[ ――“蛍”でも“弟子”でもなかった私が、“灯守り”になった当初、
灯守りの何を知っていたかと言えば、一般人と殆ど変わらない事しか知らなかっただろう。
先代の彼と一緒に住んでいた訳でもないし、彼は仕事の事を深く私に話すような人ではなかった。
処暑域の行政職員は相当頭を悩ませていたと思うし、非常事態に中央域の職員も対応に追われたのではないだろうか。
当時の私にはどうでも良いことであったが。……否、今もそうかもしれない。
処暑域の職員は、突然灯守りになった私に対し諸々の必要事項を伝えつつも、
彼を失ったショックで
気のない私に業を煮やしており、私への対応は強かった。
しかしそう急かされても私はぼんやりしていたから、それが益々彼彼女の反感を買っていただろう。
職員は、彼と私の関係を知る事はなかった。
私も喋ることはなかったから、唯、容姿が似ているから血縁だろうか、と判断されていた。
それと、私が彼を亡くして放心しているのも話していなかったし、傍目からでは、私の様子は分かりにくいから。
故に、私の心情は慮られることは少なかった。
……それでも諦めることはなかった職員たちには恐れ入る。
否、先代の彼の部下と思えば納得するのだが。
なんとか行政が形だけでも回るようになった頃、灯守りの会合への参加を勧められた。 ]