100 【身内RP】待宵館で月を待つ2【R18G】
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| お姫様抱っこで登場した二人を見やり。
「おやおや、お熱いことで。 今日はなんだか館の様子が違うね……また、誰か居なくなったのかな」 (1) 2021/10/19(Tue) 21:45:33 |
酷く寒い。
目が醒めて真っ先に浮かんだのはそれだった。身震いをして、自分の体を抱きしめながら外に出る。
自分の身に異変が起きる直前の出来事は、未だ思い出せていない。
「ああちょうどよかった。お前、今手が空いているなら白湯を……」
お気に入りの下女が廊下を掃除していたから声をかけた。何も返事がない。男は眉間に皺を寄せる。
「おい!聞いているのか、何の冗談だそれは。揶揄っているのなら今すぐそれを……」
手を伸ばし、肩を掴む。掴む筈だった。
すり抜ける。己の手が、うっすら透けて、触れないまま空を切る。
「………………え?」
歩く。声をかける。走る。声をかける。
誰もがこちらを見てくれない。誰もがこちらを認識してくれない。
「ッおい!聞こえないフリはよせ!何のつもりだ!タチの悪い冗談はやめろ!」
どいつもこいつも無視をする。ここで過ごした一年の間に沢山言葉を交わした者など何人も居る筈なのに。
「やめろ……やめろって、なあ。
本当は聞こえているんだろう?わざと無視をしているんだろう?俺が機嫌を損ねるようなことでもしたのか?
答えてくれよ、なあ!」
口元が引き攣る。冗談だと笑い飛ばしたくて、けれど視界に叩きつけられる現実はそう変わらなくて。笑みを作ろうとした唇は、綺麗に弧を描く事なく歪に戦慄いている。
ああ、
まただ。
知っている。この感覚はずっと自分の傍にあって、逃げたくても常に離れず纏わりついていた。
まるで透明人間になってしまったかのような扱いになったのに、世界はそれでも回り続ける。
才能もなく、努力も続かず、誰も見向きしてくれない平々凡々な吟遊詩人。
見慣れている。
この光景は見慣れている。
「誰か!誰か聞こえないのか!?
僕が何かしたのか!?僕が何か悪い事でもしたっていうのか!?」
箍が外れたように叫びだす。口から出るのは美しい歌声でも世界各地の光景を描き出す詩でもない。
ただ、独りが耐えられない哀れな男の絶叫だった。
「どうしてこんなところに来てまで元いた場所の苦痛を味わう事になるんだ!
なあ、なあ……誰か、僕を見てくれる人はいないのか!?
あぁ……
あぁああぁ……ッ!!!
」
男は手入れが行き届いた濡羽色の髪をかきむしり、そのまま嗚咽を零してふらふらと消えていく。
逃げる場所なんて何処にもないのに。
何処かへと姿を消した。いてもいなくても、きっと変わらず世界は回り続ける。
| >>15 チャンドラ 「やぁ、約束通り迎えにきたよ。 ……おや、今度はまた何を考えてるのか。料理が冷めきってしまってるよ」 改めて話でもしようという約束だ。 手を付けないという事は食欲がないか気分でも悪いのだろうか。 そんな風に思いながらあなたの顔色を窺う。 「館の探検をするんでしょ? どうしたの、具合でも悪くなったのかな」 (20) 2021/10/20(Wed) 7:57:45 |
| >>21 チャンドラ 「あぁ、なるほど。 最初から冷めていたんだね。それなら何か温かいものを部屋に運んでもらおうか」 ここは広い会場だから寒いだろうという考えだ。 まだ寝る時間というわけでもないのに疲れた様子からは、何かがあったのだろうという事だけしかわからない。 「元気のない顔と声をしているよ、さ、ゆっくり出来るところへ行こう?」 ほら、と手を差し出した。 エスコートができるという事も、ポルクスという男の教養の高さが覗い知れる案件だろう。 (24) 2021/10/20(Wed) 11:52:25 |
| >>25 >>26 チャンドラ 「温かいスープとリゾットでも部屋に運んでもらおう。 まずは体を温めるのとゆっくりするのが先決だ、館の探検は元気になってからにしよう」 思った以上に重症な様子に少しばかり思案して。 「失礼」と声をかけるとあなたを横抱きにして持ち上げた。 無理に歩かせるよりはこの方がいいだろうと判断したためだ。 力のないあなたが大人の男相手に抵抗できるとも思っていない様子で部屋へ向かった。 (27) 2021/10/20(Wed) 14:18:23 |
