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【置】 口に金貨を ルチアーノ路地裏を縄張りのように歩くどら猫は、常に不幸の傍に、何かを奪って去っていく。 どら猫は気にしない、悪意に手を染めることも。善が尊ばれないことも。 そこには常に理由があり、誰かの利益の為に何かが淘汰され続けている。 世界は独りに優しくなく、価値がわからぬものに救いなど手に入らない。 そんな現実をただ見て歩き、通り過ぎてゆくだけの人生。 仕組みさえわかってしまえばそこまで悪い物じゃあない。 今日も男はその道を歩く、止めてしまえばそれこそ生きることをやめてしまうのと同じだから。 #AbbaiareAllaLuna (L2) 2023/09/30(Sat) 8:06:24 公開: 2023/09/30(Sat) 8:10:00 |
エルヴィーノは、不思議そうにその紙袋を見た。 (a30) 2023/09/30(Sat) 15:54:07 |
エルヴィーノは、が上げたその慟哭は真昼の庭に響いた。 (a31) 2023/09/30(Sat) 15:58:36 |
【人】 口に金貨を ルチアーノ薄く太陽に陰りをもたらす空の下。 ルチアーノは片手にブーゲンビリアの花束を持ち何度も足を運んだガレージの前に居た。 そこに同じく見飽きるほど身近に感じていた赤のフィアット500が収まることは二度とない。 鍵のかかっていない扉を開ければ真っ直ぐいつもの場所へ。 ここは誰が入ってくるかもすぐわかる席で、カウンターに立つ長躯も良く見えた。 「あんたにじゃないぞ」 花束を置いてから店をじっくりと見渡して、一つ息を吐く。 もうこの空間が無くなるのは時間の問題だ、珈琲は飲めなくなるし、皆でたまに顔を合わせた時間もなくなる。 暫くしてからテーブルにうつ伏せ目を閉じた、ここでもやっぱり眠れそうだ、今はとても疲れていたし誰も来なければ許されるだろう。 何処か穏やかな気持ちで別れを受け入れることができている。 怒りや殺意がないとは言わないが、楽しそうであったのだ、 そんな男の姿が見れて自分が嬉しくないわけがない。 ただ今は静かに休んでいたい。 大好きだったこの場所で、彼の愛したものへの想いが籠もったこの場所で。 #Mazzetto (94) 2023/09/30(Sat) 18:15:27 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>a33 店に置きざりにされていたコーヒーミルには、 「使用禁止 廃棄しろ」という張り紙がある。 どうも食品ではないものを曳いたらしい。 喫茶店の風上にもおけない所業だ。 ガレージはがらんとしていて、 けれど多くのものがそのままだ。 それはきっと、戻ってくるつもりだったからではない。 このままにする以外に、なかったのだ。 それ以外に、何を足すことも、何を引くこともしたくはなかった。 潮風だけが、その憩いを見守っていた。 #Mazzetto (95) 2023/09/30(Sat) 18:41:27 |
ダヴィードは、買いすぎた昼食を、一人きりでは食べきれなかった。 (a34) 2023/09/30(Sat) 20:16:09 |
ダヴィードは、『イレネオ・デ・マリア』に、生涯出会うことはなかった。 (a35) 2023/09/30(Sat) 20:16:27 |
リヴィオは、本当はとても、狡い男だ。 (a36) 2023/09/30(Sat) 21:36:16 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>-363 ぐおおおん、と。 尋問と拷問に意識の向いていた構成員たちのなかで、 壁越しに遠く響いていたエンジン音が、ぐんぐんと近づいてきたことに気が付いたものはいただろうか。 ──ば がぁん。 甲高く硬質な音が、建物の中に響く。 差し込んでいた日の光が、眩く溢れ出すように強さを増した。 建材がへこみ弾ける音とともに、真っ赤な車が突っ込んできたのだ。 もうもうと車から吹きだした白煙に、ノッテの構成員たちががなり、銃を向け、あるいは混乱しヴィンセンツィオを引き倒そうとする。 めいめいに好き勝手な反応を見せるものたちは確かに、元から乏しかった統率を欠いており。 