人狼物語 三日月国


225 秀才ガリレオと歳星の姫

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   「じゃあ……お言葉に甘えて……
    いただきまーす!」


   受け取って、一口食べればさくっとした衣と
   とろとろのカニクリームが口いっぱいに広がって。

 



   
「おいしいー!しあわせー!!!」



   にこにこしながらあっという間に
   貰った分を食べ終えた頃には
   目当ての物がなかったショックからは
   すっかり立ち直っていた。

   ホットドッグはないけどホットサンドなら……
   とお店の人が元気になった私に声をかけてくれた。
   もっと食べたくなっちゃった私は
   迷わずそれを買って。
   半分に切られている三角のホットサンドを
   君の方へと差し出して。

  



   
「あげる!さっきのお礼!」



   にこにこしながら言った。
   この瞬間だけ見ればデートみたいだと
   思われてしまうかもだけど、
   当の私はそんなことは気にも留めていなかった。* 
  
   



   エウロパの問いにユスティ は口を噤む。
   この学校は虎を封じる檻だなどと
   口が裂けても言えるはずがない。

   技は磨けば誰でも秀才になれる。
   しかし魔力の量は持って生まれた才能に依存し
   努力では天才にはなれない。

   蓋を開けてみればその差は大きく…


   流れ込む魔力を捌けないのは
   なにもユスティに限った話ではなく、
   この距離が天才エウロパ凡人の間に聳え立つ絶対的な壁。

   幼い頃はまだ小さかった亀裂が
   今はもう取り返しがつかないほどに深くなっていた。





   どうしようもない事実に空気が淀む。

   沈黙を最初に打ち破ったのは
   一瞬だけ寂しさを滲ませたエウロパの方。

   どうしてそんな顔をするのかと
   聞いてもきっと教えてはくれないだろう。
   亀裂のその向こう側に飛び越えることさえしないなら
   こちらにはその心を聞く資格もない。






   質問の意図が分からないが
   エウロパに嘘をつく必要も無い。

   だから正直に答えたはずなのに
   どこか釈然としない様子で。

   仮に他の人であったとしたら
   手を繋ぐくらいでも十分解決出来るだろう。
   そういう意味での回答だということは
   エウロパもわかっていると思っていたのだが
   その真意は別のところにあるらしい。


   



   「勘違いか。


      仮にされてしまったら
      謝りはするけど断るよ。


           ボクもあまり暇じゃないから。
           きっと寂しい思いをさせてしまう。」





   本当は恋愛に興じるとして

        相手は選びたいというだけのことだが。





   当の本人は人の気も知らずに
   ホットドッグに思いを馳せている。

   そもそも言ってないのだから
   やや横暴ではあるけれど。

   ただその変わり身の早さには
   ユスティも困惑を隠せない
   遠慮はしなくていいけども。
けども。







     「………まるでブラックホールだ。」





   コロッケはあっという間に消えていった。

   先程までの傷心がまるで嘘かのように
   ご機嫌な様子でホットサンドを追加している。
   ここで声をかけてもらえるのは
   エウロパの人徳というべきか
   彼女が誇るべき能力ではないだろうか。

