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【人】 征伐者 ヴィルヘルム『他の国家の如何なる法もこの地では無効。 敵意を持たない対象への攻撃は許可しない』 [ いつか戦争が始まる前に敷いた則。 其れは実質的には彼女を保護する為の決まり事で。 獅子の御旗は定めた獲物以外には靡かない。 ────たとえ国際的な指名手配であったとしても。 ] [ どれ程冷たく過酷な闘争であったとしても、 生命の証明は、体温と鼓動は変わりなく其処にある。 本来なら死に至る運命を幾度となく捻じ曲げ、 “違和感の無い程度”に書き換えられた筋書きは 何もかもが悪魔の筋書き通りであるが、 同時に約束を確実に守る動因となった。 床に落ちた黒髪を受けたばかりの雨粒が伝う。 揺れる度に張り付いては触れたものを しっとりと濡らして行くのが擽ったい。>>109 ] (114) 2020/12/04(Fri) 2:14:03 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 碌に身動きの取れないまま放り出されれば、 自ずと暖炉の火に近づく事になる。>>110 気付けば窓はいつの間に閉められていて、 寝室は暖かな空気と橙色の光に満たされつつあった。 ] 四年闘って無傷で済む戦士が居ると思うのか……? だとしたら其奴の度胸を疑った方が良かろうに。 [ 結局、再会して初めてのまともな返答は いつかの日にも似た憎まれ口になってしまう。 回り始めた思考は傷の手当だとか、祝杯だとか、 先程浴びた湯を従者に沸かし直させる事だとか、 ────考えたその全ては再び何処かへ葬られた。 ] [ 漸く平常に戻りつつある視野が最初に捉えたのは 揺れる火に照らされ浮かび上がる女の肢体。 末梢や頬、背と尾を除いてヒトの形を既に取り戻し、 この身を覆い隠す形で寝台に膝を乗り上げていた。 ] (115) 2020/12/04(Fri) 2:14:44 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 艷めく鱗と同じ色合いをした髪が首筋に描く線が、 宗教画じみた非現実的さを孕んでいたものだから。 ] ────おい、 ………… ( 今、“月に頼らず”と言ったか? ) [ その行動に異を唱えようとしていた唇を閉ざした。 壊れ物を扱うかの様に触れた掌は恐ろしいほど冷たく、 同時に零された言葉は最早意味を成してはいない。>>111 安堵の意味を思考し、 手繰り寄せた結論は酷く苦しいものだった。 ] ( 温かな家庭で得られる幸福の選択肢を蹴り、 同胞も、名誉も、故国も、居場所でさえも投げ捨てた。 お前が自ら望んで獣に身を窶す程に、 この 約束 は重かったのか。 )[ 中和されるかのように肌は冷えて行くと言うのに、 長き戦に凍り付いていた情緒は溶け出し始める。 ] (116) 2020/12/04(Fri) 2:16:09 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム( 立場が異なるからこそ、 同情は叶っても共感は出来ぬ。 だが、憐れみに混じる喜びに似たこの感情は何だ? ……奴は血に染まるのが喜ばしい、 これまでの復讐相手とはまるで違う筈なのに。 ) [ ────不理解。空白感。 掴み所のない感情の出処を知らないのは 彼が精神的充足と共にある『恋』を 経た過去がまるでないからだった。 ] (117) 2020/12/04(Fri) 2:20:56 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム 守るべき平民 [ 唯の田舎娘にそこまでさせる程の呪いを投げ掛けた。 互いに律し、戒め合ったこの運命は 漸く終局に差し掛かろうとしている。 戦を終えれば、心を奮い立たせる理由も 慈悲や情けを殺して埋める必要もなく。 奇運に振り回され続けた少女のこれまでを思えば、 ] ■かな■り ( せめて安らぎを、と思わずには居られまい。 ) [ いつかの様に凭れ掛かる身体を受け止めて、 “今度は”紛れも無く自らの意志で華奢な背に腕を回した。 体長の半分はあろうかという尾が 応えるように巻き付けば、体温は更に奪われる。>>112 ] (119) 2020/12/04(Fri) 2:21:55 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 微かな震えが起こるのも厭わずに、 唯々凍え切った身を温めようときつく抱き締めた。 濡れて張り付いた衣服の残骸など投げ捨てて、 人と獣の合間に在り、倒錯的ですらある肉体の 薄い肩をさすっては、髪を梳いて退かしてやる。 ] ……幾ら祝賀とは言え、女など頼んでおらんわ。 ( お前はもう“物”から脱却したのだから ) [ ずっと前に教わった抱き締め合う事の喜びを実践し、 やはりと言うべきか、突っ慳貪に吐き捨てたのは 彼なりの“逢いたかった”の感情表現だった。 ] (120) 2020/12/04(Fri) 2:22:19 |
【人】 征伐者 ヴィルヘルム[ 縛り付けられて来た心が、愛されなかった子供が、 本当は心の中で何を求めていたのか。 其れを表現する術を持たない儘触れ合って、 名前も知らない“与え与えられる喜び”に溺れていく。 枷の外れた心は二十余年未知だった領域に踏み入っても もう、どんな恐怖を覚えることもなかった。 ……総ては雨の降り頻る、長い夜の秘め事の中に。 ]* (121) 2020/12/04(Fri) 2:23:48 |
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