人狼物語 三日月国


225 秀才ガリレオと歳星の姫

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   森が受けた被害もすべて
   なかったことにはできない。

   だからこそ次同じようなことが起きないために
   最善を尽くすのが力を持つ者の使命と責任だ。

   ユスティにとっては聞き馴染みがある
   モモイがずっと生徒たちに伝えてきた
   力がある者の責任という話を思い出す。

   それが届いたのか別のきっかけか
   エウロパもその責任は伝わったようだ。





   部屋の前に着くとエウロパからも妙な緊張感が走る。

   得意では無い分野に挑戦しようとするのだから
   緊張するのは当然だが、それだけではないような…


   モモイの意図を汲んで
   エウロパが鍵を開けるのを見守っていると
   その部屋は静かに扉を開けた。

   エウロパに必要な素質が備わっている
   そのことを証明するその第一歩だ。






   扉をくぐるとそこには
   練習用の模型だけでなく
   参考書や小道具まで揃っていた。

   これほど練習に適した環境も中々ない。
   自分も後でモモイ先生に貸出願を出そうかと
   密かに迷うほどにはとても良い。


   エウロパも何かを考えているのだろうか
   彼女もまた真剣だとわかるからこそ
   投げられた相談にはユスティもまた真剣に模索する。



【人】 エウロパ


***


   「それはそう、かもしれないけど………。
 
    ユスティまで問題児だって思われるの、
    私は嫌だけどな………。」


  
(4) 2023/10/13(Fri) 0:16:46

【人】 エウロパ



   君とは一緒に居たいけれど
   それはそれとして退学になるならそれは当然。
   そう思ってた私は、学園を煽って
   後に引けなくする、なんて発想はなくて。


   結果的にユスティの印象が悪くなってたら
   嫌だな、って思ってしまうんだ。
 
   
私のせいだ、って思ってしまう。


  
(5) 2023/10/13(Fri) 0:17:38


   明確に目的が決まっていたし、
   以前にモモイ先生と来た時に入った部屋だから
   イメージしやすかったのもあって。

   開かないかもしれないって思ったけど
   願い通りに扉は開いてくれた。

  



   小道具の中から燭台を見つけると
   それを少し遠くに置いて、
   ユスティに火をつけて欲しい、と頼む。
   自分ですればいいんだろうけど
   私は火に関する魔法が極端に苦手だった。
   誰かを巻き込みそうな場所で
   火を扱うのは私にはまだハードルが高い。

   
  



   私の相談に君は真剣に応えてくれる。
   あんまり具体的なことを聞いたわけじゃないのに
   分かりやすく、私の問題を指摘してくれて。

 



   問題はどうやって加減するか。
   自分では加減したつもりでも
   他の人にとっては加減出来てない、なんて
   私にとってはよくあること。

   方法が分からなくて困ってるわけだけど
   実際にやってみるのが早い、と
   ユスティに促される。

  



   
   「大丈夫、かな。

    ユスティに怪我させたり、しないかな……。」



  



   躊躇いを見せるものの、
   実際にやらなければ身につかないのは分かってる。

   大きく息を吸って、覚悟を決めると。

   ユスティの手はそのままに
   さっき火を灯してもらった燭台の方を見る。

  



   「あの燭台の火を、消したいんだ。
    燭台を倒すことなく、火だけを消すような風を
    魔法で起こせたらいいんだけど……。」


   普段の私の魔法制御を考えると
   何も考えずに魔法を放てば
   燭台までなぎ倒してしまうと思う。

  



   
「悠久の時を巡り続ける星のように。
    ―――――安寧の風をこの手に起こせ。」



   詠唱とともに、火を消すための風が巻き起こる。
   その風は火を消すには強すぎるもので―――――。*

  



   言いながら、袖をまくって腕を見せる。
   よく見ればそこには火傷の痕が見えるはず。
   私の家族では痕までは消せず、
   自分でも消し方が分からなくて。
   火傷の痕を意図的に隠したりはしてないから
   何処かで知られててもおかしくはないかな。