ばがん。 ──扉の隙間から滑り込んできた男が、両手に構えた拳銃と短機関銃をまき散らす間隙を与えることになる。 #BlackAndWhiteMovie (1/2) (96) 2023/09/30(Sat) 23:03:24 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>-363 ぱ、ぱ、ぱ、ぱぱぱぱぁん。 発砲炎と共に破裂音が何度も瞬き、血飛沫と湿った音が響く。 構成員たちの半数近くを奇襲で叩き、 がしゃあん!! ――照明を打ち抜き。 暗闇に閉ざされた中で殴打と落下音、銃声がさらに続いて―― 「おう」 ――あなたのそばで、足音が聞こえる。 「生きてるかあ、ヴィンセンツィオ」 #BlackAndWhiteMovie (2/2) (97) 2023/09/30(Sat) 23:06:51 |
【人】 花浅葱 エルヴィーノゆっくり、上がる。 病院の階段を、一歩ずつ。 それはまるで天国へ続く道のようで、あの屋上への扉を開いたら、あなたが居そうで。 ルチアーノと別れ病室に戻された時は満身創痍だった。 絶対安静の人間が、受けるべき点滴を受けずに外に居たのだから、ナースも医者も皆が青い顔をしていたのは仕方のない話だ。 すぐにまた点滴に繋がれ、青白い顔に生気が戻ってくるのにまた数日を要したに違いない。 歩けるようになって、リハビリを始めた。 手先はなんとなく動くようになったけれど、肘を動かそうとすると痛みが響いて動かない。 砕かれた肩はミリも動かせる気がしない。 本当は、ベッドの上にいるのが一番楽だけど、今はすごく屋上に行きたかった。 金色に輝く太陽の下、広がる青い空を見たい。 だって。 寂しいんだ。 心に空いた穴はルチアが埋めてくれるけど、ずたずたになった心臓が今も血を流しているから。 #BelColletto ▼ (98) 2023/09/30(Sat) 23:13:14 |
【人】 花浅葱 エルヴィーノ「やっとついた」 白く輝く扉を開いて外に出れば、涼しい風が男の髪を柔らかく揺らした。 ゆっくり、一歩ずつ前に進んで、 柵に手をかけたらもうだめで、ずるずるとその場に膝を折って座り込む。 身体の辛さよりも、今は、心の震えが止まらないのが酷くつらい。 手の中にあるたった一つだけの贈り物を見つめて、 ……ぱた。 ぱたり。 静かに雨が頬を伝った。 「……忠犬は、主を待ち続けるものだろう?」 「な……んで、キミが先に、僕を置いていくの」 僕がもっと、あなたの手綱をしっかり握ってたならこんなことにはきっと、ならなかった。 僕がちゃんと、あなたがしている事を知っていたなら、あなたの頬を打ってでもそれを止めていた。 僕が撃たれてなんてなかったら、あなたを助けに行ったのに。 ――知らないことは、罪だ。 だからこれは、全部僕のせい 。#BelColletto ▼ (99) 2023/09/30(Sat) 23:14:13 |
【人】 今更、首輪を外されても エルヴィーノ「……レオ……」 あの日約束したその名を呼ぶ。 「レオ………ッ」 何度も、何度だって、その名を呼ぶ。 天国への道を閉ざす、格子の前で。 「約束、守って……る、だろ」 「なのになんで、応えてくれない……っ」 だけどそこに、あなたは居ないのだ。 今更、その首輪を外されても、僕はもう上手く歩けそうにない。 #BelColletto (100) 2023/09/30(Sat) 23:15:34 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>96 >>97 [16:00] ノッテの構成員が殴り込んできたときよりも大胆な音が響く。 此れより先に追いかけっこに加わるものなんて警察ぐらいしかありはしない。 その筈だった。そうだとしたなら、こんな荒っぽい手立ては取らない。 他の誰が在るというのか。彼らの手を迷わせたのはそうした困惑もあったのだろう。 目を向けるべき相手を誤らせ、その視界を暗く潰した。 男の反応は緩慢だった。薄く雲が張ったような、空の色が向けられる。 人の死体がいくら増えようが男の注意を引くことはない。そうだった。 それが、乱入した男の顔を見て僅かに目を見開く。 