   嫉妬と感心が入り交じる中で
   不意にホットサンドを差し出される。
   その意味が分からず困惑の表情を浮かべたのだが。





   「お礼って…別にボクはそんな…

            まぁ……ありがとう。」





   その意図を知ってしまえば
   断るのも違うような気がして
   素直にホットサンドを受け取る。

   周りに誤解されるかもしれないが
   どうせ誰もいやしないだろう。

   ホットサンドの暖かな味わいが
   口の中に広がっていく。
   これを食べ終わったら今度こそ寮へと帰ろう。


   食べながら思い出したように指先を振り
   カバンの中に入っていた紙とペンを中に浮かせると
   すらすらと遠隔で文字を書き始める。

   しばらくして書き終えた紙に魔法をかけると
   まるで生きた鳥のようになって空へと飛んでいく。






   「キミがちゃんと宿題を頑張ったことは
        あの子がちゃんと伝えてくれるよ。」





   こればっかりは分からないが
   扱いが問題児ということもあって

   他人の宿題を丸写ししたとか
   そういう中傷を受けても不思議じゃない。
   しかし今回に関しては彼女の努力は本物だ。

   努力は笑われずに報われるべき
   彼は己の信条にいつも従っていた。*






   好きな人に触れることも出来ないなんて。
   寂しくないわけがない。

   でも、きっと私は誰に対しても
   こんな感情を持っちゃいけないんだ。

   天才なんて望んでなったわけじゃないのに。
   制御出来ないままなら、ずっとこのまま。


  



   そして。
   君が私から距離を置き続ける限り。
   私が過去の成功を失敗だったと思い続ける限り。
   魔力制御を覚えることはできない。


  



   勘違いさせてしまったら断る、って聞いて。
   安心してしまったんだ。
   そうだよね、ユスティならそうするよね。

   ……仮に勘違いされたって相手は選ぶよね。
   どんな子を選ぶのかは……

          その先は考えたく、ない。


  



   言われなければわからない。
   君に好きだって言えるほど
   私は自分に自信も持てない。

   曖昧に塗りつぶしたはずの過去は
   今もなお影を落とし続けている。


   それはそうと食欲には抗えない。
   だって、お腹空いたし……。
   ブラックホールとは失礼な!
   ちゃんと上限はあるもん。

   
……人より食べるほうなのは否定しないけど。


  



   友達はほとんどいないし
   先生には多分あまりよく思われてない。
   同級生には基本関わりあいになりたくないと
   そう思われている私だけれど。

   購買にいる店員さんは優しい。
   私の境遇を知ってか知らずか。
   時々これもどうぞ、ってサービスしてくれる。
   その言葉に甘えて、よく買い食いしてるんだ。


   
むしろ人望なんてない方なんだけどな。

   嫉妬されてるとも知らずに
   無邪気に差し出したホットサンドの意図は
   ちゃんと伝わったのか、受け取ってもらえて。

   
受け取るまで私は引かないけどね?


  



   「コロッケも貰っちゃったし、
    宿題はユスティのおかげでばっちりだし!
    
    ここのホットサンド美味しいんだよー!」


   にこにこしながらユスティが食べるのを見つつ
   自分も一口二口と食べて。
   あっという間になくなった。

  



   ユスティが食べ終わるのを見ていよう、
   そんなつもりでいたら。
   宙に浮く紙とペン。
   何を書いてるのかな、って首をかしげていれば
   答えをすぐに教えてくれた。

  




   
「……優しいね、あの頃から、ずっと。」



  



   ユスティの想像は起こりうることだと思う。
   普段の私は、宿題も遅延提出が多い問題児。
   誰かの宿題を写させてもらった、程度なら
   まだいいけれど、盗んで写したんじゃないかとか。
   それくらい言われても不思議じゃないと思ってる。

   私の努力かと言われると
   かなり手伝ってもらったから
   ちょっと自信はないんだけど。


   ズルを疑われないように、という
   ユスティの優しさが嬉しかったんだ。

  



   君が食べ終わるのを見届けたら。
   そうだね、今度こそ寮に戻ろっか。**

  



   エウロパは抜けているところもあるが
   実際そこまで馬鹿なわけではない。

   だからこそ不思議だ。
   何故彼女は一向に制御する術を覚えられないのか。

   それは魔法を扱えないのと同じ
   心の問題を疑うべきなのかもしれない。





   いつか聞いてみてもいいかもしれない。
   なにか魔法を扱うことに抵抗があるのか

   それともなにか心残りがあるのか。
   やや踏み込んだことかもしれないけれど
   エウロパのために必要かもしれないから。






   だがそれを聞けたとしても
   心を都合よく動かすのが至難だからこそ

      魔法とは面白可笑しい代物なのだ。






   「別にボクは優しくしたつもりは無い。
    宿題だってキミがやっただけのこと。

      ボクがキミに向けた優しさなんて
      コロッケくらいだろう?大したことじゃない。」