「───というわけで、
　どうも、私が君たちの担当になった監察官だ」

浅く一礼をして。ゲームにログインして直ぐ、拠点となる住居のロビー。そこで一堂に会するグレイたちを、その女性──監察官は毅然と見渡して微笑む。

彼女は簡単な挨拶を済ませると、「後は好きにしてくれたまえ」と言い残して足早に自室へ向かうだろう。

これから先、何をするかは貴方の自由だ。
所詮それが……仮初のものだったとしても。

「はい　どうぞよろしくおねがいします　監察官さま」

　腰を折って、お見送り。
　顔を上げたら、AIさま。

「わあ　びっくりしました」

「はい　どうぞよろしくおねがいします　ブラックさま」

「みなさまも　どうぞよろしくおねがいします」

　腰を折って、よいしょ、それから元の姿勢。
　うずうず、調理場のことを考えながら、
　今はみんなの顔を覚えようとするのです。

・あなたのお名前は？
「みかんです　でも　ミカンは　すきもきらいも　ないです」

・あなたはどのような目的で作られたアンドロイドですか？
「調理用グレイです　ウデマエには　ジシンあり　です」

・得意料理はありますか？
「カルボナーラ！　パスタが　すきです」

・ひとこと
「おいしい料理　たくさん　つくります　よ！」

挨拶を終えた監察官の背が見えなくなるまでそのグレイは頭を下げていた。
同じく、自分たちの世話役として充てがわれたAIにも一礼する。
柔らかな表情を小柄なエフェクトまみれの姿に向けて、
うっすらと紅を乗せた唇をふわりと緩ませた。

「はい、ブラック様、スコーピオ様。
　これよりどれほどの期間になるかはわかりませんが、お世話になります。
　ああいえ、お世話させていただきますと……したほうがよろしいでしょうか？」

・あなたのお名前は？
「エマニュエルと申します。気軽に、エマとお呼びください……」
・あなたはどのような目的で作られたアンドロイドですか？
「私は愛玩用です。その用途は皆様のご想像の通り」
・得意料理はありますか？
「キッシュロレーヌです。好きなアパレイユの具材はありますか？」
・ひとこと
「ここでは皆様は私と対等なのですよね？ その旨……ご承知おきいただければ、幸いです」

「…お言葉ですが監察官様、『好きにする』という事が
アンドロイド«私達»にとってどれほど難しい事か…」

人間«あなた»も知らないわけではないでしょう。

困ったように溜息を吐く。
言葉の途中で監察官を名乗る"人間"は去ってしまった。
宛の無い諌言を続けるわけにも行かず呑み込んで、
入れ替わるように現れたAIに意識を向けた。

「ブラック…はい、どうぞよろしくお願いします。
それから、他の参加者«プレイヤー»の方も」

・あなたのお名前は？
「はい、私の事はどうか『ユー』とお呼びください。」

・あなたはどのような目的で作られたアンドロイドですか？
「患者様の病状に寄り添い、適切なケアを行う…
それが私達『医療用』アンドロイド、グレイの役目です。
私は看護主任として、
他の医療用グレイを取り纏める立場でもあります。」

・得意料理はありますか？
「病院食…いえ、基本的には家庭食と何ら変わりないのですよ。
馴染み深いものを強いて一つ挙げるとすれば…
リゾットというのは、少しありきたりでしょうか？」

・ひとこと
「皆様、どうかお身体には気を付けて。
同じく休養中の身ではありますが、
お怪我や体調不良の折はいつでもご相談ください。

たとえ仮想空間の中と言っても、
その痛みや苦しみは確かにこうして感じているのだから。」