確か当初乗り込んで来た構成員達は、ある男の部下だった筈だった。 秘密主義のマフィアたちであっても、多少顔の割れている人間はいる。 そうした者たちの幾らかは、一人の男を信奉めいて仰いでいた筈だった。 少なくとも自分が罪を暴かれ情報から隔離される前はそうだった。 #BlackAndWhiteMovie → (101) 2023/09/30(Sat) 23:27:35 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>96 >>97 その男の顔を見上げて、満身創痍の男は笑った。 息だけで、けれどもそこにあるのは嘲弄とはまた違うものだった。 仕方ないものでも見るような、怪訝と皮肉の混じったそれだ。 「……はっ、はは」 「迎えの趣味が派手だな、アレッサンドロ」 #BlackAndWhiteMovie (102) 2023/09/30(Sat) 23:28:17 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>101 満身創痍の男の前に、黒いスーツを翻した男が立っている。 壁の隙間から差し込む燦光が、ちかちかとその輪郭を彩って。 見やれば、その体のあちこちに乱雑にまかれた包帯や布の切れ端が赤く染まり、彼もまた無傷ではないことが分かるだろう。 そいつはあなたの表情に、に、と笑顔のように口元を歪めると。 「――気安く 呼ぶン じゃッ ね えよ、 くそヴィト ッ!!!!」――横殴りに銃身を叩きつける。 #BlackAndWhiteMovie (103) 2023/09/30(Sat) 23:35:27 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>103 頬骨に堅いフレームが擦り合わされる感覚があった。 既に大分張られて腫れた頬に、今までの痛みを再生するように神経が痛んだ。 軽く咳き込んで血塊を吐き出す。喘鳴は荒れたものの、悲鳴はあげなかった。 衝撃に流される前に向こうを向いて金属製の扉に叩きつけられた頭は、 まず視線を貴方へと向けて、それを追うように頭そのものが前を向く。 「他人行儀に呼ばれる方が、お前はよっぽど好みじゃないだろう」 立ち上がろうともしなければ、反撃の姿勢も見せない。 ただ、大混乱のさなかにある町工場の中の景色を背景に見上げて、 叩きつけられた言葉と態度を映画のスクリーンのように眺めているだけだ。 それで満足するのなら、それで構わないだろう。 けれどもそれで腹の虫が治まらないのなら、それはきっと不満だ、そうだろう。 「一方的に殴りつけて気が済むんだったらこのまま付き合ってやる。 で? それでお前は構わないのか?」 #BlackAndWhiteMovie (104) 2023/10/01(Sun) 0:02:08 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>104 ぷ、と吐き捨てる唾は赤黒い。 ストックに張り付いてしまったような指を引きはがして、 弾切れになったらしい短機関銃ががらんと床を転がった。 「うるせェ。 舐めやがってマジで」 乱暴に伸ばした腕で、あなたの肩を掴み引き起こす。 その振る舞いに"カポ・レジーム"としての、 あなたからすれば取り繕った、気さくな様子は欠片もない。 ──ただ、まったく、見慣れた様子。 かつてソルジャーとして纏っていた、当時の顔をすっかりと取り戻した顔で。 「ここで元部下の代わりをやってやってもいいンだが──」 じろ、と目だけで横を見る。 「………」 「乗れ」 車体のひしゃげたフィアットを指さす。 「これ以上話を聞いてやる気も、解釈してやる気もねえ」 「ただ、ここにいると邪魔が入るだろ」 「──ンなことしてる時間も余裕も、暇もねえ」 だろ、と。 答えも聞かずに、車の方に向かっていく。 (105) 2023/10/01(Sun) 0:10:00 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>105 上体さえ浮き上がらせられたなら、それに追従しないわけでもなかった。 何もかもに無気力であるのとは異なる、他から見て違いはわからずとも。 