人狼物語 三日月国


203 三月うさぎの不思議なテーブル

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視点:


[しゃがんだチエに近づくけれど、手にクリームが山盛りついていたので]


 とにかく、わかった
 アンに伝えて、営業に支障ない範囲でこれからは私のヘルプも頼むね。条件面はまた今度……

 結構、こき使うと思うけど、良い?


[話しかけながら,チエの手を握る。
ハンドクリームのお裾分け。拭き取るのは勿体ないし、手は大事だから*]

だいじょうぶじゃないかも……

[顔があげられない。
 なんかもう、完全に片思いだと思ってたすれ違いとか、振ってほしいとか言っちゃったかっこ悪さとか、それはそれとして振られなかった現実とか、本物のデートしようとか、何もかもがぐるぐる頭の中で渦巻いて、立ち上がれない。]

メモを貼った。

うん、それは、全然、望むところ。
やらせてっていったの、ボクだし……

[条件とか、こき使うとか、冷静な話になってきたら少し落ち着ける。
 のろのろ立ち上がって、手をつなぐ。
 その行為がハンドクリームのお裾分けと気づけないくらいに、頭の中から指先まで熱くなってる気がした*]

ぬりぬり

 ………、  
良い。


[ 駄目にしたいんだ?という問い掛けには
 うなずくのみに留めた。

 ぽふんと、ダイブしてこちらを
 振り返る那岐くん、

 緩んだ頬で見られると心底、買って
 良かった、と思う。 ]

[ 僅かに滲みそうなものを、
 まだ出てくるなと押し込んだ事は否めない。

 到着早々ギラついた視線を向けるなんて
 いくらなんでも。ティーンじゃないんだから。

 時々敬語が抜けるようになってきて
 だんだん、君に近づいているのが
 感じ取れたから、一人で過ごして
 居るときのように、くつろいで欲しいのも本当。

 それを自分だけに見せて欲しいと
 思ったのもまた、本当。 ]

 だよね
 俺もそう思って。那岐くん来たら
 一緒に選ぼうと思ってて。

[ ピザとコーラに頷いて
 スマホ片手に、画面を見せるようにして
 一歩近づいた時、なにやらもぞ、と彼の体が
 移動していく。

 そっちは、今までも使っていた方だが
 はて。ある程度くたっとしているほうが
 心地よいのか、とか考えた俺の耳に、
 とんでもない言葉が飛び込んできて

 危うく、スマホを取り落とすところだった。 ]

 そう?那岐くんがいいならいいけど
 ……あんまりそう可愛いことを言うと
 高野さん動画鑑賞どころじゃなくなるので、
 気をつけて。

[ 今日に至るまで、あの言葉
 何度リフレインしたと思っているのか。 ]


 どれがいい?俺はとりあえずこれかなって

[ 平常心と二度胸中で呟いてから、
 スマホの画面を見せる、自分が選んだものは
 定番のトマトとチーズ、
 それにバジルが乗っているもの。* ] 

メモを貼った。

メモを貼った。

メモを貼った。

 

 …………?


[問い掛けに予想していた答えとは、
 違うものが返ってきた。
 良い?……のなら、まあ、いいのか。
 頷いているのであればと納得させた、後。

 ピザの合意を得たのは同じまだ20代の食べ盛り。
 スマホを掲げるのを横目に、
 改めて文明の利器の偉大さを感じる。]

[スマホ慣れしているんだろうな。
 とか、些細な仕草に今更気づきながら。
 
 愛しいクッションとの余韻を惜しみつつ、
 身体を起こそうとすれば、彼が手を滑らせたのか。
 落としそうになったスマホ。

 可愛いこと。

 口の中で反芻して。
 その後に続いた言葉を聞きながら、
 自身の行動を振り返ってみて、思い至れば。]

 
 

  あー……、
  ……いや、まあ

  ……  
……、はい。



[意図した訳じゃなかっただけに。羞恥が襲って。
 耳朶を仄かに染めながら、画面へと視線を落とした。]



[ 
嫌じゃない、
 と言いかけた言葉は。
  今、は、呑み込んでおく。

  過去の彼のことを知るために今日は来たのだから。 ]


 

[代わりに、トン、と肩をぶつけて。
 隣から覗き込むようにしてスマホを覗き込む。
 指し示されたものは定番のトマトを使ったもの。


  いいですね、バジル。
  後、季節モノなら……、サーモンと菜の花。

  サーモン、好きなんです。


[横から画面をフリックさせてカルボナーラを選ぶ。
 以前にも話した、好きなものの一つ。

 店の素材から選んで料理を考える瞬間も好きだけど。
 限られたメニューの中から好きなものを探すのも、
 それはまた楽しく、好みが分かれるから。

 それぞれの『好き』を知るのも、いい。**]

メモを貼った。

 

[ オープンショルダーを見た男の気持ちは、
  残念なことに乙女心を抱える大咲には察せないまま。
  先程彼の中の獣性を抑えて焦らしたばかりだというのに
  そっと髪へ触れてくる指先への警戒心さえ欠片もなかった。

  前も髪、触っていたような。
  好きなのかな、なんて思いながら ]


  ふふ、夜綿さんの好みになりたくて、気合い入れてるので。
  そう思って貰えてるなら嬉しいです。


[ もっとシンプルで大人びた服が好きなら合わせよう、とか
  色々考えてもいたけれど。
  元から自分が好きなかわいい服がちゃんと彼の好み通りなら
  それは運命と言っても良いような、浮かれすぎであるような?

  いつもと変わらないジャケットでも何でも構わない。
  約束した通り、私の思う貴方に似合う服で、
  貴方をコーディネートして私の夜綿さんに出来るので。 ]

  


 

  ……うれしい。
  私も繋ぎたいです、夜綿さん。


[ 短いシンプルなお誘いなのに。
  それだけで緊張がふんわりと解けていってしまうのだから
  こういう時、敵わないなあ、と思うのだ。

  きゅう、と繋いだ手はいわゆるところの恋人繋ぎ。
  離さないように、離れないように、指先へ優しく力を込め。
  へにゃんと幸せそうに頬を緩め、デートの約束。>>+5:+339 ]

 

 

  …合わせてもらっちゃうこと多くて、すみません。
  ありがとうございます。デート、うれしいです。

  えっとね、駅前のショッピングモールの中に
  ……見たことあります? ふわふわ生地のパジャマ売ってる店。
  あそこでお揃いのパジャマ買いたいのと、
  メンズ系は……んと、あんまり詳しくないから
  入ってるブランド下調べしておきますね。


[ 挙げられた名前のショッピングモールで異論はなかった。
  ふわふわのパジャマが買えるブランドは恋人同士用も売っていて
  それに、かわいい。大咲の趣味全開になってしまうけれども
  夜寝る時に見せる彼専用の姿なので、許してほしいところ。

  女性向けの服のブランドもお気に入りが幾つか入っているし
  アプリで軽くショップリストを表示させながら、
  こことかも行きたいです、と今のうちに意思表示。
  彼がいつも買うブランドがあるならそこを教えて欲しがって、
  お気に入りボタンを押し、下準備は入念にしておくことにして。
  そんな風にのんびりと歩いていれば。  ]

  

 

  ……?
  渡したいもの ですか?


[  まだ電車が動いている時間帯の自宅へのお誘いに、
  小首を傾げはしたけれど。
  もちろん喜んで、とはにかんで答える以外の考えは無いのです。
  ……翌日響かない時間に帰して貰えるというよりは
  お泊まりセット、置きっ放しなの、忘れていませんし? ]

 

 

[ マンションの5階、彼の家の前。
  ポケットの中を探した彼が取り出したのは鍵ではなくて
  小さな封筒だった。

  差し出される封筒をぽかん、と見つめる羽目になり
  数拍遅れて開けてみれば、中から出てくるのは
  自分の家の鍵とは確かに違う形の、彼の家の、合鍵ひとつ。 ]


  ……わ、ぇ、貰っちゃっていいんですか?
  キーホルダー……買いたいです、おそろい、の。

  わ……どうしよ、嬉しい、大事にします。


[ さっきから嬉しいしか語彙が無くなっている気がする。
  随分春で浮かれた頭からは単純な言葉しか出てこないけれど
  彼なら多分、気持ちを分かってくれるはず。

 促されるままにそっと鍵穴へ鍵を差し込んで。
 真剣勝負の時のように緊張した面持ちで、鍵を回す。
 ────扉が開き、玄関が姿を現すと同時
  彼が先に家の中へ体を滑り込ませ、こちらへ腕を広げた。

  ……ああ、ああ、もう!
  本当のほんとうに幸せにしてくれるのが上手い人! ]

  

 

  ……た、ただいま……です 夜綿さんっ


[ 店で他の人が言っているのを聞いても。
  そう言いたくなる気持ちを理解しても言えなかった4文字を
  振り絞るように、彼の名前と一緒に、しっかり紡いで。

  広げられた手の意図をちゃんと理解している大咲は
  その感情の勢いのまま、彼の腕の中へ飛び込んだ。 ]


  

 

  …………こんな風に、おかえりとただいまが言えたあとで
  自分の家へ戻るの……寂しい、です
  やっぱり今日、このままお泊まりしちゃだめですか?


[ というかもう次お迎えに来てもらえる時、
  何着か私服とパジャマと他の細々したスキンケアセットやら
  そういうのを置かせて貰おうと決意して。
  彼を抱きしめながら、伺うように顔を見上げて問いかけつつ
  あのね、とちいさく声を零した。 ]


  一緒に住む……同棲、の、約束 した日に
  ……個人的に、ひとつ。
  しっかり向き合ってきたことが、あるんです


[ 彼へ吐いた弱音とはまあ別の、と付け加えて。
  車で送ってもらった日に繋がった電話先の声を思い出しながら
  常よりもゆっくりと、言葉を。 ]

  

 

  いつ話そうか、迷ってたんですけど。
  合鍵をくれた今日、話したいなって……思って。


[ 聞いてくれますか、と問いかける大咲の心音は
  きっと常より早鐘を打っていて。

  抱きしめた貴方には、それさえ筒抜けなのだと思うと
  恥ずかしいような、……それ以上に幸せの、ような。
  不思議な心地ばかり。** ]


  

メモを貼った。

メモを貼った。

―― ラムの日 ――
  
[カウンターを挟んで語られる会話は
 杏の可愛い談義だったか

 会話に交わらずとも、時折耳を傾けながら。
 同僚たちの従姉妹の評価に小さく笑う。
 可愛いだけで済まさずに、マダムとしての評価も
 見ている辺り、さすが速崎と言ったところ。
 
杏が可愛いのは昔から当然だから。

 ……というのは、可愛がられてきた従兄弟としての言い分。

 その速崎の方へと目を向ければ、
 いつも一人で食事を楽しんでいる女性と話していただろうか。
 
 葉月は今日は一人で食事を楽しんでいる様子。
 時折、美澄と話しながら。]

[花を見に行きたいと、言う知恵の声。
 笑いながら、応える沙弥の姿に
 ああ、ここにもまたひとつ、花開く。

 肉好きの人と綺麗な女性が二人で店に来ることも、
 その頃には増えていただろうか。
 
 美味しい食事と楽しい会話。
 今日も過ぎていく一日。]
 

  美澄、……ラム焦げそう。


[さて、この後輩は相変わらず腕は確かなようだが。
 あれからルームシェアの話は進んだのかどうか。
 あまり突っ込みすぎるのも、
 先輩風を吹かし過ぎるようで口を挟まないまま。
 静かに見守ることにしよう。**]

メモを貼った。

── 同士は提案を却下した ──

[大咲さんに鈍感天然同盟を持ちかけたら却下されました。
素質はあると思うよ!!

しかしNOと言えるの大事なので、大人しく心の中だけで同盟を組もう。色んなところから怒られそう。
ほら。やっぱり同士だ。]


おもちはね〜〜。やっかいだって聞くよ〜?

神田さん大人だから、『余裕です』って隠すかもしれないし。
『なんでもない日』にもたくさん伝えてあげてね。

きっと喜ぶ!何故なら俺なら喜ぶから!!


[ソースは俺です。
そして俺は自分なら大丈夫とか全く思いません。
ほらね。
俺に『なんでもない日おめでとう』のパーティーを教えてくれた大咲さんには。毎日パーティーしたいくらい。幸せでいて欲しいなって思いました。**]

── お兄ちゃんにご報告 ──

[お兄ちゃんこと神田さんは、内心はどうあれ、俺に新設に接してくれる。そりゃ懐きます。]


やっぱりバレバレだった??
周りより自分の方が鈍いの、大咲さんから鈍感天然言われても反論出来ない。

慎重と言うか……タイミング?が合わなかったかなぁ。
本当に色々ありました……



あ。これだけは言わせておいてね。
俺は玲羅一筋だし、大咲さんは俺に神田さん好きとか惚気てくるからね。


[嘘は言ってない。

[紅葉狩りのお誘いとか嬉しいんですけど?]


玲羅に聞いてみる。
玲羅が神田さんや大咲さんとどれくらい親しいか分からないし。

でも誘ってくれてありがと〜。
紅葉狩り綺麗だろうね〜。
い〜〜〜な〜〜〜……。


あ。手を繋いだのおめでとうございます。


[ちょっと紅葉に想いを馳せていましたが。
戻って第一声でおめでとうを言ったのでした。**]


え?うん。そのつもりだけど。

[職場でいつも地味スーツなのは単純に
あんまり職場で着飾ると色々面倒くさいからで、
そこまで服装規定が厳しい会社ってわけでもない。
後輩も時々指輪つけてきたりしてるし、咎められたりもしなかろう。

うん、たぶん大丈夫。
と思い返しながら彼の方を見れば
期待と不安。そして何より嬉しそうにじっとこちらを見つめていて。
ふふ、と釣られて微笑みながら頷く。

牛になる彼にからから笑いながら手を繋いで。
目的地のアクセサリー作り教室へ。]


ん、分かった。シルバーだね。

[これだけでは結婚指輪をイメージして、とまでは分からず
そっかー、とそのまま受け取ったけど。

左手につけるものだと思ってたって言われたら
ちょっと照れたようにどぎまぎしたと思う。]

一応指輪つける手、
恋人同士は右手の薬指につけることが多くて…
左手だとその、一般的には夫婦とか婚約者…に見られると思うんだけど、えっと…
いや、瑛斗がそれでいいなら全然いいんだけど……


[と、赤い顔で答える玲羅がどっかにいました。]

[話を戻してリングの装飾ね。
最終的な判断を委ねられたので]

んー、じゃあねー、槌目にしようかな!
形は甲丸で、質感はクリア。
幅は3mmくらいかなあ?広すぎず狭すぎず。

[普通に結婚指輪としても使われているデザインだけあって
そこまで華美なものではないのだし
着けやすさ、は多分どれでもそこまで大きくは変わらない。
どちらかと言うと個人の好みになってくると思う。

柔らかな丸みを帯びたスタンダードな形状と、
きらきら万華鏡みたいに光が反射するリングの表面が
何だか宝石みたいで気に入った。

裏に刻印を入れて貰う旨も述べて。]



よし、頑張って作ろうねー!!


[特に彼の方から異論が出なければ
気合を入れて作業に取り掛かるつもりだ。**]

メモを貼った。

[手を繋ごうと誘ったら。
「繋ぎたい」と気持ちを言葉にしてくれる。
何度同じ遣り取りをしてもそれが嬉しいし、
「うさぎ穴の白うさぎ」から「神田夜綿の彼女の大咲真白」に変わる瞬間に恋心が加速する。

離れないように指と指の間に力を込めて
気持ち揺らしながら歩きだす。]

 好きな子のスケジュールに合わせられるの、
 フリーランスの特権だよね。
 調整して「いける」って気づいた時の歓びを
 独り占めさせてもらってるんだもん、
 謝んないでよ。

[「自分に合わせてもらう」ことを気にする言葉に笑って。]


 さっき僕は、マシロちゃんがいつも可愛い恰好なの
 僕の好みのことを考えてくれてるからって知って嬉しかったよ。
 「合わせる為に考える」のが苦じゃない気持ち、
 共有できたかな?

[勿論、合わせることが困難な場面はこれからないとは言い切れない。
我慢や妥協が必要な時には無理をせずにお互いそれが難しいと口に出せる関係でいたいし、相手の難しさを軽んじることなく落としどころを見つけたいと思っている。

自分が彼女の休みに合わせてスケジュールを調整することに関しては、我慢も苦痛もないのだと伝わっていると嬉しい。
調整の度に気にさせてしまうことがむしろ自分としては心苦しいので。]


 ふわふわパジャマって……
 うん、通りすがったことはあるけど……

 って、
え?!

 僕が……ふわふわを……?

[思わず君がプリキュアだと言われたみたいな反応を返してしまう。
通りすがりに見かけた柔らかい色味のボーダー柄のナイティは、
可愛らしい彼女にはそれはそれは似合うと思うが
果たして自分に似合うかと言われると……着ぐるみ……?

戸惑いに暫く目が泳いだが、想像した「ふわふわパジャマ姿の真白」がどうしても現実の目で見たい誘惑の方が勝った。
まあ、絶対に彼女しか見ない姿だし、似合わなくて笑われるのも、彼女にならきっと嬉しい。]


 ん、マシロちゃんが行きたいショップも入ってて良かった。
 僕はね、ここでしか普段買わないんだけど……
 リスト見る限り他にもメンズショップはあるんだね。
 折角なら回ってみよう。

[いつも私服が可愛らしい彼女だからセンスを信頼しているけれど、メンズには詳しくないと言われて少しホッとした。
初恋が自分だと聞いていても、今までメンズ服に詳しくなる機会があったのか?と思ってしまいそうだったので。]

 ゆっくり見て回るなら、お昼もモールで済ませた方が
 効率的かもね。

 あ、前に取材したとこの新店、もう出来てるんだ。
 その時は一人だったから食べられなかった「カップルプレート」、
 一緒に食べて貰っても良い?

[モールから一度出て、Madam March Hareまで行くとなると荷物もあるし結構歩かせることになる。
立ち仕事だし駅ひとつ分歩くこともできるから体力面での心配はしていないが、デートとなるとたくさん歩くのに適した靴以外を履くことも考えられるので。
おしゃれの幅を狭めたくないという意味でも徒歩移動は極力減らしたい。

示したのは、以前取材で訪れたカレー専門店の系列店。
取材時に新店オープン予定と聞いていたが、ちょうど先日オープンとアプリ上に表示されている。
美味しさは読んだ相手にも伝わったくらい筆が乗った記事に記されている通り。

葉月とその話をした際には実際に誘われることはなかったので、うさぎの穴に足しげく通うようになったこともあり、暫く訪れてはいない。

勿論、彼女が歩いてでも自分の店に行きたいならば、無理を通すつもりはない。
ほんの少し、「カップルプレート」を頼める自分に浮かれてしまっただけなので。*]

[そんなデートの計画を話しながら、彼女の了承を経て自宅へ。
お泊りセットはちゃんと籐かごを買って洗面所に置いてあるが
先程「印」の話をしたばかりで警戒させてしまうかなと思ったので、
「寄る」という表現になった。

 ――あ、これ信用されてるやつ、

はにかんだ顔、可愛いなぁ、もう。]


 貰ってよ。
 すぐに違う鍵になるかもしれないし、
 その時は最初からふたつ貰うことになるんだろうけど、
 そうしたら「彼氏の家の合鍵」を持つ機会はなくなるしね?

[もう少し鍵自体が可愛い意匠なら、アクセサリーとして首から下げられるのでは?とも考えたが。
ごく普通のマンションの、ごく普通のシリンダー錠の合鍵にそれを求める方が間違っていた。
計画の名残のチェーンだけ、部屋の中には置いてある。

この鍵は、「お揃い」を増やすのに使うことにしよう。]

[広げた腕に飛び込んで来た身体を抱き締めた。
ドアが閉じ、外から二人を切り取ってくれる。

「おかえり、マシロちゃん」ともう一度言って、良い香りのする髪に顔を埋めた。
髪触るの?好きだよ!好きな子限定でね。]


 言ってから思った。
 僕も行かせたくないや。

[「帰したく」と言葉でも言えないくらい。

お願いを聞く形ではなく、自分の意思で彼女を自分の傍に留めておきたい。
背を撫でて暫くそのままじっと腕の中に閉じ込めていた。

遠くで電車の音が聞こえる。
終電まであと何本か数える必要はない。]

[もぞりと胸元で動く気配がして、髪に埋めていた顔を離す。
ちいさな声に滲む緊張に、「うん」と頷いた。]

 中で聞かせて。

[別の、と前置きがある。
そちらはまだ解決していなくて、
話そうとしていることは、彼女の中で区切りがついたということ。

それでも話すことに勇気が必要なことは、伝わる鼓動の速さが物語っている。

そっと腕を解いて、合鍵を持ったままの彼女の手を包んだ。]

[鍵は開けて締めるもの。
それをお守りとして持つ場合、

 「未来を切り拓く」
そして
 「大切なものを守る」

という意味が込められる。

渡した鍵が、彼女が前に進もうとする気持ちを守ってくれますように。]

[手を引いて、自室へ。
前回散らかっていて反省したので少し片付いている。
椅子は相変わらず食卓テーブル用とPC机用しかないが、狭い家で彼女が寛ぐには足りないと、大きなビーズクッションを買った。
白が目を引くその場所まで連れて行って、二人で腰を沈める。]

 何か飲む?

[話す方が先なら、このままずっと寄り添って待つし、先に喉を潤したいなら湯を沸かしに立ち上がるつもり。**]

メモを貼った。

メモを貼った。

[手を繋いで、帰路に着く
それが駅ならたったの5分だけど]


 ……


[たいした会話はなかった。
その日の賄いに出た大根の揚げ出しの話とか。
ベリーのタルトの話とか。
ミモザサラダを美味しく作る工夫の話。したい話はたくさんあったけど。
何かが喉に詰まったように、うまく言葉が出てこない]




[気づけば本当に春。
肌を撫でる夜の風もどこか甘い。この中にミモザの香りも混じっているのだろうか]


 またね、チエ
 チエが店の外でも一緒に居たいと言ってくれたこと、本当に嬉しい

 大事にするからね


[こき使うと言った矢先だけど]

―― 幕間 ――

[美澄の手元を確認しながら、
 時折、料理の方には口を挟んでいたかもしれない。

 料理は考え事をする時に丁度いいと、
 そういう話もよく聞くが、
 話を聞きながらのながら作業は慣れていなければ
 時に、先程のように意識を奪われるから。

 必要最低限のことしか手助けするつもりは無い。
 子獅子は勝手に這い上がるから。
 宥める役目は沙弥や知恵がしてくれるだろう。

 そんな中でふと視線を感じて顔を上げれば、
 ギネスビール片手の速崎の姿が確認できた。

[上がった口角に。
 いい休日を過ごしているようだと感じたから、
 邪魔することはしない。
 アイコンタクトを交わすだけの挨拶でも、
 通じるものはあったから。

 また、彼女が誰かに聞いてもらいたい時があれば、
 聞き役を買って出るつもり。

 持ち主の元に戻ってきたキャスケットのつばを上げて
 目を細めて応じただろう。**]

─ 自宅 ─

[帰宅は真夜中。いつものこと。
部屋は真っ暗でなく、ベッドサイドのひとつだけが点けっぱなしになっている。
明かりの下にはうさぎのぬいぐるみが手足を投げ出して座っていた。

スカートの中が見えないように、お尻の下には自作の椅子を置いてある。
100均のミニクッションにスカーフでカバーをつけただけなので、椅子というかヨギボ? に全力でくつろいでいる様に見えるんだけど]


 ただいま


[囁いて、クローゼットを開けて着替える。
クローゼットを閉めて、もう一度開けた。
閉め直して、もういちど開ける。そこにかけられたグリーンのワンピース]


 ……


[そわそわしながら扉を閉めた]



 ねえ
 私変なこと言ってない? 大丈夫?


[一日の終わり。
膝の上にうさぎを乗せて、雑誌を開きはしたけど。しばらくぼんやりした後にそう尋ねた]


 だめかもしれない……もう緊張してきた
 絶対ついてきてね


[ピンク色の額を撫でた後、両手で顔を覆う]


      デート……!


[片思いの、友達同士の延長を模したお出かけではなく。
お互いに何らかの好意を知らせた上での。どうしよう。何を話せばいい? だめかもしれない。胃薬飲もう**]

[ 不思議そうな反応をされる。
 多分、分かっていないんだろう。
 知り合ってからも、恋人になってからも
 また日が浅い。

 知らないことだらけのところを
 少しずつ埋めている今の段階では
 当たり前なんだけれど。

 自分がどういう目で見られているのか。
 まぁその辺、お互い様だけども。

 体を起こそうとしながら、遅れて
 思い当たったのか、口籠るようにして
 耳を仄かに染めるものだから

 空いた手が悪さをしそうになる。
 第二波もまた大いに自分の中で暴れてくれた。 ]

[ そういった欲について。

 なくはない。そんな程度だと自分で思っていた。
 昨今薄い男も増えているらしいと聞けば
 自分もそれだろうと考えていたし
 不健康と言われない程度にはある、と。

 そうじゃないかもしれないと気づいたのは、最近。
 もしかして気づいていないだけで、
 前から性的指向がそうだったのかと
 慌てたが、特に別のなにかに魅力を感じることが
 なかった。

 ので、漏れなくその欲求全て、
 たった一人に向けていく自分が少し、
 恐ろしく思えている現状。

 欲の飼い慣らし方を心得ていないので、
 大人しくさせておいて、と相手に強いるしかなくて
 申し訳ない。 ]

[ 隣から、軽い衝撃。
 スマホの画面を覗き込むようにした彼が
 横から画面をフリックさせる ]

 いいね。
 好きだって言ってたねサーモン。
 じゃ、追加でトッピングしちゃおう。

 あと、チキンナゲット食べたいな
 無性にあのソース恋しくなる時あるんだ

[ 選び終えればそのまま注文、
 支払いも済ませてしまえるのだから
 便利な時代だ。

 しかも、置き配にしてしまえば
 顔を合わせる心配もない、というのだから
 助かることこの上ない。 ]

[ ピザが到着するまでの間に、
 作ったものをテーブルに並べ、
 氷を入れたグラスを二つ、用意した。

 ピザとコーラ、って思考までは
 あったのだが、コーラ買い忘れていたので
 ピザと一緒に注文することにした。
 ありがとうピザ屋さん。コーラ置いといてくれて。 ]

 飲みたくなったら、ワインあるよ。
 でも弱いって言ってたから、
 缶のお酒もいくつか。

 どれ買ったらいいか分からなかったから
 適当だけど。

[ 先に見始めてもいいよ、と言っておいたが
 どうだっただろう。どちらにしても、そう間を置かずに
 インターフォンが鳴り、元気な声が
 届くと、どうも、とだけ返しロビーを通す。

 それからすぐにもう一度インターフォンが鳴り
 少ししてから玄関へピザを取りに向かう。 ]

 来たよ、ピザ。

[ 箱を開いてピザを並べたら。 ]

 俺も駄目になっちゃうね

[ 新品の駄目製造機に体を預ける。ゆっくりと体が沈む。
 使い心地は折り紙付き。 ]

 うはー……懐かしい

[ 動画の再生が始まれば、まず一言。
 若かりし頃の仲間たち。
 オープニング主題歌の中にはもちろん
 若かりし頃の自分もいる。

 まだ緊張の色濃い表情の自分、
 初の出番はたしか三話。

 いろんな題材を取り扱うシリーズだが
 この時は侍とか忍者とか和物をごっちゃり
 詰めていたため、自分の普段の役どころは
 敵方の忍者の里の出身で、上に言われるままに
 主人公たちの邪魔をしていたが、それをどこかで
 苦しんでいたため、とあるイベントで、
 仲間入りをする、というもの。

 真顔でボケる主人公たちを苦笑いで
 見守るようなポジションだった。 ]

 この話しの撮影した日、
 めっちゃ二日酔いだった実は
 ちょっと顔色悪いでしょ。

[ 髪も短く、身長はともかく、
 体が出来上がっていない自分の
 体当たりでしかない映像を今、

 俺の恋人は見ています。** ]

メモを貼った。

メモを貼った。

[玲羅も指輪をずっと着けてくれるらしい。
え〜〜〜。どうしよう。嬉しい。顔がにやける。
それからアクセサリー教室にて。
俺は何も考えずに左手の薬指でサイズを図ろうとした。
そしたら玲羅から教えてもらった事に目を瞬く。
あ。顔。ちょっと熱いです。
恥ずかしいのと、あと、別の何か。]


へっ?!



