69 【R18RP】乾いた風の向こうへ
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[その名前に、びくりと身体が硬直する。]
「イスハークのお前への執着の仕方は昔から
際立って歪んでるのは皆も思ってたさ
お前がちょこまかと鼠みたいに逃げ回るのが
面白いんだと思ってたんだが……。」
ひ、ひど……
「はっは!助けてたし良しとしてくれ!」
[彼にとって俺は支配しにくいのだろう、と。だからより追い詰める必要性に迫られている。従者を連れてきた事でこれまた恰好の餌食となるのだと。
イスハークにはダレンが、ハールーンを支配するための手頃な駒に見えている、と、そう分析された。
関係ない人間になれば流石に危害は加えたりしない、なんてのは悠長に思えてきた。そうだ彼は兄を殺した──
もしかしたら、父だって。
]
「だからむしろ離しちゃいけねんだなァ。
『従者』を、最後まで護ってやるのも
主の務めと、俺ぁ思うぜな。」
「で、だ、な。話を続けるが、
ちょっとした非常事態、は出国制限まで
広がってんだ。一応、火種になってたものは
解決したんで数日で解けるだろう。
だがハールーン、お前は無理かもしれない。
前に国から出したときの偽装手形も使えん。
波長帯域が違うから、お前の魔具では他国には
飛べないのは知ってるよな。
転移装置は王宮にしかないが、今は護衛付きで
閉じている。
向かう先によっては、俺の飛空艇で
任意の国まで輸送してやってもいい。
数日を待てるならそれもアリだぞ。」
[この兄には、自分の心境を知られているのかと少し怖くなる。
──『この国では幸せになんてなれない』事を。
隣のダレンを見る。信じていい、のだろうか。]
.
…………アンタル、イスハークに怒られない?
[下手なカマのかけ方だと思うけど、もし二人が繋がっていたら違和感が拾えるかと思い、半分正直に気になっていたトコロを質問で投げてみれば、恐ろしく豪快な笑いに吹っ飛ばされる勢いだ。]
「確かに〜? 俺の〜? ……力の半分は、
亡き皇太子からのお下がりだがよ……くくっ
もしかして俺があんなヒョロ長の海藻野郎に
敗けると思ってるかァ〜??
──まぁ同じ土俵で戦やァ敗けるだろな。
俺には『支配すること』はコストがかかる
奴には『信頼』がそうだろう
得意な分野が違うってだけだ。
大丈夫、そうそう敗けねェぜよ。」*
.
[ 小さなピヤールに倣って
足音を立てないように歩こうとするが、
持ち主の言うことをなかなか素直に
聞かない足は勝手にふらついたりするので
なかなか大変だった。
幸いだったのは、枷がなかったこと。
迷子のはずの彼女は、すいすいと進んで行く。
都合の良い迷子だ、と、
身体の辛さに反して口元は柔らかく
緩んでしまう。
辿り着いた先に、綺麗に準備された
装飾品や外套をも紹介されれば
今度こそはっきりと笑い声が漏れて。 ]
用意周到ですね。
[ 手早くそれを身に纏う。
良い生地の首元を合わせれば暖かく、
不思議と背筋が伸びる。
嘗て祖国に居た頃の記憶が
じんわりと蘇るようだった。
どれくらいぶりだろうか。
扉の向こうは、外。
月がある。
夜の帷があたりを包む。
風、熱気、生活の匂い。
活躍する機会が無くなっていた五感が
いそいそと動き出し、
ひりひりと神経の存在を訴える。 ]
[ 屋敷から少しずつ離れたのが分かれば
通り添いの壁にとすん、と背を預けた。 ]
……この国の城下町に出るのは、初めてです。
こんな時間にも、開いている店はあるのですね。
[ 荒む息を整えながら、辺りを見渡す。
良い国だと思った。
今は、荒れていて尚。
口が乾いて、気管がぜいぜいと音を立てる。
水は貴重な国なのだろうか、
自由に使えるような井戸があればな、と
荒れた唇を舐めた。
足元には、澄ました顔でピヤールが座っている。]
─── すみません、お礼を言うのが
遅くなった。
何から何まで、世話をかけるばかりで。
[ ふと我に帰れば目を伏せて。
当面、何処かに出るにしても、
金が必要なのは世の常。
彼女に抜かりは無いのだろうと思いながらも、
水ひとつ自分では手に入れられぬ申し訳無さに
情けない思いはどうしたって生まれるけれど。]
このまま何処かに向かいますか。
何処へでも、あなたとなら。
あ、ピヤールもね。
[ そっと、月明かりの下、白い腕に触れて。]*
[「帰りたい」
ぽろりと出た言葉から、涙の意味を悟る。
攫って逃げでもしたら、彼の気が咎めず自由の身になれるだろうか──なんて柄にもないことを考えて。
そこへ現れたアンタルには緊張が走ったが、少なくとも今は味方であるらしい。
そうして、かえって己の身が主の枷となっていることにダレンの表情は僅かばかり暗くなった]
[ アンタルが説明する事情を聞いて、これは渡りに船ではと思いながら隣に視線を向けると、ちょうど目が合った]
……共に、この国を出るかい?
