【人】 橘――とある船の上で―― [汽笛が鳴った 目的地に近づいたという合図だ 甲板へと足を運べば、目的の島は遠くかすかに姿を見せ始めている] やぁ、無事に着いたようだなぁ、船長 [先に甲板に着いていた姿に声をかけると、特徴のあるマスクをつけた船長が「あぁ」と気づいたように振り向いた] 「そりゃぁ、予定に遅れないのがうちの自慢だからねぇ。 客船じゃないんで不自由させたかもしれないけど、大丈夫だったかい?」 そんなの今更さぁ、むしろ気楽でありがたかったね! [今乗っている船は昔なじみの商会の船だ 「榛名に行く」と言ったなら、ついでだから乗って行けと快く乗船させてくれた 客船は接客はいいが、数日前まで船員だった男には少々堅苦しい] (5) 2022/04/09(Sat) 0:25:56 |
【人】 橘 「それにしても、あんたが船を降りちまうとはねぇ」 [などと、しみじみと船長は言う 何しろ互いに船に乗り始めたころからの付き合いだ 船こそ違えど幾度も顔を合わせていれば、それなりの交流も生まれるものだ] なぁに、ちっとばかし陸で過ごしてみたくなったのさ 船関係の仕事には変わりねぇしな それにもう数年ほったらかしてるから、そろそろちゃんと帰らんとならんしな 一人息子なのに好き勝手させてもらったんだ……だから、な [親孝行かい、なんて言われてからからと笑った] 「アタシゃ親の反対押し切ってあと継いじまったからねぇ アンタの娘だからしょうがないって」 [そんな話をしているうちにまた汽笛が鳴る] (6) 2022/04/09(Sat) 0:27:28 |
【人】 橘 「あぁ、もうすぐだ、下船の用意をしておくれよ。 うちらもいろいろ用意があるからさ」 おぅ、ありがとう せっかくだし時間があるなら花見でもしていきなよ [今の時期は桜が見ごろだし、榛名の名物でもあると言えば 「もちろんそのつもりで予定は組んでる」と愉しげに船長は笑った 船室に戻って荷物を纏めていれば、接岸の合図が船内に響く 下船の案内などないから勝手知ったるなんとやらで降船口へ向かう 船長に船代を渡そうとしたが餞別代りと受け取ってもらえなかった] そんじゃ、また! 気まぐれで船に戻るかもしれんがそんときゃよろしく! [そういって船を降りて目的のホームからゴンドラに乗る>>#1] (7) 2022/04/09(Sat) 0:28:55 |
橘は、メモを貼った。 (a1) 2022/04/09(Sat) 0:54:47 |
【人】 澤邑[ 商業地区の一角。観光客なども多く訪れる場所に先祖伝来店を構える呉服問屋。 だったのだが今は息子に家業を譲り、商売には触れないことにしているため細いことは判然としないが、若い娘が店先に団子になっているから繁盛はしているのだろう。] ここの戸を開けておいてはいけないと言っただろう [ つい小言を言ってしまうのは、猫を飼うようになってからのこと。店の奥に家族の住まう住居があるのだが、店舗へつながる通路の扉を開けっぱなしにするなと何度も口すっぱく言っている。 猫が外に出てしまうではないかと心配してのことだ。 これまでは全て使用人や家族に止められていたようだが。まれに店舗で商品の上に寝転がっていたなんて報告もある。] (9) 2022/04/09(Sat) 3:36:19 |
【人】 澤邑全く大変なものを引き受けてしまった [ 白い子猫はお隣から無理矢理に押し付けられたものだ。縁下で見つけたもので他の兄弟たちは貰われていったのに最後の一匹が残っているんだという。珍しい目をしているから余り物なんていうのはちょっと信じ難いのだが、大方貰い手が検分に来た時にふらふらと他所で遊んでいたとかなのだろう。 隣はすでに大人の猫が二匹もいてこれ以上は増やせないと言うから、仕方なくだ。 一番奥の箪笥置き場を猫の部屋にすることにして、寝床やはばかりをしつらえたのだが、ちっともじっとしていない。 その上孫たちが追い回すからしばらくは自分の部屋に匿っていたのだがどうも勘違いしたようで勝手に眠るようになってしまった。] 可愛がってなんかいないよ [ すっかり猫が来てからお父さんが丸くなってなどと皆が言うから否定を返す。預かったからには危険な目に遭わせるわけにはいかないだろう、それだけのことだ。**] (10) 2022/04/09(Sat) 3:41:00 |
【人】 澤邑[ 何を買ってきたんです?と聞かれて、少々バツが悪い。犬猫の装具を扱う店で手に入れたのは猫ようのハーネスだ。] そろそろ桜が見所だからな [ 返答にならないことを言っている。先ずは室内で少し練習をしてから外に出かけてみようかと思う。**] (11) 2022/04/09(Sat) 3:43:57 |
澤邑は、メモを貼った。 (a2) 2022/04/09(Sat) 3:47:19 |
【人】 虹彩異色症の猫[ 遊びたい盛りであるのはひとの子も同じことで>>10、善意で追い回すと猫は全身の毛を逆立てて逃げる。無造作に抱き上げると身を捩って抜け出そうとする。一度姿を見失うと暫く出てこず、また店側か、いや街路に出てしまってはいないかと騒ぎになる。 であるから、子猫の部屋となっている箪笥部屋、そこから続きの年寄りが居住まう部屋の襖は普段はぴっしりと閉められている。 二間続きで見渡せるほどの広さであり、隠れる場所などそうありはしない筈なのに、猫は器用に気配を潜める。 今もそうだ。部屋の主が帰ってくると>>11、もぬけの空のように畳の間は静まり返っている。]** (13) 2022/04/09(Sat) 9:42:13 |
虹彩異色症の猫は、メモを貼った。 (a3) 2022/04/09(Sat) 9:45:10 |
