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【人】 楯山 一利ならば何処なのかって、 そんなのもやっぱり見当がつかなくて それにもう、体力も限界だ……。 俺はふらつきながら、道の端で足を止める。 走り過ぎて疲れて呼吸が荒いせいもあるが 焦燥感と不安に圧し潰されそうだ。 「亜由美………。」 会えない想い人の名を呼んだ。 それは、自分でも分かるくらい 誰の耳にも届かない程に、 か細くて弱々しいものだった。 (49) 2022/10/23(Sun) 1:50:25 |
【人】 楯山 一利最後に名前を呼んだのは、いつだったっけ……。 ガキの頃は「亜由美お姉ちゃん」だった。 アイツを意識し出してからは、そう呼ぶのを止めた。 かと言って、「亜由美ちゃん」はしっくり来ないし 「亜由美」の方が良いとは思いつつも 羞恥心に負けて、滅多に名前を呼ぶ事もなくなって 「お前」呼ばわりする方が、多かったように思う。 だから、思い出せなかったんだ……。 でも…… もしも、また会えたなら ちゃんと、名前を呼びたい。 亜由美───…。 そして「好きだ」と…… しっかり、伝えたい。 (50) 2022/10/23(Sun) 1:52:43 |
【人】 楯山 一利『急にゴメン。 高山さんから伝言頼まれちゃって。』 "高山さん"という名前。 あまりピンと来なくて。 ダンサーの誰かだっけ?なんて考えてたら 『ああ、カズさんが普段から 智恵さんって呼んでる人ね。』 「智恵さんって、カフェの店員の…?」 あれ?なんで知ってるんだ? と、疑問を口にするんだけども 向こうは要件を早々に済ませたいらしく それには応えないまま、話を続けた。 未だこの時点でも、この人が あのカフェでバイトしてるとは気付けなかった。 (52) 2022/10/23(Sun) 3:33:50 |
【人】 楯山 一利『"もしものことがありそうなら 大人でも警察でも頼れ"、ってさ。』 「えっ?智恵さんが……?」 急いで店を後にしちゃったから、 智恵さんが、そこまで気に掛けてくれていた とは知らなくて驚いた反応を示した。 …同時に、俺は一人で何とかしようと 突っ走り過ぎていたことにも気付かされた。 少しだけ、冷静になる。 「…分かった。 ありがとうございます。 って、伝えといてくれる? 俺、智恵さんの連絡先知らないからさ。 悪いんだけど…宜しく。」 好敵手といえど、そこまで親しい訳ではないから こんな風に伝書鳩扱いするのは ちょっと気が引けるんだけど…。 というか、二人はどういう繋がりなんだ? まさか、この人もあのカフェの常連だった? なんて想像するけど、そこまで訊ける余裕はなく。 (53) 2022/10/23(Sun) 3:34:23 |
【人】 楯山 一利俺の頼みに、向こうは快く応じてくれた。 『ああ、良いよ。 それより、本当にだいじょーぶ? あの子って…大会の時に紹介してくれた 隣人の子だろ?』 そう。半年前のブレイクダンス大会で チームメンバやこの人にも紹介したんだった。>>L3 この人にまで変な心配を掛けさせて情けなくも思うが 否定したところで、無意味だから 素直に「うん…。」と頷いた。 『実はさ……。 これ、高山さんにも話してないんだけど 俺、昨日会ったんだよ。あの子に。』 「……は? え?」 なんでこの人と、アイツが? 会ったってどういうことなんだ?と 混乱しているのを他所に、向こうは話を続ける。 (54) 2022/10/23(Sun) 3:35:29 |
【人】 楯山 一利『カズさんに内緒にしてくれって 口止めされちゃって……。 だから、連絡しなかったんだ。 でも、高山さんに伝言頼まれちゃったし なんか様子も尋常じゃなかったしさ。 黙り続けるのも、無理だなぁって。 …ごめん!』 ちょっと、何を言っているのか 理解が追い付かなかった。 そもそも、なんでアイツが この人と会ったんだ? 俺のチームメイトではないし…… って、ああ。そうか。 アイツはこの界隈の事をよく知らないんだ。 だから、あの場に居たこの人の顔を憶えてて……? それで、ストリートダンサー 一人一人を訪ね回って、探し出して……? (55) 2022/10/23(Sun) 3:36:30 |
【人】 楯山 一利「もしかしてアイツ……。 気ぃ悪くするような事言ってた? それだったらごめん。本当に……。 アイツ、ブレイクダンスにあんまり 良い印象持ってないみたいでさ。 なんにも知らない奴だから……。」 そんな想像だけで、相手に詫びを入れる。 でも、向こうからは意外な言葉が返って来た。 『あ〜。違う違う。寧ろ逆! 丁度、道端でダンスの練習してたところでさ。 カズさんがいつもどんな風に過ごしてるのか 教えて欲しい、って言われたんだよ。 でも俺たち、バトルぐらいしか会わないじゃない? だから普段のカズさんなんて知らないけど 多分、俺らと同じように 練習頑張ってると思いますよーって ダンスの練習風景、見て貰ってたんだよ。』 (57) 2022/10/23(Sun) 3:38:16 |
