人狼物語 三日月国


52 【ペアソロRP】<UN>SELFISH【R18G】

情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:


 
[ 生きる為に両親を見殺しにした。

  生きる為に妹を売った。

  生きる為に裏切った兄を殺した。


  生きる為に。
  生きる為に。


  仕方がなかったんだ。]

 

 
[ ────本当に?]

 

 
[ 例えろくでなしの親でも、
  本当は死んで欲しくなかった。

  金の為なんかに、
  本当は妹を売りたくなんてなかった。

  裏切ったからって、
  本当は兄を殺すつもりじゃなかった。]

 

 
[ 自分が欲しかったものは……────。]

 

 
[ 男の顔を見た瞬間、
  無表情だった顔は歪み始めて。

  目玉が零れてしまうかというぐらい
  両目を剥き出しにし。

  大きく開いた口からは
  恐怖に塗れた呻きが零れだす]


   あ、ぁ、あぁぁ……あ。
   ………ああああああああああああ!


[ 溢れる叫び声は止まらない。
  次から次へと零れ落ちていく。
  何時までも、何時までも。]
 

 
[ そうして暫くしてから今度はえづき始め
  胃に微かに残っていた食べ物を口から吐き戻す。

  吐くものがなくなった後も
  胃液を口から垂れ流し、それは止まることはなく。

  吐きながらも、声にならない声を上げて
  その場に座り込んでは身体を震わせていた]
 

 
[ 今、そこにあるのは
  壊れた人形がただひとつ。

  ────それだけ。]*
 



 やたらと素直に言う事を聞くと思ったら……


[いや、まぁ。
いきなり叫び声を上げ、
口にしたものを吐き戻したあの時から
その予感はあったのだ。


こりゃあ、壊しちまったんじゃねぇかって。



悪い予感ばかりがよく当たるってか、
正味、ビンゴだったらしい。


着替えさせる手にもなすがまま、
あの威勢の良い剣士は何処へやら。
ただひたすら震え続けるばかりでなぁ]

[なんとか飯屋に連れていき、
なんのかんのと話しかけたものの
それこそ綺麗な面したお人形さんというか。

はい、とか、いいえ、とかの
機械的な返事を聞くのが精々だっただろうか。


こうなりゃ剣士としては使えねぇ。
食事も終わり、いっそ路地裏にでも
捨ててっちまうかとも思ったが……]


 ────吐いたゲロの掃除くらい、
 自分でしてもらわんと困る。

 ほら、帰るぞ。


[そういうわけにゃあいかんよなぁ。

抱いちまった以上は情が移るし、
身体を造ったっつー意味では、餓鬼みたいなもんだし?]

[何より此処に置いてって、
こいつを他の奴らが好きにするっつーのは
どうにも気に食わないというかなんというか。

そんな訳で、再び館へととって返し]


 こうなった以上、右目奪還は当分お預けだ。

 片目が無いとなー、
 遠近感が判らんと言うか。

 飯と部屋は提供するから、
 館の掃除を頼めるか?


[と、メイド服を手渡してみれば、さて*]

 
[ その後、飯屋では
  何を聞かれたところでその口が
  音を紡ごうと動くことはなく。

  焦点の合わない目は
  ただひたすら虚空を見つめていた。


  館に連れ帰られた後も
  まともな意思疎通は叶わなかっただろう。

  それでも問い掛けには辛うじて首を縦に振って
  目の前でメイド服を受け取っては着替えていく]
 