【人】 澤邑 ゆきちゃん、あれ?こゆきー [ >>13襖をそっと開けて足元を見て、油断すれば人の出入りの際に子猫は逃げ出してしまう。だが今日は姿が見えない。 用心深く襖を閉めて、紙袋からハーネスを取り出すと、子猫にあてがってみようと考えていたのだが、まだ見つからない。] こたつの中かな [ 帰ってきて子猫が飛び出してきたなどと言う話は聞いていないからこの部屋か、奥の箪笥部屋にいるはずなのだが。 箪笥の部屋の入り口は猫1匹分がいつも開けてある。猫は広さよりも高さが必要とのことで、大きさ様々な箪笥の凸凹は良い遊び場のようだ。 こたつの中を確認して、見当たらないようなら奥の部屋へいくつもりだ。**] (14) 2022/04/09(Sat) 14:08:46 |
【人】 豊里[鋼鉄と蒸気と煤の孤島『EK参号-榛名』。 此処に居るのは元々の島民、仕事で訪れた組合の人間、 傭兵組合に雇われた者などが多くを占めているだろうか。 然し真希奈は其のどれでもない。 櫻の見頃と祭に合わせて、此処へ来た観光客だ。 其れだけか?と問われれば、少し考えてしまうけれど。 真希奈は新米の人形技師である。 オートマタを作ることを、生業としている。 オートマタと云っても、現状の技術力では、 絡繰り人形に毛が生えた程度の物しか作れはしない。 精巧なアンドロイドなど、夢のまた夢。 まぁ、夢見るだけなら只だと、真希奈は考える質であるが。 幸いまだ夢見がちであってもぎりぎり許される年齢だと、 少なくとも真希奈は思っている。] (17) 2022/04/09(Sat) 16:14:43 |
【人】 豊里[榛名滞在中は旅籠に泊まり、 祭が終われば工房へ帰るつもりだ。 櫻も祭も、榛名の職人街も満喫しようという、 欲張り旅行の心算で此処へ来た。] (一先ず今日は、職人街を見て回ろうか。 若しかしたら祭で休業中の所も多いかも知れないが、 空気だけでも体感出来れば、其れで良し) [その様に考えて、アナウンスに従って先ずは弐番ホームへ。 旅籠で手続きを済ませ、 近くの茶屋でみたらし団子と冷茶を購入した。 予 報 に 違 わ ぬ 青 い 空 に 、櫻 の 花 弁 が 揺 蕩 う 。 ] (18) 2022/04/09(Sat) 16:21:01 |
【人】 豊里[傭兵と思しき人達とすれ違った。 すかさず其の得物に目をやってしまう。] 中々良い得物じゃないか。 でも、もう一声恰好良いと云う事無いんだけどね! [揶揄う様に声を掛ければ、 "小娘に何が分かる" とでも云いたげな、胡乱な目を向けられてしまった。 「そんなに気を悪くしないでくれないか。小娘の戯言さ」 そんな風に返して、お茶を濁す。 幼い頃から、機械に囲まれて生きてきた。 機械は正解で構成されて出来た物。 其処に不正解が混じれば、たちまち正常に機能しなくなる。 此の世界は不可解で不確かなもので溢れている。 だからこそ真希奈にとって機械は、 "正しさを証明された存在"であるように思えて、好きなのだ。 機能性を高めるのは勿論のこと、見栄えだって追求したい。] (19) 2022/04/09(Sat) 16:27:39 |
豊里は、メモを貼った。 (a4) 2022/04/09(Sat) 16:43:50 |
【人】 橘――自宅にて―― [最後に実家に帰ったのは親父が死んだ時だ 倒れたと聞いて急いで帰り、看取って葬式が終わるまで 当然その時に船を降りるという話になったのだが、おふくろは「必要ない」と笑って見せた] 「まだ子供の厄介になるほど歳取っちゃいないよ」 [それは確かにその通りで、結局それに甘えて船に戻った しかし俺は親父とも約束していた。「母さんを頼む」と おふくろが怪我をしたと報せがあったのは二月程前のこと 後遺症が残りそうで一時的に療養施設に入ったことを聞いて、親父との約束を果たす時だと思った なんだかんだで嫌がりそうだが、男手があるに越したことはない そんなことを考えながら自宅に向かうと、無人のはずの玄関先に人がいた] (21) 2022/04/09(Sat) 18:29:00 |
【人】 橘 あれ? 幸さん、わざわざ来てくれたのかい? [そう声をかけると深々とお辞儀をして「幸」と呼ばれた女性が微笑む] 「そろそろ着くころかと思ったから、掃除くらい、って」 ありがとう。おふくろは元気? 「はい。わざわざ帰ってこなくても、って言ってますけど」 [予想通りの反応に声をあげて笑い、玄関へと入る。 幸さんはもうずっとうちでお手伝いをしてくれている人だ 今もおふくろについていてくれるし、こうして家の管理もしてくれる 親父の知り合いの身内だそうで、身寄りを無くしたと聞いて両親が連れてきてからずっとうちにいる いわば家族のような物だ 両親としてはあわよくば俺の嫁に……という思惑の一つもあったのかもしれないが あいにく互いにそんな気配の欠片もなかった] (22) 2022/04/09(Sat) 18:30:31 |
【人】 橘 「あ、お風呂と簡単なお食事の用意はできてます。 私は奥様のところに戻らなければなりませんけど……」 はは、大丈夫、自分のことくらい自分でできるって おふくろの所には明日にでも顔を出すよ、同居の話もしないといかんし ついでにみんなで花見でもって思ってるけど、どう? [いいですね、と幸さんは同意して「お弁当を作らなきゃ」と言いながらおふくろの所に戻って行った 一人でいるには少しばかり広い家で、俺はため息のように息を吐いた**] (23) 2022/04/09(Sat) 18:31:36 |
橘は、メモを貼った。 (a5) 2022/04/09(Sat) 18:36:51 |
【人】 虹彩異色症の猫[ 澤邑が炬燵を覗き込んでいると、なぁう、と背後で鳴き声がした。幾度かの呼び声への応答にも思える。 先刻まで確かに姿を潜めていたのに、まるで最初からそこに居たような顔をしている。炬燵の掛布に埋もれていたのか、それとも目を離した隙に続き間の襖の合間から駆けてきたのか。 澤邑の足元をうろうろと一巡りすると、脛に鼻先を擦り付けた。それから天板の上に勢いをつけて飛び上がると、澤邑が外から購い>>11、一旦は置いた紙袋に鼻を引くつかせる。外のにおいがするのか。止めなければそのまま紙袋を引き倒し、その中に潜り込もうとしている。]** (24) 2022/04/09(Sat) 19:20:53 |