打撲程度の損耗はあるものの無事な方の腕で体を支えて立ち上がる。 片足は引きずり気味ではあるものの、体重を支えられないわけではない。 点々と血が尾を引く足跡を残しながら、助手席の方へと歩いていく。 時間が無いのは確かだ。そして目の前の相手を見れば、互いにそうなのも確かだった。 皮肉るような物言いはされど相手の提案を蹴って立ち止まったりするものではない。 そればっかりが事実であって、心中の内を饒舌に語ったりはしない。 「話くらいは聞いていけよ。何も聞きたくないわけじゃあないだろ。 もしそれくらい呆れてるなら、お前は此処にわざわざ来ない」 決めつけるような物言いのどれだけが真を得ているのだろう。 長い月日の中で互いがどういう人間か霞んだか、或いは。 少なくとも、聞けと言うほど自分から話したりというのも、男はやはりしなかった。 「……お前の運転する車に乗るのは、そういや初めてだったかな」 #BlackAndWhiteMovie (106) 2023/10/01(Sun) 0:26:40 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>106 怪我を慮る様子など一切なく、力任せに腕を引き起こす。 手招きも指図も、説明も気づかいも無い。 奇妙で不格好な、それは信頼ににた形。 ここ十年ばかりお互いの間に横たわっていたさまざまなしがらみや思惑、年月や歳月。 そういったどうでもいいもの全て、 ばたんと乱暴に閉じられる扉の音にかき消えていくようだった。 「……カー・ラジオ代わりに流してやるから、勝手に話せよ」 分泌される脳内物質のせいか、 それとも流れ出す血のせいか。 なにもかもを走り切った直後のような、気怠さと自由の境目のような空気。 ──この十年ばかしあった微妙な距離感の代わりに、そういったものがぶちまけられたような感覚。 それを形容する名前を、ふたりは持たなかった。 あるいは、必要としなかった。 「たりめーだろ。 カポの車に乗る警部がいるかよ」 がたがたと煙と異音をあげながら、フィアットのタイヤが滑り出す。 行先は、港。 ゆっくりと沈みゆく太陽を追いかけるようにして、ひびの入ったフロントガラスが瞬いた。 #BlackAndWhiteMovie (107) 2023/10/01(Sun) 0:35:59 |
リヴィオは、君と同じ空を見ている。 (a37) 2023/10/01(Sun) 0:40:35 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>107 その日の空は晴れていた。 緞帳を割るように光は破砕された開口部を割って差し込む。 パレードが幕を開けた頃に比べれば随分と光は色を帯びていて、 道向こうの目的地であるように主張する夕の色がやけに視界に眩しかった。 僅かな隙間を縫って吹き抜ける風が傷をひりひりと傷ませる。 「お前をパトロールカーに乗せてやることはしょっちゅうだったけれどな。 性懲りも無い暴れ方ばかりするもんだから、ガソリン代を請求してやりたかったくらいだ」 まだお互いが若く未熟で、ちょうど今の夕焼けのように昼と夜の交わりとの関わり合いを、 どんなふうに図るべきなのか探るようにしていた頃の話だ。 今、或いはこうなる直前よりもずっと上手く切り抜ける方法なんざ知らなくて、 どちらも自分の上、社会だとかそういうものに叱られため息を吐かれていた、 あの頃の夕日が一番眩しかった。 「お前は引き継ぎは終えてきたのか。どうせろくに話もしてないんだろう。 口を開かないことばかり得意になっちまったもんだな」 #BlackAndWhiteMovie (108) 2023/10/01(Sun) 0:59:55 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>108 潮風はまだ遠く、けれど海から吹き上がる風は真っ直ぐに削いでいくようだ。 こんなときにこそ使うべき黒眼鏡を助手席にかちゃりと放り捨てて、 ハンドルを苛立たし気に指先が叩く。 とん、とんというリズムは、鼓動とも路面の震動とも入り混じらない不協和音。 なのにその音が妙に耳に響いて、それ以外がどこか遠くに聞こえてくる。 「今ならぜって〜被害届出してるからな、あんなの。