人狼物語 三日月国


65 【ペアRP】記憶の鍵はどこ?【R18】

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視点:




    潤さん……

[
 誰よりも大事な人の名前を、呼べた。
                  ]*


   ……やっぱり。お帰り、美鶴さん。



  ネックレスは2人にとっての鍵だった。
  その事実がとても嬉しくて、
  でもそれを適当なところにぽいっと
  放置していた輩にはイラッとして。

  なんの世界なのか、結局わからないまま
  彼は彼女を抱きしめて意識がなくなる。
  彼女の方はどうだったか、
  あまりわかっていないけれど、
  次に目を覚ましたとき、
  2人は寝る前の半裸の状態のままだった。

                     ]

    ……なんや、危なかった。
    おはようさん、美鶴さん。



  朝食を作らなければいけなかったけれど、
  今はただ、すやすやと眠る彼女の
  可愛い寝顔を見ていたくて
  頬を優しくフニフニと触っていた。

                     ]*


    ……ただ、いま?

[
 返事はこれでいいのかな、なんて思いつつ
 手の中を見てみれば
 光の粒とともに“鍵”は消え去った。
 
 ……まあ、私が大事にするものが鍵だったのは
 嬉しいんだけど……。

 余計な事まで喋った気がしてならない。
 
誰だこんな状況作ったのは!!!!


 そんな憤りを彼が察知したかは知らないけど。
 ぎゅうっと抱きしめられて意識が遠くなっていった。
                         ]

    んん……もーすこし…ねる…

[
 頬を触られている感覚で目覚めれば
 大好きな人がこっちを見ていた。
 寝起きはうまく頭が回らなくてぼーっとしてたけど
 ふと違和感を感じて左腕を見れば……
 
 
“痣がある”


 夢でぶつけて出来た、痣。
 ……意識が覚醒した。
 いや待って、待って。
 もしかしなくても夢が夢じゃなくって
 あの出来事を、記憶をなくしてたことを
 実際に体験したとかありうる?????
 もしそうだとしたら……

 私はまたこの人に失礼なこと言ったことになる。
 しかも隠してた過去を話して……しまったような…

 夢の中の自分に盛大に裏切られてる……。
 えっこれ潤さん怒ってたりしない?
 私なら多少なりとも怒るよ???
 
 
現実の逃げるコマンドどこかな…

 現実逃避まで思考が巡った私は
 とりあえず布団をかぶって顔を隠した。
                     ]*

[ハチヤが先に立ち、廊下を歩き階段を下りる。


部屋の外はこんな風になっていたのか。部屋は寮と似ていたのに一歩外に出るとまるで知らない場所だった。ドアすら開けた時はいつものドアだったのに、閉める時には違うものになっていたのだから不思議なものだ。

知らなかったけれど、聞いたことがなかったけれどこの場所はハチヤがかつていた場所らしいから。興味深くて見回しながら歩いていたら転ばないようにって片手が差し出された。こちらのハチヤは相変わらず優しい。


ここだよ、とハチヤが立ち止まったのはなんの変哲もない棚の前。人一人、余裕で入れる大きな棚。
知らない場所に、ふと一瞬だけ知らない廃墟の風景が混じる。先程の幻を考えるとハチヤの旦那が暴れた後の風景なのだろうか。風景を覚えこむように見回して、そして開けようと引き戸に手を伸ばした指先をハチヤが止めた。


そうして恐る恐ると彼が手を伸ばし、触れた瞬間に]


 ……。


[見えたのは、過去の愛情。それとも執着と呼ぶべきものなのだろうか。ハチヤはどんな顔をしている?気になるけど、俺だったら今顔を見られたくない。だから代わりに握ったままだった手をぎゅっと握ると抱きしめられた。

ハチヤは、そこまで旦那……しちろ?に未練はなさそうに見える。けれどしちろからハチヤへは。あの、向ける思いは本物で、確かに恋情なのだろう。


それを俺にも見せてくるのは牽制なのだろうか。ここまで思われてるハチヤを取るなら覚悟をしろとでも?どちらにしても……ちょっとだけもやもやするから、宥めがてら少しだけ高い背を引き寄せて額にキスでもしてやろう]


 ここで……合ってる?みたいだな。俺が開けるか?


[落ち着くのを待って、そっと声をかける。こいつがどう思っていたとして、納得するようにしてやりたい*]


[恋だ愛だと口にする者を愚かと吐き捨てていた自分が
こうなるとは。
過去の自分に言っても恐らくは信じないだろう。

恋する乙女の心情を理解するにはまだ時間を要するらしい。


まさか素質があるなんて全肯定をいただいてるとは知る由もない。
半目のクラヴィーアを前にバツが悪そうに視線を逸らすアマミであったが、こうも人間らしい振る舞いをするのは彼女の前でくらいだ。

自身は彼女へ多大なる感謝の念を抱いている。しかし己はその感謝に報うこが出来ているか、人を遠ざけ続けたツケが今ここに回ってきたのだ。]



[己の辞書に信頼や頼ると言った文字は書き記されていない。
アマミはいつだってそうやって生きてきたのだ。

それが結局彼女を、クラヴィーアを置き去りに独り歩きをしていると、よもや本人に気付かされるなど。

つくづく彼女には舌を巻く。]


   ............そうだな。


[だからだろうか。
ふふ、と思わず笑みが零れてしまう
これではどちらが年長者なのか分かったものじゃない。

彼女の杞憂は声に出されない以上、アマミには届かない。
人間が己の杞憂に気づづくのはいつもギリギリなもの。だから人は杞憂と呼ぶのだと、彼女に語り伝えることは出来ないだろう。


手を触れる彼女からは本を伝い緊張が響いたような気がする。
大丈夫だと呟く自身の言葉は彼女の支えになれるだろうか。
アマミはそう考えずにはいられない。

だが結末は、いつかの願いが叶うかのごとく。
想像よりもずっと幸せなものであった。]



[彼女の中では記憶が戻った混乱も多少なりとも存在するだろう。
直ぐに思いの丈を口にすれば彼女の混乱を招くことにもなりかねない。

いつも言われていた言葉が特別な意味を持って己に問いかけている。

彼女の愛情を受けるかどうか。
覚悟を決める時が来ている。


己は決めなければならないが、ここは夢の中だ。
決断を夢の中で済ませる気などなく、それよりもアマミは言いたいことがある。

同じ言葉であろうとも、今の二人の間では意味が違う。
それこそが、アマミの中で決意がより固まったという証明となる。

だからアマミは2人で目覚める直前、柔らかなほほ笑みと共に彼女をその腕に抱き、一言だけ告げる。]




    ……どないしたん、そんな顔隠して。
    今更、昨日のこと恥ずかしくなったん?




  昨日のこと。何とは言っていない。
  寝る前の話かもしれないし、
  寝た後の話かもしれないし。

  ただ、そう言って彼女の反応を見てみたかった。
  どちらのことも彼女にとっては
  恥ずかしかったことに変わりなく。
  彼は、朝食のことを考えることをやめ
  彼女の反応をただただ待った。

  それが良いものかどうかは、
  今の彼では分かりかねたけれど。

                    ]*



[
 昨日の事、と言われて
 やっぱり夢の事ですよね!と
 寝る前の事まで思考が回らないくらいには動揺していたので。
                             ]

    
恥ずかしくないわけないじゃないですか!!

