45 【R18】雲を泳ぐラッコ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 エピローグ 終了 / 最新
[1] [2] [メモ 匿名メモ/メモ履歴] / 発言欄へ
視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
全て表示
[「めいっぱいおしゃれ」したアキナを
瞼の裏に思い描いて、
その日は珍しくシャツにアイロンかけて
学校に行ったんだ。
口を開けて、閉めて。
ちゃんと目の前でも喋れるように。
少し明るい色の髪をセットした青柳を見て
「あー、ワックス、買ったことないや」なんて
色んなことを考えてたり。
でもアキナに会ったら、まず謝らないと。
俺はバスケ部じゃないし
生まれた年齢=彼女いない歴。
もしかして彼女の頭の中に
俺が明るく陽気な人間として描かれているなら
それはすごく、大きな間違いで。]
[─────だけど、俺の予想を大きく超えて
放課後の図書館にいたのは
あの日、俺に襲いかかってきた影
また立ち塞がるでもなし、
ぺこり、と頭を下げてみせる姿に敵意はない。]
………………アキナ?
[そっと呼び掛けても多分言葉は通じない。
影みたいな俺だけど、
本当に影と話すのなんか初めてで。
言葉がすんなり喉から出ない。
はっきりした姿かたちは分からないけど
ぼんやりと、スカートと前髪が揺れてるのが
何となく分かるくらい。
でもこれがアキナだって、分かってる。]
[影と俺と、二人きりの図書館を
静かに風が吹き抜ける。]
アキナ。
[俺は彷徨わせた視線を上げて
明確に、影へと呼びかける。]
……俺、ユウだけど。
[ああ、そうか、通じないかもしれないのか。
書架の片隅、いつもの席に腰掛けると
隣の席に座るように、椅子を引いて促そう。
カバンから取り出したのは
いつも持ち歩いてる『赤いろうそくと人魚』。
やり取りの長さの文だけ皺のよった便箋に
いつもの青いインクを走らせて
アキナに宛てたメッセージを書き始めた。]
[はらり、頁をめくって、ダサい便箋を
『とうげの茶屋』と『金の輪』の間に挟む。
続きの話は、『金の輪』の後にしよう、と。]*
[カナカナと、ひとりぼっちのひぐらしが鳴いていた。
いつの間にか薄くなったセミしぐれの代わりに、
キョ、キョ、とモズが鳴く。
高くなった秋の空から、オレンジ色の夕日が差し込む。
眩しい図書室の中に、一人の影が立っていた。
あの時と同じように、だけど逃げ出さずに、
その人は私を見つめている。
少し違うか。彼には私は見えていない。私に彼が見えないように。
ぺこっとお辞儀をすると、私の影が不自然に伸びた。]
── ユウ君、だよね。
[呼びかけても、返事はない。
仕方ないか。声は影にならないし。]
[吹き込んだ風がカーテンをあおって、
スカートの中を通り過ぎた。
裸の腿をなぞるキンモクセイの香りは、ちょっと冷たい。
スカート下のハーパンを脱いでも、
前髪が割れないように気を付けても、
カーディガンのボタンを可愛いハート型に付け替えたって、
ユウ君には伝わらない。
何となく予想してはいたけれど、
いざ何の反応も無いユウ君を見ていると、
息が苦しくなってしまった。
淋しいけど、泣きそうな顔が見られずに済むのは、助かるかな。
声も表情も分からない人と、どうやって接すればいいんだろう。
何も知らないうちなら、思いっきり距離を詰められたけど。
ユウ君を怖がらせるのが嫌で、お辞儀の後が続かない。]
[やがてユウ君が動きだした。]
あ……ねえ、待って!
