45 【R18】雲を泳ぐラッコ
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| ───。 [ ひとり、甘く。彼の耳元で女性の名を呟けば、 その空間は激しく明滅した。 ] (52) 2020/10/11(Sun) 1:51:54 |
[お庭でも客間でも珍しいものに囲まれたルミさまは
はしゃぎ疲れたのか眠ってしまう。
こういうのは女の子の憧れなのかしら。
喜んでくれると振る舞う方も嬉しいもので、
彼女が笑う間は、私も笑顔が曇ることはなかった。]
[彼にとっては馴染みの客間で、
目を閉じたお姫様を手慣れた様子で寝かしつけるリフルに
久しぶりに胸が痛くなる。
そうか、この子は私より彼の近くにいたんだ。
手をつないで同じご飯を食べて同じ場所で眠る。
私が焦がれて仕方なかったあなたのお姫様が、
彼女なのでしょう]
[こういうときお酒も味わわずに
喉を焼いてしまう私が嫌いだ。
自己嫌悪に落ちそうなところを
動揺したリフルに笑わされて、
半歩のところで踏みとどまる。
支えてくれるかと思ったリフルの視線は、
しっかりと私を絡め取ってから逸らされた。]
ええ。跡継ぎです。
私も二十年、三十年先を考える年になりました。
血が繋がっていなくても、国は継がなければ。
ピアノ弾いてくれると嬉しいけど、
あれこれ選ぶのも申し訳なくてなかなか……。
……それとも。
遠回しに私が結婚しなかった訳を訊いてる?
[少し真面目な顔で彼を見てから。
冗談ですよおって、グラスを彼のグラスとキスさせて、
乾杯の音を鳴らした]
[離れていた間のリフルの話に
……リフルの声に聴き入っている。
手を繋ぐような真似事は、
ひととき甘い香りを纏ったけれど、
それも彼が笑えば溶けてしまう春の氷だった]
そう……。利き手は動かないのね。
[気にしないようにジェスチャーで示してくれているが、
私のせいだと責めてくれた方が楽だった。
お金でも義手でも援助しよう。
でも、あなたはお姫様の為に私の助けを袖にする。
リフルの人生に食い込む余地がない。
あなたは1人でどこかへ行ってしまう。
どこにもいけない私を置いて、
お姫様と手を取り合って、どこへでも飛び立ってしまうんだ]
[目眩がする中……リフルの声が遠くに聞こえる。
『ルミに街を案内したい。ルミもクッキーが好きで』
住んでいるくせに多くない街の思い出が、
一つ一つ彼の手でお姫様のものに替えられていく。
ああ、お姫様に縁のない、
あの暗い酒場だけが私の思い出に残されるんだ。
……ひどい人]
リフル。
……私6年も1人でがんばったんですよ。
怖くて寂しくて死んじゃうかと思った。
待ってるだけの自分が嫌いだった。
リフルと一緒に苦労したかった。
頼って欲しかった。隣に居て欲しかった。
あなたのこと遠く感じたくなんてなかった。
だいすきよリフル。
だいきらいリフル。
……あのときのキス。返すね。
[抱きしめるくらいに近づいて
ほほを触れあわせるだけのチークキスをした。
ただの挨拶に成り下がったキスで、
過去の淡い願いを切り捨てる。
言わなくちゃ伝わらないってイヤと言うほど思い知った]
[何も言わなかったらあなたは去ってしまった。
今度こそ引き止める。
誰も私の心を揺らさなかったんだ。
あなただけが私をおかしくさせる。
それが好きってこと、特別だということ、
リフルが居なくなって身に染みたの ]
すきだよ。リフル。
あなたが好き。
お付き合いしてほしい。
だからね。あなたの言葉で聞きたい。
街を周りたいのは誰?
ルミさまと回るのは、あの日の続きだと思えないよ。
私はリフルとデートしてたんだもの。
[欲しいのはYESの音だけど、待った、も受け入れましょう。
6年の間リフルのことを考えていられたのは私の話。
彼はそんな暇も無かったでしょうから、ハンデをあげる]
好きな理由は訊かないでね。
きっかけはあったけど、理由なんてないの。
寂しいときに側に現れた人だよ。
お見舞いしてるうちに仲良くなれた。
そこから好きになっていったと思う。
[「何故オレに、こんなに構う?」
その答えは考えても分からなかった。
お姉さまの代わりに甘えられる人が欲しかったのか、
誰かの役に立ちたいと思ったときに現れたからか。]
始まりは分からないけど、好きになってたの。
それってダメかな。
私のこと、そういう風に見たこと無いなら
これから見て欲しいって、おかしいかな。
[ああ、そういえば「酔っ払いの話は聞きません」と
突き返されたのだった。
またお酒の席で言っちゃったな。
ワイングラスに行きかけた手を
水のグラスに引き戻して一口水を飲んだ]
信じられないなら何度でも言ってあげますよ?