    
色々余計なこと喋っちゃったし…


    あの、えっと…すみませんでした…!
    わたしまた失礼な……

[
 そろりと顔を出してまくし立てた。
 潤さんがどんな反応をしたかはわからないけど。
 とりあえず落ち着こう。…手近にあったパジャマを着つつ。
 深呼吸を一度。
 ……夢のことを思い出せば、潤さんも色々気になることを
 言っていたな、と思案して。
 ……私には言わないといけないことがある。
                            ]



    ……あのね。聞いてほしいことがあって。

[
 あの時。核心をつかれて応えられなかったこと。
 今までは目を見て言えなかったことだったけど。
 今なら……知られてしまった今なら。
 
 それに、隠してしまったことで彼を傷つけてた。
 ……潮時、だなんて思わせてしまうまでに。
 だから私は応えなきゃいけない。
 
                彼の
想い
に。
                       ]

 
  私……素敵な女性じゃないんです。 
  料理だって潤さんと比べるとまだまだで
  上達だって遅くて……
  
  可愛かったり美人だったりもしないし…。
  ……潤さんは何でもできるから
  一緒にいて何も返せたりとかしてなくて
  ……ふさわしくない、とか考えたり、とか。

  すごく失礼だけど、私は潤さんのこと信じ切れてなかった。
  なんで私なのかってどこかで思ってた、から。
  

  でも。でもね…
  私、それでも潤さんのことすごく好きで。
  貴方のためならなんでもしたいし
  貴方の時間は全部欲しいし
  貴方には私だけを見ていて欲しい。
 
  ずっとずっと傍にいたい。
  貴方が帰って来るの遅いときは寂しかった!
  
  ……こんなに好きなの自分だけだったら
  気持ちが重いって思われたらどうしようって不安だった。
  “欲まみれ”なのは私だって同じ。
 

[
 ……少し息を吐く。
 潤さんが何か言うのならそれを聞くし。
 黙ったままなら、また言葉を紡ぐ。
 あの時の答えを。
                  ]*



    ………………




  彼女の話を聞けば、彼はふっと笑みを見せた。
  可愛い人だな、と思うしかなくて。
  
  でも、そう思わせたのは彼女の中のせいで、
  彼女のせいでは全くない。
  だから信じ切れていなかったと言われても
  そんなに傷つくことはなくて。
  よしよし、と彼女の髪を撫でながら
  軽く唇を重ねて彼女のことを労う。

                     ]

   話してくれて、おおきにな?
   ……素直に、嬉しいわ。

    *




[
 …怒られたりとかあまりいい反応されない可能性も
 なくはなかったのに。彼は笑みを見せてくれて。

 
夢の中の貴方も、嫌な顔なんてしなかった。


 唇を重ねられて、潤さんは受け入れてくれるんだって
 安堵した。信じ切れてなかった自分が
 嫌になりそうではあるけど。
                          ]

    …潤さん昨日聞いたよね。
    なんで私がOKしたのかって。
    それは…… 


    私を、飾りもせず女性らしさもない私を
    そのまま受け入れてくれた貴方は、
    一緒にいて心地よかった。
    話していてとても楽だった。
    気なんて遣わないその時間が、好きだった。

    友達のままじゃ不可能な位の時間を
    
貴方となら共に過ごしたいと思ったから。


    貴方が私の思い込みを超えて想い続けてくれたから
    私は貴方に……
をした。

[
 仲良くなってからの貴方は、そう思わせるだけの
 言葉を、想いをくれていた。
 じわじわと水がしみ込んでいくように、
 時間はかかったかもしれないけれど。

 好かれるわけないって思いこみを
 もしかしてって思うくらいに崩したのも貴方。
 だって可愛さとも美しさとも縁のない私を
 認めてくれる人がいるなんて…
 思ってもみなかったから。
 
 それでも鈍感な私は、
 貴方の気持ちを確信できずにいたけど
 でも、結局、貴方に惹かれて

 貴方のほうへと振り向いたんだ。
                  ]

    だから…想い続けてくれて
    私を好きでいてくれてありがとう。

    
ずっと、ずっと傍にいてください。

    潮時なんて、もう思わないで……。

    *

[着いちゃった。
なければいいなって思ってたのにあの棚は、記憶のままにあったんだ]


 ──ここだよ。


[棚に手を伸ばして、止める。
棚が鍵だったら、選ばれないんだろうなって思っててもいきなりエンと離れ離れになるかもしれない。それはちょっと嫌だから。

でも、冷蔵庫の一件もあるからエンに開けてもらうのも嫌だ。
だから、おれは、棚自体が鍵じゃないことに望みをかけて、エンの手をぎゅっと握ったまま、棚の扉を引こうと触ったんだ。










──そして、おれは、しちろの最期を見た]

[

 ごめん、しちろ。
 今のおれには、しちろの言ってることがわかる。
 
 おれにも未練があるけれど、
 それがしちろじゃなくてごめん……


顔を見せたくなくなってエンをぎゅっと抱き締めたんだ。
共感しかできなくておれも泣けてきちゃうから、上を向こうとしたんだけど、それより先にエンに引き寄せられて額にキスをされたから。
宥められついでに首筋に頭を擦り付けるように軽く抱き付いて]


 うん、あってるよ。 あってるはず。
 おれが開けるから大丈夫


[それからエンの提案を断って、棚の戸を引いたんだ。
触っても大丈夫って知っているから、戸を引く手は迷わない]

 

 …………


[棚の中には魔術符が一枚。よりにもよって活性状態になっているんだけど…………なんでだろう。

魔術符は、おれの宝物だった魔術符は、おれはもう持ってないはずのものなんだ。
盗まれてぼろぼろにされて宝物は、取り戻せはしたけれど、おれが2年に上がるまで持たなかったはずなんだ。
そもそも盗まれた原因なんだっけって話だけど。
なんでここにあるんだろう。


活性状態、つまり符がなんかの魔法を使ってるってことなんだけど、魔術符は消耗品だから。
役目を終えれば、朽ちてしまうものなんだ。
おれがもう持っていないはずのものを使えるはずもないし、あっちのハチヤにしても使うかな?
なんで動いているんだろう。


これが鍵ならおれはまだ触りたくないななんて。
だからおれはエンの顔を覗きこんで、その言葉を待つことにしたんだ**
]

 
[半目を向ければそらされる視線。
 ……ちょっと可愛いぞ。


 考えて伝えてみた言葉には、同意を零れた笑みと共に頂けたもようだ。
 ……この人はちょっと不器用な人なんだろうな、って感じる。もし、もしも相手が私なら……
きっと私は幸せだったんだろうな。
なんて小さく心の中だけで。


 本に手を触れようとする時、大丈夫と呟かれた言葉。それにしっかり頷いた。
 それは確かに私の力になってくれた。

 そうして記憶は戻すことが出来た。
 一番大事な時間を失わずに済んだ。

 愛しい人の腕に包まれる。
 その言葉は私が言ったばかりの言葉。
 ……記憶を戻してよかった。本当に。

 目を覚ますその時まで私はアマミさんを離したりはしなかった───……。]
 

 
[ 
の音が聞こえる。

      窓の外に 
は 見えない。 ]

 ……っん

[身じろぎして体を起こそうとする。
 ──……
コルセットが苦しい。

 小食気味で痩せてる方の私ですら苦しい、と思う位下着のコルセットはきつく絞られるものなんだ。
 寝てる状態でそれは結構きつかった……。

 なんとか起き上がる。首元に飾られるリボン一つ緩んでない。ただ寝転んでいたからか髪を飾るリボンが落ちた。]

 アマミさん……?

