人狼物語 三日月国


98 【身内】狂花監獄BarreNwort【R18G】

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>>チャンドラ

「──チャンドラ様。トラヴィス様を抑えていただいているところ恐縮ですが。
 
俺ごと、アマノを攻撃することは可能ですか?


それがダメなら……俺が血を流すくらいの傷を、俺にいただけませんか」

ダビーの言葉を部屋の外で聞いて、…………。

その諦観とよく似たものを知っている。

誰かを一瞬思い出した。

一欠片ほど思考した。ああ、少し前に俺を殺した相手は、こんな気持ちで死にたがったのかな。

きっと。
トラヴィスに何かされたと、形勢が変わったとわかった時には。
羽に触っていた者を静かに振り切ってキンウは動いていた。
止められても、キンウはそうしていた。

「ーーーチャンドラ様。トラヴィス様はキンウが」

だからあちらに集中してくださいと。
………どちらもこれ以上傷付かないようにと。

キンウは祈らない
キンウはただ願う

『――――――……』


キンウは発言権を喪失している。
それでもまだ聞くことはできる。
だから、囁くような泣くような声に対して
遠吠え
を一度。

いつもの
真似っことは違い、それは頭に響く。そして、
『止まれ』
という命令付きだ。
……きっと、警戒しているだろう天使の名を騙る相手に対しては、一瞬足を止める程度にしかならないのだろうけど。

『トラヴィス様』「トラヴィス様」

唇が動く。
頭の中に声が響く。

朱の混じった黒檀が墓守を映す。

『能力の行使をお止めなさい。「耐えてくださいね」抗いなさい。私の声だけを聞いてください』

傷跡の残る手が、細い指が、トラヴィスの手を握った。

メモを貼った。

トラヴィスの手を取ったまま周囲へ視線を戻した。

自身の声がよく通る事を理解している。

見ている。視ている。

チャンドラ様、と。短く警告した。キンウは死んで欲しく無い者の名に、貴方を挙げている。

 願いは届いた。
 胴体に走る衝撃に顔が歪む。続いて火を付けられたかのように痛みが肉体に燃え広がっていく。

 "すまない、ダビー"。

 男の声を拾う。
 目の前のターコイズが濁るのを見た。仄暗い色に、よくない熱が胸の中で育っていくのを自覚する。

 やっぱり、駄目なんだ。
 きっと正常な人間はここで貴方を慰めたりするのだろうか。共に悲しみに暮れて寄り添うのだろうか。
 ああ、でも、結局自分は歪んでいるのだと認識する。

 苦しむ貴方が、傷つく貴方が。たいへんに魅力的に見えて、美しいものに感じてしまって、狂おしいほどに愛おしくなってしまうのだ!

 己を殺すと言ったのに、内側から込み上げる甘やかな幸福に笑みが溢れそうになる。でも笑ってはいけない、けれどいつものように口元を手で隠すことも叶わない。必死に耐えなければ。

「……アマノ。違う。貴様が謝ることはない。
 謝るべきは、俺だ。だって、何故なら、元はと言えば──」

唇を震わせる。

囁く。
が生まれてきたのが間違いなんだ」

 だから、貴方は悪くないと。
 それが当然であるかのように言いながら。

 厚かましいと、そんな資格はないと知っていながら、腕を捉える手で貴方を優しく撫でて。
 男は、慰めるように優しく、そっと呟いた。

「《杭よ》」

 傷口から溢れ出す生命に告げる。
 赤い雫は呼応して、音もなく肉体を貫く杭へと姿を変える。

 狙う先は──自分と、相手。二人まとめて。

己諸共アマノを杭で貫いた。

 終わらない。

「もう一度」

 更に血が流れ出るように傷を作って、繰り返す。
 大地に撒き散らされた血に命じる。

己諸共アマノを杭で貫いた。

命の杭が、全てを穢す。


 晴れやかな空の青、爽やかな草の緑を、アマノのターコイズを。

 何もかもを、汚していく。

 まるで自分が許せないと言わんばかりに己の肉体諸共相手を貫く。串刺刑は執行される。

 失血してもいい量の血は既に失われた。自分はもう戦えないだろうから、託すならチャンドラか……止める義務などないけれど、巻き込んでしまうけれど、メサあたりだろうか。トラヴィスは、どうなのだろう。

 それは極力防ぎたいと、自分で終わりにしようと、知性の犯罪者の機械化した部位を中心に杭は伸びたことだろう。

部屋の中、何が起きているのかは分かる。
遮るものの無い音は、明確に聞こえてくる。
謝罪の声も、肉を貫く鋭利な音も。

「……は、はは……」

力なく笑う。
ずるり、壁にもたれかかったまま崩れ落ちるように床に座る。

「余計な事したのは僕なのに。勝手に被害者ぶって、勝手に勘違いして、勝手に行動して。……」


持ちだした拳銃で、今すぐ自身のこの脳髄を撃ち抜きたいという衝動に駆られる。なんて自分勝手な考えだろう。

「情けねえ、なあ……」

キンウは、銃弾より遅い。
飛び出したチャンドラより早くない。

「……トラヴィス様」

ーーー彼は癒しの能力をチャンドラに使えるのだろうか?
チャンドラはそれを受け入れるのだろうか?
トラヴィスの力の代償はなんなのだろうか?