[ふふふって笑えばそれがきっかけで楽しくなってくる。
ねえ、気持ちが先で理由が後って変かな?
好きだから可愛く見えるの。
好きだから許してしまうの。
好きだから役に立ちたいし、
好きになって欲しいから、好きなんだって気が付いた。]
[少し空気が落ち着いた頃、かわいいお姫様が起きてきた。
うるさくしてごめんねと膝を折ったが、彼の方が早い。
リフルにあやされて落ち着く様子から、
2人の信頼が透けて見えた。
あのくらい、あなたに信用される人になりたい。
……今からでも間に合いますか。
リフルのそばにいたいと望んでもいいですか。]
ここに住むのは構いませんよ?
私と鉢合わせるのは覚悟してもらいますが。
[客間に住まわせ続けるのは悩ましいから、
庭の反対側の離れに部屋がありますよと伝えた。
彼らには騎士の位があるのだから、
家を1つ渡しても良かったのだけれど、
お姫様の願いは叶ったのだろうか。
誰かさんが誰かさんに告白したせいで
時間がかかったかもしれない。]
[お見送りはしっかり受け取って、
私の部屋の前まで来てもらう。
ここで抱きついたら貞操の危機を感じてもらえるだろうか。
それくらい本気だと伝わるだろうか。
どうでもいいことを考えて笑った]
おやすみなさい。
また休日に
[ルミさまに街を案内する約束の休日に。
それまでに逢えたなら
それは素敵なこととして受け取りましょう。
そうでなくても、
リフルに教えてもらったおいしいクッキー屋さんから
街を巡れば楽しいことでしょう。
少し明日からが楽しみになって、
ドキドキしている心臓を上から抑えつけた**]
好きっていうの、緊張する……
| ( Ditele di farmi una camicia di lino Prezzemolo, salvia, rosmarino e timo… )
[ ……窓から差し込む朝日が眩しくて、 抱き締めた肩口に目元を押し付けた。 細くも透き通った歌声が一瞬途切れ、 笑息を含んだ声色が男の名を象った。 ] ( Buon giorno. Ajdal. ) ……Buon giorno. Mia bella. [ ……音はその部屋には鳴らなかった。 既に思い出せない声は聞こえないが、 言葉は字幕のように脳に入ってくる。 衣擦れ、歌う声、川辺の水音、喧騒。 その人の吐息による残響を追いかけ、 擦り寄った首筋に暖かなキスを贈る。 ──これは、安寧の、 ] (53) 2020/10/11(Sun) 8:42:57 |
| (54) 2020/10/11(Sun) 8:43:03 |
|
[ 擽ったそうに捩る身体をつかまえて、 脚を絡めながら下腹部を緩く撫でる。
僅かに弛んでいた皮膚の触れ心地は、 すっかり本来のすがたを取り戻して、 少し前までそこに命が入っていたと、 思わせないほどになめらかであった。
膨らんだここに耳を当てて語り掛け、 見苦しいほどに頬を緩ませた日々は、 未だ男の記憶の内に根を張っていた。
朝の風が薄手のカーテンを纏い踊る。 その影を受けた揺り籠の覆いの下で、 ありふれた幸せがやすらかにねむる。
十年すら共に過ごせなかった時間の、 何気ないたった一欠片だというのに、 瞼を開かずとも綿密に思い起こせた。 ]
(55) 2020/10/11(Sun) 8:43:08 |
| [ ……。 執着の強い思い出だからこそ、 違和感に対する修正力も強く。 ]
──、ケンブリックのシャツは、まだだ、 もう少し、……ここにいてよCuore mia……
[ 観測者の存在など忘れた故に、 閉じ込めた愛しい人の心地が 多少違ったところで構わずに。
柔らかく感じる髪を指に絡め、 唇の先端で軟骨を食むように 耳の先を撫でつつ愛を囁いた。 「二度寝しよう?」と誘えば、 「ダメ」と叱られるんだろう。
恰も幸福の泉に沈み切っては 呼吸すらする気のないような 熱っぽくも蕩けたその笑顔は、 日常と地続きのルーティーン。
……観測者が一歩でも動けば 容易に観測点がずれる程度の。 ] (56) 2020/10/11(Sun) 8:43:57 |
| [ 是が失われることをもう知っていた。 聞き飽きる程の甘さを撒き散らして、 この時全てが終わればよかったのだ。 揺りかごの天使がかわいい声で泣き、 寝乱れた聖母が柔らかく抱き上げて、 それを朝食のラテとビスコッティで 迎えに行って寄り添うばかりだった、 そんな至福の時で。 至福の時だという、のに、 記憶の中ですら陶酔しきれずに。 ] (57) 2020/10/11(Sun) 8:44:06 |