| 握った時の酷く冷えきった手が印象的だった。 多少凍えたからといって、真冬でもないこの時期にここまで冷えることがあるだろうか? そんな風に思いながら俺は自分の部屋へと向かう。 使用人に手伝ってもらいドアを開けてもらい。 食事が届くまではと、ひとまず自分のベッドにあなたを横たわらせ柔らかな布団を上からかけた。 「俺の部屋で悪いね。 女性の部屋に俺がずかずかと入るわけにもいかないし、元気が出るまでは我慢してくれるかい?」 (28) 2021/10/20(Wed) 14:19:13 |
目が醒めて、自分の異変に気づいて、耐えきれなくなって逃げ出したすぐのこと。
目眩がする。
どれだけ叫び、泣いて、暴れても。誰一人としてこちらを見てくれる人はいない。
昔からそうだった。
小さな酒場一つもろくに賑やかすことが出来なくて、センスも才能も無い吟遊詩人の声や竪琴に耳を傾けてくれる者などいやしない。
努力を続けるなんてことも出来なくて、すぐに酒と女に逃げては溺れる始末。
いてもいなくてもどうでもいい透明人間のようなものだった。
たまに視線が向けられていたとしても……それはろくでなしの自分を嘲笑うものだった気がする。
「気がする」と言うのは男が悲観的になるあまり見えないものまで見て聞こえないものまで聞いていたからだ。
皆が皆、自分を良くない目で見て馬鹿にするようなことを話しているんだ。
追い詰められた精神は、そうしてありもしない風評被害を勝手に描き出していく。自分で透明な場所に濁った何かを見出していく。
逃げるように館を彷徨い、その足は――時計塔へ。
▽
この体は壁や床などはすり抜けられないけれど、人や小物は触れない。扉は何故かすり抜けられるから、開閉して何かを主張することも出来ない。
物が掴めないのなら酒に溺れて酔いに逃げることが出来なくなる。ずっと毎日のようにアルコールで思考を溶かしていた身としては、拷問が始まるのだろうかと言う心持ちだった。
そうした小さな考えが浮かんでは消えを繰り返し、足はいつしか時計塔の階段の終わりまで来ていた。技師が入るであろう部屋がまだあったけれど、既に高度はある。もう十分だ。
窓から顔を出す。
重苦しい濁った気分を抱えた自分の頬を、何も関係ないとばかりに風が撫でて走り去っていく。
いてもいなくても関係ないのなら、いっそ死んでしまったほうが楽なのでは?
縁に両手を置いて、体を前へ倒す。
地面があんなにも遠い。
叩きつけられたらきっと、自分は、自分は……。
「死ね」
「――ッ!!!」
ひゅ、と。喉が鳴る。
▽
「いやだ、いやだ、いやだ……」
階段に蹲る。身を守るように体を丸め、がたがたと震えながら嗚咽を零す。
男は才能も努力を続ける根気もなかったけれど、勇気だって持っていなかった。
こんなところで死ねるほどの勇気があったなら、最初から酒と女に逃げる選択肢など取っている筈ないのだ。
怯える男の脳裏にとある光景が蘇る。蘇ってしまった。
命が潰える直前の記憶だ。
動けない。
何度も何度も命乞いをした。
ナイフが腹に突き立てられる。
泣いて喚いた。耐えられない痛みに絶叫した。
それで相手は満足したのか、より深く刃を差し込んでとどめを刺した。
思い出した。思い出してしまった。
「死にたくない、死にたくない……死にたくない……!」
それでも自分は一度、確かに死んだ。だからこんな事になっている。
死んだのに周り続ける世界にいなくてはならないなんて、悪夢以外の何者でもない。
じゃあどうしたらこれは終わるんだろう。
夢が醒めるには夜が過ぎ、朝が来る必要がある。
それなのにこの館は一向に夜が来ない。ずっとずっと、明るいまま。
酔いに溺れることも出来ず、来ない宵を渇望し続ける。
男は一人、寒さに震え続けた。
……
どれくらいそうしていただろうか。
もう一度覗き込んだ死の淵への怯えが鎮まり、体の震えの原因が強まる寒さだけになった頃。
「……あれは……」
ふと顔を上げ、窓から見える誰かを捉える。
キエがいる。彼は一体何をしている?