[周りを見渡す。適度な距離感を意識している私は無論寝室に入った覚えはない。ここがどこか少し混乱する。
 あれ、私確か寝る前は一緒に食事してて……。

 あ、やばい。思い出した。
 
私ワイン飲んで寝落ちした。

 ……割と酷いことしたな? 私。


 いや、今はそれどころじゃない。ポケットの中の封筒を取り出してみてみる。封は開いていた。
 うん、夢じゃない。]
 

 
[ベッドから起き上がって髪に軽く手櫛を入れリボンは放置。服の皺を伸ばし身だしなみを整える。招待状はとりあえずまたポケットに突っ込んだ。

 アマミさんの名前を呼びながら相手を探す。
 まだソファーで寝ていただろうか。それならば名前を呼びつつ軽くゆすって起こすことにする。起きていたのなら普通にそのまま顔を合わせる。
 顔を見れれば戻ってこれた事を実感して、酷く安堵を覚える。

 そうしていつも通り、綺麗にカーテシーを。]

 アマミさん、助けてくれて有難うございました。
 おかげで失わずに済みました。

[そう言って笑いかける。
 何から話そうか。何から伝えようか。
 きっとお互い言いたい事が沢山ある。]
 

 
 私のお話をさせてください。
 ……私は実を言うと、アマミさんの過去に踏み込むのを躊躇していました。
 願いでどれだけの記憶を失ったのか。それを知るのが怖かったのです。
 
 記憶を失う事が……死と同義なら、私はアマミさんの死と引き換えに穏やかな未来を貰った事になります。その願いには何度も救って貰っていました。

 ……大事な記憶を失って、戻って……その重さを今すごく実感してます。

[一回一息つく。そうしてまっすぐ顔をあげた。]

 私は今でも貴方の願った理由に足る人間であれていますか?

 

 私はさ、アマミさんに幸せになってほしいってずっとずっと思っているんだ。
 出来るなら、その幸せを与えれるのが私であってほしい。
 

 
 貴方が過去を対価にしたのなら、
私は未来を与えたい。


 アマミさん、私に何か願いはありませんか?
 今度は私に願いを叶えさせてほしい。


[そこまで喋って、次喋るのをどうぞと促した。]**
 


   …………好き。
   そのままの貴方が、好き。
   ずっとそのままでいてほしいくらい。

   恋に落ちてくれて嬉しい。
   もう思わないから、貴方のそばにいます。
   …だって、そんなに気持ちを伝えてもらえたから。


   初めて、心の底から安堵したわ……




  伝えながらぎゅっとだきしめた。
  多分その抱きしめた腕は少し震えて
  安堵の感情が伝わってしまったかも。

  あれで記憶が戻らなかったら、と
  不安で不安でたまらなかった。
  そして、また4年かけて、となれば
  彼はどんな選択をしたのか
  考えただけでもゾッとする。

                   ]





   これからは、もっと素直でいて?
   じゃないと、……
   俺も苦しいから。



  虚勢を張っていたわけではないけれど
  待つことが苦になってしまうことも
  そろそろ表に出してもいいかも、と
  彼は彼女の瞳を見つめて伝えたはず。

                    ]*





    ……そのまま、でいいの?
    今みたいに沢山頼ったままでも…
    朝起こしてもらったりとか
    ご飯作ってもらったりとか…

    うん……私もずっとそばにいる。
    貴方の記憶をなくして
    貴方がどれほど私にとって大切で、
    私がどれほど貴方にとって大切なのか

    やっと、わかったから。
やっと確信できた。



[
 潤さんにぎゅうっと抱きついた。
 彼の腕は震えていて、ああ、こんなに心配をかけて
 不安にさせてしまっていたとようやく気付いて。
 手を伸ばして、そっと彼の頭をなでた。
 
 ……私が記憶をなくしたままだったら。
 多分彼を好きになるのに四年はかからない…はず
 でも、万が一夢の出来事を忘れて記憶もなかったら…
 どうなっていたかわからない。
                          ]


    ……ごめんなさい。
    潤さんだって、
    かくしごとしてたんじゃないですか……

    いつも涼しい顔してるようにみえて…
    ぜんぜん、わからなくてっ……

[
 見つめられながら苦しい、なんて言われて
 そうさせたのは私なのに、涙が溢れてくる。
 上手く言葉にならない。
 
 ずっと大事な人に苦しい思いをさせてたなんて
 私は、なんてことしてたんだろうって思う。
                      ]*

[棚の中から出てきたのは、一枚の魔術符。あれは……みたことがある。ハチヤの宝物だ。覚えてる。これが原因でハチヤはいくつかの授業が出入り禁止になったし近くにいたからと俺まで巻き添え喰って罰を受けた]


 これ。ハチヤが宝物って言ってたやつだよな。盗まれて取り返すのにお前が大暴れしたやつだろ。
 懐かしいな。ボロボロんなってあんまりにも落ち込んでるから、保護の魔術俺がかけてやったんだよ。そういやあの直後くらいからハチヤがすげー懐いてきたんだよな。そうか、しちろの符だったのかこれ。

[知らない間に恋敵に協力していたらしい。それにしても目の前の符は今にも朽ちてしまいそうだ。これが朽ちたら……朽ちるまでに、ハチヤが戻らなければ。あちらのハチヤは消えてしまうのだろうか]


 ……ハチヤ…なぁ。あっちのハチヤとお前と、両方残ることってないのかな?今のお前をあいつが覚えていれば、そしたら。
 ……ないかな。ない、んだろうな。ハチヤ。ハチヤ……俺……


[唇が震える。その言葉を口にしたくなくて。けれど、その言葉は俺が言わなくてはいけないことなのだろう]

 


 ……そっか


[魔術符を目にしたエンは懐かしそうに目を細めて、ハチヤがエンに懐いた時の話を聞かせてくれたんだ。。
エンから聞いた思い出話は、当たり前の話だけれどおれの記憶とは違ってて。

なくなったはずの魔術符と、今ここにいるおれ

なくならなかった魔術符と、今ここにいないあっちのハチヤ


鏡をみてるみたいなあっちのハチヤとこっちのおれ。
だから、多分この思い出は、ハチヤの分岐点だったんだろうってわかるし、
これが鍵なんだろうっていうのも確信してしまうんだ]

[消えたくないって縋れたら楽だった。
傍にいたいって縋ってしまいたい衝動に駆られた。
でも、おれがそうするより先に、エンが縋るような目を向けたから。
奇跡に縋りたそうだったから。

おれは、言いたかった言葉を飲み込んだんだ。


「おれをあっちのハチヤが覚えていれば」なんて、
統合じゃなくそっちが出てきちゃう時点で、おれとハチヤはそれほどまでに別物で。
裏を返せば、ハチヤにとってエンはそれほどまでに大きな存在だったっていうことで──…

ああ、もう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
なんかエンはあっちのハチヤがいる前提で話しちゃってるし、つまりは、うん……そうだよね

なんでおれはあっちのハチヤに見せつけられなきゃいけないんだろうなって気持ちが、別れる辛さより強くなってきたから]

[俺が言った言葉は、このハチヤを選べない時点で、俺が言っちゃいけない言葉だった、のかもしれない。目の前のハチヤが泣きそうな顔を歪め、無理に笑みを作るから。


 けど俺は、こっちのハチヤだって好きなんだよ。それ以上に……あっちのハチヤが大事になってしまっている。自覚なんてなかったのに、いつの間にここまでになっていたのだろう]


