205 【身内】いちごの国の三月うさぎ
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[一人、気配がなくなって、静かになった浴室。
ぽたり、ぽたりとスポンジから落ちる雫の音を聞きながら。
ちゃぷ、と湯を揺らして、膝を折り曲げ。
膝を立てたら、そこに腕を乗せて沈む。
彼と初めて交じりあった身体。
一人でいくらしても慣れなかった快楽。
彼の手で簡単に拾えてしまったことを、
思い返して、ほぅ、と甘い息が溢れる。]
……癖に、なるかも。
[湯船に身体を沈めながら、ほつり、呟く。
彼には零せない秘密の感想は。
浴室のボディスポンジだけが、知っている。]
[着替えはもってきたものの、寝間着はその日の
服のまま眠ればいいかというぐらいに思っていたから、
風呂上がり、寝間着がないことに気づいたのは後の祭り。
そのままでいいと言われた、布団に滑り込めば、
肌が直接触れ合って温かさを分け合えるから。
それも、いいかと温かくなってきた気候も借りて。
寄り添うように肌を合わせて、眠りに就いて。
まだ朝日も差さない頃。
一人、目が覚めたなら。
規則正しく呼吸する彼を確かめて。
腰元の傷跡に、
慈しむように、口づけを落とした。
]
[翌朝、一番に耳にするのは。
いつもの目覚まし音ではなく、彼の声。]
……ん、
[薄っすらと開けていく視界は、いつもの自分の部屋じゃない。
コーヒーの香りを漂わせる室内に、
愛しい彼の姿が、ぼんやりと視力の悪い目に映り込む。]
……はよ、……ンッ、
……おはよ、 ございます……。
[掠れた声を飲んで、挨拶を言い直して。
気だるさの残る身体を起こせば、
彼が夜更けに変えてくれたシーツが肩から滑り落ちてく。]
[ 名も無い夜が更けて、二人で迎えた朝は、
それはそれは、とても幸福な――一日。**]
―― 流れ行く季節 ――
[付き合う、少し前、からだけど。
来店する頻度が以前よりも増えた気がするのは、
気の所為じゃない、気がしている。
例えば、隙間時間をを縫うみたいに突然。
例えば、会いたい、と一言メッセージが送られた後。
例えば、片付け当番がなく早上がりの日。
俺と過ごす時間を確保するみたいに。
店で待って居られたりすると、ほんのり擽ったい。
そういう頻度増えてきているから、
泊まっていく?という、甘い誘いも断れずに、
頷いて、彼の部屋に行く時間も増えて。
ベッドの上で二人沈むことも、増えていく。]
……明日、早いっ、から……
[そう嗜めた日も、結局。
抱き込まれる腕に抗えずに、肌を這う手に身悶えて。
押し殺そうとする声を、引き出され。
彼の下で、啼いてしまった日も、あった。]
[手放せなくなっていくのは此方も同じ。
それを直接伝えることはなかったかもしれないけれど、
啼いて、縋って、抱き込む腕で伝わっていると、
思っていたのに。心というものは難しい。
彼の言う普通の幸せが、男女での恋や結婚を見据えて、
将来のことを言っているのであれば。
今この手に掴んでいる幸せを失うことのほうが、
怖い、と苦笑を浮かべる夜もあっただろう。
あれだけファンにも愛されているというのに、
時に自分に自信が持てないあなたを、