 
[ そうして着替え終われば
  指示された通りに館の掃除を始めていった。

  床を掃き、雑巾がけをしたり
  特に何も無ければ館内の掃除をする事が
  彼女の日課となっていったか。


  それからは
  館のあちこちを幽鬼のごとく彷徨い
  掃除していく姿が見掛けられただろう。

  何も言わず、その瞳に光を宿す事もないままで]*
 



 廊下がホコリ塗れじゃないだと……


[ぴっとハメ殺しのマジックミラー号窓の桟に
人差し指の腹を走らせる。

今迄なら、何処ぞの田舎演劇よろしく
綿埃やら血痕やらが着いたもんだが。

此処しばらく、そんな馴染みの光景とも
おさらばする事ができたのだった。


──という訳で、普段であれば
短期間で変える隠れ家も
アシュレイちゃんが来てからはずっと同じ館に居続けで。


飯の用意は俺。
掃除全般はアシュレイちゃん。
ちょいちょいやって来る来客のお相手はオーク達という
妙な共同生活が続いていたのだった]

[まぁ、此処に居続けなのはもう一つ理由がある。

俺様の最新の実験体こと、
アシュレイちゃんの状態の観察の為だ。


ぶっ壊れちまったのが
精神的外傷のせいなのか
それとも俺様が行った精神移植魔導手術の
構造的な欠陥のせいなのか。

いやまぁ、いずれにしろ原因は俺様なんだが。

なるべく環境の変化を少なくして
色々試してみたいってなところだな]


 んー……
 ガントレットの宝石内の本体のバイタル値は
 変わら無いっつか、正常の範囲内だよなぁ……

 やっぱ、本体との接続部分な鎖と首輪で
 首絞めちまったのが不味かったか……?


[──だが、彼女が吐いたのはその後だ]



 やっぱその……
 おじさんにアレコレされたのが
 そんっなに嫌だったのかー?


[今日も今日とて全自動お掃除メイドな
アシュレイちゃんの進行方向に立ち塞がる。

っつても、怖がらせちゃいけないから
ちっちぇ子相手にするみたいに
少しばかり身を屈めて目の高さを合わせて]
 

 仲間を全滅させられたり、
 触手に襲われたり、オークに襲われたり、
 女の子にされちゃったり、まぁ、色々あったわけだが……

 アシュレイちゃん的に一番キツかったのが
 俺に手を出された事、なんかな?


[と、試しに無表情な彼女の頬に手を伸ばしてみれば*]

【人】 征伐者 ヴィルヘルム

 
[ 翌朝目を覚ましたのは既視感の酷い状況の中。
  取り乱した誰かの絶叫に叩き起されての事だった。

  意識が浮上した頃には既に、扉の向こうの従者が
  困惑に満ちた声色で入室許可を求めている。
 “それともお飲物をお持ちしましょうか”と訊く辺り、
  動揺の具合が伺い知れる。 ]


       ……んー……? ああ、必要だ。
      水差しとゴブレット、両方貰おう。

            侍女に出させる様に。


[ 寝惚けた頭ながら、最低限の事は為済ませた。
  起き上がると、シーツに挟まり呆然と動けぬ儘であろう
  学友の事は其方退けで書き物机を片付け始める。 ]

[ 放り出されたペンの下には、未だ白紙の遺書。 ]

 
(0) 2020/12/10(Thu) 8:23:13

【人】 征伐者 ヴィルヘルム

 
[ やがて部屋に入って来た侍女に言い付けたのは、
  其処に隠れている“客人”の服を見繕う事だった。
  運び込まれたシュミーズと上衣は少し大きかったが、
  彼女の普段の服装になるべく近いものだったろう。 ]


    言い忘れていたが、今朝は早く出る予定だ。
    馬で半日も進めば帝都が望めるだろう。

          早い処、身支度を済ませてしまえ。
          然も無くばもう一度襲う事になる。


[ 涼しい顔と平坦な口調で告げるのが単なる方便だと
  気付くのは、寝起きの頭には難しいかも知れない。
  どんな反応が帰って来ようと、欠伸を噛み締めて
  何処吹く風といって様子なのだった。 ]


[ 慌ただしく帰還準備が進められる砦の廊下では、
 “昨晩お聞きした際には女は不要と仰ったのに……”などと
  何処から現れたかも分からぬ同衾者の噂が立ったとか。 ]*