虹彩異色症の猫は、メモを貼った。 (a6) 2022/04/09(Sat) 19:21:25 |
【人】 東天[天へと差し伸べられた指先に、ふわりひらりと桜の花弁が灯る。 ひたりとぜんまいの切れたから繰りのように静止した指先が滑らかに空を掻き、灯った火を震わせた。 拍子はない。 笛の音も、弦の音もなく。 狩衣の袖だけが風を鳴らす。 再び落ちていく花弁は風と出会い、再び宙へと吹き上がる。 男が体を翻せば桜色の扇が風を起こし、花弁を弄んだ。 ふわり、ひらり。 ひとつ、ふたつ………みっつ、よつ。 盛りの木々から零れ落ちる花弁が、くるりと舞う仮面の男の辺へと散り。 それが地に落ちると同時に舞いは止む。] (26) 2022/04/09(Sat) 22:13:15 |
【人】 東天[とんと足先で地を蹴れば、突然音色を思い出したかのように鈴が鳴った。 りん、と澄んだ音色は一度きり。 身につけた狩衣に音が吸われ、押し黙り] ───ふむ。 [その声はやや満足げに頷いた。 閉じた扇を再び開いて、火照る体に風を送る。] (27) 2022/04/09(Sat) 22:13:34 |
【人】 東天[旅をして、舞いを納める旅芸人。 毎年この地へは必ずこの時期に来ては、いつも同じ桜の木の下で舞いを奉納する。 喜ばせるのは、主に人。 ひと柱に仕えるここの主とは違い、男は祭りあるところに現れる賑やかし。 狐の面で顔を隠すのはご愛嬌。 狩衣で体を隠す事も、"もう何十年と姿が変わらないように見える"事も。 秘密を纏うからこそ、ある種の注目も得られよう。 尤も、姿が変わらない謎の種は、ごく単純に代替わり故であるが。 いつ、どの年に、代替わりが行われたのかを、気付けた者が居たかどうか。 十分にまったと。 今は扇で肌を仰ぎ、凭れた桜でしばしの休息。**] (28) 2022/04/09(Sat) 22:14:22 |
東天は、メモを貼った。 (a7) 2022/04/09(Sat) 22:19:00 |
【人】 澤邑[ >>24炬燵をめくって中を見ていたところ背後から声がした。いつの間に?と声の方向を見れば子猫の姿があった。] あれ、どこにいたんだろう まあいいか、おいでおいで [ しっかりと確認したはずなのに、部屋の中にそう隠れられる場所は無さそうなのだが、炬燵布団の弛んだところや、屑入れの背後など死角がまだ色々あったのかもしれない。 おいでと言って従うことなんて稀だが一応の声かけ。紙袋のガサガサとした音が興味を引いたのか炬燵の天板へと飛び乗りスンスンと鼻先を押し付けたりしている。腕に鼻先が当たると少しひんやりする。中身を取り出して説明を読んでいる間、子猫は紙袋が楽しげに見えたのか中へもぐりたそうにしていてひどく可愛らしい。 紙袋の口をしっかりと開いてあげれば中にすっぽり収まったりしていたかも。] ああ、と、上に載っちゃダメだよ [ これもまた、言葉で言ったところで通じやしないのだが、説明書を読み終え、天板の上の小さな体を抱き抱えて膝の上に。孫たちが抱え上げればジタバタと逃れようと必死なのだが果たして。 自分に対しても未だ大差ないといえば大差ないが。最初の少しだけはじっとしていたかもしれない。飽きれば暴れ出す。それまでに片付けなければ。] こうかな、よし、練習してみよう [ 小さな体にハーネスをあてがい、寸法を調整してすり抜けられないようにしてしまう。両方の腕?前足を通す部分があるからちょっとやそっとじゃ外れることはないだろう。 上半身をしっかり包み込んで背中から紐で繋がれている。首に負担も少なくてこれなら良さそうだと思う。] 家の中を散歩してみよう [ こゆきを自由にしてやり畳の上へ。もちろんしっかり手綱は握っている。**] (29) 2022/04/09(Sat) 22:22:01 |
【人】 豊里― 職人街 ―[職人街の方へと移動してきた。 確かに休業と思われる所もあったが、全てではない。 火花が散る音、金属同士がぶつかる音、 職人たちの話声が聞こえる。 懐かしい。活気のある様子が窺えて、思わず笑みが零れた。] ふふっ。やっぱりこういう空気も良いなぁ。 [今でこそ独り身であるけれど、 嘗ては真希奈もこんな喧騒の中で仕事をしていた。 自分で進む道を決めたから、後悔はないけれど。 もう戻れないと思うと、どうしても感傷的になってしまう。] (30) 2022/04/09(Sat) 22:28:21 |
【人】 豊里[のんびりと、思い出に浸りながら散策をする。 途中で大きな櫻の木を見つけたので、木の下に腰を下ろした。 麗らかな春の陽気。 傍には僅かに菜の花も咲いていて、色彩鮮やかだった。] 「おばさん、他所から来た人?」 [はしゃいだ様子で走ってきた少年に、声を掛けられる。 "おばさん"には一瞬顔を顰めてしまったけれど、 すぐに気を取り直して、笑顔を作る。 幼子から見たら、真希奈は十分"おばさん"なのだろう。 こういう時に、 むきになって"お姉さん"へと 訂正を求めるのは、 大人げないと思った。] (31) 2022/04/09(Sat) 22:33:41 |
【人】 豊里ああ、そうだよ。 ん?其の手に持っている物は? [少年が手にしているのは、玩具の鉄砲だろうか。 と云っても、ガラクタを繋ぎ合わせただけの代物だった。 「一寸貸してごらん」と云うと、 最初は渋られたが、少年は玩具の銃を渡してくれた。] (32) 2022/04/09(Sat) 22:34:16 |
