【人】 「怪人」 ファントムーーその魂は、いつも星のよく見える海岸に立ちつくしている。 その髪の色と同じ、青く星の瞬く夜空を見上げ続ける。 「しばらくだね。」 彼女と初めて会った時、彼女には記憶が無かった。 生前の自分に酷く嫌悪感を持つ魂は、そうなりやすい。 思い出したくもない、というものだ。 けれど、彼女はこうも言っていた。 『自分のことは覚えていないけれど、一つだけ心残りがある。 その為に、主の御許に昇らないのだ。』と。 「そんなまさか、と。 頭の片隅にも置いていなかったんだが、あとになって考えると、あまりにも君の話と重なる事が多くてね。 色々と調べたんだよ。」 (45) 2022/11/30(Wed) 14:15:40 |
【人】 「怪人」 ファントム「君が自分の命より大切にしていたリリーは無事だ。 今は母の呪縛から解き放たれて、自由に舞い踊っている。 だから、君はもう神の御許で待っていてあげてほしい。 ーーーさぁ、行こうか。 ステラ。」 (46) 2022/11/30(Wed) 14:16:07 |
【人】 「怪人」 ファントム―全てが終わって― すっかり脱力してしまった彼女の身体を、抱き留めていた腕から離して、ゆっくりとベッドへ横たえる。 ――もし、今の彼女を見てこのまま行為を続ける事を考える者もいるのかもしれないが、生憎自分はそこまで貪欲になれるタイプではない。 そっと腰を抜いて、一通り彼女の衣服を整える。 「――彼女を頼んでもいいかな? 貴方になら、任せられる。」 屋敷で仕えている魂の1人へと、彼女を託した。 リリーは彼女を知らないが、彼女はリリーを知っている。 何せリリーはイルムヒルトの友人だ、彼女が邪険にするはずはない。 ――リリーは、もしかしたら彼女にイルムヒルトの事を聞かれるかもしれないが。 「おやすみ、私の舞姫。」 再び、その額に口づけを落とす。 自由を得た彼女が、より美しい舞を魅せてくれる事を願いながら。* (53) 2022/11/30(Wed) 19:23:06 |
【人】 「怪人」 ファントム―― 後日譚/街の何処か ―― 「――いつ呼んでくれるかとわくわくしていたよ。」 彼の呼びかけに応じて、その背から声を掛ける。 礼を告げる声には、「なんの」とだけ片手を振り応じた。 (79) 2022/12/01(Thu) 0:25:19 |
【人】 「怪人」 ファントム―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※― 「なるほど、事情は把握したよ。 ――だが、その頼みは聞けないね。」 彼の左腕を、彼の胸の中へと押し戻す。 自分は自由を愛し、迷える魂にのみ味方する。 自分のやりたいように振舞う。 誰かを救って回るなど、まっぴらごめんだ。 「それはそれとして、私も君に相談があってだね。 私の屋敷には働き手がいなくてね。 『彼女』はよくやってくれているが、ブラック領主だパワハラ仮面だなどと、心にもない事を言われてね。 私もなんとかせねばならんという訳だ。 ――それに、君とならリリーも打ち解けてくれるだろう。」 元々、自分と契約して働ている魂たちには必要最小限の労働を申し付けているだけだ。 彼らが心残りに決着をつけ、主の御許と昇るまで。 その間を取り持っているだけにすぎない。 そのせいでイルムヒルトの母には、随分無茶をさせてしまっている。 (81) 2022/12/01(Thu) 0:26:08 |
【人】 「怪人」 ファントム「――君には身体を捨て、魂となって私の元で働いて貰いたい。 労働条件は…そうだな、 『その石と魔道具をより多くの人の為に使う事』 嫌とは言うまいね?嫌と言っても連れて行く気まんまんだが。 安心しなさい、君は私と初めて出会った時から立派に 『人間』 であったよ。――早いところ、私の屋敷に帰ろう。 リリーにも、『彼女』にも君を紹介しなくては。」 くるりと踵を返して、自らの屋敷へと歩み出す。 彼がどのように選択するかはわからないが、もしついて来てくれるなら、屋敷の住人が1人増えた事だろう。* (83) 2022/12/01(Thu) 0:26:47 |
【人】 「怪人」 ファントム―それからの話― 彼女が「私だけの舞姫」となってから、随分と経つ。 彼女が舞うたび、私は舞の虜となる。 そして、私は彼女の舞に負けぬよう、声を響かせる。 立派な劇場でも豪華なステージでもない、ただの街中の路地や少し開けたスペース、そこで私達には十分だった。 ――今宵もまた、街のどこかで怪人の声が響く。 彼だけの舞姫の為に、強く、のびやかに歌い続ける。 (84) 2022/12/01(Thu) 2:35:51 |
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