全く見当がつかない。
でも、あの何を考えているか分からないインチキ詐欺師探偵の動きは正直怖い。
「あいつ……あそこで、何を……」
ようやく腰を上げる。
なんだか酷く胸騒ぎがする。
行ったところで何かできるわけではないけれど、それでも、それでも……。
男は体を引き摺るように時計塔の階段を降り、外へと飛び出した。
走る。寒さはずっと残り続けたままだけど、そんなことも気にしていられなかった。
胸騒ぎが止まらない。
あの探偵が報酬としてW得体の知れない何かWを要求してくるのを知っている。自分もまた彼と契約してしまったからだ。
もしそれが、取り返しのつかないものだとしたら。
もしそれが、人の大切なものだとしたら。
「おい!やめろ、お前、そいつに何をするつもりだ……っ」
男は叫んで時計塔を飛び出す。
走る。走る。世界に無視をされていても、男は声を上げる。
届かなくても、叫ばずにはいられない。
手遅れで、どうにもならなかったとしても。
| >>34 チャンドラ 「それで……そんなに凍え震えるまで一体何をしていたんだい?」 布団にくるまれ少しは温まっただろうか。 こちらは心配してだが、あなたと同じように困った顔をして問いを投げかけた。 きっと、これくらいの権利はあるはずだ。 手のみならず身体まで冷え切って今にも倒れそうになっていたのには、しっかりと気づいてしまったのだから。 「謝る必要はないよ。 温かい食べ物がくるまでゆっくり寝ていると良い。布団の中にいると冷えた身体も温まるしね」 本当はお風呂で温まるのが良いかもしれないが、食事もしない状態で入ってしまえば倒れかねないので流石に勧めることは出来ない。 (43) 2021/10/20(Wed) 20:23:40 |
「はっ、……はぁっ……ゲイザー……ゲイザー…………?」
一度死んで幽霊のような身になったのに、走れば息が上がる。肩を上下に揺らして呼吸を整えれば、何度か咳き込んだ。本気で走ったなんていつぶりだろう。怠惰に生きていたツケなのかもしれない。
男は裏庭までまだまだ遠いところにいる。
だから、裏庭から少女が出て来たところしか見ていない。キエとゲイザーが何をしていたのか男は知る由もない。
でも、か細い断末魔が聞こえた気がした。
勘違いかも知れない。けれど、『勘違い』で済ませたくない。
そうやって『勘違い』で透明にしてしまった者たちは、きっと何人いたのだろう。
「……ッ、ああクソッ!面倒だ面倒だ面倒だ!なんで僕だけこんなにあっちこっちに苦められなきゃいけないんだ!」
濡羽色の髪を掻きむしり、癇癪を起こしたように苛立たしげに叫ぶ。
しばらく自分勝手に喚き散らして、結局また咳き込んで。呼吸を整えるのに幾分か時間を費やしてから――男はまた駆け出した。
何か出来ることはないだろうか。
酒も手に取れないし竪琴も触れない。
何も出来ないかもしれない、でも何か出来るかもしれない。
何にも分からないから、確かめる。
あの探偵が余裕ぶっているのが気に食わない。
自分を殺した奴が今も尚笑っていると思うとそれも腹が立つ。
自分の知っている人達が自分のような文字通り死ぬほど苦しい思いをするのも嫌だ。
身勝手な男は、身勝手な理由で走り始めた。
知らないけれど、自分の部屋を最初に訪れたのはあの人だ。
| >>44 チャンドラ 「部屋に姿の見えない誰かが居た、だって?」 にわかに信じがたい話を聞いた。 が、俺が双子の兄の姿がなくとも気配がわかるように。 目の前の少女が夜には魔法というものが使えるように。 不思議な力のあるこの館に、姿の見えない誰かが居たところで決してあり得ない話ではない。 ふむ……としばらく思案してる間にも、彼女もなにか色々と考えていたらしい。 無理に身体を起こそうとするあなたに驚いて、まだ寝ているように制して困ったように眉を下げた。 「待ち合わせ。俺の他に誰かと約束をしていたのか。 体調が悪くて休んでることくらいは伝えられるよ、あぁ、ほら。 いま温かな食事も来たから、まずはゆっくり温まらなければ」 軽いノックオンと聞こえてきた使用人の声に振り向いて。 ドアの方に向かうと、ベッドの横まで温かなリゾットとスープを運んでくるだろう。 (46) 2021/10/20(Wed) 22:32:29 |
