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【人】 空腹な迷い人 レックス[ 頭の痛さと、飢えの苦しさに フォークを落とせば、心配してくれる声が聞こえた。] だい、じょうぶです 少し休めば、治まるんで…… [ チラチラと、瞳に紅を滲ませながら、 フォークを拾って、皿に戻した。] 残りは、後で……食べますね [ 片手で皿を持って、小部屋へと歩いて行った。 せっかく作ってくれたものだから、全部食べたくて。] (94) 2020/09/13(Sun) 14:54:45 |
【人】 空腹な迷い人 レックス― 個室 ― [ 机の上にナポリタンの皿を置けば、 掛けてくれた毛布にくるまって、丸まった。 美味しそうな匂いから遠ざかって 食べたい衝動が過ぎ去るのを待つ。 あの子が嫌いな、鬼にはなりたくなから] (95) 2020/09/13(Sun) 14:54:47 |
【人】 空腹な鬼 レックス― 嫌いな鬼の話 ― [ いつだったか、彼女に聞いた。] 鬼と共存したいなんて、君は鬼が嫌いじゃないの? 人間を喰うし、意味もなく殺すことだってある 怖がったり、嫌ったりするものじゃない? [ 白鬼なんかと一緒に旅をしているし、 共存する道を探しているとかいうし、 不思議そうにそう尋ねたんだ。 そうしたら、彼女は泣き出しそうな顔で笑った。] 『鬼は嫌いだよ、 僕の大切なものを奪う"鬼"は、嫌い』 [ 大切なものを、きっと奪われたんだ。 それなのに、なぜ共存を目指すのか不思議だった] (96) 2020/09/13(Sun) 14:55:10 |
【人】 空腹な鬼 レックス 『親も、養父も、大切な友だちも、 』みんな、みんな、"鬼"が奪っていった だから、僕は 奪う"鬼"は嫌い だよだけど、それは"人間"も同じだって、知ってるから (97) 2020/09/13(Sun) 14:55:27 |
【人】 空腹な鬼 レックス[ そう、人間も同じだ。 人同士で殺し合うし、大事なものを奪い合う。 人間の方が、恐ろしい時すらある。 そんな話をぽつぽつと話してくれた。 小さな頃に両親を、 鬼に殺されて、 引き取ってくれた養父も、 鬼に殺されて、 大切な友人も、 鬼に殺された ――友人は、それを受け入れてたようだが だが、人間を愛する鬼もいた。 護ろうとする鬼もいた。 人と同じだと、気づいたのだと 大好きな女の子が、鬼と共に生きる道を選んだから 自分も共存の道を探そうと思ったんだ。 そんな話をしてくれた] 君は変な子だね、いばらの道だ 白鬼は気まぐれに付き合ってるのかもしれないし 僕だって、暇つぶしで付き合ってるだけだし [ 鬼は、人と同じように成長する者もいれば、 白鬼の様に長生きなものもいる、 見た目を変えることができるものだっている。 自分だって、見た目は彼女と変わらないけど ずっとずっと年上だ。] (98) 2020/09/13(Sun) 14:56:49 |
【人】 空腹な鬼 レックス『それでいいよ、やるって決めたんだ オーリャと約束したし、義父さんにも約束した』 [ いつも何を考えているかわからない黒い瞳が その話をした時だけは、キラキラと煌めていて すごく――綺麗だった。 それから、彼女が大好きなオーリャという子に少し嫉妬した。 その子のために、嫌いな鬼を受け入れようと決めて いばら道を歩むなんて……] (99) 2020/09/13(Sun) 14:57:37 |
【人】 空腹な鬼 レックス…………僕も、なれるかな [ 不安そうに、ぽつりと呟いた。 俯いて、自分の掌を見つめた。 今は綺麗だけど、この手はたくさんの命を奪ってきた。 血の匂いは、消えはしない。] (100) 2020/09/13(Sun) 14:58:21 |
【人】 空腹な鬼 レックス君が好きになれる"鬼"に、なりたいな 『君なら、なれるよ……きっと』 [ いつも無表情な彼女が、笑った。 花が咲くように、愛らしい笑顔だった。 ――あぁ、好きだな どんなに辛くても、我慢しよう。 そう、胸に誓った。――それでも、欲求には抗えなくて] (101) 2020/09/13(Sun) 14:58:48 |
【人】 空腹な鬼 レックスアァ、お腹が空いた ――ダメだよ 血が欲しい、肉を喰らいたい ――食べちゃダメ もう食べてもいいよね ――それなら、僕を食べて [ 彼女の首筋に、牙を突き立ててしまった。 一滴、滴った血が唇に触れて、舌に触れて、 甘くて、美味しくて、 ……でも、苦しかった。ほんの一滴、だけど、 一滴でも口にしてはいけなかったものだった。] (102) 2020/09/13(Sun) 14:59:46 |