【人】 豊里[トランクを開けて、 中に入っている工具を取り出す。 まぁ、気まぐれでやることだから、 そこまで手間暇も資材も使わないが、 一寸手直しをしただけで、 随分と銃らしい見た目に変わった。] 「噓!?おばさん、すげー」 ふふ、私の手にかかればこんなものさ。 [自慢げに云って、少年に玩具を返す。 少年が暫し、矯めつ眇めつして 喜んでいるのを見守っていると、 少年の妹らしい、少女もやってきた。] (33) 2022/04/09(Sat) 22:36:46 |
【人】 虹彩異色症の猫[ 帰宅した飼い主に一通り匂いを擦りつけ終わると、炬燵の天板の上に身軽に飛び乗った。外から持ち込んだものは検分せずにはおれないらしい。興味津々に紙袋を嗅ぎ回り、中身が取り出されたそれにすっぽりと躰を収めてしまった。 天板から下ろそうと>>29、紙袋から取り出す手が伸びてきた時は袋奥に丸まって抵抗した。打粉の様な足先で人の手を叩く。爪は出ていないので戯れている範囲だ。 年寄りの手は子どものような無遠慮さがないのがいいのか、それとも澤邑が主に己の世話をしていることくらいは理解しているのか、膝に抱き上げれば大人しく丸まった。 躰を伸ばし、よくわからぬ布地を当てられ右前足を上に、左前足を下にと良いようされるがままとなっていたが、そのうち苛立ちをみせ喉奥でウゥ、と小さな唸り声をあげた。 澤邑が畳に猫を離すのと、猫が膝上から飛び降りたのは殆ど同じ折り合いだ。 躯を丸め張り付いた見慣れぬ器具をフンフンと嗅いでいる。背から伸びる紐に気付いたのか、飛び掛かろうとして畳に転がり、紐の長さに余裕があるならそのまま床の上で戯れついている。]** (35) 2022/04/10(Sun) 0:03:23 |
【人】 九朗[早速明日の約束をとりつけた九朗は、機嫌もよく一二三の工房で針と糸を借り、白い縫いぐるみのほつれを一刺し一刺し丁寧に縫っていた。 車輪に踏まれて折れた骨芯の代わりを削り出した一二三の方は、歯車の欠けや摩耗がないか、小さな部品をひとつひとつ改めている最中だ。 黙々と作業するふたりの間は静まり返っていたが、会話の口火を切ったのは意外にも一二三のほうだった。 唐突に前振りもなく。 そういえばと言って続けられた言葉は 「昔お前が作ったものが修理に回ってきた」 という短い一言。 どこか抑揚を抑えた一二三の言葉に、九朗の瞬きがひたりと止まる。] …………おや、 それは……… ふむ…、驚きました……ね。 [本当に驚いたという顔で目を丸くする九朗に、一二三の顔が苦虫を嚙んだようになる。] (36) 2022/04/10(Sun) 0:07:14 |
【人】 九朗ふふ、なんて顔してるんですか。 単純に驚いただけですよ。 [もういい加減旧式の部類に入るだろうに。 まだあれらを使っている人がいたのか…とか。 わざわざ修理してまで、まだ使おうとする人の手に巡り合えたのか…とか。 たとえ修理の依頼だとしても、遠くへ旅立った我が子の知らせを聞いたようで。 少し長めの瞬きとともに伏せられた九朗の視線に反し、加齢による皴の増えた口元がゆっくりと弧を描く。 対して九朗の表情の変化をつぶさに観察していた一二三は、褐色に近い短髪をガシガシと乱暴に掻いた。] ん? 戻ってこないのか…ですって? 戻るも何も、私はここにいるじゃないですか。 [くすくすと笑う九朗に、はぐらかされてたとわかっている一二三は言葉を重ねる。 はぐらかすことも、言葉尻をとって茶化すこともできないよう、はっきりと。 「職人として戻ってくる気はないのか」と。] (37) 2022/04/10(Sun) 0:08:33 |
【人】 九朗戻るつもりはありませんねぇ… 十年、あちこち旅して見聞を広げたつもりですけど。 作れるものは作ってしまいましたし…。 [そう言いながら、九朗は縫い終わった糸をくるりと玉止めし、糸切り鋏の先でパチンと切った。 十年、二十年。 人生の大半をかけて、作れるものは作ってしまった。 その果てに、本当に作りたいものは創れないのだと気づいてしまったというだけのこと。 そしていままでにあった「作ること」に対する熱意は、見る間にしぼんで消え失せてしまった。] 言ってしまえばこれは、 挫折の末の逃避なんでしょう。 ………なぁんて顔しているんですか。 今の生活だって、結構気に入っているんですよ? [一二三の顔を見て困ったように首を傾ければ、光の加減で鉄色にも見える髪がさらりと揺れた。**] (38) 2022/04/10(Sun) 0:10:20 |
【人】 豊里「ごちそうさまでした。おねえちゃん、ありがとう」 [団子を食べ終えた妹の方が、ぺこりと頭を下げる。 どうやら妹の方が、礼儀正しく育ったようだ。 「美味しかったかい?」と云って、柔く頭を撫でる。] 君たち、この職人街で 人形を扱っている所を知らないかな? 私は人形技師なんだ。 もしあるなら、見学したいと思っていてね。 [その様に聞けば、兄の方に心当たりがあったらしく、 詳しく場所を教えてくれた。 「おねえちゃん、おにんぎょうさん、つくるんだ」と、 妹の方は興味津々の様子であった為、 トランクから、設計図を取り出していくつか見せた。 設計図と云っても意匠の案を絵にしたもので、 「きれい!ほんものを、みたかった」と云ってくれた。] (39) 2022/04/10(Sun) 13:43:34 |
【人】 豊里[兄妹と別れて、兄が教えてくれた工房へと向かう。 程なくして辿り着いた其処は、こじんまりとしていた。] こんにちは。何方かいらっしゃいますか? 少し見学させて頂きたく、参りました。 [やはり祭で休業なのか、人の気配はあまりせず、 暫し立ち尽くしていると、奥から男性が一人やってきた。] 突然お邪魔してすみません。豊里真希奈と申します。 人形技師をしておりますが、是非此方の工房を拝見したく。 ……宜しいでしょうか? [同業者の見学など、煙たがられる可能性も高いので、 きちんと素性を明かして許可を求める。 「別に、好きに見てくれていいよ。でも、触るのは駄目だ」 と、案外あっさりとお許しが出た。] (40) 2022/04/10(Sun) 13:46:14 |
