人狼物語 三日月国


265 【ペアソロRP】配信のその先に2【R18/R18G】

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視点:


 
[「ハツナ」の投稿を見て
 まず目に留まったのは「顔」だ。
 ……と言うと語弊があるが
 単に容姿の美しさに惹かれた訳ではない。

 とある少女の面影を彼女は宿している気がした。

 壮真の幼少期の記憶は酷く曖昧である。
 それは自身の心を守る機構が働いている為。]
 

 
[秋月美奈子という
 世界に名だたる天才ピアニストが居た。

 恵まれた指の長さ。感性の鋭さ。
 圧倒的な表現力に人々は魅了された。]


  「どうして私なのよ……ッ!?」


[音楽の神に愛された彼女は病魔にも愛された。
 百年でもピアノを弾き続けたかったのに。

 有名な指揮者との間に奇跡的に子を授かると
 籍は入れないまま人知れず産んだ。

 子もある意味天才だった。
 それを、美奈子は利用することにした。]
 

 

  「壮真、貴方はそれでいいの」

   はい、センセイ
   ありがとうございます

  「次も私の演奏をよく聴いていて」

   はい、わかりました

  「貴方は私の弾いた通りに弾けばいいの」

 

 
[自分の表現する音楽を後世に
 正確にそのまま伝えるための楽器だ。
 長時間のコンサートに耐えられるよう
 毎朝走りピアノを弾くことを義務付けた。

 変な癖がついてしまっては困る。
 レコードでも聴いたのか教えていない曲を
 勝手に弾けば躊躇いなく折檻した。

 そう、楽器に意思は要らない。]


  「これは貴方を守るためだから」


[社会性も要らない。
 学校には碌に行かせなかった。
 音楽大学に行かせる為に必要な資格は通信で良い。

 支配欲には歯止めが効かない。
 部屋にカメラと鍵をつけた。
 「視られる」ことが与える影響を考えもせず。]
 

 
[子にとって初めて人前で弾く機会。
 いつどこでどう行われたかは、憶えていない。

 ただただ人の目が怖かった。
 無機質なレンズが一斉にこちらを向いているようで。
 聴こえ過ぎる耳も相まって全てが敵のよう。

 センセイが言うように外の世界は恐ろしい……。]


  ……っ


[生まれて初めてミスをした。
 二人以外の誰も気づきはしない、だけど確実なミス。

 たった一音だけ
 センセイのニュアンスと異なる弾き方をした。]
 

 

  はぁ……はぁ……っどうしよう……っ


[思わず会場から外に出たが逃げる場所などない。
 センセイは怒らせなければ優しい。

 でも優しくないセンセイは……。

 膝を抱えて肩を震わせていると小さな小さな足音がした。
 顔を上げると自分と同じくらいの子供。
 偶に食べるあのおいしい果物みたいな色の瞳がふたつ。]
 

 
[すごく素敵な、カッコイイ演奏だったと。
 素直な感想を伝えてくれたように記憶している。]


  ……ありがとう


[失敗でしかないのに。
 だけどいつのまにか震えはおさまって。

 帰宅後、一晩中折檻は続いたが
 受けている間
 耳に残った少女の声は心の支えとなった。]
 

 
[それから時は過ぎ、美奈子がこの世を去ると
 身体ばかり大きく育ち中身の伴わない青年が残された。

 独りでは何をしたら良いか判らない。

 美奈子にとっては不幸なことに
 その後の指針を示す前に亡くなってしまっていた。
 青年にとっての幸運はそれが済んでいたら
 自身の命尽きるまで母親が入力した通りに動く
 ロボットであり続けたこと。

 入ったばかりの大学を休学し
 朝のランニング以外引きこもる毎日。

 田中の勧めにより自宅で出来る動画配信を始めると
 様々な意見が聞けて興味深かった。
 リクエストという形で指示を受けると
 行動範囲が広がって色々なことにチャレンジできた。
 人が混まない時間を狙えば
 入って食事をすることができるくらいに。]
 

 
[中でも────、]


 『こんばんは。
  初めてコメントさせていただきます。

  すごく素敵な、カッコイイ演奏ですね』


[時計の針を動かしてくれたのは、そのコメント。
 それが、始まり。]
 


[黙って薬を混ぜたり
 勝手に閉じ込めたりしたのは、
 それが後ろめたいことだって
 ちゃんとわかってるからでしょ?