帰ってくる理由がなかったのなら、
出て行くのに未練も無いということだろう。
[「ハールーン、お前は無理かもしれない。」
アンタルがそう言うのは、共に亡命できるよう計らってくれる、ということかと解釈した。
数日かかるのもかえって都合はいいと言える。
買い込んだ食料をそのまま置き去りにするわけにもいかないだろう]
[海藻野郎だとか不良債権だとか、よくもそういう蔑称が思いつくものだと苦笑しつつ。
イスハークとアンタルはあまりにタイプが違うし、目指すものも異なりそうで、言うとおりライバルなのだろうと解釈した。
共謀して陥れるなら、もっと簡単な瞬間がさっきあったのだから]
亡命の手引きをして、
貴殿の不利にならねばよいのですが。
王位を継ぐおつもりでしょう。
[有利不利という話になれば、それこそハールーンには婿入りでもしてもらうのが平和に暮らせる道のひとつなのだろうけれど。
それは彼は望まないと、よくわかってしまった]**
街に行くときに、外套を身につけて
その日につけていた装飾品を偶にここに残したの。
来ないかもしれないけれど、
こうやって逃げ出すかもしれない日の
支度金として、ね?
[ 用意周到と言われてしまえば、
ふふん、と明るい声で答えた彼女。
侍女たちだけが知る場所だから
彼女たちは先にあの屋敷から出ている。
アウドラがこっそりと衣類を
何かに使えたら、と渡しているので
少しの間は大丈夫なはず。 ]
私も、初めて見るわ……
こんなに賑やかなのね、街は……
[ 彼が動けるように適宜休憩をとりながら
賑やかな方へと向かって
腰を下ろすことが出来て尚且つ
何か食べられるものがあるところを
目指すことにしていた、彼女の中で。
彼が時折むせているのが目に着いたことで
飲み物がなかったことに気づいた。 ]
動くためには食事をしなきゃ…
大丈夫、この場所を出た後は
私があなたにお世話になってばかりに
なることが目に見えているから。
今だけは私が頑張るの。
[ 彼がお礼を言えば、
ふふっと笑って首を横に振った。
まだこの中なら彼女はなんとか生きていけるけど
ここを出てしまったらもう、
彼女は無知を晒してしまうから。
彼の手が腕に伸びればそれに手を重ねて。 ]
もう少しで、着きますから。
何か飲みましょう?
私、貴方に会うのに今日はどちらも
持たずに会いにきてしまったから。
[ ピヤールは、付け足しのように言われたのが
少し気に入らなかったのか、
すたすたと先に行っているようだけれど
偶に止まってはちらりと2人の方を見て
すたすたとまた歩き出して。
彼女はふふっと柔らかく笑っていた。
拗ねているようにみえて、可愛く見えたから。
お店にたどり着けば、お水を、と
お願いをして手前の席に入れてもらったはず。
ピヤールもいるので、奥の席は諦めた。
あまり煩くもなく、落ち着いた店だから
彼にも気に入ってもらえたらとちらりと
視線を彼へと向けたことだろう。 ]*
─アンタルの視点から・宮殿内─
……なぜそんな事を訊く?
[それは他愛のない質問だったろうか。それとも『主人の兄』である自分への気遣いというものか。
意図はどうあれ、敢えて声色を落として返答を。調書に拠れば──いや、自己紹介があった通り、兵士であったという彼なら──察知するものがあるか。否か?]
