前には言いたくなかったのだ。
  こんな話を聞いた後に、彼だけのうさぎのクッキーをなんて
  もし同情でも覚えさせたらと思うと、言えなかった。
  ……料理の味を変えてしまうというのも勿論だけれど。

  優しい人だ。他愛なく人を喜ばせることができる人。
  大咲なりの恋の向け方は、多分、隠し通せてはいなくても
  それゆえに、あの時語ろうとしなかった。
  もし彼が他に想う人がいたとして、大咲の過去の話が
  邪魔してしまったらどうしよう──と。

  料理人としての自己肯定感は高くても。
  ひとりの大咲真白を肯定するには、
  あの日のケーキがどうしても傷痕になっていて。 ]

 

 




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