【人】 室生 悠仁あの言葉を聞いたのは>>25、もう半年ほど前になる。 半年もの間、俺は結論を出さずにずるずると 傍にいることを許してくれる彼の隣りに居続けた。 共にいる時間、楽しいことも 嬉しいこともたくさんあった。 彼といると全てがきらきらと輝いて見える。 このままでいいんじゃないかと思えてしまう。 それでも、このままではいけないと。 そう心の片隅で囁く自分も確かに在ったのだ。 繰り返す自問自答。 その行為にも疲れてきた頃、覗き見たSNSで 前に彼と共に行ったカフェがハロウィンに関する 季節限定メニューを出していることを知り>>*1 気分転換にと、今度は一人で。 足を運ぶことにしたのだ。 (54) 2022/10/18(Tue) 8:44:33 |
【人】 室生 悠仁扉に設置されたベルを鳴らしながら店へと入る。 少しばかり意気消沈しているから 俺の顔は俯きがちで、悪いと言われる目つきも 今は真っ直ぐと前は向いてない。 一人だから、カウンター席に案内されるだろうか。 休日のご飯時から少しずれた時間。 平日は学生が多いようだが、休日は遠くへ 出かけるからか、今のところそう客は多くないようだ。 席に着き、注文したのはパンプキンタルト。 既に軽食は食べていたから、今は疲れを癒やしてくれる 甘いものが食べたい気分だった。 ここの店長の拘りと言うからには 美味しいのだろう、という信用があった。 (55) 2022/10/18(Tue) 8:44:44 |
【人】 室生 悠仁注文が届くのを待っている間は隙間になる。 その暇を突くように、悩み事が再び頭の中を占領して もくもくと煙の如く思考を蝕んでいく。 ─── 彼への想いは不毛だ。 叶うわけでもなく、それでいて自分の意志で 捨て去ることも出来やせず。 何度も考えた。きっと、離れるのが一番いい。 それが俺のためでもあるし、仲の良いと思っている 俺から、彼が裏切られないための方法でもある。 同じことばかりを、飽きもせず思考する。 きっと、決着が着くまでこのままなのだろう。 我ながら女々しいと、自嘲しそうになるのを 外だからと口元を引き締めて耐えた。 (56) 2022/10/18(Tue) 8:45:11 |
【人】 室生 悠仁そうしていると、やがて頼んだものが運ばれてきた。 美味しそうなトッピングがされている 店長拘りのパンプキンタルト。 美味しいものを食べる時は気持ちをシェアするため 写真を撮ることもあったが、今日ばかりは そんなことをせず、フォークを手に取った。 見せる相手なんて彼しかいない。 けれど、今は、今この時は見せたくない。 写真を載せることで、自分の気持ちまで バレてしまいそうだと、そう思ったから。 (57) 2022/10/18(Tue) 8:45:20 |
【人】 室生 悠仁しかし食べてみて違和感に気づいた。 確かにパンプキンタルトは美味しい。 かぼちゃの風味が雑味なく、それでいて しっかりと生かされている。 拘りと言われる所以がわかるものだ。 それなのにどことなく味気なく感じ、 何故だろうと疑問に思いながらまた口に含んだ。 食べることは好きなはずなのにあまり心が踊らない。 一体何が違うというのだろう。 その理由に、タルトの量が半分となった辺り もしかして、という発想とともに行き着いた。 (58) 2022/10/18(Tue) 8:45:29 |
【人】 室生 悠仁もしかして。もしかしなくとも。 ……彼がいないからだ。 美味しいものを食べる時は大抵傍に彼がいた。 いない時だって、彼が食べたらきっと喜ぶと そんなことばかり考えていたように思う。 思わずフォークを置いて頭に手をやった。 俺はそこまで彼に依存していたのか。 彼がいないと食事も満足に美味しいと 感じられないほどに。 人に寄りかかりすぎな自分に羞恥心を抱く。 それでいて、恐怖心も。 このまま彼と離れてどうなるかわからない。 最初から道がわからなかったのに 更に真っ暗になってしまった心地だ。 (59) 2022/10/18(Tue) 8:45:42 |
【人】 室生 悠仁パンプキンタルトは途中だが、店員を呼ぶと メニューにある黒猫のホットココアを頼んだ。 とにかく、今は気持ちを落ち着けたい。 美味しいものを食べて休まらずとも 温かい飲み物になら心も静まるだろうと。 届けられたカップを手に取る。 挟んだ手が温められてほっと息をついた。 飲んでみると意外と甘いだけでなく 心地よいほどの苦味もあるように感じた。 砂糖より純ココアが多く配合されているのだろう。 ぬくもりが食道を通ると少し頭がすっきりした。 温かいものはそれだけで、心を落ち着けるらしい。 (60) 2022/10/18(Tue) 8:45:54 |
【人】 室生 悠仁そう、彼は女性が好きだ。 将来女性と結婚して、子を成して、 きっと立派な父親になる。 まだ25歳、すぐに来る未来ではないけれど それは恐らく、そう遠い情景ではないもの。 その時、俺のようなものがいていいものか。 考えたところで、……結論は一つしか出ない。 彼の傍に、俺の居場所なんてないんだ。 (62) 2022/10/18(Tue) 8:48:38 |
【人】 室生 悠仁すぅ、と息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。 心は、─── 決まった。 ホットココアを一度脇に置いて、 パンプキンタルトに再びフォークを入れる。 甘いだけではないかぼちゃの香りが 口の中に広がれば、眦を僅かに緩めた。 この味気ない味に慣れなければいけない。 これからは一人で生きて行くのだから。 甘くて、ほんのりと苦いホットココアの 黒猫が背中を押すようにこちらを見ていた。** (63) 2022/10/18(Tue) 8:49:46 |
室生 悠仁は、メモを貼った。 (a11) 2022/10/18(Tue) 8:51:16 |
【人】 室生 悠仁暑くなったり寒くなったり>>0:38 そんな寒暖差も落ち着いてきて 冷える時間帯は冷たさに震える程となった。 購入してきたきのこ類を鍋へと放り込む。 鍋ものの細かい作り方など知らないから レシピを見ながら作業をしている。 ( 一人で過ごす時間は気楽でいい。 気を使うことなく、気をつけることなく 自由に好きに時を過ごせるのは 望外の喜びというものだ。 それでも、きっと。 彼と過ごした時間が、 自分の中では一番なのだろうな。 ) 仕事も終わって夜の時間 夕飯を作りながら思う。 今日のご飯は、ある意味最後の晩餐と言えよう。 (90) 2022/10/19(Wed) 7:56:43 |
【人】 室生 悠仁机に置いたスマートフォンが軽快な音を鳴らす。 短く響いてすぐに消えるのは、電話の着信ではなく SMSの通知を表している>>0:39 ご飯を作る手を止めて端末を手に取った。 送ってきた相手は、─── 全く、予想通りと言える存在。 『 仕事今終わったからも少し待ってて。 』 体力がなく定時で上がる俺と違って 彼はいつも、少し遅い時間まで仕事があるようだ。 今日は酒も用意しているから 毎日遅い時間までご苦労だと労ってやろう。 反応を考えて、くすりと小さな音を響かせた。 訪れてくれることが待ち遠しく、 鍋をかき混ぜて気を逸らす。 (91) 2022/10/19(Wed) 7:57:09 |
室生 悠仁は、メモを貼った。 (a17) 2022/10/19(Wed) 8:04:38 |
(a19) 2022/10/19(Wed) 8:18:32 |
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