人狼物語 三日月国


104 【R18G】異能遣い達の体育祭前!【身内】

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神谷 恵太は、一般人だ。
異能抑制剤がなければ『傍迷惑な』一般人だが、今はそうではない。なんの異能も使えないがまともに話せるし考えもできる。普通の人間。

下手をすればつかの間の、上手くやればこの先も続く、平穏な時間を噛み締めながら。
この日も勉強の合間に人探しを──

とか考えていたのに。
なんだか今日もどこかでトラブルが起こっているらしい。
誰かが溺れた?だの。
人が消えた?だの。
空間に穴が開いた?だの。
例の薬のせいだろうか。噂にはすぐに尾ひれがつくし、正しいところは解らないけど、まだ騒動は続いているようだ。

ま、ぼくには関係ないけどね。
どうせできることなどないだろうし。

「………………ええ…………」

ぼくには関係ないけどね。そう思ってた。
目の前になんかようわからん穴が開いているのを見つけてしまうまでは。


いやなんか……
良くゲームとかでワープゲートがこんな感じのエフェクトで表示されてるけど、リアルで見ると……
こんなもんに余裕で体突っ込むやつらの気がしれない
って思うな……。怖いでしょ。どう見たって。

…………でもなあ。
ぼくの異能、変化したあとは転移能力がついてたんだよな。てことはコレと近かったりするのか……?
一度入ってみれば何かコツが掴めるかな。でも怖いな。
ゲートの前でうろうろ。一人チキンレース。

自分が嫌いで 世界が嫌いだった。

実の所、周りの評価がどうなろうと、今の自分は好きでいられそうだ。

熱のせいで妙な夢を見た。2足歩行の天馬が大勢でタップダンスをしている。

異能が無軌道に変質している。アパートの下の住民が同じ夢を見た……。

談話室。

だーれもいやしない。
別に用があったわけではないのだが、
これはこれで寂しいものがある。

ふぅむ。こめかみを軽く掻き、室内を占拠する。
今日もまた、影が薄いのは後遺症だろうか。

談話室でお昼寝。ガーゼがあるので肉は書けない。

 守屋

談話室の前を通りかかると、見覚えある姿があった。
近寄るけど、反応はない。
眠っているらしい。

「……風邪引きますよ」

カーディガンを脱いで、その背に掛けておいた。

空き教室だった。人目に付く場所でやるのは憚られたからだ。
いつも人寂しくても談話室にいるのは、何か頼られることがあれば、と。
求められる側であるならと、そこにいた。けれども今は違う。

話は朝に戻る。
手の中にあるものを握りしめる。溢れた血を確かめる、けれど、痛みはなかった。
今までのように痛みを覚えるでもなく、その前に傷は吸い込まれるように消えた。
たしかに其れは、異能の進化した姿なのだろう。
だから、きっと。願って、希望を叶えようとしたのに。
そうは、ならなかった。

尾関春歌は、お昼休みに鞄を開けた。

ただ学食に行くためにお財布を取ろうと思っただけだったけれど、ふと今朝貰ったドリンクが目について。

食後に飲むのに丁度いいかも、なんて
お財布と一緒に抜き取った。

談話室。

「────…………んが……?
 ……ん〜…………?」

目が覚めると、見覚えのないカーディガン。 
誰のだろう?
案外タブに名前でも書いてないだろうか?
……流石に高校生ともなればなかった。

「…………一体誰が……」

心当たりを思い浮かべる。
……人の良いやつが多くて絞れんなぁ。
すんすんと、鼻を鳴らして匂いを確認する。
なーんもわからん!