「チャンドラ様、」

わからない。
ただ名前を読んで、トラヴィスの手を握る。
こんなにも声は震えるものなのだと、キンウは初めて知った。

 ミズガネ
「…………、ミズガネ」

あなたはまだ、この不死兎の目に見える範囲に居ただろうか。
否、きっと居る事にして欲しい。不死兎はあなたが心配なのだ。
あなたを見つけてからは、位置を把握し続けていた。

「…………、よしよし」


不死兎は否定も肯定もしない。ただ寄り添うだけだ。
ただ傍に居よう。必要ならば頭を撫でる事も出来る。
大丈夫だとも、大丈夫じゃないとも、言いはしない。

ただ"存在している"、その"全て"を認めよう。

「…………、」

そして新たに分かった事もあるな。
不死兎は思考を止めない。

そして新たに疑問に思う事もあるな。
不死兎は思考を止めない。

ただ"存在している"、その"全て"の本質を見定めるために。

串刺刑の執行を、放たれる弾丸の行先を、ただ見守る。見守ることしかできない。ロボを抱えたままの両手が震える。

「……分からへん、分からへんよ」


ぽつり、と困惑の言葉をこぼす。
自らが傷つくこと。苦しむこと。殺されること。痛みをもって己の罪と向き合うこと。
それしか贖罪の方法を知らない囚人は、それを否定する者達が理解できない。

「こんな、いろんな人巻き込んで、怪我して、怪我さして……そうまでして、欲しいもんなんやろか」


ここまで暴れないと、手に入らないのだろうか。彼らが求めるものは。

アマノ

 男の叫びを浴びた。傷つけたのは自分なのに、苦しめたのは自分なのに、ああ、哀れで可愛らしいと思う。無表情の多かった貴方の剥き出しの感情が、愛おしくて仕方がない。

 杭の顕現は長くは持たなかった。二人を穿ち貫いていたそれは砂のように崩れて消えていく。
 支えの代わりにもなっていたであろうそれを失って、体の力も命ごと流れ出ていくけれど、それでも男はほんの少しだけ倒れまいと踏みとどまった。体を動かすのは最早意地だ、精神というあやふやな概念だ。

 目の前の男を抱き止めて、うつ伏せにならないよう寝かせるだろう。
 一つの動作を行うたびに、傷口が開いてあちこちから残りの血がとめどなく溢れ出したけど、もう何も感じることはなかった。

 ニア
青年は目の届く範囲にいるだろう。
耳のいいあなたには、もたれながら座る音も、小さく呟かれた声も、聞こえていただろうから。

「…………、」


彼はあなたを拒まない。
寄り添われ、撫でられると共に、認められると共に。
どうしようもない自罰的な衝動を、抑えようとする。

>>だれか、こえをひろってくれるひと

「……誰、か。誰か」

 声だってもうまともに出ない。それでも、出入り口にいる誰かに届いてほしいと願いながら血の気の引いた唇を震わせる。

「アマノを、頼む」

 囚人を管理するのは、看守の務めだ。役割は全うしなければならない。それだけだった。
 そうでなくてもこの囚人は色んな者と知り合いだろうから、きっと誰かが助けてくれるだろうけど。

 あとは……あとは、何が必要なのだったか。

 視界が暗い。やり残したことがあるなら、やらなければならないのに。
 かすみ始めた意識ではまだ思考できている、でいているような気がしていたけれど。

 新人看守の体はもう、血の海に沈んでいた。

 ミズガネ
「…………、
辛いな


不死兎にだって感情はある。
人が悲しむ姿を見れば悲しいと思うもの。
本心を全て汲み取れなくとも、考えた末に、同調する事は出来る。

それでも優しく撫でる事だけを選んだ。
それ以外を構築するべきは、きっとこの兎ではないから。

 ダビー
「…………、!」

そしてその不死兎は耳を立て続けている。
後輩を撫でて、一度抱きしめた後……
「少し待っててね、」と残し、その場を離れるだろう。

向かうは素直で律儀で真面目で、
己のやるべき事を果たそうとした、彼の元へ。

って思ったんだけど兎、非力だから……
男性二人を運び出すの、無理だと思った。今更だけど。

「誰か手を貸してくれる者は、居ないかい?」
「…………、なに、ちょっとした大掃除だよ」

周りに呼びかける。言いつつそれは……
トレーニングルームの中へと瞬時に、跳び翔けるのだが。

 トラヴィス
「生存競争……」

看守の言葉を繰り返す。
愚かな囚人には、美しく思慮深い墓守の思いを半分も汲み取ることはできなかっただろうが。
何を求めて、何故戦うのか。少しは理解できたような気がした。

「生きるために欲しいもんが違うから、取り合いになる。……それは、立場が違う人間がぶつかり合いになるんも、仕方ないんやろね。やって、そうせえへんと生きられへんのやから」

その言葉は直接看守に向けたものではないけれど、あなたの言葉を確かに聞いたという意思表示であった。

「…………、墓守、」

不死兎は、墓守を止めたりはしない。
噴き上がる感情、言葉、行動。
その全てを見届ける。疑問を抱く。
彼は今……"本当"は何を想っているのだろう?

