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【見】 くるみ割り人形 トラヴィス>>舞台袖 ぱちん。……きゅ。 竪琴の42弦全てが張り替えられた、ちょうどその頃。 館の主人が瞳を閉じた。 白薄い雲が流れる空から──星々の煌めく夜空へと。 待宵館は、見るものによって色を変える空を持つ。 貴方達の瞳には、どう映るだろうか。 「はは、お褒めに預かり光栄です。 けれどももう、公演の予定はないんだ。」 そうして、己へ傷を付けた犯人──シトゥラへやっぱり苦笑を向けた。 「ところで、期待を頂いているところ悪いのだけど─── 実はお酒、凄く弱いんだ、私。 」迷った末、スコーンが着飾るのは、黄色いバタークリーム。 二人ともの視線が合ったのだから、選ぶものはこれ。 さく、と食み、出来栄えに舌鼓を打つ。 ひとつ胃に収めれば席を立ち、二人の頭を撫でる。 「返しに行くついでに、彼らと話してくるよ。 君達と嗜む為の、お酒のリサーチも兼ねてね。」 アンサンブルカーテンコールの時間だ。 (@0) 2021/10/24(Sun) 10:44:02 |
【見】 くるみ割り人形 トラヴィス>>2 キエ 「キエ」 貴方の姿を見つければ、 そっと近付いて行く。 「……お疲れ様。 そんな事も出来るのだね。」 人らしさを手放した様に少し驚きながらも、 まあ貴方なら出来てしまうのだろうと 納得しつつ、労いの言葉を贈る。 「君、早速で悪いけれど ひとつ尋ねても良いだろうか。 ……私との契約は、守られるよね?」 貴方へ、側にいて欲しいと願った。 対価を支払い、貴方は承諾した。 館の主人が眠った今でも、これからも、 それは今後も破られる事はないか、と。 (@1) 2021/10/24(Sun) 13:49:51 |
【見】 くるみ割り人形 トラヴィス>>3 キエ 「そう」 頭上の貴方へ手を伸ばす。 触れられるのならば、慈しむように貴方の頬へ。 「安心したよ。 私が私である限り、君は側に居てくれるのだね。」 悪夢は、男から切り離せないものだ。 失えば、自身は『トラヴィス』ではなくなると言って過不足ない。 己が己である為に、それは味あわなければいけない苦痛であること。 その苦痛を掬い取って和らげてくれるのは貴方だけで、 貴方しか居なくて、貴方の代わりは何処にも居ない。 「私の天使よ。 君が君である事に感謝をしよう。 これからも、よろしくね。キエ。」 貴方へ、穏やかな笑みを向けた。 (@2) 2021/10/24(Sun) 14:52:56 |
【見】 くるみ割り人形 トラヴィス>>6 キエ 対価を差し出し、契約によって繋がれたこの関係は 不確かなものよりも安心が出来た。 「───あ、 待って。」 離れていく貴方を求めて、更に手を伸ばす。 「……頼みたい事があるんだ。 私の記憶を食んでは貰えないだろうか? 」その言葉は、離れていく貴方を引き止める事が叶うだろうか。 「既に無い四年分を除いて…… W産まれてから、私が舞台に上がるまでの全てW──十数年分のそれだけ。」 提示するのは、 きっと両親に愛され、豊かな日々を過ごした幼少期の、 悪夢とは程遠い記憶。 「残りは……少し考えた後に。 君の好みの味では無いかもしれないけど、 私から、余分なものを間引いて貰えないだろうか?」 それ以降の記憶──悪夢を除いた『残り』についてはまた後で。 そっと自らの唇に人差し指を付け、貴方を見上げる。 (@3) 2021/10/24(Sun) 16:14:20 |
【見】 くるみ割り人形 トラヴィス>>8 キエ それが何に消費されようと、構わない。 『舞台人トラヴィス』の構築に 関係のない記憶だと思っているし、 舞台を降りた今、 経験の一つとして置いておく価値すらないそれ。 だから容易に手放すし、 その行動の意味を考えることすらない。 承諾する貴方には感謝しかない。 「有難う」 再び近付く貴方へ、触れる事が叶う。 くるみ割り人形は……委ねるように瞳を閉じた。 このまま誰からも干渉を受けなければ 男の記憶は貴方によって、簡単に消えるのだろう。 (@4) 2021/10/24(Sun) 17:00:56 |
【見】 くるみ割り人形 トラヴィス>>@5 >>@6 「────えっ、 どうしたんだい、そんなに気を立てて……。」 そんな魔の抜けた声が出て、 伸ばされた手は、悪魔に届く事は無かった。 「……停滞を、望もうと思って。 この宴は、あまりに私に変化を齎した。 きっと君達の求める私とは遠くなっただろう。 だから私に必要のないものを……捨てようとしているだけだよ?」 テラが楽しませてくれた。 ユピテルが信じさせてくれた。 ミズガネが、舞台に立たせてくれた。 楽しかった。忘れられないものになった。 それは───自分を大きく変えた。 変わったからこそ、二人を信じる為の選択。 「君達の側で、変わらずに居たいから。」 シトゥラに叱られた。 プルーが見守ってくれた。 キエが眠らせてくれた。 自分を造る記憶だけを抱いて、 貴方達を信じて、手を伸ばして、生きたいのだと 男はプルーを、そしてシトゥラへ視線を向けた。 (@7) 2021/10/24(Sun) 18:17:30 |