【人】 豊里[中に入ると、球体関節の素体が幾つか並んでいる。 一体、殆ど出来上がっている人形があり、 その化粧の美しさに目を見張った。 目尻には朱が引かれることが多いが、 この人形は 煌 び や か な 玉 虫 色 。 これは何で色を付けているか、 この人形は何をするものなのか……など、 つい質問攻めするように、熱く語りかけてしまった。 真希奈も別の工房で修業はしたものの、 工房ごとに特に人形の意匠に関しては、 かなり違ってくる。 だからこのように、自分にとって未知の物を見るのは、 とても有難いことに思えるのだ。 工房の男性も気の良い人で、 真希奈の質問には、きちんと答えてくれたし、 細かな所など褒めれば、 少し照れた様子で自身の拘りについて話してくれた。] (41) 2022/04/10(Sun) 13:55:15 |
【人】 豊里[話が弾んで、お互い自分の描いた設計図などを持ち出して、 意見を交換するまでに至った。 夢中になって話し込んでいれば、時間の事など忘却の彼方。 硝子窓から差し込む光が、すっかり茜に変わった頃に漸く、 そろそろお暇しなければと話を切り上げた。] ご親切に色々教えて頂き、勉強になりました。 本当に有難う御座います。 私は祭の間、榛名に滞在する予定ですが、 明日は祭を楽しもうかなと思っています。 [丁寧に謝辞を述べると、祭を楽しむならと、 櫻の木の下で奉納されるという舞を薦めてくれた。>>28 真希奈は榛名へは今回初めて訪れた。 土地勘もないし、祭の順序もよく分かっていないので、 上手く予定が嚙み合わないかもしれないが、 折角お薦めされたのだ。 出来れば舞を拝みたいなと思いつつ、旅籠へと向かった。**] (42) 2022/04/10(Sun) 14:04:18 |
【人】 澤邑[ >>35紙袋のそばへ手を出すと白い手がたしたしと己の手の甲へと伸びてくる。まだ戯れ付きなのか爪は出ていない。 袋の奥で丸まって抵抗していたがなにぶん小さな子猫だし逃げ場はなくて膝の上に乗せて仕舞えばしばらくはじっとしていた。] ごめんごめん [ とうとう好き勝手にされるのに飽きたのかうーと抗議の声を上げ始めたのと、設えが終わるのが同時で助かった。 こゆきを畳の上に下ろすと見慣れないものが体についている事に興味を示したあと、背中から伸びる紐にじゃれつき始めた。] よしよし [ ころころと転がって床でしばらく紐を追いかけているのを好きにさせている。目を細めて眺めている様が丸くなったなどと言われる所以なのかもしれないが気付いてはいない。] 庭に出てみようかゆきちゃん [ こゆきを抱えると座敷に続く襖とは別に、縁側に出る障子を開けて、さらに庭に続くガラス戸を開ける。商業区の一角であるから庭と言っても限られたスペースではあるが。今は桜の時期で鉢に植えた躑躅(つつじ)も綺麗だ。 突っ掛けを履いて、こゆきを地面へと下ろす。春先の緩いような冷たいような風が吹いている。**] (43) 2022/04/10(Sun) 14:31:30 |
【人】 虹彩異色症の猫[ 視界の端をちらつく紐に飛びつき、飛び退き、子猫であっても狩猟本能の真似事だけは一人前だ。飽きもせず畳の上を転げ回って、ひとり鬼ごっこを続けている。 抱き上げようと伸びてきた手も遊びのひとつと思ったか、前足ではっしと捉えたと思えば、後ろの足が忙しなく蹴りつける。我を忘れた様子に細く、小さい子猫の爪が掠める。 胴を抱えられるとじたばたとしていたが、それも手足が床を離れるまで。腕の中にちょうどよく尻が収まると、神妙にじっとしたと思うのも束の間。澤邑の肩に前足を付いてよじ登り、見渡すようにぐんと躰を伸ばしている。] なぅ。 [ 硝子戸が開くと、気に留める程でもない遠くの雑踏、風の揺れ、外気の匂い、そういったものに直接触れるのが物珍しいか、乗り掛かった澤邑の肩の上で鼻を引くつかせ、耳をそばだてている。 猫の姿が見えない、何処へ逃げたと言ってもそれは敷地内、精々表側の店舗までだ。殆ど外に出たことのない子猫は、土の上に下ろされると慣れない感触に背を丸めた形のまま固まっている。それから土の匂いを検めると、全く唐突に駆け出し始めた。 ハーネスに結わえ付けられた紐が、背で限界までピンと張った。]** (44) 2022/04/10(Sun) 17:09:19 |
【人】 大崎―蒸気帆船― [船内に響く放送に、男はうっすらと目を開いた。 客席にてフードのついたマントに包まりながら、長旅の疲れでうたた寝していたようだ。] ん…… ……。 何番が、何番だったかな…… [まだ眠気の滲む声を発しながらもぞもぞと動き、荷物を背負って立ち上がった。**] (45) 2022/04/10(Sun) 17:45:44 |
大崎は、メモを貼った。 (a8) 2022/04/10(Sun) 17:58:23 |
【人】 澤邑[ 澤邑の手の甲や手首などは小さな引っ掻き傷がたくさんあるのだが、全く気にならなくなってしまった。遊びの延長や勢い余っての子猫から付けられた傷だ。 今も抱き抱える際に戯れつかれた挙句後ろ足で蹴られてしまった。魚のおもちゃでも買ってあげようかなと思ったりする。 それと猫の鈴も買ってやりたいものだ。チリチリと音がすれば、隙をつかれて逃すことも減るかもしれない。] よしよし 怖くないよ、お父さんがいるからね [ 庭に出れば外の喧騒がより近くに聞こえる。蒸気帆船の到着を知らせる汽笛や、鳥の声に風が鳴らす草木の葉音。 こゆきは最初のうちは緊張して、耳を立てておっかなびっくりのようだったが>>44そのうち自分を脅かすものは無いとわかったのか興味の赴くまま駆け出した。] おっと、 [ 手首に輪っかを通してさらに掴んでいるという念の入り方だったから逃すということはないが、紐がピンと張ってこゆきはそれ以上進むことができずにツンのめっている。] (46) 2022/04/10(Sun) 19:01:25 |