 
(1) 2020/12/10(Thu) 8:23:49

【人】 征伐者 ヴィルヘルム

 

[ 僅かな配下を引き連れ、馬上から降りる。
  帰還途中で足を運んだのは城下より間もない宿場町。
  その広場に建つ古びた教会だった。

  騎士団長を務めた勇士はこの街一番の名家の出で、
  歴代の当主と共に緑豊かな敷地の墓所に眠っていた。
  最も新しい墓標の前に自ら花を手向ける。 ]


 ( 戦は終わった。俺もまた終わる。
   だが、彼方で逢うべきではないだろう。

           おまえはもう自由なのだから。
                   それに…… )


[ 墓前にて語り掛ける言葉が無いのは、
  既に別れは済ませてあるから。

  主従であり、幼馴染であり、戦士同士であれば
  乱世の運命など互いに分かり切っているというもの。 ]

 
(4) 2020/12/11(Fri) 2:38:29

【人】 征伐者 ヴィルヘルム



[ 凱旋は箍が外れる兵も多いもので、
  “客人”は常に自分か侍女の目の届く範囲で連れ歩いていた。
  他国の法に一切従わないとは言え、
  懸賞金が掛かれば秘密裏に報酬を求める者も居る。 ]


[ 帰り際、馬上で隣の彼女に語ったのは
  騎士アルベルタが最後に出陣した戦場の話だった。 ]


  彼奴は二千の兵と共に俺が死なせた。
  空挺部隊はそうでも無ければ下せなかっただろう。

    敵将を取る為に多くの駒を失い、
    而して俺は独りでに斃れる最期の一騎となる。


[ 感傷に浸っていた事は言うまでもない。
  従者や護衛に聞かれぬ様に声を潜めて、
  この二人以外の誰の命も懸けさせる心算はないと
  暗に示すような表現を用いた。

         最期に手をかける獲物は一人だけ。 ]
 
(5) 2020/12/11(Fri) 2:39:08

【人】 征伐者 ヴィルヘルム




 ( 必要な犠牲。

   其の言葉を拡大解釈していけば────
   いずれ己もそうだと納得出来るのか?

        ……何もかも滅ぼした後ではもう遅い。 )



[ 帝王学部の特別学科に参謀役として入学した彼女を、
  かの賓客は顔見知り程度としか知り得ないだろう。

  其れでも話そうと思ったのは、踏ん切りを付ける為。
 
■きたかった。たった一つの夢を諦める為に。

  二人だけの物語に、もう他の犠牲者は不要であるから。 ]
 

    [ 誰かを死に至らしめる前に幕を引くのだ。 ]*

 
(6) 2020/12/11(Fri) 2:39:31

【人】 征伐者 ヴィルヘルム

 
[ 数万と続く人の群れは帝都に近付くにつれ数を減らし、
  最後には千人程度が主君に続く様にして残った。
  王宮務めの騎士達を中心とした軍勢は
  昼過ぎには隔壁の麓まで辿り着き。

  堆い門をくぐれば、直ぐ様視界に赤い吹雪が舞った。
  使い鳥の報せを受けて待っていた民衆達が終戦を祝う。
  そして二百年前の皇族に因んだ薔薇の花弁を投げるのだ。

           
再びの力と栄光を祝して

     “Gewinnen Sie Macht und Ruhm zurück!” ]


 ( ────こんな光景を待ち望んでいた訳じゃない。 )


[ 飽くまで戦争に携わらなかった賓客に出る幕は無いが、
  この国の頭目のすぐ後ろを馬で着いていけば
  散々、赤薔薇に塗れる羽目になるだろう。

   民家が立ち並ぶ狭い路地を抜けて大通りに出れば
   視界を覆う程の花吹雪も少しは収まるが。
   見慣れぬ女の姿を民衆が気に止める事はなく、
   手を振り返す君主の立ち振る舞いに誰もが夢中だ。 ]
 
