84 【R18G】神狼に捧ぐ祀【身内】
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「くそ……頭が、」
ゆらゆらと。
「……ぼんやりする……」
げほ、と喉につまったものを吐き出すように、
軽くせき込んだ。
ぽたぽたと、汗か、涙のようなものが、少し垂れる。
はてさて、仄暗い中でも学徒は何時も通り変わらない。
一枚、一枚と紙を捲る。
「しかし、しかし。成る程。本を読むにはいい場所ですね」
其の様子は、何一つ代わり映えしない。
何時も通りであった。
すく、と立ち上がる。
拘束はされていない。
見張りはいるようだが。
懐から、扇を二本。すらりと取り出し、しゃんと開く。
ひらひらと布をはためかせながら。
躍る。
踊る。
舞うように生き、舞うために生きよう。
不器用な自分の、それが生き様だから。
| 「……右方の舞が選ばれましたか」
宿の片隅に賜った自室。開け放った窓の遠くより、 印が消えたと騒ぎ立てる島民達の声がする。
部屋の中央に座して、喧騒を聞き流す。 暫くの間そうしてから 目の前に横たえた和弓に手を伸ばした。
弦を指先で抓み、弾く。
「ひい、ふう、み、よ、いつ、む、なな」
高くも低くもない声が七つ、数字を数え上げた。 弦の音は時間を置きながら半刻ほど、 宿の周りでひっそり響いていただろう。 (6) 2021/07/24(Sat) 22:19:54 |
| (a1) 2021/07/24(Sat) 22:20:37 |
舞う。
舞って。
この島の舞いは、独特だ。
他の地方にない、特有の動き、特有のモチーフ。
それはつまり、何か確たるものに根差している。
舞の中から、それをつかみ取る。
踊りながら、自分の身体に刻み込む。
──遠吠えが聞こえた気がした。
「──……狼、か」
ぽつり、と呟く。
脳裏に浮かぶのは、
神々しく、畏ろしく、美しい。
おおかみのすがた。
| 「………………。」
奉公人が警策を携えて歩いている。 他の島民に出会っては仕事の捗り具合を聞き、 お疲れ様ですと声を掛けては次に行く。 今のところ軽快な音が響く様子はない。
あの警策はどうしたことか、と事情を知らぬ者達が 遠目に囁きあっているのが見える。
「祭礼の終わりが近づいているからか、 皆々さま一様に仕事に励んでいらっしゃる。 ………良きこと、でしょうか」
宿の遣いがてら運営の様子を見回っているだけなのだが、 当人の真面目顔と手に持った棒のお陰か 歩いているだけで島民の背筋が伸びるというものだ。 (13) 2021/07/26(Mon) 12:05:13 |
はらり、はらり、一枚、一枚と紙を捲る。
残った項目も、後わずか。
「さて、いよいよ大詰めだ。仕込みは重畳」
はらり、はらり、一枚、一枚と紙を捲る。
学徒は静かに、天を仰いだ。
何とも侘しき、土天上。
「さて、最後に笑うのは如何なるものか……嗚呼、小生は犬死こそ御免だが、盛り上げるには充分な事は起きるとも」
「しっぺ返しを受けるか、悪が笑うか、或いは漁夫の利を得たものがいるか……」
はらり。最後の項目で、指が止まる。
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