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【人】 宝飾職人 エデン――エデンへ―― [どうして店名に『エデン』と自分の名を付けたのか。 そんなふうに聞かれたことがある。 実のところ、とりあえずエデンと名乗っているだけだったから 自分の名前、というのがピンとこなくて首をかしげたものだった。 ――ここを、自分の喜びの地にしたかったんです。 嘘ではないけど本当でもない理由でお茶を濁す。 母がいなくなったのは物心がついたくらいの頃で、 女は母に名を呼ばれたことがなかった。 『エデンへ』 冒険者だった母のドッグタグの裏にそう書き残されていたから 自分宛だ、と思い込むことにしたというだけの簡単な話だ。 今になって思うに、これは娘へのメッセージなんかじゃなくて 単に母の行き先を指した遺書のようなものなのかもしれない。 魔の色濃い望まぬ子供。ある日、衝動的に命を絶っても不思議ではない。 あるいは、娘を穴《楽園》へやれという愛憎こもった親心、とか。ないものを見ようとしてしまう。 身内への情とかいう、掴めない星に憧れて] (10) 2023/01/11(Wed) 23:37:29 |
【人】 宝飾職人 エデン[ダンジョンの異常がおさまった日、一度店に帰ったきり。 エデンという女はイシュノルドの都市から姿を消してしまった。 誰も命を落とさず、しかし淫らな醜聞に事欠かない騒動の当事者として噂されることに耐えられなかったのでは、と近所の者は噂した。 店に残された魔石は大家の所有となり、やがて安価に売り出される。 生活に必須な水や風、火。 あまり役立たない力の弱い石を工夫してあしらった銀細工。 それから冒険者向けの装備品の数々。 ――邪眼の類だけが、密かに女とともに消えていた。 ある日突然、エデンの「遺品」は変容する。 現れる水は媚薬となり、風や火は安全地帯にそれらを導く。 銀細工を身に着けたものは望まぬ魅了の力に振り回される。 そして、冒険者はダンジョンの中で動けなくなる。 しかしそれは数ヶ月後のことだ。 パーティーたのしみだね、と女はうっとりと笑む] (11) 2023/01/11(Wed) 23:38:34 |
【人】 宝飾職人 エデン――グラッドの店―― お久しぶりです。 竜涙石、やっぱり強敵だけど、光明が見えてきたんです。 半年後を楽しみにしてくださいね! たぶん、良い品を納入できると思うんです。 [瞳から青い瑞々しさは失せたけれど、女は以前よりイキイキしている。 何故かの職人はこれほど精密かつ輝かしい煌めきの領域に至れたか。薄暗く寒い地の底に堕ちたことで、少し理解できたのだ。 掴めそうで掴めない、傷つけるのは簡単な美しいもの。 光のなんたるかを、もう少しで物にできる気がする。 「穴」の片隅でひっそりと研鑽を積みながら、女は生きていく。 『緋色結晶の竜涙石』 人間のままだったら、きっと熟練の域に達した老境に仕上げられたはずの逸品。 まさしく竜が末期に流す涙のような悲しみと温かみのある魔石になるはずだったそれは、きっと竜の宝を奪おうとして滴る血のように禍々しく美しい魔性の石となるのだろう**] (13) 2023/01/11(Wed) 23:40:58 |
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