(10) 2020/12/11(Fri) 10:06:49

【人】 征伐者 ヴィルヘルム




 [ 結局は、全て殺めた所で満たされはしなかった。
   正しくは、解放される事に安らぎを見出したのだ。
   ……最期を看取る者が既に在る安心感を。 ]

 [ 薄い笑顔の下、死を恐れぬ戦士の殺伐とした希望 ]


 
(11) 2020/12/11(Fri) 10:07:10

【人】 征伐者 ヴィルヘルム

 

[ 日がだいぶ傾く頃合には王宮へと戻った。
  南西の夕空に浮かぶ白い半月が、
  一週間にも満たない残りの時間を指し示している。


  賓客に与えられるのは寮長時代の自室より大きな部屋と、
  専属の侍女、絢爛豪華な衣装、食事、其れから自由。
  熱い湯を浴び、傷を癒すのも思いの儘だったが、
  たった数日で満喫するには少々此処は広過ぎる。 ]


 ( 『茶でもどうだ』とつい声を掛けたのは、
   もうじき終わる人生だとしても
   積もる話が山程あるからだ。

        その中に、長らく抱き続けた違和感の
        手掛かりがあるのではないか、と。 )


 
(12) 2020/12/11(Fri) 10:07:23

【人】 征伐者 ヴィルヘルム



 ……俺の死が予定調和の上と教えた時、
   おまえは散々俺を咎めたな。

     だが、おまえと其の旧友の過去を聞いた時も
     俺は同じ様に咎めた。
     “誰かの為に死ねる程その命は安いのか”と。

[ 誰にだってもう、死んで欲しい訳じゃない。
  いつか口に出した息苦しさは消えていたが、
  次に苛まれたのは毛色の異なる■の苦しみ。

      収拾のつかない心を見つけ出す為に問う。 ]

 
(13) 2020/12/11(Fri) 10:07:40

【人】 征伐者 ヴィルヘルム

 

[ 薄く口の広いティーカップに注がれたダージリンは
  秋の終わりに摘まれたばかりの皇室御用達の品。
  何度も品種を変えながら、五年の間の出来事を
  心行くまで語り合った。

  何かと口煩いから甘すぎぬケーキを従者に出させて、
  陽の差し込む庭園でなく敢えて自室を選んだ。
  ……本当は、事ある毎に小言を差し込まれることも
  いつからかは鬱陶しく感じなかったのだけれど。


  彼女の“獲物”と看做された夜に、
  どの様な情緒の変化があったのか。それが知りたくて。 ]


   遠い昔の邂逅だったとは言えど、
   おまえが“そんなもの”の為に命を投げ打ったのかと
   苛立ちさえ覚えたものだ。

    ……抱いたことの無い奇妙な思考だった。


[ 彼女にとっては何にも代え難き幼馴染であるとは
  分かっているのに、どす黒い気持ちが抑えられない。
  そうしていつか冷たい言葉を吐いた事さえあった。

     己は運命“如き”の為に魂さえ捧げたというのに。 ]

 
(14) 2020/12/11(Fri) 10:07:59

【人】 征伐者 ヴィルヘルム



( あれからずっと、気の浮き沈みを繰り返していた。)



   おまえも似たような心持ちだったのか?
   肯定するならば、詳しく考える事は止めておく。
   同じだと言うのなら、其れだけで充分だ。


[ 誰かの運命を自分のそれより煩わしいと思ったのも、
  其れが永遠に訪れなければ良いと考えたのも、
  生まれてこの方経験がなかったものだったから。
  凸凹の感情にもいつか当て嵌る時が訪れるだろうか。

