優秀な魔法使いの卵たちが集う魔法学園トカリス。
　　　栄光の冠を擁する学舎の屋上で一人、
　　　新たな魔法の詠唱を試みる青年がいた。

　　　彼の名はユスティ・フレネル。
　　　トップの成績を保ちながらも
　　　一切の妥協を許さない学園の優等生。

　　　授業の中で教えられるものは当然に
　　　暇さえあれば独自の魔法を編み出しては試して
　　　今日もまた狂ったようにその成果を求めていた。

　　　皆はユスティをこう形容するだろう。


　　　　　　　　　　　　　「彼は天才だ！」と

　　　　　　……………………ダメ、か。

　　　使い古された真理は時代を選ばない。>>13
　　　秘められた魔の力が全てを物語るこの世界

　　　努力など砂上に投げられた水滴一粒にしか値しない。
　　　天才の煌めきは雨となり降り注いでいく最中、
　　　ただ、ただ、無様に流されていくしかない。

　　　雨の象徴、エウロパ>>12
　　　水に溢れた衛星の名を冠するユスティの知人

　　　その姿は子鬼に金棒とも言うべきだろうか
　　　目を引く程のあまりにも強大な魔の力は
　　　小さな器から溢れることも珍しくない

　　　しかし扱い方を覚えれば彼女は鬼となり
　　　覚えきれなければ災害と化すだろう、
　　　それがユスティの彼女に対する評価

　　　項垂れていたユスティの頭に鳥がとまる。>>19
　　　着地地点に誤差があるなど知りもせず
　　　その目に映るのは高度な物体操作の実現という
　　　凡人には成しえない力技の成功事例のみが伝わる。

　　　「3秒でここまで上がってこれたらいいよ。」

　　　図々しい申し出には無理難題で返すのがいい。

　　　返事の記述と共に再び織り込まれた鳥は
　　　彼女の穏やかなそれとは異なり
　　　勢いよく直線上に飛び、地面へと刺さるだろう。*

　　　何が好きで手伝わなければいけないのか。
　　　勘弁して欲しいとユスティは苦虫を噛み潰す。

　　　無理難題に逆上してくれれば
　　　どれだけ楽なのだろうか

　　　残念ながらエウロパという少女は
　　　そう思い通りにはなってくれない>>31

　　　「…………意地悪がすぎたかな。」

　　　どうせできるわけが無い。
　　　ユスティはその憶測を疑わない。

　　　エウロパが辿り着くことがないと踏み
　　　屋上を後にしようとその声に背を向ける。



　　　何度も無言の芸当を見せられた側の彼には
　　　今更詠唱を行う姿など滑稽そのものだ。>>34

　　　再びため息をつくと扉に手をかけ、

　　　「ボクが何をしていたかなんて
　　　　キミには分からないよ。

　　　　　　　　　　　　………分かられたくもない。」

　　　とはいえ約束は約束だ。
　　　こんなくだらないイベントさっさと済ませよう

　　　妙な真面目ぶりを披露しながら
　　　ユスティの足はただ静かに図書館へ向かう。*

　　　分からない
　　　天才の考えることなど>>56>>57