【人】 澤邑まったまった [ ごめんねとこゆきに近づけば、紐が撓んだ分また動く。少しすれば慣れたようで庭を少し一人と一匹でうろうろとしたのだが、カサカサなんて茂みの方で音がすればこゆきが駆け寄ってしまうのでやっぱりピンと紐が張り詰めてしまったかもしれない。 もう少し練習が要りそうだ。] おーい、足拭きを持ってきてくれ [ それから半刻ほど遊んでから、家の中にそんな声をかけた。家人の誰かが濡れた布など持ってきてくれるだろう。 こゆきの体を拭いて、それから四つ足を丁寧に拭うつもり。**] (47) 2022/04/10(Sun) 19:02:43 |
【人】 虹彩異色症の猫 んなぅっ。 [ 上衣を着るように、胴を包む形のハーネスであるから、食い込むということはないが、紐の遊びの限りに駆け出せば、勢い余って転がっている。 不平の響きの鳴き声を上げれば、澤邑が近づいた分また駆け出しては足止まる。 そのうちまるで澤邑が邪魔しているとでも言いたげに、振り返り、んなぁ、と鳴いた。 暫くするとどうも一定の距離しか進めないことを理解したようで、歩んでは立ち止まり、歩んでは澤邑がちゃんと着いてきているか確認するように振り返る。 それでも例えば塀の向こうを走る車の警笛、子の騒ぎ声、茂みの物音>>47、そういった慣れぬものに反応しては駆け寄ろうとしたり逃げ出そうとしたりするので、白い躰は何度か土の上に転がった。 疲れたのかやがて蹲った躰を抱えあげられると、湿らせた布で躰を拭われるのも四足を丁寧に拭われるのもされるがままにしていた。されるがままにしていたが、んな、んな、と、一丁前に文句に似た鳴き声を上げている。 それも小さな口の中でもごもごとした響きに変わると、そのまま澤邑の膝の上で眠ってしまった。**] (48) 2022/04/10(Sun) 19:40:16 |
天のお告げ(村建て人)は、メモを貼った。 2022/04/10(Sun) 20:53:35 |
【人】 豊里― 旅籠 ―[職人街を見て回った後、満足して旅籠へ。 先に入浴を済ませ、今は浴衣姿だ。 それでもゴーグルは其の儘つけており、 著しく浮いているが、気にしない。 流石に入浴時や睡眠中は外すのだが、 其れ以外では滅多に外されることはない。] いやー、此処の料理は美味しいねぇ。 [そして現在、部屋で食事を堪能している。 春野菜や山菜を使った天麩羅、 綺麗に並べられたお刺身。 日頃は自主的に酒は飲まないが、 たまの旅行だしと日本酒を頂いている。] (49) 2022/04/10(Sun) 21:08:30 |
【人】 豊里[真希奈は一人で暮らすようになってからは、 自炊をしている。 完璧な食材の組み合わせに、完璧な調理法。 然し其れはあくまで、栄養学的な意味での完璧だ。 其れが何故か、食べてみると美味しくない。 不味い訳ではないのだが、美味しくはない。 別の工房へ修行に出ていた間も、 女性であるし、真希奈本人が料理は得意だと云うので、 工房の人間の昼食作りなどを任されたこともあった。 然し数日任された後に、あっさり解任された。 誰も不味いとは云わないだけに、 真希奈には其れが不思議だった。 真希奈自身は正常な味覚を持ち合わせてはいるので、 美味しくないことは分かっているのだが、 自分の調理は完璧だと信じて疑わないので、 不承不承、調理係を別人間に委ねたのだった。] (50) 2022/04/10(Sun) 21:10:29 |
【人】 豊里[食事を終えると、榛名の地図を見ながら、 明日行きたい場所などを思案する。 そして、敷いて貰った布団に横になると、 思いの外疲れていたのか、すぐに眠りに落ちた。 今日はとても充実した一日だった。 きっと明日も良い日になる。**] (51) 2022/04/10(Sun) 21:14:29 |
【人】 東天[満開の桜の下、休息を終えて。 薄墨の老木の根元で、ふわりひらりと舞う。 舞い始めに拍子はなく、しかし次第に増えていく。 祭りが賑わう程に、通り掛かり足を止める者がその手で拍子を取った。 ちり、と鈴を鳴らすのは拍子の彩りに。 そうすれば、その音に振り向く者もいる。 これは神に捧ぐ舞ではなく、人の為の舞である。 興味を惹かねば舞う意味もない。] (52) 2022/04/10(Sun) 22:29:13 |
【人】 東天[何代か前は女であったと言う。 先代は左の義肢を手袋で覆っていたと言う。 代替わりの時期もまちまちで、予告も報告もなく、 ただ全ての認識は見た者に委ねられている。 変わらぬのは、その背丈、髪艶、衣の色。 演目も基礎は変わらず、ただ演目は舞手に聞かねばわからない。 各地を旅する故に、恐らくそれは榛名に元からあるものではなく、 だが、何十年と"彼"が舞うものだから、榛名の祭りのものとして馴染んでいた。 舞手により細部の違いや、得意とする演目に差異はありはする。 例えば──いつかの代は片足が粗悪な義肢だったお陰で、跳ねるのに苦労したと聞いている。 面から伸びる紐の房が結ばれた髪へ交じり、 体が翻ればまた離れていく。 出会っては別れを繰り返して、次第に舞いは終演へ。] (53) 2022/04/10(Sun) 22:30:17 |
【人】 東天[閉じられた扇と、しゃんと鳴る鈴が演目の終わりを知らせる。 一拍、疎らな拍子を置き、 さらに一拍置いたあとに、 その音は拍手となった。 舞手は息を乱すことなく、深く頭を垂れていた。 話し掛ける者が居れば話し、 あちらの屋台の団子が美味いだの、 甘酒の差し入れだの、有り難く受け取る。 礼儀として、面は外さないまま。 先代までと同じように、声音だけに感謝を乗せて。] (54) 2022/04/10(Sun) 22:30:36 |