【人】 空腹な鬼 レックスごめん、なさい……ごめん、ゼノビア やっぱりダメなんだ……僕は、このままだと 君を食べてしまう [ だから、決めたんだ。 とある町で聞いた噂。 対価さえ払えば、 どんな願いも叶えてくれる魔女 時の魔女 グロリア・ベアトリクス に会いに行こうと] (103) 2020/09/13(Sun) 15:00:15 |
【人】 空腹な鬼 レックス 『ダメだよ、レックス 魔女に願いを叶えてもらうなんて 魔女に会いに行って、戻ってこれた人たちは ほとんどいないじゃないか。 あそこにいったら、君は死んでしまう』 (104) 2020/09/13(Sun) 15:00:57 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ 必死に止めてくれる彼女の声を振り切って、 いくつもの街を通り過ぎ、あともう少しで辿り着ける。 そんな時に、ここに来てしまった。 でも、あの女の声が魔女ならば、噂は本当なのだ。 どんな願いも叶えてくれる魔女は、実在する。] 生きて、帰ってみせる…… [ 飢えの苦しみ、もがきながら 大好きなあの子の顔を思い出して、耐えていた。 異形と人との恋物語 悲恋となるか、それとも幸せなものとなるか。 ずらりと並んだ本棚に、 そんな物語の続きがあるかもしれない。**] (105) 2020/09/13(Sun) 15:01:51 |
【人】 空腹な迷い人 レックス― 魔女の噂 ― [ とある国、とある町。その近くにある小高い丘の上。 森と湖に囲まれた場所に、そびえ立つ 時計館と呼ばれる振り子時計の形をした館には、 魔女が住んでいるという噂 時に、グロリア・ベアトリクスと名乗り 時に、ドミニカ・ベアトリクスと名乗り 時に、―――――――――――と名乗り 時と場所によって、その名も性格も異なっているらしい。 金髪の美しい女性であること 対価を代償に、どんな願いも叶えてくれること ただし、その二つは、共通していた。 代償が何かは、館に行ってみなければ分からない。 館から無事に帰ってこれたものは、多くは語らない。 時に、殺し合いのゲームをさせて、 生き残った者の願いを叶えたり 時に、弟子の卒業試験のため、 紛れ込んだ弟子を見つけ出させるゲームを行い 舞台に残った者の願いを肩寝たり その時々で、代償の内容は異なっている。 しかし、必ず人が―――― 死ぬ 。魔女に願いを叶えてもらうということは、そういうこと。] (123) 2020/09/13(Sun) 22:25:23 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ 苦しみに喘ぎながら、魔女の噂を思い出していれば ふいに、また声が聞こえる。] 『本当に、いつまで我慢をするのかしら? 飢えで死んでしまわれると困るのだけど バケモノ ねぇ、人食い鬼さん そんなふらふらな状態では、ゲームに参加できないわよ』 [ 困ったわ。と言いながらも、まったく困った様子はなく。 くすくすと愉しそうに嗤う声は、耳障りだった。 館に到着する前から、館を訪れるものに干渉するなんて 今まで、そんな話は聞いたことがない。 なぜ、この魔女は、自分に干渉してくるのか。] 『あら、不思議そうね。 言ったでしょう? お前は、大事な駒なのだと 久方ぶりの"ゲーム"で、必要な大事な駒なのよ』 [ こちらが考えていることを見透かしたように 頭に直接、語りかけてくる声は、そう言った。 "ゲーム"に必要な……駒。 館で行われるゲームのことだろう。] (124) 2020/09/13(Sun) 22:25:25 |
【人】 空腹な迷い人 レックス(あなた自身もゲームに参加するんですか?) 『それは――秘密、と言いたいところだけど そうね、お前には教えておいてあげようかしら? とある方法で、私も参加するわ。 それから、無事に館についたなら、 お前にやって欲しいことがあるのよ 条件を満たすことができたなら、お前の生死に関わらず 願いを叶えてあげるわ ただし――…願いそのままは、無理だけれど』 [ 嗤いを含まない真剣な響きだった。 魔女が真実を言っているとはわかる。 願いそのままはダメ。とは、どういうことだろう。] (125) 2020/09/13(Sun) 22:25:27 |