【見】 くるみ割り人形 トラヴィス>>8 「それは───……分からなかったな。」 男は、既に悪魔に捧げた記憶がある。 父と笑い合い、母に抱かれた過去。それらの記憶は男に、人を愛し、愛される術を、誰かを大切に思う心を教えていた。 『分からなかった』とは──その為であると、 男が一欠片の変化に気付くことは一生無い 。「プルー、私は……、 このままで、良いのか?」 言葉を吐く唇が震える。 男にしては珍しく、言葉をどもらせながら。 「君達をもっと深く知りたい、信じたい、 思えば思うほど、怖いよ…… 二人が居なくなればと、考えるのが……、変わる自分が、変わらない自分が、」 酷く苦しい。 君達も、けれど舞台で過ごした過去の苦痛も失いたくない。 二人と、キエと、過ごせるならば、それ以外は全て捨てよう。その筈だったのに。 視界がぼやけ始めて、 それが格好悪くて、瞳を閉じた。 「シトゥラに約束した、二人を蔑ろにしないと。 変わらない為にと思っての行動、 私は、また………間違えていたのか……?」 (@9) 2021/10/24(Sun) 19:27:11 |
【見】 くるみ割り人形 トラヴィス>>@10 「そう、」 望んで良い、変わって良い、悩んで良い、 隣に二人が居てくれるから。 「……そう」 嗚呼、こんなに真っ直ぐに言葉を届けてくれることを 今までどうして知ろうとしなかったんだろう。 「そう………」 過去の 悪夢 を拭うことは出来ないけれど、二人が──三人が居てくれるなら、ゆっくり前を向いて、少しずつ未来 を彩っていけば良い。「ごめん、」 過去にばかり囚われて、必死に目を瞑って、 壊れられず、狂えずに夢を見る時間は、もう少しで──終わるような気がする。 「ごめんね………」 過去も、未来も、今だって、 全てを慈しんで、抱えて、 大切に思えるような人に、なれたら良い。 涙は流さない。 それを瞳から溢すのは、舞台の上でだけだと誓っている。 → (@11) 2021/10/24(Sun) 21:20:55 |
【見】 役者 トラヴィス「ありがとう」 瞼を開く頃、 そこに涙も、迷う視線も、怯える瞳も無かった。 役者のことを知ろうとしなかった自分は、座長失格だ。 もう一度、 踏み出す一歩目からやり直そう。 (@12) 2021/10/24(Sun) 21:21:56 |
【見】 役者 トラヴィス>>ミズガネ それから、また時間が経った後。 竪琴を抱えた男が広間に居る。 紅茶のポット。 温められたカップが二つ。 ……誰かを待っているらしかった。 (@15) 2021/10/24(Sun) 22:23:38 |
【見】 役者 トラヴィス>>@14 >>@16 >>@18 >>@19 シトゥラから淡々と紡がれる言葉を、静かに聞き入れる。 ときどき眉を顰めたり、苦笑したり、瞳を伏せたりしながら。 「………ごめんね、シトゥラ」 貴方が拒絶をしないならば、 腕を伸ばして抱き締める。 言葉が足りない自分では、 温度くらいでしか想いを伝えられないから。 「毎日君と会いたい、消えたくない、 ───いつか死ぬ日が来るのなら、君に殺されたい。」 嗚呼、嗚呼。 彼らに許容させてしまうのは、これで最後にしたい。 シトゥラの背を撫でて、 それから片手を離してプルーが入るスペースを作る。 そうして二人ともを抱き締めることが、叶うだろうか? → (@20) 2021/10/25(Mon) 0:06:11 |
【見】 役者 トラヴィス想いを正しく、貴方達に伝えた事はあっただろうか。 嗚呼、そうだ、温度だけじゃなくて、 言葉にしないと伝わらないんだ。 ……伝えたい。 きっと受け取ってくれるから。 「シトゥラ、プルー、」 「………」 「私の特別になってくれる?」 (@21) 2021/10/25(Mon) 0:07:50 |
【見】 役者 トラヴィス>>29 ミズガネ 大切な竪琴に、 貴方にとって不備のないメンテナンスが出来たか──不安がない訳ではないが、 自信満々、余裕たっぷりに、圧を込めて頷いた。 Wアーティストとしての先輩Wらしく、 まずは自信がなくても、背筋を伸ばして、堂々と。 「おや、教えてくれるんだね。 真名は大切な人にしか教えてはいけないよ? 悪い狼に虐められてしまうから──……」 なんてね、と微笑む。 そうして言い淀み、貴方が視線を泳がせ始めれば、 とん、……とん、……とん。 人差し指で手の甲を叩き、観客を待たせてくれるな、の意。 「……………仕方のない人だね、君は。」 そっと腰を上げ、 僅か前のめりになれば、貴方の頬をするりと撫でて、立つ。 「踊ってあげる、私の詩らしいしね。 音楽は自由だよ、好きに奏でてご覧?」 (@22) 2021/10/25(Mon) 0:42:26 |