【人】 東天 ──面は外せない、 そう言うことになっておりますから。 [問われればそう答える。 柔らかく、高いような低いような声音で。 食べ物や飲み物を差し入れても、外しはしない。 少なくとも客の前ではそんなれいを欠く行動はできないと。 そうやんわりと断っていく。 人の波が引けば今日の興行は終わり。 差し入れを抱えて男は老木を後にする。 そうして、また明日、 ……いや祭りが終わるまで。 男はここで、まっている。**] (55) 2022/04/10(Sun) 22:31:18 |
東天は、メモを貼った。 (a9) 2022/04/10(Sun) 22:33:16 |
【人】 九朗[「今の生活だって案外悪くはない」>>38 その言葉は正しく本心なのだろう。 九朗の微笑はただ、眠いのに眠くないと服の裾を握りしめる子供を見つめる親のような。 人の手ではどうにもできないことを、仕方ないのだと諦めて、飲み込むことを覚えてしまった大人のような。 そんな言いようのない温かさと寂しさを含んでいて。 九朗の顔を見ている一二三も、重たいものでも飲み込むように太い喉をぐぅと鳴らした。 わかっているのだ。 お互いに。 お互いにいい大人なのだから。 これ以上この話題に踏み込めば、傷を負うのは自分だけではない。 時間とともに曖昧にして、誤魔化したものを浮き彫りにしてしまうと。 互いに大人になったが故に、言葉にせずとも肌で感じて悟っている。] (56) 2022/04/10(Sun) 23:34:33 |
【人】 九朗[友人として過ごした時間がある。 時間の上に成り立つ信頼がある。 だからこそ 沈黙の間に見え隠れするそれを、言葉にして浮き彫りにするのが恐ろしい。] (57) 2022/04/10(Sun) 23:35:05 |
【人】 九朗[そうすれば長年の友人という関係も、そこにあった信頼も、春風に散らされた花弁のように空中へ投げ出されることになるだろう。 その花弁が着地するのは地面の上か、それとも嚙み合わなくなった歯車の隙間か。 どこへ飛ばされ、どこへ落ちるのか。 大人になったからこそ、曖昧にして誤魔化せるものもある。 何を思って一二三が言葉を飲み込んだのか。 それは九朗にはわからない。 九朗が後生大事に抱えている罪悪感や後悔を一二三が知らないのと同じだ。 死ぬまでにいつかは向き合わなくてはならない時が来るかもしれない。 だが九朗はそれを、曖昧に微笑んで先延ばしにしている。 何度も、何度も。 苦い薬を飲むように、言葉を飲み込んでくれる一二三の優しさにあまえている。] (58) 2022/04/10(Sun) 23:36:05 |
【人】 九朗そういえば、明日の祭りですけどね。 [作業台の一二三から目をそらし、他にほつれたところや、傷んだところがないか、手の中の縫いぐるみを検分しながら別の話題を振る。 わざとらしい話題の転換。 横顔に突き刺さる一二三の視線の鋭さを肌で感じながら、九朗は中身のない白兎に向かって話しかける。] 姪が神楽の奉納をやるんです。 姫櫻の神楽、覚えているでしょう? [この時期となれば、砂漠の海を渡って旅の芸人たちが稼ぎ時だと賑やかしにやってくる。>>28 人の目を楽しませる狐の神楽もそのひとつ。 九朗が言っているのはそれとは別の、薄墨神社の神楽殿で御神木に向かって捧げられる神楽のうちひとつで。 数え年で七つを迎えた少女四人が魔除けの鈴を髪に挿し、桜の枝を手に舞うのだ。] (59) 2022/04/10(Sun) 23:37:02 |
【人】 九朗[九朗の姪と聞いて、一二三が記憶を手繰るように宙を見る。 そうか、あのお転婆の娘がもうそんな歳か。 そう言って口元を綻ばせる一二三はなかなかどうして子供好きだった。 九朗の妹なら俺の妹も同然だとばかりに、実兄の九朗よりも手厚く世話を焼いていたのではないだろうか。 そんな兄の友人のお節介を、当の妹本人がどう思っていたかはさておき。 閑話休題。 兎角九朗が十歳の折、妹は神楽の舞姫に選ばれた。 それはそれは喜んで神社に通い、送り迎えをする九朗や一二三も巻き込んで練習していた。 だが幼いなりに熱心にやりすぎたのだろう。 当日になって熱を出した妹の代わりに、妹そっくりな娘がほかの少女たちに混ざって神楽を舞った。 自分ではない誰かが自分の代わりに神楽を舞うのを、一二三の背に負われて見た妹の胸中は荒れに荒れた。 神楽が終わるや否や、一二三の背でぐずり。 帰りの道で「飴でも買うか?」と機嫌をとろうとする一二三の背で散々手足を伸ばして暴れた少女の熱は増々上がって、家に帰れば居なくなったことを心配した家族に一二三共々散々怒られた。 それが余計に妹のジレンマに火をつけたのだろう。 一軒先の隣にまで響くほど、大きな声で泣き始めた。 そんなところに戻ってきた九朗は、どうして妹が南天よりも赤い顔をして、喉が裂けそうなほどの大声で泣いているのか分からず目を丸くした。] (60) 2022/04/10(Sun) 23:38:17 |
【人】 九朗どうしたの? 熱がつらいの? [こっそり妹を連れてくるよう一二三に頼んだが、着るものが足りずに熱が上がったのだろうか? 小さくなる一二三の前を一瞥して通り過ぎ、妹をなだめようと手を伸ばしたが…。 ―――― パチンッ バシッ! 容赦なく伸ばした手を叩き落され、返す手が九朗の頬を打った。 それもグーで。 これには両親に叱られていた一二三も、九朗の家族も、声を忘れるほど驚いた。 だが妹が泣いていることよりも、その妹にグーで頬を殴られた痛みよりも。 九朗の呼吸を止めるような衝撃は、黒曜石のような瞳からぼろぼろと涙を零す妹の一言だった。 「お兄ちゃんのバカ!嫌い! 大っ嫌い! あたしの役だったのに! 楽しみにしてたのに!! いっぱい練習したのに……!!」 聡い妹にはわかっていたのだ。 自分の代わりに巫女の装束を着て神楽を舞っているのが誰なのか。] (61) 2022/04/10(Sun) 23:40:23 |