あ、そうなの? あ、そう。へ〜〜〜。そう。なんだ。

はは。


[あ。俺すごい棒読みだぞ。

なるほど。なるほどね???]

[一度手元に落とした視線。
サイズ測定用のリングの連なりが見える。
俺はチラリと視線を上げて、上目遣いで玲羅を見た。]


……………………左手で作らない?


ダメ?


[酷く照れ臭くて、恥ずかしい。
あと。酷く不安になる。
こんな風に自分が、弱く揺れ動くのには、慣れていない。
相手の言動に一喜一憂して、伺うように見てしまう。]

[玲羅の答えが何であるにしても、指輪作りは進めよう。
玲羅が選んだデザインは、キラキラして綺麗だ。]


…………綺麗。

これなら金色も綺麗かもしれないけど。
金色はコンソメスープの色だからな〜〜。
……ライバルの色はやめとこう。


[何時ぞやの会話を思い返して笑いながら。
彼女の中のコンソメスープに対するあれやこれやを知らないので。
俺にとっては玲羅の一面を知れた素敵なエピソードで。
それでも……]


それに銀色の方が、結婚指輪みたいだ。
ペアリングなら、銀が良いな。


[彼女が選んだのが右手でも左手でも。
俺はそんな風に呟いて微笑みかけた。]

[元気いっぱいの玲羅の笑顔。


おー!!頑張るぞー!!



[俺も元気いっぱいに答えて。]

[それから本当に真剣に作業を開始した。
だってこれ、玲羅への初めてのプレゼントでしょ?
そりゃぁ、ガチのマジで本気にもなります。
本気で真剣になったから、何時もみたいに、明るく楽しく会話しながらとはいかなかったかもしれないし。
先生と会話する時間も多かったかもしれないけど。
そこはごめんなさい。愛嬌ってことで許して??

か、彼女を楽しませると言う目標は、クリアしてないかもしれない。ごめんなさい。
時々は、肩の力抜こうね。**]

[やや気恥ずかしそうに告げれば
彼がちょっと驚いたようにぽかんとして。
その顔がじわじわと赤く染まるのが見えた。

ちらり、とその視線が測定リングに落ちて――
またこちらに向く。
珍しくどこか不安そうに、様子を窺うような。]

……………、


[左手につける意味を知ったうえで、そう言うってのは。
考えるとこちらまで頬が熱くなってしまって。]


………………ダメ、じゃないです………



[微笑ましそうな講師さんの視線を感じながら
真っ赤になってそう答えたとか。]

[さてそんなわけで指輪づくりだ。
選んだ理由はデザインが気に入ったのもあるけれど。]

でしょ?
それに槌目だとさ、模様にも叩く人の個性が出るんだって〜。
それぞれ違う仕上がりになるの。
世界でひとつだけのリング、良くない?

[彼からの初めての贈り物。
喩え無料でも、誘われたものでも。
彼が自分を想って作ってくれるなら
そこには特別な価値があるじゃあないですか。
だからより手作り感の出るものにしたくて。

コンソメスープ云々の話題には
もー!今それはいいじゃん!と
照れたような拗ねたような顔をしたけれど。]



…………うん………。


[微笑んでシルバーを選んだ意図を明かす彼には
ただじんわりと赤面して頷いたのだった。]

[そうして作業開始である。
なお、真剣に作業に集中する彼に
不満を持ったりとかは全くもってなかった。
何故なら私も真剣だから。

だってペアリングだし!変な物作れないし!

……と言うのは別にしても
多分今まで見た中で一番ってくらい
至って真剣な表情で指輪作りに取り組む彼を
作業の合間に時々じっと見て。]


(瑛斗、こんな顔もするんだ〜…)



[なんて。密かにときめきを覚えていた玲羅である。

いや、いつも明るく表情豊かな彼氏のガチの表情、
ちょっとキュンと来るものがあるじゃないですか?
それが自分へのプレゼントを作っているのだから猶更。]

[棒状のシルバーを熱して柔らかくした後
ペンチやらハンマーやらで丸く曲げて
高温のバーナーで熱して隙間がないようにくっつける。
(ロウ付けって言うらしい)
しっかり熱してピンク色になったそれを
水で冷やして薬品に着けて。

歪んだリングを芯金に入れて
木槌で叩いて綺麗な円形にした後に
ヤスリで削ってまた槌で叩いて全体に槌目をつける。

最後に刻印を入れて磨けば完成だ。

講師の先生に手取り足取り手伝ってもらいながら
黙々と工程に集中していただろう。**]

[『ダメ』て区切られた時、一瞬ひゅっと息が詰まって。
それから『じゃないです』と続いたから。
詰めていた息を、肺から全部吐き切った。]


はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜…………


………………
良かった。



[小さく囁いて微笑んで。
自分がこんな風になるなんて、本当に不思議だね。
今は赤い顔の玲羅を揶揄う余裕もないや。]

[コンソメスープの話しをしたら怒られた。
照れたような拗ねたような顔してくれたから。
俺も調子を少し取り戻した。
銀を選んだ理由。彼女に伝えたけど。
ただ。受け止めてくれたから。微笑んで。
自分も彼女の頷きを、ただ受け止めた。]

[槌目には個性が出るらしい。
世界で一つだけのリング。
そんなことを言われたら、ガチにならざるを得ないし……
それと同時に、何処か強張った身体の力が抜けた。
なんだろ。きっと、どんなリングを作っても。
玲羅は喜んで受け取ってくれるって。その瞬間思ったから。
だから大丈夫だって思えた。]


世界にひとつだけのリング。良いね。
玲羅のそれを貰える俺は、幸せだな。


[だから目を細めて、愛おし気に笑いかけて。
講師の先生?多分きっと慣れてるよ。こんなやり取りもね。
栗栖くんは基本目の前の人に集中しちゃうから。
周りの人を見る余裕などありませんでした。]

[そうして鎚を揮う際も。一際の集中を見せた。
玲羅は個性が出ると言ってくれた。
なら。思い切りよく揮おう。
形は後でも整えられるらしい。
潰す事を恐れて、弱く小さな跡目を着けるのではなく。
勇気をもって恐れず大胆に揮った。
それから、先生に指導を受けながら、丁寧に丁寧に型を整え、金属が玲羅の肌を傷つけないよう、ヤスリをかけた。

クリアな質感のリングに。
大きく不規則に着いた槌目。
そうして型を整えるべく繊細に着いた小さな槌目。
キラキラと光を反射し煌めいている。

何度も指先で当たりが無いか確認し。
ようやくヤスリを手放して、先生に確認すると。
刻印を入れてもらうべく、一度手放した。]

[ふと。玲羅を見て笑いかける。
そう言えば作業中お互い無言だった。


出来上がり楽しみだね〜〜。

自分のに集中して、玲羅の見て無かったや。
どんな指輪が出来たのか、楽しみ。


[それがどんな指輪でも、きっと自分には愛おしいのだろう。
目を細めて。]


片付けして、待ってよっか。


[ヤスリで散った金属屑等を丁寧に清めて。
机の上をピカピカにして待ってたら、刻印も終わるだろうか。]

[出来上がった自分の指輪を受け取ったら。]


玲羅。手を出して?


[玲羅の左手を借り受けて。]


…………はい。


[薬指に指輪を通した。
君のために作った指輪は、過不足なく。指に嵌り。
君の薬指を彩った。**]


[この世界中で、一番気まずい5分間を過ごしたんじゃないかっていう自信がある。]

 

[繋いだ手が離れないまま、帰路につく。
 駅まで5分。歩いてすぐの距離は通勤にやさしい。
 ただ今だけはもっと長くなってくれたらいいのに――っていう展開を期待したんだけど。
 実際はぽつぽつ話をしただけで、多くは沈黙。
 静かな夜にふたり分の足音が重なる音が聞こえるくらいに。

 ……あっれー? 一応、一応両想い、かもしれない、一世一代の告白、のようなもの、が受け入れられたその5分後ですよね?
 恋愛ってこうだっけ。いや、違った気がする。]

[かと言ってボクの方も、何が自然な会話なのか、もうまったくわからない。
 正直こっちは完全に、勝手に憧れて勝手に好意にしてずっと視線で追いかけた、っていう
中学生かよ
みたいな片想いをしていたものだから、シャミさんの側から意識されているという想定が本当に、なくて。
 本当にこんなボクのどこが好きなんですか、と聞きたかったけど、さっきなんでと聞いたらなんでだろうと言われてしまったし
 いやいやそんなの関係ない、もっと他愛のないこと話しかけようとしても、横顔を少し見上げるだけで、頭の中が真っ白になる。
 "チエには愛されたい"。見上げたその唇がそう言ったことばかり、頭の中に渦巻く。
 現実味がなくて、自己嫌悪の行き着く先に見た都合のいい夢みたいで、手を離したらそのまま消えてしまいそうだから、繋いだ手を握る力を、少し強めた。

 5分間、ただ体温だけが、つながっていた。]

[家どっちですかとか、送っていきますとか、ほんとは言うべきだったんじゃないだろうか。
 そのあたりに思い至ったのは駅についてからだ。

 だけど最寄り駅まで行こうにも、終電の危うい時間帯。逆方向だったら、往復は厳しいかも。
 それに実際いつもの仕事帰りとさして変わらない時間だから、この時間に出歩くのは慣れているはずで。
 むしろ立場的にはボクのほうが心配される側だったりする?とか考え出したら、繋いだ手が物理的な分かれ道で解けるまで結局、言えなかった。
 情けないポイントのスタンプカードがあったら、そろそろ満点になる気がする。]

……うん。また、ね。
嘘じゃ、ないから。ほんとだから。
誓って、ほんとだから!


[大事にするからね、とか言われてしまうと、それボクのセリフじゃないんだぁ、と、スタンプがまたひとつ増えた気分。]

――自宅――

――あ。

[結局まっすぐ帰ってきた、その玄関前。
 小さな段ボール箱が置かれていた。
 通販の置き配は、家を空けがちな人間にやさしい。
 そこに入っているものを想像して、それを使う瞬間を頭の中想像したら、ふっと笑顔に――]

[なるどころか、かっと顔が熱くなる気がした。
 箱を抱えて急いで部屋に入って速攻でベッドにダイブした。頭を抱えに。]

いやいやいやいや待って、待ってそれは、待ってこないだのボクちょっと待って意味わかんない
一回死んで
死んで詫びて今のボクに


[どうする。いっそこれを渡さなければ。
 いやだめだ。それはそれでボクの矜持が許せない。
 今から別のを探す? いや、間に合わないかもしれないし、そもそもやることそのものが変わるわけじゃない。

 
ああああ
、と深夜に羞恥と後悔とそれはそれとして期待やなんかが入り混じった声を上げて、転げまわり。
 ひとしきりそうしたあと、頭を冷やそうとシャワーを浴びることに決めた。
 いっそ水でも浴びようかとすら、思った*]

メモを貼った。

メモを貼った。

――報告会――

 まああれ言った本人も僕の気持ち気づいてなかったみたいだから
 案外みんな自分のことには鈍感なのかもね。

 って何その怨念籠ったみたいな言い方……
 ええっと、お疲れ……?

[タイミングというのは確かにある。
栗栖は自分よりは来店頻度が低い気がするし、彼が恋する相手は店に来たら大体逢える店員ではなく客だ。
席が遠いと中々親睦を深めることは難しかっただろう。

しかしただタイミングが合わなかっただけにしては声色がやけに不穏だ。
「色々」を聞く機会はあるのか、とりあえず紆余曲折あったらしい彼に労いの言葉をかけた。]


 ん?ああ、そこは何にも疑ってないよ。
 ふふ、「貝沢さん」から呼び捨てになってんじゃん。
 いいね、そういう「つきあってからの変化」みたいなの、
 観察するの結構好きだよ僕。

[真白から栗栖への言葉が気安いことに少し拗ねたりはすれど、実際に二人の仲を疑うことはない。
そうか、彼女は栗栖に惚気ていたのか、と思うとむしろ嬉しかったりして。]

[自分とも栗栖とも貝沢とも真白はよく喋っているし、自分と栗栖は親しいと思っているので、紅葉狩りの誘いに関して此方は全く抵抗なく言ったものの、返事を聞いてはた、と気づく。]

 もしかして……
 
僕、貝沢さんと喋ったことないな……?!


 それは貝沢さんにとっては気まずいかもしれないね。
 僕、あの店で似た時間で食べてたらみんな知り合いみたいに思ってたけど、うん。
 よーく思い返しても僕が一方的に知ってるだけだった。

 知らない人の車が怖かったりしたら全然断ってくれても良いし、
 僕は背景になるの得意だからタクシー運転手みたいな感覚で
 移動手段として使ってもらうのでも構わないからね。

[勿論、秋までに時間はあるので、それまでに知り合っておくというのもアリだとは思う。]


 綺麗だよ紅葉。
 ちょっと山の中まで車で入るところだから穴場っていうか、
 シーズンでも人混み気にしなくて良いし。

 焚火ブースが近くにあるんだけど、
 そこで持ち込んだ芋焼いたりマシュマロ焼いたりするのも出来るらしいよ。
 一人で行くの寂しくて行ったことないけど、4人なら楽しそう。

[プレゼンだけはしておいて、後は二人の意向に任せよう、と話を締めくくろうとした時。]


 えっそれ「おめでとう」の流れなの。
 「キスした」とか「それ以上」とか言ったら
 都度祝われる感じ……?

[それは手を繋いだと自己申告するよりも恥ずかしくて少し慌てた。
この余裕、もしや彼はもう、と思ったが、店内で猥談に発展しかねない話題は止めておこう。

代わりに。]

 お互いおめでとう記念でラムチョップシェアしない?

[黒板を指して「どう?」と小首を傾げた。*]

[ところで揚げ出し大根、めちゃくちゃ食べたいです。
真白が揚げるなら尚更。*]

─ デートの日 ─


[待ち合わせの場所までの歩みは、ゆっくり。
転ばないようにというのもあるし。

道沿いのショーウィンドウに映る自分の姿を見るたびに、歩みが止まりそうになる]


(これは合ってるのか……)


[優しい白色のブラウス。
ブルーグリーンのワンピース。
髪は緩く結えて背に垂らした。

歩くたび、裾が動いて優雅に揺れる。チエはあの商品画像から、この動きまで想像できていたのだろうと思う。
けれど、
これは]



(合ってる……?)



[家で試着した時は気にならなかったのだけど。
あのモデルの子よりも、自分で着ると丈が短い。
     くるぶしほとの長さに、黒い靴を履いた画像。

……ふくらはぎぐらいなんだけど……?


さらに足の甲が露出したサンダルなので、こう、すーすーする。
これは大丈夫なのか。間違ってない? 思ってたんと違うって思われない?]

[手に持った花束を持ち上げて顔の下半分を隠す。
スン]


(でもこれを着る以外の選択はないし)


[合ってるかどうかはわからないけどめちゃくちゃに可愛いし**]

メモを貼った。

[菜の花のカルボナーラにはサーモンを。
 チキンナゲットが食べたいというのなら、それも。
 飲み物も、と増やして行けば、そこそこの量。

 ピザは翌日にも回すことが出来るけど、
 サーモンの方はさすがに今日食べ切った方がいいかな。
 とか、仕事柄、味の保証期間も気にしつつ。

 注文を任せた後は、
 結局落ち着いて座っても居られずに、
 運ぶ手伝いを申し出た。

 自分で作った、というピクルスやサラダに
 少し驚いたものの]


  いい傾向ですね。


[気になっていた食生活が少しでも改善するなら、
 喜ばしいことだから、そう笑って。]

[ワインと缶のサワーがいくつか並ぶのを見たら、
 飲むつもりはなかったけれど、
 飲みたくなる気持ちも少し。]


  じゃあ、こっちのサワーもらいます。


[選んだのはシークァサーのサワー。
 さっぱりとした味だけど少しだけ甘いのが飲みやすい。
 今は飲まずに手元にだけ寄せておいて。

 そんな会話を挟みながら、少し時間が開けば、
 先に見てもいいという言葉に甘えて、

 テレビ画面に配信サイトを移したら、
 そのまま、連続再生を押した。]

[一話も、二話も、オーソドックスな戦隊モノの展開。
 仲間と出会って、敵が現れて、人が狙われて。
 助けに行いって、翌週へと続く。

 高野さんはまだ出てきていない。OPだけ。
 ブラックといえば大体は後から仲間になるのは、
 これもまたよくある展開。

 インターホンが鳴って、隣で立ち上がる彼を見送って
 画面に視線を戻したところで、ようやく。]


  ……あ、出た。


[敵役かと思われるようなポジション。
 だけどやたらと影を背負った、意味有りげな人物。]

[今より、ずっと若い彼の姿がそこに在る。
 俺よりも年若い、それこそ美澄ぐらいの。

 若手の登竜門と言われる戦隊モノ。
 演技もみんな少し辿々しさが残る中、
 やっぱり少し、斜に構えたブラックの立ち位置。

 見知った人が、画面の向こう居るのは、
 やはり少し、不思議な感じで、面映ゆくもありながら。
 演じる姿が懸命で、自然と目が細まっていく。]

[ピザを手にして戻ってきた姿に。


  おかえりなさい。
  ちょうど出てますよ、ブラック。


[そう登場シーンを紹介してから、
 クッッションから少し身を起こした。

 せっかくのクッションを
 汚してしまう訳にはいかないから。

 身体を沈めていく彼と入れ替わるように、
 ローテーブルに前のめり、再び画面へと視線を移す。]

[懐かしむ声を隣で聞きながら、ピザを頬張った。

 菜の花のカルボナーラにトッピングされたサーモン。 
 緑とピンクの色合いが春めいている。
 こっちの生地は厚めのもっちりとしたものを選んだ。
 
 代わりにトマトソースの方は
 クリスピータイプの薄めのもの。

 そちらはひとまず後回しにして春を楽しむ。
 少し焦げたサーモンの油がカルボナーラと馴染む。
 菜の花は少し芯を残して、歯を立てれば、
 僅かにしゃく、と音がした。]


  旨い。


[短な感想を告げながら、手元にはコーラ。
 最初の方は、動画をしっかりと見ていたいから、
 酔わないように。ノンアルコール。]

[話が進んでいくごとに、彼の中にも葛藤が現れて。
 やがて仲間になることを選んでいくブラックの姿。
 彼を受け入れていくレッドを始めとする仲間たち。

 食事を進めながらも、静かに鑑賞して。
 時に、高野自身から裏事情の注釈が入れば、]


  二日酔いで撮ったんですか?


[そう軽く笑い声を立てて、また画面へと魅入る。]

[若々しくも、今の姿の名残もあって、
 それでも今より、ほんの少し、目に力があるように、
 見えたかもしれない。

 だから、口の中のものを呑み込んで。
 コーラで流し込んで。]


  ……また、やりたいとか、ないんですか?


[以前に彼から役者であることを打ち明けられた時から、
 ずっと聞きたかったことを、ほつりと落とす。]

[俳優業を、昔のことのように話してた。
 そういう生活も悪くない、とも言っていた。

 けれど、『見つけてくれてありがとう』と
 ファンから向けた声援に今も答えているのも。
 
 コーナーになっている数々のサウンドドラマも
 公開録音のでの感想も、

 彼にとってやっぱり、演技は、
 切っては切れないもののように、思えたから。

 過去の彼の声を聞きながら、
 今の、ソファに埋まっている彼へと視線を移して。**]

── 報告会 ──

[神田さんから怨念籠ってると言われてしまった。


いや。

自分の鈍感さをこれでもかと思い知った……


だけなんで、誰も悪くないはずなんだけどね。
メッセージの方、あまり返信出来てなくてごめんね。


[少しだけ遠回りの謝罪。
直接口にすることは憚られた。誰に対しても。
ただ、グループを形成しているメッセージに、自分の投稿がほとんど無い事については、当事者でない神田さんに一言謝っておきたくて。
『その内またひょっこり顔出す。』と約束した。]

[神田さんは『観察』とか言うから。]


え〜〜〜。何それ俺観察されちゃうの?
流石神田さん。敏腕記者ー!!


[とか笑ってた。]

[そうして衝撃の事実。
神田さん玲羅と会話した事無いらしい!!


マジで?!!



[いやでも俺も、玲羅や神田さんが時々会話してる高野さんと会話したこと無いわ。そのことも神田さんに告げて。]


いや。タクシーみたいなんて絶対思えないけど。
それはそれとして紅葉狩り想像以上に楽しそうだな。
今度一緒にご飯食べたりして、顔繋ごうよ〜。
…………あ。でもこれも、玲羅にまず確認してからね。

俺、自分の好きな人は、す〜ぐ好きな人に紹介したくなっちゃうから。玲羅の事戸惑わせちゃうかもしれないし。
まずは何をするにしても、玲羅に確認してみるよ。

玲羅ね〜。ダメな時はちゃんとダメって言ってくれるんだ〜。


俺は最後の一言で惚気ました。

因みに好きな人=玲羅で、好きな人=神田さんです。]

[なんか唐突な猥談の気配がして。
俺は思わずお茶に咽そうになって、笑い飛ばす。]


いやいやいや。友達の恋の進捗とか知りたく無いし!!



手を繋げておめでとうはちょっとアレだ。
揶揄った。

ごめんなさい。


[次男坊は素直に長兄に甘えて謝りました。]

食べる!!シェアする!!


ラムって何の肉だっけ?


この店のお肉料理なら絶対うまい!!楽しみ〜!!



[俺は素直に元気よく喜んだあと。]


お肉は俺が頼むから。
神田さんは、大咲さんの料理頼んで良いよ?


