そこは、……！

[生身の左腕だけは、絶対に傷つけられたくない！

　だから身体をねじるように動いて、
　攻撃を右腕の夜色ノ拳闘《ﾅﾊﾄｹﾝﾌﾟﾌｧｰ》で受けます]

　ぁ、く、ぅ……！！
　セカイ《ﾖﾙ》を、傷つけられるなんて、
　初めてです……ッ、

[第(435)^1d1000世界《ﾖﾙ》が悲鳴を上げる、衝撃。
　大きく虚空に吹っ飛びます。
　右腕を構成していた鎧の半分程度が、砕けてはらりと落ちます。
　上手く避けられなかったのは、
　晶体の破片が目潰しのような効果を上げていたから]

[富獄からさらにレーザーが穿たれればそちらの回避にも追われ。
　は、と吐く息は荒くなります。
　――けれど、口は自然とさらなる笑みの形になるのです]

　ふ、ふふっ、
　たのしい！　すごく愉しいですよマシロさん！！
　そうでなくとも、わたしは、
　止まらないっていうのに――！！

[戦闘狂《ﾊﾞﾄﾙﾏﾆｱ》の笑みを向けて。
　右腕を彼へと向けて、再度走ります。
　――また拳か、と思いました？　少し違うんですよ、これが！]

　いッ
　


[彼に回避――あるいは攻撃行動が見えるほど近づいた、瞬間。
　っと音を立てて、
　右腕が炎を上げて射出されます！
　ほぼゼロ距離からの、
　速度と言う名の威力が乗ったロケットパンチ！*]

ああ、久しぶりね。

久しぶりに……ここまで喰らった気がするわ。

[額からは。

それを指先で拭うようにすると。
を再び開いていく。]

来たれ――

[天に向けて異能を放ち。
呼び出すは空の彼方。

焔を纏った隕石を無数に召喚すると。
機天竜《ｴﾝｼﾞｪﾘｯｸ･ﾄﾞﾗｺﾞﾝ》へと放って行く*]

［晶子量の都合、致し方なかったとは言え──月の塔の喪失は、ボクの徒《ボク》としての立ち回りに大きな負の影響を与えていた。月の子《ﾑｰﾝﾁﾙﾄﾞﾚﾝ》らを指揮系統から外し、色彩群《ｶﾗｰｽﾞ》もまた富嶽《ﾀｲﾗﾝﾍﾟﾃﾞｨｱ》に結び付けた上で月の子《ﾑｰﾝﾁﾙﾄﾞﾚﾝ》らの護衛に残した。


何にせよ。
現状を打破《ﾃｷﾀｲｾｲﾀｲｦｹﾞｷﾒﾂ》するには、何某かの増援を確保することが不可欠と徒《ボク》の晶子演算機構《ずのう》は算出した。まさに天使の援けというべきか、その為の素材はまさにこの場へと近寄っている──］

［──そして、その目論見は中枢《まもるべきもの》の独断により御破算となる。
富嶽《ﾀｲﾗﾝﾍﾟﾃﾞｨｱ》の撃ち放った追撃弾は、寄り来る天使たちを昇格させるよりも前に、悉く撃ち落としていく］

　……先代躯体《ﾑｰﾝｽﾄｰﾝ》を笑えませんね。
　異常事態《ｲﾚｷﾞｭﾗｰ》があれば、判断阻害事象《いたみときょうふ》があれば、
　イシの叡智とてこうもなりますか。

［水晶の晒された表情で模るのはイシの心象をそのままに、苦い笑み］

　……稼働時間限界まで、刻単位の余裕なし。
　晶子補給の再申請──拒絶。
　
　ボクの徒《ボク》として、せめて中枢《ボク》の一助にはなりますか。

［最後の勝機は自殺行動《ボクのやらかし》により失せた。
後は、自壊を覚悟で踏み込んででも、富嶽《ﾀｲﾗﾝﾍﾟﾃﾞｨｱ》に危害を与え得る敵を減らすのみ］

　制限《リミッター》解除。
　保有晶子、最大臨界────
　
［禍々しい笑みを浮かべた黒の戦士に対して、大きくその巨大な鉄腕を掻い潜るべく深く踏み込み──］

［繰り出された腕と腕が、中空で交差する。
二撃を厭うて、末節でも早く、敵手へと手を伸ばさんとして──己の失敗を悟った］


　不覚《FATAL》──ッ！


［寸毫の差、飛来する黒腕は躯体の胴を貫通、胸部から下を粉砕した──］

［少女に撃ち込むべく溜めた晶子は、虚しく空に散った。蛍のように**］



．

［学園全てに炎が廻る筈だが、一箇所だけ炎を拒む場所を感じる。

そこがって事か。

だが今はここから離れるわけにはいけない。
数が減りつつある翼の獅子≪ｻﾝｸﾄｩｽ･ﾚｵﾆｽ≫には力不足だと分かりながらも、その場所を破壊するように指令を出した。］

［アナベルの瞳にようやく湧き上がる感情の片鱗が見えた。>>118］

［致命的損傷。
晶子原動器《しんぞう》、晶子供給器《はい》、機能損失。
現在状態……自由落下中、行動不能。
機能停止まで末節60よりカウントダウン開始……］

　富嶽《ﾀｲﾗﾝﾍﾟﾃﾞｨｱ》に勧奨……
　徒《ボク》、本戦闘に敗北せり。
　緊急離脱《ﾊﾟｰｼﾞｱｳﾄ》を勧奨……

　あれは……！？　って、
　なんだか知らないけどチャンスってやつですね！

[天使の群れを攻撃しているお山を見て、小さく頷きます。
　お山の興味があちらにあるなら、勝機が見えてきます！]

[交差する拳。
　その瞬間を、わたしは引き伸ばされた時間のように感じました。
　先刻より明らかに速い、彼の拳が、走り、迫り――！！]






[わたしの方が速かったのは、たぶん、
　彼が自壊覚悟で生きようとはしなかったから――だと、聞かれれば答えるでしょうか。
　上半身と下半身を分かつ一撃を放った直後、
　わたしはそのまま前のめりに倒れました]

　かっ、た……？
　……あ、ほたる、きれい。

[なんてことをつぶやきながら、しばし勝利の熱に惚けます。
　大破し完全に砕け散った右腕は、もう戻ることがありません。
　ふたたび鎧を纏わせようとしても、
　第(686)^1d1000世界他多数の世界《ﾖﾙ》から拒絶されましたからね。
　ちょっと無理、させすぎましたね]