クソ暴力警官。 あの時懲戒喰らわせておくべきだった」 今にして思えば、あの時分が一番互いを信頼していたとさえ思う。 何も伝えず、何も理解せず、 それなのに同じ場所にいた。 その時のように交わされる言葉は、 傷跡に疼く熱に溶けていくよう。 ──理解とは程遠く、けれど齟齬がなかった。 スラムか、暴力か、あるいは痛みか。 何某かの塔の正体が何だったのかはいまだに分らないが、 少なくとも、同じ言語が通じていた。 「…そっち、あの状況でしてきたのか? 嘘だろ。 俺ぁなんもしてねえよ。あいつらならどうにかするさ」 車は海辺へと続く道路を曲がり、赤い照明が明滅する港湾設備へと進んでいく。 その光をフロントガラスに映しながら、 なんだか嬉しそうに笑う。 ──相変わらずの放任主義だ。信頼する相手のことは、あとは大丈夫だと無条件に、どこまでも放り出す。 #BlackAndWhiteMovie (109) 2023/10/01(Sun) 1:10:39 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>109 ゆっくりとカーブを曲がり、建物の間から遠くに海が見える。夕暮れの色に照らされた美しい海。 いつもだったらそれを楽しむ余裕があったかもしれないし、 その向こうにあるのだろう本土の岸辺を想像することもあるのかもしれない。 街の景色が遠ざかっていき、見えるものの色数ばかりが少なくなっていく。 そう遠くもないうちに、この車は港へと着くのだろう。 「俺の部下に引き継ぎなんざ必要ないさ。普段からなんでも教えてやっている。 お前と違って上に立つものも一人きりてなわけじゃない……うまくやるだろうさ」 果たして当人らにとって適切な引き継ぎがあったかなんて想像はしない。 少なくとも今から間に合わせることなんてのはお互いに出来やしないのだから、 彼らの身になって考えるなんてことに意味があるわけではない。 痛んでいない右腕を動かす。ポケットから抜き取られたのは一本の葉巻だ。 湿気の管理もされていなければ剥き身のままほっとかれてラッパーに皺が寄っている。 あの日、餞別として貴方から強奪したものだ。 それが見えるように片手で掲げてから口に咥える。 「……火貸してくれ。シガーライターくらいあるだろ、この車」 #BlackAndWhiteMovie (110) 2023/10/01(Sun) 1:29:23 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>110 がたがたと歪んだフレームの隙間から、さんざめく潮騒が聞こえてくる。 フロントガラスから回り込むように、 海面が反射する橙の光が覆っていく。 ぐるりとハンドルを回して、半開きのゲートをくぐる。 するすると滑り落ちるように向かう先は、港湾施設に併設された倉庫群だ。 「俺の部下にも引き継ぎなんて必要ねぇけど!? 俺のやってた仕事なんざ、あることをあるようにしただけだ。 もっとうまくやるまであるね」 張り合っているのかなんなのか、それとも誇らしく主張しているのだろうか。 確かなものなど何一つなく、空々しくすらあるがなり声が車内に響く。 葉巻の先端を視界の端にだけとらえながら、 「セルフサービスだ。 お前の人生に俺からくれてやるものなんて一つもねえ」 アクセルをがん、と蹴りつけるように踏む音。 速度を増した車は、舗装された斜面を跳ねるように降りて、 ある倉庫の陰へと向かう。 ──そこは、カポ・レジーム"黒眼鏡"が管理する倉庫群。 治安組織もファミリーの監視も、少なくとも普段はほとんど及ばない この街の空白地帯。 #BlackAndWhiteMovie (111) 2023/10/01(Sun) 1:38:23 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>111 「っ、はははは。 物知らずが店一つ任されるくらいだ、それくらい教えられてりゃ問題ないだろうよ」 空笑いが返る。くるくると葉巻を回してポケットへとしまいこんだ。 張り合って上げる大げさな声も、突き放すような物言いも、やけに満足そうに耳を傾ける。 背中の向こう、振り返らなければわからない街の様子などわからない。 