|
[ 光を放つ扉の横を通ってキッチンに立ち、 カップを満たし、振り返れば。 ]
(58) 2020/10/11(Sun) 8:45:24 |
|
[ いつだって忘れきれない光景は光を簡単に呑み、 テレビのチャンネルを移行するように脈絡なく、 鉄臭くも醜悪な景色に切り替わる。
赤い溜まりの中に横たわる黒髪の女と、 その腕の中で良い子に眠る赤ん坊と、 報復の怒りが滲む凄惨な室内。
瞳にそれを映した男は 憎悪と怨恨を湛えた顔で、 泣けもせず観測者とすれ違う。 ]*
(59) 2020/10/11(Sun) 8:46:09 |
[ルミが眠った部屋で彼女と二人、盃を交わす。
聞き出さずとも彼女が跡継ぎの話を語ってくれた。]
……いや聞いてねぇ……
そうか、
してないんだな……
[失礼な話だろうと思って深入りする気がなかったから首を振った。彼女は冗談だと笑う。グラスの音に紛れさせて、呟いた。
自分のせいかと思う僅かな気持ちは、旅の話で流した。
彼女もそんな話をする為に呼んだんじゃないと思ったし…
自分だってこれ迄の事を聞いてほしかったし……]
[距離をあけて手を重ねる。
右手の事を気にしないでほしいと思ったのも本心だし、
彼女を気に病ませたくなかったのに、
結局、己の考えの及ばないところで彼女を傷付ける。
だから彼女の思い出を踏み躙る事を平気で言えるんだ]
───、
[何でまたそんな事を言うんだ。
あのときの、と言われても思考が追い付かなくて。
頬に触れた口付けは挨拶の様でも、そうは思えなかった。
もっと苦くて、痛々しく胸迄刺し及ぶ]
………お嬢様の方がよっぽど
色恋に富んでらっしゃる。
[彼女が本心なら彼女の気持ちは切なものだろう。けれどここ迄想ってもらえているとは、想定外だったから。
茶化すつもりはないが、
その情熱には呆れ迄覚えてしまうものだから、つい零す]
[好きな理由?
前もよくわからなかったんだから今更聞かないが、
きっかけがそれなら十分理解は出来る。
先ほどは呆れたものだが、この人は別におかしくない、と、頭の冷静な部分が判断する]
………
[「これから見て欲しい」にはすぐには頷けず、言葉を探す。
くだけて喋れる相手だけど、
大切で、守りたくて、特別な人だけれど、
卑しい気持ちでも愛しい気持ちでも触れる事すら躊躇う人を?そういう風に見る?
すぐに「はい」って言える方が、
今迄の気持ちが嘘だという話だろう……
こんな風に思う気持ちは初めてで、
この気持ちだって大切にして来たのに。
彼女の方が酒を飲んでいた事は忘れていた。
水の入ったグラスを傾ける彼女に僅かに眉を寄せる。
楽しそうに笑う彼女はどこか痛々しいのに、
「結構です」と彼女のグラスに水を足してやった]
[起きてしまったルミをあやしてから彼女のもとへ戻る。
それって、オレが再度お嬢様を振った場合でも言えんのか?と、もやもやと渦巻く腹は意地が悪い。お嬢様も大概すごい事言ってる気がするけど]
構わなくはねぇだろ、
雇ってる訳でもないのに……
[とは言うものの、家が渡されるというなら揺らぐだろう。子連れには願っても無い話だ。
とりあえず教会の厚意もあるから、翌日からは教会の用意してくれた部屋へ移ると伝えた]
……シャーリエ様、
さみしい思いをさせたのはすみません。
正直、忘れると思ってました。
…ぁ………
[馬鹿正直に告げたが、隠す事は何もないだろうとも思う。
……ありがとう、と言おうとして、詰まる。
その言葉に何の意味があるのだろう。
考えれば考えるほどドツボにはまりそうで……
結局、「送ります」と呟いて、席を立っただろう]
[見送った先の部屋の前で、
彼女は寝る前の挨拶をしてくれた]
おやすみ……
良い夢を。
[そう言って扉が閉まる迄、頭を下げていた。
ルミの眠る部屋に戻って彼女の隣に潜り込めば、
動かない右手をきゅうと握られる。
義手は外して眠るものだから、頭を撫でてやれないのが残念だ]
― 休日 ―
[当日は黒のシンプルな祭服で、ルミを連れて現れる。
シークレットブーツも履かない。
六年前と似た格好を避けた結果の服装だ。
彼女の屋敷迄迎えにあがって、
ルミの前だけれど、はっきりと尋ねる事にした。
多分己は小難しい顔をしていた。
言っていいものかとか、この言葉で正しいのかとか、ずっと悩んだけれど、やはり不安は拭えぬもので]
……あの日の続き、
じゃなくてもいいか?