 ……、うん。


[
 ──好きだよ。お前だって大事だよ。


 その言葉はもう使えない。だから初めから分かってたみたいに頷くハチヤに、こちらも頷くしかできないんだ]

[そう、ハチヤは俺がどんな答えを出すのかなんて知ってたみたいだった。俺のことなのに俺以上にこいつの方が詳しいなんておかしいけど、きっと俺以上に俺のことを見ていたんだろう。こんなに短い間だったのに。



 もう会えないのだろうか。もう二度と。



 ハチヤは、あれできっとしちろが大事だったんだ。だからこそしちろの遺した魔術符を大事に持っていたしどんな手を使ってでも取り返そうとした、そしてあれに保護をかけた俺に懐いた。

 それでも俺を選んでくれたのに。

 俺は、このハチヤに好かれなければよかったのだろうか。そうすればこのハチヤは今もしちろの大事な嫁で]


    頼られた分俺も頼る。
    もちろん、ご飯も作ってもらう。
    これで普通に対等でしょ?
    どっちが優れてるとか、ないから。

    …………
    よかった、ほんま…ほんまに……



  感情がおかしくなって泣くのではないかと
  彼は思ってしまったけれど、
  腕の震えだけで収まっている様子。

  でも、彼女の涙が見えたなら…
  少しだけ彼も涙を流したかもしれない。

                      ]

    っ、……あかんな。……

    あかん…………
    少しでもええところ見せたかったんよ。
    それに、美鶴さんが…受け入れてくれる
    そんな確信がなかったから。


   *


[目が覚めたのはベッドの中で、ひどい倦怠感と頭痛がするのはよくある魔力酔いの症状だろう。

とりあえず水を飲もうと、おれは体を起こしてサイドテーブルに手を伸ばしたんだけど……なんでだろう?手を伸ばした先に水差しの手ごたえがない。
そちらを見ればサイドテーブルもない。
っていうか元々なかったんだけど、なんでおれはサイドテーブルがあるって思ったんだろう?

まだ本調子じゃないけど、エン君もきっと喉が渇いているだろうから、おれはキッチンに向かうんだ。
水差しとマグ二つをテーブルに運んで、おれはエン君を起こそうかなって思ったんだけど、その前に]


 ……


[顔に
が生えちゃったから、これは引っぺがしとこうなんて、おれは右目の下をかりかりかいて小さな鱗を剥がしたんだ]

[
 どっちが優れてるとかない、
 なんて私が潤さんの立場になって考えれば
 わかるだろうに、なんでわからなかったんだろう。
                        ]

    うん……頼ってほしい。
    もっともっと、貴方を教えて…?

[
 彼が泣いているのが目に入ったら
 余計に涙を止められるわけもなくて
 でも、でも……
 今まで見なかった貴方を見せてもらった気がして
 少しだけ、うれしくて。
 ええところみせたいなんて、夢の中の貴方が言ってた
 子供だって言うのに、納得してしまった。
                         ]

    ……潤さん、子供だったんだね
    
私だって、そのままの貴方が好きなのに。

   
    でも、きっと私が伝えてなかったから…
    だから、何度でも言う。
    
    私は、どんな貴方でも受け入れるし
    ありのままの貴方が、
大好き
です。
    その証拠に……
 

[この鱗、
いつも生える鱗に比べて根本があまりにも心許ない形なんだけど、
今まで変な形の鱗が生えたこと……は、確かなかったはずなんだ。

なんか、この鱗]


 ──……


[生えた場所も考えると]


 ……涙、っぽい?


[面白い形の鱗だけど、よくわからないものをエン君に食べさせるのはダメだと思うから。
この鱗、どうしようかな。

とっておいたら、他の鱗みたいにいつか食べられちゃいそうだし、
このまま捨てて、廃棄されればいいけど誰かの手に渡ったらなんか嫌だ。


……そうだ! いっそのこと、おれが食べちゃえばいいんじゃないかな!*]

[目が覚めた。


 あいつが何か言いそうに覚悟を決めた顔をして、けれど結局なにも言わずに符を両手に持って──そこまでだ。


 目を覚ましたのはいつもの寮の部屋で、いつもはもっと寝起きが悪いのにすぐに目が覚めたのは、目の横をくすぐったい感触が流れたからだ。
 夢の中では何とか泣かずに済んだのに、こっちでは耐えられなかったらしい。もそもそと布団をめくって顔を出したら、起き出したらしいハチヤの姿が見えた]


 ハチ…っ、けっほ!


[飛び起きようとしたけど、腰に力が入らなくてすぐに逆戻りになった。おまけに声はうまくでないし。さっきはちゃんと立てるようになったと思ったのに]


 ゆ、め?


[そうなのだろうか。俺が起き上がってすぐ倒れたからだろう、ハチヤが慌てて駆け寄ってくる。あ、これ犬だ。その顔をじっくり見ようと覗き込んだら──目の下にうっすらと鱗を剥がした痕がある。相変わらずちょっと乱暴に剥がしたのだろう、ちょっと血が滲んでる]


 おまぇ……けほ…かってに、剥がすな、って……


[俺のあまりの状態にだろう、準備されていた水を手渡された。準備がいいな。数口飲んでやっと人心地ついて、それから奴の手の中に不思議なかたちの鱗を見つけた]


 何、それ……涙?


[そんなかたち。片手を伸ばしてその鱗をもらおうとする。嫌がられてもそれだけは絶対俺が受け取らなきゃいけない気がする。
 状況でいうと。今までのことは、きっと夢なのだ。けれど夢だと思うにはあまりにも。あまりにも──あのハチヤの最後の顔が頭を離れなくて。違ったらいい、なんて思うんだ]


 なぁ。お前、なんか夢みてた?
 あと、しちろって知ってる?


[あのしちろが本当なら、きっとこいつはわざと俺に言わなかったのだ。だからこそ本当か夢かの判断になる、と俺はお構いなしで突っ込むことにした*]


[クラヴィーアが目覚めた時、アマミはまだソファーで眠ったままであった。

どうやら夢の中で一安心したのか、余計に疲れてしまったらしい。
おかげでついさっき目覚めた時には全く眠れた気がせず、今はこうして二度寝を貪る始末。

しかしながらアマミはその苦労が、彼女を迎え入れるために必要な行程だったのだろうという確信めいたものが内にあった。

彼女の記憶が無事戻った今となってはあの館の主の行いも過程のひとつとして許すとしよう。]




    ……そ、子供なの。
    美鶴さんにはいい顔してたい。
    怒られたくない。
    後、わがままでいたい。




  子供、と言われればうん、と
  小さく首を縦に振ってみる。
  わがままにお互いなれなかったから、
  今回のこの夢の出来事は
  悪すぎることはなかったけれど2度とごめん。

  彼女に囁かれれば、
  ちゅっと頬に口づけを落として。
  記憶が戻らなければ、
  今こんな風にはしていなかったから、
  改めて戻ってくれてよかったと実感している。

                        ]*



 

 ううん、鱗だよ。


[涙みたいだっておれ自身が思っていたはずなのに、エン君に涙?って言われて咄嗟に否定してしまったし。
エン君が手を伸ばしてきたけど、おれは鱗を握りこんだんだ。


 ──見せたくないなあって思うんだ。
 ──見られたくないだろうなあって思うんだ。
 ……なんでだろ? 誰がだろ?