抱き寄せて、慰めたりする中で、
憂いたり、嫉妬したり、後悔する顔を見れるのは、
俺だけかもしれないという悦に浸っているというのは、
彼にはまだ知られていないと、いい。
俺にもそういった仄暗い独占欲だって、あるんですよ。
]
[ただ、そんな表情を見せた日の彼は、
泣きそうな顔をしながらも、意地悪なことを言う。]
……ぁっ、……ぅ、んッ……、
だ、
め
、 ……それ以上、ッ…あッ
ンぅッ、……は、……ぅッ……、
[甘やかしてといいながら、ぐずぐずに俺の身体を溶かして、
恍惚とした表情を浮かべて、中の弱い部分を。
台本を持つ長い指が、ぐちゃぐちゃと犯す。
好きかと問われれば、そう、なんだけど。
こんな場面じゃなければいくらでも頷けるものを、
後ろで銜えさせられて、指の形を覚え込まされながら。
言うのは、話が違う。]
……は、……ぁ、ッ……、も、ぅッ、
や
[さんざん弄られて、きゅうと甘く指を締め付けて。
そこで感じる、と、知った日から少しずつ。
身体を開かれていくみたいに、性感帯を増やされて。]
[こり、と膨らみを押されて、とん、とんと。
同じ場所を何度も刺激するみたいに、叩く。
ぶわりと一気に上る熱。]
ぁ、ッ……、やッ、 さわらな、で ……ッ
そ、こッ、
……されたらッ……ぁ、ぁッ
[羞恥と快楽を煽られて、ぼろぼろと涙を零しながら。
首を振って、抗うのに。やめない、と宣告されて。
弄られてもいない前が、後孔を探るだけでそそり勃つ。
チカ、とまた襲い来る明滅。
あ、だめ。
と、思うのに。]
……、っふ、ぅッ……
[びく、びく、と痙攣するように腰が跳ねる。
前を弄られないまま、彼の指だけを飲み込んで、
後ろだけで達してしまう程に、感じて。]
[散々啼いて、泣いた、後の微睡みの中。
囁かれた言葉に、
うん、と小さく応えたのは夢現。
分かってる。そんなこと。
生きることを願ったあなただから。
簡単に生を手放しはしないこと。
興味が好意に代わり、好意が愛情になっていく。
好きをもらう代わりに、愛で応えて。
抱き合って、確かめ合って、変えられていく。]
[しばらく痕はつけないで欲しいと願った旅行前日。
正面から抱き竦められて、彼の膝の上。
痕がすっかり薄れた鎖骨に彼の唇が触れる。
ン、と小さく息を詰めながら、髪を引いて。]
だめ、ですよ。
温泉に入れなくなるでしょう?
[ジト目で肌を眺める恋人を窘めつつも、
指でなぞられるだけで、期待に身が震えるくらい。
開発されてしまった身体を必死で抑え込みながら。
ふに、と尖らせた唇を指で押し返す。
そんな拗ねる姿も愛しいと思うくらいに育った感情。
旅行を心待ちにしていたのは、彼だけじゃない。
一緒に、「初めて」を経験する楽しさを、
タンデムしたあの日から、教えられてしまったから。]
[ 思えば、それが――初めての恋だった。
人を好きになってコントロールが聞かなくなる
心の有り様も。欲の有様も。
狭量な男だと思われたくないと思ったのもはじめて
それを口にすることも。
それもそうだ、会いたいも、抱かれたいも
そういう空気を察して、叶えてやらねばと
考えた結果こちらから申し出ていた過去の恋愛と
今は天と地ほどに、違う。 ]
本当にだめ?