[ちょっぴり気遣い出来るところを見せたつもりが。
もしかしたら、余計なお世話だったかもしれないね。**]

――赤いリボンの日――

[スマホのアラームで起きれば、ロック画面にスケジュールと赤いリボン。
 来た。来てしまった。
 起きただけで心臓がうるさい。落ち着け、と脳内で繰り返しながら、顔洗って髪を纏める。今日は軽く巻いて、後ろだけ低いところでひとつに結んだ。
 いつもの花のコサージュの代わり、ゴールドのチェーンがついたヘアクリップを留めて、チェーンを髪に絡ませる。

 そこまでやってから朝食づくりを始めるのは、髪まとまってるとキッチン立つの楽だよねとか、キッチン立つ前手洗って整髪料使って手洗うの面倒だよねとか、あと限界までのんびりご飯してたいからとか、諸々合理的な(ものぐさともいう)理由。
 流石に着替えるのは、食べ終わってからだけど。]

[牛乳を軽く沸かして、インスタントのスープを溶かす。
 それとは別に溶き卵に牛乳足して、塩コショウでオムレツに。
 厚切りのパンをトースターに突っ込んで、ケチャップを準備。
 パンが焼けたらオムレツトースト。
 そのつもりでテーブルにスープだけ運んで、天気予報のチェック。
 うん、雨は降らなさそうだ。

 ふと目に入る、テーブルの上の小箱。
 先日ベッドで転がりに転がった、今日のために用意した小さなプレゼント。
 気負うようなものにはしたくなくってシンプルなものにしたけれど、それより何より渡すときのことを考えるとまた頭を抱えそうになる。
 ――無錠にも鳴るトースターが、そんな暇はないと叱りつける。

 オムレツトースト、おいしいなぁ……
 思わず遠い目をしながら、齧りつく。]

[今日のために用意した服は、あのグリーンと合わせて、クラシカルグリーンのブラウス。
 軽く袖はふくらんでいるものの、基本的にはピンタックでスマートなシルエットの、メンズの王子ファッションだ。共布のリボンが、甘さを足している。
 レースアップの黒のロングベストで引き締めて、同じ黒のパンツ。
 軽く広がった裾から、シフォンのフリルが覗いてる。
 ほんの少しだけ見栄張った、いつもより底の厚いブーツも合わせれば、隣に立つ自信もその分盛れる。

 本当は、女子会ですと言い張って、同じクラシカルなお茶会服なんかにまとめることも考えた。
 けど、今となっては。男として隣に立ちたいと、メンズを選んでよかったと思う。
 軽くフレグランスを振ろうとして――思うところありて、やめる。]

さって、行くか。

[小箱をバッグに放り込んで、待ち合わせ先へ。

 出てから気づいたけど、今日ラーメン食べるって言ってなかった?
 ……ま、いっか*]

――待ち合わせ――

[その場所についた瞬間。
 目を引く姿を探そうとして、見当たらなくて、ほっと息を吐く。
 早めに出たつもりではあるけど、待たせずに済んでよかった。
 ショーウインドウに時々足を止めているからとは、知らない。

 どっちから来るだろう、と視線巡らせれば。]

……あ。

[目線が、吸い寄せられる。]

[ベンチに腰を下ろした。
花束を傍に置いて、周囲を見回す。

そしてバッグからぬいぐるみを取り出した]


 ……


[ぽってりと柔らかいお腹を支えて膝に座らせる。
見上げてくる眼差しをしばらく見て、その手をぎゅっと握り締めた]

 

[ フリーランスの彼と、シフト制飲食業界の自分。
  彼にも色々都合はあるだろうことは想像に難くないからと
  零れ落ちた謝罪へ返って来たのは優しい笑み。
  ああ、やっぱりこの人には敵わない。本当に。 ]


  ……夜綿さん、私を甘やかすの上手ですよね…


[ 独り占めさせてもらっているのは、寧ろこっちの方。
  調整して合わせてくれたお休みを貰うのだから。
  けれど、その言葉が本心なのだと感じ取れるだけに
  これ以上はまた謝罪になってしまう と飲み込んで。

  それに。 ]

 

 

  それは、……うん。
  分かります。
  夜綿さんの好みに合わせるの、楽しいから。

  ……そっか。同じですね、気持ちは。


[ うん、ちゃんと分かりましたよ、と頷いた。
  謝っても気にしても職業故のすれ違いは変わらないし
  受け取り方を"苦じゃないと思える"ようにしてくれた
  彼の言葉はなんだか魔法みたいだ。

  ちなみに魔法といえば、日曜朝に戦隊ものと別枠で
  放送されている某女児向けアニメもその類だが。
  ふわもこパジャマの話を振った時の彼が
  マスコットキャラに選ばれた主人公の反応みたいで。
  面白いような、「そんな縁遠いかな…?」と
  疑問符が頭上へひとつ、ぽこん、と浮かぶような。 ]

 

 

[ 過去に彼女がいたことは知っているけれど、
  その人たちはあのブランドユーザーでは無かったか。
  いや、お揃先に選ばなかっただけなのか。
  む、と考えながらも 露骨に目を泳がせる彼へ

  「だめですか……?」と言いたげな瞳を向けた。
  完全にこれはわざとである。先に言っておく。
  ちょっとしょんぼりしながらおねだりすれば
  多分いけるのでは、と大咲が覚えた必殺技(?)だ。
  決定打の理由はどうあれ、ちゃんと同意は取り付けた。 ]


  男性向けのショップ、入ったことないので。
  どんな感じかちょっと楽しみです。


[ 通販サイトにメンズ向けで出てくる服やブランドを
  何気なく流し見たくらいの記憶しか出てこない。
  今更ながら服を選ぶことへの緊張感が滲んできた。
  後でちょっと勉強しておくことを決意して。 ]

 

 

[ カップル、プレート。
  ……カップルプレート。大咲の脳内で二度放送された単語は
  三度目は口から声になって飛び出てくる。 ]


  ────カップルプレート、ですか?
  ……ぅ。なんかちょっと、照れちゃいますね

  はい。一緒に食べたい、です
  …………取材して美味しかった他のお店の味
  ちゃんと知っておきたいですし。


[ 美味しいものが好きという気持ちも、
  仕事を私情で邪魔する気も更々ないのだが。
  それはそれ、これはこれ、だ。

  理由は違えど"笑顔"を求めた彼の昔話を思えば
  とてもそんなことは思えないし、思わない。
  ただ対抗心を抱いてしまうのは許してほしい。 ]

 

 

[ いつまでも律儀に"待て"をしてくれる彼の理性を
  心底信用している大咲は、完全に無警戒で誘いに乗った。
 
というより、長く一緒にいたい気持ちが勝って
したごころ …のことまで考えなかった方が近いか。


  そうして手渡された、彼のマンションの合鍵は。
  大咲にとっては、ごく普通なんてことはなく
  特別で 大切で 片想いの頃は考えも出来なかったような
  軽いのに何よりも重い、そんな存在になる。 ]


  ──…じゃあ、今だけの特別ですね。
  ふふ。


[ 違う鍵になったら、最初から貰う数は二つ。
  その意味を理解しては、照れたようにわらって。 ]

 

 

[ 後はもう、中へ入ってしまえば二人の箱庭。
  やっぱり髪を触るの好きなんだなぁ、と
  "限定"対象は知らないまま微笑ましい気持ちになり。

  帰したくないなどではなく。
  行かせたくない、と、帰る場所をここだけにするような
  その言葉には腕の中で若干動揺を見せた。


  あの、もしかしてもしかしなくても、
  私が想像している以上に、私のこと、好き…です、か。
  それにお客様だった頃の印象と違って
  独占欲とか、結構強かったりするのでしょうか。
  今更過ぎる疑問は、正解ならとても嬉しいけれど。 ]

 

 

[ やがて話を切り出すために、そ、と意思を示せば
  くっついていた体温が離れていく。
  合鍵を握ったままの手を包まれ、促されるまま
  前より少しすっきりしたようにも映る彼の自室へと。 ]


  わ、クッション! やわらかいやつ!


[ 大きな白いビーズクッションが鎮座しているのを見て、
  ややはしゃいだ声を上げ、二人並んで腰を沈め。
  何か飲むかを尋ねてくれる彼の腕をくい、と引き
  ふるふると首を横へ動かした。 ]


  ううん、……隣、いてください


[ 渡された合鍵は、もう片方の手の中。 ]
 



[やがて待ち人を見つけたら]


 やあ
 今日も可愛いけど……格好良いね


[座ったまま、甘やかな少年めいた衣装へ眩しげに目を細めた]


 イメチェンだ。すごく素敵

 

  …………お母さんに、電話、してみたんです


[ 過日、勇気を出して打った数字たち。
  学校の書類に書かなければならない緊急連絡先の番号を
  大咲は未だ、覚えていた。 ]


  正直、縁を切られたのか、切ったのかも分かんないし
  まだあの家に住んでるのかも知らないし。
  知ろうとしなかったから 当然なんですけど。

  でも、夜綿さんが私を幸せにしたいって言ってくれて
  ──…実際、ほんとうに、幸せばっかり教えてくれて。
  同時に ふとした時、昔のことも頭を過るんです
  ……それって不誠実だし、自分でも、嫌で。

  だから、私もその気持ちへ、ちゃんと誠実でいるために
  逃げてきたことへのケジメつけなきゃなって。


[ 繋がるかも分からない電話番号への発信は。
  確かに、大咲の母へ届いた。 ]

 

 

  なんかね、元気そうでした。
  あんな声聞いたの初めてだなぁって思うくらい。

  恋人が出来て、一緒に住むつもりなんだって言ったら
  何て言ったと思います?
  「お祝いは幾らがいい?」ですって。

  ……あの人の中では、お金を渡すことが
  愛を渡すのとイコールだったんだって気付きました。
  ケーキも料理も、それなら受け取りませんよね。


[ 寂しいひとだな、と思ったし。
  ──けれどそれが免罪符になるわけでもないと感じて。
  だから大咲は、ひとつ、踏ん切りがついたのだ。 ]

 

メモを貼った。

 

  だからね、私も受け取らないことにしました。
  お金はもう要らないから、私は私なりに前向いて、
  好きな人と幸せになるねって言って。

  ──…だから、あの日曖昧に答えちゃいましたけど。
  今改めて、教えていいですか。


  大咲真白。23歳、実家はもう縁を切りました。
  いつまでも過去のこと考えるより
  夜綿さんと未来を見て、生きていきたい、…です!


[ その覚悟も準備も、ちゃんと固めた後で良かった。
  大咲はそう言って いつものように心から微笑んだ。* ]

 

メモを貼った。

[花も似合うなぁ、とぼんやり思ってから、花、とはたと気づく。
 あ、どうしようそこまで気合い入れたプレゼントにしてない。
 用意してないものは仕方ないけど、距離が縮まるまでの間を、ちょっとした申し訳なさを花束の代わりに抱えてたら。]

……シャミさんは、すっごい可愛い。
可愛い。絶対似合うって思ってた。

[自分を褒められたことより、好きな人がボクの選んだ服を着て、それが似合ってることが何より嬉しい。
 可愛い、が口から溢れてくる。]

[自分に触れるのは、その後だ。]

イメチェン。っていっても、甘めだけどね。
たまにはいい、でしょ?

[今日のスタイルは、どこにもピンク色はない。
 ワンピースと合わせたグリーンと、黒がベース。
 見せるようにくるり回れば、ロングベストの裾がひらり。]

格好良くなれてたら、嬉しいな。
……隣、立つのに。似合うボクになりたかったから。

[どうでしょう。
 頭のてっぺんからつま先まで、隣にシャミさんが立つことを考えたコーデ。]

[あ。足先といえば。]

あの、あのさ。
ちょっと、渡したいもの?あって。

そのままちょっと、立っててくれる?

[バッグの中から、小さな箱を出し。]

……絶対上向かないから、安心して!


[そう宣言してから、シャミさんの足元、膝をつくようにしゃがむ。]

[真剣に作業に打ち込む彼の傍ら
自分も同じ作業で工程を進める。
あんな風に微笑まれたら
飛び切り良いものを作らないと、
なんて気合も入ろうもの。

そうして出来上がった槌目のリング。
やすりをかけて光に反射するそれは
何だか少し鱗みたいだな、って思った。

ようやく一頻り作業が終わり、
刻印をお願いするべく先生に預けて
やっと一息ついた。

ふと彼の方を見れば目が合って、笑った。]


あ〜〜〜、こんなに集中したの久々かも。
うん、楽しみ〜!いい感じだと良いな〜!

[片付けしながらのんびり待っていると
程なくして刻印が終わったらしい。
頑張って作っただけに思い入れもひとしおで。
出来上がった指輪を目を輝かせて見つめる。]

わー………

[彼が手を取って、それを嵌めてくれる。
過不足なくぴったりと指輪が収まった薬指ごと
左手を思わず光に翳して見つめた。]



………綺麗。


[大胆で力強く、それでいて繊細に
きらきらと模様が刻まれたそれ。
彼が想いを込めて作ったもの。
思わず見入って感想が零れる。

一頻りそうして眺めた後
そっと彼の左手を取って、
薬指に自分が作った指輪を嵌めようか。]

 ― 白うさぎとラム肉の日 ―



[ 美澄指名でのカクテルのご注文が耳に届いても
  そわそわ見守らずに済むようになった。
  郷に入っては郷に従えを強制するつもりはないので
  人体の差に合わせる作り方さえ覚えてくれるなら
  元の能力には特に、不安も心配もないものだし。

  可愛い子ライオンは一瞬で壁を登り終えた。
  代わりに大咲が尻尾を振って懐いている先輩から
  "揚げ物ヘルプコール"が飛んでくる。 ]


  はーい、シャミせんぱーい!
  今私を呼びました?

  ふふん、任せちゃってくださいよ〜っ


[ 下準備やらなにやらは全部遠藤が熟したようだが。
  過日の共同作業のように、揚げ代行は大咲をご指名らしい。
  頼ってもらえたみたいで嬉しくて、
  大咲は「おねがい」へ張り切った声を上げた。 ]

 

[箱に入っていたのは、黒をベースにした様々な布地をひとつに縫いまとめた、バラのコサージュがふたつ。
 異素材を合わせた花は、ところどころ青みがかっていたり、金糸が混じったり。
 クリップピンで止めるタイプのそれを、ピンクベージュのサンダルに左右それぞれ挟んで、つける。]

……うん、やっぱり可愛い。
それ、あげる。

[グリーンの落ち着いたワンピースから、足先がヌーディなイメージになるのを、引き締めてくれる。
 挿し色でバランスが取れて、むしろこの組み合わせなら華やかだ。
 このサンダルにするなら、挿し色で繋ごうと思ってよかった。
 どうでしょう、と立ち上がってから、目線をあわせる*]

 

[ 厚切り大根は、やや大きめの一口サイズ。
  染み込んだスープもあって更に崩れやすい素材である。
  しっかり水気を拭き取ろうと、
  舌でも潰れるくらい柔くなった大根は固くはならない。 ]


  シャミ先輩、結構難題言いますねぇ……?


[ 良い感じに揚げて! と最後全投げされた時も思ったが
  いけるかいけないかの瀬戸際を攻める、その難易度。
  まあ大咲も? 三年は先輩の背を見て育ったので?

  余裕
(と思われて褒められたい)
なんですねこれは〜! ]

 

 

[ 衣の片栗粉に、味を引き立てるための塩胡椒。
  カツのように徐々に少しずつではなく、一気に衣をまぶし
  時間との真剣勝負、素早さ競争。対戦者は大根。

  ────先輩せんぱい!
  大咲ちゃんと勝ちましたよ!
  まで思って我に返る。一体何と戦っていたのか?
  ……強いて言うなら自分自身か。なんだこれぇ。

  とかなんとかなっている大咲はともかくとして。
  オーダーが続くなら大咲は再戦も受けて立ちますし
  ラムは羊ですよ、同士よ。認めてないけど。 ]

 

 

[ 猥談再来(ではない)は露知らず。
  ついでに惚気(これは確かにそう)の横流しも知らず。
  大咲は良いラム肉の仕入れでややご機嫌な店長を
  ふ、と思い返し、そういえば──と。 ]


  ( まあ、スタッフ全員かわいいんだけど
    店長はどちらかというと綺麗の方が近いような )


[ 大人のお姉さんと聞けばまず真っ先に
  店長を大咲は思い浮かべてしまうので。* ]

 

[模様は恐らく気持ち彼のものよりも
細かな模様が沢山ついている感じになったろうか。
裏には R to Eと刻印が入っている、筈。

指の付け根までそれを通し、彼の顔を見て。
自分の手を彼の手に並べる。]

………ふふふ。
なんか、ちょっと感動しちゃうね。

[頬を染め、嬉しそうにはにかんだ。**]



 うん……本当に可愛いね。すごく可愛い
 生まれて初めてだよこんなに可愛いの


[少し内踝をこすり合わせる]


 チエのイメチェンもすごくいいよ。こんなに雰囲気が違うと……


[緊張してしまうな、と]


 あ、そうか。緑。並んで立つコーデだ

[足元にしゃがむ仕草に目を見開いて。
下がろうとする体を、浅い呼吸で止める]


 あの……


[なんだろう。スネ? スネを出してるのはダメ?]



 あ


[片足を下げる。
重心を後ろに。チエの膝の近くに残された片足が見える]


 …… すごい


[最初からそうであったみたいに、しっくりと馴染む薔薇。
すーすーするような、なんとも心許ないような感覚が消えていく]


 すごいね──


[立ち上がったチエと視線が交わった]



 そうだ。これを
 ──君に


[花束のメインは赤。
背が高いのは淡い色の桃の花、落ち着いた赤いフリンジ咲きのチューリップ。グリーンのラナンキュラスと霞草。
ミモザは含んでいない]


 はじめて。好きな子ができたら
 花束を持って行ってご覧って、昔ね、友達が


[その人、ゴリゴリの欧米人だけども]



 チエ、最初に言うけど
 私は君に恋をしている  かもしれない


[この気持ちもまた、恋と呼ばれるものらしいから]


 そうするとね
 年甲斐もないんだけど、これは初恋ということになるのかも

 なので
 おかしなことを口走っても、大目にみてもらいたいな
 二人っきりだし君は素敵だし──


[本物のデートに慣れてないからね、と*]

[玲羅と目が合って。微笑み合う。


俺も〜〜。こんな集中したの試験以来かも。
いや、もしかしたら試験以上かも。

ね〜〜。玲羅に似合うと良いな〜。


[笑い合って。待って居た。

[彼女の指に嵌った指輪。
左手ごと、光に翳す姿。
魅入ってしまって、胸が熱くなる。
『綺麗』なのは、君の方だ。]


…………っ。ああ。


[魅入っていたから、玲羅が俺に向き直った時。
一瞬反応が遅れた。
彼女が俺の手を取って、指輪を嵌めてくれる。
ぴたりとおさまる指輪。
見えないところには、彼女と自分のイニシャルが刻印されている。]

[胸が熱いだけじゃなくて。
ふいに、込み上げる物もあって。]


……っ。ふふっ。


[込み上げた物を。
涙ではなく、笑顔で零した。]


確かに……

感動しちゃうね。


[笑いかけて。
あーあ。ここは外どころか、人目がたくさんある教室で。
どこかで2人きりになれたらいいのに。と思った。
散々お世話になった先生ごめんなさい。でも。
今は彼女を、独り占めしたいなって、そう思った。]

[玲羅の左手をそっと取る。
少し槌目の大きな指輪。]


玲羅には、ちょっとゴツかったかな。


[決して彼女が満足しないとは思わない。
ただ素直な感想を零して。]


……大事にするね。


[愛おし気に呟いて。]



ああ。2人きりになれたらいいのに。



[結局は。自分の内心を吐露していた。*]

─ スプリングラム・デーのある勝利 ─

[君なら勝てると思ってた! ]


 さすが、真白
 このくらいは余裕だったね


[美味しい大根の揚げ出しは、お客様の箸を止まらなくさせた
いいよ、煮付けた大根たくさんあるしどんどん注文が来てもどんどん(真白が)受けて立つよ!]


 ありがとう、今日は揚げ物むりかなって日でね
 真白が助けてくれるから作りたいものを作れた


[一緒に作れるのは楽しいね。無理難題? そんなわけないじゃないおおげさだなあ**]

メモを貼った。

生まれてはじめて?
これから、何度もしよ。イメチェン。
イメチェンになんないくらい、しよ。

[グリーンのワンピースは、すごくよく似合う。丈もおおよそ、想定通り。スネは出てるけど、それくらいになるだろなとは思ってた。
 あまりこういう服のモデルは高身長でないことも多いけれど、それを拭い去るくらい、似合ってる。すらりと長い手足がむしろ華だ。

 ちょっとだけ、隣との高低差が気にならなくはないけど。
 それ以上に、誇らしいくらい可愛い。]

ふふ。雰囲気、違う?
そーかも。いつもなら逆、かもね。
ボクがお茶会服で、シャミさんが王子系。

ん、イイ感じ?
ごめんね、急でびっくりしたよね。

[あと、生花と違って布の花でごめん。
 それは心の中にだけ。]

このワンピースとサンダルなら、挿し色入れたら似合うだろうなって思ってて。
サイズとかもちょうどよさそう。

[そうなるように探したんだけどね!]

[一瞬遅れる反応を不思議に思う間もなく。
顔を見て笑えば彼も笑顔を返してくれる。
それだけで今日ここに来て良かったな、って。
幸せだなあって思って。]

そっかな?
でも、手見た時にパッと目に入るのはさ、
なんかちょっと嬉しいじゃん。

[ネイルで彩られた細長い指先には
確かに少し主張が強く見えるかもしれないけれど。
でも、これがいい。これでいいのだ。]

私も、大事にするね。

[しみじみとそう伝えて。]

[……はぁ、けど、よかった、死ぬかと思った。
 まだ、片想いで女の子同士みたいな関係のままだったら、ちょっとカッコつけてみるのもジョークの範囲内で出来るかと思ってたけど。
 一応思いを通わせたらしき関係で、ひざまづいて足元に顔を寄せて――とか、
ファンタジーの少女漫画かよ
って思って、本当に本当に心臓が爆発するかと思ったんだからな。

 サプライズにしようと思って何も言わずにポチったあの日のボク、やっぱり一回死んでおいてほしい。]

……わ、すご。

[花を持ってたのは気づいてたけど、結構いろんな種類が混じってる。
 桃に、チューリップに、緑色のフリルみたいな花、かすみ草。
 ――ピンクに、赤に、緑だ。気づいた瞬間、胸の奥がぎゅっとして、全身に血を送り出す。]

友達、が?

[や、ちょっと待って。
 ――……
はじめて
?]

お、おぉ……

[恋をしている、が『かもしれない』になった。
 これは、これは一体どこまで自惚れて大丈夫なやつなんだ。ブレーキが必要ですか? 一歩ずつ?]

はつ、こい。
ボクでよかったの、かな……?

[大役を担った。これは大役だ。
 花束が急に重くなった気さえする。]



―――、


[それは無意識か意識的か、
ぽろりと口から零れたような言葉に、
ドキリとして思わず一瞬言葉を飲んだ。

ここは店内で、周囲にはまだ
お世話になった講師の方々の目がいるから、
あんまり大っぴらに二人の世界に入るのは躊躇いがある。

なのでその場で彼に返すことはせずに
ひと先ずありがとうございましたと礼を言い、
彼の手を取って店を辞そうか。]

[そうして、店を出て。
特にどこに向かうでもなく少し歩いて。]

瑛斗、……この後さ。
どうするかとか、考えてる?

[時刻は3時のおやつ時。
一日デートしようとは言ったものの、
予定があったのは此処までで、
この後のことは何も考えていない。

だから、もし彼の方に
何かプランややりたいことがなければ、だけど…。]



…………うち、来る?



[先程もちょっと触れましたが
玲羅さんちは一人暮らしです。**]

いや、ボクこそそれは大目に見てほしいやつで……
シャミさんの前で、平常心でいられる自信ない。

[なにせ思いの丈を告げたその直後に顔覆ってしゃがみこんだし、お見せできなかったがその黒のコサージュが届いたときなんてすごかったんだぞ。危うく風邪引くかと思った。セーフだったけど。]

なんかさ、したいこととか……してほしいこととか、ある?
どうしたいとか、わかんないとか、言ってくれたほうが、いいかも。
ちょっとずつ行こ、ちょっとずつ。
まず、どこ行きたい? 何したい?

[あ、でもまずはこの花束、ロッカーに預けられるといいんだけども。
 動き出そうって雰囲気になったら、まずコインロッカー探すのを許してほしい*]

メモを貼った。



 お茶会服っていうんだ、これ
 王子


[なるほど、王子だ。あらためてチエの服装を見つめる]


 あ、今の私おひめさまみたいだった?
 しまった、それっぽくするべきだったか


[息を抜くように笑う]

――いつぞや――

んー? 別にそしたらさ、ケイちゃんの有休使わなくても、ボクがケイちゃんのシフトに合わせて取ればよくない?

[よく食べよく遊ぶ健康優良児なので、有休は実はそこそこ余ってる。こないだひとつ使ったけど。
 時々パーッと休んで趣味に没頭することもあるけど、今はその時でなく。

 ……とか言ったくせ、飲食業。
 一般的に休みを合わせる土休日にはなかなか都合をつけられず。
 参加者の職に甘んじて、平日でどこか合わせようか、なんて話になったんだっけ。
 空けられる平日をぽこぽこメッセージで送って、予定調整を任せちゃう末っ子気質。
 こんなんだからモテないのよ、なんて自分の中にだけある僻みは、今は聞こえないふり*]



 ねえ、一緒に写真撮ろう
 可愛い服でこんなに、不安になったり嬉しくなったりしたことない


[挿し色の黒い薔薇。
足元を飾るコサージュが、足を動かすと陽射しで綺羅と糸を光らせた]

[好きこそ物の上手なれ、という言葉がある。

自分に当てはめてみれば、最初は写真の技術だった。
次に、様々な店の料理を食べるようになって、材料や調味料を当てるのが得意になった。
そして、自分でも料理をするようになって、レシピ通りに作るだけではなく、組み合わせを自分で考えて失敗なく作れるようにもなった。

何が言いたいかというと。]

 僕は自分が甘やかすのが好きなタイプなんだって
 初めて実感してる。

[つまり、これからも技術の向上に期待してください、ということで。]

[彼女に当てはめて言うならば、
料理が得意になって、
神田好みにファッションをアジャストすることを覚えて
おねだりの破壊力はますます上がっているということ!

必殺技、ワンパンどころかオーバーキル。
天然も可愛いけれど、自分に効くと知っていて出されるおねだりも可愛い。
これを間近に浴びていて、自分はよくここまで彼女に対して「待て」を守れていると思う。]

 女の子向けの店と違って
 キラキラとかヒラヒラはないけどね〜
 つまんなそう、じゃなくて
 楽しみにして貰えるの嬉しい。

 僕はふわふわパジャマショップ行ったらそわそわしそうだけど、
 マシロちゃんがあそこの試着室から出てくるのすごく楽しみだからね。

[嫌ではないのだということは言っておく。
因みにこれまでの彼女はあのブランドユーザーだったかもしれないが、お揃いにしようと言われたことはない。]

[昼食の計画は提案が受け入れられる。
浮かれたネーミングのメニュー名は彼女の照れを誘ったようで。
それでも少しは心浮きたつものがあったのではないか?
――反芻する癖が出ているから。]

 あ、料理人の顔になってる。

[ライバル心を燃やしている顔も可愛いと知ったので、これからも時々別の店の話題を出してしまうかもしれない。
どこに行ってもうさぎに自分の気持ちと舌は還ると彼女もわかっているだろうから、対抗心が劣等感に繋がることはないだろう。]

メモを貼った。

[自分は今もすべてが平均的な平凡なモブ男性だと思っているが、彼女を好きになってから知らない自分に気づいたりもする。

自分の中にこんなにも独占欲があるなんて知らなかった。

つきあってまだほんの数週間、「行かせたくない」のはこの夜だけの焦燥ではない。

店では見せることのなかった――というか本人も知らなかったのだから当たり前の「雄」の部分が、彼女が好きになってくれた自分と「違う」と失望させることに繋がらなければ良いのだけれど。
抱き締めたら服の隙間(と評してしまう程度のファッション知識)から小さな肩が覗いて、鼻息から彼女を守る為に天を仰ぐ羽目になる。]



 はつこい

 私は恋というものがわかっていなくて
 これはそうなのかな……? って


[実際は狭義の恋心を持ち合わせず生まれついていたのだとしても、尊敬と親愛はあり。そしてチエのことが好きなのだけど

ただ愛しているのではなくて、チエにだけは、愛されたいと思っていた]


 うん
 そういうわけなんだ

 君でなければ、デートしたいとは思わなかった

[ビーズクッションは好評のようだ。
良かった。
いわゆるちゃんとしたソファはこの家のスペースを考えると置けそうになかったので。

彼女の希望通り、席は立たずに隣に座る。
公園のベンチに座った時よりも更に近い距離。
合鍵が握られた手に手は重なったまま。]


 ……………そう、か。


[語られたのは、「まだ同じ場所にあるかわからない」実家の母親と連絡を取ったという話。
実家を出てから連絡を取ることがなかったのに、電話番号を捨てていなかったという事実が、真白が自分を雑に扱うような母でも求めていたということを表しているようで胸が苦しい。

閉じた口で歯が擦れる音がした。
電話をした、その結果を聞くのが何となく不安で。]



 じゃあ、どこに行こうか
 私のしたいことでいいの?