 
『満月の晩、夜半過ぎに謁見の間まで来てくれ』
 
  ……そう告げれば、此度の茶会は締め括られる。]*

 
(15) 2020/12/11(Fri) 10:08:18
 
[ 物言わぬ人形は今日も館の掃除を行う。
  館の主人の気持ちを知る事もなき儘で。


  そんなある時、進行方向に立ち塞がる影。
  館の主たる魔王その人である。

  彼の手が頬に触れても、何か反応を返す事はなく
  そのまま横を通り過ぎては掃除を再開するのであった。


  声は届いているのかもしれない。
  それでも表情は冷たく凍った儘。

  手を動かしてははたきで埃を落としていく。]
 

 
[ それからも、掃除を日課として
  物言わぬ儘館のあちこちへ足を運んで。

  日々を過ごす内、ほとんど何も変わらずに。


  けれども少し内側で変化があったのか。

  空を飛ぶ小鳥を指差しては
  「ちゅん、ちゅん」を小さく声を零しては
  両腕をぱたぱたとさせたり、
  オークを目にしては「ぶーぶ」と呟いたり。

  まるで小さな子供のような反応を示していた]*
 

【人】 征伐者 ヴィルヘルム



 [ 幼き我が子を腕に抱く慶びも、
   長らく別れていた妃との再会も、
   戦場を共にした戦士達との祝賀も、
   『我等の王』と慕う民草の言の葉も、

    ────全てすり抜けて、過去の幻燈となる。 ]


 ( 宿業から解き放たれて尚、刻限は迫る。
   何を遺そうにも時間は足らず……
   とうとう遺言は書き上がらなかった。

    新たな国土統治の取り決め及び相続、
    そして新帝が成人する迄の代理人を立て。

     誰にも終わりを仄めかさず、
     終ぞ彼奴にも秘めた
約束
の話はしなかった。 )



 
(22) 2020/12/11(Fri) 22:58:40

【人】 征伐者 ヴィルヘルム

 


  [ 其の理の外側に在る至高の獣が、
    この冠ごと打ち砕いてくれる瞬間を望む。

      冷えた鋼鉄の玉座は心まで蝕む様で、
      黙した儘、目を閉じ其の刻を待った。 ]


 
(23) 2020/12/11(Fri) 23:02:46

【人】 征伐者 ヴィルヘルム

 

[ ────聞き慣れた、鈍い音色が鼓膜を震わせる。
父帝もまた、この玉座であの扉が開く音を聴いたのだ。


  緩やかに瞼を上げれば、謁見の間へと訪れる
  唯一人の姿を視界に収める。

  篝火だけがその輪郭を轟々と照らし、
  朧気な光を受けて佇む王の姿とは対照的でもあった。 ]


   [ 足取りを、佇まいを、揺れる漆黒の髪を。
     大理石の階段の遥か上から、瞳に焼き付けて。 ]



[ 誰もが主君を仰ぎ見る様に造られた百の階段から、
  僅かな囁き声でさえも降ることはなく。
  砂時計の最後の粒が落ちようとしていた。 ]

 
(24) 2020/12/11(Fri) 23:03:05

【人】 征伐者 ヴィルヘルム

 

 [ 隻眼の冷たい色合いと搗ち合えば、
   少しばかり背を伸ばして薄い微笑みを投げ掛けた。 ]


      ( 餞別など必要でない。
         我々は同じ場所へ至るのだから。 )



 [ 糸が切れた様に王座へと深く座り込み、項垂れる。
   肘置きから零れ落ちた片腕がだらりと垂れては
   二度、復元力に引かれる儘に力なく揺れた。 ]

 
(25) 2020/12/11(Fri) 23:03:49

【人】 征伐者 ヴィルヘルム




  ( また直ぐに逢える。おまえを信じているから。 )

  ( 何があろうと殺す。おまえを■しているから。  )


