人狼物語 三日月国


137 【身内】No one knows【R18】

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[ 男は椅子から立ち上がるが、その視線は相変わらず魔術師に向けられている。]


 勘は大事にしなさい。
 私に隙はない、そう思っていたのでしょう?

 ジャンヌ。


[ 顔は女に向いていない。
だが、女には確かに男に見られている気配が感じられるはずだ。]


 さて、ご理解いただけましたか魔術師どの。


[ 男の目は光を感じることはない。
その代わりに、魔術の力が男に別の視覚を与えているのだ。]

 
 さて、商談といきましょう。

 私の要求は、
 私のものから手を引いてください。

 というものです。


[ やや芝居がかった緩やかな動きで部屋の中を歩く。
ブーツの踵が石の床を踏みつけて、その音が石の壁で反響する。]


 そこの女は私のものです。
 手を引きなさい。


[ 女にかけられたギアスは聖王国の大神官でも解くことができないほどの強力な呪い。契約者の両方の合意なく解かれることはない。]

 
 ……そうだ。

 その女が私のものであるなら、
 その女のものも私のものと言えますね。


[ 今気付いたかの様に男は言葉を続ける。]


 アンペールの領地を返して≠「ただきましょうか。


[ 薄笑みが深くなる。三日月が大きく嗤う、]


 ……冗談ですよ。


[ そうして男は再び椅子へと戻り腰を下ろした。]*

 

  
きゃ、あぁああ
……っ!!!!


[その前に感じたものは勘違いだったと。
 再認識させられるが如く
 彼の声に身体が硬直し痛みに悲鳴を上げた。
 彼に、近づくことも出来なかった。]


  ……!


[心を読まれている?
 見られていない筈なのに威圧感があり
 背筋を汗が伝った。
 自分は、逃げられないのだろうか。]
 

 
[石のように硬直したままその後を見守った。

 女の所有権を再三主張されれば魔術師は
 「婚約辞退は受け入れてないから僕のなんだけど……」
 と余り納得していなかったが
 実力差は十分に理解したらしい。]


  「……返して欲しければ取りに来ると良い」


[そう苦い顔で捨て台詞を残し
 現れた時と同じように突然に姿を消した。
 この場に現れたのは魂の一部。
 本体の多くは領地にあるのだろう。]
 

 
[あの恐ろしい化生が囮にもならなかった。
 その事実に冷や汗が流れる。

 制止の効果は解けただろうか。
 何れにせよ椅子にかける男から目が離せず。]


  ……。


[ブローチを奪うなど無理だ。
 奪おうとすれば捨てられる。
 大人しくしていても忘れられる。

 望みのない現実に打ち拉がれた。*]
 

[ 漸く一息ついたのは魔術師の気配が消え、暫くしてからだった。
男にしては珍しく体を緩める。]


 ……ふぅ……


[ 五分以上に渡り合えたのは僥倖。
こちらがあれを上回ったのではない、それは単に性質の違いというだけ。
強いて言うのなら、あれほどの魔術師を相手にハッタリを仕掛けるだけのこの男の胆力が相手に勝ったということだろう。]


 戦っても負けませんがね。


[ 少なくとも相手の領地でなければ。
だが、そうであったとしても大損害はまぬがない。
それは商人にとっては負けに等しい。]

 
 よかったですね。
 ギアスが効いてくれて。
 

[ 男は漸く女へ偽りの視線を向けた。
男の操る鋼糸は特殊な製法を用いて作られていて、その鋭さは鉄の鎧すら切り刻み、細くそして光を通す性質が糸を見えにくくしている。]


 あと一歩踏み込んでいたら、
 今ごろ貴方はバラバラの肉の塊でしたよ。


[ 男は魔術を操ることはできない。
だが、財を投じて手に入れた無数の魔術道具とノウハウ、そして男自身の研鑽によってここまで力をつけた。]

 
 それとも?
 バラバラになっても治るんですかね?
 試してみましょうか?


[ 女の治癒は不死の域まで到達しているのか。
頭を落としても?心の臓を切り刻んでも?水に沈めたり氷漬けにしても生きていられるのだろうか。]

 
 私を、……裏切りましたね?


[ 静かな声と共に、男の顔から薄笑みが消えた。]*

 
[自分は何を裏切ったのだろう。
 こんなに怖くて堪らないのに
 彼への想いは砕けるどころか増している。
 心は裏切っていない。

 宝石を取ろうとしたこと?
 自分は、それを得たいだけでなく
 彼の見つめる先が自分でなくてそれだったことに
 全身の血が湧くくらい妬ましかった。
 私は忘れられるのに手のひらに大切そうに乗る宝石に。
 それだっていつまで彼の手元にあるかわからないものだが]


  …………ごめん、なさい……っ


[もう、宝石を取る気はないし取れる気もしない。
 そしてもう、手遅れなのだろうけれど、謝罪した。
 他にどうしたら良いかわからなかった。]
 

 
[何もできない私は馬鹿の一つ覚えみたいに
 ぽろぽろと泣くしかない。]


  貴方の気が済むなら、
  好きなだけ、お試し下さい……


[自分の限界は、知らない。
 両目が揃っている限り、どんな怪我も治せる気はする。
 ただこの二つともなくしたら、私は……。*]
 

[ わからない。
なぜこの女はそこまで言えるのか。
騙されていたと気付いている、嵌められたのだと理解している。
優しさも、助力も偽りと知ってなぜ。]


 ………!