 ……ソフトクリーム。 いっこは食べられない


 それから


[コインロッカー? あっちにあったよ。
手を握ったままのピンクのぬいぐるみを見下ろす]


 あ、この子も連れて行っていいかな


 うん。
 ……うん。

 繋がったんだ……

[彼女の母は電話番号を変えていなかった。
しかしそれは娘との繋がりを残したかったという理由ではないだろう。
「縁を切りたい」「切りたくない」と思う程の強い感情を娘に抱いていなかっただけなのではないだろうか。
娘の方は会わない間もずっと忘れられずにいたのに。]

 は、意味がわかんない。

[声が怒気を孕んだ。
また金の話。
真白の中では自分の料理やケーキを受け取らなかった理由がそれだったと当たりをつけたようだが、理由があろうが母親が人として最低な行為をした事実は消えない。

自分にわかるのは、真白の母親は自分には理解できない価値観で生きているということだけ。]

[それでもまだ真白が母親から気持ちを離すことができないなら、自分には何ができるだろうと考えた。
しかしそれは杞憂だったと知れる。

幸せを、恋人と生きることを選んだ強い微笑み。]


 そっか。
 ……手放せたんだね。


[嫌いになれないまま、切られることを避けていた気持ちを。]



 ホント頑張ったね。
 お疲れ様。


[けじめのプロフィールには、ひとつだけまだ手放していないものがある。
正直その文字の並びだけで言うと彼女を表していて素敵なのだけれど。]


 ……最初の名乗りなんだけど。
 近い内に、僕と同じになってくれる?


[それはきっと、同じタイミングで2本の鍵を貰う時に。
指先を伸ばして触れる。
「約束」の指。

彼女の年を聞いた時に、言い出すのはまだ早いかなと思っていたのが嘘のようだ。

真白が「家族」を思う時、それは自分でありたいと強く想った。]


 本当はこういう時に用意してあれば良いんだけど、指輪。
 サイズも知らないし、ずっと持っててもらうものだから
 好みのをあげたいからね。

 ここを埋める「印」はもう少し待っててもらうようになるけど。

 ……ちょっとごめん。

[腰を浮かせ、クッションと一緒に買ったローテーブルの上に置いてある長方形のベルベットの箱を左右に開いた。
銀色のトップのないシンプルなネックレスが出てくる。]


 こっちを先に渡してもいい?
 指輪、買ってもつけちゃ駄目かもしれないか、ら……。


[銀色のチェーンに通して、仕事中もずっと「印」を傍に置いてほしい。
指輪もないのに先走り過ぎだろうか?
言った後になって前のめりな自分が恥ずかしくなり、顔を赤くして目線を落とした。**]

メモを貼った。

そそ。まあ、通称みたいなものだけどね。
お茶会、行ってみる? いつか。
そんときはぼくもお茶会服にする。

[アフターヌーンティーのフルセットを、シャミさんが最後まで食べきれるか……というと、若干疑わしいところはあるけれど。
 時間かけていいタイプの、入れ替えなしのコースとかなら、行けるんじゃないかな。]

お姫さまの、お出かけって感じ。
いーんだよ、ボクがその服に合わせた結果がこれなんだから、シャミさんの側が変わったらズレちゃう。

[本当にお姫さまみたいなロリータは、ちょっと服を選びそうだし。
 ……ってのは、口を閉ざして。]

― 高野君と惚気 ―

あ、そうなんだー。
まあ確かに顔だけ知ってるけど
よくよく考えたら話したことない人ちょくちょくいるな…

あはは、それ今度言っとく。
芸能人に華やかって言われるのだいぶ光栄じゃん。

[どこぞで似たよな会話が繰り広げられていたことは知らない。]

そ!手作り!でしょでしょ、綺麗でしょ!
良い思い出になったし高野くんには改めて感謝だよぉ。
お礼になんか一品奢ったげる。好きなの頼みなよ。

[上機嫌に言いながら。]


あ、そう?

[そうして高野の相手のことにも触れれば
さらりとした反応が返って来たので。
そういう感じなら触れても大丈夫かな、と
こちらも少し気を軽くした。

玲羅自身は至ってヘテロの人間ではあるが
色んな嗜好の知り合いがいるので
別に友人がどうであったからどうと言うこともなく。
珍しくしょんぼりする後輩はちょっと見てみたかった気もするけど。愛いやつめ。
]

へえー…… そっかー。
まああれだよねえ、恋してみて新たな自分を知るみたいな。
そういうこともままあるよね。

ってそこに関してはノーコメントだけどさー。
つまり今は追いたくなる相手なわけだ。
ふふ、大事にしなよ。逃げられないようにさ。

[経験豊富を否定されても
またまた〜と思っていた節はあるんだが
そもそも恋愛にそこまで比重を置いていなかったのかもしれない。
そしてそれが今回は崩れたということか。

どこか誰に対してもそつなく見えていた後輩の
情熱的な一面を垣間見た気がして、
揶揄うように表情をにんまりさせ。]

――報告会――

[栗栖が天然鈍感だという話は先程もした筈だが、貝沢関連のこと以外でも何かあったのだろうか。
口を開きかけたところで、唐突にメッセージのことに触れられる。
自分と個人的なチャットはしていなかった筈、と思ったところで、自分だけが反応した桜カクテルの話題を思い出した。

あれはグループ投稿と言いつつほぼ自分宛みたいなものだった気がして、栗栖の反応がないことを特に気にしていなかったのだが、そういえば少し前からトークルームを表示した時に上から下まで栗栖のアイコンが出ないくらいには彼が登場していないなと思い至った。

つまり栗栖と葉月の間で痴情の縺れが生じたということだろうか。
そう解釈できるが、部外者である自分が何ができるという訳でもない。

その内を約束されるなら、頷いて。]

 待ってる。
 でも無理は駄目だよ。

[誰も悪くなくても抉れる人間関係というものもあるので。
時間が解決してくれないなら、新しい関わり方になるかもしれないことを覚悟する必要もあるだろう。
それはきっと自分が口にしなくても栗栖はわかっている筈で。

だから、それ以上は触れないことにする。]

いいね、写真撮ろう。
プリ撮っちゃう?

[スマホで自撮りして加工でも今や充分いい写真になるけど。
 敢えてゲーセン探してプリ撮るのも、またきっといい思い出。
 ポーズ決めてメッセージ書いて、デカ目してデコろう。
 けど。]

……不安なの、平気?
ちゃんと、似合ってるよ?

[不安って言葉が出ると思ってなくて、足止めて確認。]

え?

[そうして不意にこちらに話を振られたので。
酔ってる玲羅はつらつら話し出すのです。]

んーーとねえ、最初はノリで話しかけたんだけどさあ、
なんか妙に気が合って楽しくてさ〜、いいな〜って思ったんだよね。
だから次一緒にご飯しよって誘って…。

で、よくよく話してみたらさ
私がアイドルしてたこと知ってたんだよ。ファンだって。

でも、なんかそういう…アイドルだったからとかじゃなくて、……
一方的に好きでいるんじゃなくて
素の私の事もっと向き合って知りたい、
って言ってくれて………

その時かな…
やばいまじでこの人のこと好きかも、って思ったんだあー。

[へら、と少し照れくさそうに頬を染めて。]

[専門はグルメなのだが、観察という言葉が出てくるあたり、やはり習性はライターなのだろうか。
というか。]

 僕がライターって話、したっけ……?
 葉月さんか貝沢さんから聞いた?
 ご飯のこと以外の観察力はポンコツだよ。

 観察が好きなのは仕事じゃなくて公にしない趣味。
 途端に変態くさいな……。

[ふと疑問に思ったが、同業者の葉月と仲が良いなら聞く機会はあったかもしれないし、そもそも高野が前から自分の職業を知っていたように、貝沢の方も知っていてもおかしくはない。
とりあえず彼氏の栗栖には、自分はパパラッチではないと弁解するつもりが、変な性癖をカミングアウトしたみたいな形になった。
墓穴を掘ったかもしれない。]

 んん”、と、とりあえず、
 僕は誓ってマシロちゃん一筋なので!

[ということだけは主張しておこう。うん。]

[貝沢と知り合う機会はあるかどうか、その辺りも二人に委ねるとして。
人懐こい栗栖が高野と会話していないという事実には軽く驚いたので、今度一緒の時間に会うことがあれば声をかけると請け負った。
好きな人を好きな人に紹介したくなっちゃう、わかるよ。
この場合前者は栗栖で後者は高野だが。]

 きちんと言葉で主張できる関係って良いよね。
 マシロちゃんも「ダメ」も「うれしい」も言ってくれる子だから、
 それ聞きたくて「していい?」って聞いちゃうとこある。

[惚気?任せて!
そしてちょっと猥談めいた言い回しになってそうなのは気づかない振りをして!]


 揶揄いだったんだ?
 ちょっと本気にしちゃった。
 栗栖くんのすぐ素直に謝れるところ尊敬するな。

[恋愛の意味に限らず、人に好かれる人ってこういうカタチをしているんだなと思う。]

 ラムは子羊だね。
 マトンより獣臭さが少なくて柔らかい肉だよ。

 マシロちゃんの料理は別口で頼むので、
 大人しくおにーさんの皿から取り分けしなさい。

[回して貰った気は辞退して、皿に並ぶ骨を両端から二人食べることにしよう。**]

私さ、アイドル辞めた後も
何人かと付き合ってきたのね。
普通の恋がしてみたかったから、
告白されたら割と受け入れてさ。
なんだけど……

なんせ元アイドルでしょ。
そんで、こんな性格してるからかな。
なんか変に先入観もって接させること多くて。
明るくて強くて面倒じゃない女、みたいな……
いや別にそんなでもないですけど、みたいな。

…ちゃんと好きで付き合ってた、つもりなんだけど。
なんかそれで結局うまくいかなくってさ。

[過去の恋の話なんて、
彼氏に聞かせるのはちょっとあれなので
せっかくだしこの場を借りて吐き出させてもらおう。]


……なんかね、そういうの、
この人なら大丈夫かもって思った。

……ただなんでも許してくれるってわけじゃなくて…
私の好きになりたい私を肯定してくれて、
自然体でいられるっていうか……

[最後の方は独白めいていたかもしれない。
ぼんやりと、一方的に語って。]


…てか、そういう高野君は?
どういうとこいいなって思ったわけ?
馴れ初めとか聞かせてよ〜。

[そんな風に話を振り返すのです。**]

そ、っか。
や、でも、うん。それでも好きになってくれたのは、……っていうか。
ボクを選んでくれたのは、うれしいな。

[恋がわからないシャミさんが、唯一デートしたい相手。
 そんなに誇らしいことがあろうか。
 それに、なんとなくその気持ちもわかるし、さらに言えば知識としては知っている。

 ……ボクはね、意外と真面目な学生だったんだよ。他人を見返してやるために、だったけどさ。
 だから、いろいろな気持ちのかたちを、知っているつもり。
 そして本物は、今から学ぶつもり。]

メモを貼った。

メモを貼った。

オッケー、ソフトクリームね。
シンプルにバニラの? あ、そういや確かこのへん、フルーツ直接ミックスして味作ってくれるアイス屋さんもあるよ。

[はじめの一歩なら、シンプルなのがいいかもしれないし。
 あんまり食べないからこそ、変わり種がいいかも。
 行きたいところにエスコートしよう。それができるのがうれしくて、多分ボクはずっと笑ってる。]

んで、ソフトクリーム食べて、プリ撮る? 自撮りでいい?
あ、ていうか先ロッカー行っていい、かな……
きれーだけど、流石にこれ持ってると、ソフトクリームしんどいかも。

[両手がそれでふさがってしまう。
 ロッカーに無事行けたなら、最初の一歩のスタートだ。]

……あ、けどさ。
いっこだけ、行きたいとこあるんだ。

もしよかったら、付き合って。

[どうしたって、普段は選べないものを。
 今ならきっと手に取れるかも、しれないから*]

[ 無計画に大きいサイズを頼みそうに
 なったのは止めてもらえただろうか。

 二人で食べる分、に少し多いくらい。
 の注文を終えると、手伝いを申し出られて ]

 楽しくて。
 自分以外の人の口に入ると思うと、
 真剣にもなるし

[ いい傾向、と言われれば
 苦笑いも浮かんでしまう。

 よっぽど酷い食生活を心配されていたみたいで。
 そりゃこれまでの事を思えば知られて当然だけれど。 ]

 うん、冷やしとかなくてもいい?

[ 自分もまずはコーラ、と決めていたので
 ワインはセラーに収めたまま。

 飲みやすそうなサワーを選んだ後、
 動画の再生が始まると、視線は自然と
 テレビの方へ向かう。

 CMやなんかがカットされていれば
 一本分の時間はそれほど長くない。

 途中退席した頃に、ちょうど若かりし俺が
 登場したようだ。 ]

 うわっほんとだ……

[ 画面いっぱいに映るのは、俺。

 昔を思い出して、かなり恥ずかしい
 気持ちになりながら、熱々のピザを前に
 後方に沈む。見ていられないので両手で
 顔を覆ったまま。
 
 当時、本当に日曜朝に自分の顔が
 映る事に感動したものだが、あれから
 七年も経てば、それを眺める気持ちも変わる。

 七年前の俺も、よもや自室で恋人と
 これを眺めながらピザ食べているとは思うまい。 ]

[ 出番が終わるまではそうしてたけど
 ピザは温かいうちに、食べるもの。

 温め直す事はできるけれど、
 君が美味しそうに食べていたものだから

 体を起こして、ピザに手を伸ばした。
 よく伸びるチーズを巻きつけるようにして、
 薄くてサクサクな生地のピザに齧りつく。

 そしてコーラ。お家映画の定番は、
 定番たる理由がある。うまい。それに尽きる。 ]

 監督がさ、ちょっとくらい顔色悪い方が
 いいとかいって、前日すっごい飲まされて。

 それまで量あまり飲んだことなかったんだけど
 飲める方だったみたいで、そりゃもうばかすかと。

[ 苦悶の表情を浮かべる画面内のブラックは
 頭痛に耐えているだけだった、なんて
 子供の夢もなにもないことをさらりと暴露し、食事は続く。

 時々野菜を口に入れ、君が好きだという
 サーモンがトッピングされた
 菜の花のカルボナーラの方も、一枚もらって良い?
 と聞いてから、頂いた。

 菜の花とピザという組み合わせに興味が
 湧いたので。 ]

 あ、うま、…

[ もっちりとした生地に載ったサーモンが春めいてみえ、
 見た目にも美しいが、味も良い。 ]

[ 頂いた一切れを食べきった頃、
 落とされた言葉には、うぅんと少し悩むように
 唸った後に ]

 部分的にはある、けど
 本格的に、はないかな。

[ そう言った。それでは説明不足だろうから ]

 指導とか、携わることはやめたくないけど、
 あっち側に、高野景斗を住まわせる気は
 ないって方が正しい、な。

 今は一時的に、話題になっているけれど
 ずっとあっち側にいるには、色んなものを
 犠牲にしなくちゃいけない。

 何を犠牲にしたって、あっちに行けない人が
 いるくらい大変な世界で、
 じゃあ俺がそうするために犠牲にするのは?

 って考えると俺なんだよね。

[ 動画の再生中に話すにしては、少し長くなる ]

 過去も今も、私生活も、
 時間も、体も、時には心も。

 だからMVの仕事も、無条件で引き受けるつもりは
 なかったんだよ。最初は断ったし。

 頼まれたからってなんでもやってたら
 今頃、あっち側でしか生きられなく
 なってただろうね。仕事も選べる立場じゃないし。

 でも久しぶりに、あっち側の仕事をして
 考え直した事もあるかな。

 今までは、求められてないだろうし
 下世話に騒がれるだろうから、断っていたけど。

 今はね、自分のことも大事にしたいから
 断る事にしたんだ。

[ だから話半分に聞いてくれるくらいで、
 ちょうどいいのだけど。 ]



 お茶会
 クロテッドクリームとジャムを塗ったスコーン、美味しそうだね


[ひとくち食べたい]


 うん、合ってるね
 リンクコーデって言うんでしょう


[並んで立つ。
いつもよりもチエの視線が高い。黒いベストが見慣れない。縦のラインが強調されていて、可愛らしくて格好いい]


 王子と王子もできる?



 ふふ、大丈夫
 君に会うまでは不安だった。私は自分の身体にコンプレックスがあるんだ


[ちゃんと似合ってるって言ってくれるから。
足を止められたのでスカートの裾を摘み上げて膝を曲げて見せる]

 うっかり出来てしまった無名のヒーローの席だけは
 まだもう少し、座るかもしれないけど

 それが終わったら今度こそ、
 あちら側には行かないつもりでいるよ。 

 ラジオの方は、打ち切られない限りは
 続けるけど。

[ 自分を大事にする覚悟をきちんと、
 表明できたのはきっと、今、自分の隣が
 空白ではないから。

 テレビの画面の中、決め台詞を言ってる
 昔の俺には悪いけど、少しだけ
 視聴者の視線は、貰うつもり。* ]

[そしてデートプランが立っていく]


 どっちが好き? おすすめの方にしよう
 ……ああ、お客様はこういう気持ちなのかな、料理を待つとき

 プリ
 やったことない、それしよう


[ロッカーにかさばる花束を。
ぬいぐるみは、預けない。バッグの中身に余裕を作ってきたし]



 行きたいところ?
 どこかな

 いこ


[花束を預けたらその手は空くね? 手を差し出した*]

[缶ビールは冷えた方がいいけれど、
 サワーなら多少冷えてなくても味は分かる。
 あまりにも温くなれば氷も足すことも視野に入れるが
 そこまで時間をかけることはないだろう。]

 
  大丈夫。
 

[断りを入れて、開けたプルタブはコーラの方。
 しゅわしゅわとアルミの中で泡が踊る。
 毎日飲む程じゃないが、
 たまに飲みたくなるのは何故だろう。

 慣れ親しんだ味を、口に含みながら。
 瞳に映るのは、爆発のシーンだとか。
 友情を育むシーンだとか。
 時に恋愛事情も混じりながら物語は進んでいく。

 一日に全部見ることは無理だろう。
 それでも、自動再生されていく話数が増える度、
 進んでいく物語は、子供の頃を思い出して
 懐かしくもあり、出演者の傍らで眺めている。]

[羞恥に沈んでいく姿を横目に笑いながら。
 ピザの合間にピクルスを食んで、
 カリ、と音を鳴らせた。

 程よく味が染みていてカルボナーラで
 まろやかになった口に酸味が効いてくる。

 料理を楽しいと話してくれた。
 以前はやる気になれば、の程度だった話。

 真剣になる理由を聞いたなら、
 店のことを思い浮かべて、分かります。
 と、短く同意を示しただろう。

 美味しいと言ってもらえる人が居るからこそ、
 料理の腕は育つのだと思う。

 だから、ピクルスにも。サラダにも。
 美味しい、と彼に重ねて告げて。笑って。]

[少しずつ角度が鋭くなっていくピザの形。
 Mサイズにしたから、食べ切れるだろうか。

 二日酔いの理由を聞いたなら
 少し苦笑も浮かべたくなるもの。]


  そんな理由で飲まされたんですか……。
  高野さんが飲める方だったから、
  良かったのかもしれないですけど。

  それ、軽いアルハラじゃないですか。


[渾身のメイクかと思いきや、二日酔いで陰を作った理由。
 子供が知ったらどれほど悲しむだろう。
 できれば俺も、知りたくなかったです。というのは、
 ひっそりと心の奥底にしまっておくとして。
 (男はいつまでも心は少年のままなので)]

そーゆー定番もいいけど、ホテルのアフターヌーンティーとかも行こ。
ひとつのケーキちっちゃいし、いろいろ楽しめるかも。
それでゆっくりお茶しよう。どれがおいしいとか言ってさ。

[ふわふわのワンピースでそんな時間も、絶対に楽しい。自信がある。
 小さいケーキも、こんなときばかりはありがたいね。]

王子と王子もする? 王子コーデ探さないとな。
シャミさんなら、ショートパンツスタイルでタイツとかハイソックスでもきれいだろうな。

[うんうん、頷いて想像する。
 今度はダークレッドを探そうかな。]

 
[そうして聞きたかった核心に触れれば、
 予想とは違った答えに、少し目を瞠った。

 本格的にない。
 それは殆ど言っていいほど
 俳優業を断つように聞こえたから。

 

[あっち側、と遠いもののように話すのを、
 ただ静かに聞いていた。

 話題になっている今なら、返り咲くことは
 難しくないのではと、
 浅い知識ながら考えたものだけど。

 その世界を知らない俺には、踏み込むことで
 何を犠牲にするのかは分からない。けれど。

 『犠牲』という言葉を使う時点で、
 彼の心は思った以上に離れていたのかもしれない。

 あれほど喜ばれたというMVを断ろうとしたこと。
 メディアに取り上げられる仕事だから、
 確かに私生活は多少、犠牲になるかもしれない。]


  ……――、


[復帰の為にではなく、見切りを付ける、為に。

 そう選んだ彼に、ラジオで喜んでいた
 ファンの声を思えば、少し残念な気はしたけれど。]

[コンプレックス、と聞けば、軽く眉が下がる。
 そうなんだろうなとは思っていたけど、あんまり自分から言うのは気分がいいものじゃないだろう。
 それを払拭できるように、きれいなワンピースを選んだつもりだけど。
 それでも不安だったかという気持ち半分、ボクがそれを払えたと聞いて嬉しい気持ちが残り半分。]

似合うし、可愛いよ。
想像してたよりもっときれい。

[お姫さまなポーズに、そういうところがかわいいんだよなぁと心のスタンプカードにかわいいスタンプを押した。]

ん、ボクはフルーツ入れてくれる方がいーな。
どんなのできるか気になるし。

[店についたら、何を選ぼう。
 イチゴがあったら入れたい。チェリーは流石に早いかな。
 こないだ店でブルーベリー見たの美味しそうだったから、入れてみようか。
 そんな話をいくつかしながら、ロッカーに花束をin。
 せっかくくれたのに、ごめんね。シャミさんのご友人も、ごめんなさい。]

よっし。
じゃ、アイス食べに行って、プリね。
めっちゃ可愛い写真撮ろ。

[空いた片手を重ねて――ちょっぴり、鼓動が早くなる。]

行きたいとこ、先聞きたい?
サプライズがいい?

[探り探りのデートになりそうだし。
 行き先は決まってるけど、進行の好みは聞いておきたい。]

[返り咲くことのない花。

 彼自身がそう決めたと言うならば。
 もう名残惜しいと口惜しむこともない。

 言葉を飲む込むようにゆっくりと瞬いたら。
 向けられる視線に、目を見合わせて。]


  じゃあ、『ヒーロー』はもう卒業ですか?


[無名のヒーローは残る。まだ暫く。
 画面に映し出されたままのブラックも。
 配信され続ける限り。
 またいつか、誰かの心に残るかもしれないけれど。

 『ヒーロー』が素の姿になったのを
 知っているのは、隣に並ぶ自身だけ。*]

―― 先輩の惚気 ――

 名前知らないまま話し込んだりも、
 ここだとよくあるよね。

 はは、言っといて。
 スカウトマンでもなんでもないけど。

[ その気なら口利きからのスカウトも
 考えるけど、そんな事したら先輩にシメられて
 しまいそうなので、言わなないまま。 ]

 や、無駄にならずに逆によかったよ。
 どういたしまして、じゃ、
一番高い酒ください。


 ――冗談だから、一番キツい酒持ってこないでね
 お願いします。ビールで。

[ 本気にしたところで、ここで一番高い酒とは
 なんであるかなどは、知れない。
 し、別に度数の高い酒を飲むつもりもないので
 ほんと、ビールでお願いします。 ]

 このご時世、当人同士の問題に
 そこまでうるさくないでしょう

[ うるさく言われるような人物なら
 そもそも、話はしないのだけど。

 先輩のことは、それなり信用するのが
 後輩でしょ。 ]

 それは最近、すごい実感してる。
 どっか他人事みたいに、俺心狭ぁとか
 しょっちゅう思う。

[ 恋して新たな自分を知るには
 大きく頷いた。 ]

 そうだね、消滅とか考えた事もないけど

 逃げようとされたらみっともなく
 縋ってしまうかも

[ プライベートな部分に
 深入りすることがなかったのは、お互い様
 であるが、これほど上機嫌で饒舌な彼女は
 今までに見たことがなく。
 軽い気持ちで聞けば、ご機嫌でつらつらと
 語りだすので ]

 あ、ビールお代わりください。

[ まずは追加の酒を注文した ]

 ファンと。そりゃまた。

 あぁそれは………嬉しいね
 俺たちみたいなのには、特に。

[ イチコロの殺し文句だろう。
 素の貴方を、向き合って知りたい、なんて。
 彼女にこの顔をさせる彼氏に、ますます
 興味が湧いてくる。 ]


 あぁ………、うん うん

[ アイドルを辞めた後の、
 普通の生活の中で過ぎ去った日々
 の話には、こちらにも通じるものがあり
 一つ一つ、丁寧に頷きながら聞いた。 ]

 アイドル時代の、壁は大きいよね
 勝手にそういう顔、作っちゃう時
 俺もある。

[ 普通の女の子をしたくて、過ごした日々のなか
 うまく行かず、悩む日々もあっただろう。

 ただ、その日々があったからこそ、
 彼女は出会うことができたのだと、思った。

 なにせ、相手の理想とする偶像を
 演じるのは、我々の得手とするところ。

 そうせず、諦めなかったからこそ ]

 そっか。

[ この人ならと言える相手に
 ただの人間、ただの女の子として
 迎えて貰えたことには、 ]

 うん、良かった。幸せそうで。

[ 心から祝福の言葉を送った。

 好きだと伝えることも、
 本当の自分を差し出すことも、

 その本気を受け取ることも
 受け取られないと知りながら、伝えることも

 等しく、勇気ある者にしかできないこと。 ]

[ 頑張ったね。

 あくまで俺は後輩なので、
 その言葉を投げかけることはない。

 頑張れと背を押したとて、
 行動に移したのは紛れもなく、彼女だから。 ]

 え゛っ 俺?