それでもエン君が握りこんだおれの手に手を置いて、じぃっとおれを見上げてきたら、
おれはゆっくりと手のひらを開かざるを得ないんだ]

[夢を見たかって聞かれたんだ。
夢?もちろん見たよ!]


 見たよ。確か……
 錬金術上級クラスで鍋パーティーしてたんだけど、ウォル先輩がランドランタートルの胆石突っ込んで怒られてたのは覚えてる。


[そのあと軌道修正ができなくて闇鍋パーティーになってたのも覚えてる。あ、エン君もなんでか参加させられてたよ。

おれが覚えてる夢はそれだけ。

夢ってたくさん見るらしいから、見てたけど思い出せない夢はいっぱいある気がするけれど、
それはさておき、なんで夢の話をしてるんだろう?って気にはなるから]


 ……エン君、こわい夢でも見た?

 
[って、おれはエン君に聞いたんだ]


    …怒られたくないって、
    私そんなに怒ったことあったっけ…?

[
 くすくすと笑いつつ、口づけには照れてしまう。
 …さらっとそういうことできるのは
 やっぱ大人だと思うし…
ずるい。

 潤さんは思った以上に子供だったみたい。
 そんなの気づけないよ、って思ったけど
 ……気づく要素はいくらでもあったわけで。

 見てるようで見てなかったってことなのか
 私があまり踏み込まずにいたってことなのか。
 
 どっちにしろ今日でそれはおしまいにしよう。
 
……私、潤さんと結婚したいし。

 結婚したいって思ってもらえないの、嫌だから。
                       ]


  
    潤さん、私が記憶なくしたままだったら。
    ……今頃どうしてた?

[
 記憶が戻ってなかったら
 今頃どうなってたんだろう。
 そんなこと考えるの、不謹慎かな?
 なんて少し思うけど
 でも潤さんがどうしてたのかは正直気になる。

 だから、そんなことを聞いてみた。
 …聞いたっていいよ、ね?
                       ]*

 おれ、エン君に話したことあったっけ?


[確かないはず。

エン君が知らないはずの名前がエン君の口から出てきたんだけど、どこでしちろの名前を知ったんだろう?
しちろを知ってるヤツ──…
おれ以外にも生き残りがいたのかな? 独自に事件を調べてるヤツとかいるのかな?
なんの目的でエン君に教えたんだろう? 

……しちろの家族って事もあるのかな? 遠い島国から浚われたって言ってたし。
あ、しちろの家族はしちろが死んだって知ってるのかなあ


おれは、おれじゃないおれが教えたなんて真相を予想できるはずもないから
]


 エン君、それ誰に聞いたの?
 どんな人に聞いたの?
 

[きな臭いやつだったら排除しなきゃいけないし、そうじゃないなら話してみたいなって思うから、質問はちょっと喰い気味だったかもしれない。
仕方ないよね、気になるし!**] 

[涙みたいだ、と思ったそれはすぐさまハチヤの手のひらに隠されて、伸ばされた手はそれに触れられない]


 ……ハチヤ……


[でもそれが欲しいんだ。じっと見上げたら、諦めたみたいに手のひらをひらく。改めてみたそれは、やっぱり涙みたいだ。


 そろりと手に取り、じっくりと眺める。不思議だ、今までこんなかたちになったことなかったのに。俺はおそるおそるそれを口に入れようとしたけれど……どうしよう。これがなくなってしまったらなんだかあいつとの思い出まで消えてしまいそうで。やっぱり今はそっと握りこむだけにしておこう]

[そうして聞いたハチヤの夢には]



 ……………。へー。



[ほかにどんな返事があるっていうんだ。とりあえず、こいつと夢を共有してたりだとか。夢の中で、俺を忘れたこいつと会ってたとかではないらしい。となると本格的にただの夢なのだろうか]


 いや、お前から聞いたことはないな。


[うん、ハチヤからしちろの話を聞いたことはない。とはいえ夢で見た、というのはどこまで理解してもらえるのだろうか。というかハチヤから聞いたことのないはずのしちろは実在していた。なら……本当に、どこまでが夢でどこからが現実?分からない。分からない、けれど]


 ………。


[しちろの話を熱心に聞いてくるのは、ちょっとおもしろくない。内緒にしてやろうかとも思ったけれど、俺もまだ知りたいことがあるから]



 ………。夢でみた。夢にお前が出てきて、俺のこと知らないって言ってた。
 それで、しちろは旦那だってさ。



[めいっぱい不機嫌になるのは仕方ない。あっちのハチヤ?夢のハチヤは俺を一番にしてくれたけど、この、現実のハチヤにとってはしちろが一番なんだろう。顔が歪むのも仕方ない、だって堪えないと泣きそうだ]



[ここを聞いておかないと、俺はきっと進めない*]
 
 

[やっぱりおれが話したことはないらしい。
じゃあ誰がって聞いてたら、どんどん空気が冷えてってるんだけど……エン君大丈夫?風邪引かない?毛布被る?]


 …………


[冷え冷えのエン君いわく、夢におれが出てきてしちろについて教えてくれたらしいんだけど……]


 うん、しちろは旦那さんだよ


[ごめん、エン君。
エン君が怒ってるのはわかるんだけど、おれ]

[顔が熱を持つのを止められないや]
 

 ──おれが教えてないのに、おれくらいしか知らないことを教えられるって……

 エン君と夢で繋がってたんだろうな!


 すごい
伴侶
って感じがするんだけど!
 どうせならそっちの夢を覚えてたかった!


[でも、エン君を覚えてないおれって想像つかないなぁ…なんて!
そっちの方が嬉しくて顔が緩んじゃったし、色々口から零れちゃった。

エン君が怒ってるのにごめんね!
エン君が、しちろの話してるのにしちろそっちのけになっちゃってごめんね!]


[分かってるつもりだけど。納得したつもりだけど、やっぱりこいつの口からしちろの話を聞くのは面白くないんだ。ちょっと視線を逸らすのは仕方ない、だから犬の表情の変化なんて気がつかなかった、けれど]


  う、え?



[知らなかったことがたくさん返ってきた。というかこいつらにとってしちろの立場って一体。

言葉だけでは信じられない。って思ってたのに、次々暴露されるこいつの本音は疑いようもなくて。というかそうだ、こいつ犬だからそもそも嘘ってつけないし、今の状態で俺が一番だって言うなら、そう]


 ……そ…んな前とか……しらない、し…
 も……言え、よそんなの…


[顔がどんどん赤くなっていくのが分かる。けど喋り出したこいつは止まらない。こいつ、本当に俺が好きだったんだ。ならば]

[そういえばエン君、おれからしちろの話聞いたみたいだけど、7日7晩の話も聞いたのかな?


エン君いわく"そんな前"からおれはおあずけされてたから、おれは今さら待てなんてできないんだ。


だから、聞いてなかったとしてもするつもりなんどけど……
大丈夫!手加減は、たぶん、きっと、予想では、できるはず!……だといいなぁ**]


  はちやぁ……


[自分でも驚くくらい甘えた声が出たけど、もっととねだるみたいに唇を寄せたら嬉しそうに再びキスされたからどうでもよくなった。


 七日七晩は……忘れてたけど、今それを言われたなら。多分、俺は嬉しくなって、うんって答えてしまうのだと思う**]


[そういえば、あっちのハチヤとはキスはしたけど舌を触れ合わせたことはなかったなんて思い出して、キスの合間にそっと教えてやろう]


 ん。ふふ。
 俺。旦那はお前だけど、他に嫁ができたんだよ。
 嫁はあいつひとりって、約束しちゃった。


[そういったら、どんな顔をするだろう。そっと布団を持ち上げてハチヤを引っ張り込みつつ顔を覗き込もう*]

[いつの間に。

他に嫁ができたっていつの話なんだろう?
エン君がお嫁さんになったのは昨日だからそれより前?
おれより先に番になったヤツがいるなら、エン君おれのとこいていいのかな?