寝惚けた頭じゃあ、なんもわからん。
諦めて、大きく伸びをする。あーよく寝た。
目を擦りながら、周りを見る。

……自分と会った後、それを飲んだ友達がどうなったか。

噂話に関心があれば、とっくに耳に入っていてもおかしくはなかったのに。
それでも尾関春歌は知らなかった。

「(今日は朝から会えてラッキーだったなぁ……)」

空になった食器をまとめて、栄養ドリンクの封を切る。
知らない、とは時に罪だ。

昼休み明けの授業中に、倒れて保健室に運ばれた。

今日もふわふわ。熱に浮かされている。

 守屋

「……ああ、起きたんですか。先輩」

談話室の窓から外を見上げていた僕の姿が目に入るだろう。
カーディガン惜しさに起きるのを待っていた訳じゃない。
飽きるまでは、と言ったから。ただそれだけだ。

「寝るならベッドにした方がいいですよ。
 また保健室の世話になりたいんですかね」

真っ先に小言を言った。
冗談でも何でもない、ただの皮肉だ。

 朝日
「────なんだ朝日か」

げぇぇと、苦々しい顔。
人がいると思わなかった。
蛮行の一部始終を見られていたかもしれない。
また、先輩の尊厳ポイントが減っていそうだ……。

「……急患でもないもんが、
 ベッドを独占するわけにはいかんだろう
 それか、寮に戻れと暗に言ってる?
 その時は、下校の放送はお前に任せるよ?」

これはあなたのかと、カーディガンを指し示す。
そうであるなら、小さく畳んで献上しよう。

 鏡沼

「うわびっくりした。
 あっ、鏡沼先輩。丁度良かった、探してたんです。
 この間は迷惑かけてすみませんでした」

お前本当にこないだの神谷と同一人物か?

ってくらい流暢に話す。いや実際には普通レベルなのだけど。

「何かを解決するとかそんな烏滸がましいことは
 考えていないんですけど。
 目の前にいきなりコレがあったもんで……。
 入ってみるべきかどうか迷ったっていうか」

 守屋

「僕ですけど。何か問題でも?」

カーディガンも僕のです。
畳まれたものも気にせず、僕はさっさと袖を通そうとして。

「下校の放送を任されたくないから、そうならないように寝る場所は選べと言ってるんです。
 あと先輩は僕じゃないんですから、匂い嗅いだところで何も分からないと思いますよ」

袖を通すのをやめた。
先輩のお陰で僕が変態みたいじゃないか。

 朝日
「やっぱ見てんじゃん」


現実は非常である。
机の上に手を組んで項垂れよう。
ただのポーズだけど。

ふぅ。

「……そういえば朝日は
 クラスの方で競技に出たりとかするんだっけ?」

することもなければ、名前の通り談話することにしようか。
今日は静かだ。

 守屋

「……」

そりゃ見ましたけど。
どうしてくれるんですか、このカーディガン。
先輩に責めるような目を向ける僕だけど、明らかに前髪が邪魔だった。

「はあ、体育祭の話ですか。
 残念ながら。教室の隅で本を読んでるようなやつを競技に推薦する奴はいませんよ」

というか、それを望んで隅にいた。
残り物に福があるならと、精々推薦されて借り物競争くらいだ。

「サボろうかな、体育祭……」

異能がバレた今となっては、どうなるか分かったものじゃない。

そう言うならね、と言ってほんの僅かに笑った。

今日一日だけは、ちょっとだけ、満たされている。

 鏡沼

「いえ、あの後柏倉先輩に、異能絡みで……
 カウンセラー? 医者? の方を紹介してもらって。
 普段喋りが下手なの、異能に頭取られてるからってのも
 影響してるってんで色々してもらったんです。
 それで今は割と喋れてる感じで」

つらつらっと言い放つ。
大丈夫。このストーリーだけは何度もさらった。
演技の経験なんてありはしないが、そこそこ自然に聞こえるだろう。何せ以前の喋りがアレだし、それに比べれば。

「……ぼくの異能、空間に作用する部分もあるらしく。
 コレも空間に作用してるじゃないですか。
 通ったらなんか……感覚的にピンとくるかな、って。
 ちょっと思ったってだけですよ。
 実際入ってないでしょ」

 朝日
「……」

視線を感じたような気がする。
気付かないふり……。
…………苦笑い、を浮かべた。

「それは困るなぁ……
 競技だって楽しんでほしい
 高校二年生としての体育祭は、一度きりなのだから
 カッコいいところ見せてくれたら実況してやるからよ
 ……いや、一番は放送部としての仕事をだね?」

 守屋

僕は嘆息して、先輩の苦笑いを見た。
いや、そもそも貸した僕も後先を考えていなかった。
嗅覚がいいのも考えものだ。

「嫌ですよ。目立ちたくないんです、僕。
 それに今更、カッコイイも何もないでしょう。
 僕ですよ?」

精々先輩に振り回される程度がお似合いだ。
何故か誇らしげな勢喜の顔も浮かんだ。本当に嫌。


「放送部の方は、まあ。
 先輩の言う通りですけど」

とはいえ準備や片付けの方が僕はやる事が多そうだ。
当日僕が働くとすれば何かハプニングでも起きた時と思う。
ない方がいいのは違いない。

 朝日
「今さら、なんて言葉はないぞぉ
 いつだって、変われるのは自分次第
 ……
なれよ! カッコいい自分!