オレもそんなつもりはなかったんだが……
あんたとデートがしたいんじゃない。
でも、一緒に行きたい。
ただ、一緒に居たかったんだ。
……それじゃ、駄目か?
[これが、あの提案の答えになっているかはわからない。でも彼女を大切に思う気持ちを偽りたくはなかったから…言霊に込めた。**]
[言葉が足りないから、なんどでもすれ違う。
何度繰り返してもすれ違うんだろう。
彼が私をどう思ってるかも聞かずに、
私のわがままに振り回した。
6年間、甘酸っぱさを煮詰めて
焦がしてしまった恋は終わりにする。
またゼロから始めよう。
同じ街に居るのだから、
すれ違うことだって
捕まえることだって叶うのだから]
[教会の用意した部屋がある、とは
牧師にと頼まれてやってきた彼には当たり前の待遇。
考えなかった自分もおかしかった]
あら、ほんとう?
必要になったらいってくださいね。
働かないのに、とは考えないでください。
私が領民から税を頂いているのは
領民の為に使うからです。
貴族のつとめというものです。
[意地の悪い質問をぶつけられたとしても、
素知らぬ顔で返す自信はある。
あなたがどこかで苦労している間、
恋と仕事を分けるために、
ぶ厚い仮面を重ねてきたんだから]
[自分の部屋に戻るまでの時間くらいは稼げる]
[だから「忘れると思ってた」なんていわれても、
目を伏せて笑うだけで終わらせた。
本当は断られるのが怖くて仕方ない。
穏やかで薄い、中庭の住人を続ける方が楽だっただろう。
でも、それじゃないって蹴ったのは私なんだ。
戻れなくても仕方がないけど、怖いよ。
リフル 助けて]
―― 休日の屋敷前 ――
[民族衣装をまとって、髪は三つ編みして垂らして
訪問者の前に立つ。
表から出ようとすると近衛兵がおまけについて来るので、
いつかと同じ裏口で待ち合わせた。
教会で見る牧師さんのなかでも飾り気のない祭服は、
以前、髪をまとめてリボンで結っていたリフルと印象が違う。
ヒールを履いた私が身長を追い越したか、
お姫様に合わせて歩く歩幅のせいか。
ずいぶん大人しくなったように見える。
モノクルと祭服で知的にすら見えて。
以前の彼が知的でなかったというわけではなく……うん
彼の左側の特等席にルミさまが見えたので、
小さく手を振った。
ドレスじゃないけど私だとわかってもらえるかしら]
[お出かけの前に怖い顔した
……それでも前よりは柔らかい表情のリフルから答えを聞いた]
……。
悪い子……。振ってくれもしないんだ。
でも許したのは私だものね。
今日は一緒にいてね?
[顔を伏せればルミさまと目があった。
にこりと微笑みかけて、しゃがんで彼の視線から逃げた]
……さ、行きましょう。
今日はルミさまと街を回るんですよね。
お供に選んでいただき光栄です、ルミさま。
クッキーはなにがお好きかしら。
この季節なら私はジンジャークッキーが好きです。
少しスパイスが入っているけど、温まりますよ。
[ミルクと食べるのがおいしいです、と彼女に笑って、
そのままの笑顔でルミさまの反対側のリフルの隣に並んだ。
ほら、リフルは場所知ってるでしょう?
大きくなったけど看板はそのままだから間違わないよ
[義手の方をつついて
クッキー屋までのエスコートは丸投げした。
その後は私が引き受けますからいいでしょう?
ガラスの髪飾りのお店なんて、リフル知らないでしょう。
収穫祭が近いから民族衣装を飾っているお店も出ている。
リボンと小さなグロスでお化粧して、ディアンドルを着たら
妖精みたいで可愛らしいに違いない。
ちょっと張り切って、ルミさまをおもてなししよう。
リフルが止めるかは彼の教育方針に寄るんだろう。
後から彼女が贅沢になったとか怒られても、
私そんなの聞いてないもん]
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