 
(26) 2020/12/11(Fri) 23:04:10

【人】 征伐者 ヴィルヘルム



 [ ────雲間から顕れた月光が、鉄の玉座を照らす。


      冠は真白く煌めき、
         傍らの剣は炎を発し、
            大地は俄に震え出す。


   裸の氷輪と、其れに呼応して姿を変え行く怪物に
   共鳴するかの様に、階段の頂点に黒い霧が掛かる。 ]



 [ 誰も来る事は無い、冷たく孤独な二人だけの世界。
   女の眼前で其れは冒涜的な存在へと姿を変え、

   立ち込めた霧は衝撃波を伴って四方八方へ飛散した。 ]


 
(27) 2020/12/11(Fri) 23:04:34

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム



 獅子の頭に、不確かな影、然して巨大な剣。
 魔力を纏う体躯は到底王座に収まらず。
 数倍に嵩んだ人ならざる姿は憤怒に
える瞳で
 遥か下方の怪物を見下した。


  永く肉体を持てず彷徨い続け、
  漸く再臨の叶った悪魔は未だ不完全であった。
  故に、滅ぼすべきは今この刻のみ。


    砕けた硝子が降り注ぐのをものともせず、
   『其れ』は剣の柄から離した片腕を振るった。


 
(28) 2020/12/11(Fri) 23:05:09

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム

 

  
とは到底呼び難い火が降る。
  頂上から階下へ、命脅かすモノを撃ち落とす為に。


   この瞬間、彼女は救うべき獲物ではなく
   退けるべき怨敵でしかなかった。
   そう、現界を果たした悪魔にとっては。



       

    
   涙  走    

     球       り    の
               
  




  風を唸らせて飛来する無数の焔は、
  逃げ場を無くすかの様に降り注いだ。

   鱗を灼き、尾を焦がし、瞳を煙と変え、
   何れはこの城ごと焼き落とす事さえ厭わなくなる。


 
(29) 2020/12/11(Fri) 23:05:30

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム

 




    今こそ一度限りの舞台へ駆け上がり、
     呪われし運命に終止符を打つ時。*

 月光だけが微笑みながら、其の終幕を見詰めている。


 
(30) 2020/12/11(Fri) 23:05:47

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム



 互いにヒトとしての自我を無くしたならば、
 同様に言葉さえも不要。

 燃え落ちよ、この足許へ至る前に灰と化すべしと
 降り頻る焔が幾千と連なる山脈の如き鱗を灼く。



  不確かな体躯はたった一撃、
  魔除の加護を受けた刃で貫けば跡形もなく消えるだろう。
  故にこそ近付けさせてはならない。
  玉座に至る前に滅しなければならない。



