【人】 住職 チグサ── 回想:いつの日かの本堂にて ── 我昔所造諸悪業 皆由無始貪瞋痴 従身口意之所生 一切我今皆懺悔 さんげもん [懺悔文は、よく唱えられるお経の一つです。 それだけ重要だからではありますが、お経のままでは意味が分からないでしょう。 短いお経を三回繰り返した後に、私はお集まりいただいた皆様に向き直りました。] 仏教の開祖であるお釈迦様は、人の心の仕組みを解明されたお方です。 お釈迦様は、苦しみとは自身の煩悩──つまり心が生み出した妄想であり、煩悩を捨て去ることによって涅槃寂静、すなわち究極の安心を得るとされました。 さて、百八もあると言われる煩悩のうち、代表格となるのが貪、瞋、痴です。 とん 貪とは、むさぼり、必要以上に求める心。 じん 瞋とは、怒り、憎しみ、妬みの心。 ち 痴とは、おろかさ、愚痴、無知。 仏教では、これらを心の三毒としています。 毒です。この毒は己自身を蝕みます。 己を守るために、できるだけ早く捨ててしまいなさいと繰り返し説かれました。 (66) 2022/11/08(Tue) 6:06:17 |
【人】 住職 チグサ ですがどうでしょう。 これらの心を、本当に三毒だと思われますか。 欲しいものが手に入らなくて苦しみ、 理不尽な扱いへの怒りにのぼせ、 己の立場で物事を推し量っては悪口をおっしゃる。 これらの三毒に苦しみながらも、どこかで自分は正しい、間違っているのは相手であるのに何故分かってくれないのだと、そのように思ってはおられませんか。 そうであるからこそ、三毒を手放せずにおられるのではありませんか。 本当に三毒であると──己を殺しかねない危険な感情であると。認識しておられるならば、一刻も早く手放そうとするはず。 毒ではないと思っておられるから、後生大事に抱え込んでしまう。 (67) 2022/11/08(Tue) 6:07:59 |
【人】 住職 チグサ 三毒は炎のようなもの。燃え盛れば、あっというまに勢いを増して自らを包み込みます。 どうぞ、自身の三毒を、ありのままに見つめ、御仏に告白してください。 けれど三毒を評価してはいけません。こんなことを考えるから自分は駄目なんだとか、私の中に生まれたこんなに多くの苦しみはあいつのせいだとか、そのような評価をすれば、ますますご自身が苦しくなります。 だから何も言わず、ただ黙ってそこに居てくださる御仏の前で告白をするのです。 自分の中の欲の火種を見つめることで、炎は燃え広がることなく収められます。 そのようにして、苦しみは自ら制御せねば。 [かつて、そのように説いたこともありました。 けれど── 既に炎に呑まれてしまった方々に、説法とはなんと無力なことでしょうか。]* (68) 2022/11/08(Tue) 6:10:47 |
住職 チグサは、メモを貼った。 (a14) 2022/11/08(Tue) 6:13:01 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[燃える、燃え行く、二十余年の記録。 彼は知った、故に物証に意味はなく。 彼は去った、故に発明に意義はない。 炎の立てる音、建材の崩れる音。 灰と化す調度品の数々、過ごした時間、 何度没収されようと密かに組み上げて来た魔道具たち、 幾度となく読み返した書物、擦り切れたペン、 母が編んだ衣服、「兄」と交わした手紙。そして。 取り残された肖像画、その柔らかな瞳が 愛する我が子の罪を見据え、見届け、燃え尽きる迄。] (69) 2022/11/08(Tue) 7:52:50 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[それは奇しくも、若き日のブランドンが 密やかに暮らしていた宝石の魔人の集落を焼き、 最も美しく無知だった女を連れ去った日の光景と 何処までも告示していた。 ────老いた男は溜息を吐く。 それですら少年の仕草とよく似ている。] (70) 2022/11/08(Tue) 7:53:03 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[一片の情も無かったのなら、 初めから人権を与える事もしなかった。 我が子であろうと家畜の様に育てた事だろう。 何処からが過ちだったかなど、遡れど限がない。 唯一分かっている事は、人間のエゴが引き起こしたこと。 魔人達の信仰心を根こそぎ折り砕き、神を殺した。 研究に従わない者は心臓の石を奪い、滅ぼした。 その過程を記し、最後の生き残りを連れ去り、 合の子を産ませた挙句、生殖能力を奪う事で 無知だった女の、世界の全てを掌握した。 己の罪と向き合うのは恐ろしかったが、 それ以上に、我が子が成長する程に 知性、感性、その全てにおいて 想定外の変化を重ねるのが不穏でしかなかった。] (71) 2022/11/08(Tue) 7:53:20 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[見目の変わらぬ母子を別邸に閉じ込め、 新たな妻と血の繋がらぬ子を迎えた。 何年も掛けて世間にカバーストーリーを流布し、 あの恐ろしい母子の存在感はすっかり消えた。 