囃し立てるように盛り立てる。
とはいえ賑やかし程度なので、無理に強制することもなく。
……出来ることなら、みんなが輝くところが見たいがね。
私にとっては、一緒に参加できる最後の体育祭だ。

「……ふふ、楽しみだねぇ」

立ち上がり、窓の方へと足を運ぶ。
隣に並び立ち、校庭を眺める。
疎らではあるものの、運動する生徒たち。
どれも、当日のための準備。……実るのが楽しみだ。

ふわふわな夢を見る。

 守屋

「……無茶言わないでください」

隣に並んだ姿を見て、短く息を吐く。
まあ、元気そうで何よりだ。
早いところ、頭のガーゼも取れてくれれば尚いいんだけど。

もう一度、窓の外を見る。
グラウンドに、数日前の自分を幻視した。
それそのものをもうどうにか思うことはない。
良い気もしなければ、悪い気もしなくなった程度には昇華したつもりだ。

「それじゃ、僕は行きますよ。
 次は目を覚ました時、僕以外の人がいるといいですね」

なんだ、なんて言うくらいだし。
先輩の返事も聞かず、窓際から離れた僕は談話室を出る。

体育祭を楽しみにする、その呟きには触れなかった。
台無しにするような言葉しか、僕は吐けそうになかったから。

ビート板を使いつつ、プールで息継ぎの練習をしている。

世良健人と世良風磨は、入学したときから一部では話題になっていた。
といっても、特別に彼らが目をかけられていたとか、有能だったわけではない。
新しい環境で生活していくにあたって、双子のサッカー部員というのはやや話題性があったのだ。
それは例えば全校生徒から、だとかいう大したものではない。
そのほとんどは同じサッカー部員や同じ一年のミーハーな女子によるもので、
つまり二人は、おおむねセットで扱われることが多かったのだ。

運動神経抜群で、空を飛ぶ異能を駆使してルールの範囲内でのトリッキーなプレイをする弟。
チーム全体のメンターとして働き、マネージャーとして治療の異能を使う兄。
サッカー部の中で二人の存在は必要なものになっていった。
一つのプレイにかける思いとしても、次の世代へ移り変わるにしても。
ヒーローめいた活躍をしてみせる弟も、縁の下の力持ちの兄も、
どちらもあるからにこその稲生学園サッカー部だと、そう思われるようになっていった。

二年の秋、ちょうど今から一年前。
異能格闘のメンバーに選ばれた風磨は、サッカー部としての練習に加え、
自らの異能を使った効果的なプレイを身につけるために日々研究に励んでいた。
当然体に無理を強いるような練習を続ける健人はそれを止めようとしたが、
「一世一代の大舞台かもしれないじゃん」と、風磨は隠れて練習を続けていた。

大会に向けて追い込みも兼ねた、練習試合の最中だった。
全力を出せるように打ち込んだ風磨は、後半あと少しでポイントを稼げるというところで、
"発作"を起こして倒れてしまった。

風磨は先天性の心臓病を患っていた。
健人も、サッカー部のチームメイトも、顧問も、もちろんわかっていた。
だからサッカー部の練習や試合では彼に無理をさせないように気を遣っていた。
兄に監督させ、練習の息抜きはしっかりと行わせ、体への負担を少なくさせた。
それを加速させたのは、異能格闘に選抜されたという期待だった。
きっと、嬉しかったのだと思う。選ばれたということ。認められたということ。
そして、一世一代の大舞台に、自分の全てを賭けられるかも知れないという、願い。
光り輝くような栄光への道に、体は耐えてくれなかった。

世良健人が医学部を目指すことを担任の教師へと宣言したのは、その頃だった。
年頃の男子らしい遊びに興じたり、こっそりゲームセンターへ抜け出したり、
女子となんとなく交友に勤しんでみたりする、そうした十代の若者らしさは抜け落ちた。
目標が出来てしまった。それが良いことかどうかは、他人にはわからない。