[ うんうん、良かった。
 この中々に頑なところもある先輩の大事な
 彼氏にいつか会ったらなら後輩ヅラして
 先輩をよろしく、などと挨拶しなければ
 
 とか、考えていたので突然水を向けられて
 濁音で反応してしまった。

 友人が幸せを報告してくれた素敵な夜
 お代わりしたはずのビールも残り僅か。 ]

 いや、いいよ 俺のは
 恥ずかしがり屋なんで。

[ 降参するように両手を上げたが
 追撃されるようならぽつぽつと
 話し出すかもしれない。* ]

[アイスショップに着けば、ショーケースには色とりどりのフルーツ。
 イチゴもあるし、ブルーベリーもある。チェリーは残念ながら。]

なにか入れたいのある?

[ふたりで好きなフルーツを選んで、それをミックスしてもらって、今日しかできない味を分け合う。
 今更ながら恋人っぽいんじゃない、と思ったら、味がわかんなくなりそうになったけど。
 冷たいソフトクリームはありがたいことに、そんな緊張も冷まして、舌を起こしてくれる*]

[ プロである誰かが、
 自分の作ったものを食べると聞けば
 多分作ることからしていなかったと、思う。

 けれど今日訪れてくれるのは、
 プロであるが、恋人。

 作るという楽しさを教えてくれたのも
 君だったから。そういう気持ちで作ったものを
 きっと、食べてくれるだろうとも、思って。

 合間に摘まれたピクルスが口に
 運ばれるのを、思わずじっと見てしまった。

 美味しい、と言われればまた一つ、
 君がいつも感じている気持ちに、
 近づくことが、出来ただろうか。 ]

 結構な年だし、不器用だけど
 馴染んで欲しかったんだと思う、現場に。

 俺は自分のことでいっぱいいっぱいで
 声掛けられても、素っ気なかっただろうし

 限度を知らなかったから、断れなかったけど
 それからは断ってたよ、ほどほどで。

[ 苦笑いを浮かべる彼には、そう答えた。
 
知りたくなかった事を、いつか教えてくれるなら
 ご機嫌取りに伺いたいと思います。
]

[ これからの事でもあり、これまでのことでも
 ある話を、君は黙って聞いてくれていた。 ]

 そうだね、そうなる。
 がっかりした?

[ 卒業ですか?と問われたなら
 すぐに肯定の返答をした。

 投げ返した問い。
 浮かべる表情に、悲しさは寂しさはない。

 人の思いの中にだけ、生きているであろう
 ヒーローは、今もう、君の隣には居ない。

 君の隣にいるのは、少し駄目になってて
 君のことが大好きなだけの、ただの男だ。* ]

メモを貼った。



 してみたい
 それもしてみたいね……昼抜いて調子を整えて……


[アフタヌーンティーはしたことない。料理はする側で、味見をするもの。
作ってもらう側、まして客としては]


 ショートパンツの王子?


[それ私が着ても大丈夫なのかな、と思考には浮かんだが口にはしなかった。
少なくとも、その格好をチエは好きなのがまちがいない。
そしてその「きれい」「にあう」に信を置いている

チエが店の外にいる自分の姿を思い浮かべて衣装を考えてくれる、という想像は胸を熱くする]


 じゃあまた、今度ね

[ロッカーに入る花束を見て思った。
先達の受け売りが正解とは限らないな。と。

花屋で、色や花の名前を見て、やけに細かい花言葉だの産地だのを聞かされながら選ぶのは楽しかった。
サンザシの花(買わなかったけど)をみて、あの実に花があったことを知ったりだとか。

けれどたぶん、花を捧げるよりも、一緒に見にいく方が自分は好きな気がする。
あるいは手渡すよりは、摘んだ花を彼の髪に挿す方が好きなのでは]


 そうだな……じゃあ、まずサプライズかな
 この服装で行ってもいいところなんだよね


[一つずつ試していこう]

[アイス!]


 凍らせて……となると時期さえあえば洋梨あたりが優勝な気がするけど


[季節感、大事。
やはりあれは秋の気配を感じ始めた頃に食べるのがおすすめ]


 あ、キウイ
 キウイにする


[ショーケースを覗き込み、ゴールドでないキウイ・グリーンを指差した。

ミックスフルーツの氷菓子。
冷たい、甘いソフトクリームに小さなスプーンを差し入れて、溶けてダメにしてしまう前に。
この他愛ない買い食いが、大きな冒険の一歩であることをチエには、はっきりと伝えてはいない]



 美味しいね
 果物のソルベは作るけど、これだけの種類を常時提供して専門店として成り立たせるのはすごいな

 チエの作った、ヨーグルトのシャーベットも美味しかった。あの賄いの


[春の陽気に触れて表面から柔らかくなっていくアイスを見ながら、呟くほどの音量で]


 あまり、作りたくなくなってしまったのは
 私が原因だった? 自分が力不足だと思って


[あのぬいぐるみを、身代わりのようなぬいぐるみを渡された時、間違いなくとても嬉しかったのと同時に、
諦めろと言われたような気がした。身代わりを渡されて*]

[アルハラと称した返答に
 擁護のようなものが入れば、少し苦味が交じる。
 そういうコミュニケーションの取り方も
 あるのかもしれないけれど。

 手にした缶を指先で持て余しながら、
 視線が手元に落ちてしまう。]


  それでも、他にやり方はあったと思います。

  高野さんが、それを厚意と思うならいいですけど、
  断れない人間に酒を勧めるのは、あまり。


[店でもほんの少しだけ、稀にある光景。
 酒は百薬の長とはいえど、時には毒にもなる。]

[アルハラと称した返答に
 擁護のようなものが入れば、少し苦味が交じる。
 そういうコミュニケーションの取り方も
 あるのかもしれないけれど。

 手にした缶を指先で持て余しながら、
 視線が手元に落ちてしまう。]


  それでも、他にやり方はあったと思います。

  高野さんが、それを厚意と思うならいいですけど、
  断れない人間に酒を勧めるのは、あまり。


[店でもほんの少しだけ、稀にある光景。
 酒は百薬の長とはいえど、時には毒にもなる。]

[そんな現状はもう、あまりないだろうけど。]


  
無理しないで、くださいね。



[伏したまま、ぽつりと言葉を落とす
 そんな、一場面もあったかもしれない。]

[問い掛けに逆に問い掛けられて、少し戸惑う。
 がっかり。そういう言葉で表現するには、違う。

 空いたピザのケースを眺めながら、
 また、ぽつりと零し始める。]


  俺は。
  まだ、高野さんが
  続けたいんじゃないかって、思っていたから。
  答えが、少し予想と違って驚きました。

  がっかり。
  ……は、正直なところ。してないです。

  ラジオは聞いていても、
  実際に見るのは、今日が初めてだったし。


[視線をテレビに移せば、
 変身を解いていくヒーローたち。
 彼らもヒーローの皮を脱げば、普段の姿になる。] 

 

  今が良いっていうなら、それでも構わない。
  俺が、見てきた人に変わりはないから。

  俺が知ってる人は、ラジオの向こうと、
  店で食事を楽しむ姿ぐらいだけど。 

  その日常をいいとあなたが思えるなら。
  それでいい。

  もし、まだ心残りがあるのなら
  ……背中を押したかもしれないけど。

 

[言葉を区切り、弄んでいた缶を置いた。
 距離を詰めるようにソファに近づく。

 彼が手にしたままのコーラを取り上げたら、
 そっと床に置いて、覆い被さるみたいに
 正面から両腕を回して、抱きついた。
 ソファと俺の間に挟んでしまって抱き竦めて。

 まだ酒も飲んでいないのに、
 妙に甘えくなる気持ちが勝って、肩口に頭を乗せた。]


  ……今のままでいいなら、いいんです。
  後悔がないなら。

  『ヒーロー』じゃなくてもいい。

  デザートを宝物みたいに写真を取って、
  バイクに乗るのが気持ちいいって、
  駄目にしたいからって、ソファを二つ買うような、
  ――――そんな、貴方だから、
 

 
[向ける視線の先、横顔に手を伸ばして。
 頬に手を添えて此方を向くように。

 先延ばしにしていた、
 ずっと言葉にならなかった想い。

 そっと首を伸ばして、
を触れ合わせる。]

 




  …………――、そんな貴方だから。
      好きなんです、景斗さん。




                    **

メモを貼った。

 ごめんね、この頃の俺も
 心配させたね。

[ 視線が下方に落ちる。
 当人にとっては、そんなこともあった程度の
 昔話。けれど、今だってよくある話。
 酒類の提供をしている店に勤めている彼には
 思い当たる事もあるのだろう。

 片手を伸ばし、抱き寄せるようにして
 頭を撫でる。もう一度ごめんね、と告げた後 ]

 大丈夫、もうそういう事、ないよ。
 心配してくれて、ありがとう。

 心配させたくないから、
 しないよ。

[ ぽつりと落とされた言葉に、
 また一つ愛おしさが生まれてきたから。
 やさしく、やさしく、頭を撫でた。 ]

[ 聞けば答えてくれた、自分のことも
 そうじゃないことも。けれど、己に比べれば
 口数の多いほうでない彼が、零す言葉の数々に、

 ああ、いつか。そんな風に言ってもらえる人を
 見つけたかったのかもしれない、と思い当たる。

 続けたいんじゃないかと思っていた
 その言葉に、瞳を伏せた。

 退院してからの日々、続けられなくなってしまった
 現実と直面し、すぐに気持ちを切り替えられた
 わけではなかった。

 諦めるのか、諦められるのか。
 一度手にしたものは全て、こぼれおちて、
 粉々になって、気づいたときには拾い集めたところで
 元に戻る事はないほどの砂粒になっていた。 ]

[ 他人を羨むことがなかったわけでもない。
 自分の椅子にのうのうと座った後輩を
 妬んだ日もある。

 しかし自分を見直すには、いい機会だった。
 削れた心を埋めるにもまた、いい日々だった。

 あの頃の俺と来たら、目に入るもの全て
 破壊してしまうような目つきをしていたから。

 可哀想と言われなくなった頃には、
 今の生活が気に入っていたかな。
 バイク以外の好きなものを探す時間が出来て。

 引退報道から三年もすれば、
 街中で声を掛けられる事もほとんどなくなり、
 
 ひょいと、予約もしていない店に
 訪れ、気に入りの場所になることも、

 あのまま無理矢理に走っていたら、
 見えないものだったと今思えている。 ]

[ 今が良いと言うなら、構わない。
 心残りがあるのなら、
 背中を押したかもしれない

 その言葉を聞いたときに、思った。

 ああ、俺が好きになった君は、格好いいなって。
 見惚れていたよ。このまま時が
 止まってしまっても良い、と思うくらい。

 距離を詰めるように、近づいて来た君が
 コーラを床に起き、覆いかぶさってくる。

 二人の間に隙間がなくなり、声が更に、近くなる。 ]

[ ――クールなところがあるから。
 そこも好きだから。

 自分の言葉を行動を拒むことなく、
 受け取ってくれるから。
 
 それで、十分すぎるくらいだった。

 言葉にしなくても、伝わるものは
 いくらもあった。

 ともに帰る道で、先に手を伸ばしてきたのは
 君の方だった。
 泊まって良いかと尋ねたのも。

 応えられるようにそうなっていきたい
 と言ってくれたあの日から。今日まで。ずっと。 ]

[ 横顔が捉えられて、
 視界が変わる、目線の先、
 すぐ近くには、君がいる。

 触れ合う
に、
 あの日のような
苦さ
はない。

 息が触れ合うほどの距離で
 告げられた言葉が、ほんの僅かに、
 瞳に水膜を張った。 ]

 ――……俺をどうしたいの、那岐くん
 嬉しくて、どうにかなってしまいそうだよ。

[ 背中に腕を回し、頬を触れ合わせると、 ]

 
もう一度、名前呼んでくれる?


[ 問いかける。君曰く、優しくて落ち着いた声で。

 だめになってしまう君を、見てみたかったのに
 願わくば、ソファの力を借りずに、己の力で。

 俺のほうが先に、駄目になってしまいそうだった。
 願い通り、もう一度呼んでくれたなら、

 自分すら見たことがない男の顔を、
 見せることに、なっただろうな。** ]

メモを貼った。

[指輪を見て。心から嬉しそうにしてくれる玲羅
だから零れた呟きに、しまったなと思う。
彼女はTPOをきちんと弁える人だから、迷惑をかけてしまっただろう。
今後の予定を聞かれて、俺は困ってしまった。
特に考えてない。えっと、佑一や神田先生の教え……
必死で脳内を探っていると、小さな囁きが聞こえた。

『いいの?』喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
俺はそれがどんな意味か、正確には把握していないだろうが。]


……行く。行きたい。


[俺は被り気味に答えて、小さく笑った。]



玲羅を抱き締めて。キスしたい。


[お外を歩きながら、正直に今の気持ちを口にしました。
待ち合わせした駅。もう随分前の事に思える。
来た時と違うのは、帰る時は手を繋いで。
玲羅と共に、改札を潜っただろう。**]

[帰り道。のんびり歩きながらも、微かに頭に過った。


玲羅の性自認ってどうなってるのかな?


こんなにも可愛らし玲羅に対し気にするのは何故か?
天然鈍感栗栖くんは、男女共に告白された経験があります。

下心無く接していると、純粋な好意を返して貰える事はままあって。
中には見た目と自認する性が異なる人もおりました。]

[栗栖瑛斗は人の外見を褒めるのが苦手だ。
それは外見が食生活に直結している事に起因する。
見た目は持って生まれた骨格の他、食事が大きく左右する。

肌の美しさ。太っている。痩せている。
食事の与える影響は大きいのに……
皆が皆、好きな食事をとれるわけでは無い。

アレルギー、病気、体質、ストレス、家庭の事情。
……それこそ、お金がないとか。

心無い言葉で傷付いて、摂食障害になる人も居る。
容姿を褒めるのは、苦手だった。

化粧や服装は、幾らでもその人の印象を変えてくれる。
それこそ魔法みたいだと思うし。
楽しんでる人を見るのは好き。
……でも褒めたら、褒め返されたりするから。
似合う服を勧められたりするから。
やっぱりちょっと、言葉にするのに抵抗があった。]

[そんな風に過ごしたからか。自分が鈍感天然だからか。
男女ともに告白されたことはあったけど。
自分には優先したいことがあった。
ただ、申し訳なさそうな顔をする人には、そんな顔しないで欲しいなと思った。
応えないのはあくまで自分の都合で。
あなたには何の非もなくて。
好きになってくれたことは、嬉しいのだから……
そんな風にしてたら、相手の性別に触れる事も無くなった。
ひらひらの可愛い服を着ていても、心は男の人も居るらしい。
恋の告白では無く、そうした告白を受ける機会も増えた。

だから恐らくうさぎの穴でも。
自分は求められた時以外、容姿や服装、性別等に。
触れた事は無いはずだ。それが習慣づいている。]

[けど…………


なんで今更こんな事気にするかって?
下心があるからだよ!!!



あんな事を言われといて。
家に誘われて
下心を持つなとか無理ですよね?!

でも経験が無いんです。
どこまで相手は許容してるんですか?
そもそも玲羅は自分を男女どちらと認識してますか?
何故こんな事を悩むか???
スートに性差を着ける気は無いけれど。
シェアした時に選んだスートが、ハートではなくスペードだったから。
そんな細かいとこまで気にしてしまう。]

[彼女の家は、電車から降りてどれくらいだろう?
一人で悩むのはやめよう。
ダメな時、嫌な時は、きちんと口にしてくれる人だと。
玲羅の事は信じられる。

ならその時に、俺が少し恥をかけば済む話しだろ。
彼女の身体の方が大事だし。
なんの準備もしてこなかったのは自分だ。]


あの……さ……。


薬局かコンビニ。寄ってっても良い?


[お伺いを立てますが。
顔が赤くなるのは止められませんでした。**]

[予定を尋ねれば何だか困ったような顔。
そして家への誘いには食いぎみの肯定が返って来た。
なので安心したように笑いかけ]

ん、じゃあ、決まりね。
………うん………。


[続く正直な吐露には恥ずかしそうに頷いて。
改札を潜り、家の方面へと続く電車に乗る。]

[ところで。
普段玲羅に対して性を疑ってくる人はまあいないので
彼の疑問には口にされない限り気づかないわけだが。

玲羅は心も体も女性ですし、性愛対象は男性ですし、
ついでに言えば女扱いされれば素直に喜ぶ女だ。


スートに関しては恐らく私の方にハートを想定して出されただろうから
あえて逆張りをしたと言うだけの遊び心で特に他意はない。

玲羅の周りにはそれこそLGBTも性癖に関しても
色んな人が居て、偏見はないつもりでは居るが。
それはそれとして人の嗜好なんぞ逐一分かるわけないし
何も言わず察して欲しいと言うのも傲慢な話だと思っているので
もし何かしら「大多数と違う」あれそれがあれば
付き合うことになる初めに話していると思う。

これらも聞かれたらあっけらかんと答える話ではある。]

[そんな彼の悩みなど露知らず。
程なくして電車は最寄り駅に到着する。
駅から降りて、自宅までは歩いて10分程だ。

こっちだよー、と指さして。
また手を繋ぎ直して歩こうとした矢先。
彼がおずおずと申し出る。]


………………。


[普通に飲み物買ったりするだろうし、
コンビニに寄るくらい不思議なことではない。ないけど……

じんわり赤い顔と、所在なさげな態度に
何かをピンと来てしまう玲羅です。が。]


……オッケー。
コンビニ帰り道にあるからそこ寄ろっか。

私ついでにお菓子とか買ってくね。
最近バズって気になってたやつ。


[でも、それは態度に出さずに、
にこーっと普段通り笑みを浮かべ。

コンビニ店内につけば
一旦別れて適当に菓子やらを籠に入れ、
彼が買い物を終えたっぽいタイミングで合流しましょうか。

外に出れば今度は手を繋ぐ代わり
ぐい、と彼の腕を組んで身を寄せ。]



………良かった。
ちゃんとそーゆーこと考えてくれてて



[なんせ天然鈍感栗栖くんは
お誘いの意図に気づいてくれなかった前科がありますのでね?

家に誘ったのに何も下心を抱いてくれなさそうだったら
私としてはそれなりに凹むところですよ。

にまーっと悪戯に笑って一度彼の顔を見上げ。
今度こそ家の方向を促そうかな。**]

[多分玲羅に今後もこの質問をする事は無い。
けれど、彼女が何をしたら嬉しい人なのかは知ってる。
綺麗とか可愛いと思われたい
口にして褒めて欲しい
重い荷物はもってあげるとかっこいいらしいことも

他の人に関して、俺のスタンスが変わることは無いだろう。
けれど、今隣に居る。大切な人のためなら。
これからいくらでも変化して行くことだろう。
それこそ神田さんに指摘されるくらい露骨に変わるかもね。

彼女がされて嬉しい事。
されたらいやな事。
きっと一つ一つ確認していくし。
またウサギの穴でシェアする皿が出たら。
出るたびに、今日はどっちのスートが良いか聞くだろう。
俺が好きになったのは、他でもない玲羅で。
彼女はきちんと、自分の意思を表してくれる人だから。]

[だからね。ほら。今も…………]


………………そりゃ、考えます。
恋人が可愛くて綺麗で魅力的なので。


[恥ずかしい上に悔しいぞ。
赤い顔でちょっぴりジト目。
知らんぷりしててくれた癖にさ。]

[俺は少しむくれて拗ねた後で。
嬉しくて幸せで破顔した。]


玲羅のそう言うとこ
好き
大好き



[何時か君がくれたスタンプ以上に。
君にハートを飛ばしてやった。
……早く君の家に行きたいな。
玲羅はどんな部屋に住んでるんだろ。**]

ショートってか、ハーフパンツくらいでいいんじゃないかな。
もーちょっとあったかくなったらかもだけどね。

[丈のことは、口から出た瞬間はあんまり考えてなかったんだけど。
 最終的に、着丈で良さそうなのを探すから問題ないつもりだった。
 ショートパンツとロングソックス、スタイルにコンプレックスがあると不安は募るかもしれないが、それを拭い去る役目も請け負いたい。]

ん、また今度。
ていうか普通に普段着も探しに行く?
あんまりこう、おでかけ服ばっかもね?

[そもそも服買ってばっかでいいんだろうかみたいな疑問もないではないけど、お互いしたいことやっていこう。]

[ロッカーの花たちには、花瓶を買うことを心のなかで約束して、街へ。
 サプライズを求められれば、おっけーおっけーと軽く受け止め。]

ぜんぜん、このカッコで。
あんまり服装に関係ある場所でもない気はする。

[夕食前か、後か。どっちがいいかな。
 時間次第で決めようか。計画なく散策するデートは、それはそれで楽しい。]

――アイスショップ――

洋梨!

いいね、ボク洋梨大好き。
シャリふわな感じで。

[けど、どうしたって季節物。ショーウィンドウにはかのフルーツの姿はない。]

あ、キウイ。
そーだね、ボクら今日グリーンだもんね。

[目の前でカットされ、アイスクリームマシンに入れられるフルーツたち。
 つい包丁さばきを見てしまったり、して。]

……あは。あれ?
凍らせて蜂蜜かけたくらいで、なんにもしてない……けどね。

[その"なんにもしてない"ことについて触れられれば、露骨に目線が逸れる。
 あーそこ来ちゃうかぁ、という気持ち。
 いやでも、隠し切れはしないだろう。なにせ、たぶんこれからまた、賄いに立候補することが増えそうだから、バレる。]

いや、うーん……や、えーと。

…………怒らない?
いやいっそ、怒ってもらったほうがいいかも。

[やっぱり自分のせい、なんて思われるくらいなら、怒ってほしい。
 自分勝手で身勝手な思いで、仕事への積極性を下げていたわけだし。]

その、この間、言った話。
力不足っていうか、シャミさんの隣にはボクじゃない人が立つんだろうなと思ってて。 

でも、シャミさんはボクでいいって、言ってくれたでしょ。

[ボクの能力を評価するあの少し叱るような声は、胸の中に刺さって抜けない。
 でも、だめなんだ。"厨房に入れないとしたって"みたいな前提がつくんじゃだめだった。それはボクが、力不足を言い出したからかもしれないけど。]

けど、ケイちゃんとかさ。
接客も100点、料理も100点みたいなひとがいるじゃん?
みんな、すごいもん。店の人。

……で、シャミさんが忙しくて大変、なら、そういう200点のひとがついたほうがいいと思ってさ。
どっちも出来たほうが、どっちも助けられるし。

[ホールだけでも一人前と言われたって、あのうさぎ穴にいると、どっちも出来ることが普通に見えてくる。
 他でもない本人が、ボクでいいよと言ったのに、それじゃだめだと自分が許せずにいた。]

だからぁ……その……
最近包丁も問題ないし魚も、とかいう話になってボクを隣に置こうとするなら、そこに問題があったら他の人に気持ち切り替えてくれるかな、なんて……

そしたらボクとしても望み通りだし、
諦めもつくし……


[結局、それだけしたところで自分のほうが耐えきれなくなって、傍にいたがってしまったんだけど。
 反省してます、とばかり俯いたら、溶けたアイスがひとしずく落ちた*]

[触れたくなったのは、
 先に彼の手が優しく頭を撫でたからかもしれない。

 伏せた視線を掬い上げるように、
 緩やかに動く手に髪をかき混ぜられる。
 
 心配していることが伝わったから、
 謝罪とともに重ねられるお礼には緩く首を振った。
 棘のようなものが一瞬で瓦解していくみたいに
 拗ねるみたいな態度は辞めて、肩の力が抜けていく。

 触れられて心地いいと感じるのは、
 何時ぶりだろうか。

 安堵を覚えると同時に、
 もっと、触れて欲しいと淡い欲が芽生えるのも、
 こんな風に触れられたなら、仕方はないと思う。]

[続けたいのではないかと口にした時に、
 伏せられた瞳に、やはり、
 考えたこともあるのだろうと、どうしても悟ってしまう。
 
 それはそうだろう。
 一度は登りかけた階段。
 降りていくのも、自分の足で降りていくことになる。

 七年間の空白。

 その間の彼の胸中にどんな変化があったのか。
 きっと時間をかけて、今の考えに至ったはずで。
 時に忘れられない夜を過ごしたことも、
 あったのかもしれない。

 それは、想像の中でしか補うことは出来ないけれど。

 言葉にしない代わりに伸ばした両腕。
 腕の中に、彼を閉じ込めて。
 いつもは見上げていた視線が、今は、
 彼を見下ろすように下方へと落ちる。]

[もし抱きしめて、戸惑うように視線が揺れたなら。
 スキンシップは好きな方だと応えただろう。
 冷えた手も、心も、身体も、温められるなら。

 瞳を交わして、落とした唇は重ねるだけのもの。
 柔らかな感触を、少し味わって。
 離れ、間近に彼の瞳を捉えたら。

 微かに滲みそうになっている視界に気づいたら
 微笑って。
 目尻にも唇を、数度そっと落とす。]
 
[応えてくれるように背に回された腕に、
 ほんの少し、身を委ねて掌に体重を乗せる。
 
 どうしたいの、と聞かれたら
 肩を揺らして、もう一度軽く音を立てて口づけた。]

 

  それは大事にしたいと思ってます。


[耳に馴染んだ彼の声。
 ずっと惹かれていた、好きな優しく落ち着いた。
 その中に、少し甘さが混じっていれば。
 その音を聴けるのは自分だけの特権だと感じて。
 
 恋人の可愛らしいおねだりに、応えるべく。
 口を開く。]

[駄目になればいい。
 肩の力を抜いて、どろどろになるくらい。
 俺だけにしか見せない顔を、見せて欲しい。


 
   ――……、一緒に駄目になります?
   景斗さん、




[愛しい人の名を呼ぶ声は同じく、甘い。
 一度じゃ飽き足らずに、雨を降らすみたいに。
 唇に音を乗せて。*]

[ 甘やかすことに慣れていないこの手が
 好き勝手に触れて、撫でる。

 それでも、思いは伝わったようで
 緩く首を振られた。

 撫でる手はそのまま、動かし続けた。
 自分がそうしたかったから。

 それとこの手が必要だ、欲しいのだと
 思わせるような息遣いや、態度があったから
 でもある。かな。

 愛しさがあとからあとから溢れて
 掬いそこねたものが、愛しい存在に
 向かうのは自然なことに思える。 ]

[ 他人は所詮、他人だから。
 理解してもらおうと思った事がなかった。

 人はどうせ、最後には一人で死ぬのだから。
 築いたものは、最後には消えてなくなるのだから。

 自分の弱さや、情けなさ、
 そういう、預けるつもりがなかったもの
 渡すつもりがなかったもの。

 それをいつの間に、君に悟らせてしまったのか。
 交わす言葉の中から、
 浮かべる表情、仕草から。

 悟られてもいい、と思うように、
 なってしまったのか。

 ああ、本当に弱いなぁ。
 愛され慣れていないものだから。 ]

[ 言葉にされることはなくとも、
 伸ばされた両腕の中に閉じ込められて

 動揺と、戸惑いに視線が揺れる。
 どうしたの、突然。言葉にするより先に、
 スキンシップは好きな方だと告げられ、

 
を分け合い、離れて。
 こぼれ落ちる前に、眦にもあたたかさが
 落ちる 満ちる。 ]

 十分、そう感じてるよ。

[ 大事にしたいだってさ。
 言葉の通り、今でも十分、そう感じているのに。

 本当に格好いいったらないよね。 ]

 
是非、喜んで。


[ 誘われるように、体を起こし、
 くるりと半回転。

 体を預けてくれるようなら、抱き上げて
 寝具に運ぶ、くらいの余裕はあったと思われる。
 このときは、まだ。

 視線に滲む欲については、見逃して頂きたく。
 格好良い恋人が、あまりに可愛く、
 誘ってくれたのでね。

 しかしその余裕も、すぐに消え失せて
 いっただろうね。その夜には、特に――。* ]

[ 翌朝。
 朝と言うには少し、遅いくらいだけれど。

 起き出して、コーヒーマシンのスイッチを
 入れて、洗面台へ。

 鏡に写っただらしない顔は
 冷水でもどうにもならなかったが、
 顔を洗い、歯を磨けば、歯磨き粉の
 齎す刺激と清涼感で幾分かは、
 マシになっただろうか。 ]

 おはよう、よく眠れた?

