148 霧の夜、惑え酒場のタランテラ
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| 【人】
ほら、こっち、こっち。
(0) 2022/05/23(Mon) 0:00:00 |
― 三年前 ―
頼む! 俺の娘が病にかかったんだ!
金ならある!
頼むから薬をくれ!
……材料が切れている?
それで今ギルドに依頼が出ている?
分かった、俺が行って来る!
[家を買う為に貯めた金を惜しみなく、医者の目の前に差し出しながら必死に縋った。
その日は少し危険な依頼に身を投じていた。帰って、アイシャの様子を知った時にはもうあちこちボロボロで、魔力も大分なくなっていた。
それでも、迷わなかった。
出立前に彼女の顔を見に行って、手を握りしめた。
彼女は凄い発熱をしていて
息も荒く、こっちを呆けた視線で見た。]
……アイシャ、ダメな父親で
ゴメンな、いつも、
いつも……
[泣きそうになる父の手を、娘はぎゅうと握った。
そうして首を振って笑った。]
「ううん、お父さんは……駄目じゃない、よ
私の、自慢の……お父さん。
お父さんだけは、私を見捨て、なかった…
ありがとう……無理しないで……ね」
[涙が零れた。]
誓う。
何があってもアイシャ、俺はお前を守る。
[そう言えば、娘は安心したように目を閉じた。
覚悟は決まった。]
[ギルドで依頼を受け、男は飛び出した。
ギルドで彼を見かけられたこれが、最期の姿である。
その薬草がある地帯は暗くなると危険だ。
それでも、身を隠し、ギリギリの魔力を駆使して敵の足だけ削る等々工夫して先に進んだ。
崖が近くにある薬草地帯。
目的の物を焦りながら探した。
探すために使わざるを得れないライトの魔力分の体力が減るのすら鬱陶しい。]
……頼む、頼む……あってくれ!!
アイシャが、あいつが危ないんだよ!
[半分泣きそうになりながら必死にかき分けた。
その前から残ってる傷に
途中で受けた攻撃から流れる血。
手は土まみれ。
顔は涙でぐしゃぐしゃ。
それを両手で叩いて落ち着け、と
自分をコントロールしようとする。
探す事暫し。それは運よく見つかった。]
……あった。
これがあれば……!
[その流行り病は対処方がもう見つかっていた。
薬さえあれば治る。元気になる。
気が抜けそうになるのを首を振って叱咤した。]
[ 荒い息がどんどん乱れる。
体のあちこちから流れ出る血が
体をどんどん死に追いやって。
それでも、歩みを止めない。
帰らなければならない。必ず。
約束したのだから!!!
]
なぁ、破滅をもたらす程のイイ女ってさ
どうしてタイミングに
恵まれているんだろうなぁ。
本当に、さ *
[ 青薔薇が導き
蝶が光となって幻想的に舞い
出迎えの挨拶と鼻をくすぐる食べ物の匂い
ここが霧の夜にだけ開く噂の酒場
噂を知っているのなら。
当然知っているだろう。
立ち寄ればどうなるかを。
どうして引き留める人がいるのかを
足を踏み入れたら
どうなっても知らねぇぞ
]
[ 霧の深い夜は全てを覆い隠すように
辺りを染める。
その中でも光る街灯に違和感はないか?
その先に進んで大丈夫か?
ほら、聞こえるだろう
導く者の声が……
ど
こ
か
ら
と
も
な
く
。
]
― 3年前 ―
[出会いたくない奴に
出会いたくない時に出会う。
そんが運命ってやつならどぶに捨ててやりたいものだ。]
「久しぶり」
[月を背負って現れた女は、
妖艶という言葉がよく似合った。]
……お前っ!
よくもまぁ、今頃顔を出せたなぁ
[流石にヘラヘラ笑うだけの余裕はない。
娘を俺に預けたあの女が、
アイシャを捨てた母親が目の前にいた。]
「今までありがとう
私ね、再婚が決まったの。
アイシャも育てる余裕がやっと出来たの
だから迎えに来たわ」
[ギラリ、と刃が光った。
今のユスターシュなんて片手間で倒せると油断しきってる。実際力なんてもうほぼなくて、立っているだけでやっとだった。]
ふざけんな!
あの子がどんだけ傷付いたか
苦しんだのかわかんねーのか!
お前はもうあの子の母親の資格はない!
[彼女は実に楽しそうに、笑った。]
「やぁだ。真剣になっちゃって。
なに? 幼女趣味だったの?
手を出されてたらちょっと困るんだけど?」
ふざけんな!!!
[怒りで頭が沸いた。
あの子をそんな目で見るのが許せなかった。]
「人って変われば変わるのね。
ふふ、でももう貴方は父親じゃない
[避ける体力すらなくて
握ったままの薬も手から零れる。
最期の力で彼女に火の魔法を向けた。
それは、服を僅かに焦がしただけ。
哀しい程、現実は、無情で
胸に剣を受けた。
薬草も取られたのは見た
空っぽの手のまま
ユスターシュは この世から 去った ]
(あぁ……悔しい、悔しい悔しい
あの子が苦しんでいるのに
俺を待っていてくれているのに
死にたくなんてねぇよ!!!
俺は、何も、出来ないまま
[そうして、この世に未練を抱えたゴーストがまた一人
現れることになった──── ]**
―― ――
セシリーは誰にでも好かれる魅力的な人。
それは里の外でも、同じだったらしくて。
とある小さな国に遊びに行った彼女は
忍んで出かけていた王子に見初められた。
彼女も何度か会ううちに惹かれていった。
想いあう二人は一緒になりたい、と思うようになる。
でも、それは叶えてはいけないことだった。
王子には婚約者が、既にいたから。
そもそも、貴族でもない女性と一国の王子…
しかも、将来王になる人が。
釣り合うと言ってもらえるわけがない。
周りは許すはずもなかった。
どんなに優秀でも、持って生まれたものは
覆せないのだ、と。
ほぼすべてを持っていたセシリーと
欲しくもない力だけを持っていた私のように。
二人は、周りの説得を諦めて
駆け落ちしようとした。
地位も何もかも捨てて。
それでも一緒に生きたいと願ったから。
私は―――――。
それが上手くいかないことを、知っていた。
当然、伝えようか悩んだ。
悩んで、悩んで―――――。
セシリーは……
王子を誑かした魔女として
殺
された。
未来なんて知らなければ
ただの被害者として私は生きて行けたのに。
姑息な考えになる自分自身がたまらなく嫌いで
何より、知っていたが故の罪悪感が
私を苦しめ続けていたの。
知っていたのに止めなかった。
それが里の皆にバレたら……
怖かった。逃げよう、と思った。
預言者としてのフィアンメッタなんて捨てて
どこか遠くへ行ってしまおう、と。
誰も、私を知る人が誰もいない場所へ行こうと。
何もかも、捨てたかったのに
セシリーから貰ったブレスレットだけは
―――――捨てられないまま。
[ 生きは良い良い、かえりはこわい?
此処から帰りたくなくなれば
ずっとここにいられるぜ?
そんな甘言は必要か? ]**
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