否、この行動こそが、彼の"本当"の表れなのかも、と。

憶測は憶測でしかない。情報が足りない。
故に、墓守の鼓動、その行く先を。

紅水晶が、傍で見つめる。

「ダビーはん……!」


ごく小さな声で嘆くように呟くと、か弱い兎に手を貸そうと()駆け出しかけて。

墓守の気迫に怯んで()、半端なところで止まった。

何も返さない。先輩の思うまま体が揺れている。無事であってもそう受け入れていただろうけど。

ミンに向かって唇を動かした『ありがとう』、音には……今はしない。

「……待っ、た。僕も、向かう」


抱きしめられ、その手が離されて。( )
聞こえてきた声( )に
自分にその資格があるのかと
一瞬迷いを見せるものの、トレーニングルームの中へ。

入って聞こえたのは、怒りだ。( )
……青年は、それを止めようとはしなかった。

何も変わらない事は無い。
何も響かない事は無い。

確かに死体は何も答えやしないのだ。
だけど、この舞台には、まだ生きる役者が居る。

そして人は、例えそれが微々たるものだとしても。
自分自身に影響を与える事が出来る。


そして。

「…………、兎には、響いたよ」

これは勝手な、感想だ。

ナフは、ライトの明滅を見た。
(a49) 2021/10/12(Tue) 14:43:41

ナフは、歯を食いしばる。寒さに震えるその身体で。
(a50) 2021/10/12(Tue) 14:44:07

ナフは、吼える。………声なき声で。
(a51) 2021/10/12(Tue) 14:44:39

【人】 不覊奔放 ナフ

>>127 >>138 アンタレス、イクリール
現れた氷の壁が、止まれと言う。
止まる選択肢はない。少なくとも、ここにはない。

そしてイクリールの口を見る。ーー正しく、理解する。
あとは躊躇もなく脚を振り上げた。

真っ赤に霜焼けた脚が、ハサミで広げられた罅を的確に穿つ。


男は、全力だ。いつだって次の一瞬のために動いている。
男は、まだ知らない。トレーニングルームにいる2人の仲間がどうなっているのか。
悪魔は、止まらない。まだ己の役目を果たしていない。

止まり方が分からない。
(146) 2021/10/12(Tue) 14:51:03
メモを貼った。

全てを見届けた。全てを聞いた。

それでもやっぱり……

全ては見えない。全ては聞こえない。

だから、人は、難しい。ぶつかり合って、傷を付け合って。
それで分かる事もあるだろう。分からない事もあるだろう。

だけど、今はただ。

「…………、お疲れ様」

キミ達のその鼓動の辿り着く過程に、道のりに。
ひと時の、休憩を。

人々はもう、動かないだろうか?

「…………、」

"この場"の決着は、本当に、もう着いたのだろうか?
その"事実"を確認する。周囲へと目を向ける。

不死兎は"この舞台"には関わらないけれど、
後片付けは……ちゃんと手伝うつもりだよ。

離れた手の持ち主を見る。広がる赤を見る。

 トラヴィス
あなたのその言葉を聞く。
少女のような微笑みで、頷きをひとつ。

「……、どういたしまして?」

ありがとうに対する言葉は、こうだろう。
それ以上でも、それ以下でもない。

少女は受け止めたんじゃない。
あなたの激情を理解して、受け取りたかったのだ。

「こちらこそ、キミの心の内が、傍で見れて良かった」
「…………、ありがとう」

だから、穏やかにお礼の言葉を返すのでした。

「…………」

少年から広がる赤を見て、もうキンウの力は必要無いと悟る。

『トラヴィス様』

唇を動かさず、名を呼ぶ。
トラヴィスを縛る暗示は消えただろう。
…………少なくとも、今は。

「トラヴィス様」

唇が名を紡ぐ。

「……治療と、蘇生を、」

……外にはもう繋がるのだろうか?
それでもキンウはそう頼むしかできない。

口を閉ざして、赤をぱちゃりと鳴らして。
金糸雀は倒れる兎に駆け寄った。

「…………。」

ゲーム用エリアの蘇生室や治療室は、人数が足りるだろうか。
外に繋がるようになったならば、足りないのならそちらを利用する事になるのだろう。

――だが、決着はまだ完全に付いた訳では無い。

「もう一人だ。もう一人、ルヴァに協力してる奴が居る。
 こっちに来てねえ看守も一人、居んだろ。そいつと鉢合わせてんじゃねえかな」

「…………、ナフ」

その不死兎は知っている。
看守の足止めをしている、彼の存在を。

現に、その二人に声をかけていたのだ。
『あんまり大きな怪我を、しないようにね』って。

「兎は……、様子を見に行きたいと思っていたんだ」

「トラヴィス、キンウ、……、それとミンも」
「この場を任せても大丈夫かい?」

「そしてミズガネ、…………、キミは、どうしたい?」

 




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