 火球の一つが怪物の顎門に直撃しようかという寸前で
 其れは吐き出された絶対零度の前に掻き消える。
 覆う空気が凍て付けば、焔とは影も形も無くすもの。


 
(37) 2020/12/12(Sat) 1:56:12

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム



 ────獅子は瞳を再び見開く。


 その牙の内側に隠した品の何たるかを識っている。
 忌々しい
約束
だけはこの身に触れさせる事を良しとしない。


 深紅の爪を抱く掌を開けば、
      一際大きい
を振り落とし。

  質量を持つそれは、躱せば自ずと石段を砕く。
  即ち、退路が完全に失われるのと同義。
  然し────この期に及んで背を向ける者など居ない。



  隕石にも似たその影の裏から躍り出る姿が在るならば、
  いよいよ魔剣と化した獲物の柄を握り直す。


 
(38) 2020/12/12(Sat) 1:56:26

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム



 浴びた冷気は纏う熱に触れれば一瞬にして蒸気と変わる。
 視界が歪むのはそのせいだ。

 返礼の如き
哮と共に、
 半月を画く様にして禍々しい刀身を振り落ろす。
 刃の煌めきも、尾を引く残像も其処にはなく。

  まるで光を喰らった様な漆黒だけが、空を裂く。



       蝿でも叩き落とすかの様でありながら、
       確実に身体の正面を捉えようとした一撃を
       擦り抜ければ、その心臓にだって手は届く。

       ────約束を果たすことだって。*


 
(39) 2020/12/12(Sat) 1:56:57

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム




 砕けた彗星の欠片と纏う残り火、
 飛び散った血痕が大理石の上に散る。
 これ迄辿った血塗りの路を示唆する様に。


  薄闇の最中で僅かに煌めいた短剣の誓いは、
  女が姿を変えつつあっても決して身から離れず。
  白銀の残影を、その身体ごとだって両断してしまいたい。


   命に届くか紙一重の斬撃が捉えたのは
    ────僅かに血が付着した石畳でしかなかった。


       
空を仰ぎ……


 
(43) 2020/12/12(Sat) 4:29:38

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム




 月明かりの消えた舞台に舞ったのは、
 ヒトの四肢と貌を取り戻した女の姿。
 撥ね付けられた瓦礫と塵埃が其れを隠せば
 最後の抵抗として振るった腕が形を捕らえる事はなく。



     霧中を跳躍する漆黒の旗めき。
    其れが悪魔の視た最期の光景となる。



 
(44) 2020/12/12(Sat) 4:29:57

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム




 胸を穿った聖なる刃の痛みを享受する前に、
 突き刺さった箇所から錬成された肉体が解けていく。
 黒い煙へと変わり、空気に混じって消失する。

 藻掻けど足掻けど終焉の針が止まる事はなく、
 本分を得る前に全ては拡散して行った。


     十余年を経て成就する筈だった悪魔の目論見は、
     此処で終わりを迎える。実体を完全に無くして。




  其の最中をゆっくりと落ちて行く身体、
  制御を奪われ、悪しき存在に覆われていたヒトの身は
  今は未だ、見付けだす事は叶わない。 


 
(45) 2020/12/12(Sat) 4:30:16

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム





         ────……



 [ 重力に引かれて往くのとは裏腹に、
   緩やかに意識が浮上する。

     燃える様な痛みと共に目覚めれば、
     此処が死後の世界で無い事くらい理解出来た。 ]


   (    嗚呼、終わったのだと。
      同時に……免れない死を感じる。 )


 
[ 激痛に漏れ出そうとする叫びを流動体と共に抑え込む。
  空になった瓶が落ち、足許で粉々に砕け散った。
  懐剣が同様に叩き付けられる音に混じって、
  きっとその存在を誰も気に止めることはない。 ]

 
(46) 2020/12/12(Sat) 4:31:23

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム

 

[ 床に足が着くと共に霧と驚異は去ったが、
  体重を支える事も当然叶わずに崩れ落ちる。
  生まれて初めて膝を折ったのが宮中だとは、
  歴史書でさえ語る事のない、一人だけが知る事実。


  視覚を取り戻していけば、追い縋る様にして腕を伸ばした。
  幕を閉じる場所は其の腕の中でありたいから。 ]



     [ 死に物狂いで血の海を這い、
       よく知った温度に辿り着く頃には
       既に足の先が感覚を失くしている。

        燃える様な痛みは寒さへと変わり、
        平等で残酷で耐え難いものが
        背後に迫る恐怖に襲われる。 ]


  ( 終わりが、来る────……其の前に。 )


 
(47) 2020/12/12(Sat) 4:31:50

【人】 荊冠の王 ヴィルヘルム

 


 [ 温もりを頼りに破れた衣服の上を掌で辿り、
   震える指先で首筋と垂れ落ちた髪に触れる。
   最期の力はこの為だけに使う。
   その顱が引かれる儘に下がり、距離が零になれば。




   
────噛み付く様に、渇いた唇を奪った。
 ]



   [ からん、からんと音を立て、
     黄金の冠が血濡れた階段を転がり落ちていった。 ]



 
(48) 2020/12/12(Sat) 4:34:31

【人】   ヴィルヘルム

 