エン君の衝撃の告白に、おれは目をぱちぱちさせたんだ。
お嫁さんとこ行かなくていいの?って聞きたくなったけど、
言いたくなかったから、かわりに引っ張り混まれついでにエン君をぎゅって抱き締めたんだ。

どっちが好き?なんて聞けなかった。
なんでだろ、エン君がお嫁さんを選んでも嫌だし、おれを選ぶのも嫌だなって……おれはおれを選んで欲しいはずなのに思っちゃった]


 エン君


[それでも]

 

 エン君、ごめんね。
 エン君のことお嫁さんとこに渡したくない。
 おれはエン君と離れたくないのに、エン君を離してあげられなくて、ごめん。


[渡したくない、これだけは言えるんだ。

お嫁さんは傍にいるだけで幸せな存在だから、
おれだったら、エン君と引き離されたら嫌だから、
それでも、おれがエン君から離れるのも嫌だから、おれはエン君が逃げらんないよう、ぎゅうって抱き締めて目を瞑ったんだ**]


[驚いたみたいに俺を見つめてくるハチヤに、未だぼんやりするまま満たされる──声に出して言われるよりも雄弁に、目が俺を離したくないって言ってくれるから]


 うん。渡さなくていいよ。
 俺にはお前だけだよ。


[ぎゅっと瞑った瞼に順番に唇を落として、額にも。こめかみにもちゅ、と音をたてて口づける]


 夢でな。お前に嫁にしてって言われたんだ。
 だからお前以外には嫁にしない、って答えたから。

 あいつ以外に嫁は貰わないし、旦那はお前ひとりだからな。お前に離されたら、俺ひとりになっちまうよ。


[だから、耳元で囁こう。そうして安心させるように口づけるんだ]


 俺の嫁も旦那もハチヤだから。他が入る場所なんてもうないよ。


[めいっぱい、ハチヤの全力で俺だけを愛してくれたらいい。少なくとももう俺はしちろに譲る理由もなくなった。
 逃げるつもりもない腕の中、嬉しそうに笑い。誘うように全身で、大好きなこいつを抱きしめよう**]

 
     ──────別れた。

     もし、美鶴さんが記憶なくしたままなら
     しばらくの家賃置いて、
     行方くらましたと思うし連絡先も消した。
     もう、あなたに会わないようにするために。




   それだけ、嫌だった。
   流石に4年かけてその結果になるのなら
   彼女の記憶の鍵が察せるほどの人間でもなく
   彼が贈ったものは響いていなかったということ。

   だから、もしあれで記憶が戻らなかったなら
   ごめんなさい、と告げて
   愛しいはずの彼女に別れを告げる。
   あと4年頑張れば、と言われては
   元も子もないけれど、彼にとっては
   記憶が戻らなかったという事実がある。

                        ]

    ……ま、そんなもん。

   *



    ……そっ、か。
    そうならなくて本当によかった。

    私の“鍵”よくわかったね…?
    自分で買ったものじゃなくて、
    貴方に貰ったもので……
 
    「私達を繋ぐもの」だから凄く特別なものだった。
   
    …大事にしすぎてあまりつけてなくて
    申し訳ないな、って思ってたけど。

[
 ぎゅっと抱きつく腕に力がこもる。
 ……記憶を捨てなくて本当によかった。
 大切なものを失わずにすんで
 本当に……よかった。

 四年頑張らないの?なんて言うつもりはあるはずもない。
 心が折れる瞬間って必ずあるし、そう聞くのは
 記憶をなくした私にそこまでする価値があるって
 言ってるのと同じな気がするから、私には言えない。
 
 …………私ならどうしたか?
 それは、聞かれたら答えるけれど。
 少なくとも潤さんと同じ選択はしない。

                           ]


    変なこと聞いてごめんなさい。
    …潤さんは?
    聞きたいこと、あったりしない…?

[
 夢で聞かれたことは応えたけど
 他にも聞きたいことがあるなら、
 そう思って促した。
                ]**

 

 うーん……


[エン君の旦那さんになって一年経ったある日、いつもの寮の部屋のなか、おれは紙束と何通かの手紙を前にして、頭を抱えた。

紙束の中身はざっくり言えば家と土地、手紙の中身は街や区からうちに来ないかって話だった。
優秀な人間は吸血……クリムゾンになることができるから、成果を上げたけど、人間のままの錬金術師は希少みたい。
未だにクリムゾンを怖がってるとこからの誘いが多かったけど、それは断ることしたんだ。不都合しかないもん。


一回クリムゾンにならないか、推薦はできるって話は来たけれど、体質的に無理だったんだ。
あとからエン君がクリムゾンの中で短命だって話を聞いたとき、おれはおれの体質に感謝したね。
エン君とずっと一緒にいるためにクリムゾンになろうと思ったのに、エン君なしでずっと生きなきゃいけなくなるとこだったなんでゾッとする!]

[悩んでるのは物件じゃないし土地でもない、もちろん職場って話でもない]


 お断りの手紙って難しい。
 全部文面同じじゃ駄目なのかなぁ、手書きじゃなくて複写したいよ……


[お祈りのお手紙で腱鞘炎になりそう。

どこで働くかなんてエン君の職場の近くに決まってる。
錬金術は工房作れば家でもできるんだ、エン君に毎日おかえりを言うためにも、どこかに勤める気はないんだ。

それに、エン君の職場は"ちょうど"専属の錬金術師がいなかったって話だ。
エン君に連れられて話をしたらすんなりと、そこに卸すことも決まったんだ。

………………本当に"たまたま"なのかなぁ、エン君わざとそういうとこ探して内定もぎ取って来てない?って、
さすがにおれもちょっと感付いちゃったんけだけど、結果的にはみんな幸せになってるから素直に喜んでおこうと思うんだ!]

 

 ……………やめた!
 今日はもうやめる!


[って、投げ出したけど、ちゃんと何通かは出来上がってるよ。
ちょうど今はエン君成分が不足してるから、エン君を迎えに行くついでに手紙も出してこようと思うんだ。


あの一件から、おれはあれほど固執していた魔法陣クラスの時間を減らして、錬金術クラスの時間を増やしたんだ。

あの日の薬の一件は、おれにとってはそれくらい重くって、あとから聞いた話だと本当にお弁当を食べてたおれが食べたからあれで済んだけど、
それ以外が、エン君が食べちゃってたら命に関わってたらしいって話だったから、おれはもっと知らなきゃって思ったんだ]

[それから、エン君の家族にも会った。

おれがステラ=セーゲンさんだと思ってたのはエン君のお義母さんのライリーさんで、本当のステラさんは違う人だったんだ!

