人狼物語 三日月国


159 【身内RP】旧三途国民学校の怪【R18G】

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カナイ! 今日がお前の命日だ!


そうしてぼくは、ぼくの死体を見る。
 
,

 
 
出席を取ります。

 

どこかの教室で、少女が教鞭を執っていた。

鳥飼
。」

夢川
。」

「……
司馬
。」

名前の増えた出席簿を満足気に読み上げ、閉じる。
前回との違いは、更に名前が増えたことと──窓から見える夜空が、白み始めてきたことだろうか。

「学校って感じ、出てきたな〜。良い調子!」

笑顔で頷けば、窓へ視線を向ける。
その横顔には僅かに哀愁が漂っていた。

「……急がないとね」


どこかの教室。
並べられた机。
人影ひとつ。足音も無く、いつの間にやらそこにいる。

「………ん、…」

出席を取る声へと返す声は、以前よりも浮かないもの。
けれどもその理由は近付く夜明けではなくて、
ましてやひとつ増えた名前でもない。

それは以前あなたに問いを投げ掛けた時に
挙がった名前の内のひとつだから。ただ納得だけがあった。


「……ねえ、先生。
 前に……できることがあれば、って言ってたよね」

「聞きたい事があるんだ」

『生徒』として扱われる事に疑問を持たない子どもは、
教卓に立つ少女が、頼るべき『先生』であると信じて疑わない。
だからきっと、自分にわからなかった答えを知っていると信じている。


「俺、あのあと夏彦と話をしたんだよ」

「ちゃんとあの日をやり直して、本音で話してさ
 夏彦も俺と離れたくないって、好きだって言ってくれたから
 一緒に来て一緒に死んでくれるか聞いたんだ。
 ……そうしたら、頷いてくれたから」

夢川深雪という人間が、既に死んでいる事を思い出した上で。
言葉に詰まりはしても、確かに頷いてくれた。
だからあの時、まさか拒まれるなんて夢にも思っていなくて。

あっという間に、殆どわけもわからず死んだ人間には
目前に迫った死の恐怖への理解なんて無くて。


「あんまり怖がらせたくなかったし、
 俺みたいに……酷い見た目になってほしくなくて。
 できるだけ優しく首を絞めたんだけど
 結局怖がらせたみたいで、何処かに行っちゃって」

「何を間違えたんだろう」

ぽつり、ぽつり、前提から何から何まで狂った相談はそこで一区切り。
その内容に反して、それこそ生徒が教師に対してするような
ごくありふれた、けれど当人にとっては深刻な悩みのような。
最初から最後まで、ただただそんな調子だった。

こうして確からしい答えを探すのは、
未だやり直す事・・・・・を諦めてなどいない事の証左だ。

相馬栗栖は、倒錯した復讐劇が既に叶わないことに気づいている。

相馬栗栖は、相馬栗栖が相馬栗栖であることを知っている。

相馬栗栖は、相馬栗栖を悪魔と呼ぶことが出来ない。

相馬栗栖は、探偵には向いていない。


相馬栗栖は、偽物にすらなれない。



相馬栗栖は、相馬栗栖でしかない。



相馬栗栖は、

このまま終わらせてしまうことを、つまらないと思ってしまった。



きっと、昔から。

相馬栗栖は死んでいく。

暫く前から、既読をつけていないはず。

少女は真剣に、時折相槌を挟みながらその話を聞いていた。
生徒の悩みを解決しようと、真摯に努める教師の様に。

「……ふぅむ。同意の上でも、となれば。
 原因は単純だ、只怖かったんだろうね。
 人間は本能で死ぬのが怖いのさ。だって、死んだことが無いんだから」

最初に感じたのは冷たさにも近い熱さだった。
脚が燃えるように熱くて、次に喉を焼く痛みにのたうち回った。

焼けた肉の臭いがする。


「御国の為に命を捧げよう、なんて教わって。
 そう思っていたけれど──実際死ぬ時は、本当に恐ろしかった。
 理由なんて無いんだ、
 とにかく苦しくて……
、」

「…………、……」

教卓が視界に入る。そこで自分が俯いていることに気が付いた。
嗚呼いけない。先生なのだから、前を、生徒を見ていなければ。

「…………苦しむ、時間が……長ければ、それだけ恐ろしく思う時間も長くなる。
 即死とか、それに近い死に方ならきっと怖がらせないんじゃないかな」

ゆらり、顔を上げた。
額に汗が滲んだ気がして、手の甲で拭う。
当然、何も付かなかった。

「ただ、即死は見た目が酷くなりがちだ。
 綺麗なままにしたいなら、足を縛っておくか、高い所から……
あ。


自身の髪を指し示す。

「そのリボンで小指と小指繋いでみたらどうだろう、
 それに……一緒なら、飛び降りても怖く無いかも」

きっと生者がいれば、そんなことはないと反論するであろう提案をした。

廊下の、薄汚れた、古びた窓ガラスにそいつが写った。

「……、今更だね」

同じ顔で、同じ表情で。そいつは相馬栗栖の姿をしていて。
どこまでも愉快気に、そいつの生き方は自分が思った通りになったみたいな顔して。

古びた窓ガラスの奥で、そいつは相馬栗栖を見ている。

   「あぁ、なに。殺しにでもきた?」



そいつは喋らず、笑っている。何も答えず笑っている。でも相馬栗栖は、それが当然だろうなと思っている。
ドッペルゲンガーにあったものは死ぬという。おあつらえ向きの話だな、なんて。狂った思考の中で思った。
そいつは、現実に殺された。そいつはもういない。悪魔はお話の中にしかいない。