それなら本気で拒絶して。諦めるから。
[ 明日が早い。そう言われた日に
零した声は、自分でも聞いたことがないほど
甘く。
余裕を剥ぎ取られて、空っぽになった自分に
愛される素養があるとは思えなくて。
愛情の試し方なんて知らないから、
許されるかぎり、愛を盾に、責め立てて。 ]
だめ?でもこっちは嬉しそうだよ。
ぎゅうぎゅう俺の指食べて。
もっと、って言ってる。
[ 心の何処かで、可哀想に思う日もあった。
仕事終わって、恋人と会ってるのに、
泣くまで追い立てられて。何も悪いことなんて
していないのに。
――それでも拒めないくらい、俺のこと
好きなの。 ]
すごいね、こっちでも
気持ち良くなれるようになっちゃって。
うん、うん、俺のせいだね。
[ 問わずとも知れることをわざわざ問うことはしない。
そのくせ、キスだけは優しく、なんて。
暴力振るった後のDV夫みたいで、
自己嫌悪に飲み込まれたから。
深く反省した。試すようなことはするものではない。
そんな事すら、知らないのかと呆れられて
しまっても、どうしようもないくらい。
――離してやれないくらい 君のことが
好きで。* ]
ん、してる。
[悪戯っぽく視線を流して、笑えば。
降りた腕を取って、手に手を重ねて持ち上げて。
ぱく、と冷えた指先を口に含む。
アイスみたいだと思ったから。
その指先も甘いのかと錯覚して、舌を這わせ。
あったかいと呟く身体を更に熱くして、欲しくて。
*]
[ 行為に慣れてきても、
ぐずぐずに蕩けるまで、あまり声を
上げたがらないから。 ]
じゃ、されようかな。
[ してる、と悪戯に視線を流して笑うから。
そう返して顎先に、キスを。
とっくに参ってるくせに、誘ってくる目が
唇が、いじらしくて。 ]
期待してたよ、今日ずっと。
温泉、一緒に入れますねとか言うから。
[ 指先は誘惑されている最中らしいので
瞼の上から横に少しずつ、唇で触れていく。
擽ったそうに音を拾う、耳までたどり着けば
まだ戯れの延長みたいに、乾いた唇で
触れて、挟んで、擽って。
ときどき、笑って。 ]
あったかい、じゃ済まないね?
[ 口に含まれた指先はすっかり熱を持って
蠢くように、舌先を頬の内側を押して、つつく。
くちゅ、と音が鳴るたび、着実に、
欲に火をつけていくけれど、誘惑はまだ
続いていただろうか。* ]
[素面のままだとどうしても小さなプライドが邪魔をする。
可愛いと言われても、素直に受け取れない思春期みたいな。
敢えて言うならば、それは賛辞なのだろうけど。
受け止めるには照れ臭さが勝ってしまうから、
受け流したり、首を振ったりして抵抗を見せてしまう。
でも、今日は気分がいいから。
可愛いと言われたら愛でられている気持ちになって、
ふにゃりと表情が蕩けてしまう。
誘いに乗るような声に更に機嫌を良くして。]
うん、
[顎先に落とされる唇を笑いながら受けて、
首を竦め、追いかけるようにまた唇を触れ合わせた。]
[期待していたのは朝からだと伝えられて、
そういえば、朝そんな話を振ったな、と。
ウィンドウ越しに見えた表情、
気まずさを紛らわすようにした咳払いを思い出して、
指を食んだまま、くく、と喉奥で笑う。
瞼に降り落ちる唇を受けたら、再び目を伏せて。
咥えた指に軽く歯を立てて、根本まで飲み込んだ。
酒気で熱くなった口腔の中、
ねとりと舌を関節の根本から這わせて、
唇を窄めて、ちゅう、と吸い上げて一度唇を引いて、
また根本まで咥え込む。]
……っ、ン……、
[彼の人差し指を湿らせる間、肌を滑っていく唇が、
耳に届いたら、乾いた唇が耳朶を食んで。
ぞく、といつもみたいに快感を引き出していく。]
[飲み込んだ指が、悪戯し返すみたいに、
内側から頬を突ついて、粘膜を探り、音を鳴らすから。]
……ん、ぁッ ……、
[唾液に塗れた指を一度解放して、酸素を求め。
灯された情欲を隠せずに瞳に滲ませ、俯いて。
自身のTシャツとパーカーの裾に手をかける。
両手で、おず、と裾を持ち上げたら、
日に焼けていない肌が顕になっていく。
あったかい、じゃ済まないから。]