| >>47 チャンドラ 「パーティーのあとっていうと昨日の話じゃないか。 そうか、怖いことがあって部屋をでてしまったから約束した人と会えなかったんだね。 大事な用だったのかい?」 本当に弱っている様子を見ると、流石に尋常じゃないと心配げな目を向ける。 これでは約束を果たすどころか、まともに行動することもままならないだろう。 「君はどこか身体が弱いとか、そういう持病かなにかあるのかな。 昨日のパーティーの時はそんな風に見えなかったんだけど」 スープを口に運ぶ様子を見つめながら青白いであろう顔色を窺った。 (51) 2021/10/20(Wed) 23:55:18 |
| >>52 チャンドラ 「そう、なるほど。 一体どういうご褒美をもらえる予定だったのか気になるな」 スープを飲んだのが功を奏したか。 わずかに様子が軟化したように見えてほっと胸をなでおろした。 スープを頼んでおいて良かったと、そう思いながら。 「……夜になると魔法が使えるようになる、ではなくて…… 昼になると弱体化してしまうということかい? 夜というのがそんなに嫉妬深いものだったなんて知らなかったな」 直ぐにの感覚はわからないが、他の人間よりもきっと沢山食べなければ活動ができなくなるんだろう。 あの異様な冷えも、身体を冷やしたからだけでなく空腹も関係していたのかもしれない。 す、と手を伸ばして頬に触れる。 手を握った時より随分とマシになった様子に目を細め、そっと息をついた。 (53) 2021/10/21(Thu) 1:55:05 |
| >>54 チャンドラ 「人はだれでも隠しておきたいことがあるというけど……後悔する、ねぇ。 その言葉に乗せられるくらいは、君は挑発に乗ることができると、そういうことか」 だったら。 俺の挑発にも乗ってくれるかなぁ? そんな風に考えて、はっとしたように手をおろした。 「……あぁ、ごめん。 俺も案外嫉妬深くて欲深いなと思ったとこ」 くすりと笑みをこぼし、しっかりとした笑みを作ったあなたを見つめ。 もう大丈夫とわかればあなたを解放しようとするだろう。 「良かった。それ食べ終わったら、部屋まで送ろう」 (57) 2021/10/21(Thu) 14:39:57 |
| >>64 チャンドラ あなたに残る寒さがどういったものから起こっているのか、男には全くわからないし気づく素振りもない。 ただ、ポルクスにも欲があった。 きっと、この館に誘われたのもそういう要因が働いていたはずだ。 だって、ポルクスが求めた兄はずっと前にこの館に訪れていたから。 それを知るものがこの館に居るかどうかは、ポルクスにはわからないけれど。 「俺は別にずっと居てくれても構わないんだけどね。 けどそれは君のほうが困るんだろうし、ちゃんと送っていくよ」 今この胸にある高揚したものが、兄へのそれと同じものでないことは知っている。 だけど、俺はきっと求めずにはいられないんだろう。 一度狂気を知ってしまえば、それから抜け出すのは酷く難しいのだから。 ⏤⏤⏤⏤あなたがリゾットを食べ終えるのを待って、ベッドから動かしても大丈夫か顔色を窺うと、俺は宣言どおりにあなたを部屋へ送っていくだろう。 (66) 2021/10/21(Thu) 20:29:02 |
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