最初聞いたときは素直に信じられなくて、エン君に
「でもその人、せーじろさんじゃないのかな?エン君が学園来たとき、そう呼ばれてたし。
それとのあさん、せーじろさんがそう呼んでたはず……。
だから、先生さんでねぇねさんがステラさんだと思ってたんだけど……違うの?」って聞きなおしちゃった。 

その時のおれはよっぽど変な顔してたみたいで、しばらくエン君にその事で弄られたよ!
可愛かったからいいんだけどね。


ともかく、ライリーさんに息子さんをお嫁さんにくださいって言うことが出来たから、エン君の家族にあった目的は果たせたんだ。
思ったよりもすんなりと許可が出たからびっくりしちゃったんだけど……
なんでかせーじろさんの方がびっくりしてたから、おれはちょっと冷静になったんだ。本当になんでだろ?]

[エン君のおじいさん?は言ったら悲しい顔されたからアルフィーさんって呼ぶことにしたんだ。
エン君のおば…………フレヤさんはフレヤさんだった。ちょっと気温が下がったけど無事にすんだから、止めてくれたせーじろさんに感謝したよ!


アルフィーさんいわく、エン君はクリムゾンより短命で、おれは普通の人間より長生きするって話だった。

それを知った今おれは、二人の終わりが一緒だったらいいなあって思ってるんだ。


死が二人を別つまで?
おれはもう置いてくのも置いてかれるのもごめんだから。

置いてったことはないはずなんだけど、そう思っちゃうから、一緒に終わりを迎えられるなら、
その時が来たのなら、法も倫理も無視しようって考えてるんだ。


あ、エン君には秘密だよ!
まあ、エン君いわくおれは嘘がつけないらしいから……
*気づいてそうな気はするけどね!*]

 
[あの館は何だったのだろう。
 人の一番大事な記憶と思いを奪って、その相手に忘れた姿を見せつけて。趣味が悪いにもほどがある。

 アマミさんは許しても 私は許せない。
 
 失って戻って、記憶の重さと大切さを再確認出来たのは悪い事ではないけれど。
 奪われた事自体を許せる程心は広くあれない。

 ……やっとで長年の理不尽な仕打ちから解放されたのに、まだこんな目にあうのかって思い返す程苦しくなる。

 この感情は家族の時と同じだ。
 二度と関わりたくない。
 仕返しまでは流石に考えない。
 恨んで生きる真似はしない。
 そんな身勝手な存在にこれからの人生を、幸せを邪魔されたくない。
 私を不幸にしようとする存在とは関わらず、とらわれず、自分の力で幸せになってみせる。

 ただ、許すことだけはない。それだけだ。]
 



   まぁ…………俺の中でも、
   あれはあなたに贈った1番最初のものだから
   思い入れがあってさ。
   …………あなたが現実でつけていないのは、
   大切にしてもらっていたからだと、
   信じたかったのもあるかな。




  彼女がぎゅっと抱きついてくると、
  朝食を作る気力も、会社に行く気力も
  すっかりなくなってしまうのだが。
  
  立場が逆転したら彼女がどうするのか、
  気になるけれどもあまり気にしないでおきたい。
  だって、彼と彼女は逆だから、
  なんとなく察しがつく。

                        ]






   
好きすぎるわ…………

   ちょっと待ってな…




  小さく呟いて、携帯を手に持ち
  ぽちぽちとメッセージを送った。

 『忽那体調不良で有休お願いします』

  と、先輩に。
  でも念のため彼女に休む?と
  確認をとってから送ったはず。

                   ]*




    だって万が一なくしたら……
    
……私多分死にたくなるので。


    でも、気にするんだったら付けたほうが…?

[
 大げさ…?だってそれくらい大事だし…
 実際なくしたらちょっと冷静でいられる自信がない。
 たぶん泣くし、すごく騒ぐし
 ……そんな私を相手する潤さんが大変そう。
 
 潤さんに抱きついてると、どうも仕事に行きたくなくなる。
 というか、夢のせいで寝た気がしない……。
 そんなことを考えてたのがばれたのか、
 それとも私と同じことを考えてたのか。
 休む?と聞かれてすぐ頷いた。
 携帯で休む旨の連絡を入れておいて。         ]



    
大好き……

    ね、こうしてていい?

[
 ぎゅうっとくっついたままでいたくて
 嫌って言われても離れる気ないけど聞いてみた。
                        ]*

[卒業間近の寮の部屋、あいつは最近うんうん言いながら机に向かっていることが多い。

 もうじきこの部屋も出ることになる。入った当初は他の部屋とあまりにもかけ離れた魔改造っぷりに引きつったものだが、慣れてしまうと確かに快適だし必要なものがきっちり揃ったいい部屋だった。


 卒業後の進路も無事に決まり、あいつから特に何も言われなかった、のだけれど当たり前みたいに職場近くの物件候補をいくつか見せられたものだからちょっとだけ驚いた。ハチヤに言わせるとお嫁さんと一緒に住むのは当たり前ってことらしい。驚いただけで嬉しかったから全然構わないんだけどな。

 就職先は……ちょっと、ほんのちょっとの恣意は入ってる。だってあいつ、魔法陣学であれだけ苦労してたのは何なんだ、というくらい、錬金術はすごいし。自宅に工房作りたい、毎日家で俺のためにごはんを作って俺のためにおかえり言いたい、って言われたら……うん。頑張って条件に合うところを探したさ!




 たまたまなのかわざとなのかって疑いながらこっそり俺の様子伺うハチヤは可愛かったので、頑張った甲斐はあった]

[ハチヤと二人してどんな部屋にしようかと内装を悩むのは楽しい。クルスの家は、頼めばきっといろいろと手伝ってはくれるけど、できることならハチヤと二人でやってみたくてお願いしたから緩く見守ってくれている。就職と引っ越し祝いは何がいい?ってアルフィーさんがいい笑顔だったのが怖いけど。


 クルスの人たちが反対もせずにハチヤとのことを認めてくれてよかった。ライリーさんに、いいの?って聞いてみたらこれが俺のためには一番いいと思うから、って。たしかに俺もたぶんハチヤも、下手に反対されたら二人して自滅していくタイプだと思う。
 あっさり認められすぎて清次郎さんが呆然としてた。あの人ノアさんと結婚するためにライリーさんとフレヤさん連合相手に決闘したらしいからな……言い訳するなら、俺はアルフィーさんに認めてもらうために予めハチヤのプレゼンとかしてたし!]

[あいつの宝物だった魔術符だけど、あれの形式はステラ=セーゲン式に似てたらしい。あいつはそれで得意じゃない魔法陣学に拘ってたらしいけど、あの夢のあと魔術符が消えて、今までみたいに魔法陣学に拘らなくなった。

 ついでにステラ=セーゲンの創始者に並々ならぬ憧れがあったらしいんだけど、その憧れの人物をすっかり俺の義母であるライリーさんだと思い込んでいた。途中何度か違うよ、とは言っていたんだが。

 クルスの家で誤解が解けたんだけど、ライリーさんと清次郎さんとノアさんとを見比べながら酢でも飲み込んだみたいな顔してた。なんで誤解したのかを聞いたら分からないでもなかったけど。ついでみたいにライリーさんと清次郎さんの訓練という名の決闘騒ぎになってたけどいつものことだから割愛しよう]



[まぁ諸々含めて考えて……俺は今、かなり幸せだと思うんだ。あの夢がなんだったのかは知らないし、消えてしまったあのハチヤを夢にみることはたまにある]
 
 


