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【人】 碧き叡智 ヴェレス[ほんの少し前にも問題が起きたとは露知らず、 いつも通りくるくると働く女給>>0:30の背を目で追って 何となしに、向かいの席に問い掛けた。] ……して、貴方もさ。 此処に移り住んでからそれなりに経ったでしょう。 同僚や友人とは上手くやれている? [“それだけが今後の心配事なんだよね”なんて笑う。 食後の薬を飲む彼の身分は保証されている。] 不正な移民とも、既に忍び込み息を潜めている 略奪者達とも違って。 だけど、一部の人間に色濃く残る選民思想が 何を引き起こしたのかを我が身で知っている己からすれば 彼の行先を案じずにはいられない。] (111) 2022/11/09(Wed) 23:18:46 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[周囲の人に恵まれているならそれで良い。 だが人々がその本性を解き放った時、 心の奥底に眠っていた差別感情が 彼を害さないとも言い切れなかった。 言えない事が、これからの計画が山程あって。 それを話せばきっと彼は止めようとするだろうから。 どうなるか予測出来た上で、道を分かった。 何も言わずにいつも通り、“またね”と別れた。] (112) 2022/11/09(Wed) 23:18:58 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス(もしこの先、褒められるべきではない理由で 彼の本心を聞くことが叶ったとして。 僕達の間に不可逆的でない友情があると 証明されてしまう事が何よりも恐ろしく、つらい。 どこまでも打算的な自分を受け入れてくれと 打ち明ける事ですら非道に思えて、実行し難い。 貴方は計画に関係ない。関係ないからこそ、 明かす事も守る事も叶わないから。) 立つ瀬がなくなったら、一緒に終わってあげても良いけれど────…… (113) 2022/11/09(Wed) 23:19:17 |
【人】 碧き叡智 ヴェレス[エール酒のボトルを慌ただしく運ぶ様子の給仕に、 “美味しかったです、また来ます”と告げて 騒がしい店内を後にした夕暮れ前のこと。 再び仕事へと戻っていく彼を見送って、 これから訪れる非日常が一体何を壊すのか 改めて一つ一つ計算しながら帰路へ着いた黄昏に 影が暗く長く伸びつつあった。*] (114) 2022/11/09(Wed) 23:19:30 |
【人】 医者 ノーヴァ ───現在・路上─── [それは、まるで静寂に忍び寄る病魔のようだった。 普段から薬剤を嗅ぎ分けていた医師の鼻孔は、澄んだ空気の場所には似合わぬ腐臭を確かに感じ取る。 腐った卵のような、誰かが嘔吐したような、はたまた■臭を詰め込んだような────、 人一倍敏感な感覚器官は、慣れないそれに対応出来ずに麻痺を起こす。激しい眩暈に襲われて、思わず眉間を押さえて下を向いた。 思わず沈みそうな意識をどうにか繋げば、軽い足取りは水を含んだみたいに重くなる。様々な感情が噴き出て、表現すべき言葉が分らなくなった。 ────きっと、背後から声がかからなければ、その場で倒れていたかもしれない。] (115) 2022/11/09(Wed) 23:58:22 |
【人】 医者 ノーヴァ 「 …………ッ !先生ッ! 」 [はっと我に返って顔を上げれば、退勤した筈のジェインが息を切らして駆けよってくるのが見えた。 彼女の自宅は此処より南の方角のせいか、異常事態には未だ気づいていなかったのかもしれない。 「夫が……彼と連絡がつかなくて。 周りの様子も異常に静かでなんだか変で。 北の方で煙が見えて……なんだか、おかしいです! 私、不安で不安で仕方なくって……」 身重なりに外の世界を確認しようとしたのは看護助手としての使命感だったのだろうか。落ち着かなそうに片手はひっきりなしに膨らんだ腹を摩っている。 漸く知り合いを見つけたというのに、男の様子は呆然としていてなんだか身が引き締まっていなかったから。「先生?」と彼女はもう一度呼びかける。一定の距離を保ったまま。] (116) 2022/11/09(Wed) 23:58:29 |
【人】 医者 ノーヴァ─────噫、 ごめんごめん。寝不足で。 然し、それは本当かい? 怪我人が出ていないか心配になるな………… [呼びかけに応じるように目の焦点が戻ってこれば、その声色は“いつも通り”の穏やかな響きを帯びていた。 眼鏡の奥底に見える瞳は焦燥感が浮かんでおり、状況を飲み込めていない一般市民のようにも見えた。 困り眉の儘、ジェインは安心したかのように小さな笑みを取り戻す。] 「……もう!しっかりしてくださいよ! ただでさえおかしい状況なのに、 先生迄おかしくなったら大変ですよ!」 あはは……ごめんごめん。 一緒に様子を見に行かなくちゃね。 でもその身体じゃ遠くまで歩くのは大変だろう? 僕が支えてあげよう。さあ、此方に。 [妊婦を気遣い、手を差し伸べる。 その誘導も、自然な動作も、全てにおいて“彼らしく”“違和感がない”。何より精神が弱く、守るべき我が子を抱えた女にとって孤独から救ってくれるような存在のようにも見えたから。 呆気なく警戒心を解いた女は言われるがままに男のプライベート・ゾーンに入り込み────、] (117) 2022/11/09(Wed) 23:58:44 |
【人】 医者 ノーヴァ[湿った呻き声を上げて、彼女は身体をくの字に曲げる。膨らんだ腹には、男の左足の革靴がめり込んでいた。 ゆとりのあるマタニティウェアから足が離れれば、くっきりと残った靴底を目印にするように……今度は靴先を捻るように叩きつける。 肉の潰れるような音と共に、吐血した彼女は倒れ込む。痙攣しながらやっとの思いで掌を子宮に添えた時、宿った命を失ったことを理解する。徐々に光の消えていく視界、朦朧とする意識。 「 ………ぁ、う、 どうして 、 せんせ、 」 鉄の味しかしない舌先は、答えをもらえない問いを繰り返すばかり。 見える世界がフェードアウトする直前、蔓延り始めた腐敗臭と優しく微笑んだ彼の顔。美しく刻まれた刻印を、彼女は初めて認めたのだ。 それは、普段通りのようで明らかにおかしい。 酷くアンバランスな構図の絵画を眺めるような 不安感さえ覚える美しさだった。 ぐじゅ 、と響いた三発目。それから先のことはm] (119) 2022/11/09(Wed) 23:58:49 |
【人】 医者 ノーヴァ[足を再び上げれば、動かなくなった看護助手の腕をそっと引き上げる。意識はないが、呼吸はしていることを確認した。 今度はこちらが安堵したように息を吐く。 医者は命を守るべき存在なのだと知っているから。] ……大丈夫かい?もう歩けないか。 おぶってあげよう。なに、安心するといい。 ちゃんと治してあげるからね。 [心の底から心配するような声色を滲ませ、懐から薬剤の入った注射針を取り出し脈に刺す。 アキネトン注射液。許容量を上回ったそれは、副作用に記憶障害を引き起こす代物だ。 大切なものを忘れてしまえば、それはもう治したも同然だと思うのだけれど。 “治療”が終われば今度こそ彼女を背中に抱いて、ゆっくりと市街地に向って歩き出す。] [よく口が回り、小言の多い女だが、 いうことは決して間違ってなどいなかった。 これは恨みなどから来る行為ではない。 彼女の違う顔を見てみたい。 絶望に満ちた歪んだ顔は、 予想以上に美しく、甘美で愛おしかった。] (120) 2022/11/09(Wed) 23:58:52 |
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