【見】 役者 トラヴィス>>32 >>33 ミズガネ 「大丈夫、 私が最高の舞台にしてあげる。」 胸を張って、背筋を伸ばして、笑顔に添えるのはウインクひとつ。 一歩踏み出して、広いその間に降り立った。 ───琴の音色が、貴方の声が響く。 時に歌声を交わらせ、手を鳴らし、 時に貴方を立ち上がらせて、くるりと一回転させる。 貴方が舞台へと誘った男が、今度は貴方を舞台へと。 楽しんだもの勝ちだよ、君。 耳元でそう小さく囁いて、詩人と役者の二重奏は奏でられた。 歌い唄われ、踊り踊られ───広間が騒ぎ立つ。 自分の詩だと言うのに、照れる素振りは一切なく、満面の笑みで長い手足を動かす。自分がどうすれば映えるのかを、よく理解していた。 隣に立てば、言葉を交わすよりももっと深く、貴方と言う人間が伝わってくる。 誰かに隣を預けるだなんて………酷く懐かしい感覚だった。 自分を見て、自分に当て書いて、自分の隣で声を上げる貴方はまるで、…… ありがとう、私の理解者よ。 ……… …… (@25) 2021/10/25(Mon) 2:40:06 |
【見】 役者 トラヴィス…… ……… 詩人の詩が終わる頃、 役者はくるりとステップを踏んで動きを止める。 余す事なく動いたのだ、 汗は滝のように流れるし、喉だってからから。 けれどやっぱり、この達成感は……間違いなく自分の好きな感覚だ。 使用人の何人かが足を止め、 自分達へ小さく拍手を贈るだろう。 それに軽く手を振ってから───貴方の帽子を取り上げた。 片手を胸に、もう片手で帽子を持ちながら、背中に回して 「有難う御座いました!」と頭を下げる。 貴方にもそうしろと、視線を投げながら。 それはいつかの昔、 初めて舞台に立った自分に、誰かがしたことだった。 今度は貴方へ伝えていく。……届くだろうか? (@26) 2021/10/25(Mon) 2:42:42 |
【見】 役者 トラヴィス>>36 >>37 >>a0 ミズガネ 二人で並んで頭を下げ、惜しみなく降り注ぐ拍手も静まる頃。 とすんと元の席へと腰を下ろし、貴方へ帽子を投げて寄越す。 すっかり冷め切った紅茶をぐっと飲み干して、 「 筋トレから始めるべきだね。 」優雅な笑みでダメ出し。 「息を切らしているね。酒なんかに浸ったせいだよ、自業自得さ。肺活量は鍛えている? いないよね。意識して深呼吸するだけでも少しは変わるから気にしてみると良い。 嗚呼そうだ、音を外すなんて論外だからね。手元が見えないなんて言い訳を吐いたら許さないよ? まずは弦に触れて慣れ親しむこと。頭で意識して弾かないで、指先にしっかり覚えさせて。一音たりとも外すな──とは言っていないんだよ、間違えても堂々として。自信が無くても背筋を伸ばして胸を張って。」 貴方が詩人を再開する、と吐いた言葉を違えさせるつもりはない。 であれば、ここに留まる筈もないのだろうと想定して。 「でも、 詩は……悪くなかった。 竪琴だって、長年鳴らしていない割に傷みも酷くない。 ……W今のW君には勿体ないくらいに良いものだよ。」 貴方が密かに稽古を重ねていたのか、家族から贈られた竪琴が本当に品質の良いものなのか、 はたまた、単純に物持ちが良いのか。 それは貴方にしか分からないし、言及するつもりもない。 「螺子を巻いてくれてありがとう。 トラヴィス・ハートランドだ、コトハ・ミズガネ。」 (@27) 2021/10/25(Mon) 12:46:42 |
【見】 役者 トラヴィス「はは、勘違いをしないでね、 『二度とこんな所に来るな』って意味だよ。 それ程の竪琴に相応しい詩人を志すなら まさかこんな場所で停滞を望むまいよ。 だから、嫌だ。夢から醒めれば、私達の未来は交わらない。」 手を伸ばす。 貴方の額を、人差し指で小突いた。 言外に、自らはここから出る気がないと主張。 そうして、貴方への確かな期待を滲ませて。 「ほら、ほら。この程度で休んでいないで、 荷造りでも、大切な人の元へでも行きなさい。 ───けれども君、些か、心許ないなあ………」 ふわり、 金の細やかな刺繍が施された蒼いマントを 肩から下ろし、貴方へとまた投げて寄越す。 ───宙の舞台で、蒼が大きく踊った。 「強く願いながら、瞼を開くと良い。 さすれば、ある程度の融通は効くから。 さようなら。私の人生で二人目の共演者よ。 君の顔は二度と見たくない。」 真白いカップへ琥珀色を満たしながら 晴れやかな笑みで、手を振った。 (@32) 2021/10/25(Mon) 20:50:14 |
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