俺は元々ウスマーンに付いていたから、
それを引き継ぐ形でまァ、争って居る。
兄貴の嫁さんらや子供も居るしな。
彼女らをみすみす殺させる訳には
いかねェってとこだ。
ただ……ハールーン、お前を守りたいと
思ったのは本当だよ。
……お前の様な人間が、近くに居てくれる
のは支えになるってもんだ。
[弟に何かしらの情は抱いているだろう従者は、この言葉から何かを得るだろうか。]
.
[──本当は近くで飼えたなら良かったが。
厄介な"兄上様"が抱く、無意識レベルでの愛情の発露が何を引き起こすかが読めず、殊更に面倒臭くなるのを懸念し、一旦引き剥がすのが良いと思案した。
輸送を兼ねて潰しても構わない。そして、奴につけ入る隙を作ってもいい。だが、まだ始まってもいない戦いだ。手札として使うのは今では無い。]
(そもそも自分自身が毒の塊になる様な不器用な奴が、長生きする訳は無いんだよなァ?)
[ "正直、力になって欲しくはあるが、愛弟を守り抜く覚悟の人間"、が放つ笑顔を作る。
さて、弟達はどの手段を選ぶだろうか。何方にせよ何処へ向かうにせよ──こちらの手中だ。]
アルスラーンも俺が守るし、心配するな。
*
[ アンタルに問うた言葉は疑問を与えてしまったらしい。
失敗したか、と思いながらも返答を聞いて]
……なに、本当に善意かを推し量れるかと
思っただけですよ。
[力を貸すふりをして自分の都合のいいように使う──そういうことが無いとも限らない。
が、この話しぶりならどうやら本当に信用してよさそうか、とダレンは見当をつけたのだった。
それならば力を貸してもらって、国外に出してもらおう。
その先いかに追跡を逃れるかは、国を出てから考えよう。
ダレンは内心でそう結論を出して、主──国内にいる間は主と扱うことにした──のほうを向いた]**
(ダレンと離れなくてよくって、この国を出ていける……?)
[交わされる二人のやり取りを眺めながら
、『共にこの国をでるか?』という言葉を反芻していた。
イスハークの存在に一抹の不安はあったものの、アンタルからかけられる言葉は自分に勇気をもたらしてくれた。あの小さな弟も、この兄に任せておけば安心だと思える。
ダレンから注がれる視線を感じる。きっと彼の答えも自分と同じものだ。]
アンタル……ありがとう……
お願い、します。
[目を合わせて、しっかりと告げれば、いつものあの笑顔で。
差し伸べられた、その手を取った。]
.
| 出国制限とは、第4皇子の行方不明に由来していた。皇太子殺害の日から姿を見たものが居なかったが、先刻見つかったと、街の話題になっていた。
その発見は『最悪な形』ではあったが 情報通り、数日後には出国制限は解ける。
王宮の護衛は国軍に混じって、第2皇子の兵と宙に浮いた第4皇子の兵の衝突があるとも聞く。
転送装置は使えないと考えた方が良い。 この国を出るならば、アンタルの輸送機を借りる事になるのだろう。
. (23) 2021/04/24(Sat) 18:06:00 |
[無事に別宅に戻れば、空はもう夜色になっていた。
数時間前とは何もかも状況が違っていて、心の整理がつかないまま、食べておかなくちゃいけない食材をある程度形にしやすいように仕込む。
出来れば日持ちする菓子類にしようと、ぼんやり考えていた。]
(この国を、出るんだ……ダレンと一緒に……)
──ぇえ…………?
[何度考えても、心がついていけなくて思い返しては手で顔を覆った。状況を整理するほど、あの恥ずべき行為
に思い当たりそこで思考が止まり、無心で食材を仕込んだ。その繰り返しを、している。
全部伝わってしまったのだろうか。
いや、伝えたかったのはやまやまなのだが、もう二度と会えなくなる覚悟でいた先刻とは状況が違う。
改めて話した方が良いのか、話すべきなのか、悶々としながらいたら、うっかり指を切ってしまった。思わず刃物を床に落とす。]*
.
[無事に主の別宅に帰り着いた後は、保存食作りを手伝っていた。
数日分の弁当代わりになれば、どこの国に行くことになってもその先でなんとかなるのではないかと。
しかし任意の国と言われたからには、どこか望ましい国を見つけなければならないだろうか。
この国の動乱に巻き込まれることのない国が良いだろうが、ダレンがパッと思いつく国はなかった。
ダレンの祖国はそれなりに平和だが、そう遠く離れているわけでもないように思う。
できるだけ遠い国がいいのでは。
しかしあまりに文化が違いすぎても困るだけだろうか]
[どうしたものかと考え込んでいたら、刃物が床を鳴らした]
ハールーン殿!?