そいつは腕を伸ばして、相馬栗栖の首を絞める。


そいつはどこにもいなくて、首を絞めているのは相馬栗栖自身だ。

そいつのために生きて、そいつを殺そうとした。

まぁ、そいつから見れば、確かに。

面白い
存在なのだろうな、と思う。

壊されていく。幼稚な想像が。愚かな人生が。

罪人は裁かれゆく。




    
────息が、

──此処で終わらせてやるかよ。

相馬栗栖は、そいつになり得なくて。
相馬栗栖は、とっくにつまらないとだけじゃ言い表せないだけの約束を抱えていて。
相馬栗栖は、確かにそれを解決するために動こうとしていて。

腕を引きはがし、窓ガラスを、殴り割り、相馬栗栖は──




   相馬栗栖は姿を消した。
その場に残ってるのは、皆が見慣れている、彼の帽子だけがそこにあった。


──つん、と鉄臭い臭いが鼻をついた、錯覚。


「………死ぬのが、怖い……」

最期の日の、最期の瞬間の記憶。
俯いて考え事をしていたから、周りは見えていなくて。
音も遠くの事のようで、それ・・に気付いた時にはもう手遅れで。


  は頭を強く打ち即死だったと──


その後の記憶は、何も無い。
最初は自分が死んでいる自覚も殆ど無いまま、
気付けばここに居たようなものだった。


「……即死かあ」

どろり、生暖かいものが額を頬を流れ落ちる感覚。
けれど何も滴り落ちはしない。これも、錯覚だ。


あなたの言葉をなぞるように繰り返す傍らに。
ふと視線を上げた。
今際の記憶を語るその声が、徐々に淀んでいったから。

「わかった。次はそうしてみる」

優しい──中途半端なやり方ではだめらしい。
どんなに甘く言葉を重ねても、迫り来る死の恐怖は拭えない。
死してなお残るほどに強いものなのだと、理解した。

自分と同じような死に方の方が、皆にとって優しいのだと。


「ありがと、先生。俺一人だったらずっと迷ってたかも」

提案はあっさりと『次』の手段の一つとなり、
少女に掛けられる言葉は、気遣いではなく感謝だった。
この場に於いて、あなたは『理想の先生』だから。
『生徒』に気遣われるなんて、きっとあってはならない事だ。


「…もう一回、夏彦に会いに行って来るね」

浮かない表情を、そっと笑みに変えて。
またね、少女や物言わぬ友達に手を振ったのちに踵を返した。

すこしだけ瘠せた、透けたからだで彷徨っている。
スニーカーの片方をどこかへやってしまって、歩きにくそう。

 
……はー、は、


時おり息を切らしたように立ち止まり、
それからまた、ふらふら、ゆらゆら。

旧い校舎の中を、歩き回っている。

「うらみち?」


昇降口の隅に、目を留めて。
そこに一人蹲る少年に駆けよった。

「どうし…
 な 泣いてるのか」


おろおろと両手を無意味にうろつかせて。

「こわいこと、あったのか」

「なぁ」

「泣くな、泣くな」


透明の声をきみに掛ける。
隠れたからだで、きみのそばに居る。




「……ぼくの、見たか?」

「ごめんなぁ」 
「……見つけてくれて、ありがとなぁ」


「あとは ねーちゃんが、なんとかしてやるから」

「な?」




「大丈夫だから、泣くなよ」

「こわくない、こわくない……」

メモを貼った。

メモを貼った。


それでも、



「まぁ」



それでも、


それでも。


もう一度、会えるのなら。

気遣われなかったことに安堵しつつも、生徒に助けられたことには違いない。
先生の道は険しいな、なんて思いながらセーラー服の背中を見送った。

「ああ、……いってらっしゃい」

そうして、教室を再び静寂が支配する。
短いチョークを指で摘めば、黒板に大きく『自習』の二文字を書いた。
チョークを摘んだまま、思う。

「……、…………」

夢川と違って、自分は無理矢理連れて来たようなものだ。本音を言えば、やはり自ら此方側に来て欲しかった。
しかし結果的には、変わらない。
彼なら……匠介造なら、もっと上手くやれただろう。
彼に憧れて、彼のような人になりたくて、共に教師になろうと約束を交わしたのだ。


「……ま、時間だけなら気が遠くなる程あるからね」

これから、理解してもらえば良い。

自分は自分なりのやり方で、先生になれば良い。違う人間なのだから、全く同じようにできるわけがないのだ。
そう自分を納得させて、チョークを置いた。

永い刻は人を狂わせる。
それは、死者も同じこと。

準備室。ガタガタ漁って見つけるのは、

画板とそれから、いい感じ度が38くらいのもの。

見つけたそれらを抱えて、このあと転ばない

まだ、死んでいないかもしれない。

行方不明になっていないかもしれない。

どこかで話せるかもしれない。

解決するかもしれない。

まだ、終わってないかもしれない。その死が見いだされるまで。

どこかで死んでいく。

暗い暗い夜のすきま、
どこかの、何かの、誰かのあわい。

ぱたぱたきぃきぃ足音と木の軋む音を響かせながら、
彼を背にして廊下を走って、角を曲がって、

えぁ」


なにかに蹴躓いたらしきいつもの声が。
暗い廊下に小さく響いて、



ちかちか、

ちか、

 

電池の切れたマグライト一つだけが、転がっていた。

 




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