【人】 楯山 一利俺は、その話を聞いて 頭を強くぶつけたような衝撃を受けた。 ……アイツが? あんな喧嘩別れをした後で? ブレイクダンスを……。 俺の事を、知ろうとしてくれた……? アイツがそんな行動をするなんて 半ば信じられなかった。 『何があったか分かんないけど……。 早く、会えるといいね。』 そう言い残して、『じゃあ、バイト中だから』と 好敵手の彼は電話を切った。 (58) 2022/10/23(Sun) 3:39:18 |
【人】 楯山 一利電話で聞いた話が、上手く整理出来ないでいた。 …いや、受け入れるのが困難というべきか。 まさか、って気持ちが大き過ぎて。 俺はその場に立ち尽くしていた。 でもこの人がこんなウソついても なんのメリットもないだろうし…。 多分、本当の事なんだろう。 ただ、今日会えなかった事と 連絡が取れないことが、まだ結びつかない。 昨日ブレイクダンスについて聞いて 実際に練習風景を見てみたけど やっぱり、認められなかったってこと? ……分からない。 兎に角、アイツと話をしなければ。 (59) 2022/10/23(Sun) 3:40:49 |
【人】 楯山 一利再びアイツを探しに回ろうとしたところで 智恵さんからの伝言を思い出す。>>37 警察……は、まだ気が早いかな。 その前に、まずは親だ。 さっきはお袋さんに変な心配かけさせたくなくて なんでもないって電話切っちゃったけど 連絡があったかどうかぐらいは 聞いておけばよかった…。 そんな発想にすら至らない程 俺の頭は冷静なんかじゃなかったから 智恵さんと伝言をしてくれた好敵手に感謝した。 『あらカズくん。 まだあの子と一緒じゃないの? そういえば、1時間くらい前に "今日はちょっと遅くなる"って 連絡が入ってたわよ。』 …良かった。 と思うのと同時に、アイツが俺の連絡を 意図的に無視してたってのも分かって ちょっとしょげる…。 やっぱり、会いたくないって思われたんだろうか。 でも理由は依然として分からずだ。 (60) 2022/10/23(Sun) 4:02:26 |
【人】 楯山 一利『あの子も大人だし、 あんまり煩く言うつもりはないけど 遅くなり過ぎるのは心配だから…ね。 カズくん、宜しくね。』 お袋さんとの電話を切った後、 俺はふぅ…と安堵にも似た溜息を吐いた。 直近の安否確認ができて、少し不安が取れた。 あとは何処に居るか……だな。 また昨日と同じ目的で動いているなら 全く見当違いなところばかり探していたかも…。 かと言って、ダンサーたちの練習場所を 一つ一つ探し回るのは、つらいものもある。 (気候や状況によって変わることが多いから) (61) 2022/10/23(Sun) 4:02:52 |
【人】 楯山 一利とりあえず、手近なところから探そう…。 歩き出していたら、少し先に公園が見えて来た。 それは昨日、友紀さんと一緒に飲んだ公園だった。 昨日はダンサーたちの姿はなかったが 今日はもしかしたら……? 目的通りに動いていないとしても 未だここは見ていない所だし 一応、様子を見てみるか…。 俺は、その公園に真っ直ぐ向かう。 (62) 2022/10/23(Sun) 4:04:26 |
【人】 楯山 一利「亜由美───!」 急いで走り寄る。 俺の声が聞こえて、俺の姿を捉えたのか 向こうは一瞬身体をビクつかせて、俺の名を呼んだ。 『か、カズ……!?』 どうして此処に? そう驚いたような顔をしてるのが 分かるくらいの距離まで、近寄った時。 今まで募らせていた不安とか 鬱憤とか、苛立ちとか、怒りとか 心配とか、見つかった嬉しさとか …好きな気持ちとか。 全部の感情が、一瞬にして 訳が分からないくらいグチャグチャになって。 (64) 2022/10/23(Sun) 4:58:46 |
【人】 楯山 一利「お前……ふざけんなよ! 連絡ぐらい寄こせっつーの!」 拳を震わせながら怒鳴っちまった。 ああ、本当に俺ってバカだ…。 会えたら名前を呼んで、好きだと伝えたいって 思っていた筈なのに……。 またこうやって、強く言っちまうんだ。 でも、こうやってまた会えたことは嬉しかった。 何にもなくて、無事で本当に良かった。 「どんだけ心配、したか……。 分かってんのかよ。」 ああ、もっと他に言い方はないのか。 こんな時でも天邪鬼を発揮する自分に嫌気がさす。 ちゃんと伝えなきゃ、意味がない。 そう教えてくれた人の言葉を思い出し 冷静になれと、一息吐いて。 (65) 2022/10/23(Sun) 4:59:46 |