世良風磨は寮生活を止め、自宅での療養に専念した。
今は保健室登校の形になり、調子のいい時は教室での勉強も許された。
細かな手術のある前後は、入院のために登校さえ難しくなり、部活動は辞めたらしかった。
もともと双子で使っていた寮の部屋は、ひとりきりの部屋になってしまった。
不自然に空いた同室募集があったのは、そうした理由があったからだった。

ともかく、二年の秋、体育祭の前。一年前の風雪が。
二人の兄弟の行路を変えてしまったのは、かつてあった、小さな動きだった。
誰もが知ることじゃない。けれど、隠されたわけでもない。
よくある話だった。

異能を以て弟の病気を治すことは出来ないだろうかというのは、何度も試みたことだった。
小さな頃から、学園という場で異能の可能性を見てから、一年前のあの時から。
試みが実を結ぶことはなかった。複雑な病理の前では、異能の力は無力だった。
医者が言っていた言葉が何度も思い出される。
残念ながら、既存の方法を以て一定の回復を見ていくのがせいぜいでしょう。
特別に効果的な方法が開発されるそれまでは、今の彼の望みを可能な限りで優先させましょう。
可能な限りというのはつまり、過度な負担をかけたり、危険の大きい方法は避けるということです……

地道な治療を続ける横で、地道な勉強を続けるのが償いであり、望みになった。
出来事は双子の人生を変えた。自分の力で歩み続けることが、希望への道だと知った。

けれどももしそれが覆せるものがあるのならば。
ちょうど感傷的になりかけた秋の頃、耳に入った噂は少しの誘惑として兄を揺さぶった。
もしも、自分の力に新しい芽吹きを得て、今まで出来なかったことが出来るようになったなら。
怪我や火傷ばかりではなく、病気さえも治せるようになったのなら。
そんなことはない、ないのかもしれない。そんなリスクに自分が賭けちゃ、意味がない。
わかっていても、健人の背中を後押ししたのはごく優しいひと押しだったから。
少しだけ信じてみようと、思ってしまったのだ。

薬を飲んで、一日、二日。
ゆっくりと花開くように、効果は表れたのだ。

朝起きて、カッターの替刃を折ったもので手のひらを傷つける。
握りしめれば傷が出来る。それはいつもどおり。なぞれば、傷は消える。それもいつもどおり。
それを繰り返して、繰り返して。日に何度も、一時間のうちに何度も確かめて。
今か今かと、効力が出るのを待った。何かの変化があることを待ち続けた。
握りしめた手のひらの中から痛みさえも消えた時、急いで自転車を漕ぎ出したのだ。

家に入り、まだ起き出してもいない家の中に駆け入って、弟の傍に駆け寄った。
叩き起こして手をかざし、何度も質問を重ねた。
違和感は消えたか。痛みはないか。いつもと変わったことはないか。
苦しくはないか、楽になったりしてないか、いつもと変わったことはないか。
無理を強いて説得をして、説明をして、病院にまで連れていかせた。
親にも、弟にも、保健室の先生にも拝み倒して、その日の予定を変えさせて。
困り果てた医者の返答としては、病状に変化はないと。
事情も話せないまま、けれども必死な形相の健人を見て、医者は優しく言ったのだ。
不用意な行動を叱りつけたりもせず、残念だけれど、と。

時刻は夕方に戻る。
午後からひとり登校して、なんでも無いようすの学校を見上げる。
正確にはもう少しばかり騒動に見舞われていたけれど、対処できない問題ではないようだった。
誰かの何かが変わって、手を差し伸べて、変化を抱きしめて明日へと歩んでいく。
そういう優しいものが、あったのだろう。
自分は、何も変わりはしなかった。
異能が進化を遂げても尚、痛みさえ治し切るほどになっても、無力なままだった。

からすの声がかあかあと降り注ぐ。
秋空が暗んでいくのは早くて、練習や外作業の生徒がばたばたと戻るのが聞こえる。
それでもなお、まだ何も変わらないのだ。自分に出来ることはなかったのだ。
暮れていく空が色を失っていくのが、夕焼けが熟れて黒くなっていくのが、
無性に苦しく、寂しい思いを胸に呼び起こした。