[帰っちゃうのかと思ったけど、ユウ君は椅子に腰かけた。
腕が隣の椅子に伸びて、影だけを引っ張り出す。
のっぺりした椅子の実体と、ユウ君の影を見比べて、
私はゆっくり近づいた。
椅子を正しく影に合わせて、ユウ君の隣に座る。
誰かの隣に座るなんて、どれぐらいぶりだろう。
本棚に映る影は、二人並んでいるのに、隣を見ても誰もいない。
その間にユウ君は鞄らしきものから何かを取り出した。
見えなくたって分かる。
私たちを繋いでくれた、紙一枚分だけ重い本。
それを机に広げて、何かを書いている。
だけど机の上を見ても、黄色い木目しか見えない。
私も鞄から本を取り出す。
机の上に本を置いて、傷んでしまった便箋を広げると、
見つめている間にもコバルトブルーが引かれていく。
その線は複雑に組み合って、言葉になって私に届く。
リアルタイムで紡がれる言葉。
ふと思い立って、その便箋をユウ君の手元に置いた。
ちょうどユウ君が書いてるだろう場所に合わせて。]
[ぽんぽんと喋っても、
おーい、と呼び掛けてみても、
耳のあたりにふって息を吹き込んでも、
筆の速度は変わらない。
ああ、本当に聞こえないんだね。
本棚に映る私と、友君。
友君は何かを書いていて、
私はその手元をのぞき込んで、
影だけ見たら仲良しの恋人たちみたいだ。
実際はこんなに遠いのに。
まだ濡れたコバルトブルーを、そっと人差指でなぞる。
私の肌に引きずられて、インクだまりが線を引いた。
指についた青い色。
今、確かに友君は私に向けてメッセージを送っているのに、
それはどこの世界なんだろう。
目を閉じて、ここにいるはずのユウ君を思い浮かべる。
同い年の男の子が、紙面に思いを綴る様を想像する。
私はそれを覗きこんで、時々つついてからかったり、
甘えるみたいに顔を窺ったりして──
再び開いた時には、机の上に紙は無かった。]
[一冊だけの童話集のページをめくる。
さっきまで机上にあった便箋は、
トモ君が挟んだだろう場所にあった。]
[私が書いている間、トモ君は本を読む。
音のない読書が寂しくて、
「ぺら、ぺらり……なんてね」って、
ときどき効果音をつける。
シャーペンを走らせるさりさりという音は、
さっきまでは聞こえなかった。]
[トモ君が言ってたように、この本は明るい話が少ない。
童話集のくせに。]
[ニュースを見るたびに、チョコの包みをはがすたびに、
本を思い出す。
トモ君のことを思い出す。
トモ君もそうだったら嬉しいな……なんて、
トモ君の感情を確認したがって、
他愛のない話題に逃げた。
トモ君は「話す前に逃げ出したくない」って言ってくれたのに。
だって、こんなに楽しくおしゃべりできてるんだもん。
どこにいるのか、はっきり確認するのが怖いんだもん。
だけど知りたくて、探りを入れるようなやり方で、
トモ君の世界を知ろうとする。
時間は有限なのに。
少しずつ、日が沈んでいく。
私たちの影の、輪郭が曖昧になる。
真っ暗になっちゃったら、トモ君を見つける術はない。
マツムシが、夜の帳を連れてきた。]**
[遠くにひぐらしの声を聞きながら
影と二人、席に着く。
お互い実体があったら二人並んで
放課後の自習……みたいな感じだったのかな。
耳に息を吹き込まれたり、話し掛けられたり
そんなことされてるなんて夢にも思わず
俺はペンを走らせていく。
さりさり、ペン先の回る音は一つだけ。
なのに、書きたてのインクが、
触れても無いのに
すっとあらぬ方向へ尾を引いた。
相手の呼吸音すら聞こえない距離で
俺は静かにアキナに語り掛けるだろう。]
[そう、この童話集にはハッピーエンドのが
いっそ珍しい部類で。
意匠を凝らした絵本の1ページみたいな
綺麗な風景……人ならざる純粋な生き物が
人の醜さ、強欲に飲み込まれて
失意のまま物語が幕を閉じるのが多い。
人は醜い、汚い。
その世界に没入して、被害者の側に
自分を投影することで、
自分自身の汚さからは目を逸らす。
そんな楽しみ方、作者が聞いたら怒りそう。
─────ともかく、『金の輪』も
ハッピーエンドとは言い難い話。]
[もちろんそんなことはしないけど。
「世界の違う」天国とやらに辿り着いては
全く意味が無いんだ……そこに菜月がいないなら。
自分でも、会ったことの無い人間に
ここまで入れ込むなんて滑稽だと思う。
隣の影を覗き込むようにしても
結局その表情は計り知れないし
俺の目頭がじんと熱いのも、
きっと、菜月は知らない。