 

   

   どうして風を選んだか、っていえば
   氷の次に得意な魔法でもあるからだけど
   氷を飛ばしてモモイ先生の腕を落とした出来事が
   頭に過ってしまうからで。


   もし、ユスティにどうして氷の魔法じゃないの?
   って聞かれたならモモイ先生の講義のことを
   話すことになるけれど。

 
   風の制御が難しいのは理解しているつもり。
   この前空を飛んだのは偶然に近い成功。
   あれを安定して成功させることは出来ない。
   空を飛ぶまでいかなくても
   今の私では難しいだろうと思う練習を選ぶのは
   隣にいるユスティへの信頼から。

  


   
   成功させたいって想いだけで簡単に成功するほど
   制御の練習は甘くない。


   燭台を吹き飛ばしかねない風が巻き起こって
   どうしよう、やっぱりできなかった、って
   動揺してしまったのが伝わったのか。


  

  

   まだ、成功したとは言えない。
   風を止めた後、ユスティから手を離す。


   「ユスティ……?
    いま、何を……どうして…?

    魔力、が……。」



   何が起こったのかはわかる。
   だから私が聞きたいのはそこじゃなくて。

  



   腕が焼け落ちるなんてよっぽどの事
   その大袈裟なことが起きるから
   彼女は天才と呼ばれている。

   想像が力になるこの世界では
   被害妄想ひとつでさえ凶器になってしまう。





   論より証拠と重ねた手が
   もたらすものは小さな成功体験。

   力を抑えることを知ったエウロパの力で
   蝋燭は倒れず火だけが消えない。

   本当の成功とは呼べないかもしれないけれど
   こうした小さな成功の積み重ねの先に
   大きな成功は待っているというもの。


   ひとつ積み重ねるエウロパの傍らで
   ユスティもまた小さな成功を得ていた。





   「魔力は水と同じだ。
    水がふんだんに湧き出る泉もあれば
    ほんの少しの水しか得られない泉もある。」





   「そうだとしても
    オアシスになれないとしても
    水を汲む器を大きくすればいい。

         全部独りでやらなくたっていい。」





   とはいえエウロパから流れ出た魔力は
   ユスティ自身が生み出すものとは
   スケールがまるで違う。

   慣れない魔力を身体に馴染ませる
   その訓練をずっと続けたことで
   エウロパの魔力を受け止めることだけは
   自然に出来るようになるまで練り上げた。

   エウロパのことを受け入れた日から
   完成までほとんど時間がかからなかったのは
   この事が最後のピースだったのだと
   今になって気づくことになるなんて。





 
   理屈じゃなくてやってみればいい。
   ユスティのおかげで火だけが消えて
   失敗だったはずの制御が小さな成功へと変わる。

   自分一人では絶対にこの感覚を掴むことは出来ない。

   以前モモイ先生が言ってたのは
   ユスティのことだったんだ、って。
   今更納得してしまうんだ。


  



   
「汲む、器……。


       そんなこと、できるの……?」

  



   疑問はすぐに消えていく。
   見せられた掌は、傷一つついていない。
   多くの魔力を受け入れたはずなのに、
   魔力が入りきらずに身体が壊れることはなく。

   器を大きくするまでにどれほど努力をしたんだろう。
   私が努力を怠っている間に
   一人で、どれほど頑張ってきたんだろう。

  



   「出来る確証はなかったけど

         なんとか乗り越えられたよ。」





   出来るかどうかを考えるより先に
   身体が動いていたのだと

   努力家だけが持つ成功への異様な執着が
   皆が不可能と思うことさえ可能に変える。

   生半可にやってきたつもりはないと
   その自信もエウロパには伝わっただろうか。





   「そう。

      それなら寂しくもないでしょ?」





   いつかは自分の魔力を正しく操り
   誰が相手でも制御しなければならない。


   それでも乗り越えるために今、
   独りにならないことが必要なら
   これくらいでバチは当たらないはずだ。