【人】 空腹な迷い人 レックス(あなたの力でも、すべての鬼を人間にはできない?) 『違うわ、すべての鬼を人間にするには、 対価が足りないのよ。 せいぜい、お前を人間に変えてやるくらいね 頑張り次第では、 人食いの欲を抑える薬を作ってあげようか どちらにせよ、お前が払える対価で できることはこの程度よ』 [ 対価が足りない。 そう言われてしまったら、どうしようもない。 しかし、人間にして貰える、 おまけに薬も貰えるなら僥倖だろう。 ――頑張り次第のようだが、 それなら、"ゲーム"に参加する意味は、十分にある。 条件を満たせば、生死は関係ないという話らしいし。] (…………死んでも、生き返ることができるんですか?) 『さぁ、それはお前の頑張り次第かしら 条件も満たしていなかったら、 生き返すことなどできないわ』 (条件とは?) (126) 2020/09/13(Sun) 22:25:29 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ しばらく、声は返ってこなかった。 気まぐれに声をかけてくる魔女だから、 無視をされているのだろう。 そう思って、湧き上がる衝動を抑え込むように さらにぎゅうと、自分を抱きしめるように、丸くなった。] (127) 2020/09/13(Sun) 22:25:33 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ 絞り出すように、微かに聞こえた声は 魔女にしては、酷く切なげで、妙に胸の奥をざわつかせた。 瞳を瞬かせて、誰もいないのに つい視線を周囲に巡らせてしまう。] (今、なんて?) 『館に来る者が誰か、私は既に知っているわ 彼らが来るのは、偶然ではないの そこにあるのは、ただ――――" 必然 "お前だけは、その"必然"の中にいないのよ だから、"ゲーム"に参加する前に死なれては困るの せいぜい、生き延びて、我が時計館にいらっしゃいな』 [ 先程の音が嘘のように、 毅然と、そして、相変わらず愉しそうに くすりくすりと、嗤う声だけを響かせて、 やがて、声は聞こえなくなった。] 条件って……なんだろう 死んで、運よく生き返ったとして… (129) 2020/09/13(Sun) 22:25:38 |
【人】 空腹な迷い人 レックス――――生き返った僕は、本当に"僕"なのかな [ 呟いた声は、誰に届くこともなく。 静けさの中に融けて、消えた**] (130) 2020/09/13(Sun) 22:25:41 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ 漸く飢えの波が治まって、顔をあげた。 はぁ、はぁ、と浅い呼吸を繰り返して、 机に縋るように身体を起こせば、 先程のナポリタンが目に入る。 ゆっくりと、数度深呼吸をしてから、 再び、フォークを手に取った。] すっかり冷めてしまったけど……美味しいや [ 冷たいけど、美味しいと感じた。 ソーセージを口にすれば、腹が満たされるのを感じる。 少しずつ、少しずつ、 普通の食事で満足できるようになればいいのに だけど、少しずつでは間に合いそうもなかった。 きっと、近いうちに自分はあの子を喰っていただろう。 許されないことで、仕方がないことで それでも、そんな未来を迎えたくなかったから ――優しい鬼になりたかった 胸の内で、そんな願いを抱きながら、 自嘲の笑みを浮かべた。] (209) 2020/09/14(Mon) 21:01:45 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ 何処かの物語の主人公が言っていた。 "人前に出てこないゴブリンだけが、いいゴブリンだ"と 鬼も一緒だ。 人前にでてこない鬼こそが、良い鬼なのだろう。 それでも――――…] ひとりぼっちは、寂しいんだ [ 人との争いで、父は死に。 人に見つかり、母は死に。 自分は、それでも生きることを選んできた。 一人で、お腹を空かせながら、闇の中でひっそりと 一人になってから、1年、2年、3年。 最初の頃は、野山の動物を狩って生きていた。 だけど、寂しさに、孤独に耐えきれなくて。 人に化けて、村に住んでみた。 