【人】 楯山 一利「……亜由美が。 無事で、良かった。」 素直な言葉を伝えた後って、とんでもなく恥ずかしい。 でもその気持ちに嘘はないんだ。 俺は、彼女を抱き締めた。 きっとガキの頃以来。 でも今は、あの頃とは違う。 好きな人にやっと会えた。 無事で居てくれた。その安心感と嬉しさ。 愛おしい気持ちを伝えるような抱擁。 伝わったかどうかは分からないが 彼女は俺を拒むことなく受け入れてくれた。 (66) 2022/10/23(Sun) 5:00:23 |
【人】 楯山 一利…そんな時、あの大会で紹介して貰った あの人たちを思い出して>>L3 本当に、今更ではあるけれど 少しでも歩み寄ってみた方が良い。と 普段の俺がどんな様子なのか知るためにも (俺に知られるのは気まずいからコッソリと) 一人で、ダンサーたちを尋ね回ったんだとか。 それでようやく見つけたのが、あの人。>>54 話を聞いて、ブレイクダンスの 練習風景を見せて貰って>>57 やっぱり……と 自分の過ちを再認識したのだとか。 そして俺からの「会えない?」と連絡が来た時>>2:*0 『わかった』と返事はしたものの>>2:*5 もう俺と合わせる顔がないな…と 強く思い始めていたらしい。 (69) 2022/10/23(Sun) 5:31:55 |
【人】 楯山 一利いよいよ今日になって 会うのも怖気づいているし。 もう俺から連絡が来ても反応しないで このままフェードアウトを決め込もう。 と思っていたのだとか。 (まぁ親同士付き合いあるし、家も隣同士だから すぐに全部ってわけにはいかないけれど 近いうちに独立しようとも考えていたのだとか) 「……………。」 俺は、最後まで黙って 彼女の懺悔にも似た告白を聞き届けた。 (70) 2022/10/23(Sun) 5:33:42 |
【人】 楯山 一利話を聞いて、やっと色々と腑に落ちたのだが。 それでもやっぱり、いきなり無視は酷過ぎる……。 せめて会いたくないって連絡くれよ。 余計な心配掛けさせやがって…。と 恨み言を言ってやりたくもなったんだけど 「……確かにさ。 何も知らない癖に!って ムカついたこともいっぱいあったよ。 でも、考えてみたら 俺だって……。 何にも伝えられてなかったんだ。」 ブレイクダンスへの熱意も。 お前への、気持ちも───。 お互いちゃんと言葉に出来なかった故に 起きてしまった、"すれ違い"。 言葉にして伝えるだけでよかった。 …簡単なことだったのに。 それさえも出来なかった。 (71) 2022/10/23(Sun) 5:54:50 |
【人】 楯山 一利「もっとちゃんと、真剣にダンスやってる って、俺も伝えるべきだったんだ。 ……だから、俺もゴメン。」 もう二度と、そんな過ちは 繰り返したくないから。 素直な気持ちを言葉に乗せて しっかりと、彼女に謝った。 (72) 2022/10/23(Sun) 6:02:14 |
【人】 楯山 一利「"好き"───なんだよ。 ……亜由美のこと。 姉ちゃんとしてじゃなくて。 一人の、"女の子"として。」 俺の告白を聞いて、彼女は目を見開いた。 お前にとって予想外の言葉だったのか、 それとも別の意味だったのかは 読み取ることはできなかったから。 「亜由美は……? 俺の事、どう思ってんの?」 やっぱり"弟"みたいな存在なのか。 少しは異性として見てくれてるのか。 お前が俺に抱いている気持ちを知りたくて、 でも不安も隠せないまま訊ねた。* (74) 2022/10/23(Sun) 6:32:34 |
【人】 室生 悠仁某日、パンプキンタルトの美味しかった店にて。 俺は一人、まだこの店で食べたことのないメニューを 注文するため、カウンター席に座っていた。 時間は前と同じように休日の少しピークから外れた頃。 人が多いのもそこまで気にならないほうだが 今日は静かに食べたい気分だった>>12 デザートだけでなく、きちんとした食事を摂るため 昼食を食べることなく来店したものだから 俺の胃袋は空腹に鳴き声を上げている。 泣いた子どもをあやすように、腹をひと撫ですれば SNSを見て既に決めていた本日の昼食予定のメニュー ジャック・オー・ランタン≠、 やって来た店員に注文するのだった。 (75) 2022/10/23(Sun) 9:40:19 |
【人】 室生 悠仁先日、俺は愛しの彼に告白して振られた。 とはいっても、当初は振られたといえるような はっきりとした言葉を貰えていなかった。 彼の態度として俺がそう察知していただけで 曖昧なまま話が進んでしまっていた。 だからあのあと、きっぱりと気持ちに 蹴りをつけるため、改めて言葉にしてもらうことした。 「 この先、未来を考えても 俺の方を向かないというのなら きちんと振ってくれ。 」 涙で濡れた声で言うには少し恥ずかしかったが 泣いてすっきりしたのか、淀みなく声を発せたと思う。 (76) 2022/10/23(Sun) 9:40:32 |
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