そうまでして漸くこの地位に登り詰めたのだ。 そこまでしたのに『人間』の儘にしておいた事が、] 「 ……矢張り、失態だったろうか。 」 (72) 2022/11/08(Tue) 7:53:36 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[学星院の低階層では混沌が広がり始める。 階級の低い職員達がこの下界へと送り込まれ、 その上で遠隔操作により結界を取り払われた。 とどのつまり、彼等は悪影響を恐れた指導者により 『学星院も被害者である』という名目を作る為の 尊い犠牲となったのである。] 「 明日が来れば、明日が来てしまえば。 どれだけ輝かしい実績を得ようとも、 最早こうなっては追及は避けられぬ 」 [奴等は目的を果たしただろうか。 外部からの介入までどれ程の猶予があるだろうか。 それまでに消しておける火は如何程か。 初めから狂っていた機関は、 既のところで選択を誤らない。] (73) 2022/11/08(Tue) 7:54:09 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[ブランドンの瞳には燃え落ちていく建物が映る。 懐かしくも忌々しき、偽りだらけの家が。 夫人は美しく、柔和で人畜無害な人柄だった。 子息は今日この時まで息を潜めていた。 暴動によって焼かれたと説明するには、 余りにも不可解で、動機が薄すぎる。 何を支払えば、何を犠牲にすれば、 引き続きこの叡智の為の研究を続けられるだろう。 覗いたレンズ越しに既に息子の姿はなく。 階下から響く絶叫や嘆きが狂気の感嘆に変わるまで、 耳を塞いだ。] (74) 2022/11/08(Tue) 7:54:29 |
【人】 住職 チグサ── 夕刻の鐘の後:境内にて ── [梵鐘の柱に、 印 を見つけました。私は、この島を売った賊ですから。 売国の罪は私の独断です。寺院は知らぬこと。 いえ、少々の協力者程度は居たでしょうか? ここもまた、結界の保護の対象とされておりました>>0:57。 賊に隠れ蓑を差し出す代わりに、慈厳寺は欲の炎や暴徒の襲撃から逃れられるのです。 そうして、暴動が終わった後、難を逃れたこの寺は、霊験あらたかな寺院としてますます大きく、地位を確立していくのでしょう。 御仏が、まがい物の神になってしまう。 私は路傍の石を拾うと、その柱の印を、削り壊しました。] ほうげじゃく ……放下着。 [全ての執着を、捨ててしまえ。] (76) 2022/11/08(Tue) 20:48:16 |
【人】 住職 チグサ[街から隔絶された寺院でありますから、日が落ちると、灯はごく最低限になります。 ぽつぽつと立ち並ぶ石灯籠が、夕闇の中に朧げな明かりを写していました。 一歩、一歩と歩きなれた道の歩みを進めるうちに、伽藍の影が見えて参りました。 僧達の住まう庫裏や、ご本尊様のおられる本堂。 それらも、あの印が守ってくださっております。 私は庫裏の後ろに回ると、印を打ち消すべく、石を握りしめました。 放下着、と呟きながら。 今は夜のお勤めの時間です。 本堂からは、誰かの読経が聞こえてきました。] 『 しょあくまくさ 諸悪莫作 しゅぜんぶぎょう 衆善奉行 じじょうごい 自浄其意 ぜしょぶっきょう 是諸仏教 もろもろの悪を作すこと莫く もろもろの善を行い 自ら其の意を浄くす 是がもろもろの仏の教えなり』 (77) 2022/11/08(Tue) 20:49:24 |
【人】 住職 チグサ[──何かが落ちる音がしました。 きっと、手のひらから石が滑り落ちた音だったのでしょう。 しばらくの間、呆けたように夜風に老躯を曝していました。 自分が立っているのかさえ、よくわかりませんでした。] 『どなたかおられるのですか?』 [ふと、庫裏の障子に小さな影が映っていました。影から伸びる手は障子戸にかけられ、今にも開かれそうです。] 出てきてはなりません! [思わずぴしゃりと𠮟りつけました。] 『……お師匠様?』 [まだ幼い声に、精一杯毅然とした声で答えました。] 街で騒ぎが起きているようです。 自らの身を守ることに徹し、決して出てきてはなりません。 ですが、お寺を頼って来られた方があれば、必ずお助けしてさしあげなさい。 [ああ──と。 自分自身に深く落胆しながら、私は踵を返しました。 放下着。全ての執着を捨て去ってしまえ。 けれど私には、この寺院を捨てることができなかった。 他人の死であれば、予測はできても手を貸せた。 にもかかわらず、身内となると、この手で死の因を作ることができなかった。 なんと浅ましい利己心でしょう。] (78) 2022/11/08(Tue) 20:50:57 |
【人】 住職 チグサ[捨てられぬのならば、自我を抱えたまま立ち去るしかありません。 白い尼頭巾を外し、赤い呪布を巻き付けると、私は街へと歩みを進めました。 甘く腐った匂い。その中に、きな臭い嫌な臭いさえ混じっています。 歩みを進めるにつれて、私は突き付けられるのでしょう。己がしでかした事の大きさを。]** (79) 2022/11/08(Tue) 20:51:37 |
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