「オレと同じように沢山の名前を人類に与えられた強力な悪魔が
かつて、地獄にはいたんだよ。
彼女は誰よりも美しい姿をしていたけれど、とても凶暴で
暴れ始めると化け物になり、手がつけられる者は他にいなかった」
[ 何しろ共に生まれた弟すらも殺してしまったくらいだと、
愉快そうに、同胞たる姉弟の結末を語る。
人の仔には見えぬ何かを見出すように、
窓の向こう、館の外まで遠くを見つめた黒黄は細まった。 ]
「死んでいないよ。あれは、今もゲヘナの更に奥底で眠っている
それを抑え込む為にオレは動けないんだ」
[ 人間によって、共に
悪魔の王
とされた彼女
その者を封印する鍵となって以降遥かなる時が過ぎる間、
悪魔は現在までゲヘナから移動したことはない。
信仰という定義で
魂により生み出された装身具と自己を繋ぎ、媒介とし。
一時の体現をかつてよりは自由に成しているのみである。 ]