[ 当時の処暑の領域の入り口は、奥地の平原にあった訳ではなく、処暑域の中の色々な場所に点在していた。
職場から一番近い入り口に辿り着く頃には息が上がっていたけれど、それも構わずに、“扉”を開けた。
“外”がどうであろうと、深く焼けた夕空は何時ものこと。
ユラが灯守りであった頃は、処暑の領域は殆どが夕景だった。
田畑の合間、人を迎えるための道を走って、和洋の折衷になっている家へと飛び込んだ。
――――私が見たのは、客間で倒れるユラの姿だった。
しかしそんな時ですら、私は叫ぶことが出来なかった。
言葉を失って、その場に立ち尽くすこと、しか。
様々な感情が過って、どうすれば良いのか、分からなくて。 ]
「 ……カナ……? 」
[ 畳に倒れ伏すユラの目が開く。
そんな状況で尚、何時ものように穏やかな顔をして、私の名を呼んだ。
口の端から、
赤
を流して、尚。 ]
「 あはは……来てくれて、良かった、…… 」
[ 星の如くの風は、矢張り私を呼んでいた、らしい。
彼を抱き起こすけれど、彼が自分で起き上がる事すら出来ないという現実を、ありありと突きつけられてしまう。 ]