 重ねる謝罪が裏付けしている。
 好きなら何をしてもいいわけじゃない。
 多少は後悔している、そんな風に聴こえる。
 のこのこ連れ出されてひょいひょい飲んだ私自身にも
 責任は少なからずある。
 
 でもね、残念ながらさ、冷静に考えれば
 閉じ込めたい気持ちもわかっちゃうのよ。
 他の知らない女の子と恋に落ちる君を想像して
 一晩中泣き明かしてしまった私には。

 ──だから全然嬉しくないわけでもない。
 むしろその弱さに愛おしささえ感じる。

 そんなにも熱い想いを、
 自分に向けられる想定が全くなかったものだから
 驚きと恐怖の方が勝ってしまっていただけで]
  

 
[自分が知る愛の形はこうやって
 相手を無理矢理閉じ込めるものしか知らず
 会話を重ねていけば人間の浅さが隠せなくなる。
 だから薬が手取り早かった。

 切り取られた時間と四角の枠の中に映すのが
 己の中で一番まともに見える姿で
 知られる毎に失われる想いと確信していたから
 自分だけが抱き続けるので良かったのに
 きみの中から消えるのが怖くなってしまった。

 最後までは言われなかったけれど
 "ソウマくんはそんなことしない"のだ。
 だから謝罪をして、いまはまだ、
 正しく過ちを理解出来てはいないのだけれど
 理解出来るようになりたい。

 きみが抱く理想の姿を目指すという訳ではなく
 きみの前で恥じずに居られる自分になりたい。]
 


[──そういえば、
 あのとき震えてた男の子に
 さっきの壮真くんはすこし似てた気がする。]
 


[娘に『華音』と、息子に『奏汰』と名付けるくらいだ。
 生業にするほど才があったわけじゃないけれど、
 両親は音楽を愛していた。

 実家には、クラシックのCDが何枚もあったし
 毎週日曜の朝には演奏会のテレビ番組が流れていた。
 グランドピアノは流石になくても、
 アップライトピアノならあった。

 当時の私は今以上に落ち着きがなくて
 ピアノよりも人形やぬいぐるみ遊びに夢中で、
 カノン以外の曲にそこまで興味が持てなかった。
 ソルフェージュの初級レッスンを受けた後は
 いちばん簡単な楽譜のカノンを
 遊びで弾く程度になってしまった。

 いつだったか、両親に連れられて
 家族でお兄ちゃんのピアノの発表会に行った。
 静かにしてようね、なんて言われながら
 観客席のいちばん後ろの席に座った。

 夜の静寂に包まれる客席。
 明るく照らし出される舞台。
 どんな演奏会だったかほとんど憶えてない。

 ただ、ひとりだけ
 気になった子がいた。]
 


[ぱっと見、同い年くらいに見える男の子。
 淡いエメラルドの髪が
 スポットライトの灯りに透けて、
 深いシアンの瞳が宝石みたいに綺麗。

 まるでお人形さんみたい。
 見惚れるほど整った顔立ちをしたその子は
 ピアノの前に座ると、
 その外見からは想像もつかないような
 大人顔負けの美しい音色を奏で始めた。

 カッコいい……!!

 音に聴き惚れ奏者に見惚れ、
 幼心に凄い子が居るんだって思った。
 演奏が終わった瞬間会場を飛び出して、
 走り回っているうちにその子を見つけた。

 ……でもなぜかその子は怯えたように震えていて、
 どうかしたのかなって思いながら
 怖いもの知らずの私は話しかけた。]
 

 




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