[ 柔らかな肉を貪ると同時に、舌を突き入れて。
  上から覆い被さる様にして首を伸ばした。
  甘い、何処までも甘い蜜を口端から零しながら
  血と唾液の混ざり合った其れを咥内へ注ぎ込む。


   快楽等ある筈もないが、逃がす積もりもない。
    喉が上下する迄、確実な死を飲み下す迄。
     引き寄せた小さな頭を抱き込んだ儘、
   嚥下する音が耳許を撫ぜるまで決して離さない。



  込み上げる喀血の味を、呼吸を共有すれば
  安らかな死など鮮血と酸素を求め喘ぐ苦しみに塗れる。
  合わさった唇から漏れ出すのはどうあっても苦悩の声。 ]


    [ 其れはサロメの狂気にも勝る、破滅のくちづけ。

        彼女自身が作り出した『罰』を今この場で、
            自らの命と臨終の時を以て返す。 ]


 
(49) 2020/12/12(Sat) 4:35:16

【人】   ヴィルヘルム





( 身を灼く熱情の炎が執着に依るものと知ってしまえば、
  抱く願いなど唯一つ。
  遺言を放棄し、死の運命を秘密として守り通し、
  剰え醜く足掻き、苦痛を増やす道を選ぶ程度には

                
こい

  ────如何しようもない程に
してしまっていた。 )



 
(50) 2020/12/12(Sat) 4:43:00

【人】   ヴィルヘルム




( 死を目前にしてやっと気付いたのは、
  おまえを何処にだってやってしまいたくないという事。

  ずっと満たされなかった奇妙な心地の正体は、
  同じ死の苦しみを味わう事になったとしても
  共に在り続けたいと叫ぶ秘めた想いだった。
  蓋をし続けたのは己だったのだ。


          だから、どうか…………どうか。 )



 
(51) 2020/12/12(Sat) 4:51:29

【人】   ヴィルヘルム





       
     ────……傍に居てくれ、リヴ。

       
   ( Egal was kommt, ich werde dich nie verlassen )



 [ 凍える身体が全身で紡いだ、たった九文字の願い。
   ずっと痛んでいた、空白ばかりが胸を占めた、
   <利己>に限らぬ想いの応えを導き出した。 ]


 
(52) 2020/12/12(Sat) 4:55:23

【人】   ヴィルヘルム

 


[ 互いの唇を結んだのは泡を含んだ赤い糸。
  伏せていた瞳が揺らぎながら愛しい貌を見詰めては、
  散々血に穢した口許を歪めて、弱々しく笑った。


  其れを最後に、とうとう全身の膂力を失い
  首元に回した両腕さえ零れ落ちて、躰は沈んで行く。
  抱き留めてくれると言うのなら、其の温もりの傍で。
  唯独り、死後でさえ離れたくはないと望んだ者の元にて。



   空気を喘ぎ求める事もなく、痛みに喚く事もせず、
   死を受け入れる支度が調えばいっそ穏やかに、
   かんばせを見上げ続けていた瞳を閉じた。 ]

 
(53) 2020/12/12(Sat) 4:55:43

【人】   ヴィルヘルム




[ 其の表情は苦悩に塗れた最期を示すものではなかった。 ]*



 
(54) 2020/12/12(Sat) 4:56:04

【人】   ヴィルヘルム



[ 生涯の最後に浴びる雨がこんなにも暖かいものだとは
  想像だにしなかった。
  返答の代わりに降ったのは、獲物を仕留める様な愛咬。
  獣化の兆候が色濃く残る其れは鋭い痛みを齎して。


    吸い込んだ息は終ぞ言葉にはならず、
    痛覚に呻くこともなかった。但し…… ]


      
人間として見ていてくれた

  ( 俺をヒトの儘終わらせてくれるおまえは、
    向こうでも必ず俺を見つけるのだろう。 )


 
(71) 2020/12/12(Sat) 9:59:43