戦災孤児と偽って ――偽りでもないが だけど、見た目が変わらないことを 訝しんだ村人に殺されそうになった。] (211) 2020/09/14(Mon) 21:01:51 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ 次に、その村から、ずっと遠い町に今度は潜り込んだ。 孤児はたくさんいるから、そこでは上手く潜り込めた。 だけど、孤児仲間が襲われているところ 鬼の力で助けてしまった。 ――『騙したのか、この バケモノめ !!』今でも憶えている。 助けてやったのに、罵られて、石をぶつけられて ――――拒絶された 人間と一緒に生きるのは、やはり無理なのだと思った。] (212) 2020/09/14(Mon) 21:01:53 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ それから、10年、20年 長い時間を一人で生きてきた。 襲ってくる人間を殺しては喰って、腹が減っては、喰って 食事をした後は、それでも罪悪感でいっぱいだった。 男を喰った、女を喰った、子どもも喰った。 ――襲ってきた父親を殺して ――周囲に知らせようとした母親を殺して ――たった一人残しては可哀想だから、子どもも殺した 仕方がなかったんだ。 生きるためには、仕方がなかった。 ごめん、ね……ごめんなさい…… 美味しい食事に涙を流しながら、謝っていた。 そんな時に、やってきたのが白鬼だった。 近くの山小屋に、鬼と共存を目指している娘がいると そんな話を急にされた。 自分が食べているものなど、目にも入っていないかのように そんな酔狂な奴がいるなら、会わせてくれと言った。 食べてやろうかと思ったが、白鬼にとっても大事なようで 同族であろうと殺す。 というような目で見られたのを覚えている。] (213) 2020/09/14(Mon) 21:01:55 |
【人】 空腹な迷い人 レックス鬼の養父とでも言うのかな…… [ 父親のような顔をした白鬼を思い出して、 くくくと喉の奥で笑った。 昔のことを思い出しながら、食べていれば いつの間にか、皿は空になっていた。] ごちそうさまでした [ 手を合わせて、小さく呟いてから、 個室を出れば、周囲の本棚に目をやった。 よくよく見れば、ここにある本は読めるようだ。 見たことない文字なのに、 意味は理解できるというのは不思議な感覚だ。] こ、凍れる? [ ふと目に留まった本を手に取ってみれば、 そこには、人狼の娘の物語が描かれていた。] (214) 2020/09/14(Mon) 21:01:58 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ 愛しいと想ったものを、食べたいと思ってしまう少女。 彼女にとって、食べるということが最大の 愛情表現 だった。初めて、自ら欲して食べたのは、初恋の少年。 だが、それをきっかけに、彼女の両親は死んだ。 両親は、村の人間には手を出さないこと、 代わりに村を襲う連中を退けることを約束して、 この村に住んでいたというのに、 幼い娘は知らずに契約を破ってしまったのだ。 その日から、彼女が新たな村の守護者になった。 優しい獣になりたいと願いながら、 人間と共存したいと願いながら それはきっと無理だと、――諦めながら しかし、そんな日々も 人間側の裏切りにあい、終わりを迎えた。 愛しい友人を食べ、初めての仲間を得て、 仲間を守るために、自らを差し出した。 本当は、人間と一緒に生きたかったのに 大好きな子たちと一緒に生きたかったのに その願いは、諦めて。 仲間のことを、大好きな子たちのこと 彼らの幸せを願って、死んで逝った。] (215) 2020/09/14(Mon) 21:02:00 |
【人】 空腹な迷い人 レックス……僕は、こんな風に諦めたくないから だから、願いを叶えに行かなきゃ [ たとえ、それが悪魔に魂を売るようなことであろうと この願いだけは叶えたい。 あの子との約束を守りたい。 ぱたりと、本を閉じて、静かに瞳を閉じた。 じわりと胸の奥に広がる熱を感じていた。 愛しいという想いを、力に変えて進もうと] (216) 2020/09/14(Mon) 21:02:02 |
【人】 空腹な迷い人 レックス 『あはははははははははは!!!! いいぞいいぞ! その調子だ!! そのまま、一人くらい、 喰ってから戻ってくればいい!!』 (217) 2020/09/14(Mon) 21:02:04 |
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