─────ああ、夜が来る。]*
[書きかけた言葉は、心の中にしまったまま。
口やSNSだと勢いで言ってしまっても、
手書きの文字だと考えこめる。
勢いで、伝えちゃえればよかったのに。]
クラスメイトに声をかけたの、頑張ったね……
[聞こえないのは分かっていても、自分の声も使う。
多分、私は友君にとって、苦手な人種。
クラスに一人や二人いる、物静かな子たち。
そういう子から、私は怖がられる。
話しかけても目を逸らされて、
一刻も早く会話を切り上げたい、
そんな意志をひしひしと感じる。
だから、友君がクラスメイトに話しかけるとき、
どれだけ勇気を振り絞ったかは、
想像できる気がした。]
[友君の言葉は、どんなに温かい言葉も、
消
えてしまう。
フリクションのコバルトブルーを、
黒板みたいに書いては消してを繰り返したから、
紙面はすっかり毛羽だって、よれよれで、
青いインクは染み込んで、少しずつ消えなくなっていく。
SNSだったら履歴が残るのに。
便箋がたくさんあったら、本だってできるのに。
神様が与えてくれたのは、たった一枚のダサい便箋で、
友君からもらった言葉がどんなにうれしくても、
形には残らない。
せめて黒板みたいに頑丈だったら、
ずっとやりとりができたのに、
本当に、神様は残酷だ。
それでも、限られた条件の中でも、
私が臨む景色を、見せてあげられてたかな。]
[私はわざと大げさに口元を抑えて、
笑顔を伝えようとする。
表情が見えなくたって、ボディランゲージなら見えるよね。]
[私たちも夜に塗られて、
一つの大きな闇になった。]
[次の日も、その次の日も、私は図書室へ通い詰めた。
少しずつ、私たちの世界の差に目を向ける。
目をそらしていた溝の、絶望的な深さを知る。]
[卵60個食べて筋骨隆々になったのは
確か町一番の変わり者に恋した力持ちだっけ?
本ばかり読む変わり者には
ぴったりかもしれないけれど、それはさておき。
滑るペン先を見つめる瞳が
じっと紙に注がれているのを感じながら
俺はくるりとペンを回す。]
嘘なのかよ。
[聞こえてないだろうけどノリツッコミ。]
[でも、ほら。
俺なりのプロポーズに
隣の影が大仰に驚いてみせて。
(そういう反応が女の子なんだよ)
心の中で語り掛ける。
しばらく待っていると、
震える黒炭の筆跡が、ゆっくり、ゆっくり
菜月の気持ちを表してくれる。
強くて、背が高くて、女子っぽくない菜月の
やわらかくて、繊細な心の中を。]
[窓の外が暗くなっていく。
星も見えない真っ暗闇が、
図書館の中を満たしていく。
紙が、もう見えない。
シャーペンの軌跡も、ブルーのボールペンも
ダサい天使の描かれたピンクの便箋も
全部全部、黒一色に染め上げられて。]
[その一瞬、隣に座る影の手に
俺は自分の手を重ねた。
結局その手は何にも触れないまま
すとん、と木の机に受け止められたけど
心做しか、辺りを包む暗闇は
とくり、脈打つような温かさだった。]*
[「大事にね。」の文字が掠れた。
黒や赤より使わないから、と選んだ青いインクが
もうすぐ無くなりそうになっている。
別に違う色のインクを使っても
菜月は何も言わないだろうけれど
─────何となく。]
| ―― 船をこぐ ――
お姉さま お怪我ですか?
[花壇の前に立ったお姉さまが右腕を押さえている。 バラの手入れでトゲに割かれたのだろうか。 血の色はバラよりも赤く痛々しい。]
<いたいのいたいの とんでいけ>
[昔お姉さまがしてくれたように、 傷に手をかざして撫でて、空に放つ。 子供じゃないんだからって笑われてもやめない。]
いたいと悲しくなるでしょう。 お茶も美味しくないもの。
<いたいのいたいの とんでいけ> <かなしいのかなしいの とんでいけ>
[とんでけって見上げた空は作り物めいた真っ青な空。 とばした痛みや悲しみは空に浮かんで雲になる。 雲を見つけたラッコが寄ってきて、 気持ちよさそうに泳いでから、雲を両手に抱えて齧っていた*] (34) 2020/10/04(Sun) 22:42:47 |
[1] [2] [メモ 匿名メモ/メモ履歴] / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 エピローグ 終了 / 最新
視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
トップページに戻る