残された彼らがどうしているかなど知る術もなく、知らせる者もいない。 それでよかった。 スピードを上げる車とは裏腹に、悠揚と構えて眼の前を見ていた。 話す相手に目を向けるのでもなく、ただ紫色を帯びていくオレンジを見ていた。 たかだかの干渉に集約してしまうには、男のほうは、今にすっかり満足していた。 車が停まれば扉を開けて助手席から外へ逃れ出る。 景色を見に来た、だなんて。そんなことは欠片も思っちゃいない。 それでも求めるものを提示されるまでは、開け放った扉に手を掛けて、 沈みゆく夕日が海を照らしているのばかりを見ていた。 体重を他に預けて構える、その片目は失われていた。 全身打撲の状態であちこちに殴打の痕があり、片足は半ば引きずっていた。 外套の内側からは血が流れ出す。左肩は粉砕され、脇腹はじんわりと血を吹いていた。 一番顕著であるのは右胸の傷で、すっかり黒くなった血の跡を染めるように新たな血が流れる。 今は空にされた助手席のシートが、凄惨さを物語っていた。 #BlackAndWhiteMovie (112) 2023/10/01(Sun) 2:16:30 |
【人】 アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡>>112 「ぬかせ。お前よりよっぽどいい上司してたわ」 本気の舌打ちをぶちまけながら、バックミラーをぐいと捻る。 根本から明後日の方向を向いた鏡は、もう背後の街並みを映し出したりはしない。 視界に広がるのは風の割には穏やかに揺れる海面と、 それを無機質な倉庫の陰が無機質に、参差として遮っていた。 助手席が開くの音に覆いかぶさるように、 蹴り開けるような勢いで扉が開く。 ところどころ穴の開いたスーツの裾がばたばたと、 忙しなく海風を孕んで揺れていた。 「一服する間くらいは待ってやるよ」 ばん、と力任せに叩きつけられたドアは、しっかりとは閉まらずに中途半端にずれた。 車越しににらみつけるアレッサンドロの片目もまた、押し当てられた布切れを赤黒く滲ませている。 銃弾が掠めたのか、あるいは貫通したのか肩や腿にはごわごわと乾いた血液の痕が張り付いていて、特に左腕の動きが鈍い。 それでも、 「おめえが何やったか、よく見てなかったンだけどよ」 フィアットの天板に、ごとん、と肘を乗せて。 「んなもん、どうでもいいから。」 「これからぶっ殺すくれえ殴るから、死んでも文句言うなよ」 ――笑った。 #BlackAndWhiteMovie (113) 2023/10/01(Sun) 2:30:45 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>113 懐からナイフの一本を取り出す。手入れはされているが汚れているそれは、 おそらく手癖も悪く先の町工場内部から拾ってきたものなんだろう。 ひしゃげた葉巻を乱暴にカットすると、煙草のボタンを押して起動させる。 幸いシガーソケットに歪みは無かった。ライターを取り出して赤熱面に押し当てるも、 直火でないから火がついて炙られるまでにはさんざ苦労をした。 「……初めはお前は随分大人びちまったから、裏切られたと知ったら切り捨てて、 あとはそれきり、自分の部下かなにかにでも始末を任せるものかと思っていたよ」 保管状況も火付けも何もかも悪い葉巻は、パルタガスの良さを台無しにしている。 しばし車に体重を預けながら、夕日が沈んでいくのを見ていた。 こんなところまで追ってくるのがいたとして、アジトやあちこちが散々な今、 痕跡を追ってやってくるとしたって日が昇ってからだろう――唯唯彼を追うふたりは別として。 「何かに付けて突っかかってくるようなガキの時分じゃなきゃ、 自分の手でケリつけようなんざしないだろうと思っていた」 「けれど、お前は追ってきた」 喉の奥から喘鳴混じりの笑い声を吐く。 車を挟んで並ぶ男の顔を見て、目を細めて笑っていた。 遠いものになってしまった景色を眺めるような、懐かしむような目。 ころりと首を傾げて、可笑しそうに、いつかのように頬を緩める。 「 自分を殺す凶器を選べるなら、お前がいいとずっと思っていたよ 」#BlackAndWhiteMovie (114) 2023/10/01(Sun) 9:11:51 |