 ……。


[俺は今、ハチヤのデスクで見つけてしまった研究資料を眺めながら考え込んでいた。これ……魂の同化実験とか、かなりヤバイやつだよな?
 専門用語だらけで専門外の俺には難しい内容ではある。けれど実験結果の統計とかを眺めるに]



 魂を同化することにより、寿命の長いものを縮小し、同時に寿命の短いものの命を延ばす。
 実験の結果……同化されたふたつの生き物の寿命を、同じくする……



[なんとなく。あいつが何をしたがっているのかは、分かる気がする。あいつは多分、俺がいなくなったら生きていけないと思う。自惚れとかではなく]


 …………。
 ったく……こんなヤバイもん、適当に机に放りだしていくなっての……


[考えた結果。俺はこれを見なかったことにした。あいつはいつかこれを実際に俺に使うんだろうな。だから……俺は、その時を楽しみに待つことにしたんだ**]



   つけやんくてええよ。
   大切にしてくれてるって分かったし。
   ……外に出るとき、たまにつけて。
   それだけで、俺は幸せ。




  嘘なんてついていない。
  銀行員だし、下手に男の気配を匂わせて
  何か問題に発展したら元も子もない。
  だから、デートの時に偶に見たいくらい。
  後は、特別なときにつけてくれれば
  彼としても大満足なのだ。

  彼女も休む選択をしたので、
  先輩に連絡を入れて携帯をマナーモードに。

                       ]





   ん?……勿論。
   もう1回、寝よか。
   今度は、幸せな夢見たいわぁ。



  彼女が更にひっつくと、そっと髪を撫でた。
  離したくもないので、脚を絡めて
  目を閉じながら彼もひっついて。

  昼まで起きないつもりで微睡の中に。
  昼食も多分彼女が作ったかも。

                      ]*




    
    うん、つける。
    よく考えたらつけないと貰った意味ないし…

[
 よく考えなくてもわかりそうだけど。
 それくらいなくしたりするのは嫌だったから。

 離さないとばかりに脚を絡められれば
 くすくすと笑ってしまう。
 そんなことしなくたって逃げないのに。

 寝息が聞こえてくるのを確認してから、
 彼の唇にそっと口付けを落とす。
                       ]

[
 つぶやいてすぐに眠りに落ちた。
 昼頃にお腹が空いてお昼でも作ろうか、
 と起きたけどぴったりくっつかれてたから
 どうしようかな、なんてちょっと思ったりして。
 だって動いたら起こしてしまいそうだし。

 離してくれるならお昼はパスタにでもしようかな
 なんて思いつつ作ったと思う。
                       ]*





  彼女を離すタイミングは多分あった。
  物理的な話で。
  眠るまでは意識がはっきりしてるから、
  ぐっと力が入るけれど、
  眠った後というのはそういうわけにもいかず。

  彼女が昼食を作るために腕の中から離れたなら
  気づかずにそのまま眠り続けて。
  彼は多分とても幸せな夢を見ていたことだろう。

                         ]


          





    ──────なら、仕事辞めてええよ。




  たぶんこれはゆめのなか。
  彼が彼女に何かを話しているけれど、
  彼女はうーんと悩んでいる。
  そして出てきた上の発言。

  彼女は、どこかびっくりしているような。
  彼がそんなことをいうとは、と
  思っていたのだろうか。

                     ]






    また改めてプロポーズするけど、
    こうなった以上は。

    ────俺と結婚してください。
    ずっと、一緒にいてほしい。




  そう言って1番驚いたのは多分彼。
  次の瞬間には純白のドレスに包まれた彼女。
  それを見たなら飛び起きたかもしれない。
  彼女が起こしてくれたタイミングなのか、
  そこは覚えがなかったけれど。
  寝言で言っていなければ良いな、と
  思ってしまったのはまだ彼だけの心の中に。

                       ]*




[
 ふ、と力が緩められたタイミングで
 起きて抜け出した。

 よく起こされる側になるから
 潤さんの寝顔を見ることって少ない。
 だから、抜け出してもすぐに昼食を作りにはいかず
 暫くは寝顔を見ていた。
 
 
……愛おしい想いが溢れてくる。


 ずっと傍にいたいし、
 
きっともう、潤さんがいなかったら

 
生きていけないな、なんて。



 しばらく見ていたけれど
 空腹に負けて昼食を作ることに。
 ソーセージ、玉ねぎ、ピーマンを切って
 作るのはナポリタン。
 
……手の込んだ料理を作るには

 
ちょっとお腹が空きすぎてるというか…。

 付き合う前よりは格段に手際よく調理できるようになった。
 調理が終われば、部屋には
 ケチャップの香りが漂っていたんじゃないかな。
 盛り付けて、すぐ食べられるようにしてから
 潤さんを起こしに行くことに。
                           ]


[
 残念ながらと言うべきか、
 彼が何か言っているなって言うのはわかったものの
 何を言っているかまではわからなくて
 だから、ぐっすり寝てるんだなあ、って思いつつ、
 せっかくだから、前されたこと真似してみようか
 なーんて思ってたのに。
                        ]

    ……潤さん?!
    きゅ、急に起きたから
びっくりした……。


[
 なぜか飛び起きてきた彼のせいで
 失敗に終わった。
 
 
……チャンスだったのに!!

 なんて思ったらちょっとだけむっとしてしまって
                        ]



    
お昼ご飯、出来てるから早く起きて!

    
冷めちゃうから!

[
 なんて、引っ張り起こそうとしてみたり。
 ちょっとほっぺたをぷくっと膨らませつつ
 お昼ご飯にしたと思う。
 なんでむっとしてるの?
 なんて言われても、教えてなんてあげない。
 ……まあ、言うまで聞かれるかもしれないけど。
 何かいい夢でも見てたの?なんて言えば
 彼は教えてくれたかな…?
                       ]




  彼は思った。
  起きた瞬間に若干怒られながら
  起きてと言われるのは何故なのかと。
  
  勿論拗ねた理由を後々聞いたけれど、
  彼が夢の内容を教えなかったので
  彼女も勿論教えてくれなかった。

                   ]

   ……まぁええか。
   美鶴さん、お昼作ってくれておおきに。



  ナポリタンを一口、また一口と食べ、
  彼は心の底からホッとしていく。
  彼女との繋がりは無事に切れることがなかったから。

  これからも、ずっと一緒にご飯が食べられますように。
  そんなことを彼は願って、貴重な時間を堪能する。
  最愛の彼女と一緒に。

                          ]**

[
 客人が赦そうとも赦さずとも
 館の主には関係のないこと。

 むしろ赦さない、などと思われる方が
 望ましいなどと言えば…

 気の強そうなあのレディは何を思うのだろうか。

 赦さない、のは忘れない、のと同じこと。
 忘れられないということは何か影響を及ぼしたということ。
 正確には、赦さないと思い続けるのであれば、か。

 まあ許されるかどうかなど、どちらでもよい。
 夢を忘れられない以上は、館の主は満足するのである。

 記憶にありつけなかったのは多少なりとも残念ではあったが。
                             ]

[                      
 今日も幸せな二人を館に誘っては、
 片割れの記憶を奪う。
                 ]


  「ねえ、どうしてそんなひどいこと言うの?
   私のこと覚えてないなんて、嘘よ!
   婚約までしているのに!!!」

  「だから、本当に知らないんです。
   僕には婚約者なんていないんです…」

[
 ああ、可哀そうに。
 あんなに混乱して。
 あの二人は果たして
“鍵”
を見つけられるのだろうか。
                          ]