【人】 二年生 小林 友太郎は、少年と友だちになって、 自分は少年から金の輪を一つ分けてもらって、 往来の上を二人でどこまでも 走ってゆく夢を見ました。 そして、いつしか二人は、 赤い夕焼け空の中に 入ってしまった夢を見ました。 明くる日から、太郎はまた熱が出しました。 そして、二、三日めに七つで亡くなりました。 ─────『金の輪』 小川 未明 (0) 2020/10/05(Mon) 14:26:00 |
【人】 二年生 小林 友「ともちゃん、本当に大丈夫?」 [そう青柳が尋ねてきたのは また図書館に行こうとした矢先のこと。 いつもみたいに話しかけるだけじゃなく 後ろから俺の肩を強く引いて、 青柳は真っ直ぐ俺を見つめている。 今更なんだと言うのだろう。 そんな嫌そうな感情が表に出ていたのか 青柳の手に力が篭もる。] 「何かあるなら、話して欲しい。 クラスメイトとして、友達として」 ……何も無いって。 俺は、青柳がどうしてそんなふうに思うのか 全然分かんないよ。 「だってともちゃん、前なら俺に そんな風に言い返したりしなかった」 [なるほど。さすが周りに目を配れる男。] (1) 2020/10/05(Mon) 14:26:28 |
【人】 二年生 小林 友[強硬な青柳に促されるように 人気のない教室の空いた席へ腰を下ろすと、 青柳も俺の隣の席を引く。 じっと覗き込むような目線から逃げるように 机からはみ出たプリントの切れ端に 視線を落として、俺は息をついた。 何から話せばいい? 目に見えない女の子と、放課後の図書館で 便箋越しにメッセージやり取りしてます、 俺はその子のところに行きます邪魔しないで? 信じるわけない。こんなこと。 時間をただ沈黙のために費やしていると 青柳がそっと口を開いた。] (2) 2020/10/05(Mon) 14:26:49 |
【人】 二年生 小林 友「俺のね、中学の時のクラスメイト。 ひとり自殺した子がいるんだ。 ひとりでいてもなんとも思わなかったし そいつが昼休みとかに逃げるように 図書館とか保健室とか、行くの 仲間と笑いながら見てた。」 [時々声を上ずらせ、静かに語る。] (3) 2020/10/05(Mon) 14:27:38 |
【人】 二年生 小林 友「その子が死んだ理由、 はっきりしないまま終わったんだけど ……もし学校で何かあったら 力になれたかもしれない。 逃げる道があげられたかもしれない。 そう思うと、やりきれなくて。 世の中には、その子だけじゃない、 悲しいこと辛いことが山ほどあって 覚えていられないくらいだけど もう辛いことが起きないように 少しでも行動するのは、 無駄な事じゃないのかな、って。」 [青柳の言葉も、心もひどく真っ直ぐで 俺はまた何も言えずに口を噤む。 また長い沈黙の後、俺は考えながら 唇の隙間から言葉を絞り出した。] (4) 2020/10/05(Mon) 14:28:16 |
【人】 二年生 小林 友─────俺には、そんな勇気、ないよ。 今傍目に死にたそうに見えてたとしても。 [それ以上、何も言えない。 気まずい沈黙が教室の中に、 澱のように溜まっていく。 「そうか」と短く切って、 青柳は足を組みかえた。 俺は何か言わなくては、と 頭の中を必死にフル回転させて……] 青柳はさ、もし好きな女の子がいて その子が、手も届かない遠くにいたら ─────どうする? [つい、そう、尋ねてしまった。]* (5) 2020/10/05(Mon) 14:34:58 |
【人】 二年生 小林 友[少しの沈黙の後、] 「遠距離、的な?」 [青柳はううん、と唸って腕を組んだ。 もし、俺が「いや、異世界の子」って言ったら 今度こそ可哀想な奴扱いにされるんだろうか。 それとも、青柳はそれでも俺を 見捨てずそばに居てくれるのか。] 「俺なら、ちゃんとメッセージ送って 「逢えなくても好きだよ」って 相手がちゃんと分かるように伝える。 それでも会いたかったら…… 俺も会いに行っちゃうかなぁ。」 [少し照れくさそうに笑って。] (6) 2020/10/05(Mon) 19:01:03 |
【人】 二年生 小林 友「てか、遠距離の話とかだったら 恋バナ、全然聞くからさ。 ……あっ俺すごい深刻な話しちゃった? だとしたらともちゃんめっちゃゴメン!」 [謝り出す青柳を宥めて 俺は内心、今の言葉を噛み締める。 例えば、今図書館に向かっても いるのは菜月の影で、俺は手を繋ぐどころか 声も、顔も知らないんだ。 他のカップルが当たり前みたいに到達してる、 その出発点にすらいない。 会いに行くにはどうしたらいいんだろう。 俺はもう、そればっかり考えていて。] (7) 2020/10/05(Mon) 19:01:32 |
【人】 二年生 小林 友青柳、聞いてくれてありがとう。 ごめん、俺なんかの恋、バナ……? なのかな つまんない話だったと思うけど、ホント。 [にっこり、出来る限りで微笑んでみせて 俺はカバンを手に図書館へ向かう。 今度は、青柳は咎めなかった。] (8) 2020/10/05(Mon) 19:02:00 |
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