[ そう声を掛けたのと、コーヒーマシンが
 抽出完了の合図をしたのは、同時くらい。 ]

 コーヒー飲む?*

[悪戯に囁いてにまっと笑えば
じとっとした眼差しが返って来る。
それがおかしくって、くふくふ笑いながら
腕を組んだままに歩いた。]

ふふふふ。そっかそっか〜。
素直でよろしい♡

[いや、ここはね?
とことんすっとぼけることも考えたんだけど
揶揄いたい気持ちの方が勝ちました。許して。
だって君がそんな顔するんだもん。
何買うの?とか聞かなかっただけこれでも手心を加えている。

拗ねていた彼は、すぐにでれっと破願して。
甘い顔と言葉を向けてくるものだから
こちらも何だか恥ずかしくなってしまう。]



…………私もさ。
二人きりになりたいな。って、思ってたから。



[なんて、照れを滲ませてそっと告げ。]

[さて、玲羅の住まいは駅から少し歩いた住宅街の中にある。
単身者用のオートロックマンションの3階。
彼を伴ってエレベーターに乗り、自宅の鍵を開けた。

広さは1DK。
こうなることを見越して事前に掃除していたので
部屋の中は綺麗な筈だ。
右手がダイニングキッチン、左手が寝室である。]

いらっしゃい。
どーぞ、適当に座って。

[玄関を入って寝室側に案内すれば。
テレビボードや棚に小物類が並び
ローテーブルの下にはラグが敷かれ、
クッションが幾つか置いてある。
奥の方にはシングルサイズのベッドとオープンクローゼット。

全体的にナチュラルな配色の
明るい色味の家具で揃えられている。

彼が座ってくれれば菓子の入ったビニール袋をその辺に置いて
ダイニングキッチンに移動して飲み物でも淹れてこようか。]


なんか淹れるね。
お茶と珈琲と紅茶、どれがいい?


[自分の分はティーパックのお茶である。
マグカップを二つ出し、ケトルでお湯を沸かして。
彼から希望が返ってくれば注いで淹れて持っていこうか。**]

[伝わっているのなら、不満はない。
 
 自身が口数が足りないことは知っている。
 伝えきれていない部分もきっとあるし、
 彼が注意深く拾っていたとしても、
 俺の不器用さから、届かせきれないこともあるだろう。

 でも、数少ない言葉を拾って、
 小さな癖を見つけて、受け止めてくれるから。

 言葉で言い表せない代わりに、熱を、分ける。

 触って、触れて、身体を擦り寄せて。
 
もっと、知ってほしい。

 
 俺があなたを知っていく度に感じる愛しさを、
 彼にも、同じように。
返して欲しいから。

[言葉足らずな誘い文句に乗った
 浮かんだ笑みに、悲哀の色はもう滲んでいない。

 身体を起こすのに、助けるように身を引けば。
 腕を引かれて、]


  ……―― ゎ、


[ぽすんと、ソファに身が沈む。
 入れ替わった位置、抱き上げられる身体に。
 少し、いや、かなり動揺した。]


  
ちょ、 ……っ、



[誘いはしたが、まさか。
 こんな運び方をされると思わなかった。
 華奢な方ではないと思う、決して。]

[ソファからベッドまでの短い距離とはいえ、
 簡単に持ち上げられたことに。
 かぁ、と一気に顔に血が集まって熱を帯びた。

 寝具に降ろされたら、ソファと同じ匂いがする。
 微笑む彼を見上げる視線には、
 男として、少し悔しさも滲んだものだったかも
 しれないけれど、それ以上に羞恥が勝った。

 ――敵わない。

 先に惚れた方が負けだとか、よく言うけれど。
 恋をしてしまえば、誰もが敗北を感じる時がある。

 
ああ、もう、溺れそうだ。

 
[その後、きっと。

 ソファに転がっていた時よりも
 駄目になった姿を見せてしまっただろう。
 
 そんな姿を見せても良いと思える程に、
 ――心は近づいていく。少しずつ。少しずつ。]

 

 

 

     [ 夜明けに一人、目が覚めた。
       隣で眠っている彼の寝息を聞く。
        
         腰元の傷跡に、
         慈しむように、口づけを落とした。* ]

 

[――目覚ましの音で醒めない朝は貴重だ。

 代わりに聞こえたのは、穏やかな声。
 まだくっついていたい瞼を重そうに持ち上げて、
 薄っすらと視界を開けていく。]


  ……ん、


[仄かに香るコーヒーの香りに刺激されて、
 シーツから顔を覗かせたなら、彼の姿が映る。]


  
……はよ、……ンッ、


  ……おはよ、 ございます……。


[一度、掠れた声を飲み込んで言い直して。
 気だるさの残る身体を起こせば、
 重力に従って肩からシーツが滑り落ちていく。]

[朝は、正直。弱い方。
 こし、と瞼を指の腹で擦りながら、
 まだ思考の巡らない頭の中。
 
 少し遅れてきて伝達された問い掛けに。


  飲む……、


[それだけ応えて、小さな欠伸を洩らした。*]



 普段着?


[普段着とは。
普段着?

仕事着は、厨房に立つ日と、打ち合わせ用の清潔かつ地味なもの。
そして黒と赤と銀のパンクファッション。
以上。クローゼットの内訳はその3パターンに、最近お出かけ用のお茶会服が一揃い増えただけ]


 パジャマとか?

[くふくふと機嫌良さそうに笑う玲羅
腕を組んだ距離は近い。そりゃ顔も赤くなるよね。
そして買い物の内容聞くのやめてあげようね?
栗栖くん年こそ1個下だけど、初カノだよ???
スマートさとか求められても応えられない。
でも……]


…………えい。


[デコを少し突いときました。
玲羅も楽しそうだから。良いかなって。
楽しそうだから、許しちゃう。目も細まる。]

[そしたら小さな呟きが聞こえて来たから。


人の事言えないじゃん。



[今度は俺が胸の奥で笑って。
腕を組む玲羅に微かに体重をかけると、顔を覗き込んだ。
ほんのり照れた顔可愛いね。
ここで『可愛い』とか言うと、また反撃が来るのかな?
それもきっと楽しそうだ。
彼女といる時間は、何で何時もこんなに楽しい。
思わず疑問を浮かべる程。初めての恋に俺は浮かれていた。]

[お邪魔したお宅はオートロックのマンション。
それだけでちょっとびっくりすると共に、安心した。
びっくりしたのはお高そうってこと。
安心したのは、玲羅の身が少しでも安全そうだってこと。]


おじゃましま〜す。


[案内された部屋は可愛らしい。
明るい色見のナチュラルな風合い。
女の子の部屋って感じがする。
女の子の部屋入った事無いけど。
勧められるまま、ラグの上に、クッションを抱えて座って。
玲羅はお茶を淹れてくれるらしい。こういう時どうするの?]

えっと……


[淹れて貰って良い物?
もう分かんないや。
混乱し過ぎて笑っちゃった。]


俺ここで座ってて良い物?
手伝わなくて良いのかな。よく分かんない。
ふふっ。

リクエストして良いなら、そうだな〜……
背伸びして、紅茶。
あんまり飲んだこと無いし、なんだかお洒落なイメージ。


[分からない事は聞いちゃえ。
不慣れ感丸出しで、スマートさは皆無だけど、玲羅に尋ねて。
家でもうさぎの穴でも供されるのはお茶だから。
珈琲や紅茶にはあまり馴染みがない。
よりお洒落そうで、女子受けしそうな方を選んだ今の俺はちょっとあざといぞ。悲しい程ちょっとだけどね。]

[お茶が入った頃合いかな?
手伝えることは手伝った上で。
鞄に手を伸ばして……]


そだ。俺もお家に訪問するお土産買ってきたよ。


[がさごそと。長方形の箱を取り出しました。]


じゃーん!!
ポッキー
です!!!



[取り出したら。可笑しくなって。吹き出した。
くすくす笑いながら。もうキスならしたのにね。
でもコンビニで見かけて思い出したら、買わずにはいられなかった。
なんだかんだで。思い出のお菓子だったから。**]

[ 足りないと思ったことは、ない。

 言葉だけで全てが伝わり合うなんてのは
 幻想だと思っているし、

 いつだって君の言葉は、実直で
 飾り気がなくて。
 真心ってこういうものなんだろうなって思う。

 そうしてと頼めば叶えてくれるような
 気がするけれど、今はまだしない。

 
――叶えてくれそうだと思えるだけで、
 興奮してしまうのはまた別の話だけど。


 まだ見ぬ日の君よりも、今は
 擦り寄ってくる今日の君に、意識が向いているから。

 向いているどころではないのだが。 ]

[ その触れ方にそういう意図がなくても
 もう、遅いかな。
 躊躇する時間すら、惜しいくらいには。 ]

 
やだった?


[ 少なくとも驚かせた事は間違いないだろう
 そういう反応だった。

 成人男性である君の体は、軽々と
 持ち上げられるわけではないけど、
 ソファとベッドの短い距離、手を引く暇と
 秤にかけて、即決した。鍛えておいて良かったね。

 誰かさんのおかげでだいぶ、焦れていたので。 ]

 ごめんね、みっともないけど
 限界で、

[ 羞恥の色濃い表情に、にっ、と笑って。
 先程君がしてくれたように、額に、頬に、
 唇を落として、君の手を導くように強く引く。 ]

[ 裾から肌に直接触れれば、分かるだろう。
 すっかり痕になってしまった、皮膚が。

 治りきったその箇所は、他より少し
 敏感になることも。

 躊躇しないで、触れて欲しい、
 その願いを叶えてくれたなら、

 あとは手を取り合い、溺れるだけだった。 ]

 ふふ、まだ眠そう。

[ 眠たげな姿は、普段より少し幼く見える。
 盗み見した寝顔と同じくらい。 ]

 うん、落とさないでね

[ 二つのカップを手に、君の元へ。
 寝具のすぐ側、ベッドに背を預けるようにして
 座り、下から見上げて、指先を眠たそうな
 君の鎖骨の下に伸ばし、とんとん、と二度つついた。 ]

 ――ところで、もしかして俺
 また誘われている? 乗って良い?

[ 肩から滑り落ちたシーツ
 朝からだいぶ、刺激的だよね。* ]

─ 溶けるアイス ─


 ……なるほど

 そうだね、怒る……怒ろうか


[賄いに、料理に消極的になってしまった理由。
それは好きではなくなった、とか自信を無くした、ではなく、もう少し意図的なものだったらしい
心配していてくれたからこそではないのかと思うけれど。

ぽつりと滴を作って落下していく甘いキウイ。

それがとても大切なもののような気がして、咄嗟に手を出せば。
中指の先に落ちて、爪をグリーンに染めた]



 他の人を誘わせようとしてたの?
 そんな理由で


[たとえばゲイザーなら接客も料理も100点。そんな理由。
そうかもしれない。

援助が必要と思った時点では、漠然と、人手が足りない、としか考えていなかった。
職能的にチエが十分こちらの需要に応えると判断したけれど、もっと役に立つ人材は、確かに他にいたかもしれない。

フォンを引ける人。難易度の高い揚げ物をできる人。美しい盛り付けをできる人。同時に複数の品を作り上げられる人]



 ……他の人か

 でも、無駄だったと思うよ
 チエを誘ってはいけないと思ったら
 もう

 他の子に声をかける気がなくなっちゃったから

── 報告会 ──

[神田さんの返事は、やっぱり大人だなーって思う。
優しいし、頼りになるよなーって。]


…………うん。

でも俺あんまり悲観してない!
から。きっと大丈夫。

無理はしないって、約束するね。
ありがと。

ふふっ。神田さんやっぱお兄ちゃんみたい。


[そう言って笑うと神田さんにじゃれた。]

[お仕事の話しは色んなところから漏れ聞こえたんだと思う。
店員さんとの話題に上がることもあったし。
嫌でも聞こえてきたりするし。
現に高野さんの事も、話した事無くても名前知ってるし。

趣味が観察な話しについては……]


それじゃあ、趣味が活かせる仕事に就いたんだね。
天職だったりして。


[なんて笑った。
ところで何でどもってるんですか?
大咲さんも神田さん一筋でしょうし。
俺も
玲羅一筋
ですよ???]

[ラム肉は子羊の肉らしい。
同士大咲さんもありがとう。
神田さんの話しぶりだと、マトンが成人した羊かな。
ふと、眠りの森の美女を思い出した。
王子様の母親怖すぎでしょ。でもお肉は美味しそうだった。]


…………???


[尊敬とまで呼ばれる事を、俺は何かしただろうか?
自分の良いところは、見え辛いものだね。]


まあ。それくらいすぐ失敗するから?……かな?


[首を傾げながら笑って。
俺はお兄ちゃんに大人しくご馳走されました。
自分も何か1品お肉頼んだけどね。
揚げ出汁大根も美味しいね。美味しい。
お出汁じゃなくてコンソメでも美味しいんじゃないかな。
思った俺は、また近いうち牛肉が黒板にかかれる事を知らない。]

惚気話しようぜ!!



大咲さん、ちょっと遠慮がちなとこあると思ってたけど。
神田さんにはそうなんだ。へぇ〜〜……。

さっき天然鈍感同盟断られたの。
神田さんの影響かも??

いいねぇ〜。影響し合ってるって。
俺も玲羅に何か影響を与えてたら良いなぁ〜。
俺はね〜。影響受けまくり。
俺は玲羅が初めての恋人なんだけどね?
恋がこんなに楽しくて幸せだなんて知らなかった!

玲羅も幸せ感じてくれてたら嬉しいなぁ〜。へへ〜。


[お肉と共にとろとろ幸せに融けた栗栖くん。
今度高野さんに紹介してもらう約束をして。
楽しい夜は過ぎて行くのでした。**]

[笑っていると軽く額を突かれる。
彼も何だかんだで目が笑っているし
言うほどの痛さはないけれど。]

………む。

[揶揄うような台詞と顔を覗き込む仕草に
ささやかな仕返しめいたものを感じて。
一度拗ねたように唇を尖らせてすぐに表情を緩め。
甘えるようにきゅ、と腕の力を強めた。]


そ。いっしょだよ。



[だって私だって、負けないくらい君が大好きだからね。]

[余談ですが玲羅は決してお金持ちではありません。
アイドル時代の稼ぎは基本的に貯金しており
日々の生活は現在のお給料の中でやりくりしている。
これは「分相応な生活をしなさい」と言うママの教え。

オートロックのマンション、駅にもそこそこ近い分
築年数は古めにすることでバランスを取っている。
これは一人暮らしをするなら防犯がしっかりしてる所以外は
絶対に許してくれなかったパパの教えである。

まあそんな貝沢家の事情は置いておきまして。
家に入り、ラグの上にちょっと所在なさそうに座る彼に
ちょっとおかしそうに笑った。]



 私が欲しかったのは、辛い時にそばに居てくれるチエなの
 チエでいいんじゃなくて、チエが良かった


[言い切る声は、怒っているように聞こえただろうか。
うまく怒れているかわからない]


あはは、そんな気構えなくていいよ。座ってて。
珈琲はインスタントだし、他のはパックだし。
オッケー、紅茶ね。砂糖入れる?

[手伝いと言ってもケトルでお湯沸かしてカップに注ぐだけだ。
そうしながら好みを聞いて、両手にカップを持って
ローテーブルの方にいこう。
テーブルにカップを置いて隣に座り。]


――。


[そうしてじゃーん、と言う声と共に
長方形の見慣れたパッケージが取り出される。

それを見て、ぱちぱちと瞬きして。]



 それと……確かに、私と同じようにはまだ作れないけど

 もし
 最初から料理がすごく上手だったら
 私、きっと君に片想いしなかった


[初めて、お客様ではなくなった日のことを覚えている

沙弥は店を愛し過ぎていて、抜け出すことの出来ない深みに既にいた。
厨房という私の世界と、私の世界に共に立つ人たちと、私の料理を私の代わりに食べてくれる人たちと。
“救い”に満ちていて、とても狭いうさぎの穴。

お客様ではなくなったピンクのうさぎは、調理担当ではなかった。
フリルのブラウス。襟の飾り。
私の世界の端っこを通り過ぎ、ひらりとホールを舞う]


 私には料理しかないけど
 チエの心には、他にも好きなものがあって
 自由に愛しているように見えたから


ふっ、あはははは。


[思わず噴き出してしまった。
いや、何故かと言うとだね。]

……実は、私もこれ。

[笑みを堪えつつ。
置いたままだったビニール袋の中から
もうひとつ、ポッキーの箱を取り出してテーブルに乗せる。
適当にさっきコンビニで買ったお菓子…って
これだったりするんだなあ。]

いやあ、考えることは一緒だね。

[あははは、とけらけら笑い転げながら。
まあ別に被って困るものじゃないし、いいか?]



[目で追う。可愛らしい服装を。
好きなもので詰まった買い物袋を。
賄いに出てくる肉料理。
私の世界を出入りして、掠めて、外の匂いを運んでくる。ひらり。


          この子の好きなものはどういうものだろう。
                私もそういうものを知りたい。
         ぬいぐるみを作り出したいなら、見てみたい。
             お茶に心を込めたいなら、教えたい。
      可愛いものを好きな君に、可愛いと言われてみたい]


…それじゃあ、


[ぱり、と自分の買ったポッキーの箱を開けて。]


せっかくだし、します?
ポッキーゲーム。


[に、と悪戯に笑って首を傾ける。**]



 そのままの君がいい
 料理、上達したいならして欲しい
 しなくてもいいなら、そんなにできなくていい
   今のチエの作る食べ物、私、好き

 君が好きなことを愛していてほしい


[だから傍に来て欲しいけど、いなくても良いと思った。
愛されたいと思っているけど、 **]

[そうだよ?仕返しです。
俺は玲羅に何かされたら、必ずやり返してる気がする。
こう見えて相当な負けず嫌いです。
だからなんだろうか……
君との会話が楽しくてたまらないのは。


『いっしょ』だと。


言葉にしてくれる君に、胸が満たされる。
君は俺を不安にもさせて。そうして俺を満たしてくれる。]

[所在無げにラグに座ってたら、笑われた
パックもインスタントも十分ご馳走だと思う。]


お砂糖2杯?

……あ、甘い物あるから、1杯にしとく。


[実はちょっと自信ない。
それくらい飲み慣れて無いけど、お願いした。
紅茶が目の前のローテーブルに置かれて。
ポッキーを取り出したら、瞬く玲羅。]

[しばしの間。それから彼女が吹き出して
そして取り出されたのはもう一つのポッキー。]


あっははははは。あはは。何それ!!



[俺も可笑しくて吹き出して。
2人で思いっきり笑い合った。
涙出るかと思った。同じ事考えてるなんて。]


ほんとっ……くふふっ……、通じ合ってますなぁ。


[笑いの発作に見舞われながらも、返事をして。]

[玲羅がポッキーの封を切って。
さあ。ゲームの始まりです。]


俺。ゲームのルール良く知らない。


[あの時は、玲羅が実演してくれたんだっけ。
俺は玲羅の手元の袋から一本ポッキーを抜き取って。]


だから玲羅が俺に教えて?


[口に咥えて、小首を傾げてみせた。**]

[眠そうだという声に
 項垂れるように、こくんと首を揺らす。
 朝の眠気を追い払うには、
 夜にやってくる微睡みよりもしつこい。

 テーブルにはまだ片付けきれていない
 昨日の名残りがあっただろうか。

 もう一度目を擦ってから、
 目の中の異物感にようやく気づく。
 目の奥の乾いた感触。

 そうだ、昨夜はコンタクトを外す暇もなく――、]

[スプリングを軋ませて二人分の重みを受けたベッド。
 シーツの上で投げかけられた質問に。

 癖になっていた
 手の甲で口元を覆う仕草がまた出てしまった。
 
 熱が引かない頬を腕で隠して。
 答えにくい質問に、息を呑んで。]

 
  
いや、……じゃない、



[そう応えたのは俺も、同じ。
 その時の彼の反応はあまりにも羞恥が酷くて、
 顔を見ることすら出来なかったけれど。

 続けられた言葉に、
 盗み見るように移した視線の先。
 悪びれることもない笑顔を見てしまったら、
 もう、断ることも出来ない。]

 
 
[進められていた酒を呑んで、
 理性を少し、忘れた後なら良かったのに。

 
      コーラに入った炭酸じゃ、酔え忘れられなくて。]


 
 


 

  …………、


[目を擦っていた手を下ろして、
 渡されたカップを無言で受け取る。
 
 しっかりと記憶に残っている昨夜のこと。
 思春期でもあるまいし。
 こんな朝を何度か迎えたことはあったはずなのに。

 跳ねた寝癖の下で、また耳朶が赤く染まった。
 言葉を返さないのは、寝起きのせいだと思われたい。

 乾いた喉に、熱々のコーヒーを一口含ませる。
 苦味があっても、ホットの場合は
 熱さで、苦さを忘れてしまうから。]

[ベッドの上で足を畳んだまま、カップを傾ける。
 隣に腰を下ろした彼が、指先で首筋をつつく。]


  ……ん?


[横目に小さく反応を返したら。
 
 指摘の声に、今の姿を鑑みる。
 シーツ以外には必要最低限のものしか
 身に着けていない現状。鎖骨に残る――……、

 引きかけた熱がまたぶり返しそうになって。]


  ッ、  …………
だめ、
です


[もう一口飲んだら、熱を悟られないように
 カップをテーブルへ置いて洗面所へ逃げ込んだ。*] 

[ビニール袋からポッキーを出した瞬間
彼が盛大に笑い始める。
いやここで被るとは思わなかったよねほんとにね。]

あははははは。
まーじで以心伝心じゃん。
はははっ、おっかし〜〜………ふっ、 くく……!!

[なんだか変なツボに入ってしまい
二人して一頻りげらげら笑い転げる。
ようやく笑いの波が収まって、目尻に滲んだ涙を軽く拭い。

さあゲーム開始だ、と言わんばかりに封を切った。]


ルールはねえ、シンプルに
二人で両端から食べ進めて行って、
先に口を離した方が負け。簡単でしょ?

 ……ン、いーよ。


[誘うように小首を傾げる彼ににんまり笑い、
向き合うと床に手をついて距離をつめ。
ぱくり、と躊躇なく片方の端を咥える。

なお君が負けず嫌いなのは何となく察しております。
何故なら私も負けず嫌いなので。

カリカリとポッキーを食べ進めていく間
じいっと彼の方を見つめたまま
その表情を窺っていたけれど、
向こうの反応はどうだったかな?**]

[2人でゲラった後。
戦いの火蓋は切って落とされた。


ねえ。玲羅。俺思ったんだけど…………
これ。ポッキーゲームじゃなくて、にらめっこじゃない?



それくらい互いの視線が逸れないし。
君は距離を詰めてくるのに。
俺も距離を離そうとしないし。
ポッキーが短くなるにつれ、俺は可笑しくて。
吹き出したくなるのを堪える始末だった。]

カリッ



と。音がして、最後のポッキーが齧られて。
互いの唇が触れたけど。
君はその時どんな顔をしてたかな?

俺はもう笑いを堪える事が出来なくて。
声をあげて笑いながら、君を抱き締めた。]


あっはははははは。玲羅。君、負けず嫌いでしょ?!