けいと、さんが
あつく、して……、
[首元まで服を持ち上げて、酒で色づいた肌を晒す。
まだ触れられていない赤い尖りは小さく鳴りを潜めて。
その箇所を逸らすみたいに、腰を反らせば。
キスと人差し指だけで僅かに反応している下肢が、
彼の腰元にぶつかってしまう。*]
[ 可愛いと言っても素直に受け取られる
ことはなくて。
なんなら、言わなくて良いと返される
こともあっただろうか。
それが、酒がどうも彼を随分素直に
そして開放的にさせたようで。
ふにゃりと蕩ける表情に、
こちらの表情が固まったのは見逃して欲しい。
今すぐにでも襲いかかりそうになるのを
抑えた故に。
追いかけるように唇を触れ合わせたら
見ないでね、とばかりに甘く下唇に噛みついて。 ]
[ 指を咥えたままで笑うのを見ると、
最初からこのつもりだった?と、
してやられたような顔をしたままで。
瞼に、こめかみに、唇で触れる。
乾いた唇でも、触れられる事を
覚えた体はふるり、と震えて。
誘われた指のしでかした悪戯に、
甘い声が上がれば、顔を引き戻して、
欲に濡れた目と、目線を絡ませれば、
もうすっかりその気になってしまう。
全く持って誘惑のし甲斐のない男で
面目なく。 ]
[ 裾に手を掛けるのが、
やたらとゆっくりして見えて、
小さく、
ぅわ
と声が漏れた。
情欲を滲ませて、誘うには満点の
言葉を紡いで、色付いた肌を見せつけながら
僅かに反応したそれを触れさせてくる。 ]
どこでそんなの、覚えてきたの
[ たまらず、首筋を辿りながら
言葉を直接、肌に打って ]
俺のせいかな、
じゃ、ご期待に沿わないとね。
どうされたい?
[ 教えて、とまた言葉が肌を滑って。* ]
[さすがに朝から虎視眈々と狙っていたというには、
誘い方が浅はかだったと思う。
紡ぐ言葉の一つ一つに嘘はないから、
流れが一貫しているといえば、そうかもしれないけれど。
ただ一杯食わせたような反応を見れば、
計画じゃないと素直に伝える程、馬鹿正直でもないから。
狡く見せる術を、借りて笑うだけ。
優しく落とされるキスはまだ前戯とも言えない。
子供のような戯れ、なのに。
反応を返してくれることが嬉しくて、小さく震え。
唾液に塗れた指を離す頃には、すっかりと欲を湛えていた。
彼にも同じようになって欲しくて、
向けたようなものだから、返された瞳に
ギラリと光るものを見つけたなら、こくん、と喉が鳴る。]
[酒の力を借りないと出来ないような誘い方をして、
外気に肌を晒して、魅せつけるみたいみたいに。
驚くような声が上がったのは、
喜びか、それとも引いてしまったか。
思わず固まったように見えたから、少し躊躇いが生まれた。
我慢できずに誘いをかけてしまったこと、
もしかして嫌だったのかも、という考えが過ぎって。
押し黙って、言葉が告げなくなる。
どこで、なんて問い掛けも。
他の人を匂わせるような物言いで。
こんな姿を見せたのは、彼しかいないのに。
首筋を撫でる手が薄毛を撫でるみたいに粟立たせて、
ぶる、とまた期待と恐れで身体が揺れ。]
[たくし上げた服を、両手で抑えたまま。
耳元で囁く声が、意地悪く、いやらしい身体を責める。]
…… ぁ、ッ ……
[囁かれただけ。何もされた訳じゃないのに。
びく、と声だけで身体が反応を示し、下肢に血が集まる。
慰めるみたいに胸元に落とされるキス。
まだ虐めるわけでもない、触れるだけの。
それがもどかしくて、ぎゅ、と服を強く握りしめ。]
[言えば望みどおりにしてくれそうな誘いに。
はく、と呼吸を震わせ、羞恥に瞳を潤ませながら。
先程、唇を滑らせた赤い尖り。]
さわ、って……
[言葉通りに触れて欲しいというみたいに、
胸を反らしながら、ねだるように口にして。
へたりと彼の片股に跨るように腰を下ろした。*]
[ 触れる度、一つ覚えて。
過ごすたび、いくつも知って。
それでも知らなかったことを知らされる度
時々驚かされて。 ]
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