[弾かれたように音の出所を向き、そのまま飛びついた。
主は指を切っただけのようだが、傷の深さはどれほどだろう。
傷に一番近い関節を押さえて、傷口を心臓より高く掲げる──そんなシンプルな止血を試みようとすれば必然的に主の手を握り締めることになるのだが、果たして手を任せてはくれるだろうか]*
[上の空だったものだから、だいぶ横着をしていた。黄色く柔く熟したフレッシュデーツを手のひらに乗せてナイフで雑に切り分けていて。
力加減を間違えた拍子に、左手の人差し指から中指に渡って、第二関節と付け根の間の肉を割ってしまった。
感じた痛みから想像していたよりも流れる血の量が多くて驚いたのだが、それよりも。
──どう考えても止血の為だと解っていても、手を握られてるこの状況に先程の自分の行為のフラッシュバックを禁じ得ない。
顔に血が上るのを感じて目を逸らすと、艶めいた板張りの床にポツポツと赤い斑点が拡がっていく。これは恥ずかしがってる場合じゃないかもしれない。]
──ごめん、思ったよりやっちゃった……
[赤面しながら、バツの悪そうな上目遣いになるのは、まともに顔をみられないからだ。いろんな意味で。]
.
治癒系の魔法具とかあったら良かったんだけど
……結構高価なんだよね。
というか、怪我なんてあんまりしなかった
からその必要性を考えた事なかったな
こういうトコ、俺って『皇子』だよねぇ
手当の仕方とか全然わからないや……
執事試験の為に色々教わった筈だったんだけどなぁ
[医療セットをダイニングのテーブルに置きながら、手当をダレンに任せた。いろんな種類の羞恥が混ざって、いつもより饒舌になる。
ダレンは兵士だったし、こういった医療行為は日常の一部だったろうか? 手際は良いのだろう。
そして着々と進めていくその『手』を、どうしても意識してしまうのだ。
──ああ叫び出したい。叫び出したいあまり、余計な一言が口をついて出た。]
あの、さっきは、ごめん。変なことして……
*
[傷口が第二関節と指の付け根なのを目に止めて、主の手首を強く掴んだ。
血管を圧迫するためではあるが、血を滞らせすぎないように手の血色には注意を払う。
手の高さを主の顔より少し高いくらいに保って、血が流れ落ちるのが止まるか見守り続けた。
無事に瘡蓋ができたなら、旅の荷物に入れて持ってきた薬で手当てをするだろう。傷の化膿を防いで治りを早める、薬草由来の塗り薬だ。
ダレンの祖国は魔法具は庶民にまでは普及していないが、代わりに薬草学は古くから根付いていて、庶民でも平易なものは使いこなすほどだった]
[無言で手当てをしながら主の話を聞いていたが、表情を見る余裕はあまりなかったかもしれない。
だが、謝罪の言葉を聞くと、ぴくりとダレンの手が止まった。
あのとき主にされたことを思い出すと無性に気恥ずかしくなって、頭の隅に追いやろうとしながら]
あまり気にしないでくれたまえ……。
……それよりも。
今日は料理も荷造りも終いだな。
動かして傷が開いてはいつまでも治らない。
[話題を逸らしたわけではないが、必要と判断した話に切り替えた。
傷薬を塗り終えた後は、傷口が開かないように指を包帯で固定して]
傷口を縫える医者か、塞いでしまえる魔法使いがいれば
動かすくらいはできるだろうけれど。
魔法具は高価なのだったな……。
[まずは軍隊がほしがるものだろうから、傷を癒やす魔法具が値が張るのは頷けた。
魔法であっても傷を完全に癒やせるのは相当に高位で、大抵は応急処置程度の効力のはず。少なくともダレンの知識にある治癒魔法はそうであった]
……国を出る前に、王家の息がかかっていない
魔法具がほしいな。
[どう探せば手に入るものかはわからないが。
国内ではどこでどう皇子たちの手が回っているかわからない。
アンタルの様子を見れば、市場の店は性質によらず彼の支配下の可能性があった。
彼は今のところ友好的だが、この先もそうとは限らないだろう。
住宅街に店を出しているアレフシルバーはどうだろうか……そう思い浮かべながら、主の様子を窺った]*
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