[笑いながら。身を乗り出していた君を抱き締める。
少しだけ腕を引いて、抱き寄せたなら。
肩口に顔を寄せて、抱き締めた。]

[微かに、笑いの名残で、胸が上下してる。
鼓動が何時もより少しだけ速い。
でも俺の何時もを君はまだ知らないか。
抱き寄せて。抱き締めて。耳元で囁いた。]


玲羅。
好き
。君の事が
大好き



[それからもう一度力を込めて抱き締めて。
唇が触れる箇所。耳元に小さく口付けると。
抱き締める腕の力をゆるめた。

顔が見えたら、もう一回。
今度はゲームじゃなくて、キスがしたいな。**]

― 後輩と惚気 ―

[まあ、喩えスカウトしたところで
栗栖が芸能界に行くことはないだろうと思ってはいるけど。
彼が目標を持って勉強していることは知ってるので。

しれっとジョークを交える高野に
そういう奴だよ君は…と言う視線などを向け。
グラスを片手に惚気話は続く。]

へー、俺心狭ぁって思うんだ高野君も。
聞きたいなそのエピソード。

[みっともなく縋る高野も
いまいち想像つかないのでちょっと見たいような。
いや勿論後輩には幸せになってくれと
思っているので別に他意はないです。
ただ単にレアな姿にちょっと興味があるだけです。

ともあれ後輩が聞いてくれるのをいいことに
つらつらと一方的に惚気話を聞かせ。]


ふふー、ありがとぉ〜。
高野くんも幸せになんなよぉ〜。


[祝福にはへにゃりと笑い、礼を返す。
心の中の賛辞は伝わらずとも
向けられる温かな親愛は伝わってくるから。

気安い友人としての距離感。
それが喩え互いの深くに踏み込むことがないものでも、
幸せを願っていることは確かですとも。]

[で。]


え、なによぉ〜〜その反応。
なんかあるでしょぉ〜。
恥ずかしがり屋とか自分で言うなって。


[本当に話したくなさそうなら遠慮するが
単に照れているだけなら嫌よ嫌よもなんとやらで。

いいから聞かせろとつつき、
ぽつぽつと話し出すなら耳を傾けたことだろう。**]

 

[ 今でさえ甘やかすのが上手なのに、更に向上されては
  大咲もいよいよ彼がいなくては駄目になってしまう。
  「こうおねだりすれば多分応えてくれる」と分かっても
  いざ実行するのは、案外勇気だっているもので。

  そんな行動も"可愛い"と甘やかされるなら
  今後の必殺技のレパートリーにも乞うご期待。なんて。

  こうやってひとつひとつ、知っていく。
  メンズ服を見ることの楽しみ
  試着した姿を恋人へ見せることへの、少しのそわそわも。
 
逆に知られていくこともあるのだろう。
例えば、自覚していない反芻の癖、だとか。
 ]

 

 

  ……職業病ですっ


[ 料理人の顔になってる、と触れられれば
  ライバル心を燃やしているのが途端に気恥ずかしい。
  彼がうさぎ穴から出て行くことはないと思っていても、
  それはそれとして
  美味しい、と感じた店の味は知っておきたいものだ。

  真似をするつもりも、味を寄せるつもりもない。
  ただ"自分の料理"を磨くには不可欠の工程では、ある。
  自分の味しか感じられなければ
  そこからずっと成長出来ないままなのだから。 ]

 

 

[ 一説によれば、恋は病であるらしい。

  相手のことを愛おしく想う感情と同時、
  その人になら傷付けられても良いと思う矛盾。

  相手の未来が幸福であることを祈るこころと、
  隣にいるのが自分でなければ嫌だと厭う相反。

  "クッキーを美味しいと言って食べてくれるだけで良い"
  ────……否、今はもう、"良かった"としか言えない。
  あの時は、彼に他の想い人や恋人がいても
  自分のお菓子を食べて貰えるだけで十分だと思っていた。

  幸せプラス。ほんの少しの、なにか、でいられれば。
  そんなちいさな欲は、恋を知って 愛を覚えて、
  プラスじゃなくて 彼の心全てを占めたいに 変わり。 ]

 

 


[ 知らないところがあるなら、全部知りたい。
  見せていない部分があるのなら
  その秘密事の種を、自分の前でだけ、咲かせて欲しい。

  ──…きっとこれは、名前を付けるなら独占欲。

  だから、単なる店員と客の間柄だった時は見れなかった
  彼の欲へ喜んでしまうのだ。
  たとえそれが、空腹の獣めいた欲の色でも。 ]


 

 

[ 電話口の向こうの母は、そんな欲とは縁遠そうだった。
  母と子というよりも 人と人。
  求めた愛の形と、差し出せる愛の形が当て嵌まらない。
  ──ただそれだけのこと。
  一応は娘である自分にも、その価値観は理解出来ないが
  やっぱり、彼のように怒りを抱くことはないままだ。 ]


  ね、意味分かんないですよねぇ。
  でもおかげで手放す決心、つきました。
  ずっと。曖昧にしておくつもりだったんですけど。

  どんな答えが来て、いったんは傷付くことになっても
  それ以上に大事にしたい人が、今は隣にいるから。
  案外傷付きもしなかったですよ。
  こんな風に、私の代わりに怒ってくれるような、
  やさしい恋人と生きていく方が良いって思えましたし。


[ へにゃ、と笑って、「頑張ったね」の肯定へ頷きを。
  過去の清算も済み 後は、と口を開きかけて。 ]
 

 

  …………そ、れ って、


[ 近いうちに。
  最初の名乗りを、彼と、同じに。

  意味を理解し、暫し固まった大咲の指へ、彼の手が触れる。
  重なる体温。
  彼が触れた場所、──永遠の愛を誓うところ。

  今はまだ何にも飾られていない、互いの約束の指。
  ……後は、と考えていたことを先取りされてしまった。
  言葉が出て来ないまま、ローテーブルの上
  開かれたベルベットの箱の中、銀色を見つめて。 ]

 

 

[ 雨のように降り続ける彼の声が、ぴた、と止む。
  見上げた顔が赤くなっていて、目線が落ちた。 ]


  ……あの、夜綿さん


[ 名前を呼ぶ。腕を動かし、合鍵を持っていない方の手で
  彼の頬へそっと触れ、「こっちみて」と行動で促した。
  目が合ったなら、微笑みを浮かべ。 ]


  電話をね、して。縁を切った後、思ったんです
  ずっと、家族が欲しかったけど。
  家族がどんなものか、知りたかったけど。

  でも、これから先私に家族が出来て。
  その相手が夜綿さんだったら、って考えたらね
  ちょっとだけ 変わったんです。

 

 


  ────私、夜綿さんと、家族を作っていきたいなって。


[ 教えて貰うのでもなく、与えて貰うわけでもなく。
  一緒でしか作れない料理の味があるように
  二人でしか作れない、家族、というものを。

  ──だから。 ]


  ください。その、約束の証。
  印の方も、お互いで選びたいです。


[ 前のめりなんかじゃ、全然なくて。
  同じこと考えてたんですよってこと、この言葉で
  貴方に伝わってはくれるでしょうか。 ]

 

 

  夜綿さん。
  私、夜綿さんのこともちゃんと、幸せにしたいです。
  ──それが私の幸せだから。

  …………で、その、あの。
  いっぱい最近考えて、気付いたことが、あって

  最高に可愛い自分でデートした後がいいって
  お泊りした時、言ったじゃないですか。
  ……でも、よく考えたら
  デート服もメイクも大事なことには変わりないけど、

  過去のこと内心で少しでも引きずってたら、
  中身が結局かわいくないな、って、気付いたというか…


[ 顔が熱い。今度は自分の方が顔が赤い自信しかない。
  つまりなにが言いたいかって、……その。 ]
 

 

  
……ケーキも、母親との縁にも、答え見つけて。
心から、夜綿さんと家族を作りたいって言えた、今の私が。

…………………最高に可愛い自分でいられてる、と
思ったりもしたりするんですけど ……どうでしょう……



[ なにが「どうでしょう」なのかはもう、
  お願いだから察して欲しい。
  これで通じなかったら私は今すぐ
  電車へ飛び乗りに行く覚悟で、言ったので。* ]

 

メモを貼った。

 寝起きも可愛くなっちゃうんだね。
 早起きが得って、こういうことかなぁ。

[ 早起きとは、というハッシュタグが
 付きそうではあるが。

 なんにせよ、安心して休んでくれた
 証を貰ったような気持ちになるし、

 なにより、かわいい。
 聞こえてはいるのかこくんと、
 頷くように首を揺らして見せるから ]

 もう少し寝る?

[ と聞いたけど、カップは無事
 受け取られたので
 寝起きで意識がふわふわとしていても、
 起きるつもりはあるのだろう。

 今朝もまた言葉の少ない事を
 気にするつもりはないので、

 自分も座り込む。 ]

[ 珈琲の香りと、
 昼近く、穏やかなな日差し。

 ――の中、刺激的な姿の恋人。

 誘われるには満点の状況だけど、
 さすがに冗談、だよ。

 だったんだよ? ]

 転ばないでね

[ あからさまに、意識していますという
 反応を返されるとは、思ってなかったんだよな。

 洗面所へ逃げ込む君に転ばないで
 と声を掛けて、一人分空いたベッドのスペースに
 転がった。 ]

 は〜〜〜〜………

[ 昨晩このベッドは、はじめて家主以外を
 招いた。

 甘えたいという割に、甘やかし上手な恋人は
 昨晩も、ものの見事に自分を甘やかしてくれた。

 嫌だとそう言われても、
 拒まないでと縋っただろうに、

 ……じゃない、

 と添えてくれたものだから。

 自分の中に、こんな気持もあるのかと、
 また一つ、君に教えてもらえたと思う。

 目が覚めて、ひとりじゃない。
 そんな幸せな気持ちは、穏やかな日和には
 似合いの、やさしい色をしていた。* ]

―― ムール貝の日 ――

 う〜ん。

[ 到着し、着席そうそうのため息は
 何を食べようか、悩んでいるときよりも
 かなり軽い声色。 ]

 あ、そら豆は食べたいな
 焼いたのしか食べたことないから

 おいしい食べ方を知っていたら是非

[ この場所に仕事を持ち込むことは
 ほとんどない、が。 ]

 ――どう見ても分が悪い賭けなんだよな

[ 今日ばかりは愚痴めいた言葉が飛び出して
 来てしまった。

 画面にはトークアプリのやり取り。
 それを眺めながら、もう一度、唸った。* ]

―― 先輩の惚気 ――

 前から思ってたけど、先輩の俺への評価
 ちょいちょいおかしくない?

[ どうせ恋愛経験豊富だとか、前にも
 言っていたな。

 そういうやつだよ、という視線
 には、にっこりと。多分貴方はよく見ていた
 表情で答えた。ゴチです、先輩。 ]

 えぇ、ちっちゃい男だなって思うよきっと。
 ……葉月って知ってる?ここにも
 よく来るんだけどさ。
 ちょっとした切っ掛けで友達になって、
 好きなやつ、だれだってしつこいって話したら
 紹介しても良いって言うんだけどさ。

 ……疑ってるとか心配してるとかじゃなくて
 葉月いいやつだし、話もうまいし
 俺と話してる時より楽しそうにされたら
 やだな、とかそんなとこ。

[ 先輩の話が途切れたタイミングで
 聞きたいと言われれば、そんな話もしただろう。 ]

 十分幸せだよ、今でも。

[ へにゃりと笑う先輩の指には
 きらりと光る指輪がある。
 
 よっぽど、嬉しかったんだ。良かったねと
 もう一度言って、ビールを口に運んだのだが ]

 なんかってそりゃま、あるけど
 えぇ、シャイボーイなんで勘弁して……

 っふ、ふふ

[ おっと、これは煙に巻くことは
 できなさそうだと、判断したのもあるし、

 自分で言っておきながら、似合わないにも
 程があり笑ってしまったこともある。

 それが少し、今宵の俺をお喋りに
 させたようで、 ]

 普段、面倒見良くて、クールなとこ
 あるわりに、二人でいると
 可愛いとこ とか。

 ……最近どんどん可愛くなって、
 ほんと、参る……

 それでいて、男前というか
 格好いいとこもあるので
 だいたいいつも負けてる感じ、ある

[ そんな話をぽつぽつとは、話し出したり
 したかな。揃って惚気って字面に少し
 笑いながら。* ] 

[
せやな。


…とは、内心が分かるわけではないので口にはせずとも。
ずいずいと遠慮なく距離を詰めれば
彼の方もまたじっとこちらを見据えたまま。
室内にサクサクと互いがポッキーを齧る音だけが静かに響き。

そのままどちらも退くことなく―――
最終的にちゅ、と軽く唇が触れたかと思えば
大きく声をあげて彼が破願した。]

……ふっ、

[キスのドキドキどうこうよりも
もうおかしくなって、釣られてこちらも噴き出してしまって。]

負け嫌いはそっちもじゃんか!!
全然視線逸らさないしさあ……
ぜーーったいポッキーゲームってこういうのじゃない!!

[本来なんかもっと甘い雰囲気になるもんじゃないの!?

けらけら笑ってると彼が柔らかく抱きしめてきて
ぽすっとその腕の中に収まった。
それでもまだ笑い続けていたけれど。]


……… ん……っ


[囁きと共に耳元に唇の感触が落ちて
ドキッと心臓が高鳴り、ぴくりと肩が跳ねた。

思わず吐息を漏らしてしまえば
少し腕が緩められて、――
まるで吸い寄せられるように目を閉じて、再び唇が重なる。

さっきや外でした時よりも少し長い
唇の感触を確かに感じるキス。
チョコレートの甘い匂いがふわりと鼻を擽る。]


………私も、好き……だよ
瑛斗…… だいすき、……


[次に彼の顔を見た時には
すっかり自分の笑いは消えていて。
頬をほんのり上気させ、
とろりと熱に浮かされたような眼差しだっただろう。]

……… ん、 もっかい………



[どちらのだろう、早い鼓動を感じながら
唇が離れてもすぐにまた次をねだって。
甘えるように体を摺り寄せた。**]

[だってこんなの笑うしかないでしょ?
負けず嫌い2人して笑い合って。
抱き締めて。腕の力を緩めたら。
君が自然と瞼を閉じた。

引き寄せられるように、唇が重なる。
誰の目にも触れない、2人だけの空間。
唇を離すのが酷く惜しくて。


もっかい



君の声が聞こえたら。もうダメだった。
身を寄せてくる身体は柔らかで。
唇も、腕も背中も、触れるところ全部。
柔らかくて、甘い香りがする。
彼女が好むカクテルってこんな感じだろうか……]

[愛おしくて。離したくなくて。離れたく無くて。
俺は何時しか優しく微笑んでた。
多分に甘さを含んだ笑みで。]


玲羅。



…………ベッドに行かない?



[誘い方が直接的なのも、下手なのも。
目を瞑ってくれると嬉しいなって。小さく笑って。
これで彼女に笑われても。俺は全面降伏しますよ。
俺は負けず嫌いではあるけれど、君に勝てた事は無いから。

笑っても良いから。頷いてくれたら良いな。
俺がコンビニで何を買ったかなんて。
君は聞かなくても、分かってるでしょ?

俺達は1人と1人かもしれないけど。
2人でしか出来ない事
たくさんあるって、君が教えてくれた。**]

[彼女の傍で一番幸せになれるのは自分だという自負がある。
先に好きになって、想いが通じて、どんどん求めてしまうようになって。
自分でもそのスピードが恐ろしくなった、のが今。

よく考えたら彼女はまだ若く、
他の人間との「交際」がどんなものかすら
判断できる基準を持っていないだろう。

彼女を自分の重さの道ずれにして良いのか?
始まったばかりの恋の熱に浮かれた状態が過ぎたら
後悔させないか?

じわりと嫌な汗が背中に滲む。]

[『もう少し慎重に事を進めるべきじゃない?』

戒める自分の声が脳内に響く。]

[――救ってくれたのは、彼女の掌だった。
恥じらいで赤くなっていたと思っていた自分の頬が、
実は自省により冷たかったと知る。

温かさに導かれて目線を上げれば、
そこにあったのは困惑でも呆れでもなく。]

[ああ、
「客観的に見て早過ぎる」なんて考える方が恥ずかしいことだ。

誰かと比べる必要なんてない。
彼女にとって自分は最初で最後だと、もう聞いていたのに。

何年も手放せなかった母親への葛藤を手放して
自分と生きていきたいと今、聞いたのに。

同じ気持ちでいてくれたこと。
ちゃんと伝わったよ。

二人にとって、これは早過ぎる訳ではない願いだ。]



 ……好きだよ、マシロちゃん。


[掌に頬を預けるように少し傾けて。]


 家族になろう。
 「神田真白」になって欲しい。
 結婚してください。


[迂遠な言い回しで格好つけたりはしない。
「絶対に護る約束」を言葉にした。]

[ください、と言われたネックレスを彼女の頸につけようと持ち上げかけた時、再び名前を呼ばれた。]

 うん。

[気づいたこと?]

 ……うん。

[―――――――――まさか、]


 可愛い。
 うん、最高に可愛いよ。


[沈黙など一秒だって起こさない。
ネックレスの箱から手を離し、肩を抱く。
隙間から指を伸ばし、見えていない場所を掴んで引き寄せ。]


 愛してる、


呼び水のような軽いキスを何度か繰り返した後、
吐息を飲み込むように深く貪った。]

[服やメイクを整えることは、心の準備に繋がるのだと解釈していた。
初めてなら尚更、気持ちが追いつくまで、すべてを見せる覚悟が決まるまでに時間がいるだろうと。
どんなに毎度天を仰ぐとしても、無理強いをしないと決めていて、
今日だって「その日」でなければ手を繋ぐだけで寝ようと。

必要な心の準備が、彼女の心にずっとあった燻りが解決したことで整ったのなら。

綿密な計画を練ったデートの後でもなく
ここは立派なホテルでもないが、

今日が、この夜が、「その日」になる。]


 マシロちゃん、


[荒い息を隠さずに、愛しい名前を何度も呼ぼう。
君も呼んでくれるだろう?
君自身も知らなかった甘い声色を響かせて。

――世界一幸せにしたいなりたい。]

[食事の仕方と性行動は似てる、なんて説があるんだっけ。

そんなに行儀悪く食べてはいないから、
きっと誰にも想像されていないだろう。

というか、自分自身でも少し驚いているくらいだ。

これから先、真白にしか見せないから。
その獣じみた慾すべて、独り占めして欲しい。**]

パ、


[ちょっと声が大きくなったのは許されたい。
 パジャマて。だって。パジャマ選ぶて。
 いや違う絶対この『パジャマ』に普通にパジャマ以上の意味ない。落ち着け。勘ぐるな。期待するな。]

……や、そういうのじゃなくて。
なんか近所に普通に出かけるのにとかさ。

散歩用? 気合い入れない用?

[いやまさか、まさか服のパターンが仕事に出るとき用、お出かけ服、パジャマの3パターンなことはないでしょ? ない……よね?]

あ……手。

[怒ろうか、に身構えつつ、視線を落としていたら。
 ひとしずくのソフトクリームを、手で受け止めるのを見てしまった。
 お手拭きを渡しつつ、キワの溶けたところを食べよう。]

そう、他の人に決まってくれたら、安心もできるし、諦められるしさ。
決まっちゃえばいいなって。思ってた。

[けど。
 お互いそうと知らないうちに、そこはボクのために空いていた席なんだというような言葉が落ちてくる。
 ボクがだめなら、他の人を誘う気がなくなった
 ボクでいいんじゃなくて、ボクがよかった
 そんな席を、力不足と蹴ろうとしていたなんて。
 新しい自己嫌悪の材料がやってくるけど、過ぎた話と頭を切り替えよう。
 今ボクに必要なのは、ここから挽回していくことだ。]

……もちろん、絶対、傍にいるって誓うけど。
ほんとに、どうしてボクだったんだろ。

[ホールとキッチン。居場所はカウンターで区切られている。
 目を引くシャミさんの姿に、料理する指先に。
 ボクが意識を取られることはあっても、ボクが見えていたとは思わなかった。

 その区切られた世界がよかったのだと、ボクは知らない。]

それはぁ……喜んでいいのか、わかんないなぁ……

[最初から料理が上手だったら、今はなかった。
 料理が他の店員ほどできないことがコンプレックスだった身からすると、複雑な気持ち。]

でも、ちょっとだけ、自分のヤだったところに前向きになれる。
料理も、がんばるけどさ。
他の好きなものにも、ウソつけないんだ。
服も好き。カワイイもの好き。シャミさんのことも、好き。

[届かない世界。
 ひとりで辿り着けない代わりに、向こうから手が伸びていた。
 これからも、大好き、をまっすぐ抱えていく。]

メモを貼った。

む。そのままではいないもんね。
日々精進しますー。

料理、やめたいわけじゃないんだ。
ほんとはいつかちゃんと、March Hareのキッチンに立つスタッフになりたい。
それから、シャミさんの隣に立つひとにも、なりたい。

[話しながらソフトクリームを崩していたら、そろそろひとつなくなる頃か。
 甘酸っぱい、イチゴとキウイフルーツのソフトクリーム。
 ちょうど今の心の中みたいな、恋心の味。]

 
[カップから立ち上る湯気はまだ温かい。
 赤くなった自分の頬と同じくらい。

 狼狽えるようにして洗面所に向かう俺に
 後ろから掛けられる声に、
 浅く頷くだけで応えてぱたんと扉を閉めた。]


  ――――…………
は、



[個室になった洗面所の中で、息を零す。
 溜息というには、切なすぎる掠れた音。

 頭と顔を冷やすために、蛇口を捻って
 掌で水を何度も掬って顔を洗った。

 徐々にクリアになってきた頭の中で、
 可愛いだとか
 気遣う声だとかも
 徐々にリフレインして眉尻がへなりと下がる。]

[前髪まで濡れた顔を、タオルで拭きながら。
 コンタクトを外したぼやけた視界で鏡を見る。
 ぼやけた視界の中でも分かる、男の骨格。]


  可愛いわけ、ない。



[……と否定を呟きながらも。
 厭うよりも照れ臭い気持ちのほうが募る。

 何より、恋人を可愛いと思う気持ちは
 既に自分も経験済みだから。

 共感してしまう気持ちもなくは、ない。]

  
  …………はぁ、


[思わず二度目の溜息。
 恋人と過ごす朝って、
 こんなにも恥ずかしいものだっただろうか。

 今まで過ごしてきたものが
 子供のままごとに思えるくらい気恥ずかしい。

 着替えのシャツに腕を通して、ジーンズを履いて。
 自宅用の眼鏡を掛け、歯ブラシを手に取る。
 彼が使っている清涼感の強いミントを乗せる。

 眼鏡を掛けてはっきりと目に見えるようになった世界。
 少し首を傾ければ、Tシャツで隠しきれない場所に、
 昨夜の名残が鏡に写り込んでいる。]

 
  …………無理。


[くしゃりと寝癖のついた前髪を手で掻き乱す。

 今日が、休みで本当に良かった。
 一体どんな顔をして、洗面所から出ていこう。]




[ 今更、もう一度。
 
  お願いしますなんて、言えるはずもない。** ]

 

―― ムール貝の日には ――

[顔から火が出そうな程の休日を過ごした後。

 ムール貝にご機嫌な美澄と速崎と
 その日、インしていたスタッフと
 食材をどう料理するかの話で盛り上がる。

 ヤングコーンにカレー粉を使うのは
 個人的にもかなり興味を惹かれた。
 カレーが嫌いな男子は居ない。

 そら豆をポタージュにするなら、
 スープ好きのあの人も気にいるだろうか。
 頭の片隅に、そんな時も思い浮かべる人を
 考えながら、下準備の処理を始めていく。

 そうして開店時間になって。
 いつもと同じ時間ぐらいの鳴るドアベルの音。]


  いらっしゃいませ。


[その姿を認めたなら目を細めて、
 今日もお茶とおしぼりを用意する。]

 
  そら豆、ポタージュにしてみますか?

  和食ならシンプルに素揚げとか。
  パスタに和えるのも美味しいですよ。


[いくつかレシピを上げてみる。
 決まったなら、取り掛かるつもりで。
 そら豆の場所を確認しながら、ふと。

 落とされた独りごちるような声に。]


  どうかしました?


[そんな顰めた眉間を見るのは、珍しいから。
 キャスケットを上げて、少し首を傾げた。*]

[もう一度、キスをねだれば
目の前の君が優しく笑う。
愛おしくてたまらない、それでいて
甘さと欲を含んだような、そんな。]

………… うん。


[直接的な誘いに頬を染めたまま小さく微笑んだのは
可笑しかったからじゃなくて、嬉しかったから。
もっと触れ合いたい、離れたくないと
同じ気持ちで求めてくれることが。

アイドルでも、童話の人魚でも、無垢で清純でもない。でも。
君が、大好きな君だけが。
私を最高に可愛くて綺麗で魅力的な
"ふつうの女の子"にしてくれる。]



………いっぱい、可愛がってね。



[彼の首筋に両腕を絡め、
照れを浮かべながら
耳元にひとつ、口づけて。

チョコレートよりも甘ったるく囁いた。**]

[シェア1品目がなくなって、ほんのり名残惜しさ。
 お叱りのお時間が落ち着いたら、次に向かう時間だろうか。

 ゲームセンター探して、男性のみの入場禁止と書かれた看板を越えていく。
 今日は特に気にすることなく、堂々入店できるからね!

 随分前に、同じゼミの女子誘って一緒に撮りに行ったこともある。その時は『チエならわからんて!』ってけらけら笑われたけど、こっちとしては気になっちゃうわけよ。バレたときとか面倒だしね。]

どうする?
盛れるやつがいい? 色エモいやつがいい?
今日服ガチだし、絵的にまとまるほうにしよっか?

[ボクに任せられるなら、フィルターで演出効果がきくやつにしよう。
 背景も合成で、ファンタジックな加工になるやつ**]

[パジャマじゃなかった。
普段着は部屋着じゃない、沙弥、おぼえた]


 気合い入れない用
 わかった

 ……チエは気合い入れない時はどんな服着るの?


[なんだかすごく気になる]

[君の笑い声が優しく響く。
俺はそれが酷く愛おしくて嬉しくて。身体が熱い。
恋人は居なくても生きていけるって思ってた……
でも君みたいな良い女はきっと二度と現れない。
絶対に離しちゃいけないと思った。

君が俺を変えたんだ。
俺に恋を教えてくれた。

だからその甘い甘い声どうにかしてよ。]


も〜〜〜〜〜〜〜〜



[なんで君は、良い女で居るだけじゃ足りないんだろ?
綺麗で可愛くて、どこまでも魅力的で。
俺は結局君に全面的に降参するしか無くて。

でもそれだけじゃ悔しいから。
甘い言葉を紡ぐ口を塞いでやった。
それから2人。笑い合いながら。じゃれ合いながら。
途中で理性なんて飛ばしながら。
2人でしか、出来ない事。
恋人としかしないことをしよう。

君は俺の『特別』だから。
俺だって君の特別になりたいから。ね。**]

[お叱りというほど怒れていなかったけども、喜んで良いのか微妙な気分にはさせてしまったようだ
言葉選びがおかしいのかもしれない。思い直してみるけれど表現が浮かばなかった。
食材を前にした時くらいにいくらでも思いつけば良いのに]


 ……


[瞬いた。
好きって言った?]