最初は腰掛けた机を蹴ったくらいだった。足先は痛みもなかった。
蹴り倒して、跳ねた足が自分の脚を掠めても、傷もなく痛みは感じなかった。
教室のスペースを空けるために組んで積まれている机を蹴ったら、崩れてしまって。
決して軽々ではない重みが顔を掠めても、傷はなかった。シャツが破れたのに。
机を両手で持ち上げて、思い切り叩きつけた。大きな音を立てて、パーツは外れた。
幸いネジ留めの部分が折れたくらいで、修復は可能そうだった。
けれども吹き飛んだ上側のパーツは壁を少し凹ませて、その勢いでジャケットとシャツを薙いだ。
普通だったら少しくらい切り傷のようになってもおかしくないのに、それもなかった。
思い切り叩きつけたにも関わらず手の痺れもなく、関節も柔らかく動いた。

なんにも手ごたえがない。なんにもならない。
何をしたって痛みも疲れも感じないし、何も変わりはしない。
それが無性に苦しいような、空しいような、どうしようもない心地を呼び寄せて。
三年生用の階、空き教室の静けさ。生徒たちの騒々しさのせいで、お互いに何も届かない。
空っぽで、息苦しくて。
だから、空き教室の窓ガラスを、思い切り叩き割ったのだ。

素手でガラスを割ったのに、怪我一つ無かった。

午後の授業には出られそうだ、目隠しして、ジャージ姿で

自分の道を見つけている。だからこれは少しの誘惑で、而れども少しは辛いのだ。

 鑑沼

「同行……、いや、止めときます」

判断は早かった。
歪んだ空間から離れ、息をひとつ吐く。

「ひとりなら兎も角。
 先輩まで巻き込んで何かあったら、
 ぼくが他の先輩方に殺されますよ。
 先輩の異能がどんなもんか知りませんけど、
 空間系の異能じゃないなら、下手したら
 戻ってこれなくなるかもしれませんし」

そして先輩にこの話をした以上、自分が帰ってこなかったら先輩は何かしらアクションを起こすだろう。
二次被害を増やす訳にもいかない。
となれば必然、選択はこうなる。

「むしろ先輩こそ、意外ですけど。
 ここは止める場面じゃないのかなって」

はしゃいだところで、一番にはなれないのだ。結局、状況は変わらない。

 鏡沼

「何一つ話は早くないですけど。まあいいや。
 鏡沼先輩はニンジャ。理解しました」

理解したのか?

「…………?
 ぼくの思考を読み取って反応してる……
 ってことです?
 それって、テレ……」

問いかけたとき、頭の後ろのほうがずきり痛んだ。
……思考を読み取る、と言う言葉からなにかが繋がりかけたのか。なんにしてもこれは止めておこう、と首を横に振る。

 鏡沼

「いや分かるわけなくない?」


敬語がどこかに飛んだ。

「え? 分かるんですか?
 分身的存在全部で見たり聞いたり? 考えたり?
 なに? チートか?

 ぼくだってそもそも誰に見られてるとか
 どう見えてるかとか分かるならもう少しこう……
 
悪いことも考えますけど。

 そうじゃないから困ってたわけで」

 鏡沼

「……増殖、バグ……?」

あれは小説だったか、漫画だったか。
たぶん最近のやつじゃない、SFものだったと思う。
何人もの自分に分かれた後、『自分たち』の間でいさかいが起こり、殺し合いにまで発展する話。

そうだ、あの話でいさかいが起こった理由は──

「あの、鏡沼先輩。
 先輩は、『どれが本物か』って分かるんですか?
 記憶とか経験は、どうなって……?」

そもそも。
目の前にいる鏡沼先輩は、本当に鏡沼先輩なのだろうか。
自分は今、誰としゃべっている……?

一歩、後ろに下がる。

人は理解できないものを見ると、思ってしまうのだ。
『気持ち悪い』と。
それは神谷とて例外ではない。

ピンポンパンポーン

『もうすぐ下校時間になります
 校内に残っている生徒は作業を中止し、
 速やかに下校の準備を始めてください』

『繰り返します』

『もうすぐ下校時間になります
 校内に残っている生徒は作業を中止し、
 速やかに下校の準備を始めてください』

ピンポンパンポーン

 




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