[ ─── それは一瞬だった。]

[ 男の一息でそれは女の四肢を斬り裂く。
細く鋭く硬い鋼の糸が女の肉に食い込み、皮膚と肉と血管とを裂いて、骨を断ち切り、4つの手足を同時に分断した。]

 
 さあ、繋げて見せなさい。


[ 冷淡な声。
椅子に腰掛けて、偽りの視線も本当の視線も女に注いで。]


 元に戻るまで見ていてあげますよ。


[ 両の二の腕、両の太腿を切断された女。
治療どころか止血もしないまま、男は女を見つめている。
薄笑みを浮かべながら。]*

 
[自分を襲うものは、何も、見えなかった。
 重力に従って落下して、
 
ぼとぼと、ぼとり、
地に着いた。
 テディベアのように石の床に座り
 鋭利過ぎる糸による傷の痛みは
 短くなった手足を認めた瞬間に襲ってきた。]
 

 
[イタイ。手が。脚が。
 イタイ。胸が。頭が。]


  
あっ……アッ、あっ、 ア゛ッ!!!!



[パニックを起こした全身が
 ビクンビクンと異様に痙攣し
 傷口からは夥しい量の血が噴出する。
 全身が燃えるように熱くその熱いものが
 外に流れ出ていくのが嫌でもわかってしまった。]
 

 

  
ハッ、ハァッ、おぅ、ぇぇ……ッ



[身体の色々な機能に不具合が起きたように
 女の小さな口は吐瀉をした。
 先日の昼間から何も食べておらず
 吐いたのが胃液のみなのは幸いなことなのだろうか。
 太腿の切断と共に短くなったドレスの裾。
 下着を履いていない股を温かいものが濡らした。
 それは漏らした小水であったが、
 熱い身体からするととても冷たく感じられた。]
 

 
[そんな状態でも、一人の声は確かに届いた。
 冷淡な声色でも構わない。
 私が従いたい人の声なんだ。

 涙だかなんだかわからないもので
 濡れそぼった顔で返事をする。]


  わッ、 わかり、ましッ はぁッ、は……!


[自分から流れ出た血液と小水の海の中
 溺れるように短い手足で這った。]
 

 
[元に戻るまで見ていてくれる。
 それってすごくうれしいことだ。

 飛びそうな意識を繋ぎ止めようと、
 口と共に小さな体を動かした。]


  わっ、 私…… 貴方の声が、すき……
  優しいときも……意地悪なときも……
  身体の、真ん中にひびくみたいで……
  すごく、かっこいいの……


[離れていた右足が皮一枚で繋がる。
 繊維と繊維を繋ぎ合わせながら、次へ這う。]
 

 
[頭が痛い。息が苦しい。]


  あ、貴方の……っ
  私のより、大きな手が、すき……
  頼もしくて……だけどすこし、冷たくて……
  あたためてあげたくなるの……


[右腕と、左腕が繋がる。
 ぎこちなく手が開閉するのを確かめて
 僅かに安堵の息を漏らす。
 もう貴方に触れる機会はないかも知れない。
 だけど万が一。そんな幸運を手にできたなら、
 いま伝えたことを逃さずに叶えたいの。]
 

 
[血の海を泳ぐ。
 頭痛が激しさを増して前が良く見えない。]


  私……、私…………
  目を見せてくれた、貴方がすき……
  こんな私の我儘をきいてくれた、貴方が
  こんな私に我儘を抱かせてくれた、貴方が……

  わた、し……


[左脚を繋ぎながら、ぐらりと頭が揺れる。
 だめだ。抗えず床に横たわった。
 もっともっと、頑張っている所、見て欲しいのに。
 誰かに買われてもこんな風に頑張ってるって
 偶にでも思い出してくれたらうれしいのに。]
 

 

  はぁ、はあ……
御免、なさい
……


[これほど多く深い傷ははじめてだった。
 不出来な人形は謝罪し意識を手放す。
 眠りが疲労を回復し分断された四肢の修復を助ける。
 少し経てば手足は元通りとなる。*]
 

 
 ……馬鹿な娘だ……
 

[ 気を失ってなお繋ぎ合わせられる四肢。
その白い肌、接合部は皮膚が薄く赤味が強いが、それもいずれ白く戻るのだろう。]


 悍ましい力ですね。
 人と言えるのか疑問が残りそうです。


[ 立ち上がり女の元へ進む。
見下ろした先、血と涙と体液や小水や色んなものが混ぜ合わされた中に女は横たわる。]


 呪われた血。
 その業というものか。


[ 何処へ行こうともこの娘に幸福などありはしない。
少なくとも万人にとっての幸福はない。]

[ 手足が繋がれば女はの手は再び鎖によって壁に繋がれた。
ただし、足に鉄球は付けられてはいないが。

切り裂かれたドレスはそのままだが、身体はマリエルによって綺麗に拭かれていた。
髪も梳かされてやはり綺麗に整えられていた。

部屋は、壁も床も綺麗に洗い流された。
それでも血の匂いは消えない。]

[ 女が目を覚ますころ、石の部屋にいるのは男だけだった。
男はやはり薄笑みを浮かべたまま、女を見ていた。]


 ひとつだけ望みを言いなさい。

 ひとつだけです。
 よく考えて口にしなさい。


[ 切り裂かれた代償でも、不公平な契約の代償でもない。
それは、言わばただの気まぐれだった。]*

 
[意識を失うまで、約束通り、
 彼のたくさんの目は
 自分を見ていてくれた。
 もしかしたら、意識を失った後も。
 自分の視界が暗くなっても、
 見てくれているってわかったの。
 それはとても……、うれしいことだった。]
 

 

  ……。……ジュダス、様……


[手が繋がれた状態で目を覚ます。
 拭ってもらえたのか、
 肌がさっぱりしている。
 真っ先に視界に入ったのは彼。
 目が覚めて最初に見るのが
 好きなひとの顔だなんて
 こんな幸福なことってあるのかしら。]
 

 




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