 
私のことも好きって言った……



[前は言わなかった。正確には言ったけど言ってない。
これは本物のデートだし傍にいたいって言ってくれたけど、好きなものの中に自分を含め数えてくれたことにあらためて、ふわふわと頬が熱くなる]



 そう、料理、頑張りたいなら嬉しい


[何故か恥ずかしくなって俯いてしまう]


 となり
 チエは成長早いから、すぐだね。急いで成長しすぎるくらい

 ゆっくりでもいいよ
 ……試作一号機も二号機も、余さず見ておきたいから


[もぞもぞとバッグを探って、ぬいぐるみの手を握った]

[ところでプリクラはいつからこんな巨大な箱になったのか
ずっと前から? 世代のはずなのに知りませんでした]


 すごい
 カルチャーショックを受けている


[ひえ……という顔]


 全身写るんだ。すごいね
 良し悪しはさっぱりわからないのだけど


[可愛く写るやつにしよう。
そうして、プリのCG背景やフィルタの豊富さにさらなるカルチャーショックの深みへ]



[わあわあ言ったり、時間制限に慌てたら何故かボーナスタイムがついたり?
あと機械が出すBGMと声の音量が大きすぎると思う]


 ……

  たのし  か、 った


[ふらふら]


 デートってどきどきするね


[よろよろ。
手を貸してくれるなら、四指を握って]



 つぎ、なにする?


[息を弾ませた。デートのどきどきの意味を違えているかも。

何もしなくてもいい、次の目的地へ歩くだけでも、座って休憩するのでも。
ファストファッションの店舗を見つけたら、普段着ってああいうの? と首をひねった*]

 ポタージュ……いいね、それで
 お願いします。

[ 注文をするときには目を合わせたけれど
 その後また、スマホに目を落とし、
 唸る自分に声が掛かると
 再び目を合わせるように
 顔を上げる。

 困惑と、苦笑いとが入り混じった表情で
 ため息を一つ ]

 俺ね、年末はゆっくりしたいから
 何が何でも期日までに、仕事終わらせたい
 タイプなんだけどね。

[ 年度末、ではなく年末、であるからして
 相当先の話であることを不思議がられた
 だろうか。 ]

 これ、

[ トークアプリの画面を見せる。
 その画面には、

 「今年のセールス首位を守れて
  もし年末の歌合戦に呼ばれたら
  一緒に出演して貰えませんか」

 の文字。 ]

 ちなみに、引き受けるって言ったら
 連休取り放題らしいよ、社長浮かれてるから。
 有給もまぁ溜まってるしね。
 
 返事まだ出来てないんだけど

[ 特大のため息を付き、画面を
 セールスランキングの情報へ変える。
 売上は未だ、増加傾向にある。 ]

 連休は魅力的だけど、
 年末は恋人とゆっくり過ごしたいんだよね

[ 渋い顔の理由はそれ。である。
 つい先日、卒業する、と宣言したというのに。
 と。もう一度、大きなため息をついたのだった。* ]

気合い入れないとき〜?
こんなのとか?

[スマホから服買ったときの写真を探し出す。
 学校制服風のワンピースにニット、ネクタイのセットアップ。
 一転、ユニセックスな黒のストラップ付きシャツにワイドパンツ。
 気合い入れるのもカジュアルダウンもどちらも好きなので、それぞれ着回しも考えつつ取り揃えている。]

普段、どういうの着てるの?

[さっきのパジャマ発言を考えると、聞いていいのか迷ったけど。
 うさぎ穴に行き来するときの服しか、見ないものだから。
 ……あ、いや、こないだマキシのスカート見たな。あれもかわいかった。]

っ、

……すき、だよ? 
だめ?


[うさぎに託すくらいじゃ諦められないほど、好きなんだ。誰にも渡したくないんだ。嘘はつけない。
 言うときはあっさり言えたのに、立ち戻ると途端に恥ずかしくなってくる。
 顔が熱くなるのを自覚して、口元を覆うように手で隠す。]

急いで隣に立てるなら、急ぎたいけど。
多分そんなに早く行けないから、安心して。

3年経ってもお茶すらひとりじゃ難しいくらいだし。

[バッグの中、何を探していたのか気付けば、ふ、と小さく息を吐く。
 欲しい場所を手に入れたから、もう嫉妬はしない。
 むしろボクがもうひとりシャミさんの力になれてると思えば、嬉しさすら。]

――そしてプリクラを撮る――

あは。カルチャーショック?
でもわかるかも。
ボクですら新作もうついてけてないとこあるもん。

[いわんやシャミさんをや。
 それほど頻繁にこういうところに来る人ではないだろうし。
 昨今のプリクラは全身も撮れるしフィルターもかけられるしAIで肌ツヤをよくしてくれるし目も大きくなるし背景はなんだか雰囲気のいいビル街や森や海やランタンの灯る路地になったりする。]

 

[ 確かに自分は彼より二年、遅く生まれて。
  世間一般が想像するような"交際"の何たるかは知らないし
  平凡とはとても呼べない家で育ってきた。

  お互いが好き。愛している。
  そんな確かな気持ちの中に、基準、は必要だろうか。
  平凡と非凡の物差しで彼を測って好きになった訳ではなく
  そもそも自分は、彼が自称するように
  彼のことを「平凡」とは思いもしていない。

  ────だって。
  "貴方としか作れないものがある"のだから。
  その時点で、自分にとって彼は、やっぱり特別だ。 ]

 



[ 慎重に進めた方が安心するなら、自分もそれでいい。

  最初で最後にしてほしいと。
  母より貴方を選んだのだと。
  作れない、作りたくないと思っていたデザートを
  他の誰でもない貴方に、一番に食べて欲しいって。
  その気持ちは、恋の熱に浮かされているだけじゃ、
  決してほどけない、雁字搦めの糸だった。

  ──だから。
  意味合いが通じなければ電車に飛び乗る覚悟でも
  通じた上で、慎重に、と言われるのなら

  それだけは伝えて頷ける未来も、あっただろう。
  笑顔になることがない平凡な人生。
  カメラを向けなくても 美味しいご飯が一緒でなくても
  自然で平穏な「なんでもない日」の道中で、

  後悔なんてしないことを示すために。 ]

 

 


  [ ────幸せにしたいと言い切る言葉の迷い無さと
    自分を慮るその気持ちは、嬉しいけれど。

    もしその思考を知ってしまったら、きっと
    頷くと同時に、寂しい気持ちにもなっただろう。
    "私を"幸せにと言ってくれたくせに
    "貴方とだから"幸せになりたいこと、
    実は伝わり切ってなかったんですね? とか。


    与えたい愛。受け取りたい愛。
    ぴったり当てはまる器をお互いテーブルへ置いて
    "食事"の支度をしたいんですよ、貴方と。 ]


 

 

[ 触れた赤い頬は、色に反して冬のように冷たい。
  雪みたいな熱の引いた肌へ、春風を届けるように
  伸ばした腕と 手向けた言葉は、無事に花開いた。

  掌へ預けるように、少し寄せられた頬が愛おしい。
  出来ない約束はしない主義と言っていた貴方の、
  明確な未来への誓いを耳に。 ]


  ────……ふふ。
  私のこと、お嫁さんにしてくださいね。

  約束ですよ。
  ちなみに私は、夜綿さんのこと、愛してます。


[ 格好つけたりしないところが、格好いいと思います。
  好き、に愛を返して、
  ……それから  それ、から ]

 

 

[ 食欲と恋人への欲は類するか。
  ──そんな説は知らずとも、真白は
  散々食らわせた"待て"と"おあずけ"への反応を
  些か …いや、大分と甘く見ていたのかもしれない。

  沈黙も起きない代わり
  言葉を紡ぎ返す暇もなく肩を抱かれ、
  服に隠れて見えない肌まで伸びた指が、自分を掴む。 ]


  ────……っ、


[ こわくないし、いやじゃ、ない。寧ろうれしい。
 そんな風に思っていた時点で
  心の準備は多分、出来ていて。

  ああでもやっぱり緊張はするし恥ずかしい。
  繰り返されるキスも分け合う熱も、未知のもの。 ]

 

 



    ( ──… ぁ、これ、

        もしかして 食べら れ、る )



 

……だいじょぶ?

[楽しかったとは言うけれど、ふらついてる。
 手を出して、叶うなら支えよう。]

どきどき、してくれてる? 楽しい?

[ちょっとだけ、無理させたかもと思ったから。
 それでも息が弾んで、笑顔が深まるなら、安心もする。]

 

[ 調理する側だったうさぎはいつぞや据え膳の皿に乗り、
  堂々すやすや眠る始末だったけれど。
 穏やかな草食動物のようにも見えていた恋人の、
  獲物を捕食する寸前めいた、肉食動物みたいな荒い吐息。

  砂糖菓子のような甘い声が自分を呼んだ。
  ────……だから私も、名前を声にする。 ]


  夜綿さん、

       ……おいしくたべてください。


[ できれば、その、やさしく。
  舌足らずに紡いだお願いの結果は、さて。 ]

 

 


 [ 独り占め出来るなら、そうさせてください。
   今までの恋人に見せなかった顔。
   今までの人達にはしなかった事。

   お行儀なんて気にしなくていいから、
   煮詰めたコンポートよりも甘い欲だけ見せていて。
   そうして二人で一緒に、
   幸せになりましょう 夜綿さん。** ]


 

メモを貼った。

どうしよっか。休憩する?
お茶するでも、公園で座ってるでもいいけど。

さっきのボクの行きたいとこは、なるべく万全モードで行きたいからさ。
シャミさんが絶対ここ、がなかったら、ちょっと休憩しよ。

[ここまで連れ回しちゃったしね。
 とはいいつつ、ファストファッションのアパレルショップを覗いたら、見てみる?とか言っちゃうんだけど*]

メモを貼った。

メモを貼った。

メモを貼った。



  かしこまりました。
  

[オーダーには畏まった返事を。
 店の中ではお客様と従業員を続けている。
 同僚にはまだ話せていない。大咲にもまだ。
 
 彼の口から語られた反応は、
 今は己の知るところではないけれど。

 鍋に水を張りながら、
 スマホと睨めっこしている様子を見ていれば、
 声に少し遅れて気づいた彼が顔を上げた。

 零れた溜息から、あまりいい知らせでは
 ないのだろうかと予測しながら。]


  年末……?


[年末と出たキーワード。
 年度末と聞き間違いではなく?
 というように、ぱち、と瞬いて見つめ合わせ。]

[画面を此方側に向けられて、カウンター越し。
 少し身を乗り出すように液晶を覗いて
 文字の羅列に、ああ……と察した。

 年末の歌合戦でピン、とくる。
 この前のMVに関することだろう。
 あまり流行に詳しくない俺でも耳にする、
 どこでも流れているイマドキらしい流行歌。

 MVの再生数もまた増えているだろう。
 あの年末の番組は確か、生放送なんだったっけ。

 身体を戻しながら、困り事の理由に納得して。]


  連休取り放題は確かに、魅力的ですね。


[くすりと、悩む姿を横目に仕事に戻る。]

[キッチンまで聞こえる溜息は、盛大なもの。
 身を引くと聞いた後だから、余計に。

 でも、断れない性格であることも、
 また知っているから困っているだろうな、と。
 くすくすと笑いを漏らしながら、
 沸騰した湯に塩を入れて、そら豆を煮たしていく。

 恋人と聞こえたから、顔を上げれば。
 既に気持ちは年末にあるのか。
 過ごし方の悩み事。]


  高野さんの恋人だったら、
  年末を一緒に過ごせないくらいで、
  不満を言うような人ではないと思いますよ。

  連休取れるんなら、温泉とか。
  連れて行ってあげたらどうですか?
 

[店での彼の呼び方は変えていない。
 でも、彼には意思が伝わるように軽い目配せを。*]

メモを貼った。



 ああ、楽そうだけど可愛い
 気合いのオンオフでこうなるんだ、なるほど


[スマホの画面を一緒に覗き込むのも楽しい]


 普段は、いつものかな
 ワイシャツに厨房パンツ、ベルトよりはブレイシーズ
 Hareでは使わないけど場所によってはコックコートも着るよ
 あと女性中心の会で、スカートで来て欲しいって言われ──


[そこまで言って、普段ってそういうことじゃないと思い直す]


 ……パーカーとか……?



 まさか、だめなわけない


[好き
美味しい賄いを生み出した時に聞くセリフと同じなのに、照れがその場を支配する]


 私も
 恋かもしれない好きだし……恋じゃなくても愛している


[緊張する。
もちもちふかふかのぬいぐるみを高速なでなでした。
呼べなかったこの子の名前を、今日からは呼べるかもしれない。
その前に製作者に断りを得た方がいいのか]

[ゲームセンターを出て。
賑やかだった大きな音が遠ざかり、華やいだ街の空気の中へ]


 ん、休憩すこししようかな
 足腰は強いんだけど、若い子たちの熱気にあてられたね
 少し落ち着いたら平気


[アイスは胃の中で静かに溶けている。
シェアの大方をチエが引き受けてくれたのもあるけれど。

アパレルショップを見て、ちょっと冷やかし。
無地の黒のハイネックを手に取ってみて戻し、ゆったりしたシルエットのスプリングニットに触る]


 ふふ、だめだね
 グリーンが気になっちゃう
 チエが選んでくれた色が一番よく思えてしまう



[お茶は、コーヒーショップで買って、公園で飲んでから行くのはどう。
せっかくの陽気だから。

腰を下ろせば、視線の高さが変わる。ちょっとチエを見上げた*]

仕事着じゃん。
や、いーんだけど。こないだのスカートきれいだったよ。

[ブレイシーズ。サスペンダーか。
 確かにすらっとした印象になって、かっこいい。似合いそう。
 それはそれで、その方向を突き詰めてもいいけど――]

パーカー。
いーね、じゃあ今度かわいいパーカー探そ。
これからあったかくなっちゃうけど。

それとも、夏服探す?
シフォンとかのさらっと透け感あるやつとか、見てみたい。

[薄手のスプリングパーカーを探してもいいけど、この先着られるやつを見繕うのもいい。
 おいでませ、かわいい服の沼。]

……あ、あいしてる、のほうが、うえじゃん?

[まだ感情を探っている最中みたいなシャミさんの真っ直ぐな言葉を聞くと、途端に照れる。
 こっちには撫でるうさぎがいない。自分の手の甲を、揉むように撫で。]

なんか、その、ほんとに……ほんとにすき、でいてくれてるんだなって、実感した……

[遅い?
 ずっと夢見てるみたいな気分なんだよ、ボクは。]

メモを貼った。

[休憩しよっか、と公園に向けて歩き出す。
 その途中で止まるのも、楽しい。]

そんなこと言われると、いろんな色選びたくなるな。
今度ネイビーとかどう? ナギさんとおそろ。

[グリーンが気になっちゃうのは、嬉しいけど。
 それよりもっと、いろんな姿を見たい。
 今日のワンピースは、本当に本当にクリティカルヒットにかわいいけど。
 この世には、かわいいはまだまだあるからね。]

[そら豆を煮る間に、玉ねぎはみじん切り。
 目に染みるという長年の悩みには
 電子レンジで温めることで回避できるようになった。
 目にも染みなくなる上に皮も剥きやすくなる。

 みじん切りにした後は、
 バターで熱して透き通るまで火を通す。
 玉ねぎの甘味が十分に引き立つまで。

 フライパンを置いて煮立ったそら豆は
 冷水に晒して皮を剥いていく。

 スープのベースは牛乳と生クリーム。
 そしてメインのそら豆。数粒だけ残して、
 ザルで丁寧に濾した後、なめらかになるまで
 ミキサーにかける。

 ベースができれば炒めた玉ねぎと合わせて
 火にかけコトコトと煮込んでいく。

 店のほぼ常備品となっているコンソメを加え、
 塩と胡椒で味を整え。

 そら豆の緑の色が引き立つようにシンプルな
 白の器を選んで彩りも楽しんでもらえるように。]

[コーヒー片手に公園へ。
 ミモザって咲いてるのかなと何となく上の方見上げてたけど、隣のシャミさんの視線が下がって、こっちを見上げてて]

っ!
 ……、

[その視線の高さ、弱い
 一気に全身痺れるみたいに好きと可愛いが駆け抜けて、頭の中が真っ白になる。]

あ、あのさぁ!
……その、行ってみたい場所、ってとこ。

フレグランスショップ、行きたくて。
体質的にダメ、とかじゃなかったら、このあと、どう。

[あんまり気が動転したせいか、サプライズで隠してた行き先が、口から勝手にまろび出た。]

[形を残したままのそら豆を中央に飾って。
 少しだけパセリを散らしたら、完成。

 そら豆を食べたことはあると言ってたけれど、
 スープにしたものは初めてだという。

 彼の身体に入っていくものの『初めて』を、
 自身の手で作れることに、
 密やかに楽しみを覚えていく。

 血液は120日。
 細胞は遅くとも200日。
 骨は成人なら二年半で入れ替わるという。

 彼の身体を俺の料理で作り変えていくにはまだ日が浅い。

 さて、先程のメッセージへの返信は
 まだ悩んでいただろうか。]

[年末ならきっと、まだ。
 猶予はあるはず。

 彼がどちらを選んだとしても。
 それが彼の出した選択なら反対するつもりはない。

 ゆっくり決めてもらうとして。 
 今は、彼の『初めて』を目の前で堪能しようか。

 小さなバスケットにバゲットを添えて。]


  お待たせしました。
  どうぞ、召し上がれ。


[彼の『好き』と『美味しい』を味わおう。**]  

[今日、何も纏ってこなかった香り。
 飲食店勤務では基本的にご法度だし、普段からつける習慣はなさそうだなと思って、やめた。

 代わりに、好きな香りを知りたい。それを纏いたい。選んでほしい。
 服よりもずっと感覚的で、五感に直接響くものを、欲した*]

[平凡な人生を疎んでいた。
何もかもが平均的なスペックだということに劣等感を抱いていた。

そこから脱却しようと通信制の高校を選んだり
フリーランスの職についたりしたのに、
つまらない自分の人生を笑顔で彩ってくれる
特別なたった一人に出逢って
彼女にも好きになって貰えるという奇跡を得たのに、

思考にはまだ「一般的には」というつまらないブレーキが残っていた。

勝手に止まりかけたそのブレーキを壊してくれたのは
やっぱり彼女だった。]

[秘められた覚悟を、自分は知らない。
脱兎の得意な白うさぎさんは、「どうでしょう」と言うまで離れずにいてくれた。
「神田夜綿」の元にしか真白の幸せはないのだと、言葉で態度で示してくれた。

それは、自分になら通じると信じてくれていたからだ、と思う。

誰かに丸つけをして貰う必要はない。
互いの愛しか入らない器が並べられたテーブルが出来たら、
自分達に必要なのはそれだけ。

臆病で彼女を寂しがらせなくて良かった。
うさぎは寂しいと死んでしまうから。]

[緊張で強張る肌が自分の体温を覚えるまで触れた。
唇以外に落とすキスがどれだけの湿度と熱を持つのか、丁寧に教え込んで。
砂糖の塊みたいに甘い「かわいい」と「愛してる」を無数に注いだ。

他の料理人に対しライバル心を抱くのは職業病、だっけ?

さて、「食べられる」側と気づいた白うさぎさんにとって、僕は「やさしい」料理人だったかな?
君が評価を言う前に声を枯れさせてしまったかもしれないけれど。]

[――窓の外が白み始め、遠くに電車の音。

額に貼りついた髪の束を摘まんで動かし、額にそっとキスをする。
そういえば、今日は彼女の仕事は昼からだったか、夜だけだったか。
着替えは首元の隠れた服にして貰うことにして。

そうそう、朝ごはんは何にしようね。
「何でもない日」が特別な日になった朝、
二人で食べる朝食の内容を考えることがあまりに幸せで、
布団の中でくつくつと暫く笑っていた。]



 夏服、そうだね
 上着の有無くらいしか考えたことなかった


[厨房は季節問わずに室温が上がりがちだから、汗をよく吸うみたいな観点で見ていた。

かわいい服の沼、わくわくするけどこわい……はまってお金つぎ込んじゃったらどうしよう。普段着という枠はプチプラにしようね]



 愛してるの方が上、……か…?


[首を傾げる]


 ほんとに好きだよ
 たぶん2,3年前から


[特にこれというアプローチもしていなかったのだから、実感はなかったことだろう。
それこそ、ヒトシちゃんを見せて欲しいと、チエの新しい興味の対象を覗きたがるまで。

欲求はあっても、成就は願わなかった片思い]

メモを貼った。



 ナギの色か
 そうか、小物の色もおしゃれのうちだよね
 メガネとか


[そんなこと言いながらの公園。
どこかへ向いている横顔を、下から眺めると綺麗な顎のラインが見えて得をしたような、味見をして狙い通り美味しかったときのような、ふつふつと湧く幸福感。

それから視線があう]



 え!
 フレ……えーと……香水屋さん?

 行ったことない。香水、つけてみるの?


[その発想はなかった。
面白い。今までの自分には絶対に知れなかった、店の外の世界のいろが鮮やかに光る]


 体質的にダメなのは、酸化した揚げ油の匂いくらいかな
 たぶん売ってないと思うから大丈夫


[それはそう、と誰もが賛同してくれるだろう]

メモを貼った。



 自分の部屋や、オフの日にだけ使う香りってこと

 一緒に選ぶの? それって、それはなんだか……


[言いさして、唇を閉じる。
もう一度チエの顔を見た*]

 でしょう?
 しかもこれ、ほぼ確定事項だと思うから

 返事したら即決定みたいなものだよね。

[ 画面を見せて、年末……?
 言われれば、そうだよ、と頷いた。

 察するような仕草があれば、
 スマホを手元に引き戻して ]

 そう魅力的。
 でもリハのこととか考えると
 年末、ほぼ埋まるんじゃないかと思うんだよね

[ 悩ましげに片手で片目を覆いながら、
 ライトが消え真っ黒になった画面を
 とんとん、と指で叩いて見せる。 ]

 そうかな、そうだったら恋人の方が
 大人かもしれないな。

 俺、今まで素通りしてたイベント
 全部体験してみたいからさ。

 年末っていったらクリスマスも
 潰れちゃいそうで。

[ 店員のお兄さん、曰く、
 不満を言うような人ではない、らしい。

 そうだろうなと胸中で笑ってしまう。 ]

[ なんだろうね、
 堂々と宣言できないことよりも、
 
 暗号の受け渡しをしているようで、
 楽しくなってしまって。

 二人だけで共有する秘密。
 なかなか、いい味がする。 ]

[ ――とは言え、だ。
 クリスマス、はもしかしたら相手の方が
 都合つかなくなるのではないか。

 きっとこの店も大盛況だろう、
 予約で埋まったりもあるのでは。

 その大変な日に、稼ぎ頭である
 彼を連れ出してしまうのは、どうだろう。 ]

 いいね、温泉。
 恋人と旅行ってしたことないから
 出来たら嬉しいし、今度誘ってみよう。

[ どうですか?だってさ。
 このしれっとしたところが、また――良い。 ]

[ そうではない、顔を思い出して
 にやけてしまう前に、スマホの画面を
 明るくし、返信をした。

 『前向きに検討させていただきます』

 たった一言、打ち込んだ後は
 いつも通り、カウンターの中で料理をする姿を
 見つめていた。

 ちょうど玉ねぎを炒めている頃だったか。
 相変わらずの手際の良さに惚れ惚れしながら
 完成を待つ時間も、愛おしいもの。

 それ以上の視線を感じてしまっても、
 まぁそこはご愛嬌、というやつです。

 やがて、白の器にクリームを足した
 抹茶のような柔らかな色のスープが
 盛られて、カウンターから差し出されたなら ]

 きれいな色だねぇ

[ 瞬き三つ分、それを眺めてから ]

 いただきます

[ そっとスプーンを沈め、掬い上げ口元へ
 軽く角度を変えると、なめらかなスープが
 口の中に転がりこんでくる。

 シンプルな味付けがより、そら豆の風味を
 引き立てて ]

 あぁ美味しいこれ ポタージュも
 美味しいんだね、好きだなぁこれ

[ 実に美味しかった。
 彼が自分の身体を作り変えようと
 していることまでは、気づかないけれど。

 好きな味を増やしてくれていることと、
 愛情持って、作ってくれていることは、

 身をもって、知っておりますとも。* ]

メモを貼った。

上……じゃない、かな? たぶん……?

2、3年。

[それってつまり、えっと?
 自分が店に入ってからの期間を、思い出す。
 就活してたのがあの頃だから……いや、深く考えると余計恥ずかしい。

 なんにも気づいてなかった自分を悔やむ。情けないスタンプ一個追加。
 ここにも鈍感がいますと首から看板下げられたような気持ちだ。]

[結局、ミモザは見つけられない。
 代わりに、結構いろんな花が咲いてるのには気づけたけど。
 菜の花が風に揺れている。]

メガネ、する?
この前ナギさんが眼鏡だったの、良かったよね。
借りてかけさせてもらったら、結構度強くてびっくりしたけど。

[一応ありがたいことに生まれてこの方裸眼だが、じんわりじんわり下がりつつある。
 遠くない将来コンタクトになるんだろうという予感はしてたけど、シャミさんが眼鏡にするんなら、伊達でフレームだけでもかけようかな。]

……うん、香水屋さん。
ちょうどコーヒーでリセットしてるし、どう?

飲食だと、つけてらんないもんね。

[酸化した揚げ油は、たぶんボクでも嫌だから。
 そこのところは、苦しまずに済むだろう。]

休みの日とか、部屋ではつけてるよ。
寝る前も多いかな。

今日もつけてこようかなって、思ったんだけど。
シャミさんの前でつけるのは、シャミさんの好きな香りがいいなって思ったから、やめちゃった。

……いっしょに、選んでよ。
その香りがするたび、シャミさんを好きになる。もっと。

[閉じた唇。それを開いてとは言わない。
 でも、特別がほしいと、欲を滲ませて求める。
 顔を見られれば、視線を合わせて。笑みの形に目を細める*]



 行く


[私の前でつけるのは、私の好きな香りがいい
あまりにも、ぐらぐらと揺さぶるような口説き文句じゃないか]


 ……行きたい、いっしょに選びたい

[その香りがするたび好きになる。
視線が絡んで、誘う笑顔に。
閉じた口を開いた。眉を下げる]


 こんなこと言っていいのかな?
 その


[香りの重要性は知っている。
料理の要素の中でもっとも、深いところの本能を刺激する嗅覚]


 それって……官能的

 


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