【人】 九朗[同じ光景を思い出していたのだろう。 あの後は苦労したなと遠い目になる一二三に、九朗はあの時殴られた頬へそっと手をやる。 妹が逞しかったのか。 それとも九朗の当たり所が悪かったのか。 口の中まで盛大に切った九朗だったが、自分の怪我もそっちのけで、布団を被って籠城した妹に許しを請うので必死だった。 子供ながら、妹のために、ただ善かれと思ったのだ。 熱を出した妹の代わりに神楽を舞うことも。 一二三に無理を言って、妹を神社まで負ぶってきてもらったことも。 ただただ善かれと思って。 今日まで熱心に練習してきた妹の代わりに。 妹たちが舞う神楽を何度も見て、妹と一緒に何度も練習した僕ならできるでしょう? 今日という日を楽しみにしていた妹を悲しませないために。 顔付も背丈も似ているから、化粧をして髪を結えば、みんな妹だと思うよ だってこの姫櫻の神楽は、女の子が舞うものなんだから 必死に練習してきたものをあっさりと兄に取られた妹の気持ちを、幼い兄は目の前に突き付けられるまで考えてやれなかったのだ。] (62) 2022/04/10(Sun) 23:42:46 |
【人】 九朗結局あの件で、一番大人だったのはあの子でしたね。 [大事な神楽が終わるまでは、泣きも暴れもしなかったのだ。 数日後には一二三も九朗も許して貰えたし、翌年の祭りは両家の家族で和やかに花見を楽しむこともできた。 なにより数年後、今度は青年たちだけで舞う神楽の舞い手に一二三と九朗が選ばれたとき。 辞退しようとした九朗を「昔のことで悪いと思って遠慮してるなら、小さい頃の私に失礼だわ!」と叱り飛ばしたことだろう。 とはいえその妹の娘が、巡り巡って再び櫻姫の神楽を舞うことになるとは。 できれば今度こそ、熱を出さずに無事神楽の舞台に立ってほしいと。九朗も一二三も願わずにはいられない。**] (63) 2022/04/10(Sun) 23:43:49 |
【人】 橘 さて、っと [さして多くもない荷物を置きに自室に向かう めったに帰らないというのに住んでいたころのまま残っているのに笑いながら 一応帰るたびに多少の模様替えはしているが、それ以外に手が加わった気配もない 掃除はきちんとされていたが] いつ帰ってもいいように、かぁ…… [好き勝手やって来たのにこうして帰る場所を用意していてくれるのは 本当はそばにいてほしいという気持ちなのか、まあ聞いても絶対答えないなおふくろは それから親父のいる仏壇に手を合わせる 約束を果たしに帰ったことを告げても何も返りはしないけど] (64) 2022/04/10(Sun) 23:47:17 |
【人】 橘[そうして軽く風呂に入ってから用意されていた「簡単な食事」をとる どこが簡単なのかと聞きたくなったけど ご近所さんが様子を見に来たり、留守中の話などをしていればあっという間に一日が終わる] 明日はおふくろとご対面、かぁ [やれやれ、という気配が滲んで苦笑する 会いたくないわけじゃない、むしろ会いたいし怪我の様子も心配だ だがしかし、橘家はめっちゃ「かかあ天下」なのだ…… おふくろ曰く「父さんも創も好きな事ばっかりやってるから私がしっかりしないとでしょ!」だそうだ そしてその通りなので反論ができない…… 誤解の無いように言っておくと、家族仲はとってもよかった、というか、いい] 同居の件、納得してくれっかなぁ……しなくってもそばには居るけど [好きに生きろというなら、俺が帰って来たのも「好きにした結果」だと屁理屈をこねる] (65) 2022/04/10(Sun) 23:49:12 |
橘は、メモを貼った。 (a10) 2022/04/10(Sun) 23:52:49 |
【人】 澤邑あはは、ゆっくりでないと 追いつかないよ [ 紐がピンと張り詰めて、いく手を阻まれたこゆきが抗議の声をあげているように聞こえてつい言い訳を言ってしまう。 何度か繰り返した後、こちらを振り返るようになってきた。] ふふ [ かわいいなあと言いかけて笑うに止める。家人に聞かれていたら大変だ。十分手遅れなことに気づいていない。] ああ [ うまく歩けたのに、やっぱり土の上に転がることが何度かあって、さすがにこゆきも疲れてしまったようだ。 全力まで遊んで電池が切れたように眠るのが子猫だ。今日は十分疲れるくらいに遊べたらしい。] (67) 2022/04/11(Mon) 2:03:30 |
【人】 澤邑…… [ 縁側に腰掛けて、真っ白な柔らかな毛に絡みついた小さな葉っぱのかけらなどを取り除いた後、よく絞った湿った布で拭っていく。 その後は手足を摘んで、指の間の泥などを落としていくと、その都度不満ですよといった声を上げるのが可愛らしい。 まだ怒りとかではないようだ。 んなと声が上がるたびに、ごめんね後少しなどと言葉をかけてしまう。] もう少し練習したら花見に行くぞ [ 声をかけたところで通じやしないが、そんな言葉をかけて。>>59薄墨神社の階段を上がって参道を行けば、灰色の石畳に薄紅色の桜がすごく映えるのだ。 今年は三神さん縁の子が踊るそうだし、それとは別に>>28旅芸人も毎年訪れるからすごく楽しみだ。 こゆきはじっとしてられるだろうか、さすがに人混みは手綱を短く握って抱き抱えていよう。怯えてしまうかもしれないから、商店街を歩く練習もする。 ついにうとうとして膝の上で眠ってしまったこゆきをそうっと抱えて自室へと連れていく。 濡れた布をそのままにしていたから後で小言を言われてしまいそうだ。 まだ片付けられずにいるこたつに腰掛けてこゆきを膝の上に下ろした。まだ起きずに眠っていただろうか。 昨日読みかけにしていた本が近くにあったから眼鏡をかけてそれを読み始